31.伊坂幸太郎

蝦蟇倉市事件1

著 者:伊坂幸太郎、大山誠一郎、伯方雪日、福田栄一、道尾秀介
出版社:東京創元社
出版日:2010年1月29日 初版
評 価:☆☆☆(説明)

 1970年代生まれの作家陣による珠玉の競作アンソロジー第1弾。伊坂幸太郎、道尾秀介、大山誠一郎、伯方雪日、福田栄一の5人が筆を執っている。すでに第2弾 も出ていて、そちらは6人の作家さんが名を連ねる。合わせて11人の個性が楽しめる企画だ。
 企画と言えば、本書はただ5人の短編を1冊にしただけではない。「蝦蟇倉市」という架空の街で起きた事件という共通の設定で、それぞれが自由に描いた書き下ろし。ご丁寧に蝦蟇倉市の地図まであって、面白そうな企画なのだ。

 読んでいて「これは楽しんで書いてるな」という感じがした。例えば、他の作品の登場人物や事件がちょっとだけ顔を出す、といった伊坂作品の作品間リンクのような遊びがいい感じで含まれている。「楽しんでるな」という私の感じ方は外れではない証拠に、巻末の執筆者コメントには、「仲間に入れてもらうために急いで書きました」とか、「お祭りみたいだとわくわくした」という言葉が並んでいる。

 伊坂さん、道尾さんは単行本を読んだことがある、福田さんは「Re-Born はじまりの一歩」というアンソロジーで短編を読んだ、その他の方の作品は初めてだ。そのためだけではないと思うが、面白かったのはこの3人の作品。中では福田さんの「大黒天」が、短い物語なのによく練られた作品だった。
 率直に言って、犯罪の動機だとか方法だとかに不自然さは否めない。本格的なミステリファンには評価されないだろう。しかし、プロの作家さんの作品に対して失礼な言い草だけれど、これは「お祭り」だと思えばいいのかも。街のお祭りの出し物にちょっとアラが見えても、つべこべ言わずに楽しんだ方が良いように。

 道尾さんの作品「弓投げの崖をみてはいけない」は、叙述トリックたっぷりの「らしい作品(道尾作品はまだそんなに読んでないんですが)」だった。また、わざと謎が残してあって、執筆者コメントにそのヒントがある。ただ、初版には誤植があって、この謎が台無しになっている。これから読まれる方はご注意を。
出版社によるお詫びと訂正のページ http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488017354/

 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

伊坂幸太郎さん、森見登美彦さん、Web文芸誌に執筆

 「ニュース記事を運ぶジェイムズ鉄道」のジェイムズ鉄道さんからトラックバックで、とても有用な情報をいただきました。ジェイムズ鉄道さんに感謝。

 出版社のイースト・プレスが、Amazon.co.jpと連動したWeb文芸誌「マトグロッソ(MATOGROSSO)」を、5月24日に公開しました。サイトの紹介文によると「何かに気がついた時、また何かを感じ取ったとき、それを言葉にして伝えたくなる。そんな書き手の方たちにのびのびと筆をふるっていただく場」として誕生したとのことです。

 現在は「読みもの」と「今日、なに読んだ?」の2本建て。「読みもの」は、森見登美彦さん、内田樹さん、萩尾望都さんらの連載などが読めます。「今日、なに読んだ?」は、伊坂幸太郎さん、高橋源一郎さんの読書/音楽日記です。なんと豪華な顔ぶれでしょう。ネットの楽しみがまた1つ増えました。

※「マトグロッソ」はAmazon.co.jpの「文芸・評論」「和書」ストアなどのバナーからアクセスできます。

オー!ファーザー

著 者:伊坂幸太郎
出版社:新潮社
出版日:2010年3月25日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は2006年から2007年にかけて、いくつかの地方新聞に掲載された、いわゆる「新聞小説」に加筆修正したもの。発表の時期的には「ゴールデンスランバー」の直前。著者自身のあとがきによると、「あまり好きな表現ではない」と断りながら、「ゴールデンスランバー」以降が第二期と呼べるかもしれない、とある。つまり本書は、著者の第一期最後の作品なのだ。
 このブログで度々触れているが、気の利いた会話や愛すべきキャラクター、そして巧みな伏線が著者の作品の人気の理由だと思う。そしてそれは著者がいう第一期の作品に色濃く出ていた。当然、第一期最後の作品である本書にもその特長が強く出ている。

 主人公は高校2年生男子の由紀夫。成績は優秀、バスケの選手でスポーツ万能、どうやら腕っぷしも強いらしい。女の子の扱いも上手くて、まるで昔の少女マンガの「あこがれの先輩」みたいな人物造形だけれど、なぜかイヤミがない。読んでいて不思議なことに「普通の男の子」に感じられる。
 普通でないのは由紀夫の家族だ。彼には父親が4人いる。大学教授の悟、中学の熱血体育教師の勲、ギャンブラーの鷹、元ホストの葵、の4人だ。詳しい事情は省いて、とにかくこの4人の父親と母親と由紀夫の6人で暮らしている。
 子は親に似ると言われるが、由紀夫はこの4人の父親のそれぞれに似たのだ。その結果が上に書いた人物造形なのだ。イヤミがないのは、もったいぶったところのない鷹に似たからだろうか。いや、もったいぶったところがないのは4人ともかもしれない。

 正直に言って読み終わった直後は、すごく面白いとは思わなかった。私が大好きな「伏線」は、方々に配置してあって堪能したけれど、もう少し何かが欲しかった。リアリティには欠けるかもしれないが、「面白ければOK」だと思う私はそれは求めてはいない。強いて言えば期待が大きすぎたかも。出会う人、横を通る車、それら全部を「伏線かもしれない」と思って記憶しておこうとしたのがいけなかった。
 読み終わってしばらくして本書を眺め直すと、これはやっぱり面白かった。そしてこれは理想の父親を描いた作品だった。由紀夫は、優しく素直な性格故に、大小さまざまな事件に巻き込まれるのだけれど、心強いことに彼には頼りになる父親が、それも4人もいる。(いや、4人いてやっと「理想の父親」が完成ともいえる)。
 「オー!ファーザー」には、いろいろなニュアンスが込められているが、ピンチの時に現れた父親への「あぁ父さん」という安堵と喜びの言葉でもある。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
 「伊坂幸太郎」カテゴリー

 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(~2007年)」
 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(2008年~)」
 (あなたの好きな伊坂作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

Re-born はじまりの一歩

著 者:伊坂幸太郎、瀬尾まいこ、豊島ミホ、中島京子ほか
出版社:実業之日本社
出版日:2008年3月25日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 先日の「Story Seller2」に続いてのアンソロジー。こちらにも伊坂幸太郎さんの短編が収録されている。その他には、瀬尾まいこ、豊島ミホ、中島京子、平山瑞穂、福田栄一、宮下奈都の6人の作家さんが名を連ねている。不勉強のため、中島京子さん以外の作家さんはお名前も知らなかった。
 タイトルの「Re-born」について。英語の「reborn」は「生まれ変わった」「再生した」という意味の形容詞。収録された7編の作品はどれも、再生・再出発の物語だ。サブタイトルの「はじまりの一歩」は、今まさに再生・再出発の瞬間であることを表している。読者は、それぞれの作品の終わりにその瞬間に立ち会う、という趣向だ。

 宮下さんの作品「よろこびの歌」と、瀬尾さんの作品「ゴーストライター」、豊島さんの作品「瞬間、金色」は高校生の物語。才能に恵まれていても平凡でも、裕福でも貧しくても、ハイティーンは悩み多い年頃だ。人生ではじめての挫折を経験するのもこの頃だろう。若い世代の悩みや挫折からの「再生・回復の"reborn"」の物語。
 それに対して、福田さんの作品「あの日の二十メートル」と、平山さんの作品「会ったことがない女」は、人生の終盤を迎えた男性の物語。それなりに幸せな人生を送ってきたけれど、若いころに悔いが残る出来事がある。こちらは人生を全うするための「やり直しの"reborn"」。
 伊坂さんの作品「残り全部バケーション」と、中島さんの作品「コワーリョフの鼻」は、夫婦についての物語。一緒に暮らしていても心に距離や壁ができる。関係を解消するにしても続けるにしても、このままではいられない、その時のリセット。人生半ばの物語は「再出発の"reborn"」

 収録されている7作品のうちの5作品が、「月刊ジェイ・ノベル」というエンタテイメント作品の文芸誌に掲載された作品。掲載作品から「reborn」というテーマにあったものをピックアップしたのだろう。まぁ、よく言えば落ち着いた、悪く言えば平板な感じがする作品が多いのだが、「reborn」をテーマにした編集のアイデア勝ちだ。収録作品を見渡すとわかるように、どの世代も「reborn」を望む気持ちを心のどこかに抱えているのだから。

 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

Story Seller2(ストーリーセラー2)

編  者:新潮社ストーリーセラー編集部
出版社:新潮社
出版日:2010年2月1日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本書は、月刊の文芸誌の「小説新潮」2009年5月号の別冊として発売された雑誌を文庫化したもの。「Story Seller」という本がちょうど1年前に出ているので、これから毎年こうした形のアンソロジーが出るのだろうか。だとしたら、それはとても楽しみなことだ。
 今回は、沢木耕太郎さん、伊坂幸太郎さん、近藤史恵さん、有川浩さん、米澤穂信さん、佐藤友哉さん、本多孝好さんの7人の書き下ろし短編が収録されている。伊坂さん、近藤さん、有川さんは、大好きな作家さん。裏表紙の紹介文に「日本作家界のドリームチームが再び競演」とあるが、缶コーヒーのコマーシャルのように「贅沢だぁ!」と言いたい気分だ。

 伊坂さんの作品「合コンの話」は、男3人女3人の社会人の合コンが舞台。何度か主人公や視点が代わりながら、六者六様に秘められた物語が徐々に明らかにされる。「合コンは3対3がベスト」とか「おしぼりサイン」とかの豆知識を交えながらの展開や会話が気持ちいい。ラストのサプライズも含めて「私が読みたい伊坂作品」だった。
 近藤さんの作品「レミング」は、「サクリファイス」の前日譚で、「Story Seller」に収録されていた「プロトンの中の孤独」の翌年ぐらいだろうか。この作品の中のセリフ「おまえにはわかるのか?一生ゴールを目指さずに走り続ける選手の気持ちが」が、この一連の自転車ロードレースを題材にした物語のテーマだ。そしてそこにドラマが起きる。
 有川さんの作品「ヒトモドキ」。もし小学校六年生の女の子に、倹約家で人目をはばからない叔母がいて、突然同居することになったら?という物語。伊坂さんの作品とは違って、これは「できれば読みたくない有川作品」だった。胸がむかつくというか、何とも気が滅入るというか、読み終わってしばし沈黙してしまった。主人公の家族の結束が固いことが救いだったけれど。

 他の4人の作家さんの話もそれなりに面白かった。沢木さんの作品「マリーとメアリー」は小説ではなくてエッセイ。

 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 にほんブログ村「有川浩」ブログコミュニティへ
にほんブログ村「近藤史恵」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さん、有川浩さん、近藤史恵さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

SOSの猿

著 者:伊坂幸太郎
出版社:中央公論新社
出版日:2009年11月25日 初版発行 
評 価:☆☆☆(説明)

 「伏線を回収して最後に全部かっちり収まる、バランスの良いもの」。これは、本書の出版に当たって出版社の特設ホームページに掲載されたインタービューで語った、著者自身が持っている自らの作品のイメージだ。付け加えるとすれば「気の利いた会話や、突き抜けた愛すべきキャラクター」などがあげられるが、私もその通りだと思うし、そのような作品を読みたいと思う。
 しかし著者は、同じインタビューの中で「どこか破綻しているもの、ちゃんと解決しない部分があったり、不可解な部分があるほうが好きなんですよ」と言い、「あるキング」からは意図的に変えて、バランスの崩し方を手探りしていたらしい。そして本書は「最近のやりたいことが一番よくできた「理想型」」という評価をしている。

 その本書について。物語は主人公の遠藤が、知り合いの女性からひきこもり中の息子の眞人のことで、相談というかお願いを受けるところから始まる。女性は遠藤のことを「訪問カウンセラー」だと聞いてきたようだが、彼はイタリアで「悪魔祓い(エクソシスト)」のトレーニングを受け、帰国後も依頼に応じてそうしたことをやっているのだった。
 「エクソシスト」がどの程度本当に「悪魔」を祓う仕事なのかはわからないが、「悪魔が憑いた」としか言いようのない状況を見せる人々を救う仕事をしている人は実際にいるのだそうだ。遠藤はそうしたエクソシストの一人に付いてアシスタントをしていた。
 精神的な疾患ならば、それを治すのは専門医の仕事であって、遠藤の分野ではない。彼もそう思いながらも、断ることができずに女性の家を訪ねる。そして..めまいに似た感覚や遠藤が見た眞人の様子は、これが「遠藤の分野」のことであることを示していた..。
 この遠藤の視点の「私の話」と、「猿の話」というシステム開発の品質管理を仕事とする五十嵐の話が、交互に語られる。そして株の誤発注や、監禁虐待事件、夜のコンビニの駐車場で合唱するコーラス隊などがストーリーに絡む。この辺りで「気の利いた会話や~」は健在で、これまでと変わりなく味わえる。

 話は戻るが、著者が「あるキング」からは意図的に変えようとしたと聞けば、大方の伊坂ファンは「あぁやっぱり」と思うだろう。そのぐらい「あるキング」はそれまでの作品と違っていた。確かにバランスが崩れていた。本書はそれほどでもないが少し据わりが悪い。
 まぁ著者の意図だから当然だし、私も嫌いではないのでお付き合いさせていただく。しかし、どうか程良いバランスの崩し方に留まって欲しい。そして「気の利いた会話や~」まで失うようなことのないようにして欲しい。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
 「伊坂幸太郎」カテゴリー

 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(~2007年)」
 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(2008年~)」
 (あなたの好きな伊坂作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

砂漠

著 者:伊坂幸太郎
出版社:実業之日本社
出版日:2005年12月15日 初版第1刷 
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の2005年の描き下ろし作品。2008年に同じ出版社から「Jノベル・コレクション」というレーベルで、ソフトカバーの単行本も出ている。大学生を主人公とした青春小説。大学生が主人公ということでは「アヒルと鴨とコインロッカー」もそうだが、本書の方が「青春」成分が多く配合されている。

 主人公は北村、仙台の国立大学に入学したばかりの男子大学生。物語の始まりは、4月第一週のクラスコンパだ。そこで、鳥井(男)、南(女)、東堂(女)、西嶋(男)の4人と出会う。「俺、鳥井っていうんだ」とか「練馬区から来た、南です」なんて自己紹介なんかしたりして、冒頭から「青春」の甘酸っぱい香りがする。
 そして、鳥井のマンションに押しかけてって麻雀はするわ、夏にはこの男3女2で海に出かけるわ、男は合コンに余念がないわ、片思いや告白があるわで、「青春」が加速する。あとは夕日に向かって叫ぶシーンがあれば..と思うが、そこまで行くと冗談になってしまう。
 その手前のギリギリのセンで留まることで、「砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」というセリフにもリアリティが感じられる。もちろん「砂漠に雪を降らす」リアリティではない。「その気になれば何でもできる」って、あの頃は思えるんだよなぁ、というリアリティだ。

 これでは、くっついたり離れたりの恋愛系ライトノベルのようだが、著者の作品だからもちろんこれで終わりではない。犯罪組織との確執を軸としたミステリーあり、著者の持ち味の伏線あり、個性が際立つキャラクターもありで、伊坂ワールドが結晶したような作品だ。伊坂ファンにもそうでない人にもオススメ。
 そうそう、著者の作品には作品間のリンクがあることで有名だが、本書にもチラっと「チルドレン」の「あの人」が出てくる。そして「チルドレン」を読み返すと、この本の「この人」がちゃんと出ている。つまり相互リンク。著者は、チルドレンの時点でこのリンクを仕込んだということなんだろうか?

 本書で、これまでに単行本として出版されたアンソロジー以外の著者の作品は、すべて読んだことになりました。コンプリート達成!
 「伊坂幸太郎」カテゴリー

 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(~2007年)」
 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(2008年~)」
 (あなたの好きな伊坂作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

陽気なギャングの日常と襲撃

著 者:伊坂幸太郎
出版社:祥伝社
出版日:2006年5月20日 初版第1刷発行 6月10日 第6刷発行 
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「陽気なギャングが地球を回す」の続編。あの銀行強盗の4人組が帰ってきた。演説(内容はまったくない)の達人 響野、人間ウソ発見器 成瀬、動物を愛する天才スリ 久遠、精密体内時計を持つ天才ドライバー 雪子。

 今回の物語は、成瀬の職場である市役所から始まる。定年退職したばかりの男性から「最近、町に変な奴がうろついている」という訴えが持ち込まれる。これが発端となって4人は、大がかりな犯罪組織と事件に巻き込まれる。
 全部で4章からなる内の第1章は、4人がそれぞれ別々の事件に遭遇して、持ち前の才能を生かして一応の解決を見る。「あぁ今回はこういう趣向なのね」と、短編集なのかと思っていた。「それはそれで面白そうじゃん」とも思った。
 ところが、第1章は前ふりで、第2章以降に起きる様々な事件に、あるものは緊密に別のものは緩やかに絡んでくる。響野が経営する喫茶店「ロマン」で交わされる、空疎で上っすべりな会話も、後になって意味を持ってくる。巧みな伏線が特長の伊坂作品の魅力が今回も生きている。

 最初私が短編集だと思ったのもムリはなく、第1章は2004年から2005年にかけて月刊誌「小説NON」に載った4つの短編を改稿したものだそうだ。以降の描き下ろし部分につなげるために「大掛かりな」改稿をしたそうなので、月刊誌の読者も第1章から読んだ方がいい。もっと言えば、「陽気なギャングが地球を回す」のエピソードが関連する部分もあるので、1作目から順番に読んだ方がいいと思う。

 この後は書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(~2007年)」
 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(2008年~)」
 (あなたの好きな伊坂作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

(さらに…)

あるキング

著 者:伊坂幸太郎
出版社:徳間書店
出版日:2009年8月31日 第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「誰も読んだことのないような伝記を書いてみました。」と著者が言うように、まず本書は伝記だ。あるホームランバッターになったプロ野球選手の生涯が綴られている。「誰も読んだことのない」についても、まぁそうだろうと思う。主人公の山田王求の生涯は、何かが少しズレている。

 王求の両親は、熱烈な仙醍キングスのファン。ちなみに仙醍キングスは万年最下位の弱小プロ野球チーム。王求が生まれる時に母は、破水して病院に行った後も、陣痛室に移るその時までテレビで試合を見ていた。そして残る父には「あなたはここで試合の結末を見届けて」と言った。
 そして、生まれてきた子どもに「王(キングス)が求める」という意味で、「王求(おうく)」と名付け、仙醍キングスに入団させるべく王求を育てた。そんな両親の想いが通じたのか、王求は尋常ではない才能と練習によって一流の野球選手に成長していく。

 普通の伝記であれば、細かいエピソードを除けば、これでほとんど全てでネタバレもいいところだ。ところが「誰も読んだことのない」伝記である本書は、生涯を表したストーリーにはそれほどの意味はない。天才野球少年から高校、プロへと進む、生涯の各段階での王求を見る周囲の目線が、物語の核となっている。
 冒頭に「何かが少しズレている」と書いた。王求はズバ抜けて野球が上手いだけなはずなのに、完全に周囲から浮いてしまっている。少しだけ普通じゃない両親や本人の言動の積み重ねと、その結果の野球の才能が、周囲と王求の間に小さなしかし決定的なズレを生じさせているのだ。

 気の利いたセリフや不思議な登場人物、淡々とした主人公など、伊坂作品らしいと言えばそうなのだが、ちょっと雰囲気が違う。陽気で楽しい「白伊坂」と、闇や得体の知れないモノを描く「黒伊坂」がいる、という話を聞いたことがあるけれど、「黒伊坂」がチラチラと顔を出す作品。

 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(~2007年)」
 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(2008年~)」
 (あなたの好きな伊坂作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

死神の精度

著 者:伊坂幸太郎
出版社:文藝春秋
出版日:2008年2月10日 第1刷 3月5日 第3刷
評 価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎作品。2003年から2005年にかけて発表された表題作を含む連作短編が6編収録されている。今回の主人公は「死神」。取り憑かれれば死期が近いという、なんとも不吉な主人公なのだが、著者の手にかかれば「こんなヤツならいてもイイかな?」なんて思ってしまう。

 主人公の死神の名前は千葉。そう死神にも名前があるのだ。仕事をする時の仮の名前なのだが、なぜかみんな市や町の地名になっている。仕事?そう死神にも仕事がある。仕事だけじゃない、監査部とか情報部とかの部署があって、分担して人の死に関する仕事をしている。
 そして千葉は調査部の一員だ。調査部の仕事は、情報部が選抜した人間を調査して、「死」を実行するのが適当かどうかを判断して、結果を監査部に報告することだ。判断はそれぞれの裁量に任されているし、よほどのことが無い限り「可」の報告をすることになっている。やっぱり、彼らが近くに現れたら死を覚悟した方がいいらしい。
 だから彼ら調査部の死神は「死の前触れ」ではあるけれど「死の原因」ではないのだから怨んだって仕方ない。とは言え「こんなヤツなら~」とはとても思えないところだが、なんかイイのだ。千葉には悪意が全くない(「助けてあげよう」とかいう優しい気持ちもないけれど)ところがイイのかも。頼まれたことは、やってあげてしまうところかもしれない。

 伊坂作品の魅力は、シャレたセリフと登場人物にあるが、本書も同じ。千葉が、仕事をする時には必ず雨が降ると言うと、調査対象の女性が「雨男なんですね」と答える。千葉がそれに返した言葉は..。彼の素朴な疑問の数々には思わずニヤリ。登場人物でいうと、最終話の美容院のおばあちゃんがイイ。年をとると何でも見通せるようになるらしい。伊坂ファンへのサービスエピソードもある。

 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(~2007年)」
 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(2008年~)」
 (あなたの好きな伊坂作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)