脱・限界集落株式会社

書影

著 者:黒野伸一
出版社:小学館
出版日:2014年12月1日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 17万部突破、NHKでドラマ化されて現在放映中の「限界集落株式会社」の続編。

 「限界集落株式会社」で、長野県幕悦町の中山間地にある「止村(とどめむら)」が、村ごと株式会社化して活性化に成功してから4年後。止村の麓の国道沿いに、「TODOME」ブランドのショッピングモールがオープンすることに。その傍らで駅前商店街はシャッター通りと化していて...という設定。

 幾人ものストーリーが並行して語られるが、主役は2人。一人は、東京から逃げ出すようにして幕悦町にやってきた健太、20歳。もう一人は、健太がバイトをしているコミュニティカフェ「コトカフェ」の主任の美穂。美穂は、前作「限界集落株式会社」でも準主役、「止村株式会社」の副社長だ。

 4年前には止村がTODOMEブランドの野菜や観光農園、キャラクター開発で成功し、この度は大きなショッピングモールがオープンして、この幕悦町は上昇気流に乗った感がある。さらには駅前の再開発の話も出てきた。止村の成功はともかく、ショッピングモールや駅前再開発は、地元の住民に幸せをもたらすのか?が本書を貫くテーマ。

 前作同様、面白かったし為にもなった。巨大資本の再開発計画に小さな商店街の有志が、どうやって太刀打ちするのか?「地方創生」なんて言葉が政府の方針の中で踊っている昨今、大きな予算の投下よりも、健太や美穂たちが必死になってやっていることの方が「実がある」んじゃないかと思う。

 少し不満も。前作よりもストーリーにムリがなくて分かりやすくなった。それは良いのだけれど、その理由は今回は「悪役」を仕立てたからだと思う。前作は「悪い人はいない」からこそ、立ちはだかる障害の克服を描くのが難しかった。今回は勧善懲悪で、分かりやすいけれど安易に流れた感がある。もちろん勧善懲悪も、エンタテイメントとしては「アリ」なんだけれど。

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本屋さんのダイアナ

書影

著 者:柚木麻子
出版社:新潮社
出版日:2014年4月20日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。著者は昨年も「ランチのアッコちゃん」でノミネートされている。

 主人公の名は矢島ダイアナ。「大穴」と書いてダイアナと読む。元ヤンの母のティアラ(勤め先のキャバクラでの名前。本名は有香子)が「世界一ラッキーな女の子になれるように」と付けた。父はダイアナが生まれてすぐにどこかに行ってしまった。

 主人公はもう一人いる。名前は神崎彩子。ダイアナの同級生。出版社の編集者をやっている父と、家で料理教室を開いている母と、3人で英国風の庭がある大きな家に住んでいる。

 本書は、この2人の女性の小学校3年生から22歳までの物語。途中までは「親友」としての2人、その後は別々の人生を歩む2人を交互に描く。互いのことを「羨ましい」と思い、認めてもいながら、些細なすれ違いで距離が離れていく。

 「ランチのアッコちゃん」よりも、ずっと深くて読み応えのある作品だった。

 境遇の違う2人が「親友」になったのはなぜか?。それは、一つには「自分にはないもの」に魅かれあったからだろう。ダイアナは彩子の優しい父母と落ち着いた家庭に、彩子はダイアナの刺激的な暮らしぶりに。

 しかし、2人は同じものも持っていた。2人が親友となるきっかけは「不思議の森のダイアナ」という絵本。本が好きであることと、この絵本への想いを2人は共有する。自分が思い描く人生から外れてしまった時、この絵本は勇気と指針を与えてくれる。そして2人をつなぐ紐帯になる。

 幼い頃に「親友」と呼び合った相手がいるなら、その人と今は疎遠になっているなら、この本を読んでみるのもいいと思う。必ずしも共感はしないかもしれないけれど、得るものはあると思う。

 本書とは関係ないけれど、「ダイアナ」って今で言う「キラキラネーム」だなぁ、と思っていたら、先日「2014年 ベスト・オブ・キラキラネーム」が発表された。

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蜩の記

書影

著 者:葉室麒
出版社:祥伝社
出版日:2013年11月10日 初版第1刷 2014年9月20日 第14刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 2011年下半期の直木賞受賞作。昨年の春には役所広司さんと岡田准一さんの主演で映画化もされた。友人から借りて読んだ。

 時代は江戸時代後期1800年代初頭、舞台は九州豊後国の羽根藩。主人公は藩士の檀野庄三郎、21歳。些細な原因で城中で刃傷沙汰を起こし、死罪になるところを罪を免じられて、ある特命を受ける。それが、幽閉中の元郡奉行、戸田秋谷の監視だ。

 秋谷は、藩主の側室との密通という大不祥事を7年前に引き起こし、本来なら「家禄没収のうえ切腹」のところだが、家譜(藩の記録)編纂という役目を負って幽閉となっている。家譜編纂には厳密な期限が付いている。なんと秋谷には、10年後の8月8日に切腹、と沙汰が付いていた。つまり、3年後には死なねばならない。

 「主人公は藩士の檀野庄三郎」と書いたが、この物語の主役は秋谷だ。秋谷を庄三郎の視点から描いている。自らの命に期限を付けられた中で、人はどれだけ冷静に真摯に、お役目に家族に周囲の人々と、向き合うことができるのか?

 近国佐賀藩の山本常朝の「葉隠」の有名な一節「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」を思い出す。この後には、毎朝毎夕に改めて死ぬ覚悟をしていれば武士道の境地にする..という言葉が続く。まさに秋谷は10年間の長きにわたって「死ぬ覚悟」を続けた。

 秋谷の運命は初めに明らかにされるので、物語は「死」に向かっていくしかない。それでも暗くならないのは、抑え気味の淡々とした著者の書きぶりが、清涼な雰囲気を醸すことと、「あるかなきかの微笑み」を湛える秋谷の、静かな凛とした覚悟が伝わってくるからだ。その覚悟のほどに最後には涙が出た。

 全く違うジャンルの作品のことも思い出した。それは、有川浩さんのラブストーリー。江戸時代のこんな生真面目な武士の物語に、著者はラブストーリーを仕込んでいる。カッコいいおっさんの恋まである。

 映画「蜩の記」公式サイト

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怒り(上)(下)

書影
書影

著 者:吉田修一
出版社:中央公論新社
出版日:2014年1月25日 初版発行 
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。

 冒頭にある殺人事件が提示される。八王子郊外の新興住宅地で、男が住人の夫婦を次々と殺した。廊下に被害者の血で書かれた「怒」という文字を残して。物語はこの事件から1年後から始まる。犯人の山神一也はまだ捕まっていない。

 別々の場所に住む4人のストーリーを、それぞれ追う形で物語は進む。外房の港町の漁協で働く槙洋平と、その娘の愛子。大手通信系の会社に勤めるゲイの藤田優馬。母と共に沖縄の離島に逃げるように移住してきた高校生の小宮山泉。そして山神一也の事件を追う八王子署捜査一課の北見壮介。

 山神一也の事件から1年後に、洋平・愛子、優馬、泉のそれぞれのところに若い男性が現れる。職を探して漁港に現れた男。新宿のサウナで膝を抱えて座っていた男。沖縄の無人島で野宿をしていた男。過去も素性も定かではない男ばかりだ。

 そうであるにも関わらず、彼らは男を受け入れ る。自分たち自身が心の痛みを知っているからだ。その男によって、それぞれの暮らしに波紋が広がる。最初は戸惑いの波紋、次には安堵と喜び。しかしやがて、不審の波紋となり、それは御しきれない大波となって、彼らを翻弄する。

 著者は心に傷を負った人々を描くのがうまい。ちょっと憎らしいぐらいだ。登場人物たちは、狂気に駆られた犯人を除けば、善き人たちばかりだ。挫折や不幸を経験し、ある者はだれかに追われながら、それぞれに日々を懸命に生きている。そうしていれば、喜びを感じる瞬間もある。

 しかし、その喜びの時にさえ、物語は緊張感を湛えている。そして哀しい。洋平は愛子の幸せを願いながら、心のどこかで「この子に普通の幸せが訪れるはずがない」と怯えている。そうしたことがとてもとても哀しい。
 

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その女、アレックス

書影

著 者:ピエール・ルメートル 訳:橘明美
出版社:文藝春秋
出版日:2014年9月10日 第1刷 2015年1月10日 第9刷
評 価:☆☆☆(説明)

 本書のことが各所で取り上げられて、昨年の11月ぐらいからお祭り騒ぎのようになっている。帯にも書いてあったが「史上初の6冠達成」のことだ。

 6冠というのは「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「ミステリが読みたい!」「IN☆POCKET」「英国推理作家協会」「フランスの読書賞」の6つのランキングで、それぞれ第1位または部門1位を獲得しているのだ。当然、書店でもこのことが大きく取り上げられて宣伝していた。期待して読んだ。

 主人公はアレックス。30歳、女性、美女。それともう1人、ヴェルーヴェン警部。50代、男性、身長145cm。この2人のストーリーが交互に語られる形で物語は進む。この2つのストーリーは、すぐにも交差しそうでいて、なかなか交わらない。

 アレックスのストーリーは、開始早々に緊張が走る。なんと彼女はいきなり誘拐されて、犯人のサイコ野郎に監禁される。「サイコ野郎」という表現は本書にはなく、私が思った。なぜかと言うと、そいつは彼女を裸にして、体を折り曲げないと入らない木箱に閉じ込めたから。「淫売がくたばるところを見てやる」と言って。気色悪い。

 ヴェルーヴェン警部のストーリーは、このアレックスの誘拐事件を追う。優秀な刑事らしく、地道な捜査と閃きで犯人を追いつめる。こちらのストーリーには、警部の個人的な事情が絡んで、なかなか「いい話」になっている。

 さて、これまでの紹介が本書のすべてなら「6冠達成」はないだろう。実は、ヴェルーヴェン警部が犯人を追いつめるのは、物語の開始からわずかに100ページ、約450ページの本書の4分の1ぐらいの場面なのだ。そこから物語はナナメ上の方へ疾走を始める。

 そのナナメ上加減が評価されての「6冠達成」なのだ。それはとてもよく分かる。帯に「101ページ以降の展開は、誰にも話さないでください」と書いてあるので、それを守って明かさないけれど、読んでいて「これはスゴいわ」と、私も思った。

 しかし、私なら本書を「第1位」には選ばないと思う。(何の審査員でもない私が偉そうに「選ばない」なんて言っても失笑されるだけだけれど)それは、事件があまりに凄惨で、正視に耐えなかったからだ。もちろん、その「凄惨さ」には意味があるのだけれど、それでもこれはキツい。

 「第1位」になれば、たくさんの人が読むことになる。私などよりもっとショックを受ける読者もいるだろう。そうなったら申し訳ない、というか私自身がイヤなので、私なら「第1位」には選ばない。そんなわけで、☆4つは堅い作品だとは思うのだけれど、1つ減らして☆は3つ。

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知の英断

書影

著 者:吉成真由美
出版社:NHK出版
出版日:2014年4月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 20万部超(2014年3月時点)のベストセラーとなった「知の逆転」に次ぐ、世界の叡智と呼ばれる人々へのインタビュー集の第2弾。

 前著が「現代最高の知性」と言われる「研究者」へのインタビューであったのに対して、今回は国際政治の現場で実績を積む「知の実践者」へのもの。前著よりも議論が具体的で、本書の方がずっといい。おススメ。

 サイエンスライターの著者が、世界の「長老」に現代が抱える「困難」にどう立ち向かうのか?を聴く。「長老」は6人。ジミー・カーター、フェルナンド・カルドーゾ、グロ・ハーレム・ブルントラント、メアリー・ロビンソン、マルッティ・アハティサーリ、リチャード・ブランソン。

 国際政治に造詣が深い人でなければ、全員を知っている人はいないかもしれない。でも、各インタビューの扉のページに、コンパクトな紹介があって理解を助けてくれる。例えばジミー・カーター氏は「戦争をしなかった唯一のアメリカ大統領」、フェルナンド・カルドーゾ氏は「五〇年続いたハイパーインフレを、数か月で解消した大統領」という具合に。

 感銘を受けた言葉がたくさんあった。その一つを紹介する。ジミー・カーター氏の「北朝鮮と日本との関係を緩和するためには?」という質問への答え。主旨としては「お互いに尊敬の念を持って話し合うことだ」ということ。

 これは、他の紛争にも言えることで「相手は敵で悪い奴だ」と思っているうちは、「勝ち負け」でしか決着しない。そして「負けた」方は憎悪を募らせて、次の紛争の種となる。その悪循環。さて我々に紛争の相手に「尊敬の念を持つ」度量はあるだろうか?

 最後に、あまりに的確で脱力さえしてしまった言葉。アイルランド初の女性大統領で、現在はアフリカ大湖地域の紛争解決を担う国連特使のメアリー・ロビンソン氏の、現在の様々な「和平会議」を表したもの。「悪い男たちが悪い男たちと話をしては、お互いに許しあったりしている」。まったくその通り。

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虫眼とアニ眼

書影

著 者:養老孟司、宮崎駿
出版社:新潮社
出版日:2008年2月1日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 解剖学者の養老孟司さんと、スタジオジブリの宮崎駿さんの対談集。対談の時期は1997年、1998年、2001年の3回。ざっと15年ぐらい前になる。「もののけ姫」が1997年、「千と千尋の神隠し」が2001年の公開。養老さんの「バカの壁」は2003年、この対談はそれよりも前だ。

 タイトルの「虫眼とアニ眼」について。「虫眼」は「小さな虫の動きも逃さず捉えて感動できる」眼のこと。少年のころはみんなが持っていたのに、いつか無くしてしまう。その点、養老さんは昆虫採集が趣味で、今でも「虫眼」を持っているらしい。「アニ眼」は、もちろんアニメとの語呂合わせだ。

 この2人が雑誌のインタビュアー(3つの対談はそれぞれ別の雑誌の記事になったもの)を交えて、日本の自然のこと、社会のこと、教育のこと、お互いのことを語り合っている。最初の対談で相通じるものを感じたらしく、とても自然体でおおらかに会話が進む。年代が近いことも作用しているのだろう。

 感じたことを2つ。1つめ。宮崎駿さんは、私とは年代も違うし立場も違うし..というより共通点を見つける方が難しいのだけれど、共感できることがいくつもあった。例えば「子育て」について。「極端なのは放っておいても育つわけだけど、それでも毎日毎日なにかしら手入れして育てる。でも、結局は子どもがどうなるかなんてわかるわけないんです」。これは、私もそう感じていた。

 2つめ。冒頭にも書いたように、対談は15年も前に行われたもの。それなのに「古さ」をあまり感じない。当時人気のあった政治家の話題などは、さすがに月日を感じるが、日本の自然や「原風景」の喪失や、人の考え方の変化を嘆く様子は、今、この二人が対談しても同じことを話されるのではないかと思う。私たちの社会は、良くもならない代わりにひどく悪くもなっていないのかも、と思った。15年は長いようで短い。

 ちょっと面白かったエピソード。「親から「うちの子どもはトトロが大好きで、もう100回ぐらい見てます」なんて手紙が来ると、そのたびにこれはヤバイなあと、心底思うんですね。(中略)いっそビデオの箱に書きたいですね、「見るのは年に一回にしてください」って(笑)。」

 最後に。冒頭に宮崎駿さんのカラーイラストが多数収録されている。それは、宮崎さんの理想の保育園や住宅や広場とそれがある町を描いたもの。理想を「絵」で表現できるって素晴らしい。

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キャロリング

書影

著 者:有川浩
出版社:幻冬舎
出版日:2014年10月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 主人公は大和俊介。32歳。「エンジェル・メーカー」という、社員数5名の子供服メーカーの営業。この会社が12月25日をもって倒産・廃業する、というところから物語は始まる。

 残りの社員を紹介する。社長は西山英代、俊介の母の友人。デザイナーの佐々木勉、丸々した体型にとっつぁん坊や的童顔。営業の朝倉恵那、歳は俊介より1つ上、美人、東大卒。そしてデザイナーの折原柊子、俊介と同い年。以前、俊介と付き合っていて結婚の話まで出たが、今はただの同僚。

 「エンジェル・メーカー」では、別事業として学童保育をやっている。子供の親をサポートするという関連。多くの親子は惜しみながらも事前に別の施設に移っていったが、一人だけ25日まで預かることに。それが6年生の田所航平くん。

 物語は、俊介と柊子の関係を捉えながら、様々なことに枝を伸ばしていく。俊介の過去、航平の別居中の両親のこと、航平の父親が務める整骨院のこと、そこが抱える借金のこと、その借金を貸している闇金業者のこと。

 著者はラブストーリーを描く作家。それも複数のカップルを同時に描くことが多い。今回も俊介と柊子だけでなく何組もの男女が描かれる。ざっと数えて5組。いつもより多い。そしていつもより様々な男女のあり方を描いた。ハッピーなものばかりではなく。

 ちょっとクサいセリフも著者の持ち味。冒頭の緊迫した場面が、読んでいる間中頭から離れず、ハラハラさせられた。うまい演出だと思う。

 著者の最新刊。昨年の10月25日発行なのに、11月4日からNHKでテレビドラマ化されて、BSプレミアムで放送された。本を原作とするのなら、先に本を読む時間として、せめて半年ぐらいは空けてほしいと思う。

 コンプリート継続中!(アンソロジー以外の書籍化された作品)
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流星ワゴン

書影

著 者:重松清
出版社:講談社
出版日:2005年2月15日 第1刷発行 2014年12月24日 第59刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の作品は、いつも少しホロッっとくる。時には心揺さぶられる作品に出会うこともある。本書は「本の雑誌」2002年度の年間ベスト1になった作品。

 主人公は永田一雄、38歳。結婚して14年、中学1年生の息子がいる。妻のこと息子のこと仕事のこと、いろいろなことが上手く行っていない。「死のう」と決めるほどの気力もなく、「死んじゃってもいいかなあ、もう」などと考えながら終電で帰って来て、駅前のロータリーのベンチに座っているところから物語は始まる。

 一雄の目の前にワゴン車が止まる。ワイン色の古い型のオデッセイ。ドアが開いて「早く乗ってよ。ずっと待ってたんだから」と催促される。声の主は健太くん。車を運転していたのは健太くんのお父さんで橋本さん。...二人は5年前の交通事故で亡くなっていた。

 つまりどういうこと?一雄はもう死んでるの?そういうことは曖昧なまま物語は先に進む。橋本さん親子の説明によると、このワゴン車は、一雄にとって「たいせつな場所」に連れて行ってくれる、という。地理的な意味だけでなく、時間的にもたいせつな場所。「あれが分かれ目だった」と思うような場所に。

 すぐに「ああそうか。「タイムスリップ+やり直し」モノだな」と思ったけれど、どうやら単純にやり直しができるわけではなく、かと言って全然できないわけでもなく、もう少し複雑。この複雑さが、良く言えば物語に奥行や余韻を持たせている。悪く言えば設定が混乱しているように感じる。

 一雄がオデッセイに運ばれて、何か所かの「たいせつな場所」に行き、何かをしたり何かを見つけたりする。ほんの些細なことだけれども、それがとても大切なことなのだと、一雄も読者も知ることになる。

 私は、幸いなことに「死んじゃってもいいかなあ」と思ったことはないけれど、いつも順風満帆でもない。私の人生にもたくさんの分かれ目があったことが、今なら分かる。これからはできれば、分かれ目に気が付けるように、耳を澄まし目を開いておきたいと思った。本書にはホロッっときた。

※本書を原作としたテレビドラマがTBS系で、1月18日(日)から放映されます。
日曜劇場「流星ワゴン」公式サイト

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ドミトリーともきんす

書影

著 者:高野文子
出版社:中央公論新社
出版日:2014年9月25日 初版発行 10月30日 5版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 昨年の秋ぐらいから、全然違う方面の知り合いが何人か「これ面白いよ」と勧めてきた。その間に新聞や雑誌の書評欄で次々に取り上げられ、「本の雑誌」の2014年度ベスト10の特集に載り...と、ちょっとした「話題の本」になっている。

 著者の高野文子さんは漫画家で、本書も基本的にマンガ。装飾の少ない乾いた感じの絵がとても心地いい。

 主人公はとも子さん。娘のきん子ちゃんと2人で学生寮を営んでいる。とも子さんの「とも」と、きん子ちゃんの「きん」、それで「ドミトリーともきんす」。説明の必要はなかったかもしれないけれど。

 住んでいる学生さんがスゴイ。朝永振一郎くん、牧野富太郎くん、中谷宇吉郎くん、そして湯川秀樹くん。これも、説明の必要はないかもしれないけれど、昭和の前半に活躍した科学者たち、それも錚々たる顔ぶれだ。とも子さん親子と彼らの語らいが、4ページ半ほどの短いマンガとして、10編あまり収められている。

 そもそもはとも子さんの空想から始まっている。うんと昔の科学者の皆さん。偉くなってからだと、会っても緊張してしまって何も言えないと思うけれど、まだ若者でご近所に住んでいたらどうだろう?という設定。

 マンガの中ではまだ学生さんの科学者の皆さんが、その研究について熱っぽく語ってくれる。そして分かりやすく。そうきん子ちゃんにも分かるように。私にも分かるように。

 面白かった。そして驚いたことがある。科学者の皆さんは、その学術書だけでなく、一般向けの科学書も書いている、それだけでなく、随筆や日記なども出版されているのだ。あまりに功績の大きい皆さんだから、その功績に目が行ってしまうのは仕方ないけれど、人間的にもとても魅力的だったことが分かる。

 本書は、科学者の皆さんが記したブックガイドにもなっている。気になった本を読んでみようと思う。

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