ニューズウィーク 2013年5月21日号

書影

 ちょっと番外編。ニューズウィーク日本版2013年5月21日号に、「日本人が知らない村上春樹」という特集が載った。80ページほどの誌面(薄い!)の中ほど、41ページから55ページまでの14ページ(途中に別の記事が1ページある)。今回は、その特集について。

 全部で7人の外国人が「村上春樹」を様々に語っている。アメリカ、韓国、フランス、ノルウェー、中国と、国が様々なら、ジャーナリスト、小説家、翻訳家、ブロガー・コラムニストと、職業も様々。強いて共通点を上げると、日本に長くお住まいであったり、日本文学の翻訳(もちろん村上作品も)をしていたりで、(一人を除いて)日本語で村上作品を読んでいること。

 ある程度は予想していたが、これらの国全部で村上作品がとても人気がある。韓国では「1Q84」は180万部、「ノルウェイの森」に至っては500万部以上売れたそうだ。韓国の人口が日本の4割にもならないことを考え合わせれば、驚きの数字だ。

 記事をよんで感じたことを雑駁に。(1)海外の村上作品は表紙がカラフルだ。日本の作品はシンプルなデザインだけれど、写真やイラストを大胆に使ったものが多い。(2)ノルウェイで「ノルウェイの森」がどう読まれたのか気になる。ノルウェイ版の「ノルウェイの森」の表紙は「日の丸」。これには苦心の後が感じられる。(3)ニューヨーク・タイムズには、「1Q84」を「あきれた作品」と酷評した書評が載ったらしい。これは健全だと思う。

 最後に。韓国や中国で日本作家の作品が、これほど受け入れられていて、その理由は「共感」だという。このことをどう解釈すればいいのか、少し戸惑った。近くて遠い国の人々は、実はやっぱり近いところにいるのかもしれない。

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株式会社ネバーラ北関東支社

書影

著 者:瀧羽麻子
出版社:幻冬舎
出版日:20011年6月10日 初版発行 2012年10月15日 4版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の作品を読むのはこれで4冊目。「うさぎパン」では、高校生の恋愛未満の淡い想いを、「左京区七夕通東入ル」「左京区恋月橋渡ル」では、大学生の恋バナを描いた。本書が描くのは28歳の大人の女性の心模様だ。

 主人公の名は弥生。東京の外資系証券会社で7年間、バリバリ(本人曰く「150%の力で」)働いていた。あることをきっかけに転職し、北関東にある小さな町に引っ越してきた。転職先が本書のタイトルの「株式会社ネバーラ北関東支社」。健康食品の下請メーカーで主力商品は納豆だ。

 弥生は、東京の暮らしで傷ついた心身を休める避難所的にここを選んで引っ越してきた。もちろん、ここに根づくつもりなんかない。20~30%ぐらいの力で働いていて、それでうまく回っているのだから、問題もない。物語の始めの弥生はこんな感じだった。

 何故か英語が口をついて出る杉本課長、生真面目に仕事に取り組む沢森くん、東京に憧れるマユミちゃん、駅前の居酒屋の桃子さん。職場でも外でも「善い人」に囲まれてそこに溶け込み、喜びやピンチを共有する内に、弥生の心が少しずつ変わっていく。胸の内の一部がそっと温まるような、読んでいて気持ちのいい物語だ。

 私が読んだ文庫版は、書き下ろし短編「はるのうらら」を収録。マユミちゃんが高校3年生のころの物語。「おまけ」の作品かと軽く見ていたのだけれど、そうではなかった。この短編で、私は本編で見え隠れする「テーマ」が、はっきり見えた気がした。そのテーマとは「理由」だ。

 人はいろいろなことに「理由」を求めてしまう。本編でも短編でも、町の出入りにまつわる「理由」が度々語られる。弥生が東京から来た理由。桃子さんが大阪から来た理由。そして、沢森くんとマユミちゃんが東京に行かない理由、弥生が東京に帰らない理由。「○○しない」理由が寂しくも胸に沁みる。

 ここからは書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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(さらに…)

ガソリン生活

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著 者:伊坂幸太郎
出版社:朝日新聞出版
出版日:2013年3月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 巻末の「初出」によると、本書は、2011年11月から2012年12月まで、朝日新聞に連載された新聞小説を、大幅に加筆修正したもの。

 主人公は緑色のデミオ。そう、あのマツダのデミオ。なんと車が主人公。彼らは、車体が見える範囲、排出ガスが届くような範囲であれば、お互いに話ができる。車輪が付いていればいいらしく、列車とも話ができる。ただし、自転車とは言語が違うらしく意思疎通ができない。人間とは(基本的に)話ができない。この車の会話が、本書の魅力の1つになっている。

 物語は、デミオの持ち主である、望月家が巻き込まれた騒動を描く。母の郁子、長男の良夫(20歳)、長女のまどか(17歳)、末っ子の次男の亨(10歳)。亨は小学生ながら、家族で一番大人びていて、良夫などよりよほどしっかりしている。言い換えれば「可愛げがない」。この「可愛げのなさっぷり」も、魅力の1つ。

 発端は、良夫が運転するデミオに、かつての人気女優、荒木翠が突然乗り込んできたことだ。「逃げているの。助けてくれないかな」と言いながら。スリリングな幕開けだ。しかも、その数時間後に荒木翠が事故で亡くなってしまう。

 この荒木翠の事故を軸に、まどかの彼氏が関わった悪党の悪事や、亨の同級生のいじめや、銀行ATMの強盗事件などのエピソードを絡める。さらに、それぞれのエピソードに関連があり、細かい伏線があり、なかなかに複雑な練り込まれた物語になっている。この「練り込み」も魅力。

 実は、私は新聞連載時にも読んでいるので、ストーリーは分かっていた。そのためか、一読した時には、そんなに面白いとは思わなかった。ただ、読み返したり伏線を追ったりしている内に、面白くなってきた。

 ※ブルーバードの伏線が一番よかった。作品間リンクあります。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
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七つの会議

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著 者:池井戸潤
出版社:日本経済新聞社
出版日:2012年11月1日 第1刷 11月26日 第3刷
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の作品を読むのは、直木賞受賞作の「下町ロケット」、「ルーズヴェルト・ゲーム」に続いて3冊目。前の2冊と同じく、中小中堅企業の製造業を舞台とした「経済小説」。ただし前2冊が、小さいながらも技術力をもった企業が、逆境の中を困難を乗り越えていく、「上向きのスパイラル」を描くのに対して、本書は秘匿された真実と結末に向かって、キリキリとネジを締め付けるような「下向きのスパイラル」を描く。

 舞台は、売上高1千億円の製造業、東京建電。大手総合電機メーカーのソニックの子会社で、折りたたみ椅子から、白モノ家電、住宅設備、半導体と、幅広い製品ラインアップを持つ。特定の主人公はなく、営業課の事務職から副社長まで、様々な役職の社員が章ごとに主役となって、物語を推し進めて行く。

 物語の発端は「パワハラ」。営業課の万年係長が、上司で営業のエースと目される営業課長を、社内のパワハラ委員会に訴えたのだ。実はこの会社は「営業ノルマが最優先」という体質で、上司が部下を激しく叱責する姿は日常茶飯事。この訴えも、テキトーに処理されて落着、と思われていたのだけれど、予想以上に重い処分が下された。

 このウラには、重大な秘密が隠されていた。というわけで、物語はこの秘密の周辺で起きる人間ドラマを描きながら、徐々に核心に迫っていく。まぁこの人間ドラマの殆どが、男性社員たちの確執や嫉妬を原因としたもので、彼らは揃って家庭でもギクシャクしている。その卑小さが少々類型的すぎて呆れてしまう。「またひとつ女の方が偉く思えてきた」と、古い歌の歌詞も浮かんできた。

 「下向きのスパイラル」で確執や嫉妬のドラマでは、ちょっと滅入ってしまいそうだが、それはあまり心配ない。スジを通す人もちゃんといるし、読後感は以前に読んだ2冊に劣らずスッキリとしている。心配があるとすれば、「自分だったらどうするだろうか?」と考えてしまった場合だ。不正を追及された登場人物が「この会社を守り、オレたちの生活を守るためだ」と言う。これを完全に否定する自信は、今の私にはない。 

(2013.5.15 追記)
NHKでテレビドラマ化されるそうです。東山紀之さん主演、7月13日スタート。
Yahoo!ニュース「東山紀之、NHK連ドラ主演 中間管理職のサラリーマン役

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学生時代にやらなくてもいい20のこと

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著 者:朝井リョウ
出版社:文藝春秋
出版日:2012年6月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「桐島、部活やめるってよ」でデビューし、「何者」で昨年度の下半期の直木賞を、戦後史上最年少で受賞した著者のエッセイ集。著者の早稲田大学在学中の体験を中心につづった20編を収録。面白い。ただし、どれもこれも他の人には、同じことをやってみれば?と、おススメできない。だから「学生時代にやらなくてもいい~」

 20編のエッセイ全部に、面白さとバカバカしさが満ちている。大学生時代の4年間に、よくもこれだけの面白いことに遭遇したものだと思う。その理由は読んでいれば分かる。正確には、面白いことに「遭遇」したのではなく、著者自身が面白いことに「なってしまっている」。自分から呼び込んだ「面白さとバカバカしさ」なのだ。

 それは著者(とその仲間)が「後先を考えずに行動する」からだ。「東京から京都まで、自転車で行こうよ」と友達に誘われ、「もちろんさ」と答える著者(ちなみに著者に長距離サイクリングの経験はない)。フェリーで8時間かかる島の花火大会に、「行くに決まってますが何か」と即答する仲間たち。無計画無鉄砲だから、こんな面白いことになる。さらに、面白いことが(壮絶な苦労と共に)向こうからもやってくるのだ。

 「今の大学生もなかなか元気じゃないか」という、おじさん目線のコメントは、あまりに陳腐すぎるかもしれない。著者と仲間たちをして「今の大学生」を語るわけにはいかない。でも、こういう学生さんたちが今も昔も変わらずいる、ということが、私の心を明るくした。早稲田大学、侮れませんね(そもそも侮れないって)

 最後に。本書は、電車の中などの公共の場では読まない方がいい。笑いを堪えられないと思うからだ。私は、家で読んでいたのだけれど、一度などは息ができないほど笑ってしまった。

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長野県謎解き散歩

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編  者:小松芳郎
出版社:新人物往来社(吸収合併によって中経出版に)
出版日:2013年2月14日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 新人物文庫の県別「謎解き散歩」シリーズの長野県版。長野県の「謎」というか特徴を「自然・地理」「産業・交通・特産物」「考古・遺跡」「歴史」「民俗」「人物」という観点から、全部で約90項目を紹介する。
 「秘密のケンミンSHOW」などで、長野県民全員が歌える、と紹介された県歌「信濃の国」には一章を割いている。「県民全員が歌える県歌」これなどは他県の人から見れば、確かに「謎」だろう。

 また「信州大学」が、県内唯一の国立大学でありながら、県名を冠していないのはなぜか?長野県が「長寿県」となった理由は?といった辺りは、同じく「謎」と言えるし、他県の人にも興味を持ってもらえそうだ。ただし、その他の多くの項目は、長野県民向きだと思う。地名や風土にある程度明るくないと、「知らない場所の知らなかった話」では、頭に残らないだろう。

 項目タイトルに「なぜ」などの疑問形になったものが多いのだけれど、内容にその答えがないものが散見される。「謎解き散歩」というシリーズ名に引きずられたのかもしれないし、週刊誌のように読者の注意を引こうと思ったのかもしれない。まぁご愛嬌だと思って欲しい。「なぜ」には答えていないけれど、書いてあることは興味深いことばかりだ。

 出版社のサイトを見ると、今年の5月で全都道府県版48冊(東京都は2冊)が揃ったようだ。上にも書いたように、基本的にはその県民向けの書籍だと思うので、それぞれの出身なり、住んでいる県のものを(長野県の人は、もちろん本書を)読んではどうだろう?きっと発見があり、愛着も湧くかもしれない。

 最後に。長野県の県民性として「成功した人に対して足を引っ張ることが多い、協調性に乏しい、組織になじみにくい、団結力が弱い、気位は高い、根回しが下手、物事をはっきりさせたがる、などだ」と書かれている。
 長野県民としては、嘆息するばかりだ。もちろん、県民全員が「信濃の国」を歌える、という「全員」には、いささか誇張があるのと同じく、ここにも誇張はある。しかし、大きく外してはいない、と思う。残念ながら。

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ぼくは勉強ができない

著 者:山田詠美
出版社:新潮社
出版日:1993年3月25日 発行 1996年4月5日 23刷
評 価:☆☆☆(説明)

本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の4月の指定図書。

1991年から92年にかけて文芸誌に掲載された連作短編を9編収録。
主人公は時田秀美、高校生男子。週末には男と出かけてしまう美人の母親と、散歩の途中で出会うおばあちゃんにしょっ中恋をしている祖父と、3人で暮らしている。母親は「他の子供と同じような価値観を植えつけたくない」と考えて、秀美を育てた。そのためなのだろう、秀美は学校では先生との折り合いが悪く、度々衝突する。

衝突するのは先生だけではなく、成績が学年1位の同級生や、ぶりっこ(って今も言うのだろうか?)の美少女とも衝突する。先生や優等生は、「こうあるべき」という固定的な価値観を押し付けてくるからだ。頭がよく「自分で考える」ことができる秀美は、その価値観の欺瞞や隙を察知してしまう。ぶりっこの美少女については、そのキレイな顔の下にある打算が見えてしまう。それを見逃してやることができない。

こう書くと、あちこちでぶつかる痛々しい物語を想像するかもしれないが、そういったことはあまりない。徹底した秀美目線の描写によって、理不尽な押し付けを見事にバッサリと切ってはねのける。カッコいい。読んでいて爽快感さえ感じる。しかも、先に「あまりない」と書いたが、切った刃先で自分も傷つく痛々しさが少しはあって、それが秀美のカッコよさをさらに際立たせている。

著者は「あとがき」で、「この本を大人の方に読んでいただきたい」と書いている。「時代のまっただなかにいる者に、その時代を読み取ることは難しい」とも。だからこの物語を、大人が読むとどのように感じるのかを知りたいそうだ。

分からないことを分からない、おかしいことをおかしい、と言う、「自分」を貫く秀美はカッコいい。様々な理不尽を我慢している高校生の共感を呼んだことだろう。私はノホホンとした高校生だったけれど、あの頃に読んだとしたら、共感したと思う。(今の高校生も共感を感じるかどうかは不明だけれど)。

でも、今は違う。もっと広い範囲に目が届いてしまう。例えば、成績が1番の脇山くんが、可哀想に思える。勉強を頑張ってクラス委員長を買って出る彼に、あんなひどいことをしてはいけない。
大人や世間が押し付ける「価値観」に、秀美は反発するが、秀美だって自分の「価値観」で他人を裁いてしまう。やってることは大して変わらない。考えてみれば、「自分の「価値観」で他人を裁く」のと、「自分を貫く」とは、同じ事の裏と表で、どちらから見るかで評価が変わってしまう。

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うさぎパン

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著 者:瀧羽麻子
出版社:メディアファクトリー
出版日:2007年8月6日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「左京区七夕通東入ル」「左京区恋月橋渡ル」の著者のデビュー作。2007年「第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞」受賞作。

 母娘の間の関係には、いろいろなパターンがあっておもしろい。本書の主人公の女子高校生の優子と、その母親のミドリさん(優子は母のことを「ミドリさん」と呼ぶ)はとても仲がいい。ただ、ミドリさんと優子の間に、血のつながりはない。優子の実の母は優子が3歳の時に病死してしまった。

 物語は、優子の高校生活を軸に、様々な場面を切り取って描いていく。クラスメイトの早紀と富田くん、富田くんのお父さん、大学で物理学を学ぶ家庭教師の美和ちゃん、美和ちゃんの彼氏。優子が高校生になって出会った人たちとの会話によって、優子の想いが掘り起こされていく。

 パンがおいしそうだ。富田くんとは「パンが好き」という共通点で惹かれあっている。二人でパンツアーに出かけたりしている。タイトルの「うさぎパン」は、優子の心の中にあったパン。「動物パンと言えば断然うさぎに決まっている」と思うのだけれど、どこで売っているのか思い出せない。

 この「うさぎパン」の記憶の秘密や、ミドリさんとの関係、亡くなった実の母のことなど、物語にいろいろな仕掛けがあって面白い。文学賞への応募作でもあるし、ストーリーを練ったのだろう。女子高校生の屈託も伝わってもきて、おじさんには微笑ましい。

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子猫と権力と××× あなたの弱点を発表します

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著 者:五百田達成、堀田秀吾
出版社:クロスメディア・パブリッシング
出版日:2013年3月11日 初版発行
評 価:☆☆(説明)

 出版社のクロスメディア・パブリッシングさまから献本いただいました。感謝。

 私たちはいろいろなものに弱い。「限定」商品に弱い、「おいしい儲け話」にも弱い、「ランキング」にも弱い、男の人はたいてい「美人」に弱い...。本書はそうした「弱さ」を「なんだかよくわからないけれど、心が動かされてしまうこと」と定義して、その「弱さ」を克服するために、その仕組みを知り、それと向き合うための処方箋を書こうとしたものだ。

 着眼点はとてもいい。この背景には「情報の氾濫」がある。私たちは日々たくさんの情報を受け取り、知りたい情報はネットで検索すれば大抵わかる。時には「正解」をネットで探すことさえある。つまり判断まで情報に委ねてしまっている。これも「弱さ」の一つで、その心理をよく理解することは、判断を自分に取り戻すために必要なことだと思うからだ。

 告白すると、私は読んだ本の感想をブログに書いているが、他の人の感想が気になる。多くの人が感じたこととかけ離れていると、「不正解」のような気がする。そして、見てしまうと今感じていることが、本当に自分の感想なのかどうか、自分でも分からなくなってしまう。だから私は、感想を書く前には、ネットで書評や感想の記事を見ないことにした。

 このように着眼点はいいし、自分にも思い当たることがある。ただし内容はあまり役に立つとは言えなかった。「弱さ」は全部で44あり、心理学の知見を交えたりしながら、その仕組みはそれなりに説明されている。しかし、その克服のための処方箋が、お世辞にも「向き合っている」とは言い難い。端的に言えば役に立ちそうにない。

 例えば「評判の店に弱い」では、評判によってお店を決めがちな人は→たまには、自分の舌と直感に相談してみる。「黄門さま(つまり肩書き)に弱い」では、「肩書き」=「人徳」になりがちな人は→「役割」と「人柄」は別物だと考える。という具合で「○○してしまう人は→○○しないようにする」と言っているだけか、そうでなければ少し捻って(ユーモアはあるのだけれど)かわした答えが多い。

 そういった具合なので☆は2つ。ただし、元々すぐに効く特効薬などないのだ。この本に処方箋という「正解」を期待するのは、ネットに「正解」を探すのに似ている。「仕組み」が分かったら、あとは自分で考えろ、ということなのかもしれない。

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ワーク・シフト 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>

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著 者:リンダ・グラットン
出版社:プレジデント社
出版日:2012年8月5日 第1刷発行 10月7日 第7刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者は、ロンドン・ビジネススクールの教授。英タイムズ紙による2011年の「世界のトップビジネス思想家15人」のひとりに選ばれた。その著書はこれまで20ヶ国語以上に翻訳されてきたが、日本語の訳書の刊行は本書が初めて。これが10万部のベストセラーになっている。

 本書はまず「2025年の働き方」を展望する。その時、私たちはどのような仕事観を持っているのか?どのような希望を抱いているのか?何に不安を感じているのか?そうしたことを「2025年のある1日」として、6つの物語に仕立てている。3つは悲観的なストーリー、3つはもう少し明るいストーリーだ。

 この6つの物語は、著者ひとりの想像の産物ではなく、「働き方の未来コンソーシアム」という、世界中から多数の企業が参加した産学協同の研究プロジェクトの成果を基にしている。そこでは未来を形づくる5つの要因として「テクノロジー」「グローバル化」「人口構成・長寿化」「社会の変化」「エネルギー・環境問題」が挙げられ、それをさらに32の現象に細分化して検討するという緻密な作業が行われている。

 ここまででも読み応えがあるのだけれど、本書のキモはこれからで、それは「悲観的なストーリー」と「もう少し明るいストーリー」が別れるのはいつで、それを決定するのは何か?に関する著者の考察だ。「いつか?」の答えは本書の1ページ目の第1行に簡潔に書いてある。「働き方の未来は今日始まる」。現在流行中の「今でしょ。」というわけだ。

 「何か?」の答えは、「仕事」に関する考え方の転換(SHIFT)だ。本書のタイトルの「ワーク・シフト」はそれを指している。その「転換」は3つあって、簡潔にいうと「広く浅く」から「複数を深く」へ、「競争」から「協力」へ、「モノ」から「経験」へ。これを私たちが、主体的に選択した場合に「もう少し明るいストーリー」になる。この「主体的に選択する」ことが、本書の主張のキーポイントになっている。

 さて、2025年と言えばあと12年、私は62歳になっている。考え方によっては、職業人生としてはゴールかゴール間近で、もう悩むこともないのかもしれない。しかし、12年と言えば長い。このまま漫然と、では済まないことは明らかだ。
 また、2025年には社会の中心的役割を担う20~30代の人や、ちょっと荷が勝つかもしれないけれど、一番影響を受けそうな10代後半ぐらいの人も読んでおいて欲しい。

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