レビュー記事が1500本になりました。

 先日の「JR上野駅公園口」の記事で、このブログのレビュー記事が1500本になりました。2002年の9月に書いた「海底二万海里」が1本目で、それから18年と8カ月です。いろいろなことに感謝です。

 ちょっと分析してみました。

 評価は☆5が42、☆4が696、☆3が698、☆2が60、☆1が4でした。

 カテゴリー別の記事数は、小説が477(279)、ミステリーが276(172)、ファンタジーが242(194)、経済・実用が133(99)、ノンフィクションが130(90)、オピニオンが115(22)、エッセイが59(31)、雑誌が11(4)、その他が144(109)です。
 カッコ内の数字は、レビュー記事1000本の時に集計した値で、比較することで直近500本の傾向が分かります。ファンタジーが減って(2番目に多かったのに4番目になりました)、オピニオンがすごく増えました(2%しかなかったのに16%になりました)。

 作家さん別の記事数では、伊坂幸太郎さん48、有川ひろさん40、ダイアナ・ウィン・ジョーンズさん37、三浦しをんさん26、東野圭吾さん26、上橋菜穂子さん25、恩田陸さん23、森見登美彦さん22、梨木香歩さん21、村上春樹さん19、塩野七生さん19の順でした。

 今回は、テキストマイニングツールという、文章の分析をしてくれるツールに、レビュー記事のテキストを読み込ませてみました。文字数が約133万文字、単語数が約83万語でした。もはや実感をうまく掴めませんが「とにかくたくさん」書いてきたことは分かりました。「頻出単語と関連」も調べましたが、これはどう見たらいいのか?これからゆっくり眺めてみたいと思います。

 集計を自分のために一枚のシートにまとめました。集計結果

 最後に。いつも言っていることですが、こうして本が読めるのは、暮らしに大きな支障がないからです。そのことは本当にありがたく思っています。その幸せを感じつつ、これからもレビュー記事を積み重ねていきたいと思います。

JR上野駅公園口

書影

著 者:柳美里
出版社:河出書房新社
出版日:2017年2月20日 初版 2021年1月9日 17刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 奥の深い名作なのだとは思うけれど、今の自分には合わないかな?と思った本。

 2020年の全米図書賞翻訳文学部門の受賞作品。全米図書賞のことはよく知らなかったけれど、それで興味を持ったので読んでみた。

 主人公は上野公園でホームレスとして暮らしていた男性。自身のホームレスとしての生活を過去形で語っているから、今は違うのだろう。昭和8年今の上皇陛下と同じ年に、福島県相馬郡八沢村に生まれた。昭和38年、東京オリンピックの前年に東京に出稼ぎに来た。60歳で帰郷するも数年してまた東京に来て上野公園で暮らし始める。

 主人公の人生を追って紹介したけれど、物語ではこのように簡潔には描かれていない。12歳で出稼ぎの漁に出る、成人して結婚、東京で土木工事の出稼ぎ、その間にあった子供の誕生とその死、帰郷後の出来事、ホームレス生活、そして現在。様々な時代のことが、主人公のひとり語りで目まぐるしく前後する、特徴的な構成だと思う。

 読んで楽しい物語ではない。「運がない」。主人公が母親に言われるし自身もそう言う。子どもを先に亡くしているし、妻にも先立たれた。12歳で出稼ぎに行かなくてはならなかったし、人生の大半は貧乏だった。「運がいい」とは言えない。

 ただ、妻子や親が相次いで亡くなってしまったけれど、主人公には気にかけてくれる人がまだいたのに、どうして..。と思ってしまう。

 ここまでは感想。ここからはちょっと解説。主人公が上皇陛下と同い年で、実は息子は天皇陛下と同じ日に生まれている。その他にも天皇家が関係するエピソードが多く描き込まれていて、主人公の人生との対比と距離感が、日本人の心性をうまくかもし出している。見方によってはずいぶんと奥の深い作品だと言える。

 さらに言えば、天皇制以外にも、敗戦、高度成長、東日本大震災が描き込まれている。国内よりも米国でまず評価されたのには、この作品に「(異文化としての)日本」を感じたからではないかと思う。

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マナーはいらない 小説の書きかた講座

書影

著 者:三浦しをん
出版社:集英社
出版日:2020年11月10日 第1刷 12月6日 第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 創作の現場が良く分かってよかったけれど、こんなに種明かしをしてしまっていいの?と思った本。

 コバルト文庫の「WebマガジンCobalt」に、著者の三浦しをんさんが連載していた「小説を書くためのプチアドバイス」を一冊にまとめたもの。著者は「コバルト短編新人賞」の選考委員を務めていて「ここをもうちょっと気をつけると、もっとよくなる気がする」とか思っていたらしい。連載を始めるいきさつは本書の「まえがき」に書いてある。

 本書は、フルコースのディナーに見立てた構成になっていて、全部で24皿もある(「多すぎるだろ」と著者もおっしゃっている)。一皿目から順にあげると「推敲について」「枚数感覚について」「短編の構成について」「人称について」「一行アキについて」「比喩表現について」「時制について」...。ご本人は途中で何度か「様子がおかしくなっている」と、謙遜というか自虐してみせたりしいるけれど、これは真正面から書いた「小説の書き方講座」だと、私は思う。とても参考になる。

 例えば「人称について」。一人称は「郷愁や抒情を醸し出しやすい。過去の出来事を振り返る、といった物語のときにひときわ効力を発揮」。でも「視野が狭くなりやすく、閉塞感が出てしまうおそれがある。語り手の外見について書きのくい」。三人称は「視点が切り替わったことが分かりやすい。描ける範囲が広い」。でも「語っているのは誰なの?神なの?作者なの?という疑問がつきまとう」

 小説を少し分析的に読む人にとっては「人称」は一般的な関心でもある。「村上春樹が三人称を使ったのは...」なんて話が好きな人はたくさんいると思う。ただ「書く立場」で考えるとこうなんだ、ということを、こんなに分かりやすく胸に落ちるように聞いたのは初めてだ。本書にはこのように「書く立場」ではこうなんだ、ということがたくさん書いてある(「小説の書き方講座」なのだから当然と言えば当然なのだけれど)

 本書を読んでいて、知り合いから「いよいよ書くのか!」と茶化されたけれど、私にはそういう気はもちろんない(今後ずっとないとは断言できないけれど)。じゃぁ何の役にも立たないのでは?と思われるかもしれないけれど、そうでもない。例えば、サッカーの経験がある人は経験がない人よりも、同じゲームを見ても違う楽しみ方があると思う。それと同じで著者の意図や工夫が少しわかれば、より小説が楽しめるかもしれない。

 また、三浦しをんさんらしい読んで可笑しいエッセイ集としても楽しめる。

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21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由

書影

著 者:佐宗邦威
出版社:クロスメディア・パブリッシング
出版日:2015年9月1日
評 価:☆☆☆☆(説明)

 紙に書いて貼っておきたいことがたくさん載っていた本。こういうの好きです。

 本書は、ビジネスにおける「デザイン思考」の重要性を説いて、その実践方法を著者自身の経験から指南する。

 著者は、P&G社に入社しマーケターとしてデータ分析などの「MBA的」なビジネス術を身につけた後、「市場のルールを変えてしまうようなイノベーションを起こせる一流のマーケターになりたい」と思うようになり「デザイン思考」にたどり着く。そしてイリノイ工科大学デザインスクール(ID)で学ぶ。本書の多くはそのIDでのメソッドや著者の経験が披露されている。

 「デザイン思考」が何を指すのか?は、もうそれは前提知識なのか、明確な定義がされることなく本書の中で使われている。まぁ簡潔な定義を示す代わりに、本書の全部を使ってそれを語っている、とも言える。

 私なりに「こういうことか」と思ったことを2つ紹介する。1つ目は、著者の経歴の紹介で使った「MBA的」との対比だ。MBAは論理的思考をベースにした「ビジネスをより効率的にするやり方」を教える。対してデザインは、今までの延長線上にはない「まったく新しい事業、商品などを創るやり方」を教える。(と言っても今やMBAコースでデザインを取り入れるビジネススクールは多いらしい)

 2つ目。「デザイン思考」の「1丁目1番地」は「デザイナーの思考法」だという。これだけでは言葉を分解しただけのようでよく分からないので補足すると、重要なのはリサーチもアイデアもビジュアル情報で捉えること。著者の説明によると、リサーチのために訪問調査をすると、200~300枚も写真を撮ることも普通らしい。アイデアはイラストにしたり、ポストイットを使ってビジュアル化する。

 「デザイナーの思考」のその他には例えば、「振れ幅の大きい世界に触れる」例えばユーザーリサーチをするなら極端な好みを持ったユーザーを敢えて選ぶ。あるいは「アナロジー思考」とツールとしての「比喩」自分が取り組んでいるテーマを、全然別のもので例えて置き換える」など。意図していなかった繋がりや共通点が見えて「思考のジャンプ」につながる。

 一流のデザインファーム出身の優秀なデザイナーの共通点、がとても印象に残った。彼らは自分のアイデアのプレゼンを「私が解決したい課題は...(the problem I would like to solve is..)という言葉で始めるらしい。優秀なデザイナーは「課題解決」を自分の仕事として捉えているということ。まねして使いたい。

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沈黙の春

書影

著 者:レイチェル・カーソン
出版社:新潮社
出版日:1974年2月20日 発行 2014年6月5日 76刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 半世紀前の本が、現在の世界にも強く警鐘を鳴らしていることに瞠目した本。

 名著とされているので書名ぐらいは知っている人も多いと思う。私もその一人だった。「知っている」だけじゃなくてちゃんと読んでみようと思ったのは、世界各地で起きている「ハチの大量死」のことを聞いた今から数年前のこと。本書はその時に買ったのだけれど、ながく放置した期間もあって読み終わるまで数年かかってしまった。

 本書は、生物学者でもある著者が、主に害虫を駆除する目的で使用される殺虫剤や農薬の、自然や人に与える深刻な被害を、豊富な実証的データとともに明らかにしたもの。原著「Silent Spring」は、1962年に米国で出版され、日本語訳の出版はその2年後だそうだ。

 第一章に描かれた寓話で、春が来ても鳥の鳴き声もミツバチの羽音もしない、自然が沈黙した町が描かれている。書名はこの様子を端的に表した言葉で、実に印象的だ。今のような農薬の使い方を放置すれば、生命の芽吹きのない春を迎えることになる。それでもいいのですか?という警告の言葉でもある。

 殺虫剤や農薬による深刻な被害は数多く報告されているけれど、その中で印象的かつ示唆的なことをひとつだけ紹介する。1950年代、カリフォルニア州のクリア湖。おびただしい数のカイツブリという鳥が死んだ。そのカイツブリの脂肪組織を分析すると、1600ppmという異常な濃度のDDDという薬品が検出された。

 DDDはブユの駆除のために0.2ppm以下に薄められて散布された。それがプランクトン、魚、鳥と食物連鎖を経て生物濃縮という作用によって、8000倍に濃縮されたのだ。最終的にはカイツブリの雛鳥は見られなくなってしまった。ここのブユは蚊によく似ているけれど血を吸わない(ブユと訳してあるけれど、調べるとどうも「フサカ」という別の科の昆虫らしい)。その無害な昆虫を駆除しようとした。それもただ数が多すぎるという理由で。

 この事例が印象的かつ示唆的な理由は、他の事例は割と殺虫剤を無頓着に使っているのに対し、この事例では「中でも害の少ない薬品を」「水量を計算して(安全なように)薄めて」使っていることだ。安全に配慮していても、思いもよらない結果を招くことがある。特に「(安全なように)薄めて」は示唆的だ。今でも「基準値を下回っていれば安全」とされる。たしか原発事故の処理水の海洋放出も..。

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すえずえ

書影

著 者:畠中恵
出版社:新潮社
出版日:2016年12月1日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 そうか、一太郎のお嫁さんはあの子なのか、という本。

 「しゃばけ」シリーズの第13作。「栄吉の来年」「寛朝の明日」「おたえの、とこしえ」「仁吉と佐助の千年」「妖達の来月」の5編を収録した連作短編集。文庫版には著者と漫画家のみもりさんの対談が巻末に付いている。

 江戸の大店の跡取り息子で極端に病弱な一太郎が主人公。一太郎の周りには数多くの人ならぬ者、妖たちが居ついている。その妖たちが起こしたり解決したりする騒動を描く。シリーズを通してこの設定は同じなのだけれど、巻を追うごとに一太郎は確実に成長していて、今回はなんと一太郎の縁談がまとまる。

 「栄吉の来年」は、一太郎に先駆けて一太郎の友人の栄吉の縁談話。「寛朝の明日」は、上野の広徳寺の名僧である寛朝の危機。「おたえの、とこしえ」は、一太郎の母親のおたえの面目躍如。「仁吉と佐助の千年」は、一太郎の縁談に端を発した、一太郎の守役の仁吉と佐助の決断。「妖達の来月」は、少し哀しい現実を垣間見せながら新しい展開への期待。

 「一太郎の縁談」はもちろん一大トピックス。それに普段はほとんど出番のない、お母さんのおたえがフィーチャーされているのも珍しい。私はおたえさんのことが密かに気になっていて、もっと登場させて欲しいと思っている。私としてはシリーズの中でも特別な1冊だ。

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悩むなら、旅に出よ。 旅だから出逢えた言葉2

書影

著 者:伊集院静
出版社:小学館
出版日:2017年7月31日 初版
評 価:☆☆☆(説明)

 ちょっと思ったのとは違ったけれど、まぁこれはこれでいいかと思った本。

 作家の伊集院静さんが、ダイナースクラブの会員誌に連載したエッセイを単行本にまとめたもの。帯に「世界の旅先でふっと心に響いた「ひと言」」とあって、その言葉に魅かれて読んでみた。「旅だから出逢えた言葉」の続編。

 全部で35編。旅の行先はスペイン、フランス、イタリア、アメリカと欧米を中心にした海外と、国内は北海道、宮城、長野、三重、山口。池袋とか銀座とかの都内もある。仕事で出かけた場所で、合間に街を歩いてみて…というのが多い。

 1遍だけを詳しく。著者は絵画を巡る旅の本の「スペイン編」「フランス篇」を上梓していた。次はイタリアへダ・ヴィンチの取材に、というのが2011年の3月のこと。このイタリア行は震災のために中止。そこに「イタリア編が完成して、それを読むことができたら生まれて初めてイタリアに旅をしようと思います」という七十五歳の女性からの手紙が届いた。

 しかし著者には、美術の旅を読者に誘う適確なものを書ける自信がない。そんな著者に、作家の城山三郎さんがおっしゃった言葉がよみがえる。
 そこに行かなくては見えないものがあるのでしょうね

 私は副題の「旅だから出逢えた言葉」を「旅先で出逢った言葉」だと思っていた。例えば旅先の食堂で隣に座ったおじいさんとの会話の中の一言」とか。そうではなくて、このエッセイのように「思い出した」とか「関連がある」とかの言葉だった。このエッセイの場合は、旅に行ってさえいないし…。

 だから正直に言えば、肩透かしをくらったように感じたし、エッセイの中のエピソードで明らかになっているのだけれど、飲んだくれて暮していた著者の若いころの話には鼻白んでしまったし、そんな若者を7年あまりもタダで泊めてくれたホテルがあることに唖然としてしまった。

 でも、紹介された「言葉」には力があった。上に書いた城山三郎さんの言葉は平凡に感じるかもしれないけれど、旅の本質をこれほど的確に表していることばは他にないと思う。

 最後に、もうひとつ。モネの師匠が少年のモネに言った言葉
 目を見開いて自然をよく見てごらん

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三つ編み

書影

著 者:レティシア・コロンバニ 訳:齋藤可津子
出版社:早川書房
出版日:2019年4月25日 初版 7月10日 4版 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

「最近読んだ本で何かおススメは?」と聞かれたら、これをおススメしようと思った本。

本書は、フランスで2017年に出版され大ベストセラーとなり、世界32か国で翻訳されているという。日本の出版社のサイトに「フランスで120万部突破、日本でも続々重版」という記事が掲載されたのが2019年4月。日本の様々な書評でも絶賛されている。

主人公は世界の3大陸にそれぞれ暮らす3人の女性。インド・ウッタル・プラデーシュ州に暮らすスミタには6歳の娘がいる。イタリア・シチリアに暮らすジュリアは20歳。父親が経営するヘアピースやかつらを作る工房で働いている。カナダ・モントリオールのサラは40歳。法律事務所のアソシエイト弁護士。3人は住む大陸だけではなく年代も境遇も違うが、タイトルの「三つ編み」は、この3人の物語がどこかで縒り合さることを予感させる。

境遇のことで言えば、三人三様ながらそれぞれに厳しい試練を迎えていた。しかしスミタのそれは、他の2人とは次元が異なる過酷なものだ。スミタは最下層身分の「不可触民」で、他人の糞便を素手で拾い集める仕事をしている。もし何か不手際があれば、命の危険さえある虐げられた人々だ。そのスミタはこの境遇から娘を救い出すために、引き返すことのできないある行動に出る。

読んで主人公たちのしなやかな力強さに深い感銘を感じた。3人の物語が順に繰り返され並行して進むのだけれど、スミタの物語になる度にページを繰る手が止まって、胸に痛みを感じる。読み進むうちにサラの物語でも。ジュリアの物語ではそうならないのは、ジュニアには寄り添ってくれる人がいたからだろうか?

本書は「フェミニズム小説」と称されていて、「女性の物語」であることは明らかだ。女性の読者は主人公を自分と重ねて読む人もいるのだろう。男性である私にはそれはできないけれど、世の理不尽を感じながら私も暮らしているので共感はできる。それに、自分の妻や娘や友人を思うこともできる。そうして深い感銘を感じた。

最後に。覚えておきたい言葉を引用。

鏡にうつる自分の姿は敵ではなく、味方でなくてはならない

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書店ガール4 パンと就活

書影

著 者:碧野圭
出版社:PHP研究所
出版日:2015年5月22日 第1版第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 シリーズの主人公が変わって「おっ!」と思った本。

 「書店ガール」の第4巻。これまでの3巻の主人公は西岡理子と小幡亜紀という、吉祥寺の新興堂書店の書店員2人だったけれど、本書では高梨愛菜と宮崎彩加の2人にスイッチされた。愛菜は新興堂書店の学生アルバイト、彩加は駅ビルにある別の書店の契約社員。勤め先は違っているけれど二人は友人。

 愛菜は大学3年生で友人たちは就活をスタートさせている。愛菜自身はこのまま書店業界に就職、という考えもある。しかしそれを聞いた友人たちは「えっ本気?」という反応。彼らにしてみれば、書店などという斜陽産業に就職するなんて「将来とか真剣に考えてるのか?」ということなのだ。

 彩加には正社員への登用の話が持ち上がる。ただし、新規オープンする茨城県の取手店への店長としての転出が条件。さらに実家の沼津の母親から伯母が経営する書店の相談を受ける。差し当たっては改装の相談だけれど、「あんたが継いでくれるなら、それでもいい」という話もされる。

 とても興味深いストーリーだった。主人公のスイッチが物語の広がりに繋がった。例えば、年齢をぐっと下げた愛菜を主人公としたことで、就活というほとんどすべて読者に共通するテーマを取り込んだ。彩加のエピソードは、これまで首都圏が中心だったシリーズに、地方都市が抱える問題を違和感なく加えることができた。

 次は物語がどんな風に広がっていくのか楽しみだ。

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オルタネート

書影

著 者:加藤シゲアキ
出版社:新潮社
出版日:2020年11月20日 発行 2021年3月25日 10刷
評 価:☆☆☆(説明)

 あまり期待はしていなかったのだけれど、けっこう楽しめた本。

 第42回吉川英治文学新人賞受賞、本屋大賞ノミネート作品。

 主人公は高校生が3人。新見蓉(いるる)、東京の円明学園高校3年生、調理部の部長。伴凪津、円明学園高校1年生、SNS「オルタネート」を信奉している。楤丘尚志、大阪の高校を中退、円明学園高校にかつての同級生がいる。東京の円明学園高校を主な舞台として、3人の物語が並行して、時に少し交錯しながら進んでいく。

 本書のタイトルにもなっている「オルタネート」は、高校生専用の実名制のSNSで、お互いが「フロウ」を送りあうとメッセージなどの直接のやり取りができる。高校生に大人気だ。条件を指定すると、相性のいい会員をレコメンドしてくれる。新しい機能として遺伝子解析によって、相性のマッチングを図るサービスが加わった。凪津の信奉は、これによって理想の相手を見つけ出すことができる、という期待の裏返しだ。

 物語は、蓉の高校生の料理コンテスト「ワンポーション」への挑戦、凪津の理想の相手探し、尚志の同級生との再会とその後、を描く。こう書くと単調なように感じるかもしれないけれど、主人公3人以外に、同性愛者のダイキや、料理コンテストの対戦相手の三浦くん、凪津のクラスメイトの冴山さんらが、主人公3人の物語や自身のエピソードの中で、生き生きと描かれ、複層的な群像劇になっている。

 面白かった。時に散漫な感じを受けることもあったけれど、それぞれの高校生の暮らしぶりが良く描かれていて、興味が尽きなかった。タイトルになっている割には「オルタネート」はこの物語に必要かな?なんて思ったけれど、まぁいいか。

 私が感じた本書のキラーフレーズを引用。

 まるでガイドブック通りの旅行みたいだ。

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