3.ミステリー

バジャーズ・エンドの奇妙な死体

書影

著 者:ケイト・キングズバリー 訳:務台夏子
出版社:東京創元社
出版日:2009年9月11日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 「ペニーフットホテル受難の日」に続くシリーズ第2弾。時代は1906年、舞台は英国南東部の海辺の静かな村バジャーズ・エンド。主人公はその村のホテルの女主人セシリー。セシリーとその友人たち、ホテルの従業員らの個性が物語に活気を与えている。
 ホテルの中だけで物語が進行した前作と比べ、今回はバジャーズ・エンドの街に舞台が拡がって、人々の活気が感じられる。ティールームで紅茶とケーキとおしゃべりを楽しむ婦人たち、パブでビールを飲んでダーツに興じる男たち、百年前の暮らしが活き活きと目に浮かぶ。

 前作で描かれたホテルの中での殺人事件から数カ月足らず、今度は入り江の灯台建設の現場監督が自宅で不審死を遂げる。当初死因は心臓発作と見られていたが、全身が青く変色していてどうやら薬物による中毒死らしい。
 その後にも同様の不審死事件が起こり、セシリーの友人やホテルの従業員にも嫌疑がかかる。友人を大切にし、従業員を家族のように想っているセシリーは、支配人バクスターの制止も聞かず、真相究明のために行動を開始する。

 二転三転という感じの盛り上げ方はないものの、ミステリーとして「事件の犯人は誰なのか?」という、物語のタテ糸がしっかりしていることは言うまでもない。本書の魅力はヨコ糸とも言える、新旧とりまぜた登場人物たちが繰り広げる人間模様にもある。(愛すべきメイドのガーティにはもっとしっかりして欲しい)
 さらに、シリーズを通して描かれるのだろうと私が期待する、セシリーとバクスターの心模様からも目が離せない。セシリーの胸を小さくときめかせた一言が今回の進展。じれったくなるほど進まないのだ。
本書だけでも楽しめるが、前作から続けて読むことをおススメする。

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オペラ座の怪人

書影

著 者:ガストン・ルルー 訳:三輪秀彦
出版社:東京創元社
出版日:1987年1月23日 初版 1988年3月25日 4版
評 価:☆☆☆(説明)

 スーザン・ケイさんの「ファントム」を読んで、どこまでが原作の本書にあることで、どこからはケイさんの創作なのかが気になったことがきっかけで再読した。本書は、多くの映画化、ミュージカル化がされているが、私は20年前に劇団四季のミュージカルを観た。さすがに記憶はあいまいになっているが、いくつかのシーンは今でも思い出せる。

 物語は語り手(著者)によって行われた、30年前にオペラ座で起きた一連の事件の調査結果として語られる。事件を要約すると、オペラ座で不可思議な事件が続いた後、客席のシャンデリアの落下という痛ましい事故が起き、一人の歌姫が誘拐され、伯爵が謎の死を遂げ、弟の子爵が行方不明になった、ということだ。
 オペラ座での不可思議な事件を、様々な目撃証言を基に「オペラ座の幽霊」の仕業とする噂は当時からあった。調査の結果、その「オペラ座の幽霊」を知っているという「ペルシャ人」の証言と所有する証拠によって、事件の詳細な真相が幽霊の存在とともに明らかになった。

 事件の詳細はここでは書かない。本は読んでいなくても映画やミュージカルを観てご存じの方もいるだろうし。ただ、少なくとも私が観たミュージカルは、エリックのクリスティーヌへの愛を中心に据えた物語となっているが(だからこそ20年の時を超えて現在まで続くロングランになっているのだと思う)、原作は怪奇小説の色合いが濃い。
 だから、この原作を基に愛の物語が数多く作品化されたことに少し驚く。それにはエリックに対する共感なり理解が必要で、さらにそれにはエリックの生い立ちが重要になると思う。そしてそれは、エピローグの中にわずか2ページ、ペルシャ人の話として語られているだけなのだ。「ファントム」はここの部分をエリック一代記にまで昇華させたものと言える。
 また、本書は今年が発表からちょうど100年。あの2ページによって、スーザン・ケイさんに「ファントム」を書かせ、100年後にも熱狂的なファンを得る作品として残ったわけだ。

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ファントム(上)(下)

書影
書影

著 者:スーザン・ケイ 訳:北條元子
出版社:扶桑社
出版日:1992年7月15日 第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「雑読記」のあがささんに、ご紹介いただいて読みました。感謝。

 本書は、ガストン・ルルー原作の「オペラ座の怪人」の怪人(ファントム)エリックの、生い立ちからオペラ座の事件のその後までを描いた一代記。「オペラ座の怪人」は、エリックの最後の6ヶ月を描いたもので、そのストーリーには多くの謎めいた記述があり、エリックにはどんな過去があるのかと想像を逞しくしてしまう。著者はその想像を、恐らくはエリックへの愛を原動力として作品に書き上げたのだと思う。
 「オペラ座の怪人」は、何度も映画化され劇画になりミュージカルとして上演されている。それを観て仮面の怪人であるエリックのファンになったと言う人がたくさんいるらしい。著者もその一人で、巻末の作者覚書によると、1967年に発表された劇画を先に読んで、ファントムについてもっと知りたいと思ってルルーの原作を読んだそうだ。

 物語は、エリックの誕生の瞬間から始まり、幸せとは言えない、いやはっきり言って悲惨な少年時代、ローマでの建築の修行時代、原作でも触れられるペルシャ時代を通して、エリックその人がどのように形成されてきたかを丁寧に描く。原作でやや突拍子も無い印象を与える行動の理由が、本書には記されている。
 面白い物語だった。少年エリックの境遇には心が痛くなったし、ペルシャ時代は怪人の片鱗が感じられ、原作に登場する謎の人物「ペルシャ人」の正体も明らかになった。怪人(ファントム)の一代記としてとてもよくできた作品だ。

 ただ私は最後までエリックを好きにはならなかった。著者のエリックへの愛が勝ちすぎて、エリックが何をしようと許してしまうかのようなのがその理由。生来背負うことになった醜さ、それ故の悲惨な少年時代が人間形成に影響を与えていることは分かる。しかし、それは免罪符にはならない、と私は思うのだ。
 本書はエリックが好きかどうかで感想が変わる。「オペラ座の怪人」を観たり読んだりして、エリックのファンだという人に強くオススメ。エリックの過去に興味があるという人には普通にオススメ。

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死神の精度

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:文藝春秋
出版日:2008年2月10日 第1刷 3月5日 第3刷
評 価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎作品。2003年から2005年にかけて発表された表題作を含む連作短編が6編収録されている。今回の主人公は「死神」。取り憑かれれば死期が近いという、なんとも不吉な主人公なのだが、著者の手にかかれば「こんなヤツならいてもイイかな?」なんて思ってしまう。

 主人公の死神の名前は千葉。そう死神にも名前があるのだ。仕事をする時の仮の名前なのだが、なぜかみんな市や町の地名になっている。仕事?そう死神にも仕事がある。仕事だけじゃない、監査部とか情報部とかの部署があって、分担して人の死に関する仕事をしている。
 そして千葉は調査部の一員だ。調査部の仕事は、情報部が選抜した人間を調査して、「死」を実行するのが適当かどうかを判断して、結果を監査部に報告することだ。判断はそれぞれの裁量に任されているし、よほどのことが無い限り「可」の報告をすることになっている。やっぱり、彼らが近くに現れたら死を覚悟した方がいいらしい。
 だから彼ら調査部の死神は「死の前触れ」ではあるけれど「死の原因」ではないのだから怨んだって仕方ない。とは言え「こんなヤツなら~」とはとても思えないところだが、なんかイイのだ。千葉には悪意が全くない(「助けてあげよう」とかいう優しい気持ちもないけれど)ところがイイのかも。頼まれたことは、やってあげてしまうところかもしれない。

 伊坂作品の魅力は、シャレたセリフと登場人物にあるが、本書も同じ。千葉が、仕事をする時には必ず雨が降ると言うと、調査対象の女性が「雨男なんですね」と答える。千葉がそれに返した言葉は..。彼の素朴な疑問の数々には思わずニヤリ。登場人物でいうと、最終話の美容院のおばあちゃんがイイ。年をとると何でも見通せるようになるらしい。伊坂ファンへのサービスエピソードもある。

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誇りと復讐(上)(下)

書影
書影

著 者:ジェフリー・アーチャー 訳:永井淳
出版社:新潮社
出版日:2009年6月1日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 1年ぶりのジェフリー・アーチャー。今年6月に発行された新作。1年前にも書いたが、10年ほど前までは次から次へ貪るように読んで、新潮文庫の著者の小説は全部読んでしまった。1年前の「ゴッホは欺く」が、正直言って少し期待ハズレだったこともあって、6月に出たのは知っていたのだけれど、ちょっと静観していた。

 それで、本書は面白かった。「ゴッホは欺く」と比べて随分と楽しめた。著者の作品の特長は、逆境や絶体絶命の状況にある主人公が、相手にトリックをしかけて見事に逆転する「騙しのテクニック」にある。相手だけでなく読者まで騙してくれる。「もっとうまく騙して欲しかった」というのが前作の感想だが、今回はうまく騙してくれた。

 主人公はダニー。ロンドンのイーストエンド、いわゆる下町の自動車修理工だ。彼が幼なじみで恋人のベスと結婚を約束したその夜に、ベスの兄のバーニーを殺した容疑者にされてしまう。容疑者としてまた裁判の証人として真実を話すダニーとベスだが、陪審員にはその声はなかなか届かない。真犯人は新進気鋭の法廷弁護士、敵のホームグランドで戦っているようなものなのだ。

 目次を見ると「裁判」「刑務所」「自由」「復讐」..と、物語のほとんどが分かってしまう感じがする。無実の罪を着せられた主人公が、真犯人に迫る物語。解説にも「古今東西..軽く数千のオーダーはあろうか」とある。数千はさすがにムリだけれど、小説やドラマ・映画でいくつかは思いうかぶ。
 しかし、本書はそんな中で頭抜けて巧みなストーリーだ。その一端は著者の経験によるものだろう。著者はが詐欺事件の被害者であるだけでなく、偽証罪の有罪判決を受けた経験まで持つ。本書の前半の舞台である「ベルマーシュ刑務所」は、なんと著者自身が収監されていた刑務所なのだ。
 ダニーの周囲に善意の人が多く、少し幸運すぎる感じがしないでもないが、ヒーローに幸運はつきものだ。サスペンスと法廷劇がたっぷりと楽しめる。オススメ。

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何か文句があるかしら

書影

著 者:マーガレット・デュマス 訳:島村浩子
出版社:東京創元社
出版日:2009年6月30日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 著者のデビュー作。2003年の英国推理作家協会のデビュー・ダガー賞にノミネートされた作品。デビュー・ダガー賞というのは公募の未発表作品に対する賞。要するに新人作家の登竜門のような位置付けなのだろうと思う。
 ノミネート作品であって受賞作ではないし、「セレブ探偵と旦那様の華麗なる(?)活躍」という帯の惹句からは、何だか薄っぺらい「主婦探偵モノ」が想像されたのだが..、これは面白かった。

 主人公チャーリーは「小国の財政をまかなえるほど」のサンフランシスコに住むお金持ち。「それなのに」と言うか「それなので」というか、「西半球でいちばん恋愛が困難な女」と言われ、結婚なんてしないと思われていた。その彼女が知り合って6週間のジャックと、ロンドンで電撃結婚して帰国する飛行機が冒頭のシーン。
 それで帰国して泊まったホテルの浴槽に女性の死体があったり、従姉妹が誘拐されたり、出資する劇団にトラブルがあったり、と事件が次々と起きる。それを、チャーリーが持ち前の行動力と機転で次々と見事に解決...、という話ではない。それでは薄っぺらい「主婦探偵モノ」だ。(それでも、その主婦がゴージャスな女性というだけで、テレビではウケそうだけれど)

 ではどういう話か、を言ってしまっては、読む楽しみが半減してしまう。サイコ殺人と007シリーズをミックスして、米国流のジョークをまぶして、カラっと揚げたような作品とだけ紹介しておく。
 ところで、原題は「Speak Now」キリスト教式の結婚式で読みあげられる「この結婚に異議のあるものは、いますぐ申し出なさい」という意味の言葉。知っているとより物語が楽しめるかも。

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魔王

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:講談社
出版日:2008年9月26日 第2刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「モダンタイムス」から遡ること約50年。本書の初出の2004~2005年とほぼ同年代、つまり現代が舞台。正確に言えば本書が先にあって、「モダンタイムス」がこれに続く作品。この順で読むほうが良いのだろう。私は、読む順番が逆になってしまったけれど、「モダンタイムス」に出てきた登場人物や、その口から語られるエピソードなどが本書に登場していて、これはこれで楽しめた。

 「魔王」と「呼吸」の2編の中編が収められている。2編の間には5年の歳月があって、主人公も違うのだがひと続きの物語になっている。「魔王」の主人公は安藤、システム開発の会社に勤めている。ある日、自分には不思議な能力があることに気が付く。自分が念じた言葉を、誰かに話させることができるのだ。
 時代は不穏な時代だった。景気は回復せず、中東の紛争が長引き、中国との関係はギクシャクし、米国には頭が上がらない。失業率が史上最悪を更新、与党の支持率が低下、そして衆議院が解散、野党に国民の期待が集中する...これはいつのこと?もしかして今?...そんなはずはない、上に書いたように本書の初出は2004年だ。
 しかし、読み進めれば読み進めるほど、現在のことを言っているのではないかと思ってしまう。分かりやすい言葉と「世論」という洪水に乗せられて、国民が一つの方向になびいてしまう。「考えろ」が身上の安藤は、そんな世の中に不安を感じて、衝き動かされるように行動を開始する。

 これは、面白かった。著者の他の作品とは何か違うものを感じた。村上春樹氏の「コミットメント」という言葉が連想される。著者はあとがきで「(政治的な)特定のメッセージを含んでいない」と断ってある。これは、何かのメッセージが読み取れてしまうからこそ、こういった断り書きが必要になったのだろう。「考えろ」。これは、安藤の口から再三発せられるほか、「呼吸」では思わぬ人物が熱を込めて語る言葉だ。
 タイトルの「魔王」はシューベルトの歌曲の名から取られている。薄学な私は知らなかったが、子どもが「魔王がいる」と訴えているのに、父親は気付くことができず「あれは柳の木だ」とか都合の良いように解釈しているうちに、子どもの魂は魔王に連れて行かれて息絶えてしまった、という悲劇だ。

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ペニーフットホテル 受難の日

書影

著 者:ケイト・キングズバリー 訳:務台夏子
出版社:東京創元社
出版日:2009年5月15日 初版
評 価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 海外のテレビドラマのような本だった。「犯人は誰だ」的な軽めのミステリーだ。テレビの場面転換を思わせる短めの章建て。個性的なキャラクターたち。活動的な女性の主人公。それを忠実に支える男性。日本に設定を変えて2時間ドラマにしたらウケるかもしれない。

 舞台は、英国南東部の海岸沿いの小さな村。時代は1906年、5年前に即位したエドワード王時代。と言ってもピンとこないと思うが、エドワード王時代の前が英国の絶頂期と言われる「ヴィクトリア朝」時代。だから、国は繁栄していたけれど、階級社会であり女性には参政権もなかった時代だ。
 そして主人公は、亡夫からこの海辺のホテルを受け継いだ女主人セシリー。ホテルは取り立てて何もない村のホテルだが、上流階級の人々に人気で、良いお客に恵まれてそれなりに繁盛している。プライバシーが守られ、従業員の口が堅いことが、お忍びの旅行に最適というのが人気の理由。ただし、登場する個性豊かで詮索好きなメイドたちからは、そんなことは想像できないけれど。

 そのホテルである日の夕方、宿泊客の1人が遺体で発見される。どうも手すりの壁が崩れて屋上庭園から落ちたらしい。事故ならホテルの管理責任を問われる。殺人事件なら...。
 というわけで、セシリーは警察が到着する前に(田舎なので警察もすぐには来ない)、事件の真相を解き明かそうと、支配人のバクスターの助けを得て行動を開始する。バクスターは亡夫の時代から忠実に仕えてきた。そしてセシリーが何かしようとするたびに「ご婦人がそのようなことをなさっては..」と止めるのだが、結局はいつもセシリーの指示通りに協力する。

 舞台は英国ながら、本書が書かれたのはアメリカ。そのアメリカでは1993年の本書の発表以来人気シリーズとなって、12作で一応の完結を見たものの、ファンの声の後押して今でも年に1作が発表されているという。日本語の第2作がこの秋に刊行予定というから楽しみが1つ増えたというものだ。

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陽気なギャングが地球を回す

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:祥伝社
出版日:2003年2月20日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの単行本としては3作目になる作品。「長編サスペンス 書下ろし」と表紙に小さく書いてあるが、私にはライトなコメディに思えた。現場で必ず演説をぶつ銀行強盗なんて、コメディでなければ何だというのだろう。そう、本書は銀行強盗の話。それも何とも軽いノリの4人組の銀行強盗が主人公。それでいて成功率は100%だ。

 演説をぶつのは響野。口から出るのはウソばかりという男。でも仲間を裏切ることはしないし、自分にウソは付かない。真っ直ぐなヤツなのだ。彼の昔からの友人でもある成瀬はウソを見抜く名人。ウソつきとウソを見抜く名人の組み合わせとは相性が悪い、いや逆に抜群に良いのだろう、2人のコンビは息が合っていて最高だ。
 この2人と久遠と雪子の4人組と響野の妻や雪子の息子らが、組み合わせを変えて登場する短めの場面がドンドン展開していく。テンポが良くて会話が面白いのでアッと言う間に読み進んでしまう。映画化されたのだが、映画の長さは90分あまり。あとがきによると、著者がそのくらいの長さの映画が体質にあっていると言い、ふと「そういうものが読みたくなり」書いた話らしい。コンパクトな話なのは、著者自身の狙いでもあったわけだ。

 今年は、著者の作品を意識的に多く読んでいる。最近のものを読んだり本書のようにデビュー間もない頃のものを読んだり。その中で本書はおススメの1冊だ。伊坂作品の中で最初に読むとしたらこの本がイイかも。なぜなら本書は読者を選ばない。会話は面白いし、伏線は活きている。でも伏線の複雑さはホドホド、ついでに不思議さもホドホド、悪意や暴力もホドホド。伊坂作品の特長がホドホドに入っていて、万人にウケそうなので入門編として最適だ。

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モダンタイムス

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:講談社
出版日:2008年10月16日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの単行本の最新刊。漫画週刊誌「モーニング」の2007年4月~2008年5月に連載された小説に加筆修正したもの。短めの章が56章もあるのは、週刊誌の1回連載分が1つの章になっているからだろう。帯に「伊坂作品最長1200枚」とあり最長編になるらしいが、長く感じられないのも短い章の連続のテンポの良さのためだ。「全力疾走した短いお話を56個積み重ねたかのような」と著者も評しているが、まさにそんな感じ。

 主人公は、中堅のシステムエンジニアの渡辺。日々、顧客や営業部門から要求されるムリ目のシステム開発を、睡眠時間と健康を削ってこなしている。彼には他人が羨むような美人の妻がいる。物語の冒頭は、渡辺が拷問を受けるシーンだ。なんとショッキングな。主人公に拷問だなんて。しかも、その拷問の影には美人の妻がいるらしい。いったいどうなってるんだこの話は、という思うほどに初っ端から突っ走り気味に始まる。
 さらに、渡辺の周辺で不可解なことが連続して起きる。連絡がさっぱり取れないシステム開発の発注元の会社。先輩エンジニアの失踪。渡辺自身も暴漢に襲われる。そのカギは宣伝文句にもなっている「検索から、監視が始まる。」だ。どうやらインターネットでの検索を誰かが監視しているらしい。

 「伊坂さんにはまる」と宣言して旧作を中心に何冊か読んできた。最新刊も気になっていたので読んでみたというわけだけれど、本書はちょっと私の好きな伊坂作品とは趣がちがった。面白くないわけではない。「勇気は実家に忘れてきました」なんてセリフもあきれてしまうが何故か好きだし。
 でも、伊坂作品の醍醐味は、緻密に張り巡らされた伏線にあると思っている。騙し絵のように読者を欺くミスリードの巧みさが特長だと思っている。だから「ゴールデンスランバー」以降、伊坂作品は1行も読み落としがないような読み方をしていた。ところが、本書にはそういったものが、私が見たところ見当たらない。
 (私の見落としという可能性も十分あるが)恐らくは、漫画週刊誌への連載という形式が影響しているのだろう。著者あとがきには、「毎回、担当編集者と打ち合わせをし、次号の内容をそのつど決めて..」とあり、全体を俯瞰しての伏線という仕込みはできなかったことが伺える。こういう小説の書き方は、著者に限って言えば向いていないと言うか、もったいないとに思うが、どうだろうか?

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