王狼たちの戦旗 氷と炎の歌2(上)(下)

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著 者:ジョージ・R・R・マーティン 訳:岡部宏之
出版社:早川書房
出版日:2004年11月15日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「七王国の玉座」の続編で、「氷と炎の歌」シリーズの第2弾。このシリーズは中世の英国を思わせる、架空の王国での覇権争いを描いたファンタジー。前作と同じく、本書も約450ページの二段組みの上下巻。シリーズ全体では7部作になるという、長大な物語だ。(ちなみに現在、英語の原書は第5部まで、邦訳は第4部まで刊行されている)

 物語は前作から続いているので、舞台も登場人物もほぼ同じ。王国の最北の地域の領主であるスターク家の王妃ケイトリンとその4人の子どもたち、敵対するラニスター家のティリオン、以前の王家であるターガリエン家のデーナリスらの視点からの物語が順次語られる。

 前作で、王国を統治するロバート王が暗殺され、王の補佐役であったスターク家の当主、エダートも謀反の罪を被せられて処刑される。すぐにロバートの息子が王位を継承したが、ロバートの弟2人と、エダートの息子がそれぞれ王を名乗る。4人の王が並び立ち、王国の勢力図は一気に流動的になる、という状態で本書は始まる。

 この前提だけで十分にややこしいのだけれど、領主たちは婚姻や主従関係によって、複雑な同盟関係にあり、しかも陰謀や裏切りが日常茶飯事で、兄弟姉妹や幼馴染であっても油断はできない。また、ケイトリンの子どもたちはバラバラになり、それぞれの立場で窮地に陥っている。あぁ、こんな入り組んだストーリーを紹介するのは、とてもムリだ。

 こんな紹介では、複雑なことだけが伝わったかもしれない。しかし、複雑な長い物語であるにも関わらず、順番に時間をかけて読めば、作品世界がスッ頭の中に入ってくる。驚きを禁じ得ない。(情報によると次作「剣嵐の大地」は、上中下巻だそうだ。このシリーズとの付き合いは長くなりそうだ)

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10分あれば書店に行きなさい

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著 者:齋藤孝
出版社:メディアファクトリー
出版日:2012年10月31日 初版第1刷 11月28日 第2刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 テレビでもお馴染みの著者。大学の先生らしい理性的なものでありながら、なかなか気の利いたコメントをされるので、私はけっこう好きだ。さらに、ものすごい数の著書があって、新聞の書評欄や広告、書店でもよく目にするのだけれど、著書を読むのはこれが初めて。

 本書での著者の主張はたった一つ「1日最低10分、必ず書店へ行こう」ということだ。本のタイトルとは少しニュアンスが違う。しかし、本書の中で著者自身の言葉でこう書いてある。

 「それはちょっとムリだろう」と思った方は多いだろう。私もそう思った。しかし、本書の内容を読むと「1日最低10分、必ず」に拘らずとも、「今より頻繁に、できるだけ多く」ということで、大部分はOK。その意味で、本のタイトルの方がうまく表現できているかもしれない。

 その理由は、まず書店は古今東西の「知」の集積だということ。そこは良い刺激を受ける「知的トレーニングの場」になり、潜在能力を引き出す「パワースポット」になり、心を落ち着かせる「癒しの空間」になる。(しかも行くだけならタダ)だからせっせと書店に行きなさい、ということだ。

 内容は、書店に顔を出すメリット、コーナー別の利用法、書店利用の裏ワザ、といったことが、とても丁寧な文章で書かれている。また、随所に著者のおススメの読書法がちりばめられていて、「なるほど」と思うことも多かった。

 第2章「書店はアイデアの宝庫」に、「私たち凡人の抱える問題が、人類史上初の難問ということはまずあり得ない」というくだりある。古今東西の叡智が集積した書店にはその解決のヒントがある、ということなんだけれど、これをそっくりの話が「夢をかなえるゾウ2」に登場する。(齋藤先生がガネーシャだったのかも(笑))

 気になったことを1つ。著者の興味は実用書・時事問題と古典に集中していて、現代の小説には関心が薄いようだ。ベストセラーを読むと「世の中を知ることができる」「人と話を合わせやすい」という、好意的とは言えない微妙なメリットしか認めていない。

 それは著者が「情報を得るもの」としての本を重視しているからだ。「パラッと読むだけでほぼ一冊全体を把握」「一冊を10分から15分でさばく」なんて読み方は、そうでなくてはできない。いや「情報を得るもの」と割り切ったとしても、この読み方には賛否あると思う。

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人生が変わる2枚目の名刺

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著 者:柳内啓司
出版社:クロスメディア・パブリッシング
出版日:2013年1月11日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 出版社のクロスメディア・パブリッシングさまから献本いただいました。感謝。

 前回の「一流役員が実践している仕事の哲学」の記事で予告した通り、今回紹介する本書は前回の「一流役員が~」と同じ出版社さんからいただいた本で、私はこの2冊の方向性が対照的だと思う。

 本書の著者はTBSテレビの社員で、今は放送局のIT戦略全般に取り組んでいるそうだ。しかし本書は、放送業界ともIT戦略とも、ほぼ関係ない。本書は、著者が実践する「2枚目の名刺を持つ働き方(パラレルキャリア)」の魅力を伝える本なのだ。

 2枚目の名刺、パラレルキャリアとは何か?本業以外に「自分がやりたい活動」をすることだ。例えば著者は、テレビ局の社員である傍ら、合計で年間1000人以上を動員する、ビジネス勉強会や交流会の主催をしている。その他には、広告会社に勤めながらマジシャン、銀行に勤めながらWebアプリケーション開発者、投資ファンドに勤めながら途上国の貧困問題に取り組むNPO法人理事長、といった人たちが紹介されている。

 このように本業とは別の活動をすることで、「収入や生きがいを本業一本に頼るリスクを軽減する」「たくさんの縁が生まれる」「人脈や経験が本業に生かせる」といったメリットがある。本書はこのメリットと、成功のためのヒントなどを、分かりやすい文章で解説する。

 どうだろう?前回の「一流役員が~」の「仕事以外何もできない自分を選ぶ覚悟を持つ」とは、好対照ではないだろうか?「リスク軽減」の一点を考えても、本書の方が時代に合っていると思う。とは言え本書は、「本業で他の人以上に成果を出す」ことを繰り返し強調する。甘くはないのだ。

 私は、「本業以外のキャリア」とは多少違うけれど、仕事以外も充実した暮らしをしたいと思っていた。だからせっかく入った大企業だったけれど、その会社は10年務めて転職した。「役員になる/ならない」とは関係なく、暮らしの多くの時間を仕事に割かれ、その会社では自分の思う暮らしができないと思ったからだ。

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一流役員が実践している仕事の哲学

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著 者:安田正
出版社:クロスメディア・パブリッシング
出版日:2013年1月11日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 出版社のクロスメディア・パブリッシングさまから献本いただいました。感謝。

 今回は同じ日に発行された本を2冊いただいた。どちらも若いビジネスパーソンに向けて書かれた、いわば生き方の指南書。出版社さんがそう意識されたのかどうか分からないけれど、その方向性が対照的なので今回と次回で続けて2冊を紹介したい。

 まず1冊目の本書は、コンサルタントである著者が、これまでに5万人の一般社員と1000人以上の役職者に出会って発見した、数々の法則が披露されている。例えば「接待の翌日、平社員は90%がメールすらしない、部長でも80%の人がお礼を言わない、しかし役員は100%朝7時にお礼メールが来る」といったもの。

 こんな感じで、「平社員は〜、部長は〜、役員は〜」「三流は〜、二流は〜、一流は〜」という項目が、全部で36個並ぶ。お笑いの三段落ちのようなもので、テンポも良くて3つめの「役員」や「一流」では、「なるほど」ときれいにまとまっている。まぁ3つに分けるのに無理を感じるものもないではないけれど、そこは拘るべきではないだろう。

 しかし、最初は面白く読んでいたのだけれど、途中から強い違和感を感じた。その違和感の原因は本書にある次の言葉に端的に現れている「仕事以外何もできない自分を選ぶ覚悟を持つ」。つまり、役員になるためには、休みも夜もなく、生活のすべてを仕事のために(もっと意地悪く言うと「役員になるために」)使うべし、そんな考え方が見えてくる。

 そんな時代遅れな...と思った人もいるだろう。私もそう思う。ただ、ところどころ違和感を感じつつも、個々の「三段落ち」にはコンサルタントとしての著者の観察眼の鋭さを感じるものが多い。書店などで見かけたら手にとってパラパラ見てみるといいだろう。

 最後に。本書を読んで思い出したことがある。今から20年ぐらい前、私が若いビジネスパーソンだった頃。どこかのカリスマ社長が出会った人に必ず礼状を出す、という話を聞いて、私もマネをしたことがある(上の「お礼メール」の話と似ているでしょう?)。何万人も社員がいる大企業の一員だった私は、おぼろげながらも「役員になりたい」と、あの頃は確かに思っていた。

 この話の続きともう1冊の話は次回に... 

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新版 結局「仕組み」を作った人が勝っている

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著 者:荒濱一 高橋学
出版社:光文社
出版日:2013年1月20日
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の荒濱さんと高橋さんからいただきました。感謝。

 ちょっとややこしいけれど、まず本書の位置付けから。2007年に「結局「仕組み」を作った人が勝っている」という、本書と同名の本が出ていて、私は、それに続く「やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている」をいただいて読んだことがある。それで本書は、第1弾の内容に、そこで紹介した事例の「5年後の今」を取材して加え、「新版」として文庫化したものだ。

 この本で言う「仕組み」とは、「いったん作ってしまえば、自分がさほど動かなくても自動的に収入を得られるシステム」と定義されている。「そんなうまい話があるわけがない」と思うのが、きっと真面目に働いている多くの人の感じ方だろう。しかし、本書には10人の事例が紹介されている。「誰でもできる」とは言わないけれど、そんな話は「ある」のだ。

 詳しいことは読んでもらうとして、いくつかの事例に共通するのは、「インターネット」「仲介」というキーワードだ。例えば空港周辺の駐車場と利用者を仲介する予約サイト。例えば事業者とビジネスパートナーや投資家を結ぶマッチングサイト。例えば企業に米国の翻訳サービス会社を紹介する仲介ビジネス。
 「インターネット」は、ビジネス立ち上げから維持管理まで、何かとコストを抑えることができる。「仲介」は、自分の時間や能力という制限の撤廃、という重要な要素がある。例えば翻訳の仕事を自分がやれば、仕事量は自ずと限界がある。病気にでもなれば収入はゼロになってしまう。しかし「仲介」なら、提携先と顧客を理屈の上では無制限に増やせる。

 ここまでは、2007年の第1弾でも言えることだ。本書の本当の意味は、新たに加えられた「5年後の今」にある。考えてみれば、これはなかなか勇気がいる企画だ。「5年経ったらみんなダメになってました」では、悪い冗談にもならない。
 ところが「仕組み」が止まってしまったのは1件だけだった(まぁ、だから本書が出版できたのだろうけれど)。それでサブタイトルは「驚異の自動収入システムは今も回り続けていた!」というわけだ。

 読むと自分でも何かやりたくなる。そんな本だ。

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ジョーカー・ゲーム

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著 者:柳広司
出版社:角川書店
出版日:2011年6月25日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、2009年に吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞を受賞、本屋大賞第3位になった、スパイ・ミステリーだ。

 日中戦争が勃発した昭和12年に、大日本帝国陸軍にスパイ養成学校、通称「D機関」が設立された。そこを統括する結城中佐は、かつてはスパイとして敵国に長年潜伏し、捕縛され拷問を受けるも脱走に成功した経歴を持つ。
 本書は、D機関出身のスパイらを描く短編集。表題作「ジョーカー・ゲーム」の他、「幽霊(ゴースト)」「ロビンソン」「魔都」「XX(ダブルエックス)」の全部で5編を収録。

 「ジョーカー・ゲーム」とは、D機関の学生たちが興じていたゲームのこと。早く言えばルール無用の騙しあいゲーム。例えばポーカーで、第三者の協力者を使って、他のプレイヤーのカードを盗み見てもいい。ただその協力者が、本当に自分に協力しているのかどうかは分からない..まぁ、スパイ活動のシミュレーションなわけだ。

 5編の作品は少しつづ傾向が違ってどれも面白かったが、やはり「ジョーカー・ゲーム」が良かった。「ジョーカー・ゲーム」では、D機関が憲兵隊に偽装して親日家の外国人の家を捜索する。単純な出来事のようで、実は幾重にも陰謀やウソが塗り重ねられた、陸軍参謀本部とD機関がせめぎ合う事件だった、という物語。

 他の作品についても簡単に紹介する。「幽霊」は、外国の総領事への潜入捜査。結末は少しユーモアもある。「ロビンソン」は敵地からの脱出劇。結城中佐の深謀が光る。「魔都」は内通者を探る極秘任務。混乱した上海の街が悲しい。「XX(ダブルエックス)」は二重スパイの捜査。スパイも孤独ではなかった。

 実は作品を読み進めて行くと、結城中佐の人間性に新たな面が見えたり、D機関の学生の面々の心の内が少しわかったりする。なかなかニクイ構成になっている。

※2014.3.6追記
「ジョーカー・ゲーム」が亀梨和也さん主演で映画化され、2015年公開予定です。
映画「ジョーカー・ゲーム」公式サイト

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新しい国へ 美しい国へ完全版

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著 者:安倍晋三
出版社:文藝春秋
出版日:2013年1月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 このブログでこれまでにも何度か言っているけれど、私はテレビなどを見て、その人の考えを知りたいと思ったら、その人が書いた本を読むようにしている。渡邉美樹さんの「もう、国には頼らない。」や、橋下徹さんの「体制維新」などがそう。そして本書の著者は、我が国の内閣総理大臣、安倍晋三さんだ。

 本書は2006年に刊行された「美しい国へ」を改訂し、この度再び政権につくに際して具体的な政策を加えたもの。改訂といっても、著者本人の「まえがき」で「一切手を加えておりません」と書いてあるので、前書のままなのだろう。加えた部分は20ページ足らずで、「具体的な政策」というには余りに分量が少ない。ただ、私は前書を読んでいないし、著者の考えを知るという目的には本書で不足はなかった。

 内容は、第一章が「わたしの原点」として、祖父の岸信介さんや父の安倍晋太郎さんの思い出を交えた、著者が政治家になるまで。第二章は「国家」、第三章は「ナショナリズム」、以下「日米同盟」「アジアと中国」「少子化」「教育」とテーマを据えて、様々な事例や著者の考えが述べられている。

 本書を読んで、憲法改正や自衛隊の国防軍への位置付け、「アベノミクス」と呼ばれる経済政策、教育改革など、著者の考えのバックボーンがよく分かったように思う。「なるほどそういう経験が、憲法改正への意欲に繋がっているのか」と得心もした。その上で、(安倍さんへの批判ではなく)本書の内容について思ったことを述べようと思う。

 著者が目指す国家像は「自立自助を基本とした助け合い。道義を重んじ、真の豊かさを知る市場主義」ということのようで、これには異論はない。ただ、経済政策については「公共投資を増やす→名目GDPが大きくなる→税収が増える」と読めるのだけれど、これでは俗に言う「タコの足食い」。だからこそ「成長戦略」が必要なのだけれど、ここの部分や他の政策については、分量も少ないこともあって、結果に至る道筋がよく分からない。

 さらに、憲法改正への思いが強いためか、色々な問題が憲法と結び付けて考えられている。第一章では「家族の絆」「地域への愛着」「国に対する思い」が、最終章では「拉致問題」「領土問題」「日米関係」「TPPのような経済問題」が、憲法や集団的自衛権が「原因」や「根っこ」とされている。

 最後に。これは完全に「揚げ足とり」なんだけれど...安倍家のルーツの地には棚田があって、ひとつひとつの棚田に月が映り、息をのむほど美しいそうだ。いわゆる「田毎の月」。しかし、水面は全て水平なので月は1つしか映らない。多分、本当はご覧になったことがないのだろう。

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おやすみラフマニノフ

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著 者:中山七里
出版社:宝島社
出版日:2011年9月20日 第1刷 2013年1月2日 第6刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 2009年「このミステリーがすごい!」大賞受賞作の「さよならドビュッシー」の続編。(ちなみに「さよならドビュッシー」は、橋本愛さん主演で映画化、1月26日(つまり来週)公開される:映画の「公式サイト」

 続編と言っても、主人公を始めとする登場人物のほとんどが変わる。共通する登場人物はピアニストの岬洋介(実は他にも何人かこっそりと潜んでいる)。このシリーズは、主人公が巻き込まれる事件を、脇役の岬が探偵役として解決するミステリー。だから、主人公も変わるし舞台も変わる。

 今回の舞台は、愛知音大という音楽大学。主人公は4年生でバイオリニストを目指す城戸晶。岬は大学の臨時講師という設定。冒頭の「プレリュード」で、いきなり時価2億円のチェロのストラディバリウスが盗まれる。それも24時間体制で警備・監視されている楽器保管室、つまり完全な「密室」から。

 この衝撃的な「プレリュード」の後、少し時間を遡って、しばらく晶らの学園生活が綴られる。ライバルとの才能の差に打ちひしがれ、就職の悩みに半ば押しつぶされ、それでも音楽を奏でることに一番の喜びを感じる。晶も学費の納入に苦心しながらも練習に励み、定期演奏会のメンバーに選ばれる。そこで冒頭の事件となる。

 ミステリーだから「謎解き」が1つの焦点ではあるのだけれど、本書の場合は「音楽小説」としての魅力の方が大きい。前作のレビューでも書いたけれど、本書からは「音楽」が聞こえて来る。「ラフマニノフのピアノ協奏曲第二番」と聞いて、何のメロディも思い浮かばない私にも、音楽に身を任せているような感覚が湧く。「言葉」というものの可能性を強く感じる。

 ミステリーファンには物足りないかもしれないけれど、音大生たちの恋愛と友情、悩みと葛藤、反発と承認、青春群像劇の要素もあって良し。

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月に100万稼げる「Amazon輸出」入門

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著 者:山村敦
出版社:日本実業出版社
出版日:2013年1月1日 初版発行
評 価:☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 やけに景気のいい、すごいタイトルの本だ。「うまい話がそうそうあるはずがない」という「良心の声」の諫言も虚しく、月に100万稼げる方法があるのなら、是非とも知りたいと思うのが人情というものだ。

 本書の内容の前に、「Amazon輸出」ついて説明する。Amazon輸出とは、同じ商品の日本のAmazonと海外(例えば米国)のAmazonとの価格差を利用した商法だ。価格差の大きい商品を日本のAmazonで購入して、海外のAmazonに出品。それが売れたら商品を梱包して購入者に発送する。価格差が大きいから、送料や手数料のことを差し引いても結構な儲けが出る。

 具体的にはアニメ、フィギュア系が狙い目だという。著者によると、例えば「未来少年コナン」のDVD BOX。日本では1万7140円で、米国では439.98ドル(1ドル88円とすると3万8720円)。著者の純利益は1万2779円になったそうだ。それに、日本のアニメは海外で評判なので「直輸入」の付加価値もあるらしい。

 さて、ここまで聞いて皆さんはどう思っただろう。「面倒くさそうだなぁ」と思った方には、この本は何の役にも立たない。「100万稼げる」とは言っても、「楽して稼げる」とは言ってない。それ相応の面倒なことはあるのだ。「これは面白そうだ」と思った方には、本書は何かしらの有意義な情報となるだろう。

 実は「Amazon輸出」には、さらに面倒なことがある。例えば、海外のAmazonに出品者として登録するだけでも、現地の銀行口座や法人設立やらが必要で、その後も税務申告などが必要になる。しかし、この面倒さにこそ本書の価値がある。本書には、こうした面倒をできるだけ回避する、著者が自ら蓄えたノウハウが満載されている。

 「月100万」は遠くにも見えないとしても、本書は「Amazon輸出」を始める人には、値千金の情報だと思う。(私は早々に「面倒くさそうだなぁ」と思ってしまったけれど)

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禁断の魔術 ガリレオ8

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著 者:東野圭吾
出版社:文藝春秋
出版日:2012年10月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の人気シリーズ「ガリレオ」シリーズの最新刊。シリーズ5作目の短編集で、「透視す(みとおす)」「曲球る(まがる)」「念波る(おくる)」「猛射つ(うつ)」の4つの短編が収められている。今回は初の全作品書き下ろし。

 「封筒の中の名刺を透視する」「双子の間に通じるテレパシー」「弾丸などの痕跡を残さずに遠くから壁に穴を開ける」などの、超常現象が物語の俎上に上がる。それを天才物理学者の湯川が、科学者としての知識と観察力で解き明かす、というお馴染みの展開。

 ただし、「曲球る」だけは少し趣向が違って、戦力外通告をされたベテランピッチャーを、色々な意味で湯川の知識が救うことになる。その知識が科学の知識だけではないところがにくい。他の作品も含めて、湯川の人間の心の機微を感じ取る感性が、物語に人情味を与えている。

 上に「4つの短編」と書いたが、3編は確かに数十ページ短編だけれど、「猛射つ」は150ページもあって正確には中編。ある事件に湯川が指導した母校の後輩が関わる。息詰まるような緊張感が漂う作品で、本のタイトル「禁断の魔術」もこの作品の中の言葉であるし、まぁ本書のメイン作品と言える。

 科学の研究目的に使えば「実験装置」でも、殺人や破壊に使えば「武器」。科学は容易に「禁断の魔術」になってしまう。それに図らずも関わってしまった湯川は、科学者として重大な決断をすることになる。

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