3.ミステリー

ピース

書影

著 者:樋口有介
出版社:中央公論新社
出版日:2009年2月25日 初版発行 2011年7月15日 4刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「この表紙、よーく覚えておいてください。読み終えたあと、あなたはゾッとするはずです。」新聞広告のこのコピーが気になって、すぐに買って読んでしまった。畑中純さんによる、力強い線で描かれたピースサインの子どもたちは、無邪気で健康的だ。「ゾッとする」とは、どういうことなのか?

 物語の舞台は秩父の田舎町。60歳過ぎの大柄で固太りの男性、八田が経営するスナック「ラザロ」。その周辺で連続バラバラ殺人事件が起きる。埼玉県警のベテラン刑事が事件を担当し、総力をあげての捜査も難航する。

 広告を見て即買いしたほど、期待が大きかったのがいけなかった。私にはあまり合わなかった。帯に「意外な犯人、ラストのどんでん返し」と書いてあって、「ミステリーって、普通そういうもんだろう?」とツッコミを入れながらも、やっぱり「意外な犯人」と「どんでん返し」を期待していたのだけれど...

 面白くなかったわけではないのだ。「キャラ読み」には絶好の本だと思う。「ラザロ」のマスターの八田もタダモノではない。どうやら元公安警察官らしい。スナックを手伝う甥の梢路は、21歳という若さで「何もせずに、ただ淡々と日常を消化して、そうやって死ぬのを待つ」などと言って、人生を悟ってしまったような若者だ。

 その他にも、梢路の元に忍んで来る美人記者、東京から流れてきたピアニスト、スナックの常連客で誰とも話さないアル中の女子大生、入り口を隠した集落に一人で住む老人、定年間近のベテラン刑事、セックスのことばかり考えているフリーター...「キャラが立っている」というのは、こういうことを言うのだろう。

 だから「キャラ読み」が得意ではない私も、登場人物たちの振る舞いに引き込まれた。彼らがどう事件と絡むのだろう?と、ワクワクした。読み終えて表紙を見てゾッともした。それらを加味して☆は3つ。しかし、拙い例えで恐縮だけれど、「おいしそうな食材がたくさんあるのに、料理として出てこなかった」という感じ。「あれは食べないの?」と、残念に思った。

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探偵ガリレオ

書影

著 者:東野圭吾
出版社:文藝春秋
出版日:2002年2月10日 第1刷 2011年6月1日 第50刷
評 価:☆☆☆(説明)

 天才物理学者の湯川博士が主人公の「ガリレオ」シリーズの短編集。1998年刊行の本書がシリーズ第1弾。湯川がその並外れた推理力を発揮し「探偵ガリレオ」の誕生の物語。もっとも「ガリレオ」という呼び名は、湯川の友人である刑事の草薙の上司がそう呼んだというだけで、湯川自身はピンと来ていない。(そう言えば、続くシリーズでも「ガリレオ」という呼び名に覚えがないが..)

 5つの短編が収められている。「燃える(もえる)」「転写る(うつる)」「壊死る(くさる)」「爆ぜる(はぜる)」「離脱る(ぬける)」と、多少強引な読み方をする3文字のタイトルがそれぞれに付いている。
 タイトルはそれぞれの事件の特徴、そして湯川が挑んだ謎を表している。「突然、頭が燃え上がる」「死体の顔がアルミに転写される」「胸部が壊死して死ぬ」「海が火柱をあげて爆発する」「幽体離脱して見た証拠」

 一言でいえば「超常現象」。警察も無能ではないから、犯人の目星は付けられるのだが、立証には「超常現象」を解き明かさなければいけない。それを湯川が、物理の知識と類まれな推理力とで解き明かす。

 「物理の知識」なんて聞くと頭を抱えてしまう私のような人は、推理なんて早々に放棄して、湯川の説明を聞こう。「天才物理学者」も近づき難いが、「理系オンチ」の草薙にする、湯川の説明はとても分かりやすい。また、段ボールの空気砲やらで草薙を歓迎する湯川はお茶目で、友達になりたいぐらいだ。著者は、事件の真相にそこはかとなく人情を絡ませていてうまい。

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ビブリア古書堂の事件手帖2

書影

著 者:三上延
出版社:アスキー・メディアワークス
出版日:2011年10月25日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「ビブリア古書堂の事件手帖」の続編。今朝の朝日新聞の読書面の「売れてる本」欄に紹介され、後ろのページに広告が載っていた。それらによると、シリーズ累計53万部で、10月刊行の本書もすでに22万部に達したそうだ。前作が20万部突破に5か月、今回はそれを大きく上回るハイペースだ。
 本書の人気の秘密の1つは、「本(のウンチク)を物語の中心に据える」という着想にある。しかしこれは同時に「縛り」にもなる。読んで「なるほど」と思わせるウンチクは、無尽蔵にあるわけではないだろうし、それを事件と絡めるのも簡単ではないからだ。だから私は第2巻を期待しながら心配もしていた。著者の抽斗にはまだウンチクは残っているのか?と。

 舞台も主な登場人物も前作と同じ。北鎌倉にある古書店「ビブリア古書堂」を舞台にした、そこの店員の大輔と店主の栞子の物語。本を巡って小さな事件が起きる。いや、見逃してしまえば事件にさえならない。それを栞子が、本の知識と洞察力によって解き明かしていく。
 前作の終わりで大輔はお店を辞めているのに、本書では冒頭から「ビブリア古書堂」で働いている。「色々あって一言では説明しにくい」という説明には苦笑してしまったが、後で少しだけ丁寧な顛末が紹介されていた。

 上で述べた私の心配は杞憂だったようだ。第2巻の本書では全部で4つの書籍が登場するが、どれもが「なるほど」と思わせる物語(ウンチク)をまとっていた。さらに個々の事件が、大輔の過去や栞子の母のことなど、別のストーリーを引き出すようになって、ドラマ性が増したように思う。第3巻は来年5月刊行予定。

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モダンタイムス(上)(下)

書影
書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:講談社
出版日:2011年10月14日 第1刷発行 10月21日 第2刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本書は、3年前に出版された単行本を文庫化したもの。単行本は2年半前に読んだ(その時のレビュー記事はこちら)。文庫化に際して行われた著者のインタビュー「文庫版「モダンタイムス」の秘密」を読み、大幅な改稿が行われていること、物語の「真相」を変えていること、著者は改稿でベストの形になったと確信していることを知り、文庫版も読んでみることにした。

 「大幅な改稿」ではあるけれども、物語のあらすじは変わらない。主人公はシステムエンジニアの渡辺。物語の冒頭は、渡辺が拷問を受けるシーン。その拷問の影には他人が羨む美人の妻。本書は初出が漫画雑誌への連載なので、恐らくその当時のままに、初っ端から突っ走り気味に始まる。
 その後の、先輩エンジニアの失踪、その先輩が残したヒントを基にした謎解き、渡辺自身が被った暴漢の襲撃、謎の団体である「安藤商会」との接触などの様々なエピソードも、ほぼ単行本と同じように積み重ねられる

 本書自体の感想の前に、単行本との相違について2つ。(支障のないように、上に紹介したインタビューの範囲で)1つめは「アリは賢くない。アリのコロニーは賢い」という言葉が、文庫版では強調されて、物語のキーワードになっていること。単行本でもアリのコロニーへの言及はあるのだけれど、文庫版のような強調はなかった。
 2つめは、過去のある事件の「真相」が変わっていること。渡辺が巻き込まれる形で近づいていくその事件の「真相」が、単行本と文庫版では違っている。私の感触では、この変更によって「真相」が、明らかになるどころか、より混迷を深めたと思う。私が見聞きした中に「単行本であやふやだった真相が、文庫版では明らかになっている」という捉え方をしている人がいるけれど、それは違っている。

 この2つの相違を踏まえて、本書の感想を言うと「まぁまぁかな」だ。勿体付けておいてあやふやな表現で申し訳ない。けれど「ベストの形になった」と言われて膨らんだ期待が、しぼんて腑抜けた感想になってしまった。
 変更点の1の「アリのコロニー」はとても良かった。変更点の2の「真相の変更」は功罪半ばした。「混迷を深めた」こと自体は、著者がテーマとして描く「社会を覆う巨大なシステム」の底知れなさが増して良かったのだけれど、その変更を物語に馴染ませるための無理を、あちこちで感じた。

 単行本では多くの謎が残っていて、それに少なからず不満を感じた。だから、文庫化で変更されたという「真相」を、(「過去の事件の」ではなく)この物語の「真相」のことだと勘違いしていたこともあって、その謎が明らかになって、パズルがピッタリはまるような「スッキリ」を思って、期待を膨らませてしまったのだ。
 つまり私自身が、「単行本であやふやだった真相が、文庫版では明らかになっている」という捉え方をしたクチだったわけだ。まぁ、これは全面的に私の勝手な思い込みだったわけだけれども。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
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マスカレード・ホテル

書影

著 者:東野圭吾
出版社:集英社
出版日:2011年9月10日 第1刷発行 9月21日 第2刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 文庫本で売上200万部を突破した「容疑者Xの献身」など、数多くのベストセラーをモノにしてきた著者の最新刊。

 主人公は、超一流ホテル「コルテシア東京」のフロントクラークの山岸尚美と、警視庁捜査一課の刑事の新田浩介の2人。都内で発生した連続殺人事件の捜査の結果、次の事件が「コルテシア東京」で起きることが判明。新田はフロントクラークに成りすましての潜入捜査を命じられ、尚美はその教育係。

 犯人はもちろん誰が狙われているかも分からない。いつ起きるかも分からない事件。そんな手探りの状態で、「怪しい人物」を発見するために、新田はフロントに立つ。しかしホテルには実に様々な人が訪れる。「怪しい人物」も数多く来る。
 部屋付きの高級バスローブをくすねようとする客、「この部屋には霊がたくさんいる」と言って部屋のチェンジを求める客、ホテルクラークに次々と無理難題を吹っ掛ける客、結婚式の新婦を狙うストーカー...。
 ちなみに、タイトルの「マスカレード・ホテル」の「マスカレード」は「仮面舞踏会」のこと。客は仮面を着けてホテルにやってくる。見えている姿が本当の姿とは限らない。

 こうした客たちを、尚美と新田の即席コンビが見事にさばいていく。その間の2人の心の通い合いが見どころの1つ。さらに一見して事件とは関係がない、客とのエピソードのそれぞれが、連続殺人事件とその解決に結びついていく。このパズルのような組み立てがもう1つの見どころだ。

 本書の公式サイトに、「加賀恭一郎、湯川学に続く第三の男、あらわる」とある。これはもしかして、「新田浩介シリーズ」の予告だろうか?

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謎解きはディナーのあとで

書影

著 者:東川篤哉
出版社:小学館
出版日:2010年9月7日 初版第1刷発行 2011年9月10日 第21刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 2011年の本屋大賞の大賞受賞作品。帯には「145万部突破!」の字が躍っている。そして10月18日からフジテレビ系列でテレビドラマ化されて放映される。主人公の麗子を北川景子さん、その執事の影山を嵐の櫻井翔さんが演じる。

 「お嬢様の目は節穴でございますか

 乱暴に言えば、広告のコピーに使われるこの一言が、本書を本屋大賞に、145万部の大ベストセラーに押し上げた、と言える。「お嬢様」に向けて放った言葉とはとても思えない、このギャップが気になって、そこに何か楽しいことを期待して、本書を読んだ人が多いだろう。かく言う私もその一人。

 麗子は東京多摩地区の国立署に所属する刑事。彼女は若くて綺麗なだけではなく、とんでもない金持ちなのだ。彼女は、金融、エレクトロニクス、医薬品などの巨大企業グループ「宝生グループ」の総帥の一人娘だ。そう、例の一言の「お嬢様」とは麗子のこと。
 若くて綺麗で大金持ちでも、刑事という仕事には特に役に立たない。彼女の上司の警部が(彼も社長の御曹司で、麗子には大きく劣るが金持ちなのだ)、刑事としては役立たずであることもあって、事件の解決が一向に捗らない。
 それで、家で夕食後にくつろいでいる時に、特に当てがあるわけではなく、執事の影山に事件のことを話した。思ったことをなんでもどうぞ、と麗子に促された影山が口にした言葉が、....。

 本書は、このような形で麗子が抱える事件を影山が推理する、というミステリー短編が6編収録されている短編集。それでそれぞれの事件の推理を披露する前に、影山が「節穴」だの何だのと、麗子に言うわけだ。当然麗子は怒りまくる。これが面白い。

 ただし「節穴でございますか」は第1編ではなく、後の短編で登場する。正直に言って、145万部に見合うほど面白いか、というと少し疑問。しかし、「節穴」を予想して第1編を読んでいたら、影山からはさらにギャップとインパクトが強いセリフが放たれて、不意打ちをくらった。その破壊力は抜群だった。

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ビブリア古書堂の事件手帖

書影

著 者:三上延
出版社:アスキー・メディアワークス
出版日:2018年9月22日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 書店で本書を見た時「あれ?!」と思った。「ビブリア古書堂の事件手帖」と書いてあって、それは「ビブリア古書堂」シリーズの第1巻のタイトルだけれど、表紙のイラストに栞子と一緒に、黄色い服を着た子供が描かれている。第1巻には少なくとも主要登場人物には子供はいない。不思議に思って、裏表紙の紹介を読むと、なんと新刊だった。

 「あとがき」によると、本書は「本編に盛り込めなかった話」や「大輔視点という物語の制約上語れなかった話」「それぞれの登場人物の後日譚」。全部で四話が納められている。栞子が自分の娘に語り始める、という形式で物語に誘導する。表紙の子どもは栞子と大輔の娘の扉子(とびらこ)だった。時代は第7巻から7年後の2018年、つまり現在。

 本には、出版の経緯や著者自身のエピソードなどの物語があると同時に、人の手を経て来た古書には持ち主にも物語がある、というのが、このシリーズのコンセプト。本作でもそれは発揮されている。長く絶縁していた叔父と姪、気持ちがすれ違ったままだった母と息子、魅かれ合う若者二人、それぞれの縁を古書がつなぐ。そうかと思えば、高価な古書を前に生じた気の迷いで道を誤る話も..。

 面白かった。特に大輔視点という制約を外したことで(正直言って、そんな制約があったのか?と思ったけれど)、自由な広がりが実現した。また、栞子と大輔が幸せそうでよかった。栞子の母の智恵子から栞子を経て扉子に受け継がれる、本への傾倒ぶりと能力は、もう怖いぐらいで、だからこそ今後の展開に期待が膨らむ。

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バスジャック

書影

著 者:三崎亜記
出版社:集英社
出版日:2005年11月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者が描くのは「当たり前でないことが当たり前の世界」。本書もそんな物語が7つ収められた短編集。すべて「小説すばる」に2005年に掲載された作品ながら、短いものは3ページ、長いものは約90ページと、長さはまちまちだ。

 「当たり前でないことが当たり前」で、現実を歪んだレンズを通して見ているような落ち着かなさを感じる。そこまではどの作品も共通なのだけれど、読後感で二分される。読み終わってスッキリとした作品と、そうでない作品だ。

 スッキリした作品は、まず最短の3ページの作品「しあわせな光」で、これは希望の中で終わる。次に短い4ページの作品「雨降る夜に」は、何となくホッとする。表題作の「バスジャック」は18ページ、ピタリと着地が決まった感じ。「動物園」は52ページ、幾分ムリ目な設定を何とか描き切った。
 そうでない作品は、まず冒頭の30ページの作品「二階扉をつけてください」。「歪んだレンズ」を一番強く感じる作品、著者には珍しいブラックユーモア。「二人の記憶」は17ページ、ハッピーエンドに見えるが、本当にそうだろうか?

 最長の約90ページの作品「送りの夏」は、著者の作品のもう一つの特徴である「喪失と回復」を描いたものだ。「喪失」を抱えた人々の寄り添うような暮らしを、小学生の少女の目を通して描く。ただこの物語は、着地がうまくいかなかったように思う。

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真夏の方程式

書影

著 者:東野圭吾
出版社:文藝春秋
出版日:2011年6月6日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者が生み出した天才物理学者の湯川の推理が光る、ガリレオシリーズの最新刊。長編では「容疑者Xの献身」「聖女の救済」に続く第3弾。

 今回の舞台は、玻璃ヶ浦という海辺の街。「玻璃」は水晶のことで、太陽に照らされた海の底が、いくつもの水晶が沈んでいるように見えることから、街の名前が付いた。言わばこの海は宝の海。しかしその宝の海を抱くこの街は寂れる一方だ。
 その街に降って湧いたのが海底資源開発の話。湯川はその調査の技術指導のために、この街に来た。そして開発に反対する女性、成実の両親が経営する旅館に泊まる。翌日、その旅館の宿泊客の男性が、堤防から転落した状態で遺体となって発見される..。

 今回の現場は警視庁の管轄ではない。これまでのシリーズに登場した、湯川の大学の同期で警視庁の刑事の草薙の出番はないかと思ったが、そんなことはない。被害者の身元から、事件は早々に警視庁へ東京へ、そして草薙へと結びつき、いつも通りの地道な活躍を見せてくれた。新人?の女性刑事の内海の捜査も頼もしかった。
 また、こちらはいつもと違って、子ども嫌いの湯川が、今回は小学校5年生の少年の恭平クンと気が合ったようだ。夏休みの自由研究の手伝いをしたり、宿題を教えてあげたり。「大学の物理学の先生に自由研究を手伝ってもらうなんて何と贅沢な」とか「湯川先生、実は子ども好き?」などと思ってしまった。

 伏線の仕込み方が見事だ。「そうだったのか」と何度もページを前に繰った。そして著者が繰り出す「新事実」に翻弄された。何かが分かる度に「そういうことか」と真相に近づいた気になった。しかしそれは真相の一部でしかないか、まったく真相とは関係ない、ということが最後まで続く。騙され通しの400ページだった。

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首なし騎士と五月祭

書影

著 者:ケイト・キングズバリー 訳:務台夏子
出版社:東京創元社
出版日:2011年5月13日 初版
評 価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 「ペニーフットホテル」シリーズの第4弾。「ペニーフットホテル」は、英国南東部の海岸沿いの小さな村バジャーズ・エンドにある、紳士淑女御用達の隠れ家的ホテル。時代は20世紀初頭。これまでも毎回奇妙な殺人事件が起きたが、どうも回を重ねるごとにその奇怪さが増している。今回の事件は「首のない騎士が現れて、女性を殺してポールに縛り付けた」というものだ。

 首のない騎士と聞けばオカルトかホラーかと思うが、おどろおどろしい雰囲気はしない。もちろん、殺人事件が起きたことは確かで、それも残虐な事件には違いない。しかし「首なし騎士」については、目撃者はホテルの常連客の退役軍人の大佐一人で、普段から言動が怪しい上に、その日は足元がおぼつかないほど酔っていた。
 誰もが彼の話を信じることに戸惑いを感じたが、大佐が「何か」を目撃したのは間違いないらしいのだ。ちょうど五月祭(英国では古代からの祭日)の直前で、事件が解決しなければ五月祭が中止になる。五月祭を目当てにくる宿泊客が多いので、ホテルの女主人のセシリーは、素人探偵よろしく聞き込みを開始する。

 前作「マクダフ医師のまちがった葬式」のレビューにも書いたが、このシリーズの魅力は、セシリーの活躍と登場人物たちが織りなすドラマにもある。そのドラマの方は、前作のように複数の同時進行ではなく、ピンポイントで展開する。私が前々から注目しているメイドのガーティに事件が起きる。

 これも前作のレビューにも書いたけれど。本書だけで物語は完結しているが、1作目から順に読む方が楽しめると思う。(もう少し安ければいいのだけれど)

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