ヘブンメイカー

書影

著 者:恒川光太郎
出版社:KADOKAWA
出版日:2015年11月30日 初版 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「スタープレイヤー」の続編。「スタープレイヤー」の最後で、主人公の夕月が「ヘブン」という街を目指している。そして本書のタイトルが「ヘブンメイカー」。そうか、夕月が目指す街の創生の物語なんだな、と考える。

 世界観の設定を一応。スタープレイヤーというのは、抽選に当選した人で、地球とは別の惑星に送られるが、そこで十個の願いを叶えることができる。その気になってうまくやれば、街を一つ(それ以上でも)作ることができる。前作で実際にそうしたスタープレイヤーも登場している。

 そして本書。主人公は2人。高校2年生の鐘松孝平と大学生の佐伯逸輝。

 孝平は、ある日見知らぬ部屋で眠りから覚める。部屋の外に出ると街が広がっていて、多くの人がいた。広場のプレートには「ようこそ、死者の町へ」の文字。続いて、この町の創造主かららしいメッセージ。「(あなたたちが)ここを「天国」にできることを私は切に望んでいます」と書かれていた。

 逸輝は、中学の同級生で好きだった華屋律子と、大学生になって再会。ところが律子が殺されてしまう。失意の中でふらりと行った海辺で、大男に出会い抽選。「一等、スタープレイヤー」に当選。そう、逸輝はスタープレイヤーになった。

 物語は、孝平の「ヘブン」パートと、逸輝の「サージイッキクロニクル」パートが交互に語られる。孝平のパートは、人々が協力して街を作り上げていく。逸輝のパートは、スタープレイヤーの能力を使って、思いつきを実現する。例えば、故郷の藤沢そっくりの街を作って、律子を呼び出す、とか。

 2つのパートは、別々の物語を紡いでいくが、予想通りにやがて交錯する。

 ちょっとグロテスクな場面もあるけれど、面白かった。孝平も逸輝もいいやつだ。前作もそうだったけれど、願いがなんでも叶うというのは、思うほどいいことではない。

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左京区桃栗坂上ル

書影

著 者:瀧羽麻子
出版社:小学館
出版日:2017年7月2日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「左京区七夕通東入ル」」「左京区恋月橋渡ル」に続く「左京区」シリーズの5年ぶりの新作。

 シリーズのこれまでは、京都の大学を舞台とした学生たちの「恋バナ」で、「七夕通東入ル」ではおしゃれな女子学生の「花」が、「恋月橋渡ル」では不器用な理系学生の「山根」が主人公だった。本書も基本的に「恋バナ」なのだけど、描き方をちょっと変えてきた。

 本書の主人公は璃子と安藤の2人。「描き方を変えてきた」と言ったのは、物語を璃子が4歳の時から始めたからだ。大学生の「恋バナ」を描くのに4歳から..。転勤族の父の異動で、璃子は北海道から奈良に引っ越してきた。引越しの翌日に璃子がベランダから外の公園を見ると、ジャングルジムのてっぺんで手を振る女の子がいる。後に親友となる同い年の果菜で、安藤は果菜の兄だ。

 小学校4年の時に、またまた璃子の父の転勤で離ればなれに..そして再会。そして...という物語。璃子と果菜は親友とは言っても、離れて暮らしているから、関係もそれなりの距離がある。安藤はその兄だから、さらに距離がある。その距離がある関係をページ数を使って丹念に描く。後半に入ってもまだ「これ、誰と誰の恋バナなの?」という感じ。

 いい話だった。おだやかなラブストーリー。シリーズで登場人物は共通している。安藤は1作目から登場しているし、本書には花も山根も登場する。それで、シリーズを読み返すと分かるけれど、安藤クンらしい恋愛だった。

 著者はかつてインタビューで「安藤君は恋をするのかどうか……」なんて答えている。4歳から書き始めたのは、そんな安藤の恋愛を描くのに他にない方法だったと、読み終わって分かる。

 最後に。果菜が璃子に書いた自分の手紙を読んで、オチがないことに落胆するシーンがある。「これ、全然おもろないわ」と。分かる気がする、その気持ち。

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ジェネラル・ルージュの伝説

書影

著 者:海堂尊
出版社:宝島社
出版日:2009年3月6日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、タイトル作品の「ジェネラル・ルージュの伝説」に加えて、サブタイトルに「海堂尊ワールドのすべて」とあるように、著者の海堂尊さんの作品と、作品が描く世界観を紹介している。それはかなり広大な物語世界を構成していた。

 私は、著者の作品は「チーム・バチスタの栄光」から始まる「田口・白鳥シリーズ」を順に読んできた。シリーズの背景に物語世界が広がっているとは知らなかった。登場するサブキャラクターが「語られていない物語」を背負っていることが感じられることがあったのだけれど、それは別のシリーズの作品で描かれていたらしい。

 改めて本書の紹介。まず小説「ジェネラル・ルージュの伝説」。「ジェネラル・ルージュの凱旋」の前日譚。救急救命センターの速水部長の若い日を描く。次に「著者の年表」。幼年時代から執筆当時の2009年まで。それから全19作の「自作解説」。

 さらに「メインキャラクターの徹底解説」「全登場人物表」「人物相関図」「名ゼリフ」「用語辞典」...と続いて最後は「カルトクイズ100」。「海堂尊ワールドのすべて」の「すべて」に偽りはない。著者自身も「手の内を晒し、秘伝を公開した」と言うように、ありったけを公開した感じだ。

 「ジェネラル・ルージュの伝説」はすごく面白かった。「田口・白鳥シリーズ」の15年ほど前の話。当然だけれど、あの人もこの人もみんな15歳若いのだけれど、「今」に続く片鱗が垣間見えて、その後の年月が思い浮かぶ。100ページに満たない小品だけれど、「ワールド」の大事なピースだと思う。

 最後に。私が読んできた「田口・白鳥シリーズ」でも、「AI(Autopsy Imaging):死亡時画像診断が、テーマによくなっている。これは、フィクションとしてのテーマではなく、著者自身が医師として推進していることだった。(いやむしろ、この推進のために小説を書いている)。登場人物の「スカラムーシュ彦根」には、海堂さん自身が投影されているのかもしれない。

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働く女の腹の底

書影

著 者:博報堂キャリジョ研
出版社:光文社
出版日:2018年4月30日 初版第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「駄目な世代」の著者の酒井順子さんについての記事を読んでいて見つけた本。著者の「博報堂キャリジョ研」は、博報堂の女性社員が集まった社内プロジェクトだそうだ。

 本のタイトルから「働く女性の赤裸々な本音」という、知るのはちょっと怖いドロドロしたものを想像したけれど、「怖いもの見たさ」で読んでしまった。結果を先に言うと、ドロドロとは反対のサラっとした明るい内容だった。そう、広告代理店のプレゼンのように。

 著者であるプロジェクト名にもなっているけれど、本書では「働く女性」かつ「子どものいない女性(未既婚は問わない)」を「キャリジョ」と名付ける。かつて「働く女性」を指した「OL」や「キャリアウーマン」には、特定のイメージが付いていて、多様化する働く女性のありかたを表すには違和感があるため、新しい表現を議論して名付けたそうだ。

 プロジェクトでは「キャリジョ生態把握調査」を行い、1280名の回答をクラスター分析し、7つのクラスターを導き出した。そのそれぞれに、生活全部に全力投球モーレツキャリアの「モーキャリ」とか、家族との幸せを最優先ちょいっとキャリアの「ちょいキャリ」といったネーミングをする。そしてそれぞれの特徴などを紹介する。

 その他のクラスターも紹介しておく。割り切りキャリアの「割りキャリ」、プロフェッショナルキャリアの「プロキャリ」、玉の輿に乗っかりキャリアの「乗っキャリ」、平凡キャリアの「凡キャリ」、キラキラキャリアの「キラキャリ」。ネーミングセンスはまずまずかな、と思う。

 読んでムダではないけれど、大して益にもならない。「調査」は「分析」しなくちゃいけないし、「分析」すれば「分類」ぐらいしなくちゃ「報告」にはならない。それは分かるけれど、そもそも「多様化するあり方」から出発しているのに、たった7つに類型化してしまったことを残念に思う。

 「なるほど」と思ったこと。ワークライフバランスを考えるときに、「ケーキカット型」と「ブレスレットのチャーム(飾り)型」があるという話。「ケーキカット型」は、ホールケーキをどう切り分けるかなので、一つ(例えば家族)を増やすと、別の物(例えば仕事)が減ってしまう。「チャーム型」は、それぞれの飾り(家族や仕事や趣味など)を、それぞれに磨いたり大きくしたりできる。すごくいい視点だと思う。

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彼女は頭が悪いから

書影

著 者:姫野カオルコ
出版社:文藝春秋
出版日:2018年7月20日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 実際の事件に着想を得たフィクション。その「実際の事件」は「東大生 強制わいせつ事件」と検索すれば、たくさんの情報が得られる。様々な意味で問題作。

 主人公は二人。神立美咲と竹内つばさ。物語の始まりでは、美咲は横浜の市立中学の1年、つばさは渋谷区の区立中学の3年。その後、美咲は県立高校を経て水谷女子大学に、つばさは横浜教育大学の付属高校を経て東大に進学。物語はここまでは駆け足で進む。

 それぞれにそれなりに「青春」を経験する大学生活を描いて、主人公の二人は物語の中盤、美咲が大学2年、つばさが大学4年の時に出会う。いささか軽薄ではあるものの、いい感じでスタートした二人の関係は、しかしすぐに不穏なものになり、あまり時を経ずに「事件」の日を迎える。

 「事件」について。何があったかは、ここには書かない。というか「書けない」。小説を読んでいて、こんな怒りを感じたのは始めてだった。本を持つ手に力が入り、引き裂いてしまいそうになった。小説でひどいことが起きることなんて、特に珍しいことではない。「実際の事件」があることを知っていたので、より過剰に反応したのかもしれない。

 注釈をしておく。あとで裁判記録や報道を調べると、「事件」について著者は実際の出来事に即して描いている。おそらく敢えてそうしたのだろう。そうしなければ「ウソ」になってしまうからだ。本書と「事件」は容易に結び付けられ、私を含めて読者は、フィクションと現実をうまく区別できない。違うことを描けば「あれはウソだ」という非難を受けてしまう。

 冒頭に「様々な意味で問題作」と書いた。その「意味」の一つは、本書が「東大生」「東大」に対する強烈な不快感を、読者に催すことだ。私もつい「東大なんてなくなってしまえばいいのに」と口走ってしまった。

 本書が催す不快感は、東大の関係者にとっては、本書に対する不快感に転化することは想像に難くない。東大で行われたブックトークで、東大の教授(もちろん東大卒)が「集団としての東大を不当に貶める目的の小説にしか見えなかった」という学生の感想を紹介し、「リアリティ」を問題にしたそうだけれど、気持ちは分からないでもないけれど、的を外していると思う。

 参考:
 「彼女は頭が悪いから」ブックトークに参加して見えた「東大」という記号の根深さ:ハフポスト

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風と行く者 守り人外伝

書影

著 者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2018年12月 初版第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の代表作と言える 「守り人」シリーズの外伝。シリーズとしては2012年の「炎路を行く者」以来6年ぶり、小説作品としても「本屋大賞」を受賞した2014年の「鹿の王」以来4年ぶりの作品。まぁとにかく久しぶりに著者が綴る物語を読むことができてうれしい。

 主人公はシリーズ全体の主人公でもある、女用心棒のバルサ。本編の最終巻「天と地の守り人 第三部」の、タルシュ帝国との死闘から1年半。荒廃した国土で復興が始まっていた。バルサは訪れた市で、16歳の頃に養父のジグロと共に護衛をしたことがある「風の楽人」たちに出会い、再びその護衛を引き受けることになった。

 物語は、現在と16歳の頃の記憶を行き来しながら、時にはその2つが重なるように進む。今回も過去にも「風の楽人」たちは狙われていた。その頭の女性には、ある禁域の封印を解く力がある。その力を排除しようとしているらしい。背景には、氏族間の衝突と融和の歴史があり、数百年前の事件も絡んでいるようだ。

 著者の研究者としての専門分野である文化人類学的な視点を、心躍る深い物語に落とし込んでいて、まさに「上橋菜穂子らしい」作品になっている。そして「守り人」のファンであれば、多くの人が読みたいと思うであろう「ジグロとバルサ」の物語を、たっぷりと堪能できる。うれしい。

 「あとがき」によると「いさんで書きはじめて数百枚も書いたのに、とちゅうで書けなくなった物語」が、著者には数作あるそうだ。本書もそうしたもののひとつ。それが何かのきっかけを得て書けるようになることがある。その他の「書けなくなった物語」にもそんな時がくることが待ち遠しい。

 コンプリート継続中!(単行本として出版された小説)
 「上橋菜穂子」カテゴリー

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下町ロケット ゴースト

書影

著 者:池井戸潤
出版社:小学館
出版日:2018年7月25日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「下町ロケット」シリーズ第3作。昨年TBS系列で放映されたテレビドラマの前半は、本書が原作となっているらしい。(私は観ていないけれど)

 今回、佃製作所が手掛けるのはエンジンの動力を伝えるトランスミッションだ。社長の佃航平が、農業用のトラクターの運転を見て、自分で実際に動かしてみて思いついた。乗り味や作業精度を決めるのは、エンジンではなくトランスミッションだと。高性能のエンジンとトランスミッション、その両方を作れるメーカーになれないか?と。

 トランスミッションのノウハウはなくても、そこに使われるバルブは得意分野だ。国産ロケットのエンジンに採用された技術力がある。そのように決まれば、佃製作所の面々の動きは早い。トランスミッション製造で、急速に業績を伸ばすベンチャー企業「ギアゴースト」の、バルブ調達のコンペに参加できることになった。

 例によって「大企業対中小企業」という図式や「特許」を巡る訴訟問題などが物語の軸になる。「ファブレス」のビジネスモデルといった、近年のトレンドも取り込んである。それから人間ドラマも少し。期待を裏切らない感じで、安心して読んでいられる。「安心」が良いこととは限らないけれど。

 あぁそうだ。「天才エンジニア」の島津裕の今後が気になる。

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花だより みをつくし料理帖 特別篇

書影

著 者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2018年9月8日 第1刷 10月28日 第5刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「天の梯」で10巻シリーズが完結した「みをつくし料理帖」の特別巻。澪や野江、種市や清右衛門先生たちが帰ってきた。うれしい。

 全部で4つの短編。シリーズ完結で、澪たちが江戸を離れて大坂に旅立ってから約4年後、江戸の種市の話「花だより」から始まる。行き倒れていたところを助けた占い師から、「来年の桜を見ることは叶いますまい」と言われた種市。澪に会おうと大坂行きを決断する。

 二つ目は「涼風あり」。小野寺数馬の妻、乙緒(いつを)が主人公。ほぼ初登場。蟻の行列を1時間眺めていても飽きない。とっても素敵な女性。数馬の母の里津も素敵だ。三つ目は「秋燕」。澪の幼馴染の野江が主人公。主要な登場人物でありながら、あまり語られることのなかった野江の半生と心根が垣間見える。

 四つ目は「月の船を漕ぐ」。満を持して澪が主人公。大阪を疫病が襲う。澪の夫の源斉は医師。手を尽くしても患者を誰ひとり救うことができない。澪も夫に対して誠心誠意尽くすが、力になれない..。つらい展開はこれまでにもあったけれど、ここまで暗い影を感じる物語は珍しい。澪はこの苦難を乗り越えられるのか。

 「ありがとう」と著者に伝えたい。野江の物語が読みたかった。野江のために文字通り命を懸けた、又次とのことが知りたかった。そんな期待に見事に応えてくれた。「涼風あり」の数馬の母の里津と、「月の船を漕ぐ」の源斉の母のかず枝、二人の「母」の心構えに心を打たれた。「料理」が主題のこのシリーズだけれど、食べ物が身体だけではなく心の養生にも大切であることが、本書では特に切々と分かった。

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安倍政治 100のファクトチェック

書影

著 者:南彰 望月衣塑子
出版社:集英社
出版日:2018年12月19日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、朝日新聞の南彰記者と、東京新聞の望月衣塑子記者とによる「ファクトチェック」をまとめたもの。安倍首相をはじめとする安倍政権の閣僚、与野党の国会議員、官僚らによる、主に国会での発言について、正しいかどうかを検証した。

 テーマと項目数は次のとおり。第一章「森友・加計学園問題」35項目、第二章「アベノミクス」16項目、第三章「安全保障法制」21項目、第四章「憲法・人権・民主主義」19項目、第五章「官房長官会見」9項目。全部で100項目。それそれを〇△×で評価。〇が3つ、△が31、×が66。

 例えば一番最初の項目は、2017年2月27日の衆院予算員会での安倍首相の「私や妻がこの認可あるいは国有地払い下げに(中略)一切かかわっていないということは明確にさせていただきたい」とう発言。この発言を引き出した民進党議員の質問と、首相の答弁を見開きの右ページに、解説と検証結果を左ページに紹介。

 この項目の評価は△。「えぇ~!×じゃないの?」と、私は思った。首相自身はまだしも妻の昭恵さんが関わっていたことは明らかなんじゃないの?と。解説にも「今井尚哉首相秘書官も「交渉の過程で名前があがっていたのは事実ですから、無関係とは言えません」と認めた」と書いてあるのに△。

 この一例が表しているように、本書は極めて抑制的に書かれている。他の情報によって間違いであることが証明できなければ、どんなに怪しくても△。×であっても間違いであることを述べるだけで、その発言や発言者への非難の言葉はない。数は少ないながらも、野党の国会議員の発言も検証の俎上にあげる。

 これは、議論に冷静さを欠かないための措置なのだと思う。南記者による「おわりに」にも、「ファクトチェックは政権批判の道具ではありません」と書いてある。「意見の善し悪しの評価ではなく、発言が事実に基づいているかどうか」とも。

 その冷静さが良い面もあるけれど、悪い面もある。ウソばっかりの政権運営なのに、非難の言葉の一つも投げられないので、不完全燃焼気味になる。抑制的に評価しても、100のうちの66が×。もっと怒らないとダメなんじゃないのかな?

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駄目な世代

書影

著 者:酒井順子
出版社:角川書店
出版日:2018年12月15日 初版 発行
評 価:☆☆(説明)

 新聞広告などで見て気になったので読んでみた。気になったのは次の2つ。この「駄目な世代」が今の50代、つまり私たちの世代のことを指しているらしいこと。それから「永遠の後輩」というコピー。これには「確かにそうかもしれない」と思ったので。

 著者は15年前に「負け犬の遠吠え」というエッセイ集で話題になった酒井順子さん。「負け犬」は翌年の流行語大賞でトップテン入りしている。著者自身がそうである「30代、非婚、子なし」を女性の「負け犬」と定義した、言ってみれば「自虐ネタ」。今回はこの本も併せて読んでみた。

 本書では、「バブル景気」の時に社会人となった世代を「バブル世代」と呼ぶ。著者は昭和41年生まれで、平成元年に社会人になった。「バブル世代」のど真ん中で、本書は、その著者が「もしかして私達の世代って…、駄目なんじゃないの?」と言う本で、「自虐ネタ」という意味で、「負け犬」と同じ構図だ。

 自分たちの世代を「駄目な世代」と著者が思うのは「世のため人のためになっていない」から。それは「苦労せずに軽く生きてきたために、下の世代に何も残していない、アドバイス一つできない」ということらしい。就職は何となくしていれば内定がいくつかもらえたし、政治に関心を持たなくても世の中うまく行っていたし、と。

 「バブル世代」はこんな世代、という紹介を20章に分けて積み重ねる。「ひょうきん族」とか「オールナイトフジ」とか「夕やけニャンニャン」とかのテレビ番組や、その時代の出来事が紹介されて「懐かしいなぁ」とは思う。でも、私は多くのことに共感できなかった。

 東京の私立の女子校に通った著者と、地方の公立校で育った私は、同じテレビ番組を見ていたけれど、同じ経験をしていたわけではない。同じ「バブル景気」でも、広告代理店の社員だった著者と、メーカーの社員だった私は、違う景色を見ていたのだろう。著者が「我々」「私達」と言う度に、「私」に書き直して欲しいと思った。

 最後に。冒頭に書いた「私が気になったこと」について。私は昭和38年生まれで、著者の定義によると私は一つ前の「新人類世代」で本書の「駄目な世代」ではないらしい。良かったのか悪かったのか。「永遠の後輩」については「いつでも先輩がその場を盛り上げてくれるので、私達は「うぇーい!」と声をあげながらついていけばよかった」とのこと。もう少し掘り下げた考察があるのかと思った。

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