3.ミステリー

ビブリア古書堂の事件手帖3

書影

著 者:三上延
出版社:アスキー・メディアワークス
出版日:2012年6月23日 初版発行 8月3日 3版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 帯に「累計300万部 大人気シリーズ待望の最新刊」とある。本書はシリーズ3巻目で、1年前に書いた2巻目の「ビブリア古書堂の事件手帖2」のレビューには、「シリーズ53万部」と書いているから、この1年でさらに大化けしたようだ。

 実は私は、1巻目2巻目を楽しく読んだにも関わらず「3巻目はもういいかなぁ」と思っていた。古書に関するウンチクには好奇心を刺激されるけれども、そんなにウンチクをため込んでも仕方がない、という気持ちだった。
 ところが、本好きのためのSNS「本カフェ」で、3巻(つまり本書)の噂が耳に入ってきた。どうも2巻目より3巻目の方がいいらしい。私と同じように2巻でテンションが下がった方が、「3巻を読んで次を心待ちにするようになりました。」とも言っている。これは、読まないと...というわけで本書を手に取った次第。

 読み終わってみると、3巻目で盛り上がっている方の気持ちが分かった。前巻までが「古書のウンチク」で読ませるのに対して、本書はストーリーで読者の興味を引っ張っている。相変わらずウンチクもあるのだけれど、それが前面に出てくる感じではなくなった。ストーリーとのバランスがちょうどいい塩梅になってきた。

 改めて簡単に紹介すると、本書は、北鎌倉にある古書店「ビブリア古書堂」を舞台にした、そこの店員の大輔と店主の栞子の物語。栞子が本の知識と洞察力によって、謎や事件を解決していく。それと並行して、栞子自身にも謎があることが見え隠れする。

 本書では、新しい登場人物が登場することで、栞子を取り巻くいくつかの新事実が明らかになり、それに伴って謎も深まる。栞子を取り巻くミステリーには、まだまだ二の矢三の矢を、著者は用意しているはずだ。
 一旦は「もういいかなぁ」と思った私だが、2月に発売予定の第4巻も読むだろう。(1月にはフジテレビ月9で、剛力彩芽さん主演でのドラマ化が決定している)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

プラチナデータ

書影

著 者:東野圭吾
出版社:幻冬舎
出版日:2012年7月5日 初版 10月25日 7版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 数々のベストセラー作品をモノにし、その作品のテレビドラマ化・映画化が相次ぐ著者。当代随一のヒットメーカーと言って過言ではないだろう。本書も、二宮和也さん・豊川悦司さん主演で映画化、来年3月の公開予定だ。

 主人公は、神楽龍平と浅間玲司。2人とも警察官。ただ、浅間が警視庁捜査一課の警部補で、いわゆる叩き上げの刑事であるのに対して、神楽は警察庁特殊解析研究所の主任解析員という特殊な職務。同じ警察官でも、事件やその捜査に対する2人の考えには大きな違いがある。

 神楽の研究所では、DNA解析による犯人の特定の研究を行っている。その研究では、犯人の毛髪が現場に残されていれば、性別・年齢・身長・体型・手足の大きさ...それだけなく犯人の顔までわかる。近親者でもDNAがデータベースに登録されていれば、ほぼピンポイントで判明する。

 その研究の成果であるシステムが完成する。そしてある殺人事件の現場に残った毛髪から、システムが導き出した犯人は...なんと神楽自身だった、というところから物語が急展開する。若干ネタバレ気味だけれど、これは物語の発端に過ぎず、こんなことは些細なことに思えるような、入り組んだ謎がこの後に展開するので、安心して欲しい。

 面白かった。(途中で分かってしまった仕掛けもあるのだけれど)浅間の現場の刑事としての勘、神楽の研究者としての才能、地元警察と警視庁と警察庁の関係、そして神楽の生い立ちと「特別な事情」..たくさんの要素が絡まりあって事件の真相を覆っている。その絡まりはラストになって、一気に紐解ける。

 にほんブログ村「東野圭吾」ブログコミュニティへ
 (東野圭吾さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

バビロンの魔女

書影

著 者:D・J・マッキントッシュ 訳:宮崎晴美
出版社:エンジン・ルーム/河出書房新社
出版日:2012年9月30日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 発行元のエンジン・ルームさまから献本いただきました。感謝。

 本書は2007年度の英国推理作家協会デビュー・ダガー賞候補、2008年カナダ推理作家協会の未出版作品部門の最優秀賞を獲得。長編としては著者のデビュー作。

 最近の流行なのか、英語圏のミステリーの一分野なのか、ダン・ブラウンの「ダ・ヴィンチ・コード」以降、良く目にするようになった「古代史の謎」を題材としたアクション・ミステリー。本書が題材としているのは、旧約聖書の文書のひとつ、預言者ナホムによる「ナホム書」。と言われても、聖書に詳しくなければ馴染みがないと思う。帯の訳者の言葉によれば「(その原本の発見は)日本でいうなら卑弥呼の手紙がみつかったような話なのです」だそうだ。

 物語の発端は、2003年のイラク戦争のさなかの敗色濃厚となったバグダッド。その混乱に乗じて、古代メソポタミアの貴重な宝物を収蔵する、イラク国立博物館が略奪に逢う。しかし、盗賊から守られるように、ある石板が密かに持ち出される。

 主人公はジョン、ニューヨークの古美術商。最近、自分が運転する自動車の事故で兄を亡くしている。ある日、友人のパーティに出かけるも、その夜にその友人が麻薬の過剰摂取で亡くなる。そして、パーティで出会った美女に「隠し場所をすぐに教えなさい」と脅される。

 その美女と亡くなった友人とさらにジョンの兄までもが、イラク国立博物館から持ち出された石板によってつながるらしい。物語は、こうした枠組みを紹介した後、緩急を付けながら流れ出す。友人が残した謎解き。新しい登場人物が次々と現れるが、果たして彼らは敵か味方か?ジョンが何度も窮地に陥りながら、舞台はニューヨークからトルコ、イラクへ。

 少し物語の流れが荒く感じる部分があるし、謎解きもあまり洗練されたものとは言えない。まぁ、それは勢いで読んでしまうと良いだろう。それから、主人公の生い立ちがあまり物語に生かされていない。しかし「訳者あとがき」によると、本書は三部作の1作目で、その辺りは後の2作に期待、ということらしい。

 にほんブログ村「ミステリ・サスペンス・推理小説全般 」ブログコミュニティへ
 (ミステリ・サスペンス・推理小説全般についてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

ジェノサイド

書影

著 者:高野和明
出版社:角川書店
出版日:2011年3月30日 初版発行 9月15日 11版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、このミステリーがすごい!2012年版国内編の第1位。本屋大賞は「舟を編む」に大賞を譲って2位だったけれど、「週刊文春」や「本の雑誌」のランキングでも1位になり、日本推理作家協会賞などを受賞。まぁ昨年度のNo.1の話題作と言っていいだろう。

 物語は、別々の3つの場所で並行して進む。1つはアメリカ合衆国大統領の周辺、もう1つは民間の軍事会社に雇われた傭兵たちが潜入したアフリカ奥地、3つ目は何かの事件に巻き込まれた日本人の大学院生がいる東京。世界三元中継のアクションサスペンスだ。

 3つの場所の別々の物語は、もちろん関連している。最初はごく緩やかに、徐々に密接に。どうやらプロローグの合衆国大統領の日報で報告された、「人類絶滅の可能性 アフリカに新種の生物出現」、という話題が、3つの物語をつなぐ要らしい。

 基本的には、主人公たちがサバイバルを続けるいわゆるジェットコースタードラマだ。傭兵たちは、絶対絶命の包囲網を突破し、日本人大学院生は謎の追手から逃れる。それだけでもベストセラーになる要素はあるのだけれど、この物語はもう少し複雑だ。

 物語の背景には、大統領周辺の駆け引きや陰謀があり、中央アフリカの民族対立がある。これらは現在の私たちが抱える問題だ。そして、近未来の私たちに降りかかるかもしれないのが「新種の生物」という問題。これが読者に投げかける問いは思いの他に重たいものだった。それでいいのか?私ならどうする?と問わずにはいられなかった。

 世界三元中継はなかなか面白かった。時間さえ許せば一気読みしただろう。ただ、アフリカのいくつかのエピソードには、ザラリとした嫌な感触が残った。その反対に、日本のエピソードは「手順通り」な感じで、もう少し毒気があってもいいように思った。

 にほんブログ村「ミステリ・サスペンス・推理小説全般 」ブログコミュニティへ
 (ミステリ・サスペンス・推理小説全般についてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

終わりの日 黙示録の預言

書影

著 者:スコット・マリアーニ 訳:高野由美
出版社:エンジン・ルーム/河出書房新社
出版日:2012年8月30日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 発行元のエンジン・ルームさまから献本いただきました。感謝。

 「消えた錬金術師」「モーツァルトの陰謀」に続く、「ベン・ホープ」シリーズの第3弾。

 主人公ベン・ホープは、誘拐された子どもの救出を生業としていた。前作までは..。前作「モーツァルトの陰謀」の悲しすぎる結末の後、ベンは生きる希望を失い、自分に銃口を向け死の瀬戸際まで行って踏みとどまる。「今日はその日じゃない」と言って。ベンは仕事から足を洗い、かつて志した神学の道へ戻る。

 そして神学の道を究めるべく研究に没頭する...という話ではない。当たり前だ。帯には「バイオレンス・ミステリー」という言葉が躍っている。足を洗ったはずの世界に否応なく引き戻され、暴力が支配する局面に飛び込んでいくことになる。

 物語は、聖書にまつわる重大な秘密を知った、若い女性聖書考古学者の救出を描く。危機一髪に次ぐ危機一髪。それをある時は機転を利かせて、別のときは銃撃戦の大立ち回りをして脱出する。前作までよりパワーアップしているように思う。ジェットコースターに乗ったように、読者は途中で降りられない。500ページ以上の大書だけれど、ラストまで一気読みということもあるだろう。

 ただ、ベンがあまりにタフで、少し人間離れしてしまった感がある。悪役がとことん醜悪に描かれていることや、たくさんの人が死んでしまうことなどと合わせて、ちょっと度が過ぎるように感じる部分もある。そこのところは、スーパーヒーローには何でもアリ、と割り切った方が楽しめそうだ。

 にほんブログ村「ミステリ・サスペンス・推理小説全般 」ブログコミュニティへ
 (ミステリ・サスペンス・推理小説全般についてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

真夜中のパン屋さん 午前1時の恋泥棒

書影

著 者:大沼紀子
出版社:ポプラ社
出版日:2012年2月5日 第1刷発行 2012年2月25日 第4刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「真夜中のパン屋さん 午前0時のレシピ」の続編。「まよパン」シリーズの第2弾。

 舞台は前作と同じ「Boulangerie Kurebayashi」という、真夜中に営業しているパン屋。登場人物も前作とほぼ同じ。前作は6つの章から成る連作短編の体裁だったけれど、本書は全編で1つの謎を追う。その謎の中心は、新しい登場人物である佳乃。ふらっと現れて、店の2階に住むことになった。パン職人の弘基の中学時代の彼女だということだけれど、彼女は何者なのか?その目的は何か?

 佳乃の登場は、店の2階に住むもう一人の女性、希実が前作で現れた時とそっくりだった。いきなり現れて「私はあなたの〇〇(希実の場合は、オーナーの暮林の奥さんの義妹)なんだから、ここにいさせて欲しい」と言って、居ついてしまう。暮林の「ええよ」の一言で。

 暮林の「ええよ」が表す包容力は、この物語の魅力となってシリーズを通して感じられる。前作で登場したのは、夜中に街を徘徊する小学生、ホームレスのニューハーフ、のぞき魔の変態..。「普通」からはちょっとはずれた人たちをみんな、この店は受け入れてきた。本書では、彼らが誰かの役に立とうとしていて、それが幸せそうに見える。

 佳乃の謎を追う内に、登場人物と読者の前に新たな謎が立ち上がる。どうやらこの謎を、次回以降のシリーズが追うらしい。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

あるキング

著 者:伊坂幸太郎
出版社:徳間書店
出版日:2012年8月15日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、3年前に出版された単行本を文庫化したもの。先日新聞に載った本書の広告に「全面改稿(大幅改稿だったかも?)」の文字が躍っていた。何の義務も強制もないのに、「これは読まねば」と思って書店で購入した。

 山田王求という、ある天才野球選手の生涯が綴られた物語。王求の両親は、仙醍キングスというプロ野球チームの熱烈なファンで、「王(キングス)に求められる」という意味で「王求(おうく)」と名付けた。そして、王求は尋常ではない才能と練習によって一流の野球選手に成長する。その過程が、〇歳、三歳、十歳、十二歳…と、王求の成長の節目ごとに章を建てて描く。

 広告にも裏表紙にも「いままでの伊坂幸太郎作品とは違います」と書いてある。しかしそれは、単行本の出版時に、多くの読者が思ったことでもある。王求の周囲には、魔女やら四足の獣やら謎の男やらと、得体の知れないものがチラチラと登場する。
 それまでは「パズルのピースがピタッとハマる」感じだったのに、この得体の知れないもののために、この作品は何となく「不安定な感じ」なのだ。インタビューなどで著者自身が、この作品から意図的に変えた、という主旨のことをお話になってもいる。この文庫本では、そこをセールスポイントとしたらしい。

 そうした出版サイドの思惑に反することになるが、私は本書は単行本と比較して「それまでの伊坂作品」らしくなったと感じた。それを確かめるために、本書を読んだ後に、突き合わせるように単行本を再読してみた。それで主には、シェイクスピアの「マクベス」に関する話題が追加されていることが分かった(そのために私は「マクベス」まで読み直してしまった)。魔女は「マクベス」にも登場する。これで魔女の得体が少し知れたので、不安定感がぐっと下がったようだ。

 また「文庫版あとがき」で著者が、「もう少し分かりやすく」と考えた、と書かれているが、そのために「マクベス」以外にも、実に実に細かい改稿がされている。伏線や気の効いたセリフなども盛り込まれた。まさに「それまでの伊坂作品」のように。私は、この文庫版の方が好きだし、おススメもする(☆も3つから4つに増やした)。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
 「伊坂幸太郎」カテゴリー

 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(~2007年)」
 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(2008年~)」
 (あなたの好きな伊坂作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

球体の蛇

書影

著 者:道尾秀介
出版社:角川書店
出版日:2009年11月20日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 2009年下半期の直木賞候補作。まるで霧の中にいるような、不透明な漠とした不安感を全編を通じて感じた。

 主人公は友彦。物語は、友彦が高校生だったころの16年前を思い出す、回想として語られる。友彦は事情があって、隣家のシロアリ駆除業を営む乙太郎の家で、乙太郎とその娘のナオの3人で暮らしている。その乙太郎は、7年前に妻の逸子と娘(ナオの姉)のサヨを亡くしている。

 そして友彦には、サヨとその死について、友彦だけが知っている秘密があるらしい。友彦が、乙太郎たちと表面上は穏やかに暮らしながら、胸には秘密を秘めていることが、この先に何が起きるのか?という不安感を漂わせる。その不安感は、智子というサヨに似た謎めいた女性が絡むことで、さらに増していく。

 本書は、事件の真相が一つのテーマなので、ミステリーに分類される作品だろう。真相は、中盤以降に少しずつ明らかになる。友彦が秘める秘密も明らかにされる。しかしそれでも霧はなかなか晴れない。誰もが秘密を抱えていて、それが明らかになる度に、それまでと全く違う景色が見えてくる。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

夜の国のクーパー

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:東京創元社
出版日:2012年5月30日 初版
評 価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの最新刊。書き下ろし長編は本書が10作目、「マリアビートル」以来で1年半あまり。

 主人公は「私」と、猫のトム。「私」は公務員で、妻の浮気が発覚して居心地が悪くなった家を出て、釣りに出かけた船が時化にあって、どこか分からない場所に流れ着いたらしい。目が覚めたらそこにいた、そして目の前(というか胸の上に)いた、猫のトムが話しかけてきた。本書の大部分は、こうしてトムが「私」に話したトムの国の物語。

 「トムの国」と言っても猫の国ではない。人間の国王が居る人間の国で、猫は人間とつかず離れず「猫らしい」自由な暮らしをしている。まぁ、私たちの世界と同じように。ただ違うのは、この国の猫は人間の言葉が分かる(私たちの世界の猫も分かるのかもしれないけれど)。どこへでも怪しまれずに入り込めるので、人間たちのいざこざや人間関係なども知っていて、けっこうな「事情通」なのだ。

 トムの国は8年間続いた隣国「鉄国」との戦争に敗れ、国王が居るこの街に、鉄国の兵士たちが統治のためやってきた。鉄国の兵長は、どうやら冷酷無比な人物で、有無を言わさずに国王を射殺し、街の人々には「外出禁止」を言い渡す。「必要なものは奪われ、必要でないものも奪われる..戦争に負けるとはそういうことらしい」という、長老の言葉が人々に重くのしかかる。

 クーパーとは杉の木の怪物のことで、トムの国では、クーパーと闘う兵士のことが、半ば伝説的な物語になっている。クーパーの話と、鉄国の兵士に統治された街の話と、「私」の話の3つが縒り合される時が、この物語のクライマックス。

 帯には「渾身の傑作」とあるのだけれど、私はちょっと物足りなく感じた。伊坂さんは以前から「抗いようのない巨大な力」を描き、テーマはシリアスなのに、物語全体が重苦しくならない。どこかカラッとした雰囲気と可笑しさを感じる。「戦争に負けた国」を描いた本書もそれは同じで、その点はとても良かったのだけれど。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
 「伊坂幸太郎」カテゴリー

 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(~2007年)」
 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(2008年~)」
 (あなたの好きな伊坂作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

真夜中のパン屋さん 午前0時のレシピ

書影

著 者:大沼紀子
出版社:ポプラ社
出版日:2011年6月5日 第1刷発行 2012年3月14日 第21刷
評 価:☆☆☆(説明)

 高1の娘が持っていた本を借りて読んだ。どうやら評判が良いらしい。特設サイトによると、本書は22刷がかかったそうだし、第2弾が出てシリーズ化され、シリーズ40万部突破、とのこと。確かに売れている。

 舞台はパン屋。「Boulangerie Kurebayashi」という名のそのパン屋のパンは、一口で魅了されるほどおいしい。一風変わっているのは、営業時間が午後11時から午前5時までということ。タイトル通り「真夜中のパン屋さん」なのだ。
 パン屋を切り盛りするのは、オーナーの暮林陽介とブランジェ(パン職人)の柳弘基の2人。そこに飛び込んできたのが、暮林の妻の腹違いの妹だという、女子高校生の篠崎希実。この3人がまぁ本書の主人公。

 本書は6つの章から成っていて、章ごとに完結する小さな物語と、全編を通して徐々に明らかになる大きな物語があり、連作短編形式になっている。章を追うごとに新たな登場人物が加わり、その登場人物が後の章でも大事な役割を担う。
 この登場人物たちが、良く言えば個性的。ストレートに言えば変な人たちだ。誰も彼もが問題を抱えていて、傍目には幸せとは言えない。夜の街をウロウロしている小学生。ワンルームに引きこもるのぞき魔の男。ホームレスのニューハーフ。ただし「問題を抱えている」という点ではパン屋の3人も同じだった。

 登場人物たちの何人かの境遇に、かなり厳しいものがあり「安心して読めない」というか、読み心地が悪い思いをした。しかし読み終わって見れば、ふんわりと暖かいなかなか良い物語になっていた。これは評判になるのも分かる。

 表紙から受ける印象通りに、分類としてはライトノベルだろう。ライトというには少し重いテーマもあるし、描いている人間模様が少し奥深い。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)