22.有川ひろ

Story Seller annex(ストーリーセラー アネックス)

編  者:新潮社ストーリーセラー編集部
出版社:新潮社
出版日:2014年2月1日 発行 2月10日 2刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「Story Seller」「Story Seller2」「Story Seller3」に続いて、本書が「Story Seller annex」。なぜ4ではなくannexなのかは分からない。裏表紙に「姉妹編」と書かれているけれど、なぜ「姉妹編」なのかも分からない。とにかく大好評アンソロジーシリーズの第4弾。

 大好評にはいろいろな理由があるだろう。ただ一番に言えるのは執筆陣の豪華さ。本書では道尾秀介、近藤史恵、有川浩、米澤穂信、恩田陸、湊かなえ、の当代きっての超人気作家6人の競演。1冊でこの6人の作品が読める。これはおトクだ。

 道尾秀介さんの「暗がりの子供」は、小学生の女の子が主人公の不穏な空気が漂う物語。近藤史恵さんの「トゥラーダ」は、代表作「サクリファイス」から続く自転車ロードレースが舞台(初出は「サヴァイヴ」)。有川浩さんの「R-18」は、「非実在青少年」という珍妙な言葉を生み出したあの規制と闘っている。

 米澤穂信さんの「万灯」は、80年代のエネルギー開発の最前線で戦う商社マンの苦渋をハードボイルドに描く。恩田陸さんの「ジョン・ファウルズを探して」は、英国人の作家ジョン・ファウルズの足跡を訪ねた評論。

 そして、湊かなえさんの「約束」が、本書の中では一番良かった。国際ボランティア隊の隊員としてトンガに赴いた女性の物語。彼女には日本を離れた理由と、はっきりさせなければいけない問題と、これらの根にある「約束」があった。

 湊さんの作品を読むのはこれが2作目。私は、子どもがつらい目に会う話は苦手で、湊さんはそれを描く作家さん、という先入観があって長く敬遠していた。しかし前に読んだ「Story Seller3」の「楽園」も、本書の「約束」も、そんな心配は杞憂だった。

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旅猫リポート

著 者:有川浩
出版社:文藝春秋
出版日:2012年11月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 有川浩さんの最新作。ベタ甘ラブストーリーでもなく、カッコいいおっさんの痛快物語でもなく、甘酸っぱい青春群像劇でもない。本書は、悲しいほどに切ない物語だった。これまでの著者の作品で探せば「ストーリー・セラー」に近い。私はこの手の話が苦手だ。読んでいて辛くなってしまう。

 主人公はオス猫のナナ。しっぽがカギ型に曲がっていて、数字の7に見えるから、飼い主のサトルに名付けられた。ナナは、独立心の強い野良だったけれど、命を救ってくれたサトルの猫になることにした。サトルの方にもナナを求める理由があった。ナナとサトルは5年間をともに暮らし、その絆は深く強いものになっていた。

 ここまでが、この物語が始まる前のこと。サトルがナナを手放すことになり、ナナの引取り先を求めての旅を、本書は描く。それは、サトルが小学生、中学生、高校生の、それぞれの時の友達のところ。つまり、図らずもこの旅はサトルの人生を辿る旅でもある。そこに、サトルの友達のその後の人生が重なり、重層的なしみじみとした物語に仕上がっている。

 ナナの猫目線の語りや、他の動物との会話にユーモアがあり、けっこう楽しく読める。ただし、訪ねてきたサトルに友達が敢えて聞かない「ナナを手放す理由」に、動物たちは気がついている。読者は、彼らの会話からそれを知ることになる。その瞬間、物語から音が消え、空気がピンと張り詰めた。

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海の底

著 者:有川浩
出版社:幻冬舎
出版日:2009年4月25日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者のデビュー3作目。そして「塩の街」「空の中」に続く自衛隊三部作の最後の作品。「空の中」のレビューで使った言葉をもう一度。「こんな大作だとは思ってなかった」

 舞台は横須賀。米軍基地があり、海上自衛隊の施設もある。主人公は、潜水艦「きりしお」の乗員で、実習幹部の自衛官の夏木と冬原。ある日「きりしお」に突然の出航命令が下るが、何かが挟まってスクリューが回らない。出航をあきらめ艦の外を見ると、信じがたい光景が広がっていた。無数の人間大の巨大なザリガニが上陸して...人を食っていた。

 本書は、この異常事態の中での2つの物語を描く。1つ目は、夏木と冬原の物語。他の乗員たちは艦外へ脱出したが、「きりしお」の近くで孤立していた子どもたちの救助に当たった夏木と冬原の2人は、避難のために子どもたちを艦内に収容。そのまま潜水艦に閉じ込められた形の夏木らと子どもたちを描く。

 2つ目は、横須賀の街の防衛にあたった警察に焦点を当てる。こちらの主人公は、神奈川県警警備課の明石警部。巨大なザリガニの襲来という、警察が想定する事案を遥かに超える事態に対して、懸命の文字通りに身体を張った防衛線を守る。

 「巨大なザリガニが襲来して人を食う」というショッキング出来事で幕が開ける。とてもグロテスクに思うかもしれないし、荒唐無稽さに鼻白んでしまうかもしれない。いずれにしても、少し引き加減になるが、それから始まるドラマが、もう一度読者を物語に引きつける。

 未知の生物に蹂躙される異常事態の中に、不器用な自衛隊員と気丈な女子高生を放り込む一方で、自衛隊はもちろん警察からもカッコいいおっさんを登場させる。かなり際どい話題に切り込むところも含めて、3作目にしてこんな濃い作品を出していたとは。後の著者の作品の要素が凝縮されている。

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空飛ぶ広報室

著 者:有川浩
出版社:幻冬舎
出版日:2012年7月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の最新刊。著者は、デビュー作「塩の街」を含む初期作品「自衛隊三部作」以来、「自衛隊・ミリタリー+恋愛」を描いた作品を多く世に出している。本書は2008年の「ラブコメ今昔」以来、久々にその系譜に連なる作品。

 舞台は航空自衛隊の広報室(正確には「航空自衛隊航空幕僚監部広報室」)。主人公は空井大祐、29歳、元戦闘機パイロット。「元」と付いているのは、今は違うからだ。子どもの頃からブルーインパルスのパイロットになりたかった。そして、その夢の入り口である戦闘機パイロットにたどり着いたその時、交通事故に遭い夢への道を閉ざされたのだ。

 上に書いた主人公の紹介は、本書冒頭、第1章に入る前に明らかにされている。事実だけをあっさりと記してあるだけだけれど、彼が心に抱えた物(あるいは失った物)は大きいことが想像される。物語の滑り出しの頃の彼の朗らかさも、却ってそれを感じさせる。彼の心の再生はどうしたら成るのか?それが、本書の1つ目のテーマだ。

 「1つ目のテーマ」があるのだから、2つ目3つ目もある。もちろんラブロマンスはある。主人公ともう1組のカップルの、例によって素直じゃない恋愛。その他には、先輩後輩と階級が入り組んだ複雑な想い、極端な男性社会の中での女性自衛官、自衛隊とその広報活動の有りよう。そしてマスコミや世間の「悪意」を刺すことも忘れていない。

 「あとがき」によると、本書は航空自衛隊からの働きかけが企画の発端だそうだ。本書舞台である広報室の働きを地で行く展開となったわけだ。著者は多くの人の話を聞いて、多くのドラマと着想を得た。それを460ページの大部の物語として結実させた。

 有川ファンにはもちろん、そうでなくてもエンタテイメント作品としてとても面白い。本書を読めば自衛隊の見方も変わるだろう。本書にも登場する「自衛隊への嫌悪」に凝り固まった人には、違った感じ方があるだろうけれど、これは、航空自衛隊広報部の大ファインプレイだと思う。

(2013.4.10 追記)
新垣結衣さん主演でテレビドラマ化されるそうです。4月14日(日)から夜9時、TBS「日曜劇場」
日曜劇場「空飛ぶ広報室」公式サイト

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空の中

著 者:有川浩
出版社:角川書店
出版日:2008年6月25日 初版発行 2009年5月20日 4版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者のデビュー作「塩の街」に続く、デビュー2作目。メディアワークスから単行本、後に角川文庫から文庫版が出版された。私は文庫版で読んだ。

 私は「図書館戦争」を読んで以来、それ以降に出版された作品を全部読んできた(アンソロジーや文芸誌などの収録作品には未読のものもある。最新刊「空飛ぶ広報室」はこれから)。それにも関わらず、初期の作品にはあまり興味がなかった。だから「自衛隊三部作」という言葉は知っていても、長い間この本を手に取らなかった。

 そしてこの度、手に取って読んで真っ先に思ったことは、「こんな大作だとは思ってなかった」ということ。「塩の街」は面白かったけれど、軽めのシンプルな恋愛(+ミリタリー)物語だったので、本書もそうだと思っていたのかもしれない。しかし本書は、色々なものが練り込まれた作品だった。

 主人公は、高知県に住む高校生の斉木瞬と、航空機開発の技術者の春名高巳の2人の男性。物語の冒頭で、試験飛行中の民間の超音速ジェット機と、航空自衛隊の戦闘機が相次いで炎上する原因不明の事故が起きる。それも、四国沖の高度2万メートルの上空という同じ場所で。瞬はその犠牲者の戦闘機パイロットの息子で、高巳は民間機の事故調査委員だ。

 航空機の同じような事故の関係者という以外には、この二人に接点はなく、当初は別々の物語が綴られる。それぞれにヒロインが登場して、著者お得意の「さっぱり進展しないもどかしいラブストーリー」が始まる。そこにかなりぶっ飛んだUMA(未確認生物)が絡み、人類の危機を招く切迫した事件が起き、冷徹な美少女が新たなプレイヤーとして登場する。上から目線で恐縮だけれど、著者の2作目への熱意が感じられる周到なストーリー展開だ。

 最後に。著者の「おっさん萌え」を知っている私には、著者にとってのこの物語のキーパーソンがすぐに分かった。文庫版に収録された「仁淀の神様」という掌編に、著者の想いがあふれている。

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三匹のおっさん ふたたび

著 者:有川浩
出版社:文藝春秋
出版日:2012年3月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 タイトルから分かる通り「三匹のおっさん」の続編。前作は、還暦を迎えたおっさん(本人たちは「じいさん」と呼ばれたくない)3人組が、町内の問題を解決する痛快物語。本書も基本路線は同じだ。

 三匹とは、剣道の先生の清田清一(キヨ)、居酒屋の主人で柔道家の立花重雄(シゲ)、工場の経営者でメカにめっぽう強い有村則夫(ノリ)の幼馴染3人。キヨが勤め先の大手ゼネコンを定年退職したのを機に「自警団」を結成、町内の夜回りなどをしている。

 上に「基本路線は同じ」と書いたのにはわけがある。前作は「おっさん萌え」の著者が書いた、ひたすらおっさんがカッコいい話だったが、本書はちょっと違う。本書でも、本屋の万引き事件などを、おっさんたちはカッコよく裁いて見せた。しかし他の幾つかの物語では、3匹は時に影の支え役に回り、時には無力でさえある。その代わりに前作では引き立て役だった、キヨの息子夫婦の健児と貴子などのサブキャラに光が当たっている。

 甘ったれ主婦だった貴子も少し成長する(「あとがき」によると、著者は「続編をやらせてもらえるとしたら貴子の話」と決めていたそうだ)。ヘタレ亭主だった健児もいいところを見せる。シゲの息子の康生も頑張っている。キヨの孫の祐希とノリの娘の早苗は元々いい子だ。

 どうやら著者は、「おっさん萌え」だけでなく、自分が作ったキャラクターたちを愛しているようだ。こんなにみんないいヤツでいいのか?と思うかもしれない。しかし、ため息をつくしかない人物も登場するし、やるせない事件も起きる。3匹のファミリーぐらいは、いいヤツばかりでもOKだと思う。

 巻末の「好きだよと言えずに初恋は、」は、以前に「野生時代」に掲載された短編。早苗の友達の潤子の物語。同級生の男の子が潤子に花の名前を教えてくれる。その理由を聞いた時にピンときた。いやゾゾ~とした。有川先生、この物語はファンへのプレゼントですね。

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クジラの彼

著 者:有川浩
出版社:角川書店
出版日:2007年1月25日 初版発行 
評 価:☆☆☆(説明)

 2005年から2007年にかけて、月刊小説誌「野生時代」に掲載された短編6編を収録した短編集。著者のデビュー2作目の「空の中」、3作目の「海の底」のスピンアウトを含んでいる。

 今さら紹介する必要もないかもしれないけれど、著者のデビュー作「塩の街」と上に挙げた2作を合わせて「自衛隊3部作」と呼ばれている。「海の底」が2005年の作品だから、「野生時代」の連載が始まったのはその直後。この短編集もスピンアウトはもちろん、他の作品もミリタリーのラブストリーだ。

 自衛隊という特別なお仕事の人の恋愛は、ドラマ性に富んでいる。結婚式の祝辞で必ず言われるという「どんなに喧嘩しても、朝は笑顔で送り出してくれ(無事に帰ってくるかどうかわからないので)」という話には、密度の濃い時間が垣間見える。

 男性が自衛隊員で女性が民間人で待つ身、というパターンを思いがちだが、著者は、女性が自衛隊員で男性が民間人、そして男性も女性も自衛隊員、の組み合わせも物語にしている。どれも甘い中にも読みごたえを感じるものだったが、私は、男性も女性も自衛隊員の甘さ控えめな「脱柵エレジー」が良かった。まだ30歳手前とは言え、自衛隊での10年の経験が「大人」を感じさせる二曹の、甘さ控えめの恋愛未満の物語だ。

 著者による「あとがき」(この「あとがき」はなかなか楽しかった)に、「私の会った自衛官の若い方は、失礼ながら皆さんかわいくて純粋で一生懸命で一途で、..」と書いてあったが、その想いが作品に表れている。男も女も「ちょっとカッコ良すぎるんじゃないのぉ」と、思わないではないが、そこはラブストーリーの常として不問にしておこう。

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ヒア・カムズ・ザ・サン

著 者:有川浩
出版社:新潮社
出版日:2011年11月20日 発行 
評 価:☆☆☆(説明)

 たった7行のあらすじから生まれた3つの物語。著者の最新刊の本書は、まだ7行しかない「ヒア・カムズ・ザ・サン」という演劇のあらすじから、著者の有川浩さんと成井豊さんのお二人が、それぞれ別の物語を生み出す、というコラボレーション企画からうまれた作品。成井さんは、演劇集団キャラメルボックスの代表で構成・演出を手掛ける。

 今年5月に、キャラメルボックスの舞台公演があり、ほぼ同時に著者の作品が「小説新潮」に掲載され、2つの「ヒア・カムズ・ザ・サン」生まれた。その後著者は、舞台の設定と登場人物を生かして、もう一つの物語「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」を書き下ろした。つまりたった7行のあらすじから、小説が2つ演劇が1つの3つの物語が生まれたのだ。本書には、著者の作品である2つの物語が収められている。

 その7行のあらすじは、著者のブログに掲載されているので、そちらを見ていただきたい。ここでは、その7行をさらにかいつまんで紹介する。「出版社で働く30歳の真也は、物や場所に残された人間の記憶が見える。ある日、会社の同僚のカオルの父がアメリカから20年ぶりに帰国した。彼はハリウッドで映画の仕事をしているという...」

 お見事でした。特に1作品目「ヒア・カムズ・ザ・サン」が良かった。最近の著者は「恋愛未満」のラブストーリーが上手い。そして「大人の恋愛」も。100ページ足らずの短い物語の中で、いくつもの恋愛の形を描き、若者の成長を描き、作家と編集者の関係を描き、出版業界への皮肉もチクリ。お題を基にした仕事であることも含めて、まさに「職人技」でした。

 2作品目の「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」は、演劇の舞台から設定を持ってきているので、著者にしてみれば、より制限の厳しい試みだっただろう。ちょっと単調な感じを受けたが、「おっさん萌え」の著者は、おっさんの心根が分かるらしい。おっさんである私はちょっと嬉しかった。できれば演劇の方も観たいのだけれど、今のところDVDなどはないようだ。

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ほっと文庫「ゆず、香る」「郵便少年」ほか

著 者:有川浩、森見登美彦、あさのあつこ、西加奈子
出版社:バンダイ
出版日:2011年8月1日
評 価:☆☆☆(説明)

 おもちゃ・ホビーのバンダイと角川書店のコラボレーション商品。30ページほどの短編小説に、その小説に登場する色と香りの入浴剤が1包付いている。全部で6種類発売されている内の4種類を買って読んでみた。

 読んだのは、有川浩さん「ゆず、香る」、森見登美彦さん「郵便少年」、あさのあつこさん「桃の花は」、西加奈子さん「はちみつ色の」の4つ。前の3人は、私が好きな作家さんで、西さんは「もし面白かったら他の作品も読んでみよう」と、新規開拓のつもりで選んだ。

 面白かった順も上に書いた順のとおりだった。まぁ好きな作家さんの順に書いたので、好きな作家さんの作品が面白かった、という至極当たり前の結果になっただけ、とも言える。

 それぞれを簡単に紹介する。「ゆず、香る」は、王道のラブストーリー。コラボ作品としてハマり過ぎな感じ。「郵便少年」の主人公は、たぶん「ペンギン・ハイウェイ」のアオヤマ君。悲しくもほのぼのとした作品。「桃の花は」は、30歳の女性の遠い昔の記憶をめぐる不思議な物語。「間に合ってよかった」と思えるいい話。「はちみつ色の」の主人公の小学生の母親は小説家。自分の誕生日に「誰からもおめでとうメールが来ねぇ」と憤っているような人。新規開拓のつもりだったが、私には合わなかったらしい。

 それぞれの著者のファンで、(399円払っても)30ページの書き下ろし短編が読みたい、という方にはおススメ。「小説と入浴剤のセットって、ちょっと面白そうじゃない?」という方もOK。

※この商品は入手困難になっている。私も1週間前に、近くの書店、ホームセンター、ドラッグストアを何軒か回ったが売っていなかった。商品のホームページに載っている「商品お取扱店舗」にも行ってみたが、チェーンの場合、全店にあるわけではないらしい。
 今日(2011.8.20)現在では、ネット書店で取り扱いがあるようだけれど、「ゆず、香る」と「郵便少年」は、Amazonでは在庫がなくて「9月26日入荷予定」になっている。
 1週間前には他のも在庫がなかったので、私はバンダイのショッピングサイト「プレミアムバンダイ」で購入した。ここなら今も買えるようだ。(ただし送料が525円(税込)かかる。399円のものを買うのにこの送料はちょっと痛い)

 ここからは書評ではなく、この商品についてちょっと気になったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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(さらに…)

有川浩脚本集 もう一つのシアター!

著 者:有川浩
出版社:角川書店
出版日:2011年3月31日 初版発行 
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の作品「シアター!」「シアター!2」に登場する小劇団「シアターフラッグには、「Theatre劇団子」というモデルとなった実在の劇団がある。本書は、その「Theatre劇団子」が「シアターフラッグ」の面々を演じる舞台「もう一つのシアター!」の脚本だ。
 劇団が劇団を演じる、それも自身がモデルになった小説の中の架空の劇団を。そしてその脚本を、(諸般の事情でそうなったそうだけれど)小説の著者が自ら書く。本書には、こんな面白い仕掛けがいくつも施されている。

 物語の舞台は「シアターフラッグ」の地方公演。と言っても、高校の文化イベントに呼ばれたもので、入場料が取れないので儲けは望めない。ただ、公演依頼なんか滅多にこないので、劇団員たちは張り切っている。
 日帰りの日程で、大道具も小道具もその日の朝に持ち込んで設営する。このあたりがトラブルのもとで、ドタバタと次から次へと問題が持ち上がる。それだけでなく、どうも公演を邪魔しようとしているヤツがいるらしく...。

 著者の作品らしく、笑いやしみじみとした感慨が仕込まれていて楽しめた。ただ、セリフとト書きという脚本の形式で200ページほどなので、物語は短く展開も比較的素直に進む。その代わりという訳ではないが、著者が公演や練習の際の様子などを、「註」として書いている。「作者的にはほっこりとしたいいシーンのつもりが(中略)観客が爆笑。あれー?」なんて、著者の生の反応が面白い。
 同様の「註」は他にもあって、そこで著者は「作者的に最大の予想外がここ。(中略)舞台の反応は本当に読めない。」としているが、本で読んだ私もここは笑った。もしかしたら、これまでの作品の私の「笑い」のいくつかも、著者的には予想外だったのかも。

 冒頭に「面白い仕掛け」と書いた。その意味では著者による「註」も仕掛けと言える。そしてさらにもう一つ。この物語のことは「シアター!2」に既に書き込まれていて、ちゃんと前後がつながるようになっている。「シアター!」シリーズが好きな読者には、抗いがたい魅力だろう。私はこの公演のDVDを買うのを、何とか思い留まっている。

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