32.東野圭吾

ガリレオの苦悩

書影

著 者:東野圭吾
出版社:文藝春秋
出版日:2011年10月10日 第1刷 10月25日 第4刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「ガリレオ」シリーズの第4弾。長編2作目である「聖女の救済」と同時に2008年に出版された。「落下る(おちる)」「操縦る(あやつる)」「密室る(とじる)」「指標す(しめす)」「攪乱す(みだす)」の5編を収録。

 テレビドラマ「ガリレオ」や映画「容疑者Xの献身」に登場する内海薫刑事は、原作の小説では本書の「落下る」で初登場する。薫の登場で湯川博士の態度が柔らかくなったように思う。薫は湯川のお眼鏡に適ったようで、その理由がまた湯川らしくていい。

 薫について著者は、週刊誌のインタビューに応えて、ドラマ化にあたって「女性刑事を出したい」と言われて、「自分が名前も知らないようなキャラクターに動き回られるのは落ち着かない」と、テレビより先に「落下る」を書いて登場させた、と語っている。柴咲コウさんがその女性刑事役だと聞いていたので、彼女のイメージで書いたそうだ。

 タイトルの「ガリレオの苦悩」は、短編集によくあるように収録作品中の1篇のタイトルをつけたものではなく、収録の5編に通じるものになっている。特に「操縦る」では恩師、「密室る」では友人、「攪乱す」では湯川本人が事件と深く関わっていて、表面の冷静さの裏に苦悩が透けて見える。私としては3冊ある短編集の中では一番楽しめた。

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予知夢

書影

著 者:東野圭吾
出版社:文藝春秋
出版日:2003年8月10日 第1刷 2011年6月1日 第43刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「ガリレオ」シリーズの第2弾、2000年刊行。第1弾の「探偵ガリレオ」と同じく、天才物理学者の湯川博士の推理が冴える連作短編ミステリー。「夢想る(ゆめみる)」「霊視る(みえる)」「騒霊ぐ(さわぐ)」「絞殺る(しめる)」「予知る(しる)」の5編を収録。

 多少強引な読み方をする三文字のタイトルは前作と同じ。「殺人の被害者が同時刻に別の場所で目撃される」「地震でもないのに、突然部屋全体が振動する」「自殺の現場を3日前に予知夢で見た少女」など、超常現象的な事件が起きることも同様だ。

 しかし前作と多少違って、事件の真相と物理学の知識の関わりが小さくなったように思う。真相部分に、レーザーや超音波などを駆使した前作と比べると、今回は犯人の手間ひまを感じる、いわゆる「トリック」を使ったものが多い。

 言い換えると、天才物理学者でなくても事件の謎を解ける。つまり私でも(この記事を読んでいるあなたでも)真相に近づける、というわけだ。「湯川博士の名推理」を楽しむだけでも十分なのだけれど、敢えて自分で謎解きに挑戦してみるのもいいかもしれない。

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探偵ガリレオ

書影

著 者:東野圭吾
出版社:文藝春秋
出版日:2002年2月10日 第1刷 2011年6月1日 第50刷
評 価:☆☆☆(説明)

 天才物理学者の湯川博士が主人公の「ガリレオ」シリーズの短編集。1998年刊行の本書がシリーズ第1弾。湯川がその並外れた推理力を発揮し「探偵ガリレオ」の誕生の物語。もっとも「ガリレオ」という呼び名は、湯川の友人である刑事の草薙の上司がそう呼んだというだけで、湯川自身はピンと来ていない。(そう言えば、続くシリーズでも「ガリレオ」という呼び名に覚えがないが..)

 5つの短編が収められている。「燃える(もえる)」「転写る(うつる)」「壊死る(くさる)」「爆ぜる(はぜる)」「離脱る(ぬける)」と、多少強引な読み方をする3文字のタイトルがそれぞれに付いている。
 タイトルはそれぞれの事件の特徴、そして湯川が挑んだ謎を表している。「突然、頭が燃え上がる」「死体の顔がアルミに転写される」「胸部が壊死して死ぬ」「海が火柱をあげて爆発する」「幽体離脱して見た証拠」

 一言でいえば「超常現象」。警察も無能ではないから、犯人の目星は付けられるのだが、立証には「超常現象」を解き明かさなければいけない。それを湯川が、物理の知識と類まれな推理力とで解き明かす。

 「物理の知識」なんて聞くと頭を抱えてしまう私のような人は、推理なんて早々に放棄して、湯川の説明を聞こう。「天才物理学者」も近づき難いが、「理系オンチ」の草薙にする、湯川の説明はとても分かりやすい。また、段ボールの空気砲やらで草薙を歓迎する湯川はお茶目で、友達になりたいぐらいだ。著者は、事件の真相にそこはかとなく人情を絡ませていてうまい。

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マスカレード・ホテル

書影

著 者:東野圭吾
出版社:集英社
出版日:2011年9月10日 第1刷発行 9月21日 第2刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 文庫本で売上200万部を突破した「容疑者Xの献身」など、数多くのベストセラーをモノにしてきた著者の最新刊。

 主人公は、超一流ホテル「コルテシア東京」のフロントクラークの山岸尚美と、警視庁捜査一課の刑事の新田浩介の2人。都内で発生した連続殺人事件の捜査の結果、次の事件が「コルテシア東京」で起きることが判明。新田はフロントクラークに成りすましての潜入捜査を命じられ、尚美はその教育係。

 犯人はもちろん誰が狙われているかも分からない。いつ起きるかも分からない事件。そんな手探りの状態で、「怪しい人物」を発見するために、新田はフロントに立つ。しかしホテルには実に様々な人が訪れる。「怪しい人物」も数多く来る。
 部屋付きの高級バスローブをくすねようとする客、「この部屋には霊がたくさんいる」と言って部屋のチェンジを求める客、ホテルクラークに次々と無理難題を吹っ掛ける客、結婚式の新婦を狙うストーカー...。
 ちなみに、タイトルの「マスカレード・ホテル」の「マスカレード」は「仮面舞踏会」のこと。客は仮面を着けてホテルにやってくる。見えている姿が本当の姿とは限らない。

 こうした客たちを、尚美と新田の即席コンビが見事にさばいていく。その間の2人の心の通い合いが見どころの1つ。さらに一見して事件とは関係がない、客とのエピソードのそれぞれが、連続殺人事件とその解決に結びついていく。このパズルのような組み立てがもう1つの見どころだ。

 本書の公式サイトに、「加賀恭一郎、湯川学に続く第三の男、あらわる」とある。これはもしかして、「新田浩介シリーズ」の予告だろうか?

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真夏の方程式

書影

著 者:東野圭吾
出版社:文藝春秋
出版日:2011年6月6日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者が生み出した天才物理学者の湯川の推理が光る、ガリレオシリーズの最新刊。長編では「容疑者Xの献身」「聖女の救済」に続く第3弾。

 今回の舞台は、玻璃ヶ浦という海辺の街。「玻璃」は水晶のことで、太陽に照らされた海の底が、いくつもの水晶が沈んでいるように見えることから、街の名前が付いた。言わばこの海は宝の海。しかしその宝の海を抱くこの街は寂れる一方だ。
 その街に降って湧いたのが海底資源開発の話。湯川はその調査の技術指導のために、この街に来た。そして開発に反対する女性、成実の両親が経営する旅館に泊まる。翌日、その旅館の宿泊客の男性が、堤防から転落した状態で遺体となって発見される..。

 今回の現場は警視庁の管轄ではない。これまでのシリーズに登場した、湯川の大学の同期で警視庁の刑事の草薙の出番はないかと思ったが、そんなことはない。被害者の身元から、事件は早々に警視庁へ東京へ、そして草薙へと結びつき、いつも通りの地道な活躍を見せてくれた。新人?の女性刑事の内海の捜査も頼もしかった。
 また、こちらはいつもと違って、子ども嫌いの湯川が、今回は小学校5年生の少年の恭平クンと気が合ったようだ。夏休みの自由研究の手伝いをしたり、宿題を教えてあげたり。「大学の物理学の先生に自由研究を手伝ってもらうなんて何と贅沢な」とか「湯川先生、実は子ども好き?」などと思ってしまった。

 伏線の仕込み方が見事だ。「そうだったのか」と何度もページを前に繰った。そして著者が繰り出す「新事実」に翻弄された。何かが分かる度に「そういうことか」と真相に近づいた気になった。しかしそれは真相の一部でしかないか、まったく真相とは関係ない、ということが最後まで続く。騙され通しの400ページだった。

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聖女の救済

書影

著 者:東野圭吾
出版社:文藝春秋
出版日:2008年10月25日 第1刷 10月30日 第2刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 私にとっては「容疑者Xの献身」「流星の絆」に続いて3つめの作品。多作な著者の作品には、読んでみたい作品がたくさんあるのだけれど、最寄りの図書館には名前の札だけがあって、全部貸出中ということが多いので、タイミングがうまく合わないようだ。

 事件は被害者の自宅のリビングルームで起きた。おそらく1人でいる時に、自分で淹れたコーヒーを飲んで毒殺されたのだ。毒物の混入経路は、水道か、ペットボトルか、ケトルか、カップか?そして犯人は?...
 実は犯人は事件より前に、最初の1章で早くも提示される。いわゆる倒叙形式だ。だから読者の楽しみは犯人探しではなく、天才物理学者の湯川の協力を得て警察が犯人を捜し当てる過程の追体験と、犯行の方法の推理だ。
 この犯行方法が本書の一番の見どころと言って過言ではない。警察の面々ではお手上げなのはまだしも、今回は湯川でさえ苦戦する。曰く「理論的には考えられても、現実的にはありえない」「~これは完全犯罪だ」

 例によって私もあれやこれや考えながら読んだ。犯行方法のトリックは分からなかったが、それなりにポイントはつかめていた。いや、著者がちゃんと分かるようにヒントを配置しておいてくれたのだ。読者があれやこれやと考えることができるように。
 内海という女性の刑事が登場するのだが、テレビドラマの企画で創造された人で、本書と「ガリレオの苦悩」から原作でも登場するようになったらしい。この人がいることによって、犯罪捜査以外のドラマ性も加わった。

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流星の絆

書影

著 者:東野圭吾
出版社:講談社
出版日:2008年3月5日第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 東野圭吾さんの近刊。図書館で予約して半年あまり待った。その間にTBS系列でドラマ化されたのだけれど見なかった。先に原作で読みたかったので。最近のテレビは小説やコミックの「原作もの」が多いですが、出版されて半年でテレビドラマ、というのは早すぎないか?と思う。

 主人公は、功一、泰輔、静奈の兄弟妹。物語は、幼い彼らが家を抜け出すシーンから始まる。ペルセウス座流星群を見ようと、両親には内緒で出かけようとしているのだ。このエピソードがタイトルにつながっている。そしてその夜、彼らの両親は何者かに殺害される。
 その後、大人になった彼らは、危ない橋も渡るけれど寄り添うように生きていく。そんな時、両親の殺害犯と思われる人物を、泰輔が見かけたことが、3人の運命の歯車を回す。そして、徐々にその人物を追い詰めていく。

 まぁ、テレビで放送されたのでストーリーはご存じの方も多いだろう。テレビの方はどんな展開だったのか知らないのだけれど、本の方は意外なぐらい素直に物語は進む。思いもかけないことは起こらない。最後の20ページまでは。
 本書は、この最後の20ページのためにあるような本だ。それまでの抑えた調子は、この最後の部分を際立たせるためだったのだろう。しかし、「抑えた調子」とはいえ、退屈はしない。常に「何か起きるかもしれない」と思わせる緊張感が常に漂っている。そういう意味では著者の巧さも際立っている。
 最後にひとこと。私はちょっと前にエラリー・クィーンを読んだせいもあって、常に誰が犯人かを考えてしまったが、本書は推理小説ではないので、読者は「犯人探し」をしないで、ストーリーを楽しむのがいい。その方が楽しめると思う。

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容疑者Xの献身

書影

著 者:東野圭吾
出版社:文藝春秋
出版日:2008年8月10日第1刷 2008年9月15日第5刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 オススメしてくださる方は多かったものの、今まで読む機会がなかった東野圭吾。テレビドラマに映画にと、次々と原作が映像化されていて、当代きっての売れっ子作家、という印象。中でも評判の高い(第6回本格ミステリ大賞/第134回直木賞/2006年度版「このミステリーがすごい!」の第1位など)本書を、文庫版で読んだ。

 これは、確かに面白かった。物語は、隣家で起きた殺人事件に、高校教師の石神が絡むところから始まる。彼は、天才的な数学者で、並はずれたその頭脳を使って事件の偽装を図る。そして、テレビや映画で福山雅治が演じた天才物理学者の湯川が、その事件の真相に迫る。「天才 対 天才」の対決、というわけだ。
 殺人事件の真相は最初から明らかになっているので、「犯人探し」のミステリーではない。石神が行った偽装工作という謎を湯川が解き明かしていく、「謎解き」のミステリーだ。もちろん、読者も(私も?)その謎解きに挑むことになる。

 そのために途中で、何度も何度もページを戻って読み返した。ちょっと気になる展開があると、「この話は前のあの部分と関係が…」なんて具合だったので、なかなか読み進まない。もっと純粋に物語を楽しむ読み方もあるだろうに、私は凡人の分際で天才に挑んでいたわけで、思い返せば恥ずかしい。
 こうした分をわきまえない読み方のおかげで、途中で偽装工作のあらましには考えが及んだ、と思った。しかし、その考えは的外れではないものの、著者はさらに二重三重のトリックを用意していて、結果的には私の完敗(勝手に挑んでいただけだけど)。一本負けで負けて爽快、と言う感じ。私の最初の東野圭吾体験は、実りあるものになった。

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