彼女は頭が悪いから

著 者:姫野カオルコ
出版社:文藝春秋
出版日:2018年7月20日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 実際の事件に着想を得たフィクション。その「実際の事件」は「東大生 強制わいせつ事件」と検索すれば、たくさんの情報が得られる。様々な意味で問題作。

 主人公は二人。神立美咲と竹内つばさ。物語の始まりでは、美咲は横浜の市立中学の1年、つばさは渋谷区の区立中学の3年。その後、美咲は県立高校を経て水谷女子大学に、つばさは横浜教育大学の付属高校を経て東大に進学。物語はここまでは駆け足で進む。

 それぞれにそれなりに「青春」を経験する大学生活を描いて、主人公の二人は物語の中盤、美咲が大学2年、つばさが大学4年の時に出会う。いささか軽薄ではあるものの、いい感じでスタートした二人の関係は、しかしすぐに不穏なものになり、あまり時を経ずに「事件」の日を迎える。

 「事件」について。何があったかは、ここには書かない。というか「書けない」。小説を読んでいて、こんな怒りを感じたのは始めてだった。本を持つ手に力が入り、引き裂いてしまいそうになった。小説でひどいことが起きることなんて、特に珍しいことではない。「実際の事件」があることを知っていたので、より過剰に反応したのかもしれない。

 注釈をしておく。あとで裁判記録や報道を調べると、「事件」について著者は実際の出来事に即して描いている。おそらく敢えてそうしたのだろう。そうしなければ「ウソ」になってしまうからだ。本書と「事件」は容易に結び付けられ、私を含めて読者は、フィクションと現実をうまく区別できない。違うことを描けば「あれはウソだ」という非難を受けてしまう。

 冒頭に「様々な意味で問題作」と書いた。その「意味」の一つは、本書が「東大生」「東大」に対する強烈な不快感を、読者に催すことだ。私もつい「東大なんてなくなってしまえばいいのに」と口走ってしまった。

 本書が催す不快感は、東大の関係者にとっては、本書に対する不快感に転化することは想像に難くない。東大で行われたブックトークで、東大の教授(もちろん東大卒)が「集団としての東大を不当に貶める目的の小説にしか見えなかった」という学生の感想を紹介し、「リアリティ」を問題にしたそうだけれど、気持ちは分からないでもないけれど、的を外していると思う。

 参考:
 「彼女は頭が悪いから」ブックトークに参加して見えた「東大」という記号の根深さ:ハフポスト

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