14.ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

牢の中の貴婦人

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:原島文世
出版社:東京創元社
出版日:2008年11月14日初版
評 価:☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 ☆2つはカライかもしれない。でも3つはあげられない。書けるのなら☆2.5コにしていた。
 この物語は、1960年代半ばには書きあげられていたというから、デビュー前に書いたという「海駆ける騎士の伝説」より前、現在発表されている著者の作品の中で、もっとも古いものらしい。ジョーンズ作品はハズレはないと思うものの、作品によっては多少クセがあり、読者を戸惑わせる。本書はその部類かも。

 異世界の牢獄にいきなり放り込まれた、現代英国の女性エミリーが主人公で、物語は彼女が獄中で書いた手記の形で綴られる。だから、舞台は彼女が居る牢獄とそこから見える範囲だけ。登場人物もセリフがある人に限れば数人しかいない。
 まぁ、牢獄といっても、彼女は貴婦人として扱われているので、家具もテラスもある立派な部屋ではあるが、それにしたって、たったこれだけの舞台装置で200ページを越えるストーリーはツライ。強いて言えば、力試しに敢えて制限を課して書いた実験小説のようだ。

 ストーリーは、どうしてここに閉じ込められているのかさえ分からないエミリーが、牢番から引き出した話から、徐々に状況を解明していく物語。テラスから見える他の囚われ人との手紙のやり取りや、心の交流などが織り交ぜられている。
 しかし、基本的には何も起こらない。いや、色々と起きてはいるのだが、それはすべて牢の外の出来事であって、牢の中では何も起きない。彼女は(つまり読者も)、牢番らから聞いてそれを知るのみだ。

 先に実験小説のようだ、と書いた。最初に読むジョーンズ作品としてはオススメできないが、ジョーンズが好きな人は読んでみてはいかがかと思う。「魔法!魔法!魔法!」に収められた短編と同じように、いつもとは色合いの違うジョーンズ作品という意味では楽しめるかも。

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魔法!魔法!魔法!

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:野口絵美
出版社:徳間書店
出版日:2007年12月31日初版
評 価:☆☆☆(説明)

 ジョーンズの短編集。10ページから50ページぐらいまでの短編18編が収められている。ジョーンズ短編は珍しい。国内ではもう1冊、クレストマンシーシリーズの外伝「魔法がいっぱい」が出ているくらいではないか?

 18編もあるので、正直に言って面白くないものや退屈なものもあった。楽しめたものをいくつか紹介する。
 まずは、一番最初の「ビー叔母さんとお出かけ」。ビー叔母さんは、車で送って欲しい時には「わざわざ車で送ってくれなくてもいいのよ」と言う(ジョーンズの他の作品にもこんなおばさんが登場する。モデルがいるのではないかと思う)。自分中心の行いが災いして、周り中に迷惑を撒き散らして、何故かロンドンからバハマに言ってしまう。そこから電話をかけていった一言とは...」
 そして、最後の「ちびネコ姫トゥーランドット」。トゥーランドットとは、オペラに登場する姫の名前にちなんで、ネコに付けた名前。白、黒、銀、茶、赤...と色んな色の斑点がある猫で「ドット(点)」という名前になりそうなところ、それではつまらないというので「トゥーラン「ドット」」。なんとダジャレだ。このトゥーランドットたち7匹のネコと魔物の対決のお話だ。

 収録された多くの作品に共通して登場するのは、とてつもなくイヤな人。自分勝手で傲慢、他人に指図ばかりしているような人(ビー叔母さんのように?)。そんな人が、自分の家にやってくる。一緒に暮らさないといけない..。そんな、状況でたくましく立ち向かう子どもたちの話がたくさん読める。

 それから「面白くない話もある」と上に書いたが、ちょっと見方を変えると、そういう作品でも興味深くもある。収録されている短編の中には、SFやホラー、民話っぽいものから自叙伝まで、普段のファンタジーとはかなり色合いが違った作品が結構な数ある。
 もし、ジョーンズがSFを書いたら?ホラーを書いたら?という想像は楽しいかもしれない。結果の良し悪しはどうであれ、本書ではそれを読むことができる。私は、SFっぽい作品に星新一さんのショーショートに通じるオチを発見して、大いに楽しんだ。

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海駆ける騎士の伝説

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:野口絵美
出版社:徳間書店
出版日:2006年12月31日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

  なんと、この作品はジョーンズの1970年のデビューを4年遡る1966年に書かれた作品。著者が30才のころ、3人の子育てに追われながら自分の楽しみのために書いた、6つの作品の6番目だという。つまりは素人作品ということ。それでこの面白さ、ワクワク感は驚きだ。

 舞台は100年以上前のビクトリア時代の英国。主人公は、16才のセシリアと12才のアレックスの姉弟。2人は海辺の丘に住んでいて、そこから浅瀬でつながる島には、幽霊が出るとか、行った人は帰って来ないとかいう噂がある、廃墟となった城がある。
 ある夜、その島から来たという中世の騎士のような出で立ちの男が、助けを求めて2人の家を訪れたことから、2人の冒険が始まる。島へ渡る秘密の道、隠された王国、そこで起きる陰謀。この作品がもっと早くに世に出ていたら、著者の代表作になったのではないかと思わせる完成度の高さだ。

 完成度の高さ、という点には少し補足が必要かと思う。本書は比較的短い作品だということもあって、ストーリーに複雑さが少ない。後の作品のような、入り組んだ展開や隠された意味のような仕掛けが少ない。
 複雑な伏線はジョーンズの持ち味とも言えるが、読み手の力量が足りないと、読み終わっても何だかスッキリしない、もう1回遡って読んで何とかやっと分かる、という事態に時々陥る。本書は、こういった心配がないので、これを私は敢えて「完成度が高い」とした。もちろん裏を返せば「平板でつまらない」とする向きもあるだろう。
 しかし「平板でつまらない」と思うかどうかは、読んでみないと分からない。(私はつまらないとは思わなかった。)だからジョーンズファンの人には、これを読まないという選択はないように思う。

 こういった現在の作品との比較のことは、「訳者あとがき」にも同様のことが書いてある。ついでに訳者の言葉を借りれば「ジョーンズ作品を読みなれていない読者にもおすすめ」である。ジョーンズが初めての人は「ハウル」や「クレストマンシー」シリーズの前に、本書を読んでみてはどうか?と思う。

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九年目の魔法(上)(下)

書影
書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:浅羽莢子
出版社:東京創元社
出版日:2004年11月10日初版
評 価:☆☆☆(説明)

 この本は、私には少し合わなかったようだ。読み終わった直後の感想はそうだった。ジョーンズ作品は十数冊読んできて、程度の差はあってもどれも楽しめたのに。途中打ち切りのためにあわてて最終回を迎えたテレビドラマのようだった。
 途中で起きた様々な出来事が、最後の一章で見事に収束したようになっている。しかし、私にはとっ散らかった話が、ほったらかしになっているように見える。あの事件は何のためだったの?この人は結局誰なの?何でこんなことになったの? 数多くの?が、頭の中で渦巻く。

 主人公は、19歳の大学生ポーリィ。自分の部屋の写真を見ていて、今自分が覚えているものとは、少しずつ違う別の記憶があることに気づく。10歳から数年間の記憶が二重になっているようだった。
 そして、10歳のハロウィーンの日に近くの屋敷で出会った男性トーマス・リンとの関係を中心に記憶を呼び覚ます。その後、周囲の協力を得て、自分とトーマスに何が起きたのかを突き止める。
 ポーリィのトーマスに対する感情が、少女の大人の男性に対する憧れから、もう少しハッキリした恋愛感情に移っていくあたりは、ラブストーリーとしても読ませる。上下巻2冊で合計500ページを超える大書にも関わらず、読み切るのに苦労させない筆運びはさすがだと思う。

 しかし、冒頭に書いた数多くの?には困ってしまった。登場人物たちの不可解な行動、普通では起こりえない不思議な出来事。裏に陰謀や魔法の存在を強く漂わせて最終章に至るが、謎は謎のまま?
 ネット上の感想を見ると、ジョーンズ作品の中でも本書が一番、という方が結構いらっしゃる。「本を読みなれた人じゃないと難しいかも」という意味のコメントもあって、ちょっとヘコんでしまった。
 巻末の解説によると、「詩人トーマス」と「タム・リン」という2つの民間伝承が理解のカギを握るらしい。どちらも妖精国の女王に囚われた男の話で、日本で言えば浦島太郎や桃太郎のように、英国では誰でも知っている物語なのだそうだ。この2つの話は、本文中に名前が出てくるし、各章の扉には引用もされている。しかし、訳詩のほんの短い引用なので、意味を理解することは難しい。

 そして、解説に書いてあるあらすじを頭に入れて、何カ所か再読してみると…あら不思議、話の要点がスルスルと頭に入ってくる。これは、誰でも知っているおとぎ話を現代に置き換えた、少女の成長の物語(ポーリィはヒーローになろうと修行していた)だった。これなら面白いし、好きだという人がいるのもうなずける。
 だから「詩人トーマス」と「タム・リン」のことを知ってから読めば、ずっと理解しやすい。反面、お話の先行きが予想できてしまうかもしれない。本書を読む前に頭に入れるか、読んだ後にするかは、読む人次第だが、どちらにしても2つの民間伝承のストーリーを仕入れることを強くオススメする。

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バウンダーズ この世で最も邪悪なゲーム

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:和泉裕子
出版社:PHP研究所
出版日:2004年11月24日1版1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「バウンダーズ」とは「故郷に向かう者」という意味。
 世界は無数に存在するのだけど、それら全部が実は、「あいつら」が遊んでいるシミュレーションゲームなんだ、という設定。そして、そのことを知ってしまったゲームの世界の住人(つまり私たちのような普通の人)は、「ランダム要素」と呼ばれて、他の世界へムリやり放り込まれて、自分の元いた世界へ戻る旅をしなくてはいけない「バウンダーズ」になる。主人公はそのバウンダーズの1人、イギリスで生まれた少年ジェイミー。

 これまた、パラレルワールドものなんだけれど、今度のは悪魔のような存在である「あいつら」が、慰みでやっているゲームのための世界なので、ひどい物もある。「戦争ばかりやっていて人類が死滅しそうな世界」とか、「人々に全くモラルがない世界」とか。(悪魔ではない私も、シムシティでわざわざ災害を起こしたことがある。そのぐらいの気軽さで、とんでもない世界を作ってプレイしているわけだ。)

 主人公たちは、「あいつら」の気まぐれで、色んな世界に放り込まれる。しかも、その世界でうまく生きていかなくてはならない。しかも、どんな悲惨な目にあっても死なないことになっている。ただただ辛い、痛い、苦しいだけ。

 途中までは、この世界の秘密が徐々に明らかになっていったり、他のバウンダーズたちとの出会いがあったりで面白い。そして、最後に世界の秘密がすべて明らかになり、主人公にも重要な役割があるのだけれど、ちょっと難解だ。
 私は一読しただけでは分らなかった。読み返してみてもすっきりしないところがあるんだけど。

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花の魔法、白のドラゴン

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:田中薫子
出版社:徳間書店
出版日:2004年8月31日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「バビロンまでは何マイル」の続編。続編といっても、登場人物の1人が同じで、時間的に連続して設定になっている以外はあまり関係はなく、本書だけ読んでも楽しめるようになっている。実際、日本では本書の方が先に出版されているし、約2年遅れて出版された「バビロン~」は、東京創元社という別の出版社から出ているので、日本の読者の多くは本書から手に取ることが多いだろう。

 「バビロン~」の登場人物の1人である、地球の少年ニックと、「ブレスト」という世界に住む少女ロディの2人が主人公。そう、本書も多元宇宙が舞台だ。
 ストーリーは、「ブレスト」の魔法使いたちの陰謀を、ロディとその友達のグランドが知ることから始まる。その陰謀を阻止しなければ、魔法のバランスが崩れ、世界が大混乱に陥ってしまう。
 しかし、子どもたちにできることはそう多くはなく、大人たちは揃って頼りにならない。ロディが「私を助けて」と、魔法で呼び出した少年は、鈍くて役に立ちそうもない。途方に暮れる二人…….。

 「魔法のバランス」という概念は、ジョーンズの小説に頻繁に出てくる。これを保たないと、多元宇宙全体が崩壊してしまう恐れもある。また、本書には、魔法はもちろん、「ドラゴン」や「冥界の王」「小さき民」など、ファンタジーではおなじみの要素がたくさん出てくる。「マーリン」もアーサー王のマーリンではないが登場する。
 ジョーンズ作品のファンはもちろん、ファンタジー好きなら間違いなく楽しめるだろう。

 ただ、ちょっと他のジョーンズ作品とは違った面もいくつか感じた。
 1つは「家族」について。本書でも「バビロン~」でも、家族というか肉親の間で善悪が分かれる。主役級の登場人物の肉親が、悪の首謀者であったりする。また、ロディの両方の祖父母や叔母、グランドの両親など、登場する大人たちの多くが離婚してしまっている。(ロディがこのことについて声を荒げるシーンもある。)ストーリー展開上、特に必要とは思えないのだけれど、何か意味はあるのだろうか?

 もう1つは「ロマノフ」という名の魔法使いについて。彼は、多元宇宙で最も力のある魔法使いと言われているが、どこにも属さない。住んでいる場所さえも、複数の宇宙の切れ端で作った島で、どこの宇宙でもない。何かのために(例えば、魔法のバランスを保つためとか)働いたりもしない。全くの自由人だ。
 トム・ボンバディルという人物が「指輪物語」に登場する。彼も何物にも侵されない力を持っているけれども、何物にも執着しない。共通点を感じる。ロマノフはずっと俗っぽいのだけれど。

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バビロンまでは何マイル(上)(下)

書影
書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:原島文世
出版社:東京創元社
出版日:2006年3月30日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 ダイアナ・ウィン・ジョーンズおなじみの、パラレルワールド、多元宇宙ものだ。マジド(魔法管理官)とよばれる魔法使いが、世界の均衡を保つために、宇宙の境界を越えて活動している。この辺りは、クレストマンシーシリーズの設定に近い。
 主人公はこのマジドの一人(そう、マジドは何人もいる。本書には5人登場する)であるルパード。彼はマジドとしてひとり立ちしてからまだ2年と月日が浅いのだが、新人マジドの候補選びと、崩壊寸前の大帝国の後継者を捜すという、骨の折れる使命を同時に抱えることになり、職務遂行のため走り回る、というのが本書のストーリー紹介。

 この多元宇宙は、魔法に肯定的な「正域」と否定的な「負域」に分類され、地球は「負域」側にある。ルパードは地球出身ながら、魔法の能力があり、地球では絶大な力を持つ。しかし、正域の宇宙では魔法は一般的だから、魔法の能力を持つ者は多い。彼らが負域の地球に、大帝国の後継者争いに絡んで乗り込んでくることで、大混乱に陥る。
 上下巻で合計650ページの長編なのだけれど、スピード感のある展開の速さで飽きない。ただ、最後の最後に、準主役の男の子の語りが40ページも続く。重要な部分なのだけど、少しくたびれた。

 本書の原題は「Deep Secret」つまり極秘事項、邦題は、ストーリー中重要な役割を持つマザーグースの歌から取っている。このマザーグースの歌のこと以外にも、本書には様々な暗喩がちりばめられているらしく、訳者あとがきで紹介されている。訳者自身は「蛇足と知りつつ」と言っているが、読後に読むことをおススメする。

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呪われた首環の物語

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:野口絵美
出版社:徳間書店
出版日:2004年7月31日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 このタイトルはいただけない。おどろおどろしいホラー小説かと思って、子どもたちが手に取れないのではないでしょうか。中身は少年少女向けの平易なストーリー。思春期の悩み、他者への理解、家族についてと、どちらかと言えばさわやか系の物語だ。
 原題がそうならば、著者の意図が反映されているとして仕方ないが、原題は「Power of three(3つの力)」だ。シンプルすぎてインパクトに欠けるかもしれないが、こんなにかけ離れた題にして、印象を変えてしまっていいのか?

 「3つの力」とは、物語の中に登場する「古き力、今の力、新しき力」「太陽、月、大地」のように3分割された考えを表している。また、この世界には「人間」と「巨人」、水の中に住む「ドリグ」の3つの種族が住む。この3つの種族の力、という意味もあるはずだ。だから、「Power of three」というタイトルには意味があるのだ。

 「人間」は、正しい言葉を使えば、戸を封印したりできる。それは魔法ではなくて、正しいやり方を覚えれば誰でもできるのだと言う。言葉やものの名前というのは何かしらの力を持っているという考えだ。ゲド戦記やジブリのナウシカなど、そういう考えを基にした物語は多い。

 「人間」「巨人」「ドリグ」という3種族にはちょっとした仕掛けが隠されている。題にひるまず、軽めのファンタジーとしておススメ。

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ダークホルムの闇の君(上)(下)

書影
書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:浅羽莢子
出版社:東京創元社
出版日:2006年7月28日初版
評 価:☆☆☆(説明)

 舞台は、魔法使いたちが住む世界。大学や様々な国があり、エルフやドワーフ、グリフィンなどの様々な人種や生き物、もちろん神と悪魔、ドラゴンまで登場する。ファンタジーの王道と言うか、これだけ聞くとちょっと型にぎゅうぎゅうに押し込めたような感じがするが、本書はそうではない。

 ファンタジーらしくないことが1つ。この世界の住人達は、もちろん本当に魔法使いやエルフなのだけれど、同時にそれらを演じさせられてもいること。別の世界の観光会社との契約によって、観光客相手に魔法の世界を大がかりに演じて見せているのだ。
 善と悪の軍団の戦いとか、人々を惑わす魔女とかを巨大なテーマパークのように、年に100回以上も繰り返しやっているわけ。そして、観光客らの手で魔王を倒して、旅行クライマックスを迎え、自分たちの世界へ帰っていく。倒される魔王が「闇の君」で、本書の主人公の魔法使いダーク。
 毎年、闇の君に選ばれた者が、観光会社との契約に従ってすべてを手配しなくてはならない。家族の助けを得て準備に取り掛かるが、次々と難題が降りかかる、というストーリー。

魔法世界の人々が、魔法世界を演じるという設定もひねりがあるし、それなりの伏線や誤解や裏切り、家族愛など、ドラマがちりばめられていて面白い。しかし、少しばかり冗長というか、エピソードが多すぎるような気がする。上下巻でなく、1冊分ぐらいに凝縮すればよかったかも、と。
 一般的に「悪」の側の、ドラゴンや悪魔が登場する時には、緊張感が漂う。ところが、彼らは大きくストーリーに絡んでこないのはなぜ?まぁ、これ以上、ストーリーを混ぜっ返すのはどうかと思うけれど、悪魔やドラゴンにはそれなりの役回りがあるように思う。

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時の町の伝説

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:田中薫子
出版社:徳間書店
出版日:2004年6月30日初版
評 価:☆☆☆(説明)

 魔法使いを主人公とした話に定評があるジョーンズの「時空」を話の中心に据えたファンタジー。読み終わって良く思い直すと、今回は魔法が使われていない。魔法のような不思議な出来事は起きるけれど、それは「科学」として説明されている。もしかしたら、「魔法」と「科学」は近いものなのかもしれない。

 複数の世界が並行して存在するという「パラレルワールド」の考えは、同じ著者のクレストマンシーシリーズでおなじみだし、その他のSF小説でも時々お目にかかる。
 しかし、本書では時系列に直列した世界がお互いに干渉しあいながら存在している、という発想。そして、その直列した時系列空間からは独立して「時の町」がある。この街が今回の主な舞台。
 「時の町」は、世界の歴史がキチンと進むように管理している。この街の「時の門」を使えば、石器時代から百世紀ぐらいまでの好きな時代に行ける。この話だけでもこの町が高度に科学が発達していることが分かる。

 ストーリーは、20世紀が不安定になって、世界のリズムがおかしくなってきた、ということが事の発端になっている。まぁ、タイムトラベルもの、と言ってしまえばそれまでだ。過去を変えると未来が大混乱に陥る、それを防ぐために悪党を追いかけるタイムパトロール、これもよくある話ではある。
 しかし、「時の町」という時間から独立した場所で起きる事件だけに、スケールが大きい。ジョーンズの他の小説と同じく、子供たちが活躍するし、コミカルなシーンもあり、楽しく読める。

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