21.村上春樹

女のいない男たち

書影

著 者:村上春樹
出版社:文藝春秋
出版日:2014年4月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 村上春樹さんの最新刊。「東京奇譚集」以来9年ぶりの短編集。「ドライブ・マイ・カー」「イエスタデイ」「独立器官」「シェエラザード」「木野」「女のいない男たち」の6編を収録。

 表題作「女のいない男たち」が書下ろし、その他は昨年の11月から今年の2月にかけて文芸誌に掲載された作品。しかしよくあるような、「短編が何本かたまったのでまとめて単行本にしました」という形態のものではない。「女のいない男たち」という言葉をモチーフとした一連の作品群として執筆されたものだ。

 正確には「女を失った」男たちの物語が綴られている。「ドライブ・マイ・カー」は妻を亡くした俳優、「独立器官」は恋人に裏切られた医師、「木野」は妻の不義が理由で離婚したバーの店主、「女のいない男たち」は昔付き合った女性を亡くした男の物語。「シェエラザード」は軟禁状態にある男が主人公で、連絡係の女性を失う予感がする。「イエスタデイ」が描く男は、失う以前にある女性を得ることができない。

 こんな感じで、モチーフが同じなので当然なのだけれど、設定が似通ったものになっている。では、似通った物語が並んでいるのかというとそうではない。それは、若者たちのユーモアを含んだ乾いた会話であったり、大人の男の少し強がった回顧であったり、キリキリとねじ込むような破滅であったり、フワフワと現実感の乏しい物語であったり、得体のしれないモノの影が見える奇譚であったりする。

 上に書いたようなバリエーションは、過去の村上作品のどれかを思い出させる。また、本書で描かれるような「欠落」は、村上作品の多くでテーマとなっていることもあり、それぞれ雰囲気がどれも違うけれど、どれも「村上春樹らしい」。だから、村上春樹ファンには馴染のある本となるだろうし、そうでない人は、長編ほどには読む負担がかからないので、気軽に読んでみたらどうだろう?

 「らしさ」をもう2つ指摘する。1つ目は、「女のいない男たち」がモチーフだから仕方ないかもしれないけれど、どれもこれもセックス絡みの物語だということ。2つ目は、短編だからそうなのかもしれないけれど、着地点のないエピソードが少なくないこと。これらの内の一つぐらいは、もしかしたら長編に取り込まれて再生されるのかもしれない、と期待している。

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「村上春樹」大好き!

書影

編  者:別冊宝島編集部
出版社:宝島社
出版日:2012年4月19日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 タイトルから分かる通り、村上春樹さん(の作品)が好きな人々が、村上作品を思い思いに語る。裏の扉ページによると、本書は、2003年に刊行した「別冊宝島」を2004年に文庫化し、それを2012年に増補・改訂・改題したもの。

 本書は主に3つの部分からなる。1つ目が、長編・短編小説、エッセイ、翻訳小説、対談集といった、30作あまりを網羅した個々の村上作品の「解説」。2つ目が、料理、音楽、恋愛、酒といった14のキーワードを切り口にした、村上文学の「評論」。3つ目が、村上作品に登場する「場所」を訪ねて行って特定した「レポート」。

 1つ目の「解説」は役に立った。私は、村上春樹さんの作品が好きだ。(まぁそうじゃなきゃ、こんな本読まないと思う。)ここに取り上げられている小説とエッセイのほとんどを読んでいる(読んでいないのは3つ)。古いものは30年ぐらい前になるし、それほど前でなくても、内容を忘れてしまったものもある。この「解説」を読んで「あぁそうだった」と思い出したことや、まったく新しく知ったこともあった。

 3つ目の「レポート」が楽しめた。映画やテレビのアニメやドラマの舞台やロケ地を訪ねる「聖地巡礼」が、そこそこ流行っているそうだけれど、そのノリだ。「ノルウェイの森」で「僕」と直子が入ったそば屋、といった場所を探し当てている。基本的に誰でもが行ける場所なので、気が向いたら訪ねてみるのも面白い。

 本書が、2012年刊行なので、2010年にBOOK3が出た「1Q84」はカバーされているが、今年の春に出た「色彩を持たない多崎つくると~」は入っていない。また、2003年に書かれた文章には、今読むと少し違和感を覚えるものもある。

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ニューズウィーク 2013年5月21日号

書影

 ちょっと番外編。ニューズウィーク日本版2013年5月21日号に、「日本人が知らない村上春樹」という特集が載った。80ページほどの誌面(薄い!)の中ほど、41ページから55ページまでの14ページ(途中に別の記事が1ページある)。今回は、その特集について。

 全部で7人の外国人が「村上春樹」を様々に語っている。アメリカ、韓国、フランス、ノルウェー、中国と、国が様々なら、ジャーナリスト、小説家、翻訳家、ブロガー・コラムニストと、職業も様々。強いて共通点を上げると、日本に長くお住まいであったり、日本文学の翻訳(もちろん村上作品も)をしていたりで、(一人を除いて)日本語で村上作品を読んでいること。

 ある程度は予想していたが、これらの国全部で村上作品がとても人気がある。韓国では「1Q84」は180万部、「ノルウェイの森」に至っては500万部以上売れたそうだ。韓国の人口が日本の4割にもならないことを考え合わせれば、驚きの数字だ。

 記事をよんで感じたことを雑駁に。(1)海外の村上作品は表紙がカラフルだ。日本の作品はシンプルなデザインだけれど、写真やイラストを大胆に使ったものが多い。(2)ノルウェイで「ノルウェイの森」がどう読まれたのか気になる。ノルウェイ版の「ノルウェイの森」の表紙は「日の丸」。これには苦心の後が感じられる。(3)ニューヨーク・タイムズには、「1Q84」を「あきれた作品」と酷評した書評が載ったらしい。これは健全だと思う。

 最後に。韓国や中国で日本作家の作品が、これほど受け入れられていて、その理由は「共感」だという。このことをどう解釈すればいいのか、少し戸惑った。近くて遠い国の人々は、実はやっぱり近いところにいるのかもしれない。

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深読み「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」

 この記事は、昨日レビュー記事を書いた「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を深読みした解釈を書いています。お遊びのようなものですが、よければお付き合いください。

 村上春樹さんの作品は、インタビューに応えたご本人の談によると、本来の物語からパラフレーズ(言い換え)が行われているそうです。場合によっては、その言い換えは何段階かにわたります。村上作品にはメタファー(暗喩)が多いと言われる理由でもあります。

 そこで、暗喩を探して隠された元の物語を想像する、という楽しみ方が読者にはあるわけです。今回「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読んで、思いついたことがあり、私もやってみようと、気まぐれに思い立ったわけです。

 この物語の登場人物の多くの名前に、色の名前が使われています。特に重要なのが、主人公の多崎つくるの高校時代の4人の親友たちの名前。赤松慶、青海悦夫、白根柚木、黒埜恵里。「赤」「青」「白」「黒」。

 この色を眺めて、数年前に読んだある本を思い出しました。その本は、万城目学さんの「鴨川ホルモー」。京都を舞台に繰り広げられる謎の競技「ホルモー」を戦うのは、京都大学青竜会、京都産業大学玄武組、龍谷大学フェニックス(旧朱雀団)、立命館大学白虎隊。「青」「玄(黒)」「朱(赤)」「白」

 なんと!村上春樹さんは「鴨川ホルモー」から着想を得たに違いない!

 ....というのはもちろん冗談、申し訳ありません。

 まぁその可能性はゼロではないとしても、もっとあり得る仮説としては、両者が同じものから着想を得ている、ということ。「鴨川ホルモー」のチーム名は、中国の神話で天の東西南北の四方の方角を司る4つの霊獣の名です。それに倣えば、この物語の4人で「天」「世界」「宇宙」といったものを表していると考えることができます。

 さらに、この四方の中央に「黄龍」を加えたものが、五行思想に取り入れられています(「鴨川ホルモー」の外伝「ホルモー六景」には、同志社大学黄竜陣が登場します)。ここで、この物語の親友グループ5人の最後の一人。つまり主人公の多崎つくるが重要な意味を持ちます。

 つくるは、自分の名前には色がない、ひいては自分には色彩がない、つまり特長や個性がなく「空っぽ」だと思っています。しかし、彼の名前をよく見直すと?「タザツクル」。そうです、名前の中に「キ(黄)」が含まれているのです。

 つまり、彼の役割は「黄龍」、中央を司る者だったと考えられます。物語の中で5人の親友グループは「乱れなく調和する共同体」に例えられていますが、黄龍を含めた五霊獣による「宇宙・世界」の均衡のことをそう表現しているのでしょう。

 そして、中央の「黄龍」である多崎つくるを欠くことで、「宇宙・世界」は均衡を失い....という壮大な物語が、パラフレーズ(言い換え)前の「本来の物語」。

 これが私の「深読み」です。いかがでしょう?
 お付き合いありがとうございました。

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色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

書影

著 者:村上春樹
出版社:新潮社
出版日:2013年4月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 発売前に50万部も刷られ、発売初日に10万部、3日後には20万部の増刷決定。発行部数はすでに80万部。発売日の深夜の行列をニュースで見て、これは「お祭り」だと思った。 ネット書店で予約して発売日に手に入れた私も、このお祭りに参加したことになるのだろう。

 主人公は、タイトルにもなっている多崎つくる。36歳の独身、鉄道会社で駅舎を設計管理する部署に勤めている。大学2年生の夏休みに、高校時代の「乱れなく調和する共同体のような」親友グループから追放された。

 そのショックは大きく、彼はその後の数か月を「ほとんど死ぬことだけを考えて」生きたが、なんとかそこから抜け出て今に至っている。本書はつくるが、大学2年の夏休みの出来事に、もう一度向き合うために、かつての親友たちを訪ねる(一義的にはそれが「巡礼」なのだろう)道程を描く。

 まず、率直な感想。「物足りない」。言葉の選択とかリズムとかが良いのだろう。読むこと自体が心地いい。だから先へ先へと読みたくなる。そしてどんどん読める。これはスゴイことだと思う。ただ言い換えれば、大きな引っ掛かりもヤマもない。平坦な道のりを気持ちよく歩いてゴール、そんな感じ。

 次に、著者の過去の作品との関連で、分析的なことを。当たり前だけれど「らしい」ところと「らしくない」ところがある。音楽がストーリーと深く関わっていること、主人公を「導く」女性が登場することなどは「らしい」ところだ。

 「らしくない」のは、人智を超えた不思議な出来事がなく、「1Q84」のリトルピープルのような正体不明のモノ(「考える人」のロングインタビューで、著者は「地下から這い出してくるやつ」と表現している)も出てこないこと。(読者が想像すれば、それを感じることはできる)。

 つまり、本書は「ノルウェイの森」と同じく、著者としては珍しいリアリズムの手法で書かれた作品だということだ。「ノルウェイの森」については、上述のロングインタビューで、著者自身が「本来の自分のラインにない小説」「(こういうのは)もう十分だと思った」とおっしゃっているのだけれど...

(2013.4.18 追記)
この物語を深読みした、深読み「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」という記事を書きました。

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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小冊子「1Q84のここが好き!」

 新潮社が、1Q84の文庫が全6冊揃ったのを機に「1Q84のここが好き!」という小冊子を作ったそうです。先日書店を徘徊していて見つけました。どうやら7月の初めごろから書店に置いてあったようです。

 内容は女優の杏さん、俳優の谷原章介さん、ピースの又吉さんらの1Q84への想い、作家の綿矢りささんとイラストレーターの安西水丸さんの、「1Q84の舞台かもしれない」場所めぐり、などです。

 杏さんも谷原さんも又吉さんも、芸能界きっての読書家として知られた方々です。実は私は、とある理由から1Q84をあまり楽しめなかったのですが、3人の方の話を伺って、もう1度読み直してみようかと思いました。

 役者のお二人は職業柄からか、「自分が演じるとしたら..」という観点もお話しになっていて興味深かったです。杏さんの〇〇も、谷原さんの〇〇も、私としてはすでに「ハマリ役」で、他の人は考えられなくなってしまいました。是非、実現させて欲しいと思います。

 ※「1Q84のここが好き!」はネットでも読めます

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夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです

書影

著 者:村上春樹
出版社:文藝春秋
出版日:2010年9月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「めったにマスメディアに登場しない」というイメージが強い著者の初めてのインタビュー集。1997年12月から2009年の春までの11年あまりの間に行われた18本のインタビューが収録されている。時期を作品で言えば「アンダーグラウンド」刊行直後から、「1Q84 BOOK1,2」を書き終えた(まだ刊行されていない)ころまで。長編なら「海辺のカフカ」、中編では「スプートニクの恋人」「アフターダーク」、連作短編「神の子どもたちはみな踊る」「東京奇譚集」が刊行されていて、インタビューではそれらを始め、デビュー作以降の沢山の作品に触れられている。

 著者の作品に向かう態度、作品の書き方までが語られている。例えば「スプートニクの恋人」は自分が培ってきた文体を徹底的に検証しようとして書いた、とか、短編集を書くときには、なるべく意味のないポイントを20ぐらい用意して、1編にそのうちの3つを使って書く、とか...。
 最も興味深かったのは、人間の存在を2階建ての家になぞらえた例え。1階はみんなで集まってごはんを食べたり話したりするところ。2階は1人になって本を読んだり音楽を聴いたりするところ。つまり、1階は社会と接するパブリックな部分、2階は自分だけのプライベートな部分。上手い例えではあるが、どこか平凡でもある。しかし、著者の奥深さはこの先にある。
 この家には地下室がある。日常的には使わないけれど、いろいろなものが置いてある特別な場所。普段は自分も意識しない、心の底に沈めた想いのようなものだろう。そして、さらに奥深いことに、そこには特殊な扉があって、また別の部屋へ続いているというのだ。じらすようで申し訳ないが、これは大事なことだと思うので、この部屋のことはここでは説明しない。

 冒頭に「めったにマスメディアに登場しない」と書いたが、それは正確ではない。何しろ、520ページにもなるこんな本ができるぐらいインタビューに応えているのだから。ただし、本書に収録された18本中12本は海外のメディアに向けたものだ。
 だから「めったに日本のマスメディアに登場しない」と言えば正確かというと、実はそうでもない。本人も「好んでやるほうではない」とおっしゃってはいるが、ちょっと検索すると分かるが、雑誌や新聞のインタビューが年に何本かある。
 ただ、テレビやラジオには出ない。その理由が、本書を読んで分かった気がする。こんな論評は生意気だけれど、著者は言葉をとても吟味して使う。テレビやラジオではそこまでできないかもしれないし、できたとしても聞いた方が言葉の選択まで正確に記憶できるわけではない。こうして、その雑誌や新聞の読者以外の目には触れないため「登場しない」ことになってしまっている。本書はある編集者が熱心に進めた企画だそうだけれど、彼女はこの状況に気が付いていたのだろうと思う。

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村上春樹 ロングインタビュー/雑誌「考える人」

書影

 新潮社発行の季刊誌「考える人」の2010年夏号(7月3日発売)に、村上春樹さんのインタビュー記事が載っています。今年5月に箱根の富士屋ホテルで3日間かけて行われたインタビュー、90ページ(写真ページを含む)に及ぶ、まさにロング・インタビューです。

 インタビューを引き受ける返事に「The author should be the last man to talk about his works.」とあったそうです。これは、ずっと以前に村上春樹さんが、米国の作家のレイモンド・カーヴァーさんを評して引いた言葉でもありますが、「著者は己れの著作に対して最も寡黙であるべきだ」という意味です。
 それにしては今回は自分の作品について多くを語ってくれました。皮肉で言っているのではありません。ありがとうと言いたい気持ちです。「1Q84」について、私が聞いてみたかったことも触れられていました。(ただしそれでは納得はできす、今度はこちらから言いたいことができてしまいましたが。)

 ところで、記事を読んでいてある時からとても気になることがありました。それは「このインタビュアーはどういう人なのか」ということです。時折投げかけられる春樹さんからの振りや問いかけに完璧に応える、「100%のインタビュアー」。もう一人の春樹さんがいるかのようでした。
 その人は本誌の2002年の創刊時から編集長を務める松家仁之さん。1982年に新潮社に入社し、数多くの書籍や雑誌の編集を手がけた名編集者だそうです。1984年か85年には、春樹さんが長期滞在するハワイに遊びに行ったと、巻末の「編集部の手帖」にありますから、付き合いも長いのでしょう。

 その松家さんはこの6月末で新潮社を退社されたそうです。つまり、これが新潮社での最後の仕事。当て推量で言えば、この記事は春樹さんが打てば響く信頼する編集者へ贈った「はなむけ」であり、松家さんが立つ鳥として本誌とその読者に贈った置き土産なんじゃないでしょうか。

 残念なことに、本誌は私が調べた限りではネット書店各社には新品の在庫がありません。私は出版社に注文して送ってもらったのですが、それも品切れのようです。ジュンク堂さんなど全国で80店あまりが「バックナンバー常備店」らしいですが、在庫があるのかは分かりません。ただ先日、近所の書店に置いてあるのを見かけました。1400円と安くはないですが、その他の記事も充実しているので、興味がある方は見かけたらすぐに買うことをおすすめします。

 ジュンク堂「編集者の棚」(松家仁之さんへのインタビュー記事)

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上橋菜穂子さん、村上春樹さん、三浦しをんさん作品情報/「マークスの山」ドラマ化

 私は、Googleアラート+リーダーにキーワードを登録して、本に関するニュースを仕入れています。それで「おっ」と思うニュースが4つ上がってきたので、まとめてご報告です。

 1つ目。上橋菜穂子さんの「獣の奏者」の外伝「獣の奏者 外伝 刹那」が9月4日に出るそうです。こちらも予約受付中です。内容は「王獣編」と「探求編」の間の11年間、エリンとの同棲時代をイアルが語る表題作の「刹那」他の3話を収録。これは期待度が大です。
 「獣の奏者 外伝 刹那」Amazonの商品詳細ページへ

 2つ目。村上春樹さんの新刊「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです」が9月29日に出るそうです。Amazon他のネット書店で予約受付中です。内容は「13年間の内外のインタビュー18本を収録。」とのことです。小説じゃないんですね。エッセイとも違う。期待度は中くらいですね。
 「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです」Amazonの商品詳細ページへ

 3つ目。高村薫さんの「マークスの山」がドラマ化されて、WOWOWで10月17日から放送されるそうです。合田雄一郎を演じるのは上川隆也さん、加納祐介は石黒賢さん。現在一日に一人ずつ公式サイトでキャストが発表され、8月25日に制作会見を開いてマークスこと水沢裕之役を発表するそうです。...でも、うちはWOWOW入ってないんです(泣)
 WOWOWオンライン「マークスの山」ページへ

 4つ目。三浦しをんさんが、コニカミノルタのHPで連載していたSF小説3部作が完結しました。ウェブサイトで全編が読めます。小説に登場する最新技術の、しをんさん自身によるレポートもあります。プレゼント企画もあるようですので、しをんさんのファンは必見です。
 コニカミノルタ 三浦しをんWeb小説のページへ

1Q84 BOOK3

書影

著 者:村上春樹
出版社:新潮社
出版日:2010年4月16日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 昨年5月の発売以来、BOOK1,2合わせて227万部という大ベストセラー。このBOOK3も発売前から増刷がかかり70万部が用意されているという。それでも近所の書店では「売り切れ」になっていた。まぁお祭り状態になっている。もちろん、bk1で早くから予約していて発売日に手にした私もそれに参加している。

 青豆はどうなったのか?ふかえりと天吾の一夜の意味は?いろいろなことが明らかになり、また新たな問いかけが提示される。自分が読むスピードが遅くてもどかしい、もっと早く先を読みたいと思った。「読む楽しみ」を堪能したことをまずは認めよう。
 形式的には前作までと同じように、章ごとに主人公が入れ替わる。今回の特徴は「牛河」という、前作までどちらかと言えばマイナーな登場人物が、その一角を担っていることだ。彼の章が物語を推し進める牽引役になっている。逆に言うと、それ以外の主人公にはあまり動きがない。
 敢えて、本書には不満がある、と勇気を持って言わせてもらう。起伏もリズムも意外性も乏しい。もちろん色々な出来事が起きるのだけれど、基本的には「こうなったらいいな」と思っていることにゆっくりと近づいていく感じだ。そもそも、こんなにも主人公たちに動きが乏しくては、展開するのも難しいと思う。(大作家を前に小説の技術論を語るのはおこがましいが)

 昨年9月の毎日新聞のインタビュー記事で、著者が「1、2を書き上げた時はこれで完全に終わりと思っていたんです。(中略)でもしばらくして、やっぱり3を書いてみたいという気持ちになってきた」と答えている。「(批評は)全く読んでいません」とも答えているが、「続編があるのでは..」という声はおそらく著者の耳に届いていたと思うし、「3を書いてみたい」という気持ちに、それは少なからず影響したと思う。
 その前提で考えると納得するのだが、BOOK3は前2巻で投げかけた問い(謎)に対する解答編のようだ。翌月号に載った雑誌のパズルの解答のようだ、と言った方が的確かもしれない。つまり、227万部の読者に対するサービスなのではないか。だから主人公を動かさずに、親切に謎解きを語った、と見るがどうだろう。

 批判めいたことを書きましたが、著者の作品の特長である暗喩や深読みができる部分などは数多くあり、それを勝手に夢想するのは楽しかったです。この後は私が思い付いた部分を書きます。(ネタバレを含みます)>>続きを読む

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