うつくしい子ども

著 者:石田衣良
出版社:文藝春秋
出版日:2001年12月10日 第1刷 2006年8月10日 第19刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 友人が私のために選んでくれた石田衣良さんの本。選んでくれたのは「アキハバラ@DEEP」「5年3組リョウタ組」と本書の3冊で、本書が読後感が一番「重い」ということで、最後に読んだ。

 本書は「神戸連続児童殺傷事件」を題材にしたミステリー。約20年前の事件ながら、40代以降の方なら「あぁあの事件か」と容易に思い出せることだろう。社会にそのぐらいの衝撃を与えた。読後感が「重い」ことも想像できる。

 舞台は常陸県東野市という架空の地方都市。主人公は朝風新聞東野支局の記者の山崎邦昭と、夢見山中学2年生の三村幹生の2人。事件はほぼ冒頭に起きる。5月のある日、小学校3年生の女児が行方不明になり、捜索の結果、翌日に遺体で発見される。小学校がある夢見山ニュータウンは、ハリネズミのような緊張状態に陥る。

 ネタバレだけれど、書誌データでも明かされているので書いてしまうと、事件の犯人は、三村幹生の1歳下の弟だった。本書は、殺人を犯した弟を持つ兄が、自分の弟が「なぜあんなことをやったのか」を探す物語。だから犯人が捕まって事件としては解決したところから始まる。第1章のタイトルが「事件の終わり」であることが象徴的だ。

 いろいろな要素を含んだ物語だった。メディアスクラム、加害者家族に苛烈な世間、その中でも暖かい少数の人、学校教育のあり方、等々。確かに読後感は重い。軽々しく取り扱えるような題材じゃない。
 しかし、題材の重みに負けて沈み込んではしまわない。ちゃんと中学2年生の少年のしなやかで強い心があって、軽やかささえ感じられる。著者はうまく描き切ったと思う。ミステリーだから「真相」もある。

 最後に。「事件の後」を描いた物語と言えば、角田光代さんの「八日目の蝉」や塩田武士さんの「罪の声」が思い浮かぶ。どれも秀作だと思う。

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うつくしい子ども”についてのコメント(1)

  1. 観・読・聴・験 備忘録

    『うつくしい子ども』

    石田衣良 『うつくしい子ども』(文春文庫)、読了。
    もう、少年犯罪というのもは、
    小説の一ジャンルとして出来上がってしまったようですね。
    なので、最初は、「また少年犯罪パターンか・・・・・」と
    ちょいと食傷気味な感じの印象を受けてしまったのですが、
    やっぱり、ちゃんと描いている作品は面白いです。
    特に、長沢くんとはるきが具体的に関わるようになってきてからの
    展開が面……

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