わけあって絶滅しました。

書影

著 者:丸山貴史
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2018年7月18日 第1刷 8月8日 第3刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 先日読んだ「理不尽な進化 遺伝子と運のあいだ」は、「絶滅」という観点から生物の進化を捉えたものだったけれど、本書は「絶滅」そのものをテーマにした本。

 サブタイトルが「世界一おもしろい 絶滅したいきもの図鑑」。カンブリア紀から現代までに絶滅した60種の生物の「絶滅した理由」に加えて、絶滅しそうでしてない10種の「絶滅しない理由」を紹介。絶滅した(しない)理由を、その生物自身に聞く、というユニークな体裁になっている。

 ユニークなのは体裁だけではない。絶妙なキャラクター設定がされた、それぞれの生物の語り口が楽しい。例えば、隕石が落ちて絶滅したティラノサウルスは、こんな感じ。

 ありえねぇ。隕石が落ちてくるとかマジでありえねぇ。直径10kmて(笑)。地球にぶつかったとき、高さ300mの津波がきたからね。さすがにビビったわ、あれは。「地球とけた?」って思ったもん。

 砂が舞い上がって寒くなり、植物が育たなくなって、草食動物が死ぬと...

 生きようよそこは!いや生きてたらおれが食べるんだけれども!まぁしばらくはそいつらの死体を食ってたんだけど、さすがに続かないよね。結局死体もすぐになくなって、腹は減るわ、超寒いわで、絶滅よ。

 楽しめた。人間が理由の絶滅もいくつかあり、楽しんでばかりはいられないけれど。

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人生100年時代の新しい働き方

書影

著 者:小暮真久 
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2017年9月21日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「人生100年時代」が気になって、そういうタイトルや内容の本を何冊が読んでいる。本書はその1つ。

 本書は「仕事を、人生を、よりよい方向にシフトさせながら幸せを見つける生き方」をする人を「ライフシフター」と定義する。「シフト」をより具体的に言うと、「仕事の場所や職種を変える」こと。そして、そうした生き方に必要な「5つの力」と「14のソフトスキル」を紹介する。

 「5つの力」は、「見いだす力」「聞き出す力」「嗅ぎとる力」「つかむ力」「味わう力」。「14のソフトスキル」は、例えば「見いだす力」に関連するものとして「未来想像力」「アイデア直感力」「ありのまま観察力」の3つがある。さらに例えば「未来想像力」を身につけるには「過去を見る」とか「外の人との対話」が役に立つ、という具合。

 説明は懇切丁寧だ。こんな感じで14のソフトスキルが時々具体例を引きながら紹介される。役に立ちそうなちょっとしたコツもある。例えば「聞き出す力」の「深堀り質問力」で、有益な情報を得るのに「インタビュー終了後に片付けながら質問する」とか。

 ただし、こんな感じで「いいこと」は書いてあるんだけれど、「私が知りたかったこととは違う」という思いが、読み進めるほどに募る。このスキルを身につければ、コミュニケーション能力と順応性に優れた、軽やかなある種の万能人になれる。でも、私はそういうものになりたかったわけではない。(よく見ればサブタイトルに「生産性を高め、パフォーマンスを最大化する~」と書いてあるので、このミスマッチの原因の大方は私の方にある)

 私は「あと数年で迎える定年の後をどう過ごすか」という、少しみっともない問の答え(のヒント)を求めていた。確かに「人生100年時代」の端緒となった「ライフ・シフト」でも、「教育」「仕事」「引退」の3つのステージモデルから「マルチステージ」へと書いてあった。しかし、私としては「マルチ」といっても、ステージが2つか3つ増える、というイメージだった。著者がモデルとした人々のように、早ければ数年でシフトするような生き方は考えていなかった。

 「コミュニケーション能力と順応性に優れた人になりたい」という人、「役に立ちそうなちょっとしたコツを知りたい」という人にはおススメ。「定年後をどう過ごすか」を考えるには、ちょっと不向き。

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花々

書影

著 者:原田マハ
出版社:宝島社
出版日:2009年3月18日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書のことは、「カフーを待ちわびて」のレビュー記事へのコメントで、日月さんに教えていただきました。感謝。

 著者のデビュー作にして人気作「カフーを待ちわびて」の関連本。「カフー~」の与那喜島で、明青と幸の物語と並行して繰り広げられていた、もう一つの物語。ダイビングショップのアルバイトの純子と、明青の同級生で東京で働く成子の2人を主人公として、沖縄の島で暮らす女性たちの人生が交差するドラマ。

 純子は、三十歳手前で故郷の岡山の町を飛び出して、沖縄周辺の島をいくつか巡った後、この島にやって来た。しばらくは旅を続けるつもりだったのに、この島の景色に「安住」という二文字が浮かんだ。村営住宅のアパートで、先輩アルバイトの奈津子の部屋の隣室で暮らしている。

 成子は、日本有数の都市開発企業に勤め、都心の巨大な複合開発のプロジェクトリーダーとして、昼夜を分かたず働いている。結婚5年目。子どもはいない。夫とは仲は悪くないけれど、円滑な結婚生活とは言えない。リゾート開発計画が持ち上がった故郷の島に、帰郷した時に純子と出会う。

 島にやって来た純子と、島を出て行った成子。逃げるように旅する純子と、追い求めるように働く成子。正反対に見える二人が出会うことで、それぞれに次の道が示され、その道の先にさらに次への道しるべが..という具合に発展する。

 彩りと花の香を感じるような物語だった。「花々」というタイトルの通り、花の名前が章題で、その話のキーアイテムにもなっている。上に「女性たちの人生が交差」と書いたけれど、その女性たちは一人ひとりどれかの花と結びついている。女性たちは様々な屈託を抱えているのだけれど、その身の処し方はとても軽やかだ。沖縄の海と空と花々と女性たちが、物語を軽やかに明るく彩る。

 最後に。冒頭に「続編」ではなく「関連本」と書いたのは、時間的に「続き」ではないことと、明青と幸をはじめ「カフー~」の主要な人物が、ほとんど登場しないからだ。しかし、最後まで読むと、本書が紛れもない「続編」であったことが良くわかる。本書は「カフー~」のためにあり、「カフー~」は本書によって新たに躍動を得る。

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マーケットでまちを変える

書影

著 者:鈴木美央 
出版社:学芸出版社
出版日:2018年6月10日 初版第1刷 7月20日 初版第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書で取り扱う「マーケット」として、著者が4つの条件を明記している。(1)屋外空間で売買が行われていること (2)入場に制限がないこと (3)仮説であること (4)伝統的な祭り・フリーマーケットを除く。

 つまり、普段は道や公園などである場所に、ある期間だけ仮設テントなどのお店が集まってお客さまを迎える。例えば...と考えて私は「輪島の朝市」しか浮かばない。他に適当な例が浮かばないのは、私の知識が貧困なだけでなく、日本では都市の近代化の過程で、各地にあったマーケットが途絶えてしまったからだ。

 著者は、英国の設計事務所で大規模建築の建設などを担当したのち帰国、現在は、建築設計、行政のアドバイザー、マーケットの企画・運営などを行う。「マーケット」に着目したのは、英国での経験がきっかけ。本書で詳述しているけれど、ロンドンには都市部で区が運営するマーケットが45カ所もある。ロンドンに暮らす人々にとって、それはイベントではなく日常なのだそうだ。

 そしてマーケットは、「そこに住む人々の生活の質を高め」「地域経済を活性化し」「まちの魅力を増す」ことにつながるとし、日本でも取り入れよう、そうすれば「日本中のまちをマーケットから変えていくことができるのではないだろうか」と著者は主張する。

 本書で著者はまず、ロンドンと東京の100例を調査し、ロンドンで6カ所、東京で5カ所のマーケットを取材、キーマン6人にインタビューする。そして、マーケットが生み出す15個の効果を明らかにする。さらには、自らもマーケットの企画運営を実践した経験を元に「あなたもできるDIYマーケット」と、マーケットの企画・運営の指南まで記している。

 並大抵の気構えではこんなことはできない。著者は本気なのだ。本気で(タイトルの)「マーケットでまちを変える」つもりなのだ。なんかワクワクしてきた。

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働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社

書影

著 者:小室淑恵 
出版社:毎日新聞出版
出版日:2018年3月20日
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者は株式会社ワーク・ライフ・バランスという会社の代表取締役社長。この会社はこれまで900社以上の企業等の「働き方改革」を成功に導いたコンサルティング会社。私は、何年か前にテレビで著者が話していた「人口ボーナス期」「人口オーナス期」の話に感銘を受けて、著者の事業をもっと知りたいと思った。(そのまま何年か経ってしまったけれど)

 本書は、著者の会社の900社の実績の中から、20社の成功事例を選んで紹介する。併せてなぜ「働き方改革」が必要であるのか?そのためにはどうすればいいのか?を、コンパクトに説明する。その中に「人口ボーナス期」「人口オーナス期」の話もある。

 「人口ボーナス期」とは、その国に「若者がたっぷりいて高齢者が少ししかいない」人口構成の時期。安い労働力で安く早く大量に仕事をこなす。高齢者が少ないので社会保障費が嵩まない。余った利益をどんどんインフラ投資に回す。爆発的に経済発展する。日本では1960年代半ばから1990年代半ばまで。

 さらに「人口ボーナス期」の特長は、筋力を必要とする仕事が多いので「なるべく男性が働き」、作れば作っただけ売れるので「なるべく長時間働き」、均一なものをたくさん提供するために「なるべく同じ条件の人を揃えた」、そういう組織が成功する。

 「人口オーナス期」はその逆。「高齢者が多く若者が少ない」。その特長も逆。「男性も女性も働き」「なるべく短い時間で成果を出し」「なるべく違う条件の人を揃えた」、そういう組織が成功する。日本はすでに1990年代後半から、世界で一番早く「人口オーナス期」に入っている。

 本書ではコンパクトに収まっている説明を、長々としてきたけれど、この前提がないと「働き方改革」が矮小化して捉えられてしまう。つまり「労働時間の短縮」だけを取り出して、「家に早く帰って家族団らん」という、「個人のライフクォリティの向上」という「個人の問題」に落とし込んでしまう。そうではなくて「働き方改革」は、企業・組織の生き残り、ひいてはこの国の行く末を左右する問題なのだ。

 「そんなこと言っても、うちの会社はそんな余裕ないよ」という人は多いだろう。そういう人にこそ本書を読んでもらいたい。「愛知県警察」とか「あずさ監査法人」とか「内閣府」とか「静岡県の小中学校」とか、「さすがにムリでしょ」と納得してしまいそうなところで、キチンと成果が上がっている。警察の捜査部門でもできた「残業の大幅削減」と「事業(事件捜査)評価の向上」の両立が、あなたの会社でできない理由は何?ということだ。

 最後に。「働き方改革」で成果が出た会社で、誰が一番喜んでいるか?早く家に帰れるようになった従業員ではなく経営者だ。そりゃそうだ。従業員は自信を得て生き生きしているし、業績は伸びるし、特に中小企業で顕著なのは、入社の応募がグンと増えて優秀な人材が採用できるようになったのだから。

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後宮の烏

書影

著 者:白川紺子
出版社:集英社
出版日:2018年4月25日 第1刷 9月12日 第7刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 書店で多面陳列で、ずいぶんと推しているので買って読んだ。「中華風ファンタジー」なるジャンル(こういう言い方があるとは知らなかったけど、POPに書いてあった)は好きなので。「十二国記」とか「八咫烏シリーズ」とか「僕僕先生」とか、古典を元にした「封神演義」なんかもそれに当たるか。

 舞台は宮廷。後宮の奥深くにある館に住む「烏妃」と呼ばれる妃が主人公。烏妃は妃でありながら夜伽をすることがない。冒頭の帝の訪いのシーンから察するに、夜伽どころか訪問することさえこれまでなかったらしい。烏妃は、呪殺や招魂などの不思議な術を使う女仙か幽鬼で、「会えば災厄がある」とも言われているからだ。

 まぁこんな感じで神秘性を塗り重ねた存在の烏妃だけれど、実にあっさりと正体が明かされる。物語が始まって5ページで、15、6歳の少女だと判明。名前は「寿雪」という。帝に対して「おぬしの頼みは聞かぬ、さっさと去ね」と言い放つ気性と、帝を扉の外に放り出す不思議な術が使えることも分かる。

 この後「そんな理由か」という経緯を踏んで、帝の頼みごとに協力。神秘的な存在のはずが、自分の足で後宮内を動き回って情報収集、というフットワークの軽さを見せる。こういうのをライトノベル風と言うのだろうか?

 「底の浅そうな話だな」と、ここまでの紹介では感じると思う。実際に読んでもそう感じるだろうし、興味をなくして読み進めるのをやめてしまうかもしれない。だから言っておくと、浅そうに見えて深いものが仕込まれている。

 帝の頼み事は、その一族の血塗られた過去や、その陰にあったいくつかの悲恋につながっている。実にあっさりと判明した烏妃の正体も、実はそれは表層で2枚目3枚目の正体が、後に明らかになる。次回があるのかどうか分からないけれど、出ればたぶん読むと思う。

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理不尽な進化 遺伝子と運のあいだ

書影

著 者:吉川浩満
出版社:朝日出版社
出版日:2014年10月31日 初版第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 新聞の記事で見かけて、これは面白そうだと思って手に取ってみた。

 本書はダーウィンの「進化論」について論じたもの。「進化論」と言えば「適者生存」つまり「適した者が生き残る」。生物の進化の歴史は、生き残った者のサクセスストーリーだ。ところが本書は、まず最初に「絶滅」という観点から生物の進化を捉えてみる。その観点を面白いと思った。

 40億年ともいわれる生命の歴史において、これまで地球上に出現した生物種の99.9%が絶滅したと考えられる。「適者生存」を裏返して考えると、絶滅した種は「適していなかった」ことになる。しかし、絶滅現象に関する考察をすると、突然の環境変化など「運が悪い」としか言いようのない事情が浮かび上がる。タイトルにある「理不尽」の含意はそういうことだ。

 この導入部の後、著者は「日常の世界で出会う進化論」、例えば「ダメなものは淘汰されるのさ」といった言説を「誤解」だと説明する中で、「適者生存」についての考察に入る。誰が生き延びるのか?それはもっとも適応した者だ。もっとも適応した者とは?それは生き延びた者だ。これではトートロジー(ある事柄を述べるのに同義語を繰り返す技法)ではないか?という論点をまず論じる。

 中盤からは、進化生物学会での「適応主義」を巡る、ドーキンスとグールドの論争に進む。「適応主義」というのは、すべての生物の特質は自然淘汰の結果として進化的な最適値に調整されている(適応している)とするもの。これを現在的な有用性を重視して適用すると「人間の足が2本あるのは半ズボンに適応したからだ」という珍説につながる。

 正直に言って、この論争のあたりから、論理の森に迷い込んだようになって、読み進めるのに難渋した。でも、数多くの気付きがあった。「進化論」は面白い。

 最後に、心に残った言葉。「99.9%絶滅」に絡んで、「みんな何処へ行った?」((c)中島みゆき)

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小西美穂の七転び八起き

書影

著 者:小西美穂
出版社:日経BP社
出版日:2018年9月15日 第1版第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 出版社の日経BP社 日経ビジネス編集部さまから献本いただきました。感謝。

 著者の小西美穂さんは、日本テレビの解説委員・キャスター。現在は夕方の情報番組「news every.」に出演されている。本の帯の写真の整ったお顔を見て「女子アナ」かと思ったけれど、一貫して記者畑を歩んでこられている。

 本書は著者の19歳から49歳(現在)までの「デコボコ人生」を振り返ったもの。「キャリア論」「チーム力」「突破力」「ノート術」という、ビジネス寄りのテーマから始まって、「友情論」「家族力」という「身の上話」も赤裸々に綴る。「婚活法」なんてのもある。

 「やらなかった後悔だけは抱えないように」と、著者はおっしゃる。「しなかった後悔より、した後悔(の方がいい)」と、よく言われる。私も時々使っている。しかし、言うことは簡単だけれど、行うことは難しい。でも著者の人生は、それを本当に行ったことの連続だ。

 32歳で単身の女性として「異例中の異例」のロンドン特派員。34歳でイラクのサマワの陸上自衛隊の取材。35歳で生放送の討論番組の司会...。自分の実力を考えるとかなり背伸びした仕事で、断ろうと思えば断れた。でも、著者はそうしなかった。

 しかも「思い切ってやったらできた!」なんていうお気楽な話ではない。ロンドンでは出番が回って来ずに留守番ばかり、サマワでは「生きた心地がしない」経験、討論番組の司会では抗議が殺到。「やらなかった後悔だけは~」なんて言ってやった結果、大変な目に会っている。著者のスゴイところは、「思い切ってやる」ことではなくて、大変な目に会ってからの踏ん張りと回復だ。

 とは言え、結果オーライ、所詮は自慢話か?と言えば、それでもない。著者の「ノート術」は、心が弱って長いトンネルに入り込んでしまった時の脱出術でもある。その他にも、困ったときにはどうすればいいかを、(著者自身の経験だから)説得力を持って書いている。「20代から30代の働く女性たちに向けて」となっているが、世代も性別も越えて得るものの多い本だと思う。

 最後に。この本からは、友達のありがたさも伝わってくる。自分のことでもないのに、読んでいて何度か、ありがたくて涙がにじんだ。著者がどう思っているか分からないけれど、著者は確実に友だちに恵まれている。それも含めて著者には人間力があるということだろう。

 著者の出演番組は、ネット配信されています。
 「news every.」の「ナゼナニっ?」コーナー

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ビブリア古書堂の事件手帖

著 者:三上延
出版社:アスキー・メディアワークス
出版日:2018年9月22日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 書店で本書を見た時「あれ?!」と思った。「ビブリア古書堂の事件手帖」と書いてあって、それは「ビブリア古書堂」シリーズの第1巻のタイトルだけれど、表紙のイラストに栞子と一緒に、黄色い服を着た子供が描かれている。第1巻には少なくとも主要登場人物には子供はいない。不思議に思って、裏表紙の紹介を読むと、なんと新刊だった。

 「あとがき」によると、本書は「本編に盛り込めなかった話」や「大輔視点という物語の制約上語れなかった話」「それぞれの登場人物の後日譚」。全部で四話が納められている。栞子が自分の娘に語り始める、という形式で物語に誘導する。表紙の子どもは栞子と大輔の娘の扉子(とびらこ)だった。時代は第7巻から7年後の2018年、つまり現在。

 本には、出版の経緯や著者自身のエピソードなどの物語があると同時に、人の手を経て来た古書には持ち主にも物語がある、というのが、このシリーズのコンセプト。本作でもそれは発揮されている。長く絶縁していた叔父と姪、気持ちがすれ違ったままだった母と息子、魅かれ合う若者二人、それぞれの縁を古書がつなぐ。そうかと思えば、高価な古書を前に生じた気の迷いで道を誤る話も..。

 面白かった。特に大輔視点という制約を外したことで(正直言って、そんな制約があったのか?と思ったけれど)、自由な広がりが実現した。また、栞子と大輔が幸せそうでよかった。栞子の母の智恵子から栞子を経て扉子に受け継がれる、本への傾倒ぶりと能力は、もう怖いぐらいで、だからこそ今後の展開に期待が膨らむ。

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ファーストラヴ

書影

著 者:島本理生
出版社:文藝春秋
出版日:2018年5月30日 第1刷 7月25日 第5刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 2018上半期の直木賞受賞作。

 主人公は臨床心理士の真壁由紀。30代半ば。結婚して10年。夫と小学生の息子と3人で暮らしている。コメンテーターとしてテレビにも出演している。知名度が高いこともあって、出版社から本の執筆を依頼される。それは、世間の耳目を集めている、女子大生が父親を刺殺した事件の容疑者を取材して、その半生を臨床心理士の視点からをまとめる、というものだ。

 その容疑者の名前は聖山環菜。22歳。女子アナウンサー志望の環菜は、キー局の面接で具合が悪くなり途中で辞退。数時間後に、父親が講師を務める美術学校で、父親を包丁で刺した。自宅へ戻り、母親と言い争った後、自宅を飛び出す。多摩川沿いを顔や手に血を付けたまま歩いていたところを目撃され、警察に通報される。

 物語は、環菜との面会を通じて、由紀が事件の真相を解き明かす様子を軸に描かれる。「真相」と言っても、「事実」にはあまり争うことはなく、もっぱ「動機」についてだ。環菜は取り調べで「動機は自分でも分からないから見つけて欲しいくらいです」と答えた。本人にも分からない「動機」。臨床心理士の由紀になら明らかにすることができるのか?

 冒頭からずっと不穏な緊張感が漂っている。最初はその緊張感を、軸となる「環菜の物語」と並行して明かされる、過去の「由紀の物語」が放っている。環菜の事件の担当弁護士が由紀の義弟で、二人の間に何かがあったことが仄めかされる。そちらが少しずつ明らかになるに従って、今度は環菜の生い立ちや環境が、何か禁忌に触れそうになって、心を騒めかせる。そして2つの物語が響き合い..。

 登場人物の多くが心に傷を負っている。帯に「「家族」という名の迷宮を描く」とある。外からは分からない関係性がある、さらにそれぞれの心の奥は、家族同士にもうかがい知れない。そういう意味で「家族」は「迷宮」だ。本来、疲れた体と心を癒すはずの「家族」が、そのような場所ではない(かもしれない)ことを問う。本書は「問題作」だと思う。

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