地の掟 月のまなざし

書影

著 者:たつみや章
出版社:講談社
出版日:2000年1月28日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「月神の統べる森で」に続くシリーズ2冊目。前回、縄文のムラと弥生のクニの敵同士として出会い、心のわだかまりがすっかり晴れたとは言えないまでも、「次に会う時は友に」と別れたポイシュマとワカヒコの2人の少年のその後を描く。

 少年たちを待っていたのは、大人の理屈の世界と言える。心根の真っ直ぐな縄文のムラの人々でさえ、災いを背負うと言われる星の息子であるポイシュマをすぐに受け入れることはできない。少年がそこを出て行けば、1人で生きてはいけないだろうことは分かっていてもだ。
 弥生のクニに帰還したワカヒコの運命はさらに厳しいものだった。ムラとは違って身分制度があるクニでは、人々は謀(はかりごと)を覚えてしまった。女王ともいえるヒメカの甥という身分は、ワカヒコの安全を保証するどころか、謀略の対象となる原因となってしまった。

 稲作を覚え、周囲を柵で囲って定住する弥生文化は、その前の狩猟採集生活の縄文文化より優れていると考えられがちだ。技術の観点からは断絶がないかぎり、前の時代の上に積み重ねていける以上、後の時代のものが前の時代のものより優れていると言うこともできる。しかし、社会制度は新しいものが必ず優れているとは言えない。
 「所有」の概念が身分制度を作ったとはよく指摘されるが、身分制度が謀を生み出したとも言えるのではないか、と思う。前作では自然や動物の神性を見ることができるかどうかという違いであったが、本書では悪しき概念(謀、裏切りなど)までが弥生のクニでは生まれている。その差がポイシュマを救いワカヒコには厳しく覆いかかる。
 あえて理屈を付ければこんな感想が言えるが、運命を背負った2人の少年の物語が、起伏にとんだストーリーで進む。それだけを楽しんで読む方が素直な読み方かもしれない。

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しがみつかない生き方

書影

著 者:香山リカ
出版社:幻冬舎
出版日:2009年7月30日
評 価:☆☆☆(説明)

 新聞広告で見た本書の最終章のタイトル「<勝間和代>を目指さない」に目を奪われて即日に購入してしまった。勝間和代さんの「断る力」を読んだ時の私の思いにとても近い言葉だったからだ。その後、例によって同じ本を読んだ方を探すうちに、「勝間さんの本に出会って人生が変わりました!」という方のブログを幾つか見た。生活にハリがあってうらやましく思った。
 しかし「断る力」のレビューにも書いたとおり、「リターン・マキシマイズ」な勝間さんの生き方は、万人にとっての最上の生き方ではない、と思う。本書では著者はさらに一歩踏み込んで、多くの人が同じような成功を求めることの危険を、勝間さん自身の努力や成功を認める一方で鋭く指摘している。

 その他には「恋愛にすべてを捧げない」「仕事に夢をもとめない」「生まれた意味を問わない」といった章もある。「私は基本的にはパンのために、つまり衣食住のために働いている」という告白もあって、なんとも醒めた印象を受ける。また、大人たちが子どもや若者に盛んに発しているメッセージと相反する。
 しかし、著者は奇を衒ってこんなことを言っているのではない。1つにはこれまであまりに前向きなメッセージばかりが発せられ、その結果の閉塞感への風通しの意味がある。実際のところ、肩の力の抜けた著者のメッセージに、多くの人が実はホッとするのではないかと思う。
 もう1つは、精神科の診察室という著者の日常が大きく影響している。そこは問題を抱えた人と相対する空間であり、本人も認めているように、一般的な経験と比べてかなり偏りがある。そこでは本当に本書にあるようなメッセージが必要とされているのだろう。所々に「それは気にしすぎでは?」と思える箇所があるのは、私と著者の日常が違うからなのだ。

 著者の場合は「いまの社会を精神科医として見渡して思いついたことを、何とかして人に伝えたい。せっかくだからこれをみんなに言ってみようかな」というのが、本を書くときの動機の大半だそうだ。だから、自分とは違った知識と経験を持った人の話を聞くような気持ちで、本書を読んだらどうだろうか?きっと何かを感じられると思う。

 この後は書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。長いですが、お付き合いいただける方はどうぞ

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(さらに…)

何か文句があるかしら

書影

著 者:マーガレット・デュマス 訳:島村浩子
出版社:東京創元社
出版日:2009年6月30日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 著者のデビュー作。2003年の英国推理作家協会のデビュー・ダガー賞にノミネートされた作品。デビュー・ダガー賞というのは公募の未発表作品に対する賞。要するに新人作家の登竜門のような位置付けなのだろうと思う。
 ノミネート作品であって受賞作ではないし、「セレブ探偵と旦那様の華麗なる(?)活躍」という帯の惹句からは、何だか薄っぺらい「主婦探偵モノ」が想像されたのだが..、これは面白かった。

 主人公チャーリーは「小国の財政をまかなえるほど」のサンフランシスコに住むお金持ち。「それなのに」と言うか「それなので」というか、「西半球でいちばん恋愛が困難な女」と言われ、結婚なんてしないと思われていた。その彼女が知り合って6週間のジャックと、ロンドンで電撃結婚して帰国する飛行機が冒頭のシーン。
 それで帰国して泊まったホテルの浴槽に女性の死体があったり、従姉妹が誘拐されたり、出資する劇団にトラブルがあったり、と事件が次々と起きる。それを、チャーリーが持ち前の行動力と機転で次々と見事に解決...、という話ではない。それでは薄っぺらい「主婦探偵モノ」だ。(それでも、その主婦がゴージャスな女性というだけで、テレビではウケそうだけれど)

 ではどういう話か、を言ってしまっては、読む楽しみが半減してしまう。サイコ殺人と007シリーズをミックスして、米国流のジョークをまぶして、カラっと揚げたような作品とだけ紹介しておく。
 ところで、原題は「Speak Now」キリスト教式の結婚式で読みあげられる「この結婚に異議のあるものは、いますぐ申し出なさい」という意味の言葉。知っているとより物語が楽しめるかも。

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「場回し」の技術

書影

著 者:高橋学
出版社:光文社
出版日:2009年7月25日
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の高橋学さんからいただきました。高橋さん、どうもありがとうございました。

 著者は「やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている」の共著者でもある、この本はその前の「結局「仕組み」を作った人が勝っている」と合わせて7万部というから、ベストセラーと言っていいだろう。
 テーマを設けて多くの取材を行い、それに考察を加えて読者に届ける姿勢は、とても誠実だ。公式サイトの著者紹介によると、著者の肩書は「ビジネススキル発掘ライター」。ご自分の立ち位置が明確な良いネーミングだ。

 今回のテーマとなっている「場回し」とは、テレビ業界で使われる用語だそうだ。「場回しがうまい」とは「うまく仕切る」こと。トーク番組などの司会者の仕事ぶりを評するときに使われる。
 これをビジネスの場などに転用して、「3人以上」が集まる場で「全員」が1つの目的・目標に向かって「ポジティブ」に参加している状態、をつくる技術を紹介している。「場回し名人」と呼ばれる達人からの取材で得た技は27個。使える場面は「会議」「セミナー」「チーム」「飲み会」と大変幅広い。

 書かれているものの多くは「場回し」ならぬ「気回し」の技だ。例えば、表情やしぐさを見て付いて来ていないと思ったら重点的に質問する「ピンポイントケア」、気の合いそうな者同士を近くに座らせる「プロファイリング席次」。「目配り・気配り」なんて「気回し」そのものの名前の技もある。
 「こんなの思いもよらなかった」という技は多くないが、大事なのは目新しい知識を仕入れることではなく、自分で使ってみることだ。私も講演やセミナーの講師をするし、小さいながらも施設の責任者に収まっているので、まずはチームワークに大切な「アクティビティ」あたりから使ってみようと思う。

 使ってみる、という意味では、著者は「場回し名人」からの直伝の技を実際に使い、それをレポートしている。その結果、この道をきわめつつあるそうだ。新しいスキルを身につけてさらに有益なビジネススキルを発掘して欲しい。期待してますよ、高橋さん。

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レビュー記事が300本になりました。

 レビュー記事が先日の「王国の鍵2 地の底の火曜日」でちょうど300本になりました。
 ちょっと前に試しに数えてみたら297本で「おっもうすぐ300本だ」と思い...思っただけで特に何もしませんでした(笑)。
 2002年の9月の「海底ニ万海里」から始まって、約7年かけての300本。平均すると年40本あまり。ですが、始めて数年は年30~40本ぐらいなのですが、昨年に突然92本に跳ね上がります。今年も既に52本と昨年並みのペース。

 たくさんの方と読書を通して交流したいと始めたブログですが、初めの頃は記事を書いていても、誰かに読んでもらえているのか、正直よく分かりませんでした。そしてある時「コメント回り」という言葉を知り、気が付いたのです。読んで感想まで聞かせてもらいたいなら、こちらから話しかけなければ。(娘が持っていた「友達づくり大作戦」みたいな通信教育についてきた小冊子に書いてあることと同じです。)

 それで、他の方のブログにお邪魔して「私もその本読みました」というコメントを残し始めたのが、2007年の終わりごろ。その成果なのか、コメントやTBをいただけるようになったのが2008年。記事の本数と考え合わせると、誰かに読んでもらえるという思いが、私の読書とブログへの記事投稿に与えた影響は明白ですね。これまでにコメントやTBをいただいた皆様に感謝です。
 

王国の鍵2 地の底の火曜日

書影

著 者:ガース・ニクス 訳:原田勝
出版社:主婦の友社
出版日:2009年8月31日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 主婦の友社さまから献本いただきました。感謝。

 「王国の鍵」シリーズの第2弾。前作「アーサーの月曜日」で偶然に創造主の後継者として選ばれた主人公のアーサー。異世界である「ハウス」の支配者の一人「マンデー」との闘いの末、第一の鍵を手に入れて現実世界に戻って、恐ろしい伝染病から街を救った。しかし、ホッとしたのもつかの間で、すぐに「チューズデー」の挑戦を受けることになった。
 もうお分かりのように、闘うべき相手は「マンデー」から「サンデー」までの7人いて、手に入れるべき鍵も7つある。マンデーが現実世界に手を出せるのは月曜日だけ、チューズデーは火曜日だけ..という決まりがある。一見すると何とか1日しのげば攻撃をかわせそうに思うがそうではない。次の日の相手が手ぐすねを引いて待っているからだ。アーサーの戦いは日替わりで相手を変えて続く。なんと過酷なことか。

 今回の相手のチューズデーは冷酷で筋骨逞しい大男。「ハウス」の「地底界」のさらに下で、労働者たちに採掘の重労働を強いている。そして部下のグロテスク兄弟(なんという名前だ)に命じて現実世界の経済を大混乱させて、第一の鍵を渡さなければアーサーの家族を破滅させる、と脅しをかけてきた。
 第一の鍵のおかげで少しは魔力が備わったとは言え、アーサーは普通の少年。端っから勝てそうにないし、実際何度も絶望的な状況に陥る。でも要所要所で協力者に恵まれて(冷酷なチューズデーは人気がないのだ)...というストーリー。

 都合が良すぎる展開、と言ってしまうこともできる。でも、敵役も含めて多彩なキャラクターと起伏のあるストーリーは楽しかった。そしてアーサーは、偶然に選ばれただけの運命なのにそれを受け止めたばかりでなく、普通の人間でありたいと思いある決断をする。アーサーしてみれば「都合が良すぎる」なんてとんでもないのだ。

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魔法の館にやとわれて 大魔法使いクレストマンシー

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:田中薫子
出版社:徳間書店
出版日:2009年5月31日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 久しぶりのダイアナ・ウィン・ジョーンズ、しかもクレストマンシーシリーズの最新刊。シリーズものだから世界観は変わらない。並行世界が12の系列に別れ、そのそれぞれに原則として9つの異世界がある。この世界観がストーリーの源となっているのか、今回もユーモアたっぷりの楽しい作品だった。

 「クレストマンシー」というのは、全部の世界について魔法の使われ方を監視する役職の名前だ。今回の準主人公のクリストファーは、次のクレストマンシーになることが決まっている魔法使い、でもまだ修行中の10代半ばの少年だ。そして、主人公のコンラッドは12歳。2人とも、お金持ちの館に従僕として働きに来た、そしてそれぞれここへは隠された目的があって来ている。
 物語は、高慢な主人一家や執事たちにこき使われながら、従僕として過ごす2人の生活がドタバタと描かれている。いつものように大人たちはみんな1クセも2クセもあるし、若干類型的とは言えユーモアたっぷりのキャラクターたちとの絡みも楽しい。

今回の作品には、終盤にちょっとした大団円は用意されてはいるが、大きな見せ場はない。でも、心配はない「ギリギリでセーフ」を繰り返す2人の少年の行動による起伏と、徐々に新しいことが分かる期待感で充分に読ませるからだ。
 この作品はきっと、後のクレストマンシーであるクリストファー・チャントの人物造型のために、その生い立ちとして少年時代を描きたかったものなのだ。さらに幼いころを描いた「クリストファー魔法の旅」を初めとするシリーズを何作か読んでおいた方が楽しめると思う。いや「クリストファー魔法の旅」を読んだ人には是非読んでもらいたい。彼の成長を楽しめるはずだから。

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読書感想文の宿題に思うこと

 このブログのアクセス記録を何気なく見ていたら「夢をかなえるゾウ」の記事の固定URLを検索語にしたアクセスが2件ありました。不思議に思って調べると「読書感想文の書き方 パクリと文例 中学生編」というサイトに行きあたりました。まぁ、そこの「夢をかなえるゾウの読書感想文の例」という記事で、このブログのURLが紹介されていた、というのが不思議の種だったようです。
 アクセス記録を調べると、「夢をかなえるゾウ」は1年半近く前の記事にも関わらず、ここ1週間ではトップページを除くと4位のアクセス数を稼いでいます。過去4カ月まで期間を広げると53位ですから、ここ最近で急にアクセスが増えたことが分かります。さらに調べていくと、ここ1週間の検索ワードは「読書感想文」がダントツの1位。2位の「書評」の5割増し以上あります。

 読書感想文を書くのにネットで検索してみる人が多くいることが分かります。「パクリ」は論外ですが、良くないことだ分かっているでしょうから、逆に害はないかもしれません。それよりも気になるのは、ネットで他人の感想を読んでから感想文を書くこと。なぜなら、そうして書いた感想や意見は、自分のものなのか他人のものなのか曖昧になってしまいます。にも関わらず当人は「自分の意見・感想」だと思い込んでしまうのは危険ではないでしょうか?
 かく言う私もレビューを書く時にネットで検索します。出版データや著者の発言などの事実関係を確認するためなのですが、結果的に他人の感想を読むことにもなります。それである時から、感想の部分を書いてから調べるようにしています。

 宿題の読書感想文については「指導もなく」「強制的に」書かせて「評価する」ことに異議を唱える方がいらっしゃることは承知しています。特に「評価する」に対する異議は、私も共感する部分がなくもないです。
 しかし、問題はあるにしても、子どもたちが本を読んで「自分はどう思ったのか」を改めて考えて、自分と向き合う機会を持つのは良いことだと思います。なぜなら、将来のいつかは「自分はどう思うのか?どうしたいのか?」を考えなければならないことがあるでしょう。その時には検索をしても答えのページは見つからないのですから。

月神の統べる森で

書影

著 者:たつみや章
出版社:講談社
出版日:1998年12月11日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」のファンタジーのコミュニティで話題になっていたシリーズの1巻目。実は半年ほど前に小学生だった娘が読んでいたシリーズ。小学校の図書館にあったのだから小学生向きの本なんでしょう。でも、子供向けの本でも大人が読んで面白い場合が2つある。1つは子どもの頃に戻ったように楽しめるもの、もう1つは大人なりの読み方で考えさせられるもの。本書はその両方、どちらかと言えば後者。

 舞台は縄文時代のムラ。弥生文化に接触する時代のことらしい。彼らは、月や太陽を神と崇め、川にも木にも動物にも、家の戸口にまでカムイという神的な存在を感じ、お願いをしたり感謝したりして暮らしている。時にはその姿を目にしたり、その声を聞いたりすることもある。
 そして、彼らが暮らしていた土地に、海を越えて言葉も服装も習慣も違う「ヒメカの民」が移り住む。月と太陽は神として崇めているが、自然には敬意を払わない。山菜を根こそぎ採ってしまうし、魚も動物も一網打尽という具合。やがて衝突が起きる、これが物語の発端。

 その後、それぞれの部族の少年である、ポイシュマとワカヒコを中心にして、物語は展開していく。少年ながら背負ったものがあって泣かせるシーンや、部族同士の抗争にハラハラするところもあって、この辺りが「楽しめる」部分。
 「考えさせられる部分」は..。1つは、川や木や動物に神的なものを感じて見る、ということが、縄文の人々にはできて私たちにはできなくなっているのではないか?ということ。深海の生物の目が退化するように。
 もう1つは文明について。「ヒメカの民」は土地を囲いイネを育てて暮らす。狩りや採集による暮らしと比べれば安定しているし、文明が1段階進んだと言える。そして、その段階を何段も進んだ先にあるのが私たちの社会。本書の限りでは「ヒメカの民」は無礼で知恵の足りない悪役だ。だとすればその先にある私たちは...?

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魔王

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:講談社
出版日:2008年9月26日 第2刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「モダンタイムス」から遡ること約50年。本書の初出の2004~2005年とほぼ同年代、つまり現代が舞台。正確に言えば本書が先にあって、「モダンタイムス」がこれに続く作品。この順で読むほうが良いのだろう。私は、読む順番が逆になってしまったけれど、「モダンタイムス」に出てきた登場人物や、その口から語られるエピソードなどが本書に登場していて、これはこれで楽しめた。

 「魔王」と「呼吸」の2編の中編が収められている。2編の間には5年の歳月があって、主人公も違うのだがひと続きの物語になっている。「魔王」の主人公は安藤、システム開発の会社に勤めている。ある日、自分には不思議な能力があることに気が付く。自分が念じた言葉を、誰かに話させることができるのだ。
 時代は不穏な時代だった。景気は回復せず、中東の紛争が長引き、中国との関係はギクシャクし、米国には頭が上がらない。失業率が史上最悪を更新、与党の支持率が低下、そして衆議院が解散、野党に国民の期待が集中する...これはいつのこと?もしかして今?...そんなはずはない、上に書いたように本書の初出は2004年だ。
 しかし、読み進めれば読み進めるほど、現在のことを言っているのではないかと思ってしまう。分かりやすい言葉と「世論」という洪水に乗せられて、国民が一つの方向になびいてしまう。「考えろ」が身上の安藤は、そんな世の中に不安を感じて、衝き動かされるように行動を開始する。

 これは、面白かった。著者の他の作品とは何か違うものを感じた。村上春樹氏の「コミットメント」という言葉が連想される。著者はあとがきで「(政治的な)特定のメッセージを含んでいない」と断ってある。これは、何かのメッセージが読み取れてしまうからこそ、こういった断り書きが必要になったのだろう。「考えろ」。これは、安藤の口から再三発せられるほか、「呼吸」では思わぬ人物が熱を込めて語る言葉だ。
 タイトルの「魔王」はシューベルトの歌曲の名から取られている。薄学な私は知らなかったが、子どもが「魔王がいる」と訴えているのに、父親は気付くことができず「あれは柳の木だ」とか都合の良いように解釈しているうちに、子どもの魂は魔王に連れて行かれて息絶えてしまった、という悲劇だ。

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