9.その他

ネット炎上対策の教科書

書影

著 者:小林直樹
出版社:日経BP社
出版日:2015年6月23日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本書はネットの炎上事件の「傾向と対策」を書いた教科書だ。主に企業に関わる炎上をテーマにしている。「「炎上」の新傾向と対策」「~の基礎知識編」「組織としての準備・対策編」「こんなときどうする?」「攻めの活用編」の5章からなる。

 著者は「日経デジタルマーケティング」という雑誌の記者。この雑誌は、企業のデジタル活用の取り組み、業界動向、成功・失敗事例を紹介している。企業にとって「炎上」は、企業のブランド毀損という、マイナスのマーケティングとなってしまう。だから「対策」が必要なのだ。

 最近の傾向として「偏見を助長するコンテンツ」が危ないらしい。例えば男性の上司が女性の部下に「なんか顔疲れてるなあ」と話しかける、ルミネのYouTube動画。「女性は(女性だけが)きれいになる努力を怠ってはいけない」という偏見を助長する、ということだろう。この動画は私も見たけれど、確かにあんまりな感じだった。

 ルミネのようにネットを活用していなくても「炎上」と無縁ではいられない。社員が何か不注意な発言をSNSですると、ネガティブな反応が企業に帰ってくる。もし企業のビジネスに関することであれば、社員の個人的な意見であっても、「あの会社の社員が...」という大まかなとらえ方をされる。

 事前に防止するためには「多くの目でチェック」。起きてしまった後は「素早く」「ファクトに基づいた対応」などが求められる。「誤解を招いたとすれば..」「結果として..」などは禁句。多くの場合は企業側も被害者の側面もあるが、そこは前面にださない。とりあえずこれくらいは心得ておこう。

 「教科書」と銘打つだけあって、よくまとめられている。企業の勉強会などで使ってはどうだろう。

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マンガで読む真田三代

書影

著 者:すずき孔 監修:平山優
出版社:戎光祥出版
出版日:2016年1月10日 初版初刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 昨年の大河ドラマ「真田丸」はとても面白かった。視聴率もよかったようだ。主人公は真田信繁(幸村)だったけれど、前半はその父の昌幸の見せ場が数多くあった。

 実は、真田家の物語は、昌幸の父の幸綱(幸隆)から始めて、昌幸と信幸(信之)・信繁の兄弟へ至る「真田三代」として語られることも多い。本書はその「真田三代」マンガで紹介する。監修は「真田丸」の時代考証を担当した平山優さん。

 真田三代には物語にしやすいエピソードや人物が数多くある。(1)武田・村上に奪われた真田の郷を、武田に臣従することで取り返した、真田家の祖である幸綱。(2)幸綱の息子たちで、勇猛さで知られた信綱と昌輝の兄弟(昌幸の兄たち)。信綱と昌輝が長篠の戦いで戦死したのちに家督を継いだ昌幸。

 ここから先が「真田丸」で描かれた時代。(3)昌幸が徳川軍を二度にわたって退けた上田合戦。(4)大坂の陣で家康を追い詰めた信繁。(5)明治維新を越えて現在まで続く松代真田家の祖となった信幸(信之)。(6)これに信幸の妻である小松姫のエピソードを加えた6つの物語を、本書ではテンポよく時にユーモアを交えて紹介する。

 すごく面白いので、「真田丸」で真田家のことに少しでも興味を持った方は、ぜひ読んでほしい。人物事典や史跡案内、エピソード集、年表などの「資料編」つき。

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バンビと小鳥

書影

作  者:樋上公実子 
出版社:ポプラ社
出版日:2016年11月 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 帯には「見る人の心をたちまち幻想の世界へといざなう 樋上公実子、はじめての自作絵本」とある。作者の樋上さんはこれまで絵本、書籍の装画、パッケージデザインなどを幅広く手掛けてこられたが、物語の文章もご自分で書かれた作品は本書が初めて。

 主人公はバンビと呼ばれている少女。いつも美しい鹿皮のスカートをはいていたから、そう呼ばれている。そのスカートは、バンビにぴったりで「どこからがスカートで、どこまでが自分なのか、わからないぐらい」だった。

 不思議なことにそのスカートをはくたびに、どこか遠くから、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえるような気がした。ある日、庭に来た小鳥に誘われて出かけて行くと...というお話。

 お話も絵も、私はこういうのは好きな方だ。作者の絵については、プロフィールで「幻想的で優美な独自の世界」と紹介されている。私は「おとぎ話の忘れ物」や「柘榴姫社交倶楽部」などの絵では、もう少し「妖しい」感じを受けた。その妖しい感じを含めて言い表すいい言葉がなくて、辞書をひいてやっとこれかな?と思ったのは「蠱惑的」という言葉。

 本書の絵は「妖しい」が抑え気味で、プロフィール通りの「幻想的で優美」な感じがする。もちろん「妖しい」も作者の絵の魅力だけれど、ドキドキしてしまうので、私としてはこのぐらいが安心して見ていられる。

 お話については..。これだけ短くてシンプルな物語の中に、わくわくする気持ちと不思議さと哀しみと切なさと..家族の暖かみまで。ずいぶんたくさん楽しませてもらった。

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スタンフォードの自分を変える教室

書影

著 者:ケリー・マクゴニガル 訳:神崎朗子
出版社:大和書房
出版日:2012年10月31日 第1刷 2014年4月15日 第23刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 2013年ビジネス部門年間ベストセラー第1位(日販/トーハン)など、その年のビジネス書のベストを総ナメにした感のある人気書籍。

 本書は、著者がスタンフォード大学で開講している公開講座「意志力の科学」を、書籍として再現したものだ。それは、大学の一番大きな講堂を受講生で埋め尽くすほどの人気講座だ。この講座では「意志力」を「注意力や感情や欲望をコントロールする能力」と定義している。

 できるだけ講座を再現する意図もあって、本書は、講座の回数と同じように10章からなり、講座と同じように、各章の最後に「意志力の実験」と称して、家でやってくる課題が書かれている。読者は、1週間に1章づつ読み進めて、その間に課題をこなしていけば、「注意力や感情や欲望をコントロール」できるようになるという寸法だ。

 ためになった。講座の修了生のように「人生を変える授業だった」とまでは思わなかったけれど、少し「意志力」が上がったと思う。

 本書の特長を一つ挙げると、「精神論」を極力排して、科学的知見を基に議論を進めたことだ。精神論で闇雲に頑張っても上手くいかないのは当然だ。それどころか、従来の常識を覆すようなことがたくさん分かった。例えば「意志力を強くするためには、もっと自分に厳しくする必要がある」というもの。これは数々の実験で、間違いであることが明らかになっているそうだ。

 それから「なるほど」と思ったのは「瞑想」。前頭前皮質という脳の意志力に関わる部分への血流を増す、という効果があるそうだ。ただし簡単にはできない。すぐ何かが頭に浮かんでしまって「これじゃダメだ」と打ち消して..となってしまう。でも、それでいいそうだ。目標から逸れた自分を引き戻す、との行い自体が、集中力を付けるトレーニングになるそうだ。

 最後にひとつ、5分でできる課題を。「これから5分間シロクマのことを考えないように集中してください」。

 すみません。実はこれは意地悪な課題です。ほとんどの人は、こう言われたらシロクマのことを考えずにはいられないそうです。

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可愛いままで年収1000万円

書影

著 者:宮本佳実
出版社:WAVE出版
出版日:2015年7月10日 第1刷 9月1日 第4刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 50すぎのおっさんの私には、あまりに不似合いなタイトルですが、貸してくださる人がいたので読んでみました。ちなみに「可愛いままで」は、「女性が女性らしく、自分の大切なものを大切にしたまま」というような意味だそうだ。

 著者は「ワークライフスタイリスト」を名乗る、1981年生まれの女性。28歳の時にパーソナルスタイリストという仕事で起業し、年収1000万円を目指すことに。パーソナルスタイリストというのは、「洋服のショッピングに同行して、お客様の似合うコーディネートを選ぶ」といった、個人向けのファッションアドバイザーのような仕事。

 ここで「誰かに買い物についてきてもらうのに、お金を払う人なんているの?」なんて思った人はいないだろうか?著者のご主人だった人はそう思ったようだし、私もちょっとそう思った。「しかも年収1000万って、夢みたいなことを」と思った人は?著者の周りにはそんな人ばかりだったそうだ。...著者は年収1000万を実現した。しかも週2日の実働で!!

 著者がその目標を実現したと分かっても「それは条件が揃ってたから、うまくいったんだよ」と、自分とは違う特別な何かを探してしまう。それが人の常だと思う。著者はだから「こうやって、こうやったらうまく行きました」と、丁寧に説明してくれる。それでも「そんなうまく行くかなぁ?」と思ってしまうのも同じ。

 実際のところ、書いてある通りにやってうまく行くかどうかはわからないし、著者だって責任をとってくれるわけではない。1000万を目指さなきゃいけないわけでもない。でも本書には、いいことがたくさん書いてあった。例えばこんなこと。

 「自分の理想を書いてください」と言うと、遠慮がちなビジョンを書く人が多いそうだ。著者のコメントは「その遠慮は誰にしているのですか?」。私たちはいつからか「理想」を語る時さえ縮こまってしまうようになっている。

 最後に。本書を読み終わって痛切に感じたこと。「自分がどのようなコミュニティに身を置くか」これがとても大事。

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「稼げる男」と「稼げない男」の健康マネジメント

書影

著 者:水野雅浩
出版社:明日香出版社
出版日:2016年8月19日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の水野雅浩さまから献本いただきました。感謝。

 まずは著者の紹介。著者は、介護サービス事業の全国展開に携わった後、香港で高級日本食レストランの立ち上げに参画。そこで世界のビジネスエリートとの交流を深め、「健康マネジメント」の概念に触れる。アンチエイジングサプリメントの商品開発にも携わり、これらのキャリアを生かして「健康マネジメント」のセミナーや企業への助言などを行っている。

 ビジネスマンとして世界で通用する「稼げる」人材は、「若々しく」て「太らなく」て「疲れない」人で、そのための土台となる「健康」を保つことが「健康マネジメント」の目的。そのためには「食事」「睡眠」「運動」「ストレスケア」の4つの分野の底上げが必要、とのこと。というわけで、この4つに「基本習慣」を加えた5つの章に分けて、「稼げる男」の習慣を、本書では50項目紹介している。

 全部の項目に「稼げる男は○○で、稼げない男は□□」というタイトルがついている。例えば「稼げる男は腹八分目にし、稼げない男は満腹にする」とかだ。その他には「~は階段を使い、~はエレベーターを使う」「~はシーツを替え、~は枕カバーも替えない」「~は自然に触れ、~は人工物に囲まれる」などなど。

 例として挙げたものを見て「当たり前じゃない?」と思った方も多いだろう。そう、全部ではないけれど50項目の大部分は、誰でも知識としては持っている「健康にいいこと」だ。「~はいい油を摂取し、~は悪い油を摂取する」なんて、「いい/悪い」と言ってしまっていて「そりゃそうだろ!」と突っ込みたくなるものもある。

 当たり前であっても、それでも私はこの本を読んでよかったと思う。社会人になって30年になり、仕事で成果を出すには健康であることが必要で、その健康は意識していないと手に入らないことは、実感として分かっていた。分かっているのに、私に足りなかった「具体的な習慣」が、この本にはたくさん書いてあるからだ。それを読んで新しく始めてみたこともある(願わくば、習慣になるまで続きますように)。

 最後にひとつ、心に残った言葉を。「食事は、空腹を満たすためだけではなく、栄養素をとり入れ(るためのもの)」。私が口から入れたものだけで私は作られる。

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マイクロ・ライブラリー

書影

編  者:まちライブラリー マイクロ・ライブラリーサミット実行委員会2014
出版社:学芸出版社
出版日:2015年5月1日 第1版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

  最初に、マイクロ・ライブラリーとは何か?から。日本語に訳せば「(すごく)小さな図書館」。個人(や小さなグループ)が運営する図書館のこと。私には具体的な心当たりが全くないのだけれど、本書の著者の一人である礒井純充さんによる「マイクロ・ライブラリー図鑑」には514のスポットが紹介されている。そして、礒井さんらによって、数年前から興味深い動きが起きているらしい。

 興味深い動きの一つが「マイクロ・ライブラリーサミット」。「小さな図書館」の応援と横の連携を目的として、2013年に始まって、2014年、2015年と3回開催されている。本書は2014年の「マイクロ・ライブラリーサミット」の講演録に、インタビュー記事を加えてまとめたもの。

 事例報告を中心としたサミットだったらしく、本書も多くを事例紹介に割いている。海外から「リトル・フリー・ライブラリー」という巣箱型の図書館を、国内からは13事例を紹介している。マイクロ・ライブラリーとひとくくりにはできないぐらい、様々な形態があることが分かる。

 病院の透析センターに併設されたところ、街のお店がそれぞれ本棚とお気に入りの本を置いているところ、元体育教師が在職中に集めた本や資料を公開しているところ、亡くなった奥さんが遺した2000冊の本を貸し出しているところ、子どもや若者が大人から干渉されない場所として開設したところ....。

 後述するけれど、私には個人的な想いがあって、本書からはとてもたくさんの刺激をもらった。欲を言えば「マイクロ・ライブラリーとは何か?」ということを、最初に書いておいて欲しかった。聴衆には共通理解がある講演録という性格上、仕方ない面はあるが、何の説明もなく話が進むので、テーマの輪郭がつかめなくて不安だった。

 巻末には300余りのマイクロ・ライブラリーの一覧が付いている。

 この後は書評ではなく、この本に関する私の想いを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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(さらに…)

言ってはいけない 残酷すぎる真実

書影

編  者:橘玲
出版社:新潮社
出版日:2016年4月20日 発行 6月5日 7刷
評 価:☆☆(説明)

 本書に書いてあることは、とても不愉快だ。だから「言ってはいけない」のだ。「アルコール中毒も、精神病も、犯罪さえも遺伝する」「「見た目」だけで人生は決まる」「子育ては子どもの人格形成にほとんど影響を与えない」。もっと不愉快なことも書いてある。

 つまり「私たちは「努力」や「環境」によって、何者にでもなれる」という、社会の大前提を否定している。だから不愉快に感じる。「遺伝」や「見た目」という、自分でどうにかできないことで人生が決まるのなら、誰が努力するだろう。「犯罪者の子どもは犯罪者」などと言い出したら、人権もなにもあったものじゃない。

 ただし、著者の主張に一理あることは認める。「顔がお母さんにそっくりだね」「お父さんに似てスポーツが得意だね」という話に違和感はない。形質や運動能力が遺伝するのに、性質だけは遺伝しないと言い張るのは確かに不合理だ。また、本書には裏付けとなる「調査」が「エビデンス(証拠)」として大量に提示されている。著者は実に念入りなのだ。

 それでも私は蟷螂の斧を振りたい。「子育ては子どもの人格形成にほとんど影響を与えない」について。実感とあまりにもかけ離れている。そういうことを鵜呑みにすることはできない。著者の主張にどこか問題があるはずだ。そしてそれが分かった(と思う)。

 もともとこの主張は、「一卵性双生児」を対象とした調査の計量分析の結果で「(家庭などの)共有環境の影響がゼロ」と出たことによっている。同じ親に育てられた双子と、養子などで違う親に育てられた双子は、同じぐらい性格が似ていて(違っていて)、有意な差がないらしい。

 しかし、この調査で分かったのは「同じ親が育てても、同じ性格に育つわけではない」ということだけじゃないのか?こんなことは、2人以上子どもがいる親なら誰でも知っている。なぜなら、著者自身も言うように「子どもは親の思いどおりにはぜんぜん育たない」からだ。どう育つかは子どもによって変わってくる。

 「思いどおりに育たない」からと言って「影響を与えていない」わけじゃない。2つのことは別のことだ。つまり、著者の主張の問題は、調査結果の「有意な差がない」を「影響を与えない」と読んだ「解釈」にある。世間の逆を言えば話題になるので、敢えて読み違えたのかもしれない。そうでないなら、その解釈で現実を説明できるか検証してみた方がいいと思う。

 そういうわけで、「思いどおりに育たない」ことに悩みながらも、これからも子育てに精を出そう。

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ギャル男でもわかる政治の話

書影

著 者:おときた駿
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
出版日:2016年6月20日 第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 帯には「人気ブロガー議員が教える史上初のエンタメ政治入門書!!」と書いてある。元は「MTRL:明日のモテるを配信中!)」という、男性向けファッションウェブマガジンの企画らしい。試しに覗いてみたけれど、私には縁遠そうなサイトだった。

 東京都議会議員のおときた駿さんが、4人の20代の男性に、政治についてレクチャーする、と言う企画。無粋なことをわざわざ言うと、この4人は「ギャル男」と呼ばれる若者たちで、彼らは、政治のことなんて分かっていないし興味もない、という属性らしい。

 とにかく「分かりやすい」ことが大事で、飽きないようにギャル男くんたちが興味を持ちそうに話さないといけない。そのためには、マンガやアニメやアイドルを例えに使う。時々は「いいところに気づいたね」と褒めたりする。

 一般的には例えを使うと、本来の意味からズレてしまいがちだけれど、うまく例えられていたと思う。「政党」を「ワンピースの海賊団」に、「日本とアメリカ」の関係を「三代目J Soul BrothersとEXILE」に、「社会保障」を「ドラえもん」に。その他にドラゴンボールやスラムダンクやAKB..などが引き合いに出される。

 それなりに面白かった。テーマも「そもそも政治とは?」から、憲法、財政、年金、エネルギー問題、社会保障、表現の自由、と幅広い。4人のギャル男くんたちも、選挙に行くことになりそうだし。こういう政治の本ががあってもいい。

 一方で怖さも感じた。「何も知らない」ことを隠さないギャル男くんたちは、素直になんでも吸収してしまう。自らを「リバタリアン(自由主義者)」と位置付ける著者が説明すれば、その思想を肯定的に捉えてしまう。「終身雇用を廃止して、クビを切っても罪に問われない、とすればいい」なんてことを、あっさり受け入れてしまう。

 公平のために言うと、本書ではこの後に「再雇用のサポートを充実」というフォローがはいる。そこは評価できる。ただし、そうしないこともできたし、フォローの部分がギャル男くんたちの心に残ったかどうかも疑問。若者を集めて、ある思想を植え付けるのはとても簡単なんだと思った。

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18歳選挙権ガイドブック

書影

著 者:川上和久
出版社:講談社
出版日:2016年6月8日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は政治心理学者。政治心理学という学問にあまりなじみがないのだけれど、人々の政治的行動(選挙、世論操作、大衆運動など)について研究する社会心理学の一分野、だそうだ。ちなみに公益財団法人の「明るい選挙推進協会」の評議員も務めておられる。

 タイトルを見れは説明の必要はないかと思うが、本書は公職選挙法の改正によって、選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられたことを受けたもの。国政選挙ではこの7月の参院選から適用され、18歳と19歳の若者が選挙権を得る。

 その「新有権者」に向けて書かれた部分もあるが、本書の目的はそれより広く、これを契機に選挙について改めて考えることにある。これまでだって、20歳になれば自動的に選挙のことが分かるはずもない。多くの人は選挙について深く学んだり、考えたりしたことがない。今一度おさらいをしてみよう、ということなのだ。

 章立ては「政治に潜む3つの落とし穴」「「18歳」とはなにか」「「民主主義」とはなにか」「「主権者教育」とはなにか」「「7つの課題」とはなにか」」「「18歳選挙権」投票ガイド」の6章。

 全体として「選挙権」や「民主主義」に関する、歴史や意義といった内容が多く、「今度の選挙でどうすればいいの?」という、お手軽なガイドブックではない。コンパクトにまとまった教科書、といった印象だ。

 「政治に潜む3つの落とし穴」が第1章にあるのは、「ここだけでも」という大事なことだからかもしれない。3つの落とし穴とは「無関心と無気力」「センセーショナリズム」「情報操作」。最初の「無関心と無気力」も含めて、これらの3つを「権力者が意図して行う」場合がある、という指摘は心に留めて置いた方がいいだろう。

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