2.小説

騎士団長殺し 第1部 第2部

書影
書影

著 者:村上春樹
出版社:新潮社
出版日:2017年2月25日
評 価:☆☆(説明)

 著者7年ぶりの本格長編(「本格」にどのような意味があるのかは知らない。「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は「本格」じゃないのだろうか?)

 主人公は「私」。36歳の男性で職業は肖像画家。妻に離婚を言い渡され、6年間の結婚生活にピリオドを打った。物語はその後の「私」の約9カ月のことを描く。

 傷心旅行なのか「私」は東北から北海道にかけて、車に乗っての1人旅に出る。旅行から戻って、友人の父(高名な日本画家)が使っていた、小田原の山荘に住むことになる。本人は社交的な性格ではないのだけれど、そこに色々な人が訪ねて来る。谷を挟んだ向かいに住む白髪の「免色」という名の男性とか、「騎士団長」とか...。

 私は村上春樹さんの作品のファンだ。そして村上作品には「作品に込められた隠れた意味(メタファー:暗喩)を読み解く」という楽しみ方、言い換えれば「深読み」をする人が多いことを知っている。それが結構楽しいことも。例えば私も「深読み「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」という記事を書いた。

 本書もそういう「深読み」の楽しみ方ができる。「穴(井戸)」「壁」は村上作品では繰り返し登場するモチーフだし、著者自身もインタビューなどでよく言及している。「免色さん」と「色彩を持たない多崎つくる」と、「対岸の家を覗く」のは「グレート・ギャツビー」と、関係があるのかもしれない。等々。

 ただ今回は、私の方のコンディションが悪かったのか、「深読み」に気持ちが乗れなかった。「らしい」展開や人物や小物が続いて、あまりに「らし過ぎる」。「村上春樹AIが書いたんじゃないの?」なんて思ってしまった。もしくは、著者自身による「パロディ」とか?村上作品の論評に頻繁に使われる「メタファー」が擬人化して登場するし、そのメタファーに「もしおまえがメタファーなら、何かひとつ即興で暗喩を言ってみろ」とか主人公に言わせるし。

 それで「深読み」を除いてしまうと、面白みを感じられなかった。ちゃんと不思議なことが起きるので、退屈せずには読める。でも何かこう薄っぺらい感じがぬぐえなかった。☆2つは、私が楽しめなかったから付けた評価。作品の価値を表すものではないので悪しからず。

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暗幕のゲルニカ

書影

著 者:原田マハ
出版社:新潮社
出版日:2016年3月25日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。この著者の作品を読むのは初めて。読んだことはないけれど「カフーを待ちわびて」「楽園のカンヴァス」という作品の名前は知っていた。

 主人公は2人の女性。一人は八神瑤子。40代。ニューヨーク近代美術館(MoMA)のキュレーターだ。もう一人はドラ・マール。物語の初めは20代後半。芸術家、写真家、そしてパブロ・ピカソの愛人。物語は瑤子が生きる2001年から2003年と、ドラが生きる1937年から1945年を、響きあうようにして交互に描く。

 2001年の米国同時多発テロ事件「9.11」で、瑤子は最愛の夫を亡くす。その後、米国は対テロ戦争に突き進んでいった。「アメリカこそが正義」と言って。MoMAで「マティスとピカソ」という企画を進めていた瑤子は、企画を「ピカソの戦争」と改める。戦争の愚かさを訴えるために。ピカソがゲルニカを描いて戦争を糾弾したように。

 ドラのパートは、スペイン内戦から第二次世界大戦に至る時期、ピカソがゲルニカを描いた、まさにその時を克明につづる。「ゲルニカ空爆」は、ピカソの祖国スペインで起きた、史上初の無差別爆撃。それに怒ったピカソがゲルニカを描く。それは絵画によるピカソの戦いだった。

 これは面白かった。すごく楽しめた。巻末に「本作は史実に基づいたフィクションです」と書いてある。物語の骨格が「史実」で構築されている。だから本当にあったような臨場感がある。著者はMoMAに勤めていたこともある現役のキュレーター、その意味でも説得力がある。

 私にとって「9.11」は「同時代の出来事」。キナ臭くなってきた現在ともつながっている。それに対してスペイン内戦や第二次世界大戦は「教科書で習った出来事」。この二つの間には分断があった。本書も瑤子のパートとドラのパートにも最初は分断があった。

 それが一人の登場人物が、どちらパートにも登場することによってつながる。私の中でもスペイン内戦から現在までが地続きになった。考えてみれば第二次世界大戦と「9.11」は60年も離れていないのだ。ピカソが怒りまくって糾弾した戦争は、残念ながら世界からなくなる気配がない。

 最後に。タイトルにある「暗幕」は、形を変えて何度か登場する。「暗幕は何かをその後ろに隠す。しかし時として「隠す」ことによって、その後ろにある何かが持つメッセージを、より強く意識させてしまう。皮肉なことに。

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桜風堂ものがたり

書影

著 者:村山早紀
出版社:PHP研究所
出版日:2016年10月4日 第1版第1刷 2016年11月10日 第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。この著者の作品を読むのは初めて。申し訳ないけれどお名前も知らなかった。

 主人公は月原一整。老舗百貨店の6階にある、これまた老舗の書店「銀河堂書店」の文庫担当。学生時代のアルバイト時代から数えて10年というから20代後半。売れる本を見つける才があるらしく「宝探しの月原」と言われている。そして、なかなかのイケメン。

 万引き事件がきっけけとなって、一整は銀河堂書店を辞めた。学生時代からのアルバイトを含め、書店員しかしたことがない。いやもっと以前から、本は一整と共にあった。とはいえ、すぐには書店の仕事は見つからない。導かれるように、以前からネットで交流があった田舎町の書店「桜風堂」を、一整は訪ねることにした。

 物語は、一整が訪ねた桜風堂と、一整が辞めた後の銀河堂書店、それぞれを取り巻く人々を描く。銀河堂書店の書店員たちなどたくさんの視点で、時に時間を遡ったりしながら描く。世の中の悪意と、それを上回る善意。「さあて、わたしは何をしようかな」というセリフが心に残る。皆があの人とあの本のためにできることを探している。優しさに満ちた物語だ。

 いろいろと「多すぎる」。登場人物が多い。そのそれぞれの造形を描き込むのでエピソードが多い。「実は...」という後で明かされる秘密が多い。上に書いたように語られる視点が多い(猫視点まである)。情景描写に費やす言葉も多いように思う。何よりも人の「善意」が多い。「多すぎる」かもしれないけれど、それがいい。

 最後に。本屋さんの書店員の物語だから、本屋さんの書店員が選ぶ「本屋大賞」のノミネートは「なるべくしてなった」と言える。もちろん、物語としての完成度が低ければ論外だけれど。本書はそうではない。

 しかも「書店員の物語」というだけではない。本屋大賞の設立趣旨は「売り場からベストセラーをつくる」。そのために書店の境界を越えて書店員さんが協同している。「宝探しの月原」をはじめ、登場する書店員の全員が、本屋大賞の「心」を持っている。著者もなかなかやるもんだ。

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島はぼくらと

書影

著 者:辻村深月
出版社:講談社
出版日:2013年6月4日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 以前から好きだったけれど「東京會舘とわたし」を読んで、「この人の作品をもっと読みたい」と思った辻村美月さんの作品。「鍵のない夢を見る」で直木賞を受賞した後の第1作目。

 主人公は、池上朱里、榧野衣花、矢野新、青柳源樹の、女子2人男子2人計4人の高校2年生。瀬戸内海に浮かぶ人口3000人弱の島「冴島」に暮らし、フェリーで本土の高校に通う。源樹は島に来た2歳の時から、他の3人は生まれた時から一緒に育っている。保育園も小学校も中学校も..。

 物語は、島にやって来た人たちと4人の関わりを主に描く。「冴島」は現村長(「現」と言っても6期目で、もう20年以上になる)の方針で、シングルマザーやIターン者を多く受け入れている。そうしたこともあって、人の出入りが意外と多い。「島」というと閉鎖的な社会を思い浮かべがちだけれど、そうでもなくて開かれている。ただ人々の心の中までそうかと言うと..。

 瀬戸内海の島に住む男女同数の高校生4人、しかも幼馴染。青空のように澄み渡った青春群像劇。恋と友情に揺れる女心?もしかしたら男心?なんてことを思ったけれど、本書はそんなありきたりの物語ではなかった。青春群像劇だし恋も友情もあるけれど、描かれるものはもっと広く深い。すごく面白かった。

 それは登場人物のそれぞれに、何かしら背負ったものがあり、それを丁寧に描いているからだ。例えば、3年前に身重の体で島に来たシングルマザーの蕗子。簡単にではないけれど、最終的には島も彼女もお互いを受け入れて、蕗子親子は島に居場所を見つけた。例えば、島の活性化のために雇われた「地域活性アドバイザー」のヨシノ。島民さえ「どうしてそこまで?」と思うほどの冴島への献身。それはなぜなのか?

 私が一番に心を動かされたのは、小さなエピソードとして紹介された、島の母子手帳のこと。島には中学までしかない。主人公の4人は、家から高校に通う選択をしたけれど、早ければ子どもたちは15歳で親元を離れる。島のお母さんたちは、その15年間にすべてを贈るつもりで、子どもを育てる。母子手帳はそのためにある。感涙。これは名作だ。

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哄う合戦屋

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著 者:北沢秋
出版社:双葉社
出版日:2009年10月11日第1刷 2009年11月16日第5刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「のぼうの城」「天地明察」などのヒットで注目を集めることとなった「ネオ時代小説」と呼ばれるジャンルの、代表的な作品のひとつ。

 主人公は石堂一徹。35歳。時代は天文18年(1549年)。甲斐の武田晴信(後の信玄)が南信濃に侵攻して来たころ。舞台はその南信濃に接する中信濃(今の松本のあたり)。信濃国全般に、多くの豪族が独立して小競り合いを繰り返していた時代だ。

 一徹はかつては、北信濃の村上義清に仕える石堂家の当主で、武芸と戦略に秀でていたことから、義清にも重用されていた。しかし、訳あって流浪の旅にで、自らの才覚を生かせる主君を求めて転々としていた。物語は一徹が、横山郷(今の青木村あたり)の遠藤家に辿り着いたところから始まる。

 一徹は戦の天才だ。後半で「こと軍事に関しては、どうやら拙者に勝るものはこの世には一人もいないらしい」などと不遜なことを言う。しかし、連戦連勝してその才能を見せつけられた後では、不遜に感じないぐらいだ。

 ということで、物語は、一徹の到来によって遠藤家が勢力を伸ばし、ついには武田との衝突を迎える様子を、遠藤家の姫とのエピソードを交えて綴る。「ネオ時代小説」は、「歴史エンターテインメント」とも言われるそうだけれど、まさにエンターテインメント性の高い作品だ。

 大河ドラマ「真田丸」の50年ほど前の時代。「真田丸」の舞台となった上田に、峠を挟んで接する場所での物語。戦国時代には、まだまだ知られていない面白い物語がたくさんありそうだ。続編、続々編があるので、それもいづれ読みたい。

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東京會舘とわたし(上)旧館 (下)新館

書影
書影

著 者:辻村深月
出版社:集英社
出版日:2015年5月25日 第1刷 2016年6月6日 第5刷
評 価:☆☆☆☆☆(説明)

 「鍵のない夢を見る」で2012年上半期の直木賞を受賞した著者の最新刊。著者の「新たなる代表作」との呼び声も高い作品。

 主人公は小説家の小椋真護、30代半ば。物語は彼が、東京會舘のレストランでで、そこの社長と面談するシーンから始まる。「東京會舘を舞台に小説を描く」という希望に協力してもらうためだ。

 東京會舘とは、皇居の真向かいに位置する宴会場を主とする建物で、創業は大正11年(1922年)。地震と戦渦を潜り抜けてきた100年近い歴史がある。その間にこの場所が見てきた歴史を描く。そういう構想だ。

 プロローグで語られたその構想に従って、本編では東京會舘を舞台とした様々な物語が綴られる。時代を一旦遡って、第一章は、大正12年のヴァイオリン演奏会での出来事。金沢からその演奏会のためにきた青年の物語。その後「上巻」では昭和39年まで「下巻」で現代まで戻ってくる。

 すごくよかった。緩やかにつながる10個の物語があって、それぞれを堪能した。それぞれの物語が、珠のように滑らかに優しく光って見える。帯に「全国の書店員、読者から絶賛の嵐!!」と煽り気味の惹句が踊っているが、それも分かる気がする。「これ、本屋大賞じゃないかな?」なんて、まだノミネート作品も決まらないうちから思った。

 ちなみに東京會舘は2013年の上半期まで、直木賞の贈呈式と受賞者の会見が行われていた場所。(現在は建替えのため帝国ホテルで行われている)。当然、著者の受賞の時もそこだった。加えて、小説家が主人公に、同業のしかも同年代の人物を据えたのだから、ご本人をいくらか投影した人物であるはず。そういうことを考える楽しみもある。

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夜行

書影

著 者:森見登美彦
出版社:小学館
出版日:2016年10月30日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 長編の小説としては、昨年出版された「有頂天家族 二代目の帰朝」から約1年半、著者の最新作。

 主人公は大橋君。10年前の大学二回生の頃に通っていた英会話スクールの仲間たちと5人で「鞍馬の火祭」の見物に来た。実は10年前にも、この仲間たちとこの祭に来たことがある。その時、仲間の一人の女性の長谷川さんが失踪した。今回こうして皆が集まったのは、彼女に呼ばれたからかもしれない...。

 大橋君は、昼間に京都の街を歩いていて、長谷川さんにそっくりな女性を見かけた。その後を追うように入った画廊で、「夜行」というタイトルが付いた銅版画の連作と出会う。ちなみに画廊には先に入ったはずの女性はいなかった。

 物語はこの後、貴船川沿いの宿に集まった仲間たちの語りが続く。どうした因果か、全員がその「夜行」という銅版画にまつわる不思議な体験をしていた。怪談めいた話を一人ずつ語る様は、5人しかいないけれど「百物語」の様相を示す。

 「今回はこっち系だ!」と一人目の語りの途中で思い、期待が膨らんだ。著者にはエンタテイメント作品や「腐れ大学生」のグダグダな生活を書いた作品が多い。でも、本書のような「妖しさ」を描いたものに「名作」がいくつかあるのだ。「きつねのはなし」「宵山万華鏡」..。

 私は著者と同じように学生時代を京都で過ごした。京都は人口の1割が大学生だと言われる「学生の街」。そこには多少汗臭い活気がある。しかし、1200年の「歴史の街」でもある。小路の向こうの暗がりに異界を感じることが何度かあった。著者の作品の多面性は、京都の街の多面性を映しているのかもしれない、と常々思っている。

 コンプリート継続中!(単行本として出版された作品)
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コンビニ人間

書影

著 者:村田沙耶香
出版社:文藝春秋
出版日:2016年7月30日 第1刷 8月15日 第4刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 2016年上半期の(つまり直近の)芥川賞受賞作。私は直木賞の方が相性がいいらしくて、芥川賞の受賞作品はそんなに好んで読んでないのだけれど、本書はちょっと面白そうだったので読んでみた。

 主人公は古倉恵子、36歳。コンビニでバイトをしている。コンビニのバイトは大学1年生の時からずっとしている。だから今年で18年目になる。ついでに言うと、今のお店「スマイルマート日色駅前店」がオープンした時から、ずぅ~っとここでバイトとして働いている。

 古倉さんは幼い頃、少し奇妙がられる子供だった。公園で死んでいた小鳥を、「これ、食べよう」と言ってお母さんを慌てさせた。焼き鳥や唐揚げはいいのに、小鳥は「食べよう」なんて言っちゃ変に思われる、ということが、幼い古倉さんには分からなかった。今は分かっている、でもたぶんその理由は今も分かっていない。

 古倉さんは「自然と身につける」ことができないらしい。でも、教えられるとそれがすぐに身につく。コンビニは、何をどうすればいいか細々とマニュアルに定められている。だから古倉さんは、コンビニ店員でいる限りは、変に思われないで済むのだ。

 読んでいて少し居心地が悪い。少~しだけ気持ち悪い。その理由の1つは、私たちの「普通」が古倉さんにはないから。「普通」を共有できないと「異物」と感じてしまう。さらにはその「普通」の根拠が思ったより曖昧なことに気が付いて、さらに居心地の悪さを感じる。

 言葉で表すのが難しい、手が届きそうで届かない、私たちの「普通」に潜む何か、を示しかけている。そんな物語だった。

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オーダーメイド殺人クラブ

書影

著 者:辻村深月
出版社:集英社
出版日:2015年5月25日 第1刷 2016年6月6日 第5刷
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は短編集「鍵のない夢を見る」で2012年上半期の直木賞を受賞、本書はその同時期に書かれた長編。

 主人公は小林アン。中学校二年生の女子生徒。美人の母親ゆずりの顔立ちで、バスケット部に所属して、少し前までは彼氏もいて..と、クラスのヒエラルキー上位の「リア充」女子。

 アンは「リア充」だけど「中二病」でもある。本人に自覚があるのが救いだけれど、相当に重症であることは疑いがない。「これから、何かを(それが何かはまだわからないけど)成し遂げる私。人と違う、私」なんてことを思っている。だから「美人なだけ」の母親のことははっきりと、「平凡な」友達のこともは心の隅で見下している。

 もちろんそんなことは表に出さない。女子中学生が上手くやっていくための術は心得ている(その割には冒頭から友達に無視されているけど)。そしてアンには、もう一つ表に出さないことがある。「死」への興味がそれだ。物語は、このことが基になって抜き差しならないところまで転がって行く。

 読んでいて痛々しい気持ちがした。「女子中学生は大変だな」と思った。仲がいい友達とちょっとしたことで決裂し、どうしてそうなるのかクラスの女子全員を敵にしてしまう。「自分は特別」という抜きがたい思いが、破滅に向かわせる。

 私は子どもがつらい目に会う話は苦手で、この物語も私までつらくなった。それにも関わらず、ほとんど休まずに読み切ってしまった。その理由は簡単には言えないけれど「結末を知らないままではいられない」という表現が一番ぴったりくる。もちろん、物語の運びが上手いということもあるけれど。

 最後に。アンが持つ「死」への興味は、親なら誰でも心配でたまらない類のものだし、人によっては嫌悪感を催すかもしれない。ちょっと距離を空けて読まないと危険。くれぐれも近づきすぎないようにご注意を。

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武士道エイティーン

書影

著 者:誉田哲也
出版社:文藝春秋
出版日:2009年7月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「武士道シックスティーン」「武士道セブンティーン」に続く、「武士道」シリーズの3作目。神奈川と福岡、別々の高校でそれぞれに剣道に打ち込む、磯山香織と甲本早苗の高校3年生の頃を描く。

 剣道の名門校に所属する二人は、共にインターハイを目指す。それは、勝ち続ければそこに到達するのだから、誰もが目指すことなのだけれど、二人には別の目的がある。もう一度二人で勝負することだ。

 香織の学校は団体戦でのインターハイ出場が危ぶまれ、早苗の学校は強豪校で、こちらは代表に選ばれるかどうかが問題。簡単にはいかないけれど、結論から言えばその目的は達成される。二人が望んだ形であったかどうかは別だけれど。

 「こう来たのか」と中盤過ぎを読んでいて思った。「これはやられた。(剣道に絡めて敢えて「一本とられた」とは言わない)」と読み終わって思った。これまでの2作も良かった。本作はそれを基礎にしてさらに高く奥行きのある、物語の構造が構築されている。

 実は、上に書いた香織と早苗の物語は、しっかりと描き込まれてはいるけれど、本書の中の割合としてはごく一部に過ぎない。本書ではこれまでとは違って、様々な登場人物の時代も様々な物語を、本編とも言える香織と早苗の物語に散りばめてある。それぞれに深みのある物語で、質量ともに本編を凌駕している。

 私は、前作のレビューで「二人以外の登場人物にも粒ぞろいになり、先が楽しみになった」と書いた。まさにその粒ぞろいの登場人物たちが、悩んだり苦しんだりを含めて、自分たちの人生を活き活きと生きている。そしてそれがこのシリーズの物語世界と、完全に融合している。なるほど、人気シリーズになるわけだ。

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