2.小説

エンジェル エンジェル エンジェル

書影

著 者:梨木香歩
出版社:出版工房 原生林
出版日:1996年4月20日 初版第1刷発行 2002年10月10日 第3刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「家守綺譚」「西の魔女が死んだ」 の著者である梨木香歩さんの、今から20年近く前の作品。私は単行本で読んだのだけれど、B6版より少し小さい版型の160ページ、紙面に余裕のある文字数の「小品」。

 高校生の「コウコ」の物語と、女学校に通う「さわこ」の物語が交互に綴られる。「女学校」という言葉の響きからも想像できるように、「さわこ」の物語は時代が何十年か前のことのようだ。

 コウコは情緒不安定。意味もなくいらいらしたり、泣きたくなったり、じっとしていると焦燥感で手に汗がにじんだり。そんなコウコが、精神の安定を得るために熱帯魚を飼うことを思いつき、母親に認めてもらった。寝たきりになっている祖母の世話を、一部引き受けることと引き換えに。

 その祖母の世話というのは、夜中のトイレへの付き添い。もともと学校から帰ったら寝てしまって夜中に起きだす、という生活をしていたからそう無理はない。そんな夜中の二人きりの時間に、おばあちゃんが覚醒する。いたずらっぽい力のある目をして、若い女の子のような声で話しかけてくる。

 おばあちゃんに何が起きたのか?ちょっとドキドキする展開。もちろん「さわこ」の物語ともつながっている。二人の会話に控えめなユーモアも感じられて、穏やかな気持ちで読んでいた。ところが突然、心を深くえぐるような展開になるので、ご用心を。

 終盤のおばあちゃんのセリフが心に残った「神様もそうつぶやくことがおありだろうか」

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時をかける少女

書影

著 者:筒井康隆
出版社:KADOKAWA
出版日:1976年2月28日 初版発行 2006年5月25日 改版初版発行 2014年5月10日 改版34版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 1年ほど前に細田守監督のアニメ映画「時をかける少女
」を観た。映画はこの原作とは別の物語なのだけれど、主人公の少女の叔母の部屋に、原作と繋がる写真があるのを発見してニヤリとした。そして先日、書店で本書を見つけた。新装版の本書の表紙には、叔母さんの部屋にあった写真と同じ絵が使われている。そこで再びニヤリ。

 本書は、表題作「時をかける少女」と「悪夢の真相」「果てしなき多元宇宙」という3編の中編が収録されている。分量的にも表題作が一番大きいのだけれど、それでも100ページあまり。何度も繰り返し映像化されたことを思えば意外なほどコンパクトサイズだ。(巻末に映像化作品が紹介されている)

 あまりに有名な物語なので、その必要はないかもしれないけれど作品紹介を。主人公は高校3年生の芳山和子。放課後の理科実験室で謎の人物と遭遇するが、ついたての向こうに逃げたその人物がその場から消えてしまう。その時にラベンダーの香りをかいだ和子は、時間を遡る能力を身につけたらしい..。

 あらすじを追うだけならば簡単に終わってしまう。しかし、他人とは違う能力を得てしまった和子の煩悶(このあたりはアニメ映画の主人公とはだいぶ違う)とか、同級生への恋心や思いやりとか、短い中に普遍的なテーマが収まっている。映像化が繰り返されるのはこのためだろう。

 表題作だけを紹介したけれど、他の2編もけっこう面白かった。「悪夢の真相」は、中学生の主人公とその弟の「恐いもの」の深層(真相)を描く。ちょっとサスペンス調の物語。「果てしなき多元宇宙」の方は、タイトルどおりパラレルワールドを描いたもので、SFとしてはお馴染の展開。これは短い映像作品になりそう。

 最後に。和子が「まぁ!どうしたのかしら?」「甘いにおいですわ」とか、芝居のセリフっぽい話し方をするので、苦笑してしまう。50年近く前の作品だから、そのころの女子学生はこんなしゃべり方をしていたのかもしれない。もちろん、そうでないかもしれない。

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心星ひとつ みをつくし料理帖

書影

著 者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2011年8月18日 第1刷発行 2014年5月18日 第13刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「みをつくし料理帖」シリーズの第6作。「しくじり生麩」「賄い三方よし」「お手軽割籠」「あたり苧環」の4編を収録した連作短編。

 主人公の澪は、江戸の元飯田町にある「つる家」という料理屋の板前。彼女には、かつて修業した「天満一兆庵」の再興と、今は吉原にいる幼馴染の野江と昔のように共に暮らす、といった2つの望みがある。

 今回は、この2つの望みに関する大きな出来事が起きる。特に「天満一兆庵」の再興については、吉原に店を出す援助をすると、澪に申し出る人が現れた。店の名前を「天満一兆庵」とすれば良いと。この申し出を受ければ、形としては店の再興が成る。

 そして澪には、秘めた望みがもう一つある。「つる家」にふらりと現れる客の小松原のことだ。「秘めた」と言っても周囲もはっきりと分かるほどなのだけれど、身分違いゆえに叶わぬ恋心として決して口には出さない。今回はそれも急展開を見せる。

 シリーズに「料理帖」とついているように、澪の手になる美味しそうな料理が、シリーズの魅力の一つだけれど、そちらは今回は今一つ。しかし、物語の方はこれまでになくドラマチックで、次回以降への期待を残して終わる。

 シリーズは8月に第10作が刊行されて完結したそうだ。あと4作を心して楽しみたい。

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明日の子供たち

書影

著 者:有川浩
出版社:幻冬舎
出版日:2014年8月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 人気作家の有川浩さんの最新刊。幻冬舎創立20周年記念特別書下ろし作品、だそうだ。

 舞台は「あしたの家」という名の児童養護施設。90人の子供たちが暮らしている。主な登場人物は、新任職員の三田村慎平、3年目の和泉和江、高校2年生の谷村奏子と平田久志の4人。主人公を切り替えながら物語は進んでいく。

 90人も子どもが暮らしていれば、問題行動を起こす子もいる。しかし奏子と久志の2人は、ルールを守り、年下の子供たちの面倒をよく見て、職員や施設の運営にも協力的だ。いわゆる「問題のない子」

 もちろん「問題がない」のは、施設運営上で問題がない、言い換えれば「都合がいい」ということで、彼らが問題を抱えていないわけではない。そうでなければ児童養護施設に入所する必要なないのだから。

 物語は、たくさんの対立や苦い経験などを描き出しながら、大きなうねりを形作っていく。子供たちは大人をよく見て、それ故の反発もある。職員の間には意見の相違もある。世間の認識と実際とのズレも大きい。

 ラブストーリーあり自衛隊ありカッコいいおっさん(おばさんも!)あり。有川作品らしいところがたくさんあるのだけれど、今回はそれがメインではない。(それがまた「らしい」というヤヤこしい構造なのだけれど)

 児童養護施設に入所している子供たちは「かわいそう」、もしそう思っている人がいたら、ちょっと本書を読んでみてほしい。それが著者の希望のようだから。「図書館内乱」など著者の他の作品でも時々でも描かれるけれど、「間違った善意」は「悪意」よりもたちが悪いことがある。

 先ごろ、高校野球の選手が中学生の時に書いた作文がネットで話題になった。本書を貫くテーマと通じるものがあると思う。

 コンプリート継続中!(アンソロジー以外の書籍化された作品)
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悟浄出立

書影

著 者:万城目学
出版社:新潮社
出版日:2014年7月20日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 奈良、京都、大坂、琵琶湖と、関西の街を舞台にした奇想天外な仕掛けの物語を紡ぎ、前作「とっぴんぱらりの風太郎」で戦国時代にワープした著者。最新刊の本書では、さらに時空を越えて中国の古典の世界に飛んでいた。

 本書は、沙悟浄、趙雲、虞姫、京科、榮、のそれぞれを主人公とした5つの短編を収めた連作集。沙悟浄は「西遊記」、趙雲は「三国志」、虞姫は「項羽と劉邦」に登場する。京科は秦の国の官吏で、榮は「史記」を記した司馬遷の娘だ。

 彼らに共通するのは「脇役」ということ。特に最初の3人ははまさに物語のサブキャラクターだし、後の2人も「秦の中国統一」という物語で始皇帝の近くや、「史記」を記し本人も浮沈のある人生を歩んだ司馬遷の傍らといった位置にいた。つまり強いスポットライトの横のほんのりと明るい場所だ。

 著者の意図は分かる気がする。脇役とは言え個性的なキャラクターの持ち主である。物語を彼らの目を通して再構成することで「彼らの物語」を創作したら面白いだろう。そういうことだと思う。

 これが著者の意図だとすると、少なくとも私には成功した。沙悟浄の物語は少しホロリとした。旅の一行で先頭を歩くことのない沙悟浄の気持ちに加えて、「抜けキャラ」の猪八戒の意外な素顔まで覗ける。

 趙雲の物語も興味深かった。三国志の劉備に仕える人物で、趙雲ほど安定した活躍を見せる武将はいない、と私は思っている。それなのに知名度は、劉備、関羽、張飛、孔明、の4人からはガクンと落ちるという日陰の身。よくぞ彼に光を当ててくれたと思う。

 最後に。私は中国の歴史や物語に、学生のころから興味があって、関連の本もけっこう読んだ。今も本棚には「三国志」「項羽と劉邦」「史記」がある。だから今回、中国の古典を題材にした著者に共感を感じた。

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あと少し、もう少し

書影

著 者:瀬尾まいこ
出版社:新潮社
出版日:2012年10月20日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 舞台は中学校の陸上部、主人公は駅伝を走る6人の選手。章のタイトルが1区、2区...6区と6章あり、駅伝でそれぞれの区間を走る選手がその章の主人公となって、自らの過去から現在までの行く立てを、駅伝大会で仲間にタスキを渡すまでの間に語る。

 「6人の選手」とは言っても、実は陸上部員は3人しかいない。部長の桝井、3年生の設楽、2年生の俊介。後の3人は、バスケットボール部のジロー、吹奏楽部の渡部、校内一の不良の大田。つまり混成チーム。陸上部以外の3人は桝井が選んだ助っ人だ。

 もう一人の重要な登場人物が、顧問の上原先生。この中学は昨年までは、厳しくも優秀な顧問がいて、県大会への連続出場を果たしている。その顧問が去り代わりに就任したのが上原先生。どんくさそうな女性の美術教師。もちろん陸上についてはズブの素人。でも、この先生でなければ、この駅伝チームは成り立たなかったと思う。

 中学生といえども、いやいや中学生の年頃だからこそ、色々な想いを抱えている。その想いが章を重ねるごとに、一人分ずつ積み重なる。あぁこの子はこんなことをしょい込んでいたんだ、それを知って切ない気持ちになる。私は特に不良の大田くんの心根に目が潤んだ。彼はこれで変われるかもしれない。

 こういう物語が私は好きだ。主人公(たち)が何かを乗り越えて、前を向いて締めくくられる物語。「予定調和」だとか「現実はそんな甘くない」とかと言われるかもしれない。それでも、特に子どもたちが主人公の物語はこうあって欲しいと思う。

 駅伝という競技も章の構成の仕方も、三浦しをんさんの名作「風が強く吹いている」と共通している。陸上という「個人競技」の中の、駅伝という「団体競技」。一人一人が走っている間に、その胸に想いが去来する。もしかしたら駅伝という競技自体が物語的なのかもしれない。

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小夜しぐれ みをつくし料理帖

書影

著 者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2011年3月18日 第1刷発行 2014年5月18日 第16刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「みをつくし料理帖」シリーズの第5作。「浅蜊の御神酒蒸し」「菜の花尽くし」「寿ぎ膳」「ひとくち宝珠」の4編を収録した連作短編。

 主人公の澪は、江戸の元飯田町にある「つる家」という料理屋の板前。彼女には、かつて修業した「天満一兆庵」の再興と、今は吉原にいる幼馴染の野江と昔のように共に暮らす、といった2つの望みがある。

 今回は、「つる家」の主人の種市が抱える過去や、「天満一兆庵」の若旦那の消息などが分かり、澪の友人の美緒が人生に新たな一歩を踏み出す。また、料理勝負のようなイベントや、初めて澪が登場しない作品、といった趣向が楽しめる。これまでのシリーズの中でも出色の作品だと思う。

 特に、種市の過去を題材にした「浅蜊の御神酒蒸し」は、緊迫感と劇的な展開で読みごたえがあり、5作目にして迎えた大きなヤマを感じた。また、澪の想い人の小松原を主人公にした「ひとくち宝珠」は、面白い試みで物語の広がりを予感させた。

 シリーズは10作で完結の予定らしい。すると本書が前半の掉尾ということになるのだろう。この盛り上がりはそれにふさわしい。

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温室デイズ

書影

著 者:瀬尾まいこ
出版社:角川書店
出版日:2006年7月31日 初版発行 2006年8月30日 再版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 以前「戸村飯店青春100連発」を読んで、タイトル通りに「青春」がたっぷり詰まったとても面白い物語だった。それで著者のことはずっと気になっていたので、しばらく時間が経ってしまったけれどまた「青春」を期待して別の作品も読んでみようと思った。

 「戸村飯店~」の主人公は高校生の兄弟だったけれど、本書の主人公は中学生女子の2人。中学3年生の中森みちると前川優子。2人は小学生の時もクラスメイトだった。ただし「友達」とは言えない関係だったけれど。

 みちるたちの学校は、小学校も中学校も少し「崩れた」学校だった。「不良」と呼ばれる生徒が悪さをし、授業中に立ち歩く者もいて、何かのきっかけで陰湿な「いじめ」が起きる。小学校の時には優子が、中学校ではみちるがいじめの対象になってしまう。

 まぁそんなわけで「青春」という言葉に含まれる「爽やかさ」はあまりなく、代わりに「痛々しさ」が伝わってくる。全体的にピリピリとした緊張感が漂う。残念ながらこれも「青春」の別の側面かもしれない。

 ただし、この崩れた学校での生活も、著者の手にかかって少し明るさを感じられるようになる。みちるも優子も、相当に追いつめられるのだけれど、それぞれに踏みとどまって、反転することができる。

 それにはそれぞれに、ちょっとした拠り所やきっかけがあったことが幸いした。もちろん「いじめに負けずに頑張ったから、回りの人も反省してすべてが解決」なんてお気楽な話にはならない。それでもささやかな達成感が「爽やかさ」を残してくれる。

 「戸村飯店~」と同じように、主人公が章ごとに入れ替わる。みちると優子の互いへの思いが、ピッタリと合っていたり少しズレていたりするのがミソ。「有能な使えるパシリ」の斉藤くんにも注目。

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55歳からのハローライフ

書影

著 者:村上龍
出版社:幻冬舎
出版日:2014年4月10日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の5月の指定図書。

 今夜から始まるNHKの同名のテレビドラマの原作。「結婚相談所」「空を飛ぶ夢をもう一度」「キャンピングカー」「ペットロス」「トラベルヘルパー」の5編を収録。元は新聞に連載されたものらしい。

 本のタイトルにあるように、5編の物語の主人公の共通点は、50代半ばを過ぎた中高年であること。必ずしも55歳というわけではなくて、60歳を過ぎた者もいる。大きなくくりで言えば60歳という「定年」に前後する世代と言える。

 簡単に5編の紹介を。主人公が女性の話は2つ。「結婚相談所」は、30年近く共に暮らした夫と離婚した女性の「婚活」の話。ちょっと恥ずかしくなる。「ペットロス」は、定年後の夫と暮らす女性が愛犬を亡くす話。哀しいけれど、良い着地点が見つけられた。

 男性が主人公の話は3つ。「空を飛ぶ夢をもう一度」は、交通誘導員の仕事をする男性と中学の同級生の邂逅。息が詰まりそうな緊迫感。「キャンピングカー」は、早期退職した男性がキャンピングカーでの自由な旅の暮らしを妻に提案する。しっかりしてほしい。「トラベルヘルパー」は、63歳のトラックドライバーの老いらくの恋。ちょっとズレてる。

 基本的に男がカッコ悪い。離婚した妻に未練がましいメールを送ってくる。妻の気持ちを考えないで勝手に決めてしまう。妻が大事にしているものに気が付かない。ストーカー一歩手前の求愛...一途で無邪気で照れ屋で純粋。そういう言葉が中高年になっても適用されるならいいのだけれど。

 私は今50歳。10歳ほど主人公たちより年下だ。そのためか「いい歳して何やってるんだか」という気がした。ただ50歳になって思うのは、自分が若い頃に思っていた50歳のイメージと全然違っている、ということ。何かこう、全然枯れてこないのだ。そう思えば、10歳上の主人公たちを「いい歳して」なんて言ってることが滑稽に思えてきた。

 最後に。「ハローライフ」は、きっと著者の人気作「13歳のハローワーク」に着想を得て、宣伝効果を狙ったものだろう。あざといとも言えるけれど、実は「人生(生活)に出会う」というタイトルは、5編の物語をうまく言い表してもいる。5編の物語の主人公には、もうひとつ共通点があって、それは「人生に改めて向き合った」ことだ。

 NHK土曜ドラマ「55歳からのハローライフ」公式サイト

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手紙

書影

著 者:東野圭吾
出版社:角川書店
出版日:2006年10月10日 第1刷 2011年2月15日 第32刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 2006年に映画化され、それに合わせて刊行された文庫は1か月で100万部を超えた。これは出版元の文藝春秋社では最速のミリオンセラーだそうだ。帯には「日本中が涙した記録的大ベストセラー」の文字が躍る。

 主人公は武島直貴。「事件」が起きた時には高校3年生だった。「事件」というのは、直貴の兄の剛志が物盗りに入った家で鉢合わせした老女を殺害するという、強盗殺人事件だ。その日から直貴は「強盗殺人犯の弟」としての人生を送ることになった。

 無論「強盗殺人犯の弟」には罪はない。そんなことは誰だって頭では分かっている。少数の人々は、頭で分かっているだけでなく、行動でそれを示して直貴と付き合い援助してくれる。その意味では周囲の人には恵まれた方かもしれない。

 ただ、そんな少数の人々の善意は、その他大勢が感じる「不安」と、それが元になった「排除の圧力」の前では無力だ。直貴が人生の節々で掴みかけたものは、すべて成就する直前で手からこぼれ落ちてしまう。

 哀しい。ひたすらに哀しい物語だった。直貴と直貴に近しい人々が、理不尽でつらい目に会う。強盗殺人を犯した剛志を含めて「悪人」は一人も登場しない。そのことが却ってこの物語を空恐ろしいものにしている。私も含めて「守るべきもの」がある人間は残酷なのだと知った。

 タイトルの「手紙」は、第一には服役中の兄から直貴に届く手紙のことを指している。この手紙が時々直貴を苦しめる。ただ、他にも何通かの手紙が登場する。これが物語の重要な役割を演じる。

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