3.ミステリー

タルト・タタンの夢

書影

著 者:近藤史恵
出版社:東京創元社
出版日:2014年4月30日 初版 5月23日 3版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の作品との出会いは「サクリファイス」だった。その後「エデン」「サヴァイヴ」「キアズマ」と読み進めてきた。だから、著者のことを「サクリファイス」から始まる、自転車ロードレースの世界を描く作家さん、だと認識していた。それが、とんでもない間違いだと分かった。

 本書の舞台は、下町の商店街にあるフレンチレストラン「ビストロ・パ・マル」。シェフの三舟忍、料理人の志村洋二、ソムリエの金子ゆき、ギャルソンの高築智行の4人で切り盛りするこじんまりした店。主人公兼語りは高築くんが務める。

 物語は、店を訪れる客たちの事件、まぁ事件とも言えないちょっと不可解な出来事を、三舟シェフが鮮やかに解き明かす、とても軽い連作短編ミステリーだ。例えば、婚約したばかりの常連客が体調を崩したとか、極度の偏食があるお客の不倫の行方とか、奥さんが何も言わずに出て行ってしまった理由とか...

 心温まるホッとする物語だった。登場人物は、ほぼ店の4人とその回のお客だけ。「ビストロ・パ・マル」のように、こじんまりとまとまりのいい話。そして、お店で供される料理の数々のように、時にはスパイスが効いた、時にはやさしい甘さの、そして暖かい話。読んでいて心地いい、そしてヴァン・ショー(スパイス入りホットワイン)が飲みたくなる。

 お店の面々のキャラもいい。三舟は無精髭に長い髪を後ろで束ねた素浪人風で無口。志村は背が高く清潔感のある人当りのいい二枚目。紅一点の金子さんは、ショートカットの20代後半の女性。趣味は俳句。強いて言えば高築くんだけが、どんな男の子なのかまだ分からない。

 最初に「とんでもない間違い」と書いた。どうして今までそうしなかったのか分からないけれど、ちょっと調べると、著者の作品の多さや、シリーズものがいくつもあることが分かった。「サクリファイス」はワン・オブ・ゼムでしかないことは一目瞭然。でも、私にとっての著者の作品世界への入り口としては悪くなかったと思う。

 にほんブログ村「近藤史恵」ブログコミュニティへ
 (近藤史恵さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

死もまた我等なり(上)(下)

書影
書影

著 者:ジェフリー・アーチャー 訳:戸田裕之
出版社:新潮社
出版日:2013年10月1日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「時のみぞ知る」の続編。「クリフトン年代記」という超長編サーガの第2部。ちなみに日本では第3部までが既刊で、英国では第4部が今年の3月に刊行されている。情報によると第4部でもまだ完結していないそうだ。どれだけ続くのか予想できない。

 前作と同じように、数人の登場人物の物語が章ごとに入れ替わって綴られる。前作の最後で主人公のハリーは、米国行きの船旅の途中で、ある事情によって別人に成り替わった。その人物は米国で殺人容疑で手配されていたらしく、米国に上陸するなり逮捕されてしまった。そんなわけで、物語のハリーのパートは舞台が英国から米国に移って展開される。

 ハリーのパートは刑務所の中。実は著者のアーチャー氏は、ベストセラー作家であり、元国会議員であり、男爵の爵位を持っていて、なおかつ服役の経験がある。これまでにも刑務所内を舞台にした作品がいくつかあるのだけれど、今回のストーリーにもその経験が生かされている(のだろう)。

 描かれているの1940年を中心とした10年間で、第二次世界大戦の戦禍が世界中に拡大して終結した時代だ。当然本書のストーリーにもそれは色濃く反映している。ハリーも親友のジャイルズも戦地に赴き、悲しい経験をする。

 ハリーをはじめとした男性陣は、頑張ってはいるけれど周囲の状況に翻弄され、戦争の時代に巻き込まれてしまっている。それに対して女性陣の、ハリーの母のメイジーや婚約者のエマは、何とも頼もしく自ら道を切り拓いていく。特にエマなんて生死不明のハリーを探しに単身渡米してしまうのだからすごい。ハリーよりエマのパートの方が面白い。主人公を食ってしまっている。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

祈りの幕が下りる時

書影

著 者:東野圭吾
出版社:講談社
出版日:2013年9月13日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 昨年9月に発行された著者の近作。第48回吉川英治文学賞受賞。ノンシリーズ作品だと思って読み始めたのだけれど、十数ページで登場人物が「加賀」の名前を告げる。なんと「加賀恭一郎」シリーズだった。否が応でも期待が高まる。

 テレビドラマのように、場面ごとに登場人物が入れ替わるのだけれど、主役は加賀の従兄弟で警視庁捜査一課の刑事の松宮。足立区の小菅で遺体が発見された殺人事件の捜査を描く。加賀は日本橋署の刑事だから「管轄外」だ。

 刑事たちの地道な聞き込みによって、捜査の輪が狭まっていく様はとてもスリリングで、本書の魅力はそこにある。「どれだけ無駄足を踏んだかで捜査の結果が変わってくる」加賀の父親の口癖だというこの言葉が生きる展開だった。

 また、徐々に明らかになる事件の背景が悲しい。殺人という行為は許されるものではないけれど、「悪人だから」事件を犯してしまうわけではない。物語の終わりに判明する「犯人」の描写までが細やかなことも魅力のひとつだろう。

 本書にはさらにもうひとつ、シリーズ作品としての魅力がある。加賀恭一郎その人自身について、かなり深く描かれていることだ。事件を追う中に、加賀の生い立ちが垣間見える。彼が「新参者」で日本橋署に来て、街に溶け込み街の隅々に気を配るような捜査をするのには、理由があったことが分かる。

 にほんブログ村「東野圭吾」ブログコミュニティへ
 (東野圭吾さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

レディ・マドンナ

書影

著 者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2012年4月30日 第1刷発行 5月22日 第2刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第7弾。シリーズとしては現在のところ本書が最新刊。

 舞台は、東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」。巻を重ねるごとに新たな登場人物が加わり、その多くが後の物語でも役割を得て登場する。そうして巻頭の「登場人物相関図」では、36人もの人を紹介している。

 今回も様々な物語が同時並行で進む。例えば、往年の大女優が当主で83歳の勘一を訪ねて足繁く通ってくる、勘一のひ孫の研人が上級生を殴った、店の棚一段の本を全部買っていく客がいる...といったことだ。

 「シー・ラブズ・ユー」や「スタンド・バイ・ミー」のレビュー記事でも書いたけれど、「東京バンドワゴン」は良い嫁さんたちに支えられている。今回も、勘一の孫の紺の奥さんの亜美さんが魅せてくれた、青の奥さんのすずみさんは「男前」だった。

 ところで、上に「現在のところ本書が最新刊」と書いたけれど、実はこの言葉はこの1カ月の間にこれで3度目。「丕緒の鳥」が「十二国記」シリーズの最新刊、「パラダイス・ロスト」が「ジョーカー・ゲーム」から始まる「D機関」シリーズの最新刊だからだ。

 面白いシリーズと出会うとしばらく楽しめる。「東京バンドワゴン」もそうだった。読み切ってしまって少し寂しい。早く続巻を望む。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

星間商事株式会社社史編纂室

書影

著 者:三浦しをん
出版社:筑摩書房
出版日:2009年7月10日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 大好きな三浦しをんさんの作品。でも、発行してすぐには読まなかった。それは主人公が「腐女子」だということだったから。主人公が腐女子じゃぁ、内容もあんな感じ?と思うと、どうにも落ち着かないので。

 読んでみると「あんな感じ」は、心配のないレベルだった。子どもが読むにはどうかと思うから、R-12というところか。

 主人公は川田幸代。29歳。高校生の頃から同人活動を続けている。星間商事株式会社社史編纂室勤務。編纂室には他に、合コンに明けくれる矢田信平と、グラマーなみっこちゃん、定年まであと1年の本間課長がいる。(それから誰も姿を見たことがないけれど、室長もいるらしい)

 現実にはそんなことはないのだろうけれど、フィクションでは社史編纂室というのは「ヒマな部署」だ。星間商事も例外ではない。昨年創立60周年を迎えたのに、社史はできなかった。前半はそんなユルユルのヒマさ加減が描かれる。

 ただ、編纂室の社員たちは実はけっこうデキる。もと居た部署で会社的にちょっとマズいことあって、まぁここに追いやられたわけだ。それなりに仕事を進める内に、会社のある時期に何か秘密があることに気が付く。この謎を追うミステリーが、本書の中心となるストーリー。

 その他に、幸代の同人活動とその仲間の話、幸代と恋人の話、みっこちゃんの恋の話等々、が絡んできて、楽しい読み物になっている。見方によっては、「神去なあなあ日常」「仏果を得ず」「舟を編む」と同じ、お仕事小説の「社史編纂」編でもある。 

 にほんブログ村「三浦しをん」ブログコミュニティへ
 (三浦しをんさんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

パラダイス・ロスト

書影

著 者:柳広司
出版社:角川書店
出版日:2012年3月31日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「ジョーカー・ゲーム」「ダブル・ジョーカー」の続編。大日本帝国陸軍に設立されたスパイ養成学校、通称「D機関」のスパイを描くシリーズの3作目。シリーズとしては現在のところ本書が最新刊。表題作の「失楽園(パラダイス・ロスト)」と、「帰還」「追跡」「暗号名ケルベロス」の全部で4編の短編を収録。

 「失楽園」は、シンガポールに領事館付武官として赴任した米海軍士官の物語。欧州と中国での戦争の影はシンガポールにはまだ落ちていない。美しい街並みと贅を凝らしたホテルの暮らしは、まさに楽園(パラダイス)。そこで英国人の実業家が不慮の死を遂げた事件。

 「追跡」の主人公は、英国タイムズ紙の極東特派員。D機関を統率する結城中佐の実像に迫ろうとするが、些細な情報さえ容易には得られなかった。それでも調査を続け「特ダネ」をつかみ取った。しかし...という話。その実像に迫ろうとすればするほど、「魔王」と呼ばれる結城中佐のカリスマ性と神秘性が際立つ。

 「誤算」は、ドイツに占領されたパリが舞台。日本からの留学生がドイツ兵とトラブルを起こし、現地の若者らに助けられる。しかしその留学生は記憶を失っていた。「暗号名ケルベロス」は、まだ中立を保っていた米国から日本への航路を進む豪華客船が舞台。D機関のスパイと英国のスパイの対決。

 本書もこれまでの2冊に劣らず面白かった。特筆すべきは「失楽園」と「追跡」の主人公が、D機関のスパイではないことだ。「追跡」に至っては登場さえしない。しかし、紛れもなくこの2編はD機関の物語だと感じる。いや、他の2編よりもくっきりとD機関のあり方が感じられるぐらいだ。こういう描き方がとてもうまいと思う。

※「ジョーカー・ゲーム」が亀梨和也さん主演で映画化され、2015年公開予定です。
映画「ジョーカー・ゲーム」公式サイト

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

首折り男のための協奏曲

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:新潮社
出版日:2014年1月30日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の最新作。それぞれ別のところで発表された短編を7編収録した短編集。タイトルの基になっている冒頭の「首折り男の周辺」と、最後の「合コンの話」はそれぞれ「Story Seller」と「Story Seller2」に収録されていて既読だった。

 「首折り男の周辺」は、首を折られて人が殺される事件が連続して起きる中で、隣人がその犯人ではないかと疑う夫婦と、犯人にそっくりの体型・風貌で間違われる男と、いじめられている中学生が、それぞれ主人公の物語が交互に語られる。

 2つ目は、事故で子どもを亡くした父親の復讐を扱った「濡れ衣の話」。「首折り男~」とゆるくつながっている。「首折り男~」も含めて「殺人」「いじめ」「復讐」という重々しい話を語りながら、湿っぽくならない。著者らしい作品。

 その後の3作品は、伊坂作品ではお馴染みの「探偵&泥棒」の黒澤の物語。夫を介護中の女性が50年前の逢瀬について黒澤に調査を依頼した「僕の舟」。黒澤が訪ねたクワガタを飼育する小説家の物語と塾で暴力を受ける中学生の物語がシンクロする「人間らしく」。テレビの制作プロダクションの男からの奇妙な依頼を描く「月曜日から逃げろ」。

 6つ目の「相談役の話」は、再びクワガタ飼育の小説家の話。ちょっと怖い怪談話。最後の「合コンの話」は、参加した男女3人ずつがそれぞれワケありで、会話の表面の和やかさと、裏に隠された緊張感を描いた作品。ここで再び「首折り男」が登場する。

 最初に書いたように、それぞれが別のところで発表された作品で、「恋愛ものを」とか「怪談話を」と別々の依頼を受けたもののためか、統一感に欠ける。著者としても、色々なパターンの創作を試している風で、中には「実験的」な作品もある。「短編がたまったので1冊にしました」感がぬぐえない。

 ...というのが一読後の感想だった。ところが...

 短編間のゆるいつながりが気になって、それを確かめるために読み返すうちに、「ゆるいつながり」ではなく、縦横にガッチリと連結していることに気が付いた。さらに、手元にある既読の2作品を読んで改変部分を確認すると、その意図がはっきり分かる。著者が、もともとバラバラだった作品の集まりを「連作集」に生まれ変わらせたのだ。伊坂さん、グッジョブ。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
 「伊坂幸太郎」カテゴリー

 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(~2007年)」
 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(2008年~)」
 (あなたの好きな伊坂作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

空色メモリ

書影

著 者:越谷オサム
出版社:東京創元社
出版日:2009年11月30日 初版
評 価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の1月の指定図書。

 ベストセラー+映画化となった「陽だまりの彼女」の著者の作品。「陽だまりの彼女」は25歳の会社員を主人公にしたラブストーリーだったけれど、本書は高校2年生男子を主人公にした青春ミステリー。

 主人公の桶井陸は、体重98キロ、ウエスト115cm。つまりデブ。デブであること自体を悩んでいる風はないのだけれど、友達の一人が「ぶーちゃん」と呼ぶのが本当は嫌だ。そして彼は、部員が部長一人しかない文芸部に(部員ではないけれど)入り浸っている。

 物語のきっかけは、その文芸部に新入生の女子が一人入部したこと。そして部長の河本博士(通称ハカセ)が、その新入生の野村さんを好きになってしまう。ここまで約20ページ。あまりモテない男の子の恋を描く、という青春小説の王道が冒頭から展開される。

 ところが野村さんには、付き合っているイケメンの彼氏がいるらしい。報われない恋、これも王道。でもこの後は、野村さんに脅迫状が届くとか、陸も正体不明の相手から脅されるとか、「野村さんは実は...」とか、ミステリー要素が配分された展開で、面白い読み物になっている。

 陸がなかなかいいヤツで、ハカセと野村さんの仲を取り持ったり、ハカセにアドバイスしたりする。そんな彼が私は好きだ。汗をかくことや体臭を気にしている「デブネタ」が痛々しい。ふざけて小突く力は、相手を怒らせないように慎重に加減している。失礼ながらデブでなければ、もっと自分に自信が持てて、男女ともに人気もあったことと思う。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ

書影

著 者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2011年4月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第6弾。

 東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」とそこを営む堀田家を舞台としたミステリー&ホームドラマ。これまでと同じく4つの章があり、章の中で決着がつく小さな物語と、章をまたぐ大きな物語が同時並行で進む。

 例えば小さな物語は、「店の外のワゴンに何度か林檎が置かれていた」とか、「風体の穏やかでない輩が店の周りをウロウロしている」とか、「常連客の一人がストーカーされている」とか。深刻度に差はあるけれど「事件」が起きる。謎が解ければ一見落着。

 大きな物語の方は、30年前に亡くなった絵本童話作家の記念館の設立の話と、「伝説のロックンローラー」と呼ばれる我南人の曲の盗作事件。まぁこちらもうまい落としどころに落ちた感じ。

 前作のレビューで「都合のよさ」が興を削いでしまわない、ギリギリのライン、と書いたけれど、今回はそんなに「都合のよさ」を感じなかった。最終盤で「こりゃ力技だな」と思うことはあったけれど...

 改めて数えてみたら、本書までで堀田家の4年間を描いたことになる。シリーズ当初では小学校4年生だった研人くんは、中学1年生になった。ホームドラマの「無邪気+かわいい」担当だった彼が、本書では重要な役回で、何気ないセリフが「大きな物語」の伏線になっている。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

ビブリア古書堂の事件手帖5

書影

著 者:三上延
出版社:アスキー・メディアワークス
出版日:2014年1月24日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 人気ベストセラーシリーズの第5巻。「帯には累計550万部突破!」の文字が躍る。

 3巻4巻のレビューを読んだ方には繰り返しになるけれど、このシリーズは3巻目から俄然面白くなった。4巻はその盛り上がりを維持した。そして本書は...

 4巻がシリーズ初の長編だったのに対して、本書はまた1編に1つの本にまつわる謎を追いかける連作短編に戻った。古書店の若い女店主の栞子が、溢れるほど豊富な古書の知識を使ってその謎を解く。それを主人公であるアルバイトの大輔の目を通して語る。

 その見事な謎解きがこのシリーズの特長ではあるのだけれど、巻を重ねるとさすがに飽きてくる。3巻の盛り上がりは、それに加えて栞子自身にまつわるミステリーが、シリーズを貫く芯としてストーリーに絡んできたことによる。

 そして、上の「そして本書は...」の続き。本書では維持してきたテンションを、フッと緩めた「転換」を見せる。栞子のミステリーについては一旦クールダウン。その代わりに、栞子と大輔の関係の大きな進展の予感で引っ張る。

 「転換」と言えば、本書から各短編の後にこれまでにはなかった「断章」が付くようになった。そこでは、主人公の大輔がいない場面での栞子が描かれている。これがなかなか効果的だ。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)