3.ミステリー

コロヨシ!!

書影

著 者:三崎亜記
出版社:角川書店
出版日:2010年2月26日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「海に沈んだ町」のレビュー記事のコメント欄で、ポポロさんに教えていただいた作品。ポポロさんに感謝。

 これはハマってしまった。著者の作品はアンソロジーを除くと4冊目。3冊目の「海に沈んだ町」のレビュー記事で、「なるほどこういう物語を書くのだな」などと、何かを見切ったようなことを書いた。「当たり前でないことが当たり前の世界」「喪失と回復」。このことは、本書にも当てはまる。しかし、本書は私が思っていた三崎作品とは全く違う物語だった。

 主人公は高校2年生の藤代樹。「掃除部」に所属している。そう、本書では「掃除」はスポーツになっている。「長物」という棒状のもので、「塵芥」という羽根を扱う演舞で、芸術性や技術の高さを競う。彼は、昨年の新人戦で優勝し、今は掃除部のエースになっている。
 主人公を一人紹介しただけで、ちょっと設定が風変わりなものの、本書がいわゆる「青春小説」だと想像する人は少なくないだろう。その通りだ。樹は、仲間に支えられ、友情を育み、家族と葛藤し、挫折を乗り越えて成長する。もちろん淡い恋もする。本書には「青春小説」の要素が詰まっている。

 しかし、普通の青春小説とは一味違う。それは舞台となる世界のせいだ。現代の日本のようで、少し軸がズレたような異世界。「西域」「居留地」といった地名や習俗から、「失われた町」の舞台と同じ世界であることがわかる。そして、その怪しげで危険な雰囲気が、そのまま引き継がれている。「あの街に「爽やかな青春」は似合わないでしょう?」と思うのだが、これがうまくハマっているのだ。

 本書は、月刊小説誌「野生時代」に2008年から2009年にかけて掲載された小説に、加筆修正して単行本化されたもの。実は、2010年4月号から続編「コロヨシ!! シーズン2」が連載され、先ごろ最終回を迎えたそうだ。続編の刊行が楽しみだ。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

青空の卵

書影

著 者:坂木司
出版社:東京創元社
出版日:2002年5月30日 初版
評 価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の5月の指定図書。

 著者はプロフィールを公開していないので、経緯の詳細は分からないのだけれど「あとがき」によると、東京創元社から「小説を書いてみませんか」と言われて書いた作品が本書。つまり、本書は著者のデビュー作。27歳の「ひきこもり」男性が事件の謎を解くミステリー短編集。

 主人公で語り手は、著者と同名の坂木司。事件を謎を解くのは鳥井真一。二人は中学校以来の付き合いで、坂木は鳥井が気を許せる唯一の人間。坂木がいなければ、鳥井は誰とも話せないし、500メートル先の「いつものスーパー」にも行かない。ある事件の謎を鳥井が見事に解き明かしたことから、鳥井の探偵並みの謎解きの才能に気が付いた坂木は、鳥井の外の世界との接点を増やそうと、事件を持ち込むようになった。

 「事件」と言っても凶悪なことは起こらない。独身男性が女性にバッグで股間を一撃された、盲目の男性が双子に跡をつけられた、歌舞伎役者のところにファンから意味不明の贈り物が届く、等々。被害者にしてみればその時は深刻なことには違いないが、放っておけばなくなってしまうような事件。いわゆる「日常に潜む謎」だ。

 本書は二通りに見立てることができる。一つは上に書いたように「日常に潜む謎」を扱うミステリー。加納朋子さんの作品に近いものを感じる。もう一つは、人と人との間の関係の変化・回復を描いたハートウォーミング劇。事件の裏には傷ついた人間関係があり、事件の解決はその回復なくしては成らない。それは坂木と鳥井の関係にも影響することになる。

 ミステリーの部分では、加納朋子さんの作品が好きな私は、本書の謎解きも楽しんだ。ハートウォーミング劇も基本的に好きだ。鳥井は特異なキャラクターだけれど、伊坂幸太郎さんの「チルドレン」の陣内や「砂漠」の西嶋らに似て、好感が持てた。だた、坂木と鳥井の関係は、好悪が半ばした。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

海に沈んだ町

書影

著 者:三崎亜記
出版社:朝日新聞出版
出版日:2011年1月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「小説トリッパー」という季刊誌に、2009年~2010年に掲載された8編と、書き下ろし1編を加えた、短編集。前後の作品と緩やかにつながっている、連作短編集の形になっている。

 アンソロジーを除くと、著者の本を読むのは「失われた町」「となり町戦争」に続いて3冊目。なるほどこういう物語を書くのだな、という特徴がいくつか分かってきた。1つは「当たり前でないことが当たり前の世界」。それによって「当たり前のことが、実は当たり前ではない」ことを描く。
 「失われた町」は「町の消滅」、「となり町戦争」は「隣町と戦争をする」という当たり前でない設定。それによって、「今日と連続した明日」「戦争とは無縁の日常生活」という当たり前のことの危うさが描かれている。

 本書の表題作「海に沈んだ町」も、「町がそっくり海に沈む」という当たり前ではない設定。20年以上前に飛び出してきた故郷が海に沈んだ男性。憎んでいたはずの故郷が無くなることで、逆にその存在感が大きくなる。著者が描く物語のもう一つの特徴は「喪失と回復」。
 どんな「喪失」を抱えても、残された者はその後を生きている、いや生きていかなければならない。「失ったものは返って来ない」その底の知れない哀しみと、そこから一歩踏み出したしなやかな強さを感じる。私が一番心にしみた作品「四時八分」は、そんな物語だ。

 良かった作品とそうでもなかった作品が半々。それが私の正直な感想。思うにその分かれ目となるキーワードは「回復」らしい。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

となり町戦争

書影

著 者:三崎亜記
出版社:集英社
出版日:2005年1月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者のデビュー作で、2004年の第17回小説すばる新人賞を受賞。私は、本書の2年後に発表された「失われた町」を読んで、そのレビューで「私には、すごく面白かった」と書いた。それに「「私には」とわざわざ付けたのは、これはダメな人には徹底的にダメだろう、と思ったからだ」と続けた。

 舞台は、舞坂町という人口1万5千人余りの地方の町と、その「となり町」。主人公は北原修路。一人暮らしの独身男性。となり町を挟んで舞坂町の反対側にある、地方都市の会社に勤めている。物語は、ある日届いた「広報まいさか」の記事から始まる。その記事の題は「となり町との戦争のお知らせ」。
 この「戦争」は、何かの比喩でもなければ、悪趣味なネーミングの行事でもない。実際に戦死者が出る戦闘行為を行う「戦争」なのだ。しかし、この「戦争」は、舞坂町と「となり町」で行う、財政健全化や活性化を目的とした「共同事業」だという。北原修路は、町の「となり町戦争」担当の香西瑞希と共に、となり町の偵察任務につく。

 「町の事業として「戦争」をする」とは、突飛な設定だ。しかし、「辞令交付式」に始まって、「業務分担表」やら「地元説明会」やら「文書起案」やらの、「お役所」を誇張するエピソードが繰り返されると、違った見方もできそうだ。つまり「お役所」なんて、地域活性化とかの「大義名分」と、稟議の決裁という「体裁」が整えば、どんなに突飛なことでもやってしまいそうだ、と。ちなみに著者は本書の執筆時には市役所職員だった。

 冒頭に紹介した「失われた町」も「町が消滅する」という突飛な設定だった。「ダメな人には徹底的にダメだろう」と思った理由はそれで、物語を受け入れるためには、その突飛な設定を受け入れなければならないからだ。そのためには「何か」が必要なのだ。「失われた町」ではその「何か」は、町の消滅に立ち向かう人々の生き方だった。私はそこに感銘を受けた。本書には、その「何か」を感じられなかった。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

井戸の中の虎(上)(下)

書影
書影

著 者:フィリップ・プルマン 訳:山田順子
出版社:東京創元社
出版日:2010年11月25日初版
評 価:☆☆☆(説明)

 「マハラジャのルビー」「仮面の大富豪」に続く、「サリー・ロックハートの冒険」の第3作。前作の「仮面の大富豪」から3年後。前作の最後で、愛するフレデリックの子どもを身ごもっていることが分かった。その子どもハリエットは2歳になっている。
 サリーの「財政コンサルタント」としての仕事も軌道にのり、共同経営者になっている「ガーランド・アンド・ロックハート写真店」も順調。愛娘のハリエットも、周囲の人びとの愛情を受けて、すくすくと育っている。順風満帆といったところだった。

 ところがある日サリーは、ハリエットの親権を求める離婚訴訟を起こされる。「未婚の母」であるサリーには身に覚えがない。ましてや相手は名前も聞いたことのない男。しかし英国のビクトリア時代の未婚の母は世間の風当たりも強い。しかも証拠は巧妙に捏造されていて、完全に罠に嵌められたらしい。「でも、なぜ?ハリエットの親権を?」謎は杳として知れず、敵の姿さえ見えない...。

 今回も、前作までと同様に、サリーが持ち前の行動力で運命を切り開いていく。しかし、今回の敵は強大な力を持っているようで、用意周到に様々な罠を張り巡らせていた。サリーの行動はその先々で見えない壁に阻まれる。そして、最大の危機を迎える。

 中ごろまでは、「これじゃジリ貧だ」という感じ。読んでいても気が滅入るほどだった。状況はページを追うごとに悪くなり、サリーに出来ることはドンドン少なくなっていく。そこに一条の光のような活路を見出せたのは、金持ちの家に生まれたサリーには、今まで縁が薄い層の人びとのお陰だった。読み終わって、本当にホッとした。
 このシリーズは4部作で、3作目の本書は起承転結で言えば「転」に当たる。サリーは今回、今まで知らなかった世界や人々と出会い、確かに転機を迎えたと言える。最終巻の次回作が楽しみだ。

 にほんブログ村「ミステリ・サスペンス・推理小説全般 」ブログコミュニティへ
 (ミステリ・サスペンス・推理小説全般についてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

折れた竜骨

書影

著 者:米澤穂信
出版社:東京創元社
出版日:2010年11月30日 初版 
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の作品は、アンソロジーの「Story Seller」と「Story Seller2」に収録されていた短編を読んだだけで、これまで長編は読んだことがなかった。本好きのためのSNS「本カフェ」で、「ファンタジーはどうもダメで..」とおっしゃるミステリファンのメンバーさんから、「ファンタジーを本格推理にした作品」として教えていただいた。感謝。

 物語の舞台は、グレートブリテン島の東、北海に浮かぶ架空の島のソロン島と小ソロン島からなるソロン諸島。時代は12世紀の末。主人公は、ソロン諸島を治めるエイルウィン家の娘のアミーナ、16歳。
 ある日、アミーナの父で領主であるローレントの元に、ソロン市長、吟遊詩人、トリポリ伯国から来た騎士とその従者、4人の傭兵候補が訪ねて来た。そしてその夜、ローレントは作戦室で何者かに殺害されてしまう。そこにさらなる襲撃者が..

 物語は、ローレント殺害の犯人探しを軸に進むミステリー。トリポリ伯国からきた騎士のファルクと従者のニコラが「名探偵と助手」の役割。領主一家が住む小ソロン島は、150ヤードの海でソロン島と隔てられていて、夜間は「自然の要害」と化す。ローレントがその夜「作戦室」に居ることは、限られた人しか知らなかった。などを手がかりに、2人とアミーナが、犯人に一歩二歩と近づいていく。
 ファルクの推理は、細かい点を見逃さず、論理的に組み立てていく。本書は本格的な推理小説なのだ。ただし「ファンタジーを本格推理にした作品」と紹介されたとおり、本書はファンタジー作品でもある。物語の世界では、魔法や魔術はもちろん、「暗黒騎士」とか、首を切り落とされない限り死なない(死ねない)「呪われたデーン人」なんてのも出てきて、物語の重要な要素になっている。

 「自然の要害」となる小ソロン島は、ある意味「密室」。でも「魔法あり」じゃ「密室」の意味がない、そもそもそれじゃミステリーにならないんのじゃないの?という心配はもっともだ。しかし、その世界のルールさえ押さえれば、ファンタジー+本格ミステリーも可能なのだ、ということを本書は示してくれた。
 私は、ミステリーよりファンタジーの方を多く読む。だから、ミステリーファンが本書をどう受け止めるのかちょっと分からないけれど、ファンタジーファンにはオススメ。

 にほんブログ村「ミステリ・サスペンス・推理小説全般 」ブログコミュニティへ
 (ミステリ・サスペンス・推理小説全般についてのブログ記事が集まっています。)
 にほんブログ村「ファンタジー」ブログコミュニティへ
 (ファンタジー小説についてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

水域

書影

著 者:椎名誠
出版社:講談社
出版日:1990年9月5日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 昨年の11月に三崎亜記さんの「失われた町」のレビューを書いた時に、本好きのためのSNS「本カフェ」で、(あまり科学的な裏付けのない独自の設定が)椎名誠さんのSF作品に似ている、という話を聞いて、何冊か紹介してもらったうちの1冊。感謝。

 舞台は、陸地のほとんどが水没した未来世界。水棲の動植物が異様に進化していて、人間たちは、それらの脅威と闘いながら、ボートやさらに粗末な筏での漂流生活を強いられている。ただ、そんな説明はなく、いつ、なぜ、そうなったのか?国や共同体はどうなってしまったのか?そういう説明も一切ない。第1章で登場するホテルが水面から突き出ている景色で、「あぁ、沈んじゃったんだ」と気が付く。
 主人公はハル。年齢は不明だが、小屋が付いた5×2メートルほどの「ハウス」と呼ばれる筏で、たった一人で旅していて、その前にも様々な経験があるようだから、もう大人なのだろう。その後の物語から感じられる雰囲気から、30代後半から40代の壮年かと思う。(「BOOKデータベース」の紹介では「青年ハル」と書いてあるけれど)

 水流に乗って流れていく先々での邂逅を描く、一種のロードムービー。水面に屹立するホテルで、霧に閉ざされた停滞水域で、流木の島で、そして海の上で、ハルは様々な人や物と出会う。秩序を維持する一切の制度も体制もなく、向かい合った者同士の意思だけが意味を持つ。ハルはそんな世界を生き延びる。
 何もかもがシンプルだ。筏船での漂流生活だから、ムダなものを持っている余裕がそもそもない。行く先を色々と考えても、水の流れに乗って移動するしかない。文字通りに身一つになった時に、人間はどうするのだろう?他人とどんな関係を結ぶのだろう?そんなことを考えた作品。

 この後は、書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

(さらに…)

マリアビートル

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:角川書店
出版日:2010年9月24日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの最新刊。「あぁ、今回はこの路線か」と扉のページをめくってすぐに分かった。登場人物の一人の木村という字の印影が冒頭にあるからだ。これは「グラスホッパー」の時と同じ。この印影は著者からのシグナルに違いない。「殺し屋がたくさん出てきます。そしてたくさん死にます。」というシグナル。

 印影に対する私の解釈はピンポイントでヒットしたようで、本書が描くのは「グラスホッパー」から6年後の物語。あの時、一連の騒動の末に闇社会の大立者が死に、多くの殺し屋が死んだ。しかし、殺し屋たちの「業界」は存続し、今は新たな実力者が君臨しているらしい。今回も登場人物のほとんどは「業界」の中の連中だ。

 舞台は東北新幹線「はやて」の中。朝の9時に東京駅をでて盛岡に着くまでの2時間半の物語。主人公は特になく、2人組みの殺し屋「蜜柑」と「檸檬」、メチャクチャ運が悪い殺し屋「七尾」、かつて物騒な仕事をしていた「木村」、そして中学生の「王子」らの視点の物語がクルクルと順番に語られる。
 「七尾」の今回の仕事は、デッキの荷物置き場にあるトランクを持って上野で降りる、それだけのことだった。ところが、ある男にジャマをされて上野駅で降りることができず、そのうちトランクを失くし、トランクの持ち主である「蜜柑」と「檸檬」に狙われ..と運のなさが全開。途中でそのつもりもないのに人を殺してしまうし..

 その後は、登場人物入り乱れてのドタバタが展開される。もちろん著者の作品だから、伏線やアッと驚く展開で楽しませてくれる。「殺し屋」の話で人がたくさん死ぬのに、どこかしら軽いノリなのは、著者の周到な準備のせいだろう。「七尾」の運のなさと自信のなさは笑えるし、「檸檬」が「機関車トーマス」の大ファンなのも愛嬌がある。
 ただし「王子」の部分は、愛嬌も救いもなく異質だった。どす黒く滞った悪意が感じられて、嫌悪感さえ持った。著者は以前「バランスを崩したい」とおっしゃっていたが、本書ではここがそうなのだろう。読み終わってしばらく経った今は、あの時の嫌悪感が随分薄らいでいるのに少しホッとする。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
 「伊坂幸太郎」カテゴリー

 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(~2007年)」
 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(2008年~)」
 (あなたの好きな伊坂作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

失われた町

書影

著 者:三崎亜記
出版社:集英社
出版日:2006年11月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 私がいつも拝見している読書ブログのいくつかで、しばらく前に紹介されていたのを覚えていて、今回手に取った。我ながらあきれたことに、紹介記事は読んだはずなのに、本書を前にして、著者のことも、どんな物語なのかも、どういう評価だったのかさえ覚えていなかった。それでも何か惹かれるものがあって読み始めた。

 私には、すごく面白かった。「私には」とわざわざ付けたのは、これはダメな人には徹底的にダメだろう、と思ったからだ。その理由は、本書の独創性にある。ジャンル的にSF、恋愛小説、サスペンス、ミステリー、ヒューマンドラマ、本書はこれらの境界にあって、何か1つのものだと思うと非常に宙ぶらりんな感じなのだ。
 また、「町が消滅する」という設定はともかく、「消滅耐性」「別体」「余滅」など、独創的な設定と造語が多い。それが、冒頭の「プロローグ、そしてエピローグ」という章に頻出するのだから「ついていけない」と思う人もいるはず。実際、私も面くらってしまった。
 しかし、ここで挫けずに先へ進もう。章題で分かるように、これはエピローグでもある。すべてが終わった後にここに戻ってくる。その時にはちゃんと分かる、もっと感慨深いシーンとなっているはずだ。

 物語の舞台は、日本によく似た別の場所。そこではおおよそ30年に1度、町が消滅する。正確には、その町の人間だけが忽然と消える。どうしてなのか、消えた人たちはどうなるのか、そういったことは分からない。その他大勢の人々は、消えた町のことは禁忌として扱い、自分とは関係ないと思うことで、この不気味な出来事と折り合いをつけている。
 本書の主人公たちは、多くの人が関わりを避けようとする中、「町の消滅」に立ち向かう人たちだ。消滅を予知・対処する「管理局」の桂子、消滅の防止を研究する由佳、消滅した町を見下ろすペンションで働く茜。これ以外にも多くの人が、それぞれの立場で「次の町の消滅」に立ち向かって生きている。
 とは言っても、本書は「町の消滅」の防止の実現を描いたサクセスストリーではない。消滅によって大切な人を失った、残された人々の「喪失」と「回復」を描く。人は大声で泣いて悲しむことを経て、「喪失」から立ち直るものだと思うが、実はここの人々は失った人を悲しむことを、ある理由から禁じられている。悲しむことさえ許されない、残された人々の悲しくも力強い物語。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

モーツァルトの陰謀

書影

著 者:スコット・マリアーニ 訳:高野由美
出版社:エンジン・ルーム/河出書房新社
出版日:2010年10月30日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 発行元のエンジン・ルームさまから献本いただきました。感謝。

 以前に読んだ「消えた錬金術師 レンヌ・ル・シャトーの秘密」に続く、「ベン・ホープ」シリーズの第2弾。主人公ベン・ホープは、長身でブロンドの髪の英国陸軍特殊空挺部隊の元精鋭。過去の悲しい出来事の影響もあり、誘拐された子どもの救出を生業としている。子どもを誘拐するような連中が相手であるから、銃の引き金を引くのに躊躇はしない。鋼のように強い精神力の持ち主なのだが、どこか影と脆さが漂う。

 そのベンにも一時は心を許し将来を考えた女性がいた。軍隊時代からの親友オリバーの妹で、今は有名なオペラ歌手になっているリーだ。15年前にベンはリーの許を黙って突然去った。1年ほど前にオリバーが亡くなって、その葬儀でベンはリーを見かけたが声をかけることができなかった。しかし、リーの方からベンに連絡があった。「ベン、わたし怖いの。お願い、できれば、すぐに来て」と。

 前作は伝説の錬金術師の手稿を求める探索行を描いたが、今回の物語は、モーツァルトが遺した最後の手紙をめぐる探索行、いや逃避行だ。オリバーの死には不可解な点があり、その死に関わると思われる組織は、確実にベンとリーを捉えていた。逃げても逃げても狙いすましたように襲撃を受ける。

 秘密結社、冷酷な殺人鬼、美貌のパートナー、歴史に埋もれた謎、前作に引き続いての昨今流行のミステリー。その点では、読者を裏切らない。いや、親友の死を発端とする今回は、ベンを突き動かす情動が明確で、そして喪失に伴う哀しみも大きい、前作より中身の濃い作品となっている。

 にほんブログ村「ミステリ・サスペンス・推理小説全般 」ブログコミュニティへ
 (ミステリ・サスペンス・推理小説全般についてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

(さらに…)