丕緒の鳥

書影

著 者:小野不由美
出版社:新潮社
出版日:2013年7月1日 発行 7月20日 第4刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「十二国記」シリーズの第8作。4編を収めた短編集。文庫として出版されたものとしては、現在のところ本書が最新刊。

 シリーズの中では異色作だと思う。これまでは十二国のどこかの国の国王か王宮を描く作品ばかりだったけれど、本書収録の4編には共通して、国王も王宮もほとんど登場しない。代わりに描かれているのは庶民や下級官吏の暮らしだ。

 また、国が傾き荒廃する時期が舞台となっていることも共通している。十二国の世界では、国王の治世の末期には国が勢いを無くし、国王が不在となると災害が頻発するなどして国土が荒廃をし、庶民の暮らしは凄惨を極める。そんな中でも日々の暮らしを営む(営まなければいけない)人々を描く。

 表題作「丕緒の鳥」は、儀式で使う陶製の鳥である「陶鵲」を司る官吏が主人公。儀式で撃ち落とされてしまう「陶鵲」を、庶民の姿と重ね合わせて悩む。

 「落照の獄」は、死刑についての答えの出ない問いを真正面から取り上げたもの。「青条の蘭」は、植物の奇病に端を発する環境破壊が題材。どちらも今日的な問題を、壮大なファンタジー世界の中に落とし込んだものだ。

 最後の「風信」は、自国の軍隊に蹂躙されて故郷を追われた少女が主人公。たどり着いた場所には、自然観察に没頭する「浮世離れした」暮らしをしている人たちがいた。「悲惨な外の世界の暮らしをどう思っているのか」と、少女は腹立たしく思う。

 「落照の獄」を除いて、他の3編にはもう一つ共通点がある。それは「再生」の物語だということだ。失いかけた何かを再び手にする、そんな予感がしみじみとうれしい作品だった。

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空色メモリ

書影

著 者:越谷オサム
出版社:東京創元社
出版日:2009年11月30日 初版
評 価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の1月の指定図書。

 ベストセラー+映画化となった「陽だまりの彼女」の著者の作品。「陽だまりの彼女」は25歳の会社員を主人公にしたラブストーリーだったけれど、本書は高校2年生男子を主人公にした青春ミステリー。

 主人公の桶井陸は、体重98キロ、ウエスト115cm。つまりデブ。デブであること自体を悩んでいる風はないのだけれど、友達の一人が「ぶーちゃん」と呼ぶのが本当は嫌だ。そして彼は、部員が部長一人しかない文芸部に(部員ではないけれど)入り浸っている。

 物語のきっかけは、その文芸部に新入生の女子が一人入部したこと。そして部長の河本博士(通称ハカセ)が、その新入生の野村さんを好きになってしまう。ここまで約20ページ。あまりモテない男の子の恋を描く、という青春小説の王道が冒頭から展開される。

 ところが野村さんには、付き合っているイケメンの彼氏がいるらしい。報われない恋、これも王道。でもこの後は、野村さんに脅迫状が届くとか、陸も正体不明の相手から脅されるとか、「野村さんは実は...」とか、ミステリー要素が配分された展開で、面白い読み物になっている。

 陸がなかなかいいヤツで、ハカセと野村さんの仲を取り持ったり、ハカセにアドバイスしたりする。そんな彼が私は好きだ。汗をかくことや体臭を気にしている「デブネタ」が痛々しい。ふざけて小突く力は、相手を怒らせないように慎重に加減している。失礼ながらデブでなければ、もっと自分に自信が持てて、男女ともに人気もあったことと思う。

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オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ

書影

著 者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2011年4月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第6弾。

 東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」とそこを営む堀田家を舞台としたミステリー&ホームドラマ。これまでと同じく4つの章があり、章の中で決着がつく小さな物語と、章をまたぐ大きな物語が同時並行で進む。

 例えば小さな物語は、「店の外のワゴンに何度か林檎が置かれていた」とか、「風体の穏やかでない輩が店の周りをウロウロしている」とか、「常連客の一人がストーカーされている」とか。深刻度に差はあるけれど「事件」が起きる。謎が解ければ一見落着。

 大きな物語の方は、30年前に亡くなった絵本童話作家の記念館の設立の話と、「伝説のロックンローラー」と呼ばれる我南人の曲の盗作事件。まぁこちらもうまい落としどころに落ちた感じ。

 前作のレビューで「都合のよさ」が興を削いでしまわない、ギリギリのライン、と書いたけれど、今回はそんなに「都合のよさ」を感じなかった。最終盤で「こりゃ力技だな」と思うことはあったけれど...

 改めて数えてみたら、本書までで堀田家の4年間を描いたことになる。シリーズ当初では小学校4年生だった研人くんは、中学1年生になった。ホームドラマの「無邪気+かわいい」担当だった彼が、本書では重要な役回で、何気ないセリフが「大きな物語」の伏線になっている。

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はなとゆめ

書影

著 者:冲方丁
出版社:角川書店
出版日:2013年11月6日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 少女マンガ雑誌ではない。「天地明察」「光圀伝」と、江戸時代初期の男性を主人公とした物語を鮮やかに描いた著者の最新作。その主人公は、平安時代でおそらく一番か二番に有名な女性だ。

 主人公の名は清少納言。一条帝の中宮定子に仕える女房で「枕草子」の著者。全編を通して彼女の昔語りで構成される物語は、宮中に出仕する前から始まる。そのころは彼女はまだ「清少納言」ではなく、「歌人の清原元輔の娘」だった。

 本書は「清少納言」誕生の物語であり、「枕草子」誕生の前日譚でもある。父のような歌才もなく、秀でた美貌の持ち主でもない、自分に自信を持てない28歳バツイチの女性が、如何にしてその才能を花開かせ、どのような時代を生きたか?が描かれている。

 一人称の体裁は、随筆文学の祖とも言われる「枕草子」の著者だから、自分語りをさせたら面白そうだ、という狙いだろう。それは半ば功を奏していて、古典の現代語訳の雰囲気まで感じられて面白かった。しかしそれは難点でもあった。「古典の現代語訳を長く読むのはなかなかつらいでしょう?」と言えば共感してもらえるだろうか。

 それでも、読み終わってみればしみじみと良い本だっと思う。著者は「人」に興味があるのだろう。清少納言は「枕草子」の著者として、知らぬ人はいないぐらいに有名でも、その人自身のことは知られていない。本の著者とはそういうものかもしれない。でも、作品の「向こう側」のドラマが、作品に負けずに面白いこともある。

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ビブリア古書堂の事件手帖5

書影

著 者:三上延
出版社:アスキー・メディアワークス
出版日:2014年1月24日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 人気ベストセラーシリーズの第5巻。「帯には累計550万部突破!」の文字が躍る。

 3巻4巻のレビューを読んだ方には繰り返しになるけれど、このシリーズは3巻目から俄然面白くなった。4巻はその盛り上がりを維持した。そして本書は...

 4巻がシリーズ初の長編だったのに対して、本書はまた1編に1つの本にまつわる謎を追いかける連作短編に戻った。古書店の若い女店主の栞子が、溢れるほど豊富な古書の知識を使ってその謎を解く。それを主人公であるアルバイトの大輔の目を通して語る。

 その見事な謎解きがこのシリーズの特長ではあるのだけれど、巻を重ねるとさすがに飽きてくる。3巻の盛り上がりは、それに加えて栞子自身にまつわるミステリーが、シリーズを貫く芯としてストーリーに絡んできたことによる。

 そして、上の「そして本書は...」の続き。本書では維持してきたテンションを、フッと緩めた「転換」を見せる。栞子のミステリーについては一旦クールダウン。その代わりに、栞子と大輔の関係の大きな進展の予感で引っ張る。

 「転換」と言えば、本書から各短編の後にこれまでにはなかった「断章」が付くようになった。そこでは、主人公の大輔がいない場面での栞子が描かれている。これがなかなか効果的だ。

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未来は言葉でつくられる 突破する1行の戦略

書影

著 者:細田高広
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2013年7月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 以前にお世話になった方がFacebookで紹介されていたのを読んで、興味が湧いたので読んでみた。

 本書のキーワードは「ビジョナリーワード」。本書ではこう説明されている。「想像の中の未来を鮮やかに言い当てる。変革の行方を指し示す。そうやって、未来の骨格となる言葉」。「ビジョン」や「コンセプト」と同義語ではあるのだけれど、それらの中で鮮明さと求心力を備えたものだと、私は理解した。

 本書は「ビジョナリーワード」を30個も例示してくれている。1つだけ紹介する。ソニーの創業者の井深大さんの「ポケットに入るラジオをつくれ」。今はありふれたモノだけれど、当時1950年代の初めでは、ラジオは冷蔵庫や洗濯機のような「家具」で、ポケットに入るラジオなんて「ありえない」代物だった。

 技術者からは「無理だ」という声が上がり、井深さん自身も「何度も中止しようと思った」そうだけれど、数年後には実現する。それは小さいラジオという製品だけではなく、「ひとりで聴く」という新しいラジオの聴き方まで創造した。さらに言えば、これがウォークマンを経てiPodにつながることを、私たちは知っている。

 本書の前半3分の2は、こうした「ビジョナリーワード」と、それを生み出した人をそれぞれ3ページでコンパクトにまとめたもの。明日からの「話のネタ」になる良くできた読み物なのだけれど、実は本書の狙いはそこにはない。

 著者は「それであなたはどうですか?本当に自分の頭で考えた言葉を使っていますか?」と問いかける。私たち一人一人が「それぞれの未来を語る言葉」を生み出すことを促すことが本書の狙い。親切な著者は後半3分の1を使って、その方法を教えてくれている。

 ひとつ新しい気付きがあった。私たちはコミュニケーションの手段としてだけでなく、何かを考える時にも言葉を使っている、ということだ。どれだけ言葉を使いこなせるかは、どれだけ考えられるかに影響する。自分や家族の明日や未来だって「言葉」で考えるのだ。だから言葉を磨こう、そう思った。

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村上海賊の娘(上)(下)

書影
書影

著 者:和田竜
出版社:新潮社
出版日:2013年10月20日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 帯に「四年をこの一作だけに注ぎ込んだ凄みと深み!」とある。前作「小太郎の左腕」から本書発行までの間が4年。累計200万部超のデビュー作「のぼうの城」以降「忍びの国」「小太郎の左腕」までは、著者は作品を毎年発表しているので、確かにこの4年間という年月には、この作品への著者の思い入れが感じられる。

 時代は戦国時代。長篠の戦いで信長が武田軍を破った翌年。信長がその勢力を拡大しつつもまだ天下の行方は混とんとしていたころ。舞台は、その信長の勢力が及んでいない安芸の国(広島県)沖の瀬戸内海の島々と、信長の攻勢に直面する大坂本願寺(今の大阪城の場所にあった)、その脇を流れる木津川が注ぐ難波海(今の大阪湾)と広い範囲に及ぶ。

 主人公は、瀬戸内海の島々を根城にする村上水軍の当主、村上武吉の二十歳の娘の景(きょう)。醜女で悍婦、つまり「ブサイクで気が荒い」という、小説の主人公としては珍しい設定。普通なら近くにいて欲しいとは思わないタイプのはず。ところがこれが魅力的な女性なのだ。

 物語は、信長勢に包囲される大坂本願寺の苦境から始まり、景が「海賊働き」をする瀬戸内海に移り、景とともに大坂に移って、また瀬戸内海に戻って、再々度大坂に..と振り子のように行き来をする。景の心の内も、舞台が移る度に振り子のように揺れ動く。「もう傷つかないで欲しい..」と思うものの、景の無垢の魂は、そんな私の想いを踏み越えるように跳躍する。

 面白かった。「面白ない奴」が軽蔑を表し「阿保やで、あいつ!」が賛辞、という泉州(大阪の南部)、いや今や関西全般の気質が、随所に笑いを引き起こす。この気質は言い換えれば、他人も自分も楽しもうというサービス精神。それは著者自身にも備わっているらしく、本書全編に行き渡っている。

 上巻下巻それぞれにある合戦シーンが見せ場。多少長いけれど、現場にどっぷり浸った気分でハラハラして読むと気にならないだろう。

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世界地図の下書き

書影

著 者:朝井リョウ
出版社:集英社
出版日:2013年7月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「何者」で2012年の下半期の直木賞を受賞した著者の、受賞後の第1作目。

 著者は、デビュー作「桐島、部活やめるってよ」では高校生を、「何者」では大学生の就活を、その他の作品でも自分と同年代を描いてきた。今回は打って変わって小学生の子どもたちを、物語の中心に据えた物語。

 物語の主な舞台は児童養護施設の「青葉おひさまの家」。主人公はそこで暮らす太輔。第1章は太輔が小学校3年生で「青葉おひさまの家」に来たころの話で、第2章以降はそれから3年後、太輔が6年生の時の物語だ。

 その他の主な登場人物は、太輔と同じ歳の淳也、淳也の妹の麻利、太輔の一歳下の美保子、六歳上の佐緒里。この太輔を加えた5人は「青葉おひさまの家」では同じ班で、文字通り寝食を共にしている。この施設で暮らしているからには、それぞれに事情を抱えている。

 もちろん、当人たちには何の責任もない事情であることは言うまでもない。物語は、それぞれが抱える事情が引き起こす事件や、心無い同級生による切ない出来事などを描きながら、ラストシーンへ収れんしていく。それは、佐緒里のために小学生たちが考えた幼い、しかし大きな企てだった。

 いろいろな気持ちが引き起こされた。私は子どもがつらい目にあう話は苦手だ。彼らに起きる出来事は悲しく切ない。子どもなのだから泣いてしまっていいのにそうしない。その姿がさらに切なくて、私はつらかった。一方で、彼らにも子どもらしい楽しみや企みがあって、その成り行きにワクワクしたりもする。かと思えば、大人を見る醒めた目に苦笑したり。

 奇しくも、同じように児童養護施設を描いたテレビドラマが話題になっている。そのテレビドラマの是非についてはここでは言わない。ただ、本書があのような批判を受けないのは、テレビのような影響力がないからだけではなく、この物語には温かく生真面目な、著者の心根が感じられるからだと思う。

 「どんどん道が細くなっていったりなんか、絶対にしない」。登場人物のこのセリフは、たぶん著者からのメッセージだ。

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インフェルノ(上)(下)

書影
書影

著 者:ダン・ブラウン 訳:越前敏弥
出版社:角川書店
出版日:2013年11月28日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「ダ・ヴィンチ・コード」の著者の最新作。それも「ダ・ヴィンチ・コード」で登場する宗教象徴学者のラングドン教授のシリーズ。

 物語はラングドンのおどろおどろしい夢から始まる。川の向こうにベールをかぶった女性。その足元にはたくさんの人間の亡骸が広がっていて、手前の川の水は血の色をしている。まさに地獄絵図。

 だからと言って、ミステリー作家の著者がスプラッターホラーに転向したわけではない。今回の物語のテーマはダンテの「神曲」。念のために言うと「神曲」は3篇から成り、その第1篇が「地獄篇」で、地獄の有り様が描写されている。ラングドンの夢はこれに関連している、というわけだ。

 夢から覚めたラングドンはフィレンツェの病院にいた。ここ2日間の記憶をなくして。何がどうなっているのか分からないうちに襲撃を受けて、居合わせた美人の女医さんの機転によって、2人で難を逃れる。

 パズルのピースをはめるように、少しずつ判明する情報を繋ぎ合わせると、「神曲」を基にした謎を解き明かす必要があるらしい。その背景には大きな陰謀が見え隠れする。そうでなければ、こんなに執拗に追われることはないはずだ。

 今回も面白かった。どうやら映画化の話が進んでいるらしい。謎解きがあり、陰謀があり、美人と2人の逃避行があり、危機一髪があり。シリーズのお馴染みのパターン。意地悪な言い方をすれば、テンプレートに流し込んだ感じなんだけれど、それが期待されているという側面があるのも確かだ。

 最後に。今回の陰謀は、これまでで一番怖いかもしれない。「今そこにある危機」に対して、私たちはあまりに無防備というか無邪気というか...

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オール・マイ・ラビング

書影

著 者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2010年4月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第5弾。時代を遡って今は亡きサチおばあちゃんの若いころの物語だった、第4弾の「マイ・ブルー・ヘブン」から、現代へと戻って来た。

 東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」が舞台。そこを営む堀田家の人数が、巻を重ねるごとに増える。堀田家が関わることで登場人物も増える。本書巻頭の「登場人物相関図」には、実に30人以上の名前が載っている。

 その登場人物たちが、それぞれ主人公となった大小の物語が同時並行的に進む。小さな物語とは例えば、堀田家3姉弟の長男の紺の義弟の修平君が、「道ならぬ恋」をしているらしい、とか。修平君は以前の巻でちょっとだけ登場している。こんな具合で登場人物の増加によって、物語のバリエーションの拡大につながっている。

 大きな物語は、堀田家に伝わる「とてつもないお宝」の話と、伝説のロックンローラーと呼ばれる我南人の歌手生命に関わる話。私としてはこの2つともが、これまでのシリーズの中で一番を争うトピックだと思う。そういう意味で一山超えた気がした。

 「都合のよさ」が興を削いでしまわない、ギリギリのラインまで来ている気がする。ただ、このシリーズは基本的に「昭和のホームドラマ」の路線で、「都合のよさ」もその路線の内、と考えた方がいいのかもしれない。

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