「村上春樹」大好き!

書影

編  者:別冊宝島編集部
出版社:宝島社
出版日:2012年4月19日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 タイトルから分かる通り、村上春樹さん(の作品)が好きな人々が、村上作品を思い思いに語る。裏の扉ページによると、本書は、2003年に刊行した「別冊宝島」を2004年に文庫化し、それを2012年に増補・改訂・改題したもの。

 本書は主に3つの部分からなる。1つ目が、長編・短編小説、エッセイ、翻訳小説、対談集といった、30作あまりを網羅した個々の村上作品の「解説」。2つ目が、料理、音楽、恋愛、酒といった14のキーワードを切り口にした、村上文学の「評論」。3つ目が、村上作品に登場する「場所」を訪ねて行って特定した「レポート」。

 1つ目の「解説」は役に立った。私は、村上春樹さんの作品が好きだ。(まぁそうじゃなきゃ、こんな本読まないと思う。)ここに取り上げられている小説とエッセイのほとんどを読んでいる(読んでいないのは3つ)。古いものは30年ぐらい前になるし、それほど前でなくても、内容を忘れてしまったものもある。この「解説」を読んで「あぁそうだった」と思い出したことや、まったく新しく知ったこともあった。

 3つ目の「レポート」が楽しめた。映画やテレビのアニメやドラマの舞台やロケ地を訪ねる「聖地巡礼」が、そこそこ流行っているそうだけれど、そのノリだ。「ノルウェイの森」で「僕」と直子が入ったそば屋、といった場所を探し当てている。基本的に誰でもが行ける場所なので、気が向いたら訪ねてみるのも面白い。

 本書が、2012年刊行なので、2010年にBOOK3が出た「1Q84」はカバーされているが、今年の春に出た「色彩を持たない多崎つくると~」は入っていない。また、2003年に書かれた文章には、今読むと少し違和感を覚えるものもある。

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新参者

書影

著 者:東野圭吾
出版社:講談社
出版日:2013年8月9日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 これまでに9作品が出版されている、「加賀恭一郎」シリーズの1冊。本書は「週刊文春ミステリーベスト10(2009年)」と、「このミステリーがすごい!(2010年)」のそれぞれ第1位。2010年には、テレビドラマ化されている。シリーズにはドラマ化、映画化されたものがいくつかあり、それを見たからかシリーズ作品を何冊か読んだような気がしていたが、読むのはこれが初めての作品。

 主人公は、加賀恭一郎、本書では日本橋署の警部補、いわゆる「所轄」の刑事だ。舞台は日本橋の人形町交差点周辺。東京のド真ん中にあって、ビルが林立する街なのだけれど、不思議なことに「下町」の風情と人情が残り、昔ながらの小さな商店も軒を連ねる。物語は、そうした小さな店の一つ一つを舞台にした短いエピソードを重ねた9つの章で、殺人事件の捜査を描く。

 テレビドラマ「新参者」のナレーションの一部を紹介する。「人は嘘をつく、罪から逃れるため、懸命に生きるため、嘘は真実の影」。この物語のキーワードは「嘘」だと思う。すべてのエピソードで、警察の取り調べに対して誰かが嘘をつく。

 ただし、そのほとんどすべてが「誰かを気遣い守るための嘘」。加賀は、その嘘の影にある「真実」を明らかにする。「真実を暴く」という言い方もあるが、本書については「暴く」という言葉は、乱暴すぎて相応しくない。加賀によって明らかにされた真実は、ついた本人や関係者を慰めるからだ。それは、真犯人でさえ例外ではない。

 私は、これまでに読んだ著者の作品のレビューに、「人情」という言葉を度々使っているけれど、本書はその「人情」が全開の物語。謎解きの小気味よさとともに、ホロリとする人情話が楽しめる。

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実践! 田舎力 小さくても経済が回る5つの方法

書影

著 者:金丸弘美
出版社:NHK出版
出版日:2013年8月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「田舎力」とは、自然、食、景観、人、職人技、などの地域の資源を、上手に活用して「地域おこし」に結びつける力のことを言う。「田舎力のある人」は、知恵と工夫でものづくりを実践したり、地域にあるもののよさをうまく引き出したりし、自らの思いを語り愛情を持って「地域づくり」に取り組んでいる。

 著者は「地域活性化アドバイザー」として全国を飛び回り、講演やアドバイスを行っている。専門のテーマは「食と環境からの地域再生」。本書はその活動で、全都道府県、数百の地方自治体を訪れて得た知見をまとめたもの。数多くの事例の紹介と共に、専門である「食」をテーマとした地域おこしについては、実践的な手法がで詳細に紹介されていて、たいへん有用な本だ。

 実践的な手法の一部を紹介すると「地元食材のテキストづくり」が筆頭にあげられる。「テキスト」とは、その食材についての歴史、品種、特徴、栽培法といった基礎データはもちろん、加工法、料理、出荷窓口、生産地、栄養価、味、香り、見た目などを、誰でもわかるように解説した資料のこと。

 「食」に限らず、自分たちはその良さが分かっていても、それを外の人に伝えるのはなかなか難しい。言葉で書いた手渡せるものがあれば前に進みやすいだろう。いやその前に、このテキストづくりの作業を通して、自分たち自身が再発見することも多いだろうし、多くの人が関わることでネットワークもできる。紙を並べて眺めることは、アイデア出しの常套手段でもある。一石二鳥にも三鳥にもなる。

 それから、サブタイトルの「(小さくても)経済が回る」は、大事なことだ。「こんなことまで経済か」と嘆息する向きもあるだろう。確かに金儲け主義では地域おこしはできない。しかし、自前の財源がなければ事業が継続できない。補助金頼みで一過性のイベントに終わった事例も多い。「経済」の重視は、「失敗の事例」も多く知っている著者の経験から導き出されたものだろう。

※たった今、報道ステーションで、新潟県十日町の限界集落に移住した、坂下可奈子さんを紹介していて、彼女の口からも「小さくても(経済が)回る」という言葉が出てきた。改めて、これがキーワードなんだと思う。
参考:坂下可奈子さんのブログ「きぼうしゅうらく」

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月の影 影の海(上)(下)

書影
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著 者:小野不由美
出版社:講談社
出版日:2001年1月15日 第1刷発行 2003年3月7日 第10刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「キアズマ」の記事のコメントで、あまねママさんにおススメいただいた、「十二国記」シリーズの第1作。おススメいただいた時に、ちょうど図書館で予約したところだったという、不思議な巡りあわせもあり、さっそく読んでみた。

 「十二国」とは、その名の通り12の国からなる世界。中心にある神々が住まう地を、国々が幾何学的に取り囲んでいる。私たちが住む「こちら側」とは「虚海」という海でつながっている。ただし、人間は「こちら側」から「あちら側(十二国)」への一方通行しかできない。

 シリーズ第1作の本書の主人公は中嶋陽子、女子高の1年生。職員室でケイキと名乗る膝に届く金髪の男の訪問を受け、そこからは怒涛の展開。窓ガラスが突然全部砕け散り、でかい怪鳥の襲撃を受け、その怪鳥相手に大立ち回りを演じ..。

 それらが落ち着くと、陽子は十二国の1つ「巧」という名の国の海岸に打ち上げられていた。その国では「こちら側」から来た者は「お尋ね者」で、陽子は追手に追われ、妖魔と呼ばれる魔物たちの襲撃を受ける。落ち着いたのは一時だけで、その後も緩急を付けた波乱の展開が物語の終盤まで続く。

 陽子は、ちょっと醒めたところはあるが「普通の女子高生」だ。その陽子が逃避行を重ねて野宿を繰り返し、身一つで妖魔と戦う。そのことに最初は、陽子本人はもちろん、読者も違和感を感じてしまう。しかし、いつの間にかその違和感は消えている。陽子の中の何かが目覚めて、それだけ陽子が「変わった」からだ。

 面白かった。まぁ以前からどんな物語かは何となく聞いていて、ハマりそうな予感がしてはいた。ハマってしまうのが怖くて、読むのを敢えて後回しにしてきた面もある。しかし、読んでしまったものは仕方ない。案の定この世界に首まで浸かってしまいそうだ。下巻の裏表紙の紹介に書いてある通り「十二国の大抒情詩」は始まったばかりだ。

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八朔の雪 みをつくし料理帖

著 者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2009年5月18日 第1刷発行 6月18日 第4刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 いろいろなところから良い評判を聞いていて、いつか読んでみようと思っていた。

 舞台は江戸時代の後期の江戸の町。主人公は澪、女性ながら大坂の一流料理屋「天満一兆庵」で料理修行に励んでいたが、店が火事で焼失してしまう。澪は、主人と女将さん夫婦と共に、主人の息子が商う「天満一兆庵」の江戸店を頼って江戸に来た。しかし、すでに店はなく息子は行方不明、主人はその心労で体を壊し、澪に「天満一兆庵」の再興を託して亡くなってしまう。

 ..と、ここまではこの物語が始まる前のできごと。物語の始まりの時には澪は18歳、心臓が弱い女将さんの芳と長屋での倹しい2人暮らし。澪は、暮らしの糧を得るために、蕎麦屋の「つる屋」で働いている。「つる屋」の主人の種市は、澪に自由に料理を作らせ、客の口に合わずに失敗しても暖かく見守ってくれる。

 この物語は、幾重にも織り重ねられた織物のようだった。まず「天満一兆庵」の再興という夢が大きな縞をつくり、章のタイトルにもなっている澪が作る料理のエピソードが主だった模様を描く。さらに、種市や長屋の住人らの暮らしぶりや、「つる屋」の常連客の武士との関係などが、様々な色の糸として織り込まれている。そしてライバル店の出現、幼馴染の消息...。書ききれないほどの見どころがある。

 「みをつくし料理帖」シリーズとして、すでに8作が出版されている。これは楽しみが増えた。また「庶民の暮らしを描いた時代小説」というジャンルが面白いと思う。お奉行やお殿様、お姫様ではなく、市井の人のドラマ。かなり以前に読んだ、宇江佐真理さんの「卵のふわふわ」も、そんな作品だった。

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覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰

書影

著 者:池田貴将
出版社:サンクチュアリ出版
出版日:2013年6月10日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 出版社のサンクチュアリ出版さまから献本いただきました。感謝。

 サブタイトルは「超訳 吉田松陰」。吉田松陰は(説明の必要がないかもしれないけれど念のため)、幕末の武士、思想家、教育者、兵学者。西洋兵学を学ぶために密航を企てて失敗し投獄される。後に故郷の長州で「松下村塾」という私塾を開く。この塾は久坂玄瑞や高杉晋作、伊藤博文、山縣有朋といった、幕末から明治維新にかけての、いわゆる志士を輩出する。しかし松陰自身は「安政の大獄」で処刑され、明治維新を待たずに29歳で没する。

 本書は松陰の「名言」を、世界No.1コーチと言われる「アンソニー・ロビンズ」の直伝トレーナーである著者が、「超訳」つまり読みやすさを最優先にした訳し方で紹介する。松陰は、手記、講義録、書簡などを多く残しているので「名言」とされるものも多い。本書の項目数も176個もある。

 元々項目数が多いことも手伝って、読み進めるうちに「これはいい言葉だな」と思うものが、たくさん見つかる。例えばNo.039「なんでもやってみる」。できないのではなくて、ただやっていないだけです。まだやったことがないことを、「怖い」「面倒くさい」「不安だ」と思う感情は、過去の偏った経験が作り出す、ただの錯覚です(後略)。

 松陰は、徹底して「行動」を重んじる人だったようだ。密航に失敗した事件などは、その実践とも言える。本書にも、上に紹介した「なんでもやってみる」のように、行動を促す言葉がとても多い。そのため、何かをためらっている人、背中を押してもらいたい人には響くものがあると思う。

 少し気になることもあった。現代語や外来語をはじめ、松陰が使いそうもない言葉が、少なからずあることだ。「超訳」だからそのこと自体は問題ない。いくつかのことが重なって、読んでいてしっくりとこない感じがした。

 まず、皮肉な言い方だけれど、「名言」は、後世の人が自分たちの都合で作り上げる側面が少なからずある。松陰には手記などの史料がたくさんあるので、そこから気に入った言葉を抜き出して「名言」にするのも容易い。

 そして、本書の項目は著者が(自分の都合で)選択した言葉で、さらにそれを「超訳」として(正確さを犠牲にしても)読みやすさを最優先にして、松陰が使いそうもない言葉を使って訳した。だから、それはもう松陰の言葉なのか著者の言葉なのか判然としなくなってしまっている。失礼かつ不合理ながら、松陰の言葉であるかないかで重みが違う。小さくても良いので、松陰自身の言葉を対置してくれれば良かったと思う。

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漁夫マルコの見た夢/コンスタンティノープルの渡し守

書影
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著 者:塩野七生
出版社:ポプラ社
出版日:2007年9月10日 第1刷発行(漁夫マルコ~)/
     2008年5月12日 第1刷発行(コンスタンティノープル~)
評 価:☆☆(説明)

 塩野七生の「ルネサンス地中海シリーズ」の2冊。塩野七生さんと言えば大著「ローマ人の物語」(単行本で15巻、文庫判ではなんと43冊)に代表される、ローマ世界の歴史に基づいた骨太の小説が有名。それに対してこの2冊は、それぞれ数十ページの絵本、さらに言うなら「大人の絵本」だ。

 「漁夫マルコの見た夢」の主人公は、ヴェネツィアの沖に細長く横たわる、リド島に住む16歳の漁師。物語は、彼が謝肉祭の夜に訪れた、ヴェネツィアの富豪の家での甘美な体験。タイトルに「夢」と付いているけれど、これは現実なのか夢なのか?

 「コンスタンティノープルの渡し守」の主人公は、コンスタンティノープルの金閣湾で、渡し船を漕ぐ14歳の少年。物語は、彼の舟に乗る同じ年頃の少女と交わした淡い想いを切なく描く。

 「漁夫マルコ~」の方が「大人向き」の度合いの高い物語。こう言っては何だけれど、16歳の男(今で言えば高校生男子)が見るひどく自分勝手な夢のような話で、ちょっと赤面した。「コンスタンティノープル~」は至ってシンプルな物語ながら、切ない余韻が残る。

 正直に言って、物語としてはあまり面白くなかった。例えば私のように「塩野七生さんの絵本」ということで読んでみたい人はいるだろう。同じように、絵を描かれた水田秀穂さんや司修の作品として興味がある人もいるだろう。そういう人以外には...ということで☆2つ。

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チャーメインと魔法の家 -ハウルの動く城3-

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:市田泉
出版社:徳間書店
出版日:2013年5月31日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 副題は「ハウルの動く城3」。スタジオジブリの映画「ハウルの動く城」の原作となった「魔法使いハウルと火の悪魔」の続編。ちなみに「2」は「アブダラと空飛ぶ絨毯」。

 8年前に書いた「アブダラと空飛ぶ絨毯」のレビューを読み返すと、「続編」とは書かずに「姉妹編」と書いていた。たぶん、同じ時代の同じ世界の物語ではあるが、主人公はハウルでもソフィーでもカルシファーでもないし、彼らはほとんど登場しないからだろう。それに比べると本書は、ハウルたちの登場場面が多く、重要な役割もある。

 主人公はチャーメイン、本好きの14歳の少女。大おばさんの大おじさんに当たる魔法使いノーランドの家の留守番をすることになった。気乗りしない話だったけれど、家から出られたらやりたいことがあったので、それを実行することにした。それは王宮図書室で働きたい、と国王陛下に願い出ることだった。

 チャーメインは、お母さんが「上品に」育てようと(誤った認識なんだけれど)、家事を何もさせなかったので、家事全般が何もできない。おまけにノーランドの家は、ドアを出て右に行くか左に行くかで違う場所に出るという、ややこしい「魔法の家」だし、好奇心旺盛なチャーメインは色々試してみるしで、初日から大騒ぎになる。

 その後、王宮図書室での仕事に採用され、蔵書整理のために王宮に通うようになる。そこで王宮の中の何かを探っているソフィーたちと出会う。チャーメインは、知らないうちに王族のなかの陰謀に巻き込まれてしまう。

 この物語の見どころは2つ。1つ目はチャーメインの成長。「何もできない(しない)少女」が、「床に何かを落としたら、自分で拾うまでそこにころがってる」という、当たり前のことに気付く。そこから「何事も、自分で何とかしなくちゃいけない」と心に決めたのが成長の証だ。

 2つ目は、後半の悪い奴らをやっつける勧善懲悪の展開。ハウルやカルシファーたちの活躍が楽しめるので、ハウルのファンにはおススメ。ジョーンズ作品のファンにはお馴染みの「登場人物たちの意外な素顔」もある。ただ、同じくお馴染みのアクの強さや捻りに捻った展開は控えめ。素直なストーリーなので、より多くの人が楽しめる。

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アベノミクス大論争

書影

編  者:文藝春秋
出版社:文藝春秋
出版日:2013年3月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 先日の参院選が自民党の圧勝という結果になって、安倍政権の経済政策である「アベノミクス」が国民の信認を得た形になった(公明党と合わせた与党の獲得議席は76で全体の62.8%。しかし得票率は48.8%と50%に足らず、これで「信認」と言えるのか?ということは、ここでは置いておく)。

 まぁそれで、もう少し「アベノミクス」について勉強しようと思い、本書を手に取った。先日読んだ「図解 90分でわかる!日本で一番やさしい「アベノミクス」超入門」は、著者が「アベノミクスは成功する」と考える人だった。だから否定的な意見も含めて、様々な意見を聞いてみようと思った。「大論争」というタイトルは、それにうってつけだった。

 内容は、アベノミクスについての論文や対論が10本余りと、TPPや憲法改正などの現政権が直面する課題についての対論が数本。雑誌や新聞などに掲載されたものを収録したらしい。短いものだったけれど、榊原英資さんと若田部昌澄さんの対論は読み応えがあった。その他には竹中平蔵さんや大前研一さん、藻谷浩介さんらテレビでおなじみの名前や、大学の先生らが登場する。

 本の感想としては、読んでよかったと思う。「様々な意見を聞いてみよう」という、私の目的には充分に応えてくれた。私と同じように「様々な意見を~」と思っている人にはいいだろう。ただし、本書としての主張というものはない。様々な媒体に載ったものを1つに集めた(だけの)ものなので、まとまりも無い。それでよければという条件付きで、おススメする。

 ここからは書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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(さらに…)

さよならドビュッシー前奏曲 要介護探偵の事件簿

書影

著 者:中山七里
出版社:宝島社
出版日:2012年5月24日 第1刷 2013年1月2日 第3刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 ベストセラー「さよならドビュッシー」の主人公の香月遥の祖父、香月玄太郎が主人公。本書は「さよならドビュッシー」の2年前、玄太郎が脳梗塞から緊急手術で一命を取り留める出来事から、「さよならドビュッシー」の物語が始まる当日までを、5つの短編によって描く。

 玄太郎は、脳梗塞の後遺症によって「要介護」となる。肉体の衰えは精神の衰えにもつながりがちだけれど、玄太郎に関して、それはまったく当てはまらない。本書の冒頭は「こんな不味いメシが食えるかああっ」という、玄太郎の罵声から始まる。我ままを言っているのではない。料亭の食品偽装を見抜いての激高だ。ダメなものダメ、不正や手抜きを許せない、そういう性格なのだ。

 何かある度に激高して怒鳴り散らす。最近はこんなに遠慮のない罵声を聞く機会がないので、最初は読んでいて居心地が悪い思いをしたが、その内なんだか爽快感すら感じるようなった。それは「こんなに言いたいことを言えたら気持ちいいだろうなぁ」ということはもちろんあるが、それだけではなく、玄太郎の言っていることが圧倒的に正しく、それが相手のためにもなっていることが多いからだろう。

 そんな玄太郎が、建築中の家での密室殺人や、銀行強盗、年金の不正受給などの「事件」に遭遇する。玄太郎は、己の眼力を頼りに一代で財産を築いた資産家。その眼力が、先入観に惑わされることなく、周りの者が見えないモノを見逃さず、真実を見抜いて「事件」を解決に導く。

 「安楽椅子探偵」ならぬ「車イス探偵」の玄太郎の推理は、なかなか切れ味が鋭い。物語の記述の中に犯人探しのカギが隠されているので、ミステリーとしても完成度が高い。人情話が少し織り交ぜてあるので謎解きは置いて読み物としても楽しめる。

 最後に、「前奏曲」というタイトルについて。単純に「前日譚」というだけではなく、この物語は「さよならドビュッシー」と、それから始まる「岬洋介シリーズ」への導入の役割をキッチリと果たしている。もちろん岬洋介その人も登場する。

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