採用学

書影

著 者:服部泰宏
出版社:新潮社
出版日:2016年5月25日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 お世話になっている会社の採用担当の方に教えてもらった本。

 「採用学」という言葉は聞きなれないけれど、それはそのはずで、著者がまさに今、確立に力をそそいでいる(つまりまだ確立されていない)学問領域。企業における人の採用を研究する。欧米には採用に関する膨大な研究蓄積があるけれど、日本ではいくつかの有益な知見が出始めたところらしい。

 著者はまず「良い採用」について考える。ポイントは3つ。1つ目は、高い仕事成果を上げる優秀な人材を得ること。少なくともランダムに採用した時より優秀でなければ、採用活動をする意味がない。2つ目は、会社に中長期的に留まるような人材を得ること。いくら優秀でもすぐに転職されては困る。3つ目は、組織を構成するメンバーに多様性が生じ、結果として活性化を導くこと。

 現在の企業の一般的な採用活動には、このポイントに照らして問題が多い。例えば、優秀な人材を取りこぼさないように、まずは大量にエントリーしてもらう「大規模候補者群仮説」。このために、雇用条件をあいまいにして間口を広げ、ネガティブな情報を伏せる。しかしこれは「魅力的でない求職者」が大量にエントリーするし、入社後の社員と会社の「期待のミスマッチ」を招いて、ポイントの2番目の「中長期的な定着」や、3番目の「活性化」を損なうことにつながる。

 私はごく小規模な職場で働いているので、このような形の採用活動には縁がないけれど、採用面接はする。その「面接」についても、興味深い指摘があった。面接では「コミュニケーション力」が重視されるが、「コミュニケーション力」は後からでも身につけられる、という。まぁ「即戦力」を求める場合は「後から~」なんて言ってられないのだけれど、もっと他に見るべきことがあるんじゃないの?ということだ。

 著者は、元々は経営や行動科学の研究者。考えてみれば「採用」は、「ヒト・モノ・カネ」の経営資源の一つである「ヒト」を得る活動。企業経営の根幹に関わることだ。それにしては、担当者の経験やカンによって進められていて、とても「科学的」とは言えない(と私は思う)。著者らによる「採用学」の知見をいち早く取り入れた企業が、業績を大きく伸ばすようになるかもしれない。

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スタープレイヤー

書影

著 者:恒川光太郎
出版社:KADOKAWA
出版日:2014年8月31日 初版 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 これまでに読んだことのない作家さんの作品を読もうと思って、図書館の書棚を巡っていて見つけた本。著者が、日本ホラー小説大賞を受賞してデビューされた「ホラー作家」だと知ったのは後からで、本書は「異世界ファンタジー」。

 主人公は斉藤夕月、女、34歳、無職。買い物の帰りに「運命のくじ引き」を引いた。三等・一億円、二等・五億円、一等・???。明らかに胡散臭いけれど。そうしたら一等が当たった。一等は「スタープレイヤー」。スタープレイヤーになると、地球とは別の惑星に行って、十個の願いを叶えることができる、という。

 信じられない話だけれど、それは本当だった。夕月は、実家を豪華にした家を建てて住む場所を確保し、若返りと美容整形をして絶世の美女になり、壁で囲まれた広大な庭園を造って宝石をバラまいた。我ながら「下品だ」と思いながら。これで使った願いは3つ。まだ7つある。

 この後、他のスタープレイヤーが訪ねて来たり、そのスタープレイヤーが作った「村」を訪問したり、そこから現地民の村を訪ねていったりする。自分の家の周囲しか描かれていなかった地図が、徐々に範囲を広げていくように、夕月の世界も、そして読者の世界が広がっていく。

 世界が広がるのは良いことばかりでなく、衝突も起きるようになる。この世界ではスタープレイヤーは、死者さえ生き返らせる「全能の神」のような存在。しかし、使える回数に限りがあるその力を「何に使うか?」は、とても悩ましい問題だ。本書の主題はたぶんそういうこと。何人ものスタープレイヤーが登場するが、幸せに暮らしている人ばかりではない。

 面白かった。夕月の願いの使い方は、最初は「下品」かもしれないけれど、分かる。途中、ちょっと危なっかしいこともあったけれど、概ね「良い使い方」を心得るようになった。帯に「新シリーズ、堂々開幕」とあるので、この後も続くのだろう(続編「ヘブンメイカー」が既に出ている)。楽しみだ。

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熱帯

書影

著 者:森見登美彦
出版社:文藝春秋
出版日:2018年11月15日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 森見登美彦さんの最新刊。体調不良による休筆から、2013年に「聖なる怠け者の冒険」で復帰されて、以降「有頂天家族 二代目の帰朝(2015年)」「夜行(2016年)」そして本書と、1年半~2年間隔でコンスタントに新刊が出ている。ファンとしてはそれがうれしい。

 これはかなり奇妙な構造をした物語だ。冒頭部分に「千一夜物語」の説明がある。「千一夜物語」はシャハリヤール王に侍ったシャハラザートが語った寝物語。シャハラザートが語る物語の中の登場人物が、さらに物語を語ったりするので、いわば物語のマトリョーシカみたいな入れ子構造をしている。そして、本書もそうなっている。

 入れ子構造を簡単に説明する。入れ子の一番外側は、森見登美彦さん自身が登場。次の作品の着想が全く浮かばない日常の中で、学生時代に途中まで読んだところで失くしてしまった「熱帯」という本を思い出す。そして別の日に編集者に誘われていった読書会で、「熱帯」を持った女性と出会う。

 入れ子の2番目は、その女性、白石さんの語り。白石さんは勤め先のお客さんである池内さんに誘われて「熱帯」のことを研究する「学団」という集会に参加する。そして「熱帯」を巡るミステリーに巻き込まれる。3番目は、「熱帯」の謎を追って京都に旅立った池内さんから、白石さんに届いたノートに綴られていた物語。4番目は...。

 このような感じで物語は、最初の森見さんの日常から遠くへ遠くへと流れるように展開する。入れ子のかなり内側の物語に、それを研究しているはずの「学団」の人物が登場したり、そもそも本書のタイトルが「熱帯」なので、「学団」が研究しているのは本書なのか?という考えが頭をよぎったり、循環参照的な複雑さを呈している。

 入れ子の何番目かには、「熱帯」という本に記された(らしき)物語が語られる。これがなかなかの奇想文学で、これだけ取り出しても中編作品になったと思う。それが、この複雑な構造の中に、違和感なく収まっている。著者は良いお仕事をしたと思う。

 「複雑な構造」に「読みづらいのでは?」と思う人もいるかもしれないけれど、それは杞憂だ。構造なんて気にしないでドンドン読んでしまえばいい。循環参照になっていても「へぇ~面白いな」と思えばいい。「あれ?これ、そもそもどういう話だっけ?」と我に返ったりしないでいい。コロコロと転がるような展開に、身を任せてしまうと楽しめる。

 そうそう、「吉田山」とか「進々堂」とか、著者のゆかりの場所を知っている人は、そういうのも楽しめる。

 コンプリート継続中!(単行本として出版された作品)
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ものがたりのあるものづくり ファクトリエが起こす「服」革命

書影

著 者:山田敏夫
出版社:日経BP社
出版日:2018年11月12日 第1版第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 出版社の日経BP社さまから献本いただきました。感謝。

 本書は「ファクトリエ」という、服、雑貨を販売するインターネット通販のブランドを紹介する本。著者の山田敏夫さんは「ファクトリエ」をゼロから立ち上げた人で、本書には、今日に至るまでの苦労とともに、「ファクトリエ」に込めた思いの丈が詰まっている。

 「ファクトリエ」は、店舗を持たない、セールをしない、生産工場を公開する、価格は工場に決めてもらう、という特長をもったブランド。これらは、日本のアパレル業界では異例のことだそうだ。特に生産工場の公開は、タブーとさえ言われる。そして「ファクトリエ」の構想は、このタブーに対する違和感から端を発している。

 著者は、学生時代にパリに留学し、グッチの店舗でアルバイトをした経験がある(この経緯の「力の抜け加減」が、著者の生き方を表している。しなやかで強い)。そこでは商品の一点一点が「自分たちの工房で生まれた」ことに誇りを持っている。ヴィトンもエルメスも工房から生まれた。

 翻って日本では、縫製などを手掛ける工場は、ブランドとの製造契約で「守秘義務」を負っている。ブランドイメージを保ったり、技術の流出を防ぐためだ。しかし黒子の存在では、正当な評価も対価も得られず、海外の安い工場との競争で、国内の縫製工場は疲弊し、急激に数を減らして危機的な状況にあった。そして「どこで作られたか」に関心を持たない消費者は、そのことに気がついてもいない。

 パリのでの経験から「世界に誇れる日本初のブランドを作ってみせる」と誓った著者は、全国の縫製工場を一軒づつ訪問し、「工場発のブランドを直売する」という、著者の構想に賛同する「同志」となってくれる工場を捜すことから始める。先述のように、これは業界のタブー破りになる。だから「同志」というのは大げさな表現ではない。

 そこから年商10億円を超える現在までの、山あり谷ありの一部始終が本書には記されている。この「ものがたり」は、強い引力を持っていて、読む人を惹きつけずにはおかない。

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RDG レッドデータガール 星降る夜に願うこと

書影

著 者:荻原規子
出版社:角川書店
出版日:2012年11月30日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「レッドデータガール」シリーズの第6巻にして完結編。第4巻、第5巻で描いた学園祭の後の2か月ほどを描く。

 主人公の鈴原泉水子は、東京郊外の鳳城学園という高校に在籍していて、この学園には、陰陽師の集団とか忍者の組織が活動している。泉水子自身も「姫神憑き」という、その身に神が降りる体質で、彼女を守るための山伏たちの組織もある。

 前巻の学園祭で、陰陽師との闘いに勝ち決着をつけた形になっている。ところが、陰陽師のリーダーはそれに納得せず、再度の対決を望み、泉水子もそれを受け...。物語の起伏が、小さいものから始まって徐々に振幅の大きいものへと進む。

 このシリーズは、「エスパー対決もの」と「青春物語」という二つの要素がある。「エスパー対決」の方はほぼ決着がつき、その決着を受けて、登場人物の高校生たちが「青春」らしく結束を見せ始める。「闘いが終れば、昨日の敵は今日の友」。少年誌のような展開だと思った。少年誌なら次の敵が必要だけれどそれもちゃんといる。

 泉水子と山伏の相良深行の間の、「青春」に不可欠な甘酸っぱい要素も、一応の結着を得た。物語に余韻を残しながらも大団円だった。

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ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ

書影

著 者:辻村深月
出版社:講談社
出版日:2009年9月14日 第1刷 11月6日 第3刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「ハケンアニメ」「東京會舘とわたし」「かがみの孤城」と、最近の作品に連続して☆5つ。それで「私は辻村さんの作品が大好きなのだ」と気が付いた。その辻村さんの2009年の作品。

 二部構成。第一部の主人公は神宮司みずほ。30歳。山梨県甲州市出身。29歳の時に結婚し、今は東京に住んでいる。職業はライター。雑誌に記事を書いている。母親を殺して逃走中(という疑いをかけられている)の、幼馴染の望月チエミの行方を捜している。そして第二部の主人公がその逃走中の望月チエミ、という趣向。

 第一部でみずほは、かつての同級生、遊び仲間たちを順に訪ねる。チエミの行方につながるような情報を聞き出すために。最近会ったのはいつか?とか、その時はどんな様子だったか?とか、その他に何か知っていることはないか?とか、そんなことを聞いて回る。

 聞き出せた情報は、それぞれは他愛もないものだけれど、みずほはチエミと事件の真相に近づいて行った。読者もその気になれば、みずほと一緒に謎解きができる、というミステリー作品に仕上がっている。

 ただ、この物語はミステリー以外の要素も色濃い。久しぶりに会う同級生たちとのやり取りや、差し挟まれる回想によって、様々なことが徐々に形づくられる。中学まで同じ学校に通って、高校で進路が別れたみずほとチエミの関係性。地元に残った遊び友達たちと、東京に出たみずほの間にあるすき間。みずほと実家の母親が抱える過去..。

 こうして、形づくられるのはザラザラとした手触りの悪いものだった。著者自身が山梨県出身でライターではないけれど文筆業ではあるので、なんとなくみずほと重ねて見てしまう。そうした時に「これ、大丈夫なのかな」と心配になるぐらい、ザラザラしている。

 分量的には第一部が約4分の3。第二部は、第一部の答え合わせであり、結末でもある。この第二部によって、ザラザラしたものも、きれいに「洗い流す」とはいかないけれど、そういうものを「乗り越える」ことはできた。

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フェルメール最後の真実

書影

著 者:秦新二、成田睦子
出版社:文藝春秋
出版日:2018年10月10日 第1刷 10月30日 第2刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 これはちょっとユニークな本だった。

 本書は、これまで数多くの「フェルメール展」を企画してきた財団の理事長と事務局長の共著。フェルメールとその作品に関する解説とともに、フェルメールの作品に「旅をさせる」(所蔵する美術館から借り出す)ことの実際を、臨場感のある筆致で記したもの。

 フェルメールは寡作な画家で、真贋が問われているものも含めて、現存する作品は37点しかない。それらの作品を、いつどの展覧会に出品するかの決定に、大きく関与している人々がいる。著者が「フェルメール・シンジゲート」と呼ぶ人々で、著者もその一員だ。

 第3章「旅に出るフェルメール」の冒頭すぐの言葉を引用する。「ある土地で、フェルメール作品の数々が一堂に会するとき、その裏側では、額に汗して世界を飛び回り、各所蔵先と交渉し、無事に運び込むという悲願の達成まで、必死に努力した人間たちがいるのだ」これが本書の芯にある言葉だと思う。

 例えば、著者が「企画」を担当した、現在(2018年11月)「上野の森美術館」で開催中の「フェルメール展」では、9点のフェルメール作品が展示されている。所蔵する美術館にとっては、それぞれが宝物のような存在なので、滅多なことでは外に出さない(絶対に出さない、という作品もある)。

 だから、気の遠くなるような根回しと交渉を重ねて、それぞれの作品が海を越えて上野に集結し、展覧会が実現している。そのことがとてもよく分かった。

 冒頭に「ちょっとユニーク」と書いたのは、本書が言わば「賞味期限付き」の本だからだ。37点全部をカラーで掲載し、1ページを使った解説が付いている。例えば初来日の「取り持ち女」は、絵の説明の後、ザクセン公のコレクション→ナチスによる頽廃的美術品の烙印→ソ連軍による接収→東独に返還、という来歴が書いてある。他の作品には「盗難」から戻ってきた、なんてのもある。そして最後に「2018年に来日します」。

 これを読めば実物が見たくなる。実物を見るなら、開催中の「上野の森美術館」(2019年2月3日まで)か、その後の「大阪市立美術館」(2019年2月16日から5月12日まで)に行くしかない。次はいつ日本に来るか分からない。(もちろん、世界中に散らばる所蔵館を訪ねて回るという手はあるけれど)「賞味期限付き」というのはそういう意味だ。

 念のため。「賞味期限」が過ぎても、本書がとても興味深い本であることは変わらない。食べ物が「賞味期限」が過ぎても食べられるのと同じ。ただ、美味しくいただくなら期限内がおススメ。

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日本が売られる

書影

著 者:堤未果
出版社:幻冬舎
出版日:2018年10月5日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 最初に注意書きを。「とにかく今日を穏やかな気持ちで過ごしたい。何年か先に安心安全な暮らしが失われても構わないから」という人は、読まない方がいい。本書も、この記事も。

 帯に「日本で今、起きているとんでもないこと」とある。本当にとんでもないことが起きている。

 タイトルの「日本が売られる」とは、この日本で、私たちの生活に欠かせない様々なものが、値札を付けられて(主に外資に)売られるという意味。本書冒頭にある「水が売られる」を例として紹介する。

 水道を運営する自治体の財政は苦しい。国は責任を取らず代わりに打ち出したのが「民営化」。「民間企業のノウハウを生かし、効率の良い運営と安価な水道料金を」というわけ。民営化とはその事業を企業に売ることに他ならない。売れば何億、何十億ものカネが手に入る。自治体にとっては魅力的だ。

 さらに、これを後押しするための法改正が度々行われている。例えば、「運営」を売った自治体には、地方債の利息免除をいうニンジンをぶらさげる。現在審議中の水道法改正案が成立すれば、また、企業側の優遇として、こんなことになる。

 (1)「所有」と「運営」を分離して、企業は「運営権」だけを持つことで、安定供給の責任を持たな句てすむ。つまりノーリスクで、収入だけを得られる。(2)これまでは厚生労働大臣の「認可」が必要だった料金改定を「届け出」でできる。(3)料金設定の規定に「健全な経営を確保することができる」と入ったことで、料金の値上げを正当化できる。

 まぁこれでも、企業が住民のための運営を行ってくれればいい。コスト重視で水質が悪くなったり、まずくて飲めなくなったり、料金が高くなったりしなければいい。ところが、日本より先に水道民営化が進んでいる各国では、こうしたことが起きて、違約金などで大金を支払ってても再公営化をするところが増えている。

 本書では「水」以外に「土」「農地」「森」「海」「学校」「医療」「食の選択」が、値札を付けられて売られる様子が、詳細に記されている。「タネ」という項目もあるが、こちらは「売る」のでさえなく、コメをはじめとした食物の種を、外資のバイオ企業から日本の農家が「買わされる」という、ショッキングな内容だ。

 最初に注意書きを書いたのは、私自身が読んでいて悲観にくれてしまったからだ。こんなひどいことを誰がやっているかというと、「規制改革」と称して政府がやっている(外国に行ってセールスまでしているらしい)。希望があるとすると、政府が変われば、防げるかもしれない、ということだ。

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コーヒーが冷めないうちに

書影

著 者:川口俊和
出版社:サンマーク出版
出版日:2015年12月6日 初版 2016年11月10日 第34刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 2017年の本屋大賞ノミネート10作品のうち、この本だけはまだ読んでなかった。本屋大賞は10位とはいえシリーズ100万部突破で、今年の9月には有村架純さん主演の映画が公開されている。

 「恋人」「夫婦」「姉妹」「親子」の4話を収録。それぞれの物語に主人公がいる。舞台は、路地裏の地下にある喫茶店「フニクラフニクリ」。この喫茶店には都市伝説がある。ある座席に座ると、座っている間だけ望んだ通りの時間に移動できる、というもの。本書は「タイムスリップもの」だ。

 都市伝説は本当で過去に行ける。ただし制限事項がたくさんある。主なものを3つ。タイムスリップできるのは、移動するときに淹れたコーヒーが冷めてしまうまでの間だけ。その席から動くことはできない。過去に戻ってどんなに努力しても現実は変えられない。

 誰か大切な人を事故で亡くしたとして、過去に戻って事故に会わないよう忠告しても、その大切な人はやっぱり亡くなってしまう。この制限によって、「タイムスリップもの」でよくある「人生のやり直し」はできない。そんなことでタイムスリップする意味あるの?という疑問は浮かぶが、意味はある。4話それぞれの主人公はそれでも心残りの時間に行くことを選ぶ。

 4話のタイトルはすべて会いに行く二人の間柄を表している。それぞれ「彼氏に」「夫に」「妹に」「娘に」会うために時間を越える。例え現実が変わらなくとも、無駄足になるかもしれなくても、わずかな時間だけでもいいから会いたい。そう思うほどの強い気持ちを感じるのは、こういう近しい間柄の人にう対してなのだろう。

 極めて真っすぐな感動話だった。「あの時こうしていれば」という後悔のないように生きなくては、と思う。しかし、本書にはそれ以上のメッセージが込められている。それには「現実は変えられない」という制限が効いている。「過去を変えても現実は変えられない。でも...」

 すでに続編として、「この嘘がばれないうちに」「思い出が消えないうちに」の2冊が出ている。

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55歳からのリアル仕事ガイド

書影

監  修:松本すみ子
出版社:朝日新聞出版
出版日:2018年9月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 以前に紹介した「人生100年時代の新しい働き方」と同じく、「人生100年時代」が気になって読んだ本。ちなみに、私は今55歳。

 監修者はシニアライフアドバイザー。各地でシニア世代に関する講演やセミナーの講師を務めている。著者紹介によると、IT企業で広報やマーケティングなどを担当した後、50歳で独立して会社を設立、シニア世代にライフスタイルの提案や情報提供などを始めた、とある。ご自身も「セカンドキャリア」構築の実践者、ということか。

 全部で4章。第1章から順に「55歳からの働き方・お金の基礎知識」「定年後の仕事のリアル」「定年後の仕事の探し方」「シニアの仕事と資格紹介」。最後の「シニアの資格紹介」では「シニアライフアドバイザー」も紹介しているのが、ちょっと面白かった。確かに若い人にはあまり向かない仕事かもしれない。

 分量的に大半を占めるのは、第2章「定年後の仕事のリアル」で、「セカンドライフ」の実例を40件紹介している。パターンも様々取り揃えてあって、「現役時代の仕事を活かして」というのもあれば、「前職にこだわらずに」もあり、「新たに資格を取って」もあれば「好きなことで生きる」というのもある。

 実例は、自分のことも具体的に考えるのに役に立った。ただ、仕方ないとは言え全て成功した例で、みなさん活き活きしていて「うまく行った人はいいよねぇ」なんて、ひねくれた気持ちが顔を覗かせてしまった。また、他人の例はあくまで他人の例で、私の漠とした想いにフィットするものはなかった。

 それよりも私には、第1章にあった基本的な考え方が心に残った。それは「60歳退職」と「65歳退職」では大きく違う、というもの。今は再雇用制度によって65歳まで勤められるけれど「60歳で辞めていれば、65歳までの間に何かを始められていたかもしれない」という。

 つまり、準備期間が必要なのだ。実例を見ても「定年になる前に始めた」という人が意外と多い。本書のタイトルが「55歳からの~」なのは、60歳を定年として、それまでの5年を準備期間に..ということなのだろう。

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