31.伊坂幸太郎

残り全部バケーション

著 者:伊坂幸太郎
出版社:集英社
出版日:2012年12月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「魅力的な登場人物」「巧みな伏線」「気の効いたセリフ」、伊坂作品の魅力が三拍子揃った作品。私は、伊坂さんのこういう本を読みたかった。「伊坂さん、ありがとう」と言いたい。

 表題作を含む5つの短編からなる、連作短編集。表題作「残り全部バケーション」は、「Re-born はじまりの一歩」というアンソロジーに収録されていて、以前に読んだことがある。「タキオン作戦」「検問」「小さな兵隊」は、別々の小説誌に掲載されたもの。最後の「飛べても8分」は書き下ろし。いわばバラバラに書いた5つの作品が、見事に響き合う1つの物語を奏でている。

 主人公は、溝口と岡田の二人組。当たり屋や脅しなどの細かい裏稼業の下請けをやっている。裏稼業の世界ということでは、「グラスホッパー」「マリアビートル」と同系列だけれど、本書の主人公たちは「殺し」はやらないので、だいぶ穏やかだ。

 溝口が岡田に裏稼業の手ほどきをした。この溝口が、何ともいい加減な男で、やることは行き当たりばったり、自分の身が危ないとなれば責任を他人に平気で押し付ける。でも、なぜか憎めない。岡田も溝口にひどい目に会わされるのだけれど、なぜか責める気にならない。「魅力的な登場人物」の筆頭はこの溝口。それに岡田をはじめ、その他にも粒ぞろいだ。

 「巧みな伏線」は、ここで明らかにするわけにはいかない。ただ、書き下ろしの「飛べても8分」が重要な物語だとだけ言っておく。「気の効いたセリフ」も、挙げればキリがないので言わない。
 また、セリフとは限らないけれど、伊坂さんの作品には、最初の一文に強い吸引力があることがある。例えば「モダンタイムス」の「実家に忘れてきました。何を?勇気を」とか。本書は「実はお父さん、浮気をしていました」の一文で始まる。(私は脱力してしまった。吸引力とはちがうかもしれない(笑))

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あるキング

著 者:伊坂幸太郎
出版社:徳間書店
出版日:2012年8月15日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、3年前に出版された単行本を文庫化したもの。先日新聞に載った本書の広告に「全面改稿(大幅改稿だったかも?)」の文字が躍っていた。何の義務も強制もないのに、「これは読まねば」と思って書店で購入した。

 山田王求という、ある天才野球選手の生涯が綴られた物語。王求の両親は、仙醍キングスというプロ野球チームの熱烈なファンで、「王(キングス)に求められる」という意味で「王求(おうく)」と名付けた。そして、王求は尋常ではない才能と練習によって一流の野球選手に成長する。その過程が、〇歳、三歳、十歳、十二歳…と、王求の成長の節目ごとに章を建てて描く。

 広告にも裏表紙にも「いままでの伊坂幸太郎作品とは違います」と書いてある。しかしそれは、単行本の出版時に、多くの読者が思ったことでもある。王求の周囲には、魔女やら四足の獣やら謎の男やらと、得体の知れないものがチラチラと登場する。
 それまでは「パズルのピースがピタッとハマる」感じだったのに、この得体の知れないもののために、この作品は何となく「不安定な感じ」なのだ。インタビューなどで著者自身が、この作品から意図的に変えた、という主旨のことをお話になってもいる。この文庫本では、そこをセールスポイントとしたらしい。

 そうした出版サイドの思惑に反することになるが、私は本書は単行本と比較して「それまでの伊坂作品」らしくなったと感じた。それを確かめるために、本書を読んだ後に、突き合わせるように単行本を再読してみた。それで主には、シェイクスピアの「マクベス」に関する話題が追加されていることが分かった(そのために私は「マクベス」まで読み直してしまった)。魔女は「マクベス」にも登場する。これで魔女の得体が少し知れたので、不安定感がぐっと下がったようだ。

 また「文庫版あとがき」で著者が、「もう少し分かりやすく」と考えた、と書かれているが、そのために「マクベス」以外にも、実に実に細かい改稿がされている。伏線や気の効いたセリフなども盛り込まれた。まさに「それまでの伊坂作品」のように。私は、この文庫版の方が好きだし、おススメもする(☆も3つから4つに増やした)。

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夜の国のクーパー

著 者:伊坂幸太郎
出版社:東京創元社
出版日:2012年5月30日 初版
評 価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの最新刊。書き下ろし長編は本書が10作目、「マリアビートル」以来で1年半あまり。

 主人公は「私」と、猫のトム。「私」は公務員で、妻の浮気が発覚して居心地が悪くなった家を出て、釣りに出かけた船が時化にあって、どこか分からない場所に流れ着いたらしい。目が覚めたらそこにいた、そして目の前(というか胸の上に)いた、猫のトムが話しかけてきた。本書の大部分は、こうしてトムが「私」に話したトムの国の物語。

 「トムの国」と言っても猫の国ではない。人間の国王が居る人間の国で、猫は人間とつかず離れず「猫らしい」自由な暮らしをしている。まぁ、私たちの世界と同じように。ただ違うのは、この国の猫は人間の言葉が分かる(私たちの世界の猫も分かるのかもしれないけれど)。どこへでも怪しまれずに入り込めるので、人間たちのいざこざや人間関係なども知っていて、けっこうな「事情通」なのだ。

 トムの国は8年間続いた隣国「鉄国」との戦争に敗れ、国王が居るこの街に、鉄国の兵士たちが統治のためやってきた。鉄国の兵長は、どうやら冷酷無比な人物で、有無を言わさずに国王を射殺し、街の人々には「外出禁止」を言い渡す。「必要なものは奪われ、必要でないものも奪われる..戦争に負けるとはそういうことらしい」という、長老の言葉が人々に重くのしかかる。

 クーパーとは杉の木の怪物のことで、トムの国では、クーパーと闘う兵士のことが、半ば伝説的な物語になっている。クーパーの話と、鉄国の兵士に統治された街の話と、「私」の話の3つが縒り合される時が、この物語のクライマックス。

 帯には「渾身の傑作」とあるのだけれど、私はちょっと物足りなく感じた。伊坂さんは以前から「抗いようのない巨大な力」を描き、テーマはシリアスなのに、物語全体が重苦しくならない。どこかカラッとした雰囲気と可笑しさを感じる。「戦争に負けた国」を描いた本書もそれは同じで、その点はとても良かったのだけれど。

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PK

著 者:伊坂幸太郎
出版社:講談社
出版日:2012年3月7日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

  「伊坂さん、ありがとう」 この本は、私が「読みたい」と常々思っていたタイプの「伊坂作品」だった。著者が「ゴールデンスランバー」以降、それまでの「伊坂幸太郎らしさ」を、敢えて崩していることは周知のことだ。ただ、例えば「マリアビートル」のように、時々「らしい作品」を発表してくれる。本書もそんな作品。

 「PK」「超人」「密使」のそれぞれ70ページほどの3つの中編が収録されている。それぞれ独立した物語なのだけれど、登場人物やエピソードに共通のものがあり、緩やかにつながっている。「目に見えない巨大な力にひとりの人間が試される」というテーマも共通している。

 表題作のタイトルの「PK」は、サッカーの「ペナルティーキック」のこと。ワールドカップ予選で、日本のエースが蹴ったPKにまつわる謎。その謎に関係する幾つかの物語が、入れ替わり立ち替わりしながら進む。そして明らかになる驚きの事実、技ありの結末。

 巧みな伏線が著者の作品の人気の理由の1つだと私は思う。それに対して、著者は「文藝別冊[総特集]伊坂幸太郎」で、「物語の風呂敷を敢えて畳まないことにチャレンジしている」とおっしゃっている。その結果が、この記事の冒頭に書いた「伊坂幸太郎らしさを敢えて崩す」ことになっているのだけれど、本書は結構きっちりと風呂敷が畳まれている。

 また「サンデー毎日(2012.4.15)」に著者のインタビュー記事が載っていた。表紙に描かれたドミノの絵について、本書は「うまく倒れないドミノを描いてみたつもりです」と答えている。なるほど。

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仙台ぐらし

 

著 者:伊坂幸太郎
出版社:荒蝦夷
出版日:2012年2月18日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 今日は、あの震災からちょうど1年。昼間に行ったスーパーでは2時46分に黙とうした、新聞やテレビではたくさんの特集が組まれている。しばらくは、「あの日」を思い出す日になるのだろう。この本が「震災の本」としてひとくくりにされることを、著者は恐れていることを断った上で、敢えて紹介すると、本書では著者が、震災とその後についてその心の内を語っている。

 「仙台学」という雑誌に、2005年からおおむね半年に1度の割合で、2010年まで連載されたものを中心に15本のエッセイと、「ブックモビール」という書き下ろし短編を収録。著者は、仙台の街の喫茶店を転々と場所を変えて、その一隅で小説を書いている。つまり、行動範囲は広くないながらも、毎日のように街に出ているわけだ。

 エッセイの多くは、そうした時に街で出会った人や、その時感じたことを書いている。そこには、著者の観察眼の鋭さや優しさ、そして微笑ましいほど心配性で自省的な性格が表れている。「あの」と声をかけられると、「この人は本を読んでくれているんだな」と思ってしまい、そうでなかった時に赤面する著者が、私はとても好きだ。

 さて、震災について。著者は震災当日からの1カ月ぐらいの出来事や、感じたことを書いている。震災の後は多くの人が「自分には何ができるのだろう」と自問した。何らかの意見や態度を表明しなくてはいけないような気もした。作家という立場の著者は、そうした気持ちをより強く抱いたようだ。

 生活は落ち着きを取り戻しても、元通りになったわけではない。著者も「小説を書く」ということの意義や意味が分からないままらしい。意義や意味など分からなくても良い、著者が描く物語を読みたいと思う読者がいる、それで十分だ。著者もそれに気付いてはいるようで、安心した。

 Keep going, and keep doing what you’re doing…..keep dancing. 著者の友人に海外から届いたメールにあった言葉だそうだ。「自分には何ができるのだろう」という自問への1つの答えが、ここに書いてある。

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モダンタイムス(上)(下)

著 者:伊坂幸太郎
出版社:講談社
出版日:2011年10月14日 第1刷発行 10月21日 第2刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本書は、3年前に出版された単行本を文庫化したもの。単行本は2年半前に読んだ(その時のレビュー記事はこちら)。文庫化に際して行われた著者のインタビュー「文庫版「モダンタイムス」の秘密」を読み、大幅な改稿が行われていること、物語の「真相」を変えていること、著者は改稿でベストの形になったと確信していることを知り、文庫版も読んでみることにした。

 「大幅な改稿」ではあるけれども、物語のあらすじは変わらない。主人公はシステムエンジニアの渡辺。物語の冒頭は、渡辺が拷問を受けるシーン。その拷問の影には他人が羨む美人の妻。本書は初出が漫画雑誌への連載なので、恐らくその当時のままに、初っ端から突っ走り気味に始まる。
 その後の、先輩エンジニアの失踪、その先輩が残したヒントを基にした謎解き、渡辺自身が被った暴漢の襲撃、謎の団体である「安藤商会」との接触などの様々なエピソードも、ほぼ単行本と同じように積み重ねられる

 本書自体の感想の前に、単行本との相違について2つ。(支障のないように、上に紹介したインタビューの範囲で)1つめは「アリは賢くない。アリのコロニーは賢い」という言葉が、文庫版では強調されて、物語のキーワードになっていること。単行本でもアリのコロニーへの言及はあるのだけれど、文庫版のような強調はなかった。
 2つめは、過去のある事件の「真相」が変わっていること。渡辺が巻き込まれる形で近づいていくその事件の「真相」が、単行本と文庫版では違っている。私の感触では、この変更によって「真相」が、明らかになるどころか、より混迷を深めたと思う。私が見聞きした中に「単行本であやふやだった真相が、文庫版では明らかになっている」という捉え方をしている人がいるけれど、それは違っている。

 この2つの相違を踏まえて、本書の感想を言うと「まぁまぁかな」だ。勿体付けておいてあやふやな表現で申し訳ない。けれど「ベストの形になった」と言われて膨らんだ期待が、しぼんて腑抜けた感想になってしまった。
 変更点の1の「アリのコロニー」はとても良かった。変更点の2の「真相の変更」は功罪半ばした。「混迷を深めた」こと自体は、著者がテーマとして描く「社会を覆う巨大なシステム」の底知れなさが増して良かったのだけれど、その変更を物語に馴染ませるための無理を、あちこちで感じた。

 単行本では多くの謎が残っていて、それに少なからず不満を感じた。だから、文庫化で変更されたという「真相」を、(「過去の事件の」ではなく)この物語の「真相」のことだと勘違いしていたこともあって、その謎が明らかになって、パズルがピッタリはまるような「スッキリ」を思って、期待を膨らませてしまったのだ。
 つまり私自身が、「単行本であやふやだった真相が、文庫版では明らかになっている」という捉え方をしたクチだったわけだ。まぁ、これは全面的に私の勝手な思い込みだったわけだけれども。

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文藝別冊 [総特集]伊坂幸太郎

出版社:河出書房新社
出版日:2010年11月30日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 まるごと1冊、伊坂幸太郎さんを特集した240ページ弱のムック誌。「文藝」という河出書房新社の季刊文芸誌の別冊。伊坂さんへのロングインタビュー、ミュージシャンの斉藤和義さん、映画監督の中村義洋さんとの対談、伊坂作品に関するエッセイや論考、作品ガイド、そして伊坂さんが大学1年生の時に生まれて初めて完成させた小説のプロットを使った、書き下ろし短編などが収録されている。言わば「伊坂幸太郎の詰め合わせ福袋」。

 私がこういう雑誌に期待するのは、作家さん自身の声と、作品のトリビア的なものを少し。だからロングインタビューや対談が興味深かった。伊坂さんがある作品についての想いを語り、その作品に対する読者の反応を紹介する。反応の9割方は伊坂さんの予想とは違ったらしい。その予想外の反応の多くは、私の感想そのものだった。ただし「ゴールデンスランバー」のくだりで「何でわかってくれないんだよ!」というセリフには、私は「わかってましたよ」と言いたい(笑)。

 もう一つ、すごく面白かった記事がある。それは、巻末に資料編のように付いている「伊坂幸太郎全作品2000⇒2010」。これまでに出版された20作品の「担当編集者の裏話」が紹介されている。例えば「初稿版にあってカットされた忘れられないエピソード」があるという話。あることだけが明らかになっていて、その内容までは分からない。知りたい。どうしても知りたい!

 そもそも不思議なことに、伊坂さんの作品は数多く出ているけれど、本書の出版社である河出書房新社からは出ていない。裏話を明かしている編集者は全員が他の出版社の人なのだ。まぁ、それぞれの出版社が等距離にあるわけで、だからこそこの企画が実現したのかもしれない。けれど、それぞれの編集者の言葉からは、ヨイショを割り引いても、伊坂さんとの仕事を楽しんだ雰囲気が伝わってくる。その雰囲気が他の出版社が出すこの本への協力につながったのだと思う。

 この後は、「ちょっと気になったこと」を書いています。お付き合いただける方はどうぞ

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(さらに…)

マリアビートル

著 者:伊坂幸太郎
出版社:角川書店
出版日:2010年9月24日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの最新刊。「あぁ、今回はこの路線か」と扉のページをめくってすぐに分かった。登場人物の一人の木村という字の印影が冒頭にあるからだ。これは「グラスホッパー」の時と同じ。この印影は著者からのシグナルに違いない。「殺し屋がたくさん出てきます。そしてたくさん死にます。」というシグナル。

 印影に対する私の解釈はピンポイントでヒットしたようで、本書が描くのは「グラスホッパー」から6年後の物語。あの時、一連の騒動の末に闇社会の大立者が死に、多くの殺し屋が死んだ。しかし、殺し屋たちの「業界」は存続し、今は新たな実力者が君臨しているらしい。今回も登場人物のほとんどは「業界」の中の連中だ。

 舞台は東北新幹線「はやて」の中。朝の9時に東京駅をでて盛岡に着くまでの2時間半の物語。主人公は特になく、2人組みの殺し屋「蜜柑」と「檸檬」、メチャクチャ運が悪い殺し屋「七尾」、かつて物騒な仕事をしていた「木村」、そして中学生の「王子」らの視点の物語がクルクルと順番に語られる。
 「七尾」の今回の仕事は、デッキの荷物置き場にあるトランクを持って上野で降りる、それだけのことだった。ところが、ある男にジャマをされて上野駅で降りることができず、そのうちトランクを失くし、トランクの持ち主である「蜜柑」と「檸檬」に狙われ..と運のなさが全開。途中でそのつもりもないのに人を殺してしまうし..

 その後は、登場人物入り乱れてのドタバタが展開される。もちろん著者の作品だから、伏線やアッと驚く展開で楽しませてくれる。「殺し屋」の話で人がたくさん死ぬのに、どこかしら軽いノリなのは、著者の周到な準備のせいだろう。「七尾」の運のなさと自信のなさは笑えるし、「檸檬」が「機関車トーマス」の大ファンなのも愛嬌がある。
 ただし「王子」の部分は、愛嬌も救いもなく異質だった。どす黒く滞った悪意が感じられて、嫌悪感さえ持った。著者は以前「バランスを崩したい」とおっしゃっていたが、本書ではここがそうなのだろう。読み終わってしばらく経った今は、あの時の嫌悪感が随分薄らいでいるのに少しホッとする。

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「バイバイ、ブラックバード」をより楽しむために

編  者:ポスタル・ノベル
出版社:双葉社
出版日:2010年7月4日 第1刷発行
評 価:☆☆(説明)

 先日の「バイバイ、ブラックバード」のレビューの終わりに書いたように、「私が気が付かないアッと驚く仕掛けがあるのでは」と思った私は、本書の存在を知って矢も盾もたまらず、速攻で買ってしまった。100ページしかなく、しかも後ろ半分は「バイバイ、ブラックバード」の下敷きとなった、太宰治の「グッド・バイ」が掲載されている。

 実は「グッド・バイ」は青空文庫で読んでいたので、私にとって本書の価値は前半40ページ余りにしかない。30ページが伊坂幸太郎さんへのインタービュー、10ページ余りがフリーライターの門賀美央子さんによる「解説」。正直に言って、わずか630円と言えども一瞬買うのを躊躇した。
 伊坂さんは、自分の作品について「求められれば、抗うことも隠すこともなく、丁寧に誠実に話をする」作家さんだと思う。雑誌やサイトなどのインタビュー記事の多さからそうと分かる。私は、「いつもは雑誌の一部分であったり、サイトに無料で公開しているインタビューを、今回は本にして630円で売ることにしたのか」と受け止めてしまった。

 内容は悪くない。作家自らによる創作ウラ話は読者を楽しませるし、「解説」は「グッド・バイ」に字数を割き過ぎているように思うが、それも「バイバイ、ブラックバード」を楽しむ助けにはなる。悪いことは何もないのだけれど、上に書いたことと、「私が期待したものはここにはなかった」という身勝手な理由から、私は楽しめなかった。
 ちょっと視点を変えると、出版社の「企画」通りだったとも言える。そもそも1話につき抽選で50人だけに届く「ゆうびん小説」という「企画」から始まっているのだ。終了後にまとめて書き下ろしの1話を加えて書籍化し、同時に「~より楽しむために」なんて本を出す「企画」。マーケティングとしては、ストーリーが整っていて良くできている。

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バイバイ、ブラックバード

著 者:伊坂幸太郎
出版社:双葉社
出版日:2010年7月4日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本書はちょっと特殊な作品だ。裏表紙に「Postal Novel」と書いてあるが、元々は出版社の企画で、抽選で1話につき50人、5話で合計250人に1話ずつ郵送された「ゆうびん小説」。書き下ろしの第6話を加えて書籍化された。さらに、太宰治の絶筆となった未完の新聞小説「グッド・バイ」を下敷きとした作品でもある。

 主人公は星野一彦30歳。借金のため「バス」に乗せて連れて行かれることになった。その日までの間の監視役として一彦に張り付いたのが繭美。身長180cm、体重180kgの巨女だ。身体がデカいだけでなく態度もデカい、おまけにとんでもなく意地悪で下品。
 繭美に比べると一彦は至って平凡、ハンサムでもブサイクでもない。でもその暮らしには1つは特徴がある。なぜか女性に好感を持たれるらしく、現在5人の女性と交際中なのだ。物語は、「バス」に乗せられる前に、一彦が「繭美と結婚することになった」と言って、別れ話をするためにそれぞれの女性を訪ねる一部始終を描く。1人と別れるのに1話、5人で5話、書き下ろしの第6話で締める、という構成だ。

 それぞれの物語は結構面白い。それぞれの女性との出会いも描かれていて、これがどれも伊坂さんらしいシャレ具合だ。会話の端々にもクスッと笑える。「白新高校だ」とか「じゃあ、教えて、パパ」とか「座るに決まってんだろうが!」とか。
 にも関わらず「何か足りない」というのが私の感想。1話1話のつながりが感じられないのは「ゆうびん小説」だから仕方ないのかも。それを補う第6話だと期待したのだけれど..もしかしたら私が気が付かないだけで、アッと驚く仕掛けがどこかにあるのかもしれないけれど。

と思っていたら、「「バイバイ、ブラックバード」をより楽しむために 」なんて本があるではないか!

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