1.ファンタジー

香君(上)西から来た少女 (下)遥かな道

書影
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著 者:上橋菜穂子
出版社:文藝春秋
出版日:2022年3月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 この物語が示唆する危うさは、私たちの危うさそのものだと思った本。

 主人公はアイシャ。物語の始まりでは15歳の少女だった。彼女には特別な能力がある。他の人には感じられない香りを感じることができる。例えば、無味無臭(と他の人は思っている)の毒薬の匂い、その毒薬をつまみ入れた人の指の匂いまで。さらには、植物が虫に食われて発する匂いも、悲鳴のようにはっきりと感じる。

 舞台は、ウマール帝国という架空の国。帝国の本国の他に、新たに征服した4つの藩王国を従えている強大な国だ。ウマール帝国の建国の歴史には
「香りで万象を知る」という女性が関わっている。そう、アイシャのように他の人には感じられない香りを感じる女性。「香君」と呼ばれる活神で、何度も生まれ変わりを繰り返して今も存在している。

 物語は、理解者に守られて成長するアイシャを描く。今の「香君」とも出会って親密な感情を抱き、しばらくは平和な暮らしを送る。しかし、帝国の主要な穀物である「オアレ稲」の虫害が広がって、その対処のために奔走したり、帝国と藩王国の間の政治的な駆け引きに巻き込まれたり、その平和は長くは続かず、身の危険さえ感じることになる。

 上橋菜穂子さんの真骨頂と言える物語だった。アイシャという一人の少女の物語を通して本当に描かれているのは、人の世界の危うさと難しさだ。

 たった一つのものに頼り切ること、その危うさ。全体を救うために部分に犠牲を強いること、その難しさ。最悪の事態を想定して、最大限の手を打つこと、その難しさと大切さ。人知を超えたものに立ち向かう、挫けない気持ちと勇気。陳腐に聞こえるかもしれないけれど、そういうことを真正面から感じることができた。

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童子の輪舞曲 僕僕先生

書影

著 者:仁木英之
出版社:新潮社
出版日:2013年4月20日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 直球の慣れ親しんだ世界観に浸っていたら、最後に変化球を投げられて面食らった本。

 「僕僕先生」シリーズの第7弾。シリーズで初めての外伝で、6編を収めた短編集。

 6編をそれぞれ簡単に。「避雨雙六」は、師弟の雨宿り中の双六遊び。思い浮かべた願いに合わせてあがりまでのマス目が変わる。僕僕先生のマス目は50ぐらいなのに、主人公王弁のはすさまじい数だった。「雷のお届けもの」は、人間の見ながら雷の国に住んで修行する少年の話。ある日雷王が持つ宝貝を龍王に届ける役目を、雷王自身から命じられる。

 「競漕曲」は、僕僕先生の一行が不思議な結界によって、港町から出られなくなった話。これといった特技のない呑気な王弁と、凄腕の殺し屋の劉欽が協力して脱出を図ることに。「第狸奴の殖」は、一行に同道する猫に似た動物の第狸奴の「さかり」の話。異界の生き物にも繁殖期がある。王弁が第狸奴の相手を探すことになった。

 「鏡の欠片」は、長安の仙人に使える二人の童子の活躍。ご主人さまの仙人が半分だけの妖しげな鏡の中に吸い込まれてしまう。助けるために向かった先に鏡のもう半分があって..。「福毛」は、シリーズ中の異色作。舞台は現代の日本で、主人公も日本人の高橋康介。性格は筋金入りの怠惰。ということはもしかして..。

 いろいろな登場人物の個性が垣間見られてよかった。いやこれまでも主人公以外の人物のことも丁寧に描かれていたけれど、少し角度を変えて焦点を当てた感じで意外な面も明らかになった。著者の「あとがき」によると「お話の種が積みあがって」いるそうだから、また外伝が出るかもしれない。

 「福毛」には驚いた。この話はまだ膨らむのかな?

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追憶の烏

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著 者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2021年8月25日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 シリーズの馴染みの登場人物が退場して、新しいキャラクターが登場、先が楽しみになった本。

 累計170万部の「八咫烏」シリーズの第二部の2巻目。1巻目は「楽園の烏」で、第一部の終わりから20年が経っていた。本書はその20年間の空白を埋める物語だった。

 主人公は雪哉。皇帝が皇太子の頃からの側近の武官。20年後を描いた前巻で彼は、博陸候雪斎と名乗ってこの八咫烏の世界である「山内」を取り仕切っている。如何にしてそのような存在に...というお話。

 物語は幸せそうな空気をまとって始まる。皇帝の一人娘の姫宮に雪哉はたいそう慕われている。雪哉もそれに応えて、公式行事での初めての大役を務める姫宮の側に付き従ったり、地方の花祭りに出掛けた際には、人知れぬ桜スポットにお忍びで連れ出したりもする。

 しかししかし。第一章を幸せそうに終えた第二章で物語は急降下する。重要人物を見舞った不測の事態。後に明らかになった仔細は壮絶なものだった。これによって波乱の舞台が幕開け、物語は二転三転と大きく振幅を繰り返して、雪哉と姫宮もそれに翻弄される。

 期待どおりに裏切られた。このシリーズの第一部は新しい巻が出るたびに、それまでとは趣向の違う物語になっていたりして、毎回「そう来たか!」と感じることがあった。本書での「重要人物の不測の事態」は予想外で(よくよく思い出せば前巻にヒントはあったのだけれど)、「え!?」と思った。

 そんなわけで次の巻が何を描くのか予想は難しいけれど、本書の終章には予告編めいたエピソードが描かれている。まだまだ楽しませてもらえそうだ。

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100万回生きたきみ

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著 者:七月隆文
出版社:KADOKAWA
出版日:2021年8月25日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 人生を何度もやり直すのも大変だ、と思った本。

 著者は「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」で、設定がなかなかトリッキーなのに、しっかり切ない恋愛小説を紡いだ人。本書も設定はなかなかトリッキーだ。

 主人公は、安土美桜という17歳の高校生。転生を繰り返して100万回生きている。いろんな時代のいろんな国で生きてきた。今は「日本に住む17歳の高校生の安土美桜」ということ。清楚系の美少女で次々に告られるのだけど、なんせ100万回も生きているからか、何事も「どうでもいい」と思っている。

 物語はこのように澪の視点で始まる。しかし、100万回生きたのはホントは三善光太という同級生で、美桜は光太の記憶を勘違いで覚えているらしい。ひどいネタバレのようで恐縮だけれど、これは第1章の終わり、物語が始まってから50ページ足らずで明かされるのでご容赦いただきたい。それでもってここからは光太が主人公となる。

 光太の物語は、2500年前のケルトから始まる。光太はそのころはタラニスと言う名の神と王の血を引く英雄だった。そこで吟遊詩人のミアンと出会い、共に竜退治の旅に出る...このミアンこそが美桜。

 いきなりの異世界ファンタジーが始まって、フワッと宙に浮いたような足元の心もとなさを感じたけれど、物語が進んでいくに従って地面に足が着いてくる。意外性のある展開も用意されていて、まぁまぁ楽しめた。ただし、帯には読後に「涙が止まらない」と書いてあったけれど、そんなふうにはならなかった。

 タイトルは「100万回生きたねこ」を意識したものにちがいない。「100万回転生を繰り返すのに何年かかるのか?と問うのはヤボというものだ。

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烏百花 白百合の章

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著 者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2021年4月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「あの人の過去にはこんなことが!」という驚きを感じた本。

 八咫烏シリーズの外伝。3年前に刊行された「烏百花 蛍の章」に続く短編集。30~40ページほどの短編8編を収録。

 「かれのおとない」は、北領の村の娘みよしが主人公。武人の養成所である勁草院にいる兄とその友人の雪哉との交流。「ふゆのことら」は、北領の郷長家の三男の市柳が主人公。仲間と徒党を組んで遊びまわっていた市柳の前に隣の郷長家の雪哉が現れる。「ちはやのたんまり」の主人公は、西領を治める西家の御曹司の明留。友人の千早の妹の縁談のために奔走する。

 「あきのあやぎぬ」は、西家に迎え入れられた環が主人公。ゆくゆくは次期当主の側室にということだけれど、その顕彦には17人の側室がいた。「おにびさく」は、西領に住む鬼火灯籠職人の登喜司が主人公。師匠である養父は突出した技量をもつ西家のお抱えであったが、登喜司は遠く及ばない。「なつのゆうばえ」の主人公は、南家の姫の夕蝉。才気あふれる姫に育っていたが、父と母が相次いで亡くなってしまう。

 「はるのとこやみ」は、東領に住む竜笛の楽士である伶が主人公。技量は十分ながら師匠には「お前の音は、どうにも濁っている」と言われる。伶と弟の倫の前に長琴の名手である姫、浮雲が現れる。「きんかんをにる」の主人公は、金烏陛下である奈月彦。愛らしく育った6歳の愛娘との微笑ましい時間の裏で不穏な出来事も。

 このシリーズの舞台は、八咫烏が人間の姿になって暮らしている世界。東西南北の4領に分かれていて、それぞれ大貴族が治めている。東領は楽人を輩出、西領は職人を多く抱え、南領は商売で栄え、北領は武人の国。改めて収録作品を見ると、それぞれの領地の特徴がよく分かる物語がバランスよく配置されている。

 登場人物は本編の主要メンバーも多いけれど、脇役や本編では全く登場しない人もいる。私としては脇役に焦点を当てた物語がとても楽めた。特に「大紫の御前」の物語は意表を突かれた。本編を読んでいる人におススメ。

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京都府警あやかし課の事件簿3 清水寺と弁慶の亡霊

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著 者:天花寺さやか
出版社:PHP研究所
出版日:2020年1月14日 第1版第1刷 2020年12月23日 第3刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 あやかしよりも人間の方に悪いヤツが多いじゃん、と思った本。

 「人ならぬ者たち」が起こす事件に対応する「京都府警あやかし課」の活躍を描く第3弾。そこの新人隊員の古賀大(まさる)が主人公。京都御苑の鬼門に祀られる神猿に授けられた「魔除けの力」を持っている。

 今回登場する「人ならぬ者たち(あやかし)」は、絶滅に瀕した魚とか、お地蔵さんとか、..平和な感じでとても事件を起こしそうにない。そう、彼らは被害者、事件に巻き込まれた側だ。最終話では弁慶と刀に封印された僧兵が登場する。こちらはなかなか迫力がありそうだ。大が「今更ながら、京都って何でもありの町やなって思いました」とのたまうのだけれど、まさにそんな感じ。

 面白かった。基本的には「あやかし」絡みの事件を大たちあやかし課の面々が、神仏の力も借りながら解決する。その際に大たちの特殊能力を使う「大立ち回り」があったりなかったりするけれど、同じようなパターンの繰り返しになるのは否めない。そこを日本と外国の神仏観の違いをチラっと見せたりすることで、変化が付いている。この変化がとてもいい。料理の香辛料のように効いている。

 今回は、あやかしよりも人間の方がずっと怖い。前作「京都府警あやかし課の事件簿2 祇園祭の奇跡」で登場してあやかし課に捕らえられた「強力な敵」っぽい人物がいるのだけれど、今回もストーリーに絡んできたので、おそらくシリーズを通しての敵となるのだろう。大の恋心の行方とともに、どうなるのか楽しみだ。

 どうやら私は「大立ち回り」が好きらしい。

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すえずえ

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著 者:畠中恵
出版社:新潮社
出版日:2016年12月1日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 そうか、一太郎のお嫁さんはあの子なのか、という本。

 「しゃばけ」シリーズの第13作。「栄吉の来年」「寛朝の明日」「おたえの、とこしえ」「仁吉と佐助の千年」「妖達の来月」の5編を収録した連作短編集。文庫版には著者と漫画家のみもりさんの対談が巻末に付いている。

 江戸の大店の跡取り息子で極端に病弱な一太郎が主人公。一太郎の周りには数多くの人ならぬ者、妖たちが居ついている。その妖たちが起こしたり解決したりする騒動を描く。シリーズを通してこの設定は同じなのだけれど、巻を追うごとに一太郎は確実に成長していて、今回はなんと一太郎の縁談がまとまる。

 「栄吉の来年」は、一太郎に先駆けて一太郎の友人の栄吉の縁談話。「寛朝の明日」は、上野の広徳寺の名僧である寛朝の危機。「おたえの、とこしえ」は、一太郎の母親のおたえの面目躍如。「仁吉と佐助の千年」は、一太郎の縁談に端を発した、一太郎の守役の仁吉と佐助の決断。「妖達の来月」は、少し哀しい現実を垣間見せながら新しい展開への期待。

 「一太郎の縁談」はもちろん一大トピックス。それに普段はほとんど出番のない、お母さんのおたえがフィーチャーされているのも珍しい。私はおたえさんのことが密かに気になっていて、もっと登場させて欲しいと思っている。私としてはシリーズの中でも特別な1冊だ。

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神々と戦士たち5 最後の戦い

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著 者:ミシェル・ペイヴァー 訳:中谷友紀子
出版社:あすなろ書房
出版日:2018年2月28日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

5巻にわたる物語を読み終えて「あぁ面白かった」と感じた本。

神々と戦士たち1 青銅の短剣」からはじまるシリーズの5巻目にして完結編。舞台は、前卷の古代エジプトから古代ギリシアのアカイアに、それも物語が始まった場所のリュコニアに戻ってくる。

主人公のヒュラスは、リュコニアの山のヤギ飼いで金髪の「よそ者」と呼ばれていた。「よそ者が剣をふるうとき、コロノス一族はほろびるだろう」というお告げのために、コロノス一族に襲われ、妹のイシともはぐれた。物語はこれまで、コロノス一族とヒュラス、ヒュラスと行動を共にするピラの追いつ追われつを描いて来た。それは本書も引き続く。

「よそ者がふるう剣」とは、コロノス一族の宝である短剣。前卷でヒュラスは、一度はコロノス一族の手を離れたその短剣を、ピラの命を救うためにコロノス一族のテラモンに渡してしまった。そのために、コロノス一族の勢力は隆盛を極め、アカイア全土を制圧するに至ってしまった。

これまでの物語で提示された関心は、この短剣をいかにコロノス一族から奪って処分するのか、それによるアカイヤの解放、妹のイシとの再会、ヒュラスとピラの関係、といったところに絞られている。

そして本書は「完結編」であるから、それらのことに決着が付く。見事な決着だった、と言っておこう。かつては親友であったヒュラスとテラモンの関係(立場が分かれた後も、相手を手助け場面はあった)、が気になっていたのだけれど、「あぁこうしたんだ」とその結末に得心した。

完結編としての本書も、シリーズ全体もとても楽しめた。実は、指輪物語を思い出させるシーンもあった「この物語も映像化したら面白いだろうな」と思った。

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京都府警あやかし課の事件簿2 祇園祭の奇跡

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著 者:天花寺さやか
出版社:PHP研究所
出版日:2019年5月22日 第1版第1刷 2020年3月11日 第5刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 祇園祭の宵山は物語の舞台にうってつけだなぁ、と改めて思った本。

 「京都府警あやかし課」の活躍を描く第2弾。「あやかし課」というのは警察の一組織で、鬼とか化け猫とかの「人ならぬ者たち」が起こす事件の処理をしている。主人公は、そこの新人隊員の古賀大(まさる)。20代の小柄な女性。大は、京都御苑の鬼門に祀られる神猿に授けられた「魔除けの力」を持っている。

 今回は4つの事件が起きる。化け猫が平安時代から千年を生きて、探しも求めてきた「鬼笛」を巡るもの。失恋の痛手から自殺未遂を起こした女性、憤怒のあまり真っ黒な生霊となってしまう話。祇園祭の宵山での迷子。その夜に妊婦さんが産気づいた件。

 「事件」と言うと物騒な出来事を想像しがちだし、大は剣士の「まさる」に変身して太刀を振ったり、先輩の塔太郎は竜に変身して戦ったりするのだけれど、そうした大立ち回りは今回は「鬼笛」の一件だけ。これはとても迫力があった「強力な敵の出現」といった感じ。

 失恋から生霊となってしまった話は、それはそれで怖かったけれど、どちらかというとこれも人情噺。宵山の「迷子」の話はユーモアがあるし、妊婦さんの話は感動した。読んでいて涙がにじんだ。

 こういう物語が好きだ。塔太郎のことで、今後の展開につながりそうなことも明かされていて、この後も楽しみだ。

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ダークエルフ物語1 故郷、メンゾベランザン

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著 者:R.A.サルバトーレ 監修:安田均 訳:笠井道子
出版社:アスキー
出版日:2003年1月1日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 久しぶりの海外ファンタジー。とても評価の高い作品。読んでいてワクワクした本。

 4年ほど前に「ダークエルフ物語 ドロウの遺産」という本を読んで、ファンタジーの王道といった感じで面白かった。ただ、その本は第3シリーズの1冊目だった。本書は時系列で並べた場合のシリーズ1巻目。

 主人公はドリッズト・ドゥアーデンという名のダークエルフ。ダークエルフというのは、およそ5千年前に地上を追われて、地下の暗黒世界に棲むエルフ族。その暗黒世界の街メンゾベランザンでは、陰謀や裏切りが(成功さえすれば)賞賛される。家系による序列が存在し、それ故に家系間の争いが絶えない。

 ドリッズトは、第10番目の家系でドゥアーデン家が、第4番目のデヴィーア家を滅亡させた日に、ドゥアーデン家の第三皇子として生まれた。その日、ドゥアーデン家は第9番目の家系となり、ドリッズトは第二皇子になった。デヴィーア家との戦いのさなかに、第二皇子が第一皇子を殺したからだ。陰謀や裏切りが賞賛されるのは、家族の間でも例外ではないのだ。

 物語は、ドリッズトが生まれ、父でもある剣匠ザクネイフィンに、剣士としての手ほどきを受け、学園生活を経て一人前の戦士となる過程を描く。実は、ドリッズトはメンゾベランザンの価値観に染まらず、善なる心のままに育つ。それ故に、家族ともザクネイフィンとも衝突し、この街での生きずらさを抱えている。

 シリーズ1巻目、ということで、まだ物語の幕が開いたばかりだ。それでも魔法あり、剣技あり、魔獣の召喚あり、種族あり、ダンジョンあり..。シリーズ1巻目からファンタジーの王道だった。4年前に読んだ本の「ダークエルフってなんなの?」「ドリッズトはなんでこんな立場なの?」が、完全に解消した。これから1巻ずつ読んでいこうと思う。

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