オール・ユー・ニード・イズ・ラブ

書影

著 者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2014年4月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第9弾。

 舞台は、東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」。前作の「フロム・ミー・トゥ・ユー」が、脇役も含めた登場人物たち11人それぞれの物語の短編集、といったスピンアウト的だった。本書は、本編に戻って前々作「レディ・マドンナ」の続編になる。

 毎回、大小のミステリーと人情話が散りばめられている。今回のミステリーは、小学校2年生の女の子が一人で絵本を売りに来たのはなぜ?その女の子を見てお客の女性が涙を流したのは?「東京バンドワゴン」とそれを営む堀田家の、過去の秘密を探るノンフィクションライター...等々。

 人情話の方は、家族の問題に関するものが多い。両親が離婚調停中の家、認知症を患ったらしい母と息子夫婦、離婚して別々に暮らす娘の想いと父の想い、それぞれの道を歩む父と息子の葛藤。暗くなりそうな話題を、さらりと暖かい解決に導いてくれる。

 もう一つ。子どもたちの成長が楽しみになってきた。巻を重ねたシリーズならではのことだ。小学生だった研人くんが中学3年生、早くも「将来」について決断することに。生まれたばかりだと思っていた、かんなちゃんと鈴花ちゃんがもう一人前の活躍。まだまだこれから楽しみだ。

 語りを務める「大ばあちゃん」ことサチさんの言葉が、胸に残ったので..

 「人は人、自分は自分と認めあう。親子だろうと家族だろうと、他人だろうとそれは同じですよね。人の生き方を認めるところから、自分の生き方というものを人間は見つけるのではないでしょうかね。自分のためだけに生きるも、誰かのためを考えて生きるも、その人の人生ですから。」

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はかぼんさん 空蝉風土記

書影

著 者:さだまさし
出版社:新潮社
出版日:2015年4月1日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、歌手のさだまさしさんが「小説新潮」に6回にわたって連載した作品に、「まえがき」と「あとがき」を付けて単行本化したものの文庫版。主人公が同じ6つの短編を収めた連作短編集。さださんのファンの友人がプレゼントしてくれた。

 主人公は「まっさん」とか「雅やン」と呼ばれているノンフィクション系の作家。皆からは「先生」と呼ばれ、「一流どころの旅館に泊まることを世間に許して貰ってから二十数年」というから、その世界の大御所といったところか。

 その主人公が、京都、能登、信州、津軽、四国、長崎、へと旅をして、その先々で遭遇した不可思議な出来事をつづる奇譚集。作家である主人公がつづった体裁の物語を、その主人公と同じく「まっさん」と呼ばれる、さだまさしさんが描く。二重構造の創作になっていて幻惑される。ところがこれが妙に「事実」っぽい。

 6編のどれもいいのだけれど3つだけ。

 「夜神、または阿神吽神」は、能登の西海岸の小さな漁村が舞台。数百年も続く村の神事で、海から流れ着く漂着物を「神」として畏れ敬う。その神事に、一人の50代の男性の人生が絡む。神様は色々な姿で私たちの前に現れるのだなぁ、としみじみ思った。

 「同行三人」は、四国八十八カ所巡礼が舞台。主人公は行者姿の老人に「そこ、動いたらあかん」と、叱りつけるような声をかけられる。そこは、神様たちが住まう世界との境界がある場所、そういう物語。私は行ったことはないのだけれど、四国の山は懐が深そうだと思っていた。その思いにピタリとはまった。

 信州の「鬼の宿」は、安曇野が舞台。こちらは「神代の昔」に起源があるという、節分の豆まき「追儺式」の夜の出来事。豆まきで追われた鬼が泊まりに来るという家の話。都会の街中では感じない「気配」を、田舎では感じることがある。時には触れられそうに濃厚な気配を。

 「いやはや、お見それしました」。これは大森望さんによる「解説」の冒頭の言葉だけれど、私もそう思った。冒頭に「歌手のさだまさしさん」と書いたけれど、そういう紹介の仕方でいいのかしらん?と思うほど、小説としてよくできた作品だった。いや、そんなエラそうな言い方はいけない。「楽しませていただいました」と言い直しておく。

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スーツケースの半分は

書影

著 者:近藤史恵
出版社:祥伝社
出版日:2015年10月20日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

  祥伝社の月刊小説誌「小説NON」に連載された8つの短編に書き下ろし1編を加えた連作短編集。1つのスーツケース、それは「目の覚めるような青」色の革のスーツケース、がすべての短編をつなぐ。

 主人公は短編ごとに入れ替わる。1編が男性で他の8編は女性。最初の4編は、今は29歳になっている大学時代の友達の4人の女性が、順番に主人公になって物語がすべり出す。卒業後はそれぞれの道を歩む4人の「群像劇」のように物語の幕が開く。

 作品順に主人公の4人を紹介する。真美は4人で唯一結婚している。夫は優しい人なのだけれど、気持ちのすれ違いもある。ニューヨークへ行きたいと思っている。花恵はオフィスクリーニングの会社のマネージャー。同居する両親との間にすき間を感じる。毎年のように香港に行くが、少し後ろめたいことがある。

 ゆり香は派遣社員。お金がたまるとたっぷりと休みを取って海外へ旅行にいく。今はいいが、20年後30年後を考えると胸がちりちりする。悠子はフリーライター。大学生の時に来て「一度で恋に落ちた」パリに取材に来た。仕事の不安定さが気持ちにも影響している。4人に共通するのは「これでいいのか?」「このままでいいのか?」という気持ち。

 友達4人全部のストーリーが終わって、次はどうなるのか?と思ったら、わずかなつながりから、新たな人のストーリーが次々と継がれていく。友達4人の群像劇かと思った物語は、もっと広い世代を巻き込んだ大きな群像を描きだした。偉そうに言って恐縮だけれど、実にうまい。

 主人公全員の手元に、あの革のスーツケースがある。友達4人の間では「幸運のスーツケース」と呼んでいる。みんなあのスーツケースを持って旅に出て、いいことがあったのだ。ただ、その「幸運」は与えられたものではなく、つかみ取ったものだ。そういうことが、短編を順に読んでいくと分かる仕掛けになっている。やっぱり、実にうまい。

 最後に。主人公以外も含めて女性がカッコいい。男もしっかりしたいものだ。

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言ってはいけない 残酷すぎる真実

書影

編  者:橘玲
出版社:新潮社
出版日:2016年4月20日 発行 6月5日 7刷
評 価:☆☆(説明)

 本書に書いてあることは、とても不愉快だ。だから「言ってはいけない」のだ。「アルコール中毒も、精神病も、犯罪さえも遺伝する」「「見た目」だけで人生は決まる」「子育ては子どもの人格形成にほとんど影響を与えない」。もっと不愉快なことも書いてある。

 つまり「私たちは「努力」や「環境」によって、何者にでもなれる」という、社会の大前提を否定している。だから不愉快に感じる。「遺伝」や「見た目」という、自分でどうにかできないことで人生が決まるのなら、誰が努力するだろう。「犯罪者の子どもは犯罪者」などと言い出したら、人権もなにもあったものじゃない。

 ただし、著者の主張に一理あることは認める。「顔がお母さんにそっくりだね」「お父さんに似てスポーツが得意だね」という話に違和感はない。形質や運動能力が遺伝するのに、性質だけは遺伝しないと言い張るのは確かに不合理だ。また、本書には裏付けとなる「調査」が「エビデンス(証拠)」として大量に提示されている。著者は実に念入りなのだ。

 それでも私は蟷螂の斧を振りたい。「子育ては子どもの人格形成にほとんど影響を与えない」について。実感とあまりにもかけ離れている。そういうことを鵜呑みにすることはできない。著者の主張にどこか問題があるはずだ。そしてそれが分かった(と思う)。

 もともとこの主張は、「一卵性双生児」を対象とした調査の計量分析の結果で「(家庭などの)共有環境の影響がゼロ」と出たことによっている。同じ親に育てられた双子と、養子などで違う親に育てられた双子は、同じぐらい性格が似ていて(違っていて)、有意な差がないらしい。

 しかし、この調査で分かったのは「同じ親が育てても、同じ性格に育つわけではない」ということだけじゃないのか?こんなことは、2人以上子どもがいる親なら誰でも知っている。なぜなら、著者自身も言うように「子どもは親の思いどおりにはぜんぜん育たない」からだ。どう育つかは子どもによって変わってくる。

 「思いどおりに育たない」からと言って「影響を与えていない」わけじゃない。2つのことは別のことだ。つまり、著者の主張の問題は、調査結果の「有意な差がない」を「影響を与えない」と読んだ「解釈」にある。世間の逆を言えば話題になるので、敢えて読み違えたのかもしれない。そうでないなら、その解釈で現実を説明できるか検証してみた方がいいと思う。

 そういうわけで、「思いどおりに育たない」ことに悩みながらも、これからも子育てに精を出そう。

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星のかけら

書影

著 者:重松清
出版社:新潮社
出版日:2013年7月1日 発行 2016年5月30日 3刷
評 価:☆☆☆(説明)

 小学館の「小学六年生」に連載された作品に改稿を加えた、文庫オリジナル作品。

 タイトルの「星のかけら」とは、「それを持っていると、嫌なことやキツいことがどんなにたくさんあっても耐えられる」というお守りのこと。夜になると街灯や月明かりに照らされて、道路のあっちこっちでキラキラ光っているらしい。

 主人公のユウキは小学6年生。学校でも塾でも、いじめにあっている。ユウキを助けてくれる友達もいる。学校では幼稚園の頃からの幼馴染のエリカ、塾では違う学校に通っているマサヤ。「星のかけら」のことはマサヤから聞いた。「おまえには星のかけらが必要だと思う」とも言われた。

 ユウキとマサヤは「交通事故の現場に落ちている」と言うウワサに従って、事故があった現場に星のかけらを、暗くなってから探しに行く。そこで、小学2~3年生の女の子のフミと出会う。フミは本物の星のかけらを持っていて、それを街灯の明かりにかざすと不思議なことが起きた...。

 小学生向けということもあって、希望の見える物語になっているけれど、いじめや引きこもりや家庭内暴力が「いまそこにある」こととして描かれる。子どもが抱える人間関係の問題を、大人は軽く見がちだけれど、実は切実で重大な問題だったりする。そして場合によっては「死」さえ、子どもたちの身近にあることを、本書は気付かせてくれる。

 エリカは、素直でいて大人びてもいる。「よく十二歳まで生きてたなあって思わない?」とユウキに聞くシーンがあって、続けてこう言う。「死んじゃうかもしれないタイミングはたくさんあって、でも、うまい具合にそこにぶつからずに生きてて..そもそもニッポンじゃなくて(中略)そういうことを考えたら、生きてるって、なんか、すごいことだと思うわけ」。私が五十二歳まで生きているのは、奇跡の中の奇跡なのだと思う。

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ギャル男でもわかる政治の話

書影

著 者:おときた駿
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
出版日:2016年6月20日 第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 帯には「人気ブロガー議員が教える史上初のエンタメ政治入門書!!」と書いてある。元は「MTRL:明日のモテるを配信中!)」という、男性向けファッションウェブマガジンの企画らしい。試しに覗いてみたけれど、私には縁遠そうなサイトだった。

 東京都議会議員のおときた駿さんが、4人の20代の男性に、政治についてレクチャーする、と言う企画。無粋なことをわざわざ言うと、この4人は「ギャル男」と呼ばれる若者たちで、彼らは、政治のことなんて分かっていないし興味もない、という属性らしい。

 とにかく「分かりやすい」ことが大事で、飽きないようにギャル男くんたちが興味を持ちそうに話さないといけない。そのためには、マンガやアニメやアイドルを例えに使う。時々は「いいところに気づいたね」と褒めたりする。

 一般的には例えを使うと、本来の意味からズレてしまいがちだけれど、うまく例えられていたと思う。「政党」を「ワンピースの海賊団」に、「日本とアメリカ」の関係を「三代目J Soul BrothersとEXILE」に、「社会保障」を「ドラえもん」に。その他にドラゴンボールやスラムダンクやAKB..などが引き合いに出される。

 それなりに面白かった。テーマも「そもそも政治とは?」から、憲法、財政、年金、エネルギー問題、社会保障、表現の自由、と幅広い。4人のギャル男くんたちも、選挙に行くことになりそうだし。こういう政治の本ががあってもいい。

 一方で怖さも感じた。「何も知らない」ことを隠さないギャル男くんたちは、素直になんでも吸収してしまう。自らを「リバタリアン(自由主義者)」と位置付ける著者が説明すれば、その思想を肯定的に捉えてしまう。「終身雇用を廃止して、クビを切っても罪に問われない、とすればいい」なんてことを、あっさり受け入れてしまう。

 公平のために言うと、本書ではこの後に「再雇用のサポートを充実」というフォローがはいる。そこは評価できる。ただし、そうしないこともできたし、フォローの部分がギャル男くんたちの心に残ったかどうかも疑問。若者を集めて、ある思想を植え付けるのはとても簡単なんだと思った。

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武士道セブンティーン

書影

著 者:誉田哲也
出版社:文藝春秋
出版日:2008年7月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「武士道シックスティーン」の続編。磯山香織と甲本早苗の前作の翌年、高校2年生の春から冬までの剣道にかける青春を描く。

 今回は、香織と早苗の別れと気持ちのすれ違いから始まる。早苗が遠くへ転校する出立の東京国際空港、3月31日。早苗は住所も学校も決まってないと言う。さらに「剣道はもう、やんないかも」と。全部ウソだ。

 なんでまたそんなウソをついたのかは、早苗の口から説明がある。「早苗ちゃん、それは間違ってるよ」と言ってあげたいような理由。でも、早苗がそう考えても仕方がない。「仲、良かったのかな」という早苗の独白が示すように、二人の間柄はとても微妙だからだ。

 微妙と言っても結びつきが弱いわけではない。「親友」という間柄より、結びつきが強いようにさえ感じる。香織からの一方的な引きの強さがないことはないけれど、共に高みを目指す「同志」。それもちょっと違う。もう少しお互いを必要としあう間柄。

 この後、香織はこれまで通りに東松学園高校で、剣道に打ち込む。後輩の田原美緒に懐かれ調子を狂わされながら。早苗は福岡南高校という剣道の名門高で、東松との違いに戸惑いながら練習に励む。黒岩レナという剣道部の友達もできた。

 著者は多くの要素を持ち込んできた。2年生になった香織の先輩後輩の関係、転入した早苗の新しい場所での葛藤、それぞれの家族の変化、そして剣道が持つ「武道」と「スポーツ」の多面性。二人以外の登場人物にも粒ぞろいになり、先が楽しみになった。

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夜中の電話 父・井上ひさし最後の言葉

書影

著 者:井上麻矢
出版社:集英社インターナショナル
出版日:2015年11月30日 第1刷 12月19日 第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は2010年に亡くなった、小説家・劇作家の井上ひさしさんが、三女の麻矢さんに残した言葉をまとめたもの。麻矢さんは、井上ひさしさんの劇場である「こまつ座」を引き継いで、代表取締役社長を務める。

 父が遺した言葉を娘が記す、高名な作家の父娘愛を感じる話だけれど、本書の場合はそれだけではない。私にはそれは、父から娘への「命の引継ぎ」のように思えた。ここに記された言葉は、がんの告知を受けてまもなく、ひさしさんが麻矢さんに、病院から日課のようにかけた電話で伝えられている。それは夜中の11時すぎから明け方まで、時には朝の9時まで続いたそうだ。

 傲慢に聞こえるかもしれないけれど、ひさしさんは自分の作品が自分の死後も生き続けることを構想していたらしい。チェーホフやシェイクスピアの作品がそうであるように。そのために必要なことを麻矢さんに託した。

 過去には確執もあったそうだし、どこまでも自己中心的な行いに見えるかもしれない。しかし、このことが麻矢さん自身に生きる芯を与えたのだから、やはり父娘愛でもあるのだ。

 そして全部で77もある言葉のいくつかは、麻矢さんを越えて私たちにも語りかけてくる。だからこその書籍化だ。「問題を悩みにすり替えない。問題は問題として解決する」「自分という作品を作っているつもりで生きていきなさい」「決定的な言葉は最後まで口から出さない」折に触れて思い出したい。

 最後に。ひさしさんはイタリアのボローニャという街を愛していた。そのことは「ボローニャ紀行」というエッセイに、詳細に綴られている。本書ではそのボローニャのことも書かれていて、麻矢さんも訪れたそうだ。そこでひさしさんの足跡に出会う。縁がつながる。

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18歳選挙権ガイドブック

書影

著 者:川上和久
出版社:講談社
出版日:2016年6月8日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は政治心理学者。政治心理学という学問にあまりなじみがないのだけれど、人々の政治的行動(選挙、世論操作、大衆運動など)について研究する社会心理学の一分野、だそうだ。ちなみに公益財団法人の「明るい選挙推進協会」の評議員も務めておられる。

 タイトルを見れは説明の必要はないかと思うが、本書は公職選挙法の改正によって、選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられたことを受けたもの。国政選挙ではこの7月の参院選から適用され、18歳と19歳の若者が選挙権を得る。

 その「新有権者」に向けて書かれた部分もあるが、本書の目的はそれより広く、これを契機に選挙について改めて考えることにある。これまでだって、20歳になれば自動的に選挙のことが分かるはずもない。多くの人は選挙について深く学んだり、考えたりしたことがない。今一度おさらいをしてみよう、ということなのだ。

 章立ては「政治に潜む3つの落とし穴」「「18歳」とはなにか」「「民主主義」とはなにか」「「主権者教育」とはなにか」「「7つの課題」とはなにか」」「「18歳選挙権」投票ガイド」の6章。

 全体として「選挙権」や「民主主義」に関する、歴史や意義といった内容が多く、「今度の選挙でどうすればいいの?」という、お手軽なガイドブックではない。コンパクトにまとまった教科書、といった印象だ。

 「政治に潜む3つの落とし穴」が第1章にあるのは、「ここだけでも」という大事なことだからかもしれない。3つの落とし穴とは「無関心と無気力」「センセーショナリズム」「情報操作」。最初の「無関心と無気力」も含めて、これらの3つを「権力者が意図して行う」場合がある、という指摘は心に留めて置いた方がいいだろう。

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神々の魔術(上)(下)

書影
書影

著 者:グラハム・ハンコック  訳:大地舜
出版社:KADOKAWA
出版日:2016年2月29日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は、1995年の「神々の指紋」以降、考古学の定説を覆す著作を精力的に出版している。その主張は多岐にわたるが「エジプト文明などの四大文明の前に、高度なテクノロジーを持った「超古代文明」が存在した」という確信がその中心となっている。

 本書では著者は、世界各地に残る「巨石遺跡」に焦点を当てる。トルコのギョベックリ・テペ遺跡、レバノンのバールベック、海を越えたペルーのサクサイワマン、そしてイースター島。

 ギョベックリ・テペ遺跡は、放射性炭素年代測定によって、紀元前9600年まで遡れることが分かっている。エジプト第一王朝よりも6000年も前。そしてそれは氷河期の終わりにあたる。地球規模の激変期の終わりに建設が始まったことになる。

 浮彫が施された列柱のうえに巨石が載せられている。規模はストーンヘンジの30倍はあると予想される。そんなものを建設するテクノロジーを持った文明が、今から11600年前に存在した。しかし問題はそこではない。その文明が「忽然と登場した」ことだ..。

 本書はこの後、「忽然と登場した」理由を解き明かしていく。そこにはあの「有名な大洪水」の論証がある。これは著者の新しい知見で、なかなか読み応えがあった。

 正直言ってよく分からないことが多いのだけれど、著者の一連の著作が好きだ。「神の刻印」「惑星の暗号」「天の鏡」「神々の世界」「異次元の刻印」すべて読んだ。批判が多く「トンデモ本」とも言われていることは知っている。私も、その指摘がまったく的外れではないのだろうとは思っている。

 ただ、お話として面白いし、一片の真実はあるように思う。主流派の学者は迷惑なことだろうけれど(あるいは完全に無視か)、「定説」と「真実」は、実はあまり強い結びつきはない。

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