2.小説

スーツケースの半分は

書影

著 者:近藤史恵
出版社:祥伝社
出版日:2015年10月20日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

  祥伝社の月刊小説誌「小説NON」に連載された8つの短編に書き下ろし1編を加えた連作短編集。1つのスーツケース、それは「目の覚めるような青」色の革のスーツケース、がすべての短編をつなぐ。

 主人公は短編ごとに入れ替わる。1編が男性で他の8編は女性。最初の4編は、今は29歳になっている大学時代の友達の4人の女性が、順番に主人公になって物語がすべり出す。卒業後はそれぞれの道を歩む4人の「群像劇」のように物語の幕が開く。

 作品順に主人公の4人を紹介する。真美は4人で唯一結婚している。夫は優しい人なのだけれど、気持ちのすれ違いもある。ニューヨークへ行きたいと思っている。花恵はオフィスクリーニングの会社のマネージャー。同居する両親との間にすき間を感じる。毎年のように香港に行くが、少し後ろめたいことがある。

 ゆり香は派遣社員。お金がたまるとたっぷりと休みを取って海外へ旅行にいく。今はいいが、20年後30年後を考えると胸がちりちりする。悠子はフリーライター。大学生の時に来て「一度で恋に落ちた」パリに取材に来た。仕事の不安定さが気持ちにも影響している。4人に共通するのは「これでいいのか?」「このままでいいのか?」という気持ち。

 友達4人全部のストーリーが終わって、次はどうなるのか?と思ったら、わずかなつながりから、新たな人のストーリーが次々と継がれていく。友達4人の群像劇かと思った物語は、もっと広い世代を巻き込んだ大きな群像を描きだした。偉そうに言って恐縮だけれど、実にうまい。

 主人公全員の手元に、あの革のスーツケースがある。友達4人の間では「幸運のスーツケース」と呼んでいる。みんなあのスーツケースを持って旅に出て、いいことがあったのだ。ただ、その「幸運」は与えられたものではなく、つかみ取ったものだ。そういうことが、短編を順に読んでいくと分かる仕掛けになっている。やっぱり、実にうまい。

 最後に。主人公以外も含めて女性がカッコいい。男もしっかりしたいものだ。

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星のかけら

書影

著 者:重松清
出版社:新潮社
出版日:2013年7月1日 発行 2016年5月30日 3刷
評 価:☆☆☆(説明)

 小学館の「小学六年生」に連載された作品に改稿を加えた、文庫オリジナル作品。

 タイトルの「星のかけら」とは、「それを持っていると、嫌なことやキツいことがどんなにたくさんあっても耐えられる」というお守りのこと。夜になると街灯や月明かりに照らされて、道路のあっちこっちでキラキラ光っているらしい。

 主人公のユウキは小学6年生。学校でも塾でも、いじめにあっている。ユウキを助けてくれる友達もいる。学校では幼稚園の頃からの幼馴染のエリカ、塾では違う学校に通っているマサヤ。「星のかけら」のことはマサヤから聞いた。「おまえには星のかけらが必要だと思う」とも言われた。

 ユウキとマサヤは「交通事故の現場に落ちている」と言うウワサに従って、事故があった現場に星のかけらを、暗くなってから探しに行く。そこで、小学2~3年生の女の子のフミと出会う。フミは本物の星のかけらを持っていて、それを街灯の明かりにかざすと不思議なことが起きた...。

 小学生向けということもあって、希望の見える物語になっているけれど、いじめや引きこもりや家庭内暴力が「いまそこにある」こととして描かれる。子どもが抱える人間関係の問題を、大人は軽く見がちだけれど、実は切実で重大な問題だったりする。そして場合によっては「死」さえ、子どもたちの身近にあることを、本書は気付かせてくれる。

 エリカは、素直でいて大人びてもいる。「よく十二歳まで生きてたなあって思わない?」とユウキに聞くシーンがあって、続けてこう言う。「死んじゃうかもしれないタイミングはたくさんあって、でも、うまい具合にそこにぶつからずに生きてて..そもそもニッポンじゃなくて(中略)そういうことを考えたら、生きてるって、なんか、すごいことだと思うわけ」。私が五十二歳まで生きているのは、奇跡の中の奇跡なのだと思う。

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武士道セブンティーン

書影

著 者:誉田哲也
出版社:文藝春秋
出版日:2008年7月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「武士道シックスティーン」の続編。磯山香織と甲本早苗の前作の翌年、高校2年生の春から冬までの剣道にかける青春を描く。

 今回は、香織と早苗の別れと気持ちのすれ違いから始まる。早苗が遠くへ転校する出立の東京国際空港、3月31日。早苗は住所も学校も決まってないと言う。さらに「剣道はもう、やんないかも」と。全部ウソだ。

 なんでまたそんなウソをついたのかは、早苗の口から説明がある。「早苗ちゃん、それは間違ってるよ」と言ってあげたいような理由。でも、早苗がそう考えても仕方がない。「仲、良かったのかな」という早苗の独白が示すように、二人の間柄はとても微妙だからだ。

 微妙と言っても結びつきが弱いわけではない。「親友」という間柄より、結びつきが強いようにさえ感じる。香織からの一方的な引きの強さがないことはないけれど、共に高みを目指す「同志」。それもちょっと違う。もう少しお互いを必要としあう間柄。

 この後、香織はこれまで通りに東松学園高校で、剣道に打ち込む。後輩の田原美緒に懐かれ調子を狂わされながら。早苗は福岡南高校という剣道の名門高で、東松との違いに戸惑いながら練習に励む。黒岩レナという剣道部の友達もできた。

 著者は多くの要素を持ち込んできた。2年生になった香織の先輩後輩の関係、転入した早苗の新しい場所での葛藤、それぞれの家族の変化、そして剣道が持つ「武道」と「スポーツ」の多面性。二人以外の登場人物にも粒ぞろいになり、先が楽しみになった。

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君の膵臓をたべたい

書影

著 者:住野よる
出版社:双葉社
出版日:2015年6月21日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 今年の本屋大賞第2位。公式Twitterによると55万部突破だそうだ。トーハンの調べで2016年上半期ベストセラー「単行本・文芸書」で第2位(ちなみに第1位は「羊と鋼の森」。本屋大賞の効果は抜群だ)。とにかく売れている本。

 主人公は高校2年生の「僕」。「僕」はクラスメイトの山内桜良が、余命数年の病に侵されていることを知る。そして読者は、桜良が亡くなってしまうことを、物語の冒頭の1行目で知らされる。物語は「僕」が桜良の秘密を知ってから、彼女が亡くなるまでの二人の交流を描く。

 浅いようで深い、深いようで浅い、そんな物語だった。桜良が余命数年とは思えない溌剌さで、自分の病気もジョークにしてしまう。おみくじで「病、やがて治る」とあったのに対して「治んねぇっつうの!」と悪態をつく。浅いと言うかノリが軽いのだけれど、桜良の心の中までは覗けない。そこには深い淵があるのかもしれない。

 「深いようで浅い」と感じたのは「構成」について。エピソードをもう少し積み重ねて欲しかった。詳しくは書かないけれど、さまざまな思わせぶり(私が勝手に思っているだけだけれど)な出来事が起きるのだけれど、ただ流れて行ってしまったように思う。

 そうそう「僕」にはちゃんと名前はあるのだけれど、【秘密を知ってるクラスメイト】くんとか、【根暗そうなクラスメイト】くんとか書かれている。その時々の相手が、自分をどう思っているかを「僕」が推し量った言葉のようだ。ちょっと面白い仕掛けではある。

 最後に。これまでにも何度か書いているけれど、私は「死」と「感動」を結びつける物語が好きじゃない。「読後、きっとこのタイトルに涙する」「ラスト40ページは涙涙涙」という、本書の帯の惹句もちょっとイヤだ。これがなければ泣けたかもしれない。

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君にさよならを言わない

書影

著 者:七月隆文
出版社:宝島社
出版日:2015年8月20日 第1刷 2015年12月23日 第6刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 100万部のベストセラーで映画化も決まった「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の著者による、心温まるも切ない物語。

 主人公は須玉明。高校生。彼には幽霊が見える。交通事故で生死の境をさまよい、目が覚めたらそうなっていた。その明が、初恋の幼馴染や高校の同級生ら、若くして亡くなった少女たちと出会う、4つの物語をつづる連作短編集。

 明が出会う少女たちは幽霊だ。亡くなってもこの世に留まっているのは、心残りなことがあるからだ。伝えられなかった言葉がある、やり残したことがある、残してきた友達が心配、誤解されたままになっている。しかし、幽霊の身では見ていることしかできない。

 少女たちにしてみれば、そんな時に自分の姿が見えて声も聞こえる、同じぐらいの年の男の子に出会ったわけで、多少強引でも協力させてしまう。明も、少女たちの積極さに押されながら、協力を惜しまない。

 「心温まるも切ない物語」と書いたけれど「切ない」気持ちが勝った。それぞれに「心残り」を果たして、それは本当によかった。けれども「心残り」を一つだけ果たして、それだけでいいの?と考えてしまう。十代の少女たちの潔さに対して、私の問かけは何とも未練なことだけれど。

 「死後のやり直しのチャンス」は、昔から映画や小説で数多く描かれてきた。それだけ「この世に残した未練」は不変のテーマなのだろう。無粋なことを言うが、普通はこんなチャンスには恵まれない。未練のないように日々を暮らしたいものだ。

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かもめ食堂

書影

著 者:群ようこ
出版社:幻冬舎
出版日:2008年8月10日 初版発行 2016年4月1日 30版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 書店で「幻冬舎文庫編集長がオススメする5冊」という帯に魅かれて手に取った。幻冬舎文庫は創刊20周年、この間2964作品あるそうだ。その中で5冊に選ばれたのだから、これは読む価値ありそうだと思った。

 主人公はサチエ、38歳。サチエの父は古武道の達人で、サチエも父の道場で幼いころからその指導を受けた。父が掲げた人生訓は「人生すべて修行」。母を亡くした後は、その父が厳しくも愛情を持って育ててくれた。

 そのサチエが、大学を卒業後に食品会社を経て、自分の店として開業したのが「かもめ食堂」。サチエが素材から選んで手作りした食事を出す。一つとても特徴的なのは、その食堂がフィンランドの首都、ヘルシンキにあるということ。

 物語は、サチエが異国で食堂を始めるも「客数ゼロ」の日が延々と続くところから、一人また一人と「かもめ食堂」に人が集ってくる様子を、柔らかな筆致で描く。この柔らかさはサチエが持つ雰囲気によるところが大きい。

 集ってくるのはお客だけではない。途中で一人また一人と、日本からフラリとやって来た女性が加わる。「そんな理由でここまで来たの?」ちょっと呆れてしまう。いや正直に言うと羨ましい。サチエを含む女性たちに、軽やかさと心細さ、芯にある強さを感じる。

 幻冬舎文庫編集長は、この本に「「生活の質を上げたい」「静かにゆったり過ごしたい」-そんなとき、お片付けや掃除じゃなく、一冊の上質な本を読めばいい。私はこれ。」という解説を付けている。読み終わってみると、この気持ちがよく分かる。

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武士道シックスティーン

書影

著 者:誉田哲也
出版社:文藝春秋
出版日:2007年7月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本好きの知人の何人かが「面白いよ」と言っていて、本書のことは何年も前から知っていた。先日読んだ有川浩さんの「倒れるときは前のめり」でも紹介されていて(続々編「武士道エイティーン」の文庫版の解説は有川さんが書いておられるそうだ)、いよいよという感じで読んでみた。

 主人公は磯山香織と西荻早苗の2人の高校生。共に東松学園高校女子部の剣道部の部員。本書はウラ若き女子高校生の、剣道にかける青春を描いたものだ。時期的には高校入学前から高校2年の夏まで。

 香織が、ちょっとぶっ飛んでいる。「全中(全国中学校剣道大会)2位」という実績の持ち主。3歳で剣道を父親から習い始めた。宮本武蔵を「心の師」と仰ぎ、「五輪書」が愛読書。自らを「兵法者」と位置づけ、剣道は「斬るか斬られるか」だと思っている。

 早苗は、ずっとフェミニンな感じ。子どもの頃から日本舞踊を習っていて、その経験が生かせるものを..と、中学から剣道を始めた。本当に日舞の経験が生きたのか、メキメキと上達している。実は、磯山さんに勝ったことがある。

 これは面白かった。考え方も性格も違う2人が、寄り添っていく感じがいい。まぁ早苗の性格と努力なしでは、そうならなかった。香織が自分が通った道場の空気を称して言った「磨ぎたての刃のような」は、まさに香織自身がまとった空気でもある。これでは、周囲も自分も傷つけてしまう。

 香織と早苗を見ていて、あさのあつこさんの「バッテリー」の巧と豪を思い出した。。そのレビューで私は、「そうは言っても巧君よ..」と書いているが、今回も「そうは言っても香織さんよ..」と思った。

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鴨川食堂おかわり

書影

著 者:柏井壽
出版社:小学館
出版日:2015年11月11日 初版第1刷 2016年2月1日 第3刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「鴨川食堂」の続編。NHK BSプレミアムで放送されていた、同名のTVドラマは、前作と本書の2冊を原作としたものらしい。

 舞台も物語の構成も前作と同じ。京都の東本願寺近くで鴨川父娘が営む食堂「鴨川食堂」が舞台。ここに来るお客は、記憶の中にだけ残る料理を捜してもらいにやってくる。前作と同じく本書でも6人のお客を迎える。

 わざわざ捜してもらいに来るのだから、その料理にはその人の想いがこもっている。その想いは必ず誰か人につながっている。父親であったり、母親であったり、息子であったり、肉親のそれももう会えない人であることが多い。

 だからお客は料理と一緒に、失った、あるいは見失った絆を捜してもらいに来ているのだろう。鴨川親子は、お客が求めている以上のものを捜し出して、届けてくれる。

 鴨川食堂では、お客に2回料理を出す。1回目は料理を捜す依頼に来たときに「おまかせ」で。2回目は結果報告として捜し出した料理を出すとき。今回、捜し出した料理は「海苔弁」「ハンバーグ」「クリスマスケーキ」「炒飯」「中華そば」「天丼」。

 もちろんそれぞれに工夫された料理なのだけれど、まぁとてもポピュラーな庶民的なものだ。それに対して1回目の「おまかせ」が、とてもとても手の込んだうまそうな料理で、読んでいて唾が湧いてくる。

 「若狭で揚がった寒鯖のキズシ、日生の牡蠣の甘露煮、京地鶏の東寺揚、間人蟹の酢のもん、鹿ケ谷かぼちゃの炊いたん、近江牛の竜田揚げ..」。書いている今も生唾を飲み込んだ。(「酢のもん」とか「炊いたん」とかの関西の言葉が、また一層うまそうに感じる)

参考:NHKプレミアムドラマ「鴨川食堂」公式サイト

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バベル九朔

書影

著 者:万城目学
出版社:KADOKAWA
出版日:2016年3月20日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「悟浄出立」以来、約2年ぶりの新刊。日常の中に奇想天外な仕掛けを持ち込んだ、少しズレた世界観が、著者の作品の特長だと思う。本書もそれに連なる作品、いやちょっと進化したかもしれない。

 主人公は九朔満大、27歳。祖父の満男が建てた雑居ビル「バベル九朔」の管理人をしている。管理人とはいえ、職と言えるほどの仕事はなく、まぁ平たく言うと「無職」。作家になることを夢見て、小説を書いては新人賞に応募している。今のところ、手応えはない。

 ある日、九朔くんがビルのテナントの水道メーターをチェックしていると、若い女性が階段を上ってきた。胸元が大きく開いた真っ黒な短いワンピース、黒いタイツに黒いハイヒールに黒のサングラス。まるでカラスだ。

 この「カラス女」の登場をきっかけとして、九朔くんの運命が翻弄される。その「カラス女」に追い詰められたあげく、ワケの分からない世界に飛び込み、延々と階段を上るハメになり、誰が本当に味方かさっぱりわからない..。

 面白かった。最初に「ちょっと進化したかも」というのは2つ理由がある。一つには本書を(偉そうな言い方で申し訳ないけれど)正統派の「異世界モノ」だと感じたからだ。

 「正統派」のウラを返せば「何処かにあった感じがする世界観」なのだけれど、それでも、展開されるエピソードは万城目さんにしか書けないものになっている。

 もう一つは、伏線や他の作品とのリンクなど、読者を楽しませる仕掛けをしてくれていることだ。私はこういう仕掛けが大好きなので、見つけた時はうれしかった。

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僕らのごはんは明日で待ってる

書影

著 者:瀬尾まいこ
出版社:幻冬舎
出版日:2016年2月25日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の作品を読むのは、「戸村飯店青春100連発」「温室デイズ」「あと少し、もう少し」に続いて本書で4作品目。これまでの3作品は、その「悩み」も含めて、中高生のしなやかな感性を描いたものだった。本書は少し上の世代を描いたものだ。

 本書では主人公は葉山亮太。物語の始まりの時は高校3年生だった。彼は、中学の頃のあることがきっかけで、周囲から距離を置くようになり、クラスから浮いた存在になっていた。そんな葉山君に、クラスメイトの上原小春が声をかけてくる。

 しょっちゅう途方にくれたり、たそがれたりして、遠い目をしていた葉山君だけれど、上原さんと話すようになってから、少し変わった。止まった時間が動き出した感じだ。こうして始まった「上原君と上原さんの物語」の数年間を、本書は綴っていく。

 私が葉山君たちの年頃だったのは、もう30年以上も前のことだ。でも思い出したことがある。詳しくは言えないけれど、ちょっとしたことがきっかけでクラスに溶け込めた、という話だ。まぁボォっとしていた私は、そんなことは知らずにいて、後になって友達から聞いて「そうやったん?」なんて言っていたのだけれど。

 二人が「背負っているもの」と「背負うことになったもの」は思いのほか重い。だから、少しつらいところもある。でもこの言葉遊びのようなタイトルのように「なんとなく前向きな感じ」の物語だ。

 2017年新春に映画化決定。(公式サイト)

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