愛がいない部屋

書影

著 者:石田衣良
出版社:集英社
出版日:2005年12月20日第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は、テレビのニュースにコメンテーターとして出演して、さらっと毒のあるコメントを吐いているので、本業の作家ではどんな仕事をしているのかと思い、1冊手に取ってみた。

 小説雑誌に連載された10編の短編、どれも大人の愛の物語。いや、タイトルの通りに「愛がいない」ことを表現した物語。
 「愛」を表現するのに、愛そのものを描写するのではなく、そこにあるべき愛や、あって欲しいと愛が「ない」ことを描写する。なかなかのテクニシャンだ。欠けている部分を描くことで、対象物の輪郭がくっきりと見えるような感じか。デザインの技法にもそういうのがあったような。

 10編のそれぞれはいろいろだ。実らない大人の恋愛、熟年の愛、中年の悲哀、中にはエロ小説かと思うようなものもある。短編であるし、ミステリーでもないので、大した出来事は起きない。主人公は、それぞれ重荷を背負って生きているのだけれど、読むほうは軽い気持ちでのぞき見をしているような感覚。

 収録されている10編には共通点がある。すべて神楽坂にある、1階にオープンカフェがあるマンションの住人(予定の人も含めて)の話であること。私がみたところ登場人物は重複しない。1人を除いて。(特に重要な人物というわけではないけれど、1人をいろいろなところに登場させている。著者のちょっとした仕掛けというか遊びだろう)

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蹴りたい背中

書影

著 者:綿矢りさ
出版社:河出書房新社
出版日:2003年8月30日初版 2003年10月20日10刷
評 価:☆☆☆(説明)

 2004年の芥川賞受賞作。当時19才で最年少受賞。そういうことで手に取ってみた。
 主人公はハツ、高校1年生、陸上部、クラスでは浮いている。「適当に5人組を作れ」と、先生に言われると余ってしまうようなヤツ。そして、クラスでもう一人余ってしまうのが、にな川、もう一人の登場人物だ。この2人が中心となってストーリーは進んでいく。

 にな川という男はおかしい。モデルの「オリちゃん」のファンなのだが、ケースにぎっしりと「オリちゃん」の記事やらグッズやらを入れていて、それが彼の生きがい。
 ハツの方も相当おかしい。にな川の背中を見ているうちに蹴りたくなって、本当に蹴っとばしてしまったのだから。
 そして、おかしい者同士が惹かれあったのかというと、そういうことでもない。なにせ、にな川は、「オリちゃん」以外の女性には興味がないのだから。

 どうも、自分が常識人として年をとってしまったのか、高1の女の子が、にな川のような変なヤツの家にノコノコとついていくか?とか、展開に疑問を持ってしまうため、読んでいて何だか居心地が悪かった。
 明るいばかりの青春物語が巷にあふれているので(もちろん、それぞれの話にはそれなりに悩みや問題は含まれているのだけれど、多くは解決するし)、こういった2,3回ひねった青春に妙なリアリティがあるのかも。

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こわれた腕環 ゲド戦記2

書影

著 者:ル・グウィン 訳:清水真砂子
出版社:岩波書店
出版日:1976年12月10日第1刷 1989年2月15日第17刷
評 価:☆☆☆(説明)

 ゲド戦記の第2巻。前巻で自らの影と対決した若き魔法使いハイタカは、すでに竜を退治した「竜王」の称号を持つ大魔法使いに成長している。この間は数年という設定なので、年齢的にはまだ若いと言える。

 前巻が独特の雰囲気を持ちながらも、影との息詰まる攻防が描かれていて、他のファンタジーと共通する「動」の部分があったのに対して、本作は完全な「静」の世界だ。
 地下に巡らされた迷宮、そこを守る巫女、舞台は動きどころか光さえ差さない暗黒の地下迷宮なのだ。そして、ほとんど魔法は使われない。地震を留めるという魔法が後半にでてくるのだが、何かを起こすのではなく起こさないという、大技ではあっても地味なもの。その他は目くらましとか、うさぎを呼ぶとかで、本当に動きがない。動きがないだけに、ストーリーは内面に深く入り込む。

 言い忘れたが、今回の主人公はゲドではなく、巫女のアルハ(テナー)だ。ゲドは中盤まで姿さえ現さない。
 地下迷宮から巫女を救い出す、というのは、何かの暗喩なのだろうか?

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雲のオオカミ 崖の国物語外伝

書影

著 者:ポールスチュワート 訳:唐沢則幸
出版社:ポプラ社
出版日:2003年3月第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 崖の国物語4巻「ゴウママネキの呪い」の主人公クウィントの、4巻に先立つ物語。崖の国物語の各巻が400~500ページの大部の物語であるのに対し、この外伝が120ページしかない。短編と言っても良いかもしれない。

 本書では、クウィントの父「風のジャッカル」が登場する。というより準主人公だ。クウィントは1~3巻の主人公トウィッグの父「雲のオオカミ」だから、これで空賊の三代記になるわけで、著者の考えもその辺りにあるのだろう。(ストックしてある本巻のどこに収まらなかったエピソードの一つを切り離して本にしたのではなくて)

 ページ数が少ないのでサッサと読めてしまった。訳者あとがきには、トウィッグの冒険1~3巻と4巻の橋渡し的な意味合い、と言っているが、4巻との関連はあるが、1~3巻とはつながらない。
 崖の国物語の世界観が気に入っている人には良いかも。小さなエピソードが積み重なることで、世界観の細部が出来上がっていくから。例えばトールキンの「シルマリオンの伝説」のように。

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デセプション・ポイント(上)(下)

書影
書影

著 者:ダン・ブラウン 訳:越前敏弥
出版社:角川書店
出版日:2005年4月5日初版
評 価:☆☆☆(説明)

 「ダ・ヴィンチ・コード」の著者による科学ミステリー。「天使と悪魔」と「ダ・ヴィンチ・コード」のラングドンシリーズの間に、アメリカで2001年に出版された。
 ラングドンシリーズ2つでは、「キリスト教」を題材に読み手の好奇心を刺激して、特に「ダ・ヴィンチ・コード」は大ベストセラーになった。本書でのテーマというか、料理されるのは「NASA」だ。大統領選挙も絡んでくる。
 現代的なだけに、「本当にそうだったかもしれない」という、秘密の暴露的な興味はそそられない。しかしフィクションとして充分に楽しめる。宗教から切り離されているので、「ダ・ヴィンチ・コード」の映画化の時のような妙な反発も招かないだろう。(NASAは「事実と異なる」という無粋なことは言わないだろうから)

 ストーリーは、NASAの世紀の大発見(地球外生物)に対する疑惑を、主人公の女性が海洋学者らと共に解明していく。途中には「あり得な~~い」と叫びそうになることが、次々と起きる。「天使と悪魔」で、ラングドンがヘリから飛び降りて来たときにはびっくりしたが、今回はそれ以上だ。
 「あり得な~~い」ことが起きるハリウッドのアクション映画を楽しめる人にはおススメ。そういうのはシラけてしまう人には?どうだろう?

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崖の国物語5 最後の空賊

書影

著 者:ポールスチュワート 訳:唐沢則幸
出版社:ポプラ社
出版日:2004年8月第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 1~3巻で語られたトウィッグの物語から50年後。
 トウィッグたちが命を賭して崖の国を救ったのだけれど、それでめでたしめでたしとはいかなかったようだ。石の巣病なる浮遊石の病気によって、新サンクタフラスクは地上に落ちてしまい、飛空船は空を飛べなくなってしまった。
 深森との交易のために、泥地と薄明の森を突き抜ける「大湿地街道」が建設されたが、その実権をあの忌々しいオオモズたちに握られている。というのが本書の崖の国の状況。

 そして、学者たちは夜の守護聖団と図書館司書学会に分かれて覇権争いをして、敗れた図書館司書学会は、地下の下水道へと追いやられてしまった。今回の主人公は、この図書館司書学会で司書勲士に選ばれた若者ルークだ。
 冒険あり、友情あり、成長物語ありで、今までと同様楽しめる。5巻目になるので、そろそろかと思っていたが、過去の登場人物たちとの意外な関係などが徐々に明らかになり、重層的な面白みも出てきた。

 ただ、この司書勲士たちの使命というのが、何かに打ち克つとか、問題を解決するとかではなくて、純粋にというか単純に深森の研究であることが何とも解せない。研究者は研究に人生を掛けるものなんだろうけど、それでも命がけで深森の「自由の森」まで脱出して、そこで更に厳しい訓練を受ける必要があるのか。いったいその先には何があるというのだろう。

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影との戦い ゲド戦記1

書影

著 者:ル・グウィン 訳:清水真砂子
出版社:岩波書店
出版日:1976年9月24日第1刷 1989年4月10日第18刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 指輪物語、ナルニア国物語と並んで世界三大ファンタジーの1つとされる。著者のル・グウィンはアメリカ人、SF界の女王、「西の善き魔女」とも言われている。ゲド戦記は現在のところ全6巻あり、本書は1968年に出版されたのに対し、5巻目、6巻目の外伝と「アースシーの風」はなんと2001年、33年の長い時間が流れている。

 本書は、主人公ハイタカ(本名はゲド、この世界では本名は魔法的に大変大きな意味を持つので、普段は通称で生活している)の生い立ちから、魔法使いとしての自立を迎えるまでを描く。
 善と悪、光と影といった2つの相反するものからなる世界観を色濃く感じさせる。そして言葉の力が強い。今も竜たちが使う古代の言葉は魔力を持っているし、その物の本当の名前を唱えることで相手を支配することもできる。「陰陽師」で、清明が同じようなことを言っていた。言霊信仰とともにこういった考えは、呪術に共通のことなのかもしれない。

 ストーリーは、主人公ハイタカが、己の未熟さゆえに、暗黒から影のようなものを引き出してしまい、それに追われる運命を背負う。そして、いくら逃げても最後にはそれと対決しなくてはならない。その影の正体は…、といったもの。少年から青年への成長と自立の物語だ。
 全編、呪術的な雰囲気が重く感じられるが、今後が楽しみな滑り出しだ。
 

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空が落ちる(上)(下)

書影
書影

著 者:シドニィ・シェルダン 超訳:天馬龍行
出版社:アカデミー出版
出版日:2001年9月10日第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 久しぶりのシドニィ・シェルダン。本書が米国で出版されたのが2000年、1917年生まれというから83歳の時。2004年には「Are You Afraid of the Dark?」という小説、2005年には、回想録「The Other Side of Me」を出版しているから、まだ書けるのだろう。いったいいつまで執筆し続けるのか?こうなったら100歳のベストセラー作家を目指してもらいたい。

 本書の主人公は、サラエボの内戦を現地からレポートして一躍有名になったジャーナリストのダナ。今はニュースキャスターをやっている。大富豪の家の連続する事故死に陰謀のにおいを感じて、独自に取材を進める。
 舞台は、アメリカ、フランス、ドイツ、イタリア、ベルギー、そしてロシアと目まぐるしく変わる。ストーリーを進めるために必要な証言を、それぞれの場所で得るために行く。まるで、ロールプレイングゲームのような趣だ。

 シェルダンらしく、ラストの100ページあたりにはいろいろな謎が解けて、スリル満点の展開も用意されている。それを楽しめば良いのだと思う。しかし、「何かあるはず」と、登場人物の行為を裏読みしながら読むせいか、私は早々に種明かしが分かってしまった。もちろん、著者も分かるようなヒントを随所にちりばめてくれている。そんなことまで書かなくてもいいのに、というエピソードも含めて。
 そんな数あるエピソードの中で、宙ぶらりんなままのものがある。主人公のボス(会長)が、ダナの居場所を知らないはずなのに知っていた、というくだり。
 普通なら、会長も敵の一味かそうでなくても何らかのつながりがあると思うが、彼は最後まで味方のままで、そのエピソードについての説明は見当たらない。どうしてだろう?

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時の町の伝説

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:田中薫子
出版社:徳間書店
出版日:2004年6月30日初版
評 価:☆☆☆(説明)

 魔法使いを主人公とした話に定評があるジョーンズの「時空」を話の中心に据えたファンタジー。読み終わって良く思い直すと、今回は魔法が使われていない。魔法のような不思議な出来事は起きるけれど、それは「科学」として説明されている。もしかしたら、「魔法」と「科学」は近いものなのかもしれない。

 複数の世界が並行して存在するという「パラレルワールド」の考えは、同じ著者のクレストマンシーシリーズでおなじみだし、その他のSF小説でも時々お目にかかる。
 しかし、本書では時系列に直列した世界がお互いに干渉しあいながら存在している、という発想。そして、その直列した時系列空間からは独立して「時の町」がある。この街が今回の主な舞台。
 「時の町」は、世界の歴史がキチンと進むように管理している。この街の「時の門」を使えば、石器時代から百世紀ぐらいまでの好きな時代に行ける。この話だけでもこの町が高度に科学が発達していることが分かる。

 ストーリーは、20世紀が不安定になって、世界のリズムがおかしくなってきた、ということが事の発端になっている。まぁ、タイムトラベルもの、と言ってしまえばそれまでだ。過去を変えると未来が大混乱に陥る、それを防ぐために悪党を追いかけるタイムパトロール、これもよくある話ではある。
 しかし、「時の町」という時間から独立した場所で起きる事件だけに、スケールが大きい。ジョーンズの他の小説と同じく、子供たちが活躍するし、コミカルなシーンもあり、楽しく読める。

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崖の国物語4 ゴウママネキの呪い

書影

著 者:ポールスチュワート 訳:唐沢則幸
出版社:ポプラ社
出版日:2002年11月第1刷 2002年12月第2刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 1~3巻でトウィッグという少年を主人公とした話は終わり、この巻は、トウィッグの父親である「雲のオオカミ」ことクウィントの青年時代を主人公とした話だ。序章の最後に「幾千の物語が眠っている・・・・・これから始まる物語もそんな物語の一つにすぎない」とあるように、時代や主人公を変えて、数多くの物語が紡ぎ出されるのだろう。今時点で、7巻まで発行されている。

 深森、薄明の森、泥地、地上町…、と広大な崖の国の中で、今回の舞台は神聖都市サンクタフラスクだけだ。この閉ざされた狭い場所を舞台として500ページ超の話を間延びせずに作れるのだから、著者のストーリーテリングの力はホンモノだ。今回も面白かった。

 ストーリーは、時の最高位学者リニウスが、古代の学者の研究をひもとき、密かに「大いなる仕事」を成し遂げる。しかし、それが悲劇の始まり。
 クウィントと、リニウスの娘マリス(トウィッグの母だ)などの登場人物が生き生きとしている。後半部分のヤマ場は、今までにない盛り上がりを見せているし、500ページを苦もなく読むことができる。

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