想い雲 みをつくし料理帖

書影

著 者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2010年3月18日 第1刷発行 2013年6月8日 第21刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「八朔の雪」「花散らしの雨」に続く「みをつくし料理帖」シリーズの第3作。「「う」尽くし」「ふっくら鱧の葛叩き」「ふわり菊花雪」「こんがり焼き柿」の4編を収録した連作短編集。

 主人公の澪は、女性ながら大坂の一流料理店「天満一兆庵」で修業し、訳あってそこのご寮さんと共に江戸に来て、今は「つる家」という料理屋で板前をしている。

 澪の料理の腕は一流。「つる家」はそこそこ繁盛している。庶民から支持され武士からも好まれ、多士済々が集う。「つる家」は妬みも買い様々な妨害を受けるが、その多士済々との交流と、澪のまっすぐな性格が、それを乗り越える助けになる。

 澪には、この江戸で果たしたい望みがいくつかある。例えば、「天満一兆庵」の江戸店を任され、今は行方が知れない佐兵衛を探し出し、さらには「天満一兆庵」を再興すること。例えば、大坂にいたころの幼馴染の野江との再会を果たし、昔のように共に暮らすこと。

 これまでの2作では、これらの望みにはあまり進展がなかった。捉えようとしても指の間からこぼれてしまった。今回はそれが少し動く。あるいは大きく前進する。これはますます面白くなってきた。

 澪が作る料理がどれもこれも旨そうだ。人情話が泣ける。

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ちんぷんかん

書影

著 者:畠中恵
出版社:新潮社
出版日:2007年5月30日 発行 6月20日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「しゃばけ」シリーズの第6作。表題作「ちんぷんかん」を含む5つの短編を収録した短編集。

 今回はいつもと少し趣向が違う作品が何編かあった。
 このシリーズの主人公は、江戸の大店の跡取り息子の一太郎なのだけれど、表題作「ちんぷんかん」は上野にあるお寺の修行僧、その次の「男ぶり」は一太郎の母のおたえの物語で、この2編は主人公がいつもと違うのだ。

 私は以前からおたえのことが気になっていた。一太郎の祖母のおぎんが実は人ならぬ妖で、その娘のおたえを通して一太郎にはその妖の血が受け継がれている。だから一太郎には様々な妖たちが見える、というのがこのシリーズの仕掛け。

 当然おたえにも妖たちが見える。いろいろなエピソードがありそうなものだ。それなのに、これまでは物語にさっぱり絡んでこない、セリフさえほとんどなかった。だから気になっていたのだ。この度おたえの口からその過去が明かされたのは「待ってました」という感じだった。

 趣向が違うという意味では「鬼と小鬼」もそうだ。舞台が何と賽の河原だ。一太郎は病弱で、何度も病で死にかかっている。しかし今回は、いよいよあの世へ向かって旅立ってしまったわけだ。

 もうひとつ。「はるがいくよ」は、これまでになく抒情的な作品。これからの桜の季節に読むと、感涙を誘うかも。

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レディ・マドンナ

書影

著 者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2012年4月30日 第1刷発行 5月22日 第2刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第7弾。シリーズとしては現在のところ本書が最新刊。

 舞台は、東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」。巻を重ねるごとに新たな登場人物が加わり、その多くが後の物語でも役割を得て登場する。そうして巻頭の「登場人物相関図」では、36人もの人を紹介している。

 今回も様々な物語が同時並行で進む。例えば、往年の大女優が当主で83歳の勘一を訪ねて足繁く通ってくる、勘一のひ孫の研人が上級生を殴った、店の棚一段の本を全部買っていく客がいる...といったことだ。

 「シー・ラブズ・ユー」や「スタンド・バイ・ミー」のレビュー記事でも書いたけれど、「東京バンドワゴン」は良い嫁さんたちに支えられている。今回も、勘一の孫の紺の奥さんの亜美さんが魅せてくれた、青の奥さんのすずみさんは「男前」だった。

 ところで、上に「現在のところ本書が最新刊」と書いたけれど、実はこの言葉はこの1カ月の間にこれで3度目。「丕緒の鳥」が「十二国記」シリーズの最新刊、「パラダイス・ロスト」が「ジョーカー・ゲーム」から始まる「D機関」シリーズの最新刊だからだ。

 面白いシリーズと出会うとしばらく楽しめる。「東京バンドワゴン」もそうだった。読み切ってしまって少し寂しい。早く続巻を望む。

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新しい火の創造

書影

著 者:エイモリー・B・ロビンス 訳:山藤泰
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2012年10月4日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は著者が会長を務めるロッキーマウンテン研究所が、600万ドルの費用と数年の歳月をかけた「新しい火の創造(Reinventing Fire)」プロジェクトの一般向けの報告書と位置づけられる。このプロジェクト自体は米国のエネルギー政策に関するものだ。しかし、日本にとっても有用な研究・提言であることは言うまでもない。

 ロッキーマウンテン研究所は、ロッキー山脈の高地にある。冬期には外気温がマイナス44度にもなる。しかし驚くべきことに、電気や燃料を使った「暖房システム」がない。徹底した断熱と太陽熱の利用によって、快適な生活を可能にしている。著者の「エネルギーはもっと効率的に使える」という主張は、著者自身によって「実証済み」なのだ。

 本書は、「運輸」「建物」「工業」「電力」の4つの分野について、「エネルギー効率の向上の実例と将来」「そこで発生するビジネスチャンス」「2050年に実現可能なゴール」「それを後押しする政策」を調査・研究している。
 世界中の事例からの具体的な数値を使って説明、考察されていて、その徹底ぶりには目を瞠るばかりだ。(そのために2段組500ページという大書になっている。文字が小さいこともあって、読むのに苦労させられた)

 ここで特長的なのは「ビジネスチャンス」という項目があることだ。著者が繰り返し主張するのは、エネルギー効率の向上は競争力の向上につながる、もっと卑近な言葉で言うと「儲かる」ということだ。
 テキサス州は米国の中で抜きんでて再生可能エネルギーの開発が進んでいるんだけれど、その理由は「全部金儲けのため」だそうだ。「儲かる」ことが一番の推進力になる。

 それだけではない。エネルギー効率の向上と再生可能エネルギーの開発による、石油などの化石燃料への依存からの脱却は、自国内に資金を呼び戻し、雇用を増やす。石油をめぐる紛争が無意味になり、軍事費を抑制し安全保障を強化する。いいことづくめだ。世界中のエネルギー政策に反映して欲しい。

この後は書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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(さらに…)

世界一ラクにできる確定申告

書影

著 者:原尚美 山田案稜
出版社:技術評論社
出版日:2013年12月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 フリー株式会社さまから献本いただきました。感謝。

 本書はちょっとユニークな本だ。先に言っておくと、本書は「free(フリー)」というクラウドシステムの会計ソフトの宣伝のために作られた本だ。この記事も宣伝めいたものになってしまったがご容赦いただきたい。

 もちろん書店で販売されている本なのだけれど、まぁ「宣伝」だけでは買う人もいないだろう。その点本書は、税理士らの2人の著者によって、「フリーランスと確定申告」をテーマに、なかなか興味深いアドバイスがいくつも書かれている。

 言ってみれば、「フリーランスは確定申告が大変でしょ」→「それをラクにする方法はこうだよ」→「そのためにはこのソフトが必要なんだよ」、という巧妙かつ明け透けな宣伝。それを本にして1580円(税別)で売る、というプロモーション方法がユニークだと思うのだ。

 アドバイスの一つを紹介する。「クレジットカードを、プライベート用とビジネス用の2枚を用意する」。もちろん引き落とし口座も別にする。あらゆる経費をビジネス用のカードで支払えば、カードの明細表が、そのまま「経費帳」になる、というわけ。

 会計ソフト「free」では、こういったクレジットカードやネットバンクなどの明細を自動で取り込むことができ、勘定科目まで予想してくれるそうだ。うまく機能すれば確かにラクだ。(クラウドシステムとカード取引のウェブシステムをリンクする危険性をどう考えるのか微妙だけれど)

 本書はずいぶん前にいただいていたのだけれど、記事を今日書いたのは、ちょうど明日(3月17日)が、今年の確定申告の期限だから。無事に申告と納税を済ませて一息ついたところで、来年にむけて参考にしたらどうだろう?

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ランチのアッコちゃん

書影

著 者:柚木麻子
出版社:双葉社
出版日:2013年4月21日 第1刷発行 6月3日 第7刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。これまで著者のことを知らなかったけれど、これまでに単著で10作品も刊行されていて、平成25年下半期の直木賞候補になっている。ちょっと注目していこうと思う。

 表題作「ランチのアッコちゃん」を含む4編を収録した短編集。

 「ランチの~」の主人公は澤田三智子。麹町の小さな教材専門の出版社の派遣社員。4年付き合った彼と別れて落ち込んでいる時に、職場の女性部長から「ランチの交換」を申し込まれた。三智子が部長にお弁当を作る代わりに、部長がいつも行くお店で食べるランチ代を出してくれる。

 この部長に社員が密かにつけたニックネームが「アッコちゃん」。三智子はアッコちゃんが指示したお店でランチを食べる。それは新しいお店であり、新しい人との出会いであり、新しい経験であり、新しい世界だった。三智子はそうしたものを干天の慈雨のように吸収していく。

 次の「夜食のアッコちゃん」は「ランチの~」の続編。どうやら翌年の話らしい。出版社が倒産して三智子は派遣先が変わった。そこで女子の正社員と派遣社員の対立の板挟みになって悩んでいた。そこに、ワゴンの「ポトフ屋」を新しく始めたアッコちゃんが現れる。

 その次の「夜の大捜査先生」と「ゆとりのビアガーデン」は、主人公を変えた物語。アッコちゃんのポトフ屋も登場するので、同じときの同じ場所の話だと分かる。「夜の~」は、昔「コギャル」だった30歳の契約社員の話。「ゆとりの~」は、大手商社の社内ベンチャーを3か月で辞めた「使えない社員」の話。

 4編を通して共通して感じるのは、人は「出会い」によって成長したり変わったりすることだ。「~アッコちゃん」の2編は、アッコちゃんが出会いを三智子に意図的に与える。他の2編はもう少し自然に出会いが起きる。主人公たちは少し晴々して物語の終わりを迎える。

 本書はファンタジーなのかもしれない。「現実離れ」と揶揄しようというのではない。確かに「うまく行きすぎる」と思う。リアリティを大事にする人からは評価されないだろう。でも、アッコちゃんのワゴンは、敢えてちょっとリアリティを超越した登場の仕方をする。その時、物語がフッと重さをなくした感じがして、「うまく行きすぎ」てもOKと思えてきた。

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星間商事株式会社社史編纂室

書影

著 者:三浦しをん
出版社:筑摩書房
出版日:2009年7月10日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 大好きな三浦しをんさんの作品。でも、発行してすぐには読まなかった。それは主人公が「腐女子」だということだったから。主人公が腐女子じゃぁ、内容もあんな感じ?と思うと、どうにも落ち着かないので。

 読んでみると「あんな感じ」は、心配のないレベルだった。子どもが読むにはどうかと思うから、R-12というところか。

 主人公は川田幸代。29歳。高校生の頃から同人活動を続けている。星間商事株式会社社史編纂室勤務。編纂室には他に、合コンに明けくれる矢田信平と、グラマーなみっこちゃん、定年まであと1年の本間課長がいる。(それから誰も姿を見たことがないけれど、室長もいるらしい)

 現実にはそんなことはないのだろうけれど、フィクションでは社史編纂室というのは「ヒマな部署」だ。星間商事も例外ではない。昨年創立60周年を迎えたのに、社史はできなかった。前半はそんなユルユルのヒマさ加減が描かれる。

 ただ、編纂室の社員たちは実はけっこうデキる。もと居た部署で会社的にちょっとマズいことあって、まぁここに追いやられたわけだ。それなりに仕事を進める内に、会社のある時期に何か秘密があることに気が付く。この謎を追うミステリーが、本書の中心となるストーリー。

 その他に、幸代の同人活動とその仲間の話、幸代と恋人の話、みっこちゃんの恋の話等々、が絡んできて、楽しい読み物になっている。見方によっては、「神去なあなあ日常」「仏果を得ず」「舟を編む」と同じ、お仕事小説の「社史編纂」編でもある。 

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パラダイス・ロスト

書影

著 者:柳広司
出版社:角川書店
出版日:2012年3月31日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「ジョーカー・ゲーム」「ダブル・ジョーカー」の続編。大日本帝国陸軍に設立されたスパイ養成学校、通称「D機関」のスパイを描くシリーズの3作目。シリーズとしては現在のところ本書が最新刊。表題作の「失楽園(パラダイス・ロスト)」と、「帰還」「追跡」「暗号名ケルベロス」の全部で4編の短編を収録。

 「失楽園」は、シンガポールに領事館付武官として赴任した米海軍士官の物語。欧州と中国での戦争の影はシンガポールにはまだ落ちていない。美しい街並みと贅を凝らしたホテルの暮らしは、まさに楽園(パラダイス)。そこで英国人の実業家が不慮の死を遂げた事件。

 「追跡」の主人公は、英国タイムズ紙の極東特派員。D機関を統率する結城中佐の実像に迫ろうとするが、些細な情報さえ容易には得られなかった。それでも調査を続け「特ダネ」をつかみ取った。しかし...という話。その実像に迫ろうとすればするほど、「魔王」と呼ばれる結城中佐のカリスマ性と神秘性が際立つ。

 「誤算」は、ドイツに占領されたパリが舞台。日本からの留学生がドイツ兵とトラブルを起こし、現地の若者らに助けられる。しかしその留学生は記憶を失っていた。「暗号名ケルベロス」は、まだ中立を保っていた米国から日本への航路を進む豪華客船が舞台。D機関のスパイと英国のスパイの対決。

 本書もこれまでの2冊に劣らず面白かった。特筆すべきは「失楽園」と「追跡」の主人公が、D機関のスパイではないことだ。「追跡」に至っては登場さえしない。しかし、紛れもなくこの2編はD機関の物語だと感じる。いや、他の2編よりもくっきりとD機関のあり方が感じられるぐらいだ。こういう描き方がとてもうまいと思う。

※「ジョーカー・ゲーム」が亀梨和也さん主演で映画化され、2015年公開予定です。
映画「ジョーカー・ゲーム」公式サイト

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首折り男のための協奏曲

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:新潮社
出版日:2014年1月30日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の最新作。それぞれ別のところで発表された短編を7編収録した短編集。タイトルの基になっている冒頭の「首折り男の周辺」と、最後の「合コンの話」はそれぞれ「Story Seller」と「Story Seller2」に収録されていて既読だった。

 「首折り男の周辺」は、首を折られて人が殺される事件が連続して起きる中で、隣人がその犯人ではないかと疑う夫婦と、犯人にそっくりの体型・風貌で間違われる男と、いじめられている中学生が、それぞれ主人公の物語が交互に語られる。

 2つ目は、事故で子どもを亡くした父親の復讐を扱った「濡れ衣の話」。「首折り男~」とゆるくつながっている。「首折り男~」も含めて「殺人」「いじめ」「復讐」という重々しい話を語りながら、湿っぽくならない。著者らしい作品。

 その後の3作品は、伊坂作品ではお馴染みの「探偵&泥棒」の黒澤の物語。夫を介護中の女性が50年前の逢瀬について黒澤に調査を依頼した「僕の舟」。黒澤が訪ねたクワガタを飼育する小説家の物語と塾で暴力を受ける中学生の物語がシンクロする「人間らしく」。テレビの制作プロダクションの男からの奇妙な依頼を描く「月曜日から逃げろ」。

 6つ目の「相談役の話」は、再びクワガタ飼育の小説家の話。ちょっと怖い怪談話。最後の「合コンの話」は、参加した男女3人ずつがそれぞれワケありで、会話の表面の和やかさと、裏に隠された緊張感を描いた作品。ここで再び「首折り男」が登場する。

 最初に書いたように、それぞれが別のところで発表された作品で、「恋愛ものを」とか「怪談話を」と別々の依頼を受けたもののためか、統一感に欠ける。著者としても、色々なパターンの創作を試している風で、中には「実験的」な作品もある。「短編がたまったので1冊にしました」感がぬぐえない。

 ...というのが一読後の感想だった。ところが...

 短編間のゆるいつながりが気になって、それを確かめるために読み返すうちに、「ゆるいつながり」ではなく、縦横にガッチリと連結していることに気が付いた。さらに、手元にある既読の2作品を読んで改変部分を確認すると、その意図がはっきり分かる。著者が、もともとバラバラだった作品の集まりを「連作集」に生まれ変わらせたのだ。伊坂さん、グッジョブ。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
 「伊坂幸太郎」カテゴリー

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里山資本主義-日本経済は「安心の原理」で動く

書影

著 者:藻谷浩介 NHK広島取材班
出版社:株式会社KADOKAWA
出版日:2013年7月10日 初版発行 12月20日 第7刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 共著者の藻谷浩介さんをテレビで拝見して、どんな考えをお持ちなのか気になっていたので、書店で平積みになっていた本書を手に取って見た。私は知らなかったのだけれど、中央公論新社の「新書大賞2014」の大賞を受賞したそうだ。

 タイトルの「里山資本主義」は、「かつて人間が手を入れてきた休眠資産を再利用することで、原価0円からの経済再生、コミュニティ復活を果たす現象」と定義されている。ただ、これではよく分からないと思うので、私なりの捉え方を説明する。

 「里山」というのは人が住んでいる場所に隣接した山林のこと。かつては人の手が入り、建築資材としての木材や燃料としての薪、木の実や果実といった食料などの資源を得ていた。資源の購入費用としてのコストはほぼゼロ円で、適切に管理すれば持続的・永続的に資源を得ることができた。

 「里山資本主義」は、こうした里山の利用のように、「地域内で」燃料や食料を調達し資金が循環する経済モデルのこと。本書では「マネー資本主義」や「グローバル経済」に対置、あるいはこれを補完するものとして語られている。

 著者は問いかける。「われわれが生きていくのに必要なのは、お金だろうか。それとも水と食料と燃料だろうか」と。「お金があっても食料や燃料が手に入らない」という経験を、私たちは東日本大震災の時にしている。長野県に住む私は、つい2週間前の大雪の時にもそうした事態に直面した。これは、暮らしの危機管理の問題でもあるのだ。

 必要なのは「お金」ではない。それは自明だ。それなのに、私たちの社会は「お金」を中心に回っている。それは「水も食料も燃料も、お金がないと手に入れられない」という前提だからなのだけれど、実はそうでない暮らしもある。

 本書にはその実例が豊富に紹介されている。岡山県真庭市では、製材で出る木くずを使った発電と、ペレットボイラーの利用で市全体で消費するエネルギーの11%を木のエネルギーでまかなっている。オーストリアのギュッシングという町は、なんとエネルギーの72%を自給している。

 とにかくお金をドンドンつぎ込んでグルグル回して...という「アベノミクス」や、「原発はベースロード電源」というエネルギー基本計画に、違和感や不安を感じる方に一読していただきたい。本書が「じゃぁどうしたら?」の答えになるかもしれない。

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