6.経済・実用書

本を読む子に育てよう

書影

著 者:多湖輝
出版社:新講社
出版日:2007年3月1日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 別に、我が子を「本を読む子」に育てようと思って読んだわけではない。「頭の体操」シリーズで、子どもの頃にお世話になった著者が、このテーマでどんなことを書いているんだろう?を知りたくて読んだ次第。ちなみに、私には娘が2人いるけれど、1人は放っておけば一日中でも本を読んでる。もう1人も普通ぐらいには本を読む、最近「崖の国物語」全10巻を読み終わったようだ。つまり、幸いなことに「本を読む子」に育っている。

 本書の内容は、極めて真っ当なことが真っ直ぐに書かれている。まずは読書のメリットからだ。読書好きというと「人づき合いが苦手」という印象を持つ人もいるけれど、話題が豊富で面白い人が多いんですよ。だから、読書はいい人間関係を作るんですよ。自分の子どもがそういう人になるといいですよね...。
 そして、子どもを読書好きにする環境や、習慣付けの方法が書かれ、合間にまた読書のメリットが挟み込まれている。紹介されている本が、「坊ちゃん」「走れメロス」「杜子春」「嵐が丘」「赤毛のアン」「星の王子様」「飛ぶ教室」..と、古典的名作に偏っていることを除けば、非の打ち所がない。その代わり「おぉ、なるほど!」という引っかかりもほとんどなく、ちょっと残念。

 それでも「おぉ、なるほど!」が一つ。親が読書好きでないと、子どもが読書好きになる環境ができない。でも、親が読書好きならそれでいいかというと、そうではない。「楽しそうに読書している姿を子どもに見せる」ことが必要なんだそうだ。
 子どもがいると落ち着いて読めないからと、子どもが寝てからとか、通勤途中で読書、というのは、悪くはないが良くもない。「本を読む子」にはつながらないのだ。そう言えば、私はいつもリビングで本を読んでいる。周りで遠慮なく家族がおしゃべりしているし、テレビだって見ている。時々話しかけてくるのはちょっと困ることもあるが、「本を読む子」について言えば、狭い家が幸いしたということなのだろう。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

書いて稼ぐ技術

書影

著 者:永江朗
出版社:平凡社
出版日:2009年11月13日 初版第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 本のタイトルは時として、その読者を如実に表してしまう。「パティシエになるには 」という本の読者は、パティシエになりたい人に違いない。同じように本書の読者は「書いて稼ぎたい」人に違いないのだ。そう、私は「書いて稼ぎげる」ようになりたい。だから1年ぐらい前にこの本を買ったのだけれど、なぜか気後れしてしまって、今まで読まずにいた。

 「書いて稼ぐ」と言っても、私は「ライター専業で食っていく」ということを考えているのではない。安くてもいいので、私の文章で何がしかの対価をいただけないか?ということなのだ。本書の著者も書店員をしていて、お客さんの編集者から「ウチの雑誌で本の紹介を書かないか」と誘われた副業が始まりだという。あぁ、私も誰か誘ってくれないだろうか?(関係者の方、連絡をお待ちしてます)

 私の希望(野望)はここで置いて、本書について。ライターという仕事に必要なことが一通り書かれている。「まずは名刺をつくりましょう」から始まって、営業の仕方、企画書のノウハウ、メモ術やアイデア術の発想術、取材のABC...とても実践的な内容だ。特に「単著(著作)があると信用度が違う」というあたりはなるほど、と思った。(そして「それじゃ自費出版でなら..」と思った私は甘かったことが、すぐに分かるのだが)

 ただし「文章の書き方」は本書にはない。それは類書を見てくれ、ということもあるし、それより大事なことがある、という意味もある。「書いて稼ぐ技術」とは文章の技術ではなく、如何にしてライターになるか、そして続けていくか、のための諸事のことだ。もっと言えば処世術とも言える(本書Part3のタイトルは「世渡りのしかた」だ)

 本書を読めばライターになれる、とは言えないが、ライターになるつもりなら読んどいた方がいい、とは言える。

 この後は、書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

(さらに…)

希望のつくり方

書影

著 者:玄田有史
出版社:岩波書店
出版日:2010年10月20日 第1刷発行 11月5日 第2刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」。本書を紹介する時に多くの人が触れるであろう、村上龍さんの「希望の国のエクソダス」のこのセリフから私も始めたい。
 このセリフは本書の中でも何度か引用され、本書の著者がまとめた「希望学」という本には、村上龍さんが推薦文を寄せている。そもそも、私が本書を手に取ったきっかけは、本好きのためのSNS「本カフェ」で、メンバーの方との村上龍さんの「歌うクジラ」の話題から流れて「希望学」の推薦文の話になったことだった。

 「希望の国のエクソダス」の刊行は2000年。それから10年余を経ても状況は一向に好転しないことは周知の通りだ。ただ私は思うのだけれど、あまりにスッキリと「希望がない」と言われて、私たちは納得してそれを受け入れてしまったのではないだろうか。そして逆にこの言葉に縛られて気持ちを切り替えられないまま10年を過ごしてしまったのではないか、と。

 この国にはほんとうに「希望がない」のか?よく分からないけれど「希望がない」という滅々とした言葉を心に満たしていると、前に向いて進む力をそがれる。そのことこそが今の閉塞感の源なのではないか?だから「そもそも希望とは何なのか?」こんなことを真正面から考える、著者が2005年から続けている「希望学」研究は、今こそ必要とされているものかもしれない。

 前置きが長くなったが本書について。「希望とは何か?」「夢、幸福、安心との違いは?」「希望についての人びとの考えは?」といったことを、「希望学」研究で得たアンケートやフィールドワークの結果から解き明かしていく前半は、とても良かった。
 一端を紹介すると「希望」とは、「a Wish for something to Come True by Action」だとする。日本語にすると「行動によって何か実現しようとする気持ち」とでもなろうか。つまり「希望」には、「気持ち」「何か」「実現」「行動」の四つの要素が必要。「希望がない」のは、この四つのどれか1つまたは複数が足りないからで、ならばそれを補えば「希望」は生まれるはず。机上論と一蹴するのは簡単だが、「希望」がないと思っている人が「希望」を求めるための糸口にはなるはずだ。

 また調査では、20代から50代の78.3%が「希望がある」と答えている。そのうちの80.7%、全体の63.2%の人が「その希望が実現できる」と答えている。これを多いと見るのは楽観的かもしれないが、この国には、「希望がない」なんてことはなくて、半分を大きく超える人に「(実現可能な)希望がある」のだ。

 後半は、「希望」を持つために、「こうしたらいい、ああしたらいい」と書いてくれている。帯に「壁にぶつかっている人へ希望学がおくるリアルでしなやかなヒント」とあるし、切実に求められているのはこうしたことに違いない。だから、これに応えようとしたのだろう。

 しかし、大変失礼だけれど、どこかで聞いたようなことばかりで、研究の成果として得た知見なのかどうかもはっきりとしない。著者が提示してくれる「こうしたらいい」の何十ページよりも、「試練はどうしたら乗り越えられるか?」という問いの答えとして、フィールドワークで得た「三人、分かってくれる人がいたら大丈夫だから。」という釜石の男性の一言の方が重みがあるのは、何とも皮肉なことだ。

 いやいや、この言葉を掘り起こしたのも「希望学」の成果だ。それに、研究の第一段階は「対象をよく観察して、その特徴や構造を明らかにすること」。「その対象を操作したり利用したりできること」は別の段階で、日の浅い「希望学」はまだそこまで行っていない。「こうしたらいい」は、今後の発展に期待すべきなのだろう。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

本は絶対、1人で読むな!

書影

著 者:中島孝志
出版社:潮出版社
出版日:2010年11月20日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 禁止の命令に「絶対」と!まで付けた激しい口調のタイトルだけれど、著者は、ビジネスパーソン向けの読書会や勉強会を長く主催していて、その経験から「本を何人かで一緒に読むと色々と良いことあるよ、だから1人で読むのは損だ」と言っているのだ。1人で本を読むと、何か困ったことが起きるわけではない。
 私は、以前から「親子読み」と名付けて、親子や近しい人と同じ本を読むことを薦めている。(同じようなことを提唱する「家読(うちどく)」という言葉が以前からあったそうだが、私は知らなかった)。また、本好きのためのSNS「本カフェ」に入っていて、本を読んだ感想を話し合ったり、本を薦め合ったりしている。もちろん読書会もある。そこには1人で本を読んでいては到底得られないものがある。だから「本を何人かで読むと良いことあるよ」という著者の考えには賛成だ。

 ただし、本書の内容には少し違和感も覚える。著者の言う「良いこと」というのが、「あるマンガを読書会で取り上げた時に、そこで派生的に得た情報を元に株式投資したらその株が高騰した」というような、「役立つ情報が得られる」ことを(敢えて言えばそのことだけを)指しているようなのだ。

 著者が想定しているのは、ビジネスパーソンの読書会なのでそれでいいのだけれど、私は別のものを重視したい。例えば、その本について理解が深まるとか、自分にはない見方を知って視野が広がるとかの、本そのものを楽しむために良いこと。別の考えを持つ人を受け入れ理解することができるなどの、本を通した自分自身の内面の進化(深化)に良いことなどだ。実は、この本を手に取った時には、そういったことを期待していた。

 とは言え、本書には読書会開催のノウハウや、ブログやツイッターの利用方法など、著者の永年の蓄積が披露されていて、役立つ情報が多い。やはり実際に運営してきた自信がある人は強い。ただ、その自信があまりに露骨に表現されると引いてしまう。「目利き=読書通なら、目次をパラパラッとめくるだけで品定めができる。わたしも瞬時にわかる」とか、「わたしの書評サイトにアクセスすれば、実際にその本を読んだか、あるいはそれ以上に価値ある情報を得られるはずだ」なんて部分には苦笑してしまう。
 もっとも、年間3000冊読むというのだから、著者が読書通なのは間違いない。「仕事上、必要に迫られなければ速読しない」で、年間3000冊、毎日休みなしで8~9冊。どうしたらそんなことができるのか分からないけれども、私の30倍の読書量なのだ。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方

書影

著 者:山本敏行
出版社:ソフトバンククリエイティブ
出版日:2010年12月6日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 タイトルの「日本でいちばん~」についてから説明しておく。これは、株式会社リンクアンドモチベーションというコンサルティング会社が実施している「Employee Motivation Survey」という組織診断サービスにおいて、そのスコアが、2009年、2010年の2年連続で日本一高かった、ということを表している。
 日経ビジネスONLINEによると、この診断は、大企業から中小企業まで年間100社ほどが受けているそうだ。日本中に大企業+中小企業で60万社ぐらいあるそうだから、これでは「日本でいちばん~」を、素直に受け入れることはできない。けれども、本に書かれている内容が良ければ、そこはこだわるべきポイントではないだろう。

 著者は、この診断サービスで2年連続で日本一となった、株式会社EC Studioの代表取締役。ウェブサイトの売り上げアップ支援の会社として起業した創業者。現在は、中小企業の経営のIT化の支援を行っていて、法人・個人あわせて20万以上の顧客を抱える。
 本書の内容を受け入れるには、いくつもの発想や価値の転換をしなくてはいけない。なにしろ、この会社は「顧客に会わない」「顧客からの電話を受けない」を初めとした数々の、普通の感覚では「非常識」どころか「あり得ない」ことをやっているのだから。
 そもそも本のタイトルもこの会社の経営方針も「顧客第一」ではなく「社員第一」。私は中小企業診断士で、経営コンサルタントの端くれなのだけれど、「顧客」じゃなくて「社員」を第一にした会社を、寡聞にして知らない(並列させている会社は聞いたことがあるけれど)。

 「社員が満足して働くことで、安価で均質な良いサービスを顧客に提供できる」というのが、この「社員」と「顧客」のトレードオフ解消のための答え。20万もの顧客獲得が、その正しさを証明している。本書には、「ランチトーク制度」「長期休暇制度」などの「社員の働きやすさのための制度」や、ITツールの導入などの「生産性向上のための施策」が数多く紹介されている。
 「生産性向上のための施策」は、組織でも個人でもすぐに取り入れて効果が出そうなものもある。「社員の働きやすさのための制度」は、表面的な模倣ではなく、採用などに見られる社長の思い入れを見逃さずに徹底すれば、他の会社でも転用可能だろう。

 上に書いた「内容が良ければ..」について言えば、合格点としておく。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

「優柔決断」のすすめ

書影

著 者:古田敦也
出版社:PHP研究所
出版日:2009年10月30日 第1刷 11月13日 第2刷
評 価:☆☆☆(説明)

 著者のことは紹介するまでもないと思うが、元東京ヤクルトスワローズ選手兼任監督だ。1990年代から2000年初頭にかけてリーグ優勝5回、日本一4回の立役者。野村克也氏の「ID野球の申し子」とも言われる。
 私がいつも拝見しているブログ「シャンとしよっ!」の、元フジテレビアナウンサーの松田朋恵さんが、司会を務めておられるテレビ番組「テレビ寺子屋」で、著者がお話をされていたのを見て、興味が湧いたので読んでみた。

 「自己啓発も向上心もいいけれど、アクセクしてばかりじゃ疲れてしまう。世の中シロクロ決められることばかりじゃない。「優柔不断」で結構!」、という本ではない。優柔「不断」ではなく優柔「決断」。「柔軟に情報を取り入れ、最後は自分の責任において決断する」という意味の著者の造語だ。ちなみに「優柔」も「ものごとに煮え切らないこと」ではなく「優れた柔軟さ」と解釈する。

 造語のセンスは良いが、言っていることはごく普通のことかもしれない。あえて単純化すれば「情報を入力して判断して結果を出力する」何の変哲もない。ところが、これを私が言うのと著者が言うのとでは決定的な違いがある。著者の野球のポジションはキャッチャー。「ピッチャーが投げないと試合は始まらない、と言うことがあるけれど、私らからすれば、キャッチャーがサインを出さないと試合は始まらない」ということを、番組でおっしゃっていた。
 年間約140試合、1試合で平均して130球ぐらい、そのすべてに15秒から20秒で決断してサインを出す、それを15年以上。アマチュア時代から考えればもっと長期間、もっと数多くの決断をしてきた。もちろん、監督となってからは、チームの采配のための決断もしなくてはならない。著者の人生は「決断」とともにあったのだ。これが、私を含め他の人が言うのとの決定的な違いだ。

 野球のサインなんか、思い付きで出してるんじゃないの?というのは、ほぼ不正解。著者の場合は、膨大なデータのインプットと事前のシミュレーションから、次の一球を決めているそうだ。しかし、その著者をしても「もう、これでいってしまえ」ということはあるらしい。だから「ほぼ」不正解。ただ、「もう、これでいってしまえ」も「決断」であることには違いない。

 これ以外にも、最近の若い選手たちのことや、野村克也氏のこと、「コミュニケーション」や「組織」や「プロとしての心構え」などをテーマを、読者に柔らかく軽やかな口調で語りかける。著者やスワローズのファンでなくても、一読の価値アリ。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか

書影

著 者:ダニエル・ピンク 訳:大前研一
出版社:講談社
出版日:2010年7月7日
評 価:☆☆☆☆(説明)

 R+(レビュープラス)様にて献本いただきました。感謝。今回は、発売直前の先行レビューということで、全300ページの本の内187ページまでのゲラ(再校紙)を送っていただきました。

 「ハイコンセプト 「新しいこと」を考え出す人の時代」の著者の新刊。前著では時代が「情報化の時代」から「コンセプトの時代」へ移り、そこで求められる「感性」を明らかにした。現状を看破し将来を洞察した素晴らしい本だった。ただ、これからはさらに高度なスキルを身に付けなければ、職を失うか抑制された賃金で働くしかなくなるのかと、少しブルーな気分にさせた。
 そして本書。タイトルの「モチベーション3.0」は、人々を動かす動機付け(モチベーション)の最新バージョンを表す。つまり、原始時代からの生存本能に基づくものが「1.0」、工業化社会以降現在まで続く「あれをやれば(やらないと)これを与える(罰する)」という「アメとムチ」による動機付けが「2.0」、そしてこれからの(いや随分前からすでに)人々を動かす新しい動機付けが「3.0」というわけだ。

 「2.0」で有効だった、「報酬」という「アメ」が生産性を上げるとは限らない、「罰則」という「ムチ」が行動を抑制するとは限らない。「早く解決したら賞金を出す、と言ってパズルの問題に取り組んだグループは、何も約束されていないグループよりも答えに到達するのに時間がかかった」「保育園の迎えの時間に遅れたら罰金、という制度を取り入れたら、時間に遅れる率が倍になった」、どちらも本書で紹介されている実験結果だ。
 では、「アメとムチ」に代わる、今現在人々を衝き動かしている「3.0」とはどういったものなのか?それは、自らの意思によるもの(自律性)、もっと上手にやりたいと思う気持ち(熟達)、より大きな目的に繋がっていると感じることの3つを要素とする。つまり自身の内面から湧き上がってきたり、行為そのものに内包される「内発的な動機付け」だ。

 本書ではこういったことが、私が読んだ187ページまでに、「予想どおりに不合理」の著者のダン・アリエリーさんの研究を含めて、実例を豊富に紹介しながら、それがとても分かりやすく紹介されている。実を言うと、この概略が知りたければ著者自身が熱を込めて解説している動画を今すぐに見ることができる。TEDというグループのカンファレンスで講演した動画が日本語字幕付きで公開されているのだ。
 しかし、動画を見れば本書を読まなくてもいい、というわけにはいかない。動画では「では、どうすればいいか?」が語られていないし、本書の目次を見るとそれは188ぺージ以降に書かれているらしい。R+(レビュープラス)さんも罪作りなことをするものだ。続きが読みたい。

TED Talks:ダニエル・ピンク 「やる気に関する驚きの科学」

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

大きく考えることの魔術

書影

著 者:ダビッド・J・シュワルツ 訳:桑名一央
出版社:実務教育出版
出版日:1970年7月25日 初版第1刷発行 2004年9月25日 新訂初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 本書の内容は、著者によるまえがきでうまく説明されている。大きく考えれば「幸福の点で」「成功の点で」「収入の点で」「友人の点で」「人に尊敬される点で」大きく生きられる。もう少し具体的に言うと、何かをする時に、「○○だから難しい(できない)」とは考えずに、また「まぁせいぜいこのくらいだろう」とは考えずに、ムリめでも強い信念を持って目標を立てれば、(魔術のように)それが達成できるということ。

 つまり「心の持ちよう」が、考えだけでなく行動や態度にも影響して結果につながる。また、外見や態度を整えれば(自分のだけでなく周囲のも)気持ちも変化する。内面と外面は相互に作用するので、良いスパイラルに乗れば、ドンドン向上していくというわけだ。
 しょぼくれていては負のスパイラルに陥いる。だから、自信がある人のように「集まりでは前に座り」「相手の目を見る習慣を付け」「歩くときは顔を上げて25%速く歩き(!)」「会議では進んで話し」「大きくほほえみ」なさい、という。さて「それならできそう」と思うか、「それができたら苦労しない」と思うか。「できそう」と思う人は、すでに第1段階クリアだ。

 本書のような「自己啓発本」に何を求めるかは人それぞれだろう。一気に成功者になる秘訣?今の自分を変えるためのヒント?人生の指針?私は「ちょっと役に立つことの1つでもあれば..」ぐらいの気持ちで読んでいる。今回見つけた「ちょっと役に立つこと」は、「一流の人とつき合いなさい」という部分だ。
 「良い刺激を受ける」というメリットももちろんあるが、それ以上に「支援者」としての位置づけは大きい。人それぞれに「してあげられること」が違う。同じぐらいの好意によるものでも、一流の人の支援が受けられれば、グンと目的に近づける。とまぁ、こんな他人まかせなことを言っているようでは、大きく生きるのは難しいのかもしれない。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

知らないと恥をかく世界の大問題

書影

著 者:池上彰
出版社:角川SSコミュニケーションズ
出版日:2009年11月25日 第1刷発行 2010年5月4日 第15刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 1年弱前に読んだ「14歳からの世界金融危機。」の著者の新書。書店で新書ランキングの上位になっていた。新書の場合は、売れている(という噂の)本がさらに売れる、という傾向があって、ランキングが中身の良し悪しを反映しないと思っているので、それだけであれば手を出さないのだけれど、「14歳からの~」が思いのほか良かった覚えがあったので読んでみた。

 内容は、世界の勢力地図、アメリカの覇権の崩壊とパワーシフト、世界の問題点、日本の問題点、と今の世界を網羅的に説明している。歴史的な流れを踏まえた考察やウラ話的なものも交えてあり、新聞記事より奥行きがある情報が得られる。
 「はじめに」で世界金融危機のことに触れ、「ブッシュ大統領以外の世界の指導者たちは、歴史に学んでいました」と書いているように、ブッシュ政権(あるいはブッシュ元大統領個人)には大変厳しい眼を向ける。今世界が抱えている問題のいくつかは、ブッシュ政権の失策が原因だとも読める。(「世の中の悪いこと全部が、自分たちのせいにされる。アメリカみたいだ」(伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」より)という言葉を思い出した。)
 その反動もあってか、日米の民主党に対しては肯定的な意見が多い。本書の発行は2009年11月、オバマ政権発足から10ヶ月、鳩山政権からはわずか2ヶ月だ。著者も、新政権には期待を持っていたのだろう。今なら、違うことを書かなくてはならないと思うが。

 「知らないと恥をかく~」というタイトルは、見栄っ張りのビジネスパーソンに効きそうな殺し文句。まぁ、知らなくても恥をかくことはないが、どこかで披露するとちょっと得意になれるような話題が詰まっているので、話のネタを仕入れるつもりで買うのなら760円の価値はあると思う。
 しかし「上っ面をなでました」というスカスカした印象はぬぐえない。本書の帯に「世界のニュースが2時間でわかる!」とある。「14歳からの世界金融危機。」は「45分で分かる!」というシリーズ。どちらも「お手軽さ」を謳ったことは共通だが、テーマを世界金融危機1つに絞った45分は意外に充実したものだったが、いくつもの問題を扱っての2時間ではそれはムリだった、ということだ。私としては、年金や教育や地方分権など、本書で取り上げた「日本の問題」について、著者の意見をもう少しじっくりと聞いてみたい。

 それにしても著者のテレビでの人気ぶりはスゴイ。調べてみたら、古巣のNHKを除いて在京キー局のすべてが、今年になってからバラエティ番組などで、ニュース解説に著者を起用している。テレビ局は「ニュースを国民に分かりやすく伝える」という機能を、自前では賄えなくなっているのかもしれない。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

武田双雲にダマされろ 人生が一瞬で楽しくなる77の方法

書影

著 者:武田双雲
出版社:主婦の友社
出版日:2010年5月31日 第1刷発行
評 価:☆☆(説明)

 出版社の主婦の友社さまから献本いただきました。感謝。

 著者は書道家。3年間の会社員経験の後、同じく書道家である母の影響でこの道を志したそうだ。著名なテレビドラマや映画やイベントの題字を手がけ、アーチストとのコラボレーションも多く、目下大活躍だそうだ。「~そうだ」と伝聞が続いて恐縮だが、私は寡聞にして著者のことを全く知らなかった。
 書道家である著者がどうして「自己啓発本」を?という疑問については、まえがきでこう答えている。「書と向き合うことは「人間の概念を書きつける」こと。あらゆる概念の中でも、特に「どうやったら人類がもっともっと楽しい人生になるのか」ということを考え、伝えたい」。そのために、自分で実践して効果があった「生き方の法則」を本書にしたためたわけだ。

 内容は「ありがとう」の連発で幸せに」といった具体的な方法が、サブタイトルのとおり77個、それが10章に分けて紹介されている。一貫しているのは、ポジティブシンキングと相互作用、そして言葉の力の3つ。ネガティブな言葉よりポジティブな言葉を使っていこう、他人の態度はこちらの態度の合わせ鏡、相手を変えることは容易ではないから自分の態度を変えてみよう、そしてそれらを言葉にして声に出してみよう、ということ。「ありがとう」の連発は、3つの要素が配合されたいい例だ。
 まぁ、突き詰めればこの3つ+αのことしか書かれていないわけで、77もの例を挙げなくてもよさそうなのだが、例がたくさんあって具体的なことにも意味がある。様々な角度から見て言い替えれば、自分に合う言葉が見つかる可能性が高くなる。抽象化された言葉は心に響きにくい、ということは確かにある。私に響いた言葉は72番の「「0」と「1」の差」だった。

 最後に1つ苦言を呈したい。言葉の扱いが雑なのだ。「人生が一瞬で...」というサブタイトルは中身を正確に表していない。でもこれはキャッチコピーだから良しとしよう。中身の文章に擬音や遊びが多いのも、私は気に障ったが親しみやすさを演出する工夫だと認めよう。
 しかし、文章の前後がズレている箇所がいくつもあることは見過ごせない。これは「誤り」だからだ。例えば上に書いたまえがきの文章。「人類が..楽しい人生になる」ではおかしい。「人類が(それぞれorみんな)..楽しい人生を送れる」「人々の人生が..楽しい人生になる」とするのが妥当だろう。
 話言葉ではありがちな誤りで、そう神経質になることもないが、文字にする以上これぐらいの厳密さは必要だろう。著者は、書道家として言葉を厳しく重要視しているそうだが、そういったことは残念ながら本書からは見て取れない。また出版社は、校正の段階で気が付かなかったのだろうか?

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)