6.経済・実用書

フリー <無料>からお金を生み出す新戦略

書影

著 者:クリス・アンダーソン
出版社:NHK出版
出版日:2009年11月25日 第1刷発行 2010年1月10日 第5刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「<無料>からお金を生み出す」といっても、錬金術まがいの怪しげな本ではない。「ラクして儲けよう」というお気楽な本でもない。念のため。

 "There is no such thing as a free lunch."という言葉をご存知だろうか?普通に「タダのランチなんてものはない」と訳せばいいのだが、「タダのものには裏がある(から気をつけろ)」という格言でもあり、「タダのように見えてもどこかで対価を払っているのだ」という経済用語でもあるらしい。いずれにしても「Free(無料)」という価格には懐疑的な目が向けられている。
 そして本書は、タイトルの通りこの「無料」を正面から考察したものだ。結論から言えば「無料」をベースにしたビジネスモデルが、極めて控えめに見積もって現在世界で3000億ドル、今後はさらに急拡大する、というのだ。もちろん「無料」がどんなに積み重なっても1ドルにもならない。そこには、経済用語としての上の英文が示すようなカラクリがある。

 例えば「ゼロ円ケータイ」。本体は「無料」だけれど通信費等としてその費用を負担している。例えば「Google」。検索以外にもメール、ドキュメント、画像加工ソフトなど多くのサービスを「無料」で提供しているが、広告費やデータ提供で莫大な利益をあげている。例えば「ソフトの体験版」。機能や期限を制限したものを「無料」で提供し、有料版の購入を促すビジネスモデルだ。
 どれも既にありふれたもので、今さら「カラクリ」なんて秘密めいた言い方をしなくても良いようなものだ。しかし本書には「音楽CDがタダになる」「大学の授業がタダになる」「航空料金がタダになる」「車がタダになる」..というコラムが未来予想ではなく実際の事例としていくつも載っている。こうなると「ありふれた」とは言えない。
 また著者は、最後の「ソフトの体験版」モデルを「フリーミアム(Free、無料)+(Premium、割増)」と名付けて重要視している。実際、本書自体が発売に先立って、先着1万人に全編を無料公開するという実験がされている。現在(2010年3月14日11:00am)Amazonの本ランキング8位、実験の結果は上々だったようだ。

 著者はこの「無料の経済」について「これまではキチンと研究されてこなかった」と言う。それは「無料」を伝統的な経済学が捉えられなかったからだ。本書でも言及されているダン・アリエリーの著書「予想どおりに不合理」で、「無料」が持つ力が実験で証明されているが、これには行動経済学という分野の成立まで待たなくてはならなかった。
 また「ネットの発達で様相がガラリと変わっている」とも言う。著者は「ビット経済」と呼んでいるが、商品がデータ(ビット)化されると、再生産と流通のコストが事実上ゼロになる。従来型商品では無料サンプルもコストがかかるので配る数には制限があった。しかし「ビット商品」なら無制限に配布できる。
 「ビット商品」には負の面もある。海賊版も無制限に配布できる、ということだ。これへの対抗策が本書のプロローグに載っている。コメディユニットのモンティ・パイソンのメンバーが、YOUTUBE上の大量の著作権侵害に打ち勝った方法だ。ここの部分だけでも「無料の経済」に今後の何か重要なヒントがあることが感じられて、続きが読みたくなる。もしかしたらこれも、「無料(立ち読み)」+「割増(本の購入)」という「フリーミアム」モデルなのかもしれない。

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ザ・チョイス 複雑さに惑わされるな!

書影

著 者:エリヤフ・ゴールドラット 訳:三木本亮
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2008年11月7日第1刷発行
評 価:☆☆(説明)

 著者のことをご存知ない方のために、少しご紹介する。著者はイスラエルの物理学者。ご自分のことを「科学者(Scientist)」と表現することが多い。その科学者である著者が編み出した、生産管理手法のTOC(Theory of Constains:制約理論)を小説の形式で紹介した作品「ザ・ゴール」が世界的なベストセラーになった。
 生産工程で全体のスループットに最も制約を与える「ボトルネック」に集中するTOCは、大変な衝撃を持って産業界に迎えられた。「こんな理論は当たり前のことだ」とうそぶく向きもあったようだが、即効性があって実践も容易なシンプルな理論で「目からウロコが落ちる」とはまさにこのこと。実は私も生産管理を学んだことがあるのだけれど、こんな話は聞いた事もなかった。
 その後、「ザ・ゴール2」「チェンジ・ザ・ルール」「クリティカル・チェーン」と作品を重ねて、TOCは生産管理だけでなく、セールスやプロジェクト管理、思考方法にまで範囲を拡げてきた。そして、本書のテーマはさらに拡がって「組織や人間関係をよりよくする哲学、アプローチ方法」だ。

 身もフタもない言い方をすれば、本書は駄作だと思う。著者の科学者としてのメッセージは分かる。それは「一見複雑に見えるモノも、実はシンプルなのだ」ということだ。そしてそれを複雑に捉えて混乱させる壁がこれこれで、こうすればその壁は打ち破ることができる、ということが書かれている。
 物理学者である著者は、自然科学のコンセプトや手法が社会科学にに応用できるという信念を持っている。特殊相対性理論の関係式が「E=mc2」というシンプルな式で表せるように、複雑に見える社会もシンプルなのだ、というわけだ。そして、その信念はこれまでに生産管理やセールスやプロジェクト管理という社会科学の範疇で実績を上げている。それは素晴らしい功績だと思う。

 それなのに今回は駄作だと思う理由は「説得力がない」ことだ。その原因は「変革の現場」に読者が立ち会っていないからだ。今回は「よりよい人生を送るためにはどうしたらいいの?」という娘の問いかけに、ゴールドラット博士が答える形式になっている。父娘の対話の合間に、「これを読んでごらん」と言って、ゴールドラットグループのレポートが提示される。
 これまでの作品が、管理手法の解説書としては異色の小説仕立てであることは、その成功の大きな要因だった。読者は、その手法を導入する現場を、様々な想定される反発や困難も含めて体験することで、よりその実効性の確信を深めていくからだ。
 それなのに今回は、その現場はレポートで示されるの。「このような反発が予想されましたが、先方のメリットをしっかり伝えることで、前向きに取り組んでいだだけました。」なんて要約されたものを見せられても説得力がない。☆2つは、私としてはあまり付けない低い評価なのだが、私の「ガッカリ度」を表していると思ってもらいたい。

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ツイッター 140文字が世界を変える

書影

著 者:コグレマサト いしたにまさき
出版社:毎日コミュニケーションズ
出版日:2009年10月20日 初版第1刷 2009年11月5日 初版第3刷 
評 価:☆☆☆(説明)

 R+(レビュープラス)様にて献本いただきました。感謝。

 本書は「ツイッター(Twitter)」をまだ使っていない人に紹介する本。ツイッターとは、ユーザーがネットに140文字以内の「つぶやき」を投稿、それを別のユーザーが閲覧することで、コミュニケーションが発生するサービス。今年9月の利用者は国内で257万人、世界では5840万人もいる。

 そのツイッターの日本での歴史から始まって、「ツイッターとは?」「~を楽しむためには?」などを章ごとに説明する本書は、正にツイッターのガイドブック。特に、勝間和代さんや広瀬香美さんら著名人が演じた出来事を活写した部分は秀逸。読者はこんな場面に自分もぜひ遭遇したい、と思うに違いない。
 ただ、著者も「一度経験して分かってしまえばすごく簡単なサービス」「経験のない人に説明するのがこれほど難しいサービスも珍しい」と書いているように、どんなに親切に上手に説明したとしても、読者がツイッターの魅力を感じるのは難しい。一言で言ってしまえば「やってみた方がいい」ということだ。

 実は、私もやってみたことがある。勝間さんらが使い始めたことを知って登録したのだ。すぐに「さてこれからどうするか」とつぶやいたのだけれど、その後には沈黙と寂しさが..。本書には「月面に一人着陸したような孤独感」という表現があるが、周囲は盛り上がっているので「雑踏の中の孤独」に近い。
 何の手引きもなしに飛び込むと私のようにひとりぼっちにされてしまう。手を引いて教えてくれる人がいればいいのだけれど、そういう人がいないのなら本書の第3章「ツイッターを楽しむためには?」を読もう。少なくとも「これからどうするか」はそれで分かる。その先には面白い世界が待っているはずだ。

 140文字ぐらいでは大したことは言えない、と思う方もいるだろう。しかしそうでもない。実は、この記事は最初の1行と英文以外の段落が全部140文字でできている(お時間のある方は数えてみてほしい)。「つぶやき」と呼ぶにはかなり長い。ある程度まとまった情報を伝えることができる量だと思う。
 本書にも書いてあるが、日本語は英語より140文字で伝えられる情報量が多いようだ。戯れにこの記事の一段落を英訳したら(下の英文。文法には自信なし)282文字もある。だからツイッターは日本では情報ツールとして独自に発展する可能性がある。本書タイトルどおり「世界を変える」かもしれない。

 This book introduces “Twitter” to who haven’t used it yet. Twitter is the service that makes communications by that one user posts “tweet” up to 140 characters to the net and the other see it. There are 2.57 million visitors in Japan and 58.4 million in the world in this September.

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グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業

書影

著 者:夏野剛
出版社:幻冬舎
出版日:2009年7月30日 第1刷発行
評 価:☆☆(説明)

 著者は怒っている。己の実力を顧みずにウェブビジネスを始めた企業に。また、店頭販売への悪影響を気にしてウェブの価格をそれ以上に安くしない企業に。さらに、ウェブ広告の方が効果があるのにマス広告を出す企業に。その他にもうまくウェブを使いこなしていないあれこれに対して。そして、こんなことも分からない経済界や政界のリーダーたちに対して怒り、最後には、50代以上の経営者らリーダーは「早く退くこと」が唯一の処方箋だし最大の貢献だ、と言う。(「50代でも先進的な方もいる」と後で補足はしているが)

 著者はNTTドコモでi-modeやおさいふケータイの事業を立ち上げて成功させた立役者だそうだ。まぁ、自分が一人で全部やったとでも言うかの物言いはどうかと思う。でも現代は「プレゼンテーション時代」、このくらいの自己PRができなくては頭角を現せないとして認めるとしよう。
 確かに、現在の企業のウェブへの取り組みは中途半端なものが多く、単独のビジネスとして成り立っているものは少ないのだろう。MBAを持っていてマーケティングの専門家である著者にしてみれば苛立ちがあるのは分かる。しかし、著者がそれだけの成功の仕掛け人であるならば、もう少し独自の切り口からの分析なり提言なりが欲しかったと思う。どこかで他の誰かも言っているような話が多く、オリジナリティが感じられるのは、上に書いた「早く退くこと」という提言ぐらいだった。

 このように書くと悪い印象しか残らないかもしれない。確かに期待したものと違ったし私には合わなかった。しかし言い換えれば、本書の内容は教科書にしたいぐらいのスタンダードなウェブビジネスの分析だ。タイトルから感じられる剣呑な雰囲気そのままの本だけれど、ウェブビジネスがうまく行かない理由が知りたい方には参考になるかも。

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「場回し」の技術

書影

著 者:高橋学
出版社:光文社
出版日:2009年7月25日
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の高橋学さんからいただきました。高橋さん、どうもありがとうございました。

 著者は「やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている」の共著者でもある、この本はその前の「結局「仕組み」を作った人が勝っている」と合わせて7万部というから、ベストセラーと言っていいだろう。
 テーマを設けて多くの取材を行い、それに考察を加えて読者に届ける姿勢は、とても誠実だ。公式サイトの著者紹介によると、著者の肩書は「ビジネススキル発掘ライター」。ご自分の立ち位置が明確な良いネーミングだ。

 今回のテーマとなっている「場回し」とは、テレビ業界で使われる用語だそうだ。「場回しがうまい」とは「うまく仕切る」こと。トーク番組などの司会者の仕事ぶりを評するときに使われる。
 これをビジネスの場などに転用して、「3人以上」が集まる場で「全員」が1つの目的・目標に向かって「ポジティブ」に参加している状態、をつくる技術を紹介している。「場回し名人」と呼ばれる達人からの取材で得た技は27個。使える場面は「会議」「セミナー」「チーム」「飲み会」と大変幅広い。

 書かれているものの多くは「場回し」ならぬ「気回し」の技だ。例えば、表情やしぐさを見て付いて来ていないと思ったら重点的に質問する「ピンポイントケア」、気の合いそうな者同士を近くに座らせる「プロファイリング席次」。「目配り・気配り」なんて「気回し」そのものの名前の技もある。
 「こんなの思いもよらなかった」という技は多くないが、大事なのは目新しい知識を仕入れることではなく、自分で使ってみることだ。私も講演やセミナーの講師をするし、小さいながらも施設の責任者に収まっているので、まずはチームワークに大切な「アクティビティ」あたりから使ってみようと思う。

 使ってみる、という意味では、著者は「場回し名人」からの直伝の技を実際に使い、それをレポートしている。その結果、この道をきわめつつあるそうだ。新しいスキルを身につけてさらに有益なビジネススキルを発掘して欲しい。期待してますよ、高橋さん。

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聞き手を熱狂させる!戦略的話術

書影

著 者:二階堂忠春 田中千尋
出版社:廣済堂あかつき
出版日:2009年6月17日 第1版第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の二階堂忠春さんから献本いただきました。感謝。

 本書は、NLPというコミュニケーション心理学をベースに、米国のオバマ大統領の演説を分析しそれを例として、聞き手の心をつかむための7つのテクニックを紹介したものだ。NLPというのは、Neuro(神経)、Linguisitic(言語)、Programming(プログラム)の頭文字をとったもの。五感による自分や他人の世界の知覚(N)、言語による意味付けや行動と思考に与える影響(L)、行動に至る内面の思考プロセス(P)を理解して、コミュニケーション技術の向上を目的とした方法論の研究、と私は理解した。

 優れて実用的な本だと思う。7つのテクニックとして書いてある「目的を定める」「(相手に)近づく」「ストーリーを語る」等々は、知っていることが多く目新しいことはほとんどない。しかし、コミュニケーションというものは、日々多くの人が行っているので、皆が体験に知っている。本書はそれをテーマとしているのだから、目新しいものがあまりないのは当たり前で、仕方がないことだ。
 問題は「知っている」のに「できない」ことを、どうやって「できるようになる」かなのだ。その点、本書はオバマ演説という教材を使って例示しながら、要所で書き込み式のワークシートを用意して「できるようになる」ことへの誠実なこだわりを感じさせる。だから実用的だと思うのだ。

 現代は一面として「プレゼンテーション社会」だと思う。職を得るための面接。上司や同僚、部下、顧客を相手にした説得や交渉。ご近所付き合いも買い物も然り。自分の言いたいことを効果的にアピール(プレゼン)できないと生きづらい世の中になっている。(「不器用っすから」なんて言っている寡黙な健さんは、就職できないのだ。)
 個人的には、アピールが下手でも弾かれない社会の方が余裕があって良いと思うのだけれど、そうも言っていられない。自分の話を少しでもより魅力あるものにしたいと思う方は、手にとってみてはどうだろうか?
 最後に、上に「目新しいことはほとんどない」と書いたが、「ほとんど」のわけは少なくとも1つは目新しいことがあったから。それは「未来ペーシング」だ。実は私は研修講師もしているのだけれど、次回の研修で使ってみようと思っている。

 この後は書評ではなく、別の視点からの考察を書いています。興味がある方はどうぞ

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(さらに…)

断る力

書影

著 者:勝間和代
出版社:文藝春秋
出版日:2009年2月20日 第4刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「勝間本」という言葉があるほど、著者は多くの本を出し、そしてそれが売れているらしい。私は、一人がそんなに多くの(何十冊もの)「意味あるメッセージ」を発せられるものか疑問で、勝間氏とはどんな人なのだろうと訝しく思っていた。
 でも、その人の本を読めばその人の考えがある程度わかると考えて、「訝しい」も含めて興味を引いた人の本を読むようにしている。それで、書店の「勝間本」コーナーでタイトルを眺めて、一番目を惹いた本書を手にとって読んだ。

 本書から見てとれるものは、強い目的性だ。目的(「スペシャリティになる」というのが1つの目的として提示されている)が達成されるかどうかを追求し、それが行動の判断基準となっている。そして、(1)目標達成のためにはそれに掛ける時間が必要→(2)1日は24時間しかない→(3)無駄なことにかける時間はない→(4)無駄な依頼を「断る力」が必要、という論法が展開されている。
 特に異論はないように見えるが、目的達成の過程で「断る」ことによって人間関係が壊れるなどのマイナスがあっても、それはリスクだと割り切って引き受けるべし、と言われると、私のような慎重派は戸惑ってしまう。
 途中で「リスク・ミニマイズ」と「リターン・マキシマイズ」という考えの対比が出てくる。「リターン~」例は小泉首相、「リスク~」例は福田首相。小泉さんのように少々嫌われようが熱烈なファンを得る方が正しい、さまざまな弊害が指摘されながら高い経済成長が達成されている、ということだ。

 ところで、私は面白いことに気がついた。「断る力」の「力」を"Power"ではなく"Ability"と捉えると見え方が一変する。本書では「断る」ことの効用を説いたり、DV被害を引き合いに出してまで「断らない」ことが招く事態を悲観したりして、その「Power(威力)」を強調している。しかし「断る」ことのマイナスに目が行ってしまうと、私のようにどうしても素直に受け入れられない。
 実は著者はこの「断る」ことのマイナスについて、ある程度は避けられないリスクだとしながらも、徒に反感を買わないように、とも言っている。そのために「よりよい代替案を提案する」「自分の軸をしっかり持つ」なども提示されている。「断る」こと以上に、こういった断るための「Ability(能力)」を身に付けることが重要なのだ、と思えばどうだろう。
 さらにその目的は、この力を身に付ければ、自分の行動やもっと言えば人生を、自分でコントロールできることだ。もはや「断る」に重点はないので、そのマイナス面の「人間関係を壊す」ことは大きな争点ではなくなる。これなら私も素直に受け入れられる。もっとも、こんな内容にしてしまうと本の企画としては失敗だ。凡庸な自己啓発本と変わらず、「断る」という言葉の持つ強さも活かされない。悩ましいが、本書の内容のほうが「リターン・マキシマイズ」だ。

 著者のことを「訝しい」と思ったことから本書を手に取ったわけだが、読み終わってその気持ちはほとんどなくなった。著者は「リターン・マキシマイズ」な生き方を身上にしている。それが万人にとって最上の生き方ではないと思う。しかし語られていることは自分の体験から導かれたものでウソはない。その意味では信用していいのだと思う。

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14歳からの世界金融危機。

書影

著 者:池上彰
出版社:マガジンハウス
出版日:2009年3月23日 第3刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 最近は、「簡単」で「すぐ読める」本がバカ売れすることがあり(「1Q84」はこれに当たらないが)、あらすじで名作を読もうという本まである。私はこうしたお手軽な本には、否定的な感想を持っていた。簡単にしたことで重要なものが抜け落ちて、それがないと物事は全然違って見えるかもしれないからだ。
 そこへ来て本書は「45分でわかる!」と銘打ったシリーズの1番手。さらに、先日本書の著者による本書をベースにしたと思われる、「池上彰のやさしい経済教室」なる記事が朝日新聞に載っていた。45分でわかる本をさらに要約して2500字前後、まぁ5分ぐらいで読めるようにしたわけだ。なんてお手軽志向なんだろう。

 それで新聞の記事を読んで思ったことが2つ。1つ目は、やっぱりこれでは物事を単純化しすぎなのではないか、ということ。「サブプライムローン」の破たんの原因が「信用力の低い人に貸したこと」としか書かれていない。
 2つ目は、私が知らないことが書いてある、ということ。まぁ、全てのことを知っていると驕るつもりは毛頭ないが、それでも、「グローバル恐慌」も読んだし、新聞も結構読む方だし、毎晩ニュースも見るし、5分で読める解説の内容ぐらいは知っていると思っていた(これだって充分に驕りだったわけだ)。

 前置きが長くなったが、本書を読んだ感想。100ページに満たない薄~い本だけれど、45分の時間をかける価値は充分にあると思う。もちろん2500字が100ページ弱に増えても、単純化の弊害からは免れてはいない。しかし、1つ1つを短く説明することでより多くのことが書けているし、それらを関連付けて説明することに成功している。簡潔に書くことで、逆に新聞やニュースでは見えなかったことやつながりが見えてくるのだ。
 本書は、少し前にブログ友達のさーにんさんが教えてくれたものだが、その時には「物語とは違って、説明は分かりやすく簡単にすることはとても大切」などと答えていた。今も改めて同じことを思う。

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凡才の集団は孤高の天才に勝る

書影

著 者:キース・ソーヤー 訳:金子宣子
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2009年3月5日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 図書館の新刊棚にあった本書を、タイトルに魅かれて手に取り、読んでみることにした。凡才でも天才に勝てる、となれば少しはいい気分になれそうな気がしたのだ。つまり、私が凡才だということの何よりの証だ。
 著者は創造性やイノベーションの科学分析が専門の大学教授でジャズピアニストでもある。本書は、米国で2007年のイノベーションやマネジメント関連のビジネス書の賞をいくつか受賞している。

 著者が本書で主張したいことはこうだ。「イノベーション(革新)は、多くの人々の協力の積み重ねによって実現される」。裏返して言えば「1人の天才の閃きが画期的な出来事を生みだした、というストーリーは魅力的だが事実ではない」ということだ。
 このために、ライト兄弟の飛行機の発明から始まり、モールス信号や進化論、「指輪物語」などの文学作品やピカソらの絵画と、1人の天才の名前と結びつけられている発明や創造の数々を取り上げる。実はこれらは全部、天才1人の閃きによるものではなく、多くの人々のコラボレーションの結果なのだと言うわけだ。

 この「天才の閃きが~」という論の否定が余りに執拗な気がした。しかし、最後の1節になってやっと著者の意向がわかった。「天才の神話」を信じることは、私たちの創造性を減殺することにつながるのだ。詳しくは本書を読んでもらいたいが、だからこそ「天才の神話」の影にあるコラボレーションの真実を知る必要がある。納得。
 それから、後半には「コラボレーションを促進する組織への10の秘訣」やイノベーションを実現したコラボレーションの例など、大きな組織から小規模なグループにまで役立つ話が多くある。米国でビジネス書の賞を受賞したのは、この部分が評価されたのだろう。

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「ゼロ円販促」を成功させる5つの法則

書影

著 者:米満和彦
出版社:同文館出版
出版日:2009年3月13日初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の米満和彦さんから献本いただきました。感謝。

 タイトルの「ゼロ円販促」というのは、0円もしくは限りなく0円に近い費用でできる、集客や増客などの販売促進のこと。著者が大手の印刷会社での広告の仕事を辞めて独立した後に、小さなお店の経営者の手伝いをする中で見つけた事例やノウハウだ。
 私も、自分の会社でこそないが小さな施設の責任者なので、日々集客には頭を悩ませている。宣伝広告費などないに等しいからお金はかけられない。たまに思いついたように広告を出してみても、広告費分の効果があったとは考えられない結果に終わる。そうした経験上得た結論は「広告はある程度以上の規模でないと、効果は限りなくゼロに近い」だ。数万円で新聞に小さな広告を出しても人の目に留まらない。人の目に留まらなければ効果はゼロだからだ。

 だから「安い費用で広告なんかやってもムダ」というのが私の本心。そこに本書は「ゼロ円で販促」というのだから、反発と興味が半ばする気持ちで読んだ。読んで得心した。「小さな店は、大手の真似をしてはならない」。著者が「大切なお話」と切り出したものだ。「新聞に広告」というのはまさに大手の手法だろう。これでうまくいくはずがない。私の「広告なんかやってもムダ」ははやり正しかったとも言える。
 しかし「販促」は「広告」だけではない、ゼロ円でも効果がある販促は存在する。例えば、本書冒頭に紹介されている居酒屋の「ご意見ノート」はすぐに活用可能だし、「ゼロ円販促」の本質を表す良い事例だ。著者が「ゼロ円販促」を探し始めるきっかけになったそうだが、この事例に出会ったことは著者の運だろう。その運を見事につかんだのは著者の力量だ。

 本書は、意表を突くアイデアから、細かい工夫まで、数々の販促策が収録されているので、集客に悩んでいるお店のオーナーや担当の方まで、一読をおススメする。また、著者が運営するホームページにはさらにたくさんの事例が紹介されているそうなので、そちらもご覧いただいた方が良いと思う。
 タイトルになっている「5つの法則」は「法則」と言うには普遍性が弱く、「5つの分類」と言った方が適切かと思う。しかし、著者の思いは「事例をそのまま真似るのではなく、自分で考えて欲しい」ということで、「法則」はその考え方の枠組みとして提示している。その用には十分に役立つ「法則」だ。「毎日1時間「考える時間」を確保しよう!」という章もある。「考えろ」が、本書から受け取った一番のメッセージかもしれない。

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