ストーリー・セラー

書影

著 者:有川浩
出版社:新潮社
出版日:2010年8月20日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 アンソロジーの「Story Seller」に収録されていた短編「ストーリー・セラー」を「Side:A」として、新たに書き下ろした「Side:B」を加えて単行本化したもの。Side:AもBも、女性の小説家と、その一番の理解者であり、読者でもある夫との揺るぎない愛と哀しみの物語。

 以前、アンソロジーの「Story Seller」のレビューで、「ストーリー・セラー」(つまり、本書の「Side:A」)について、「私は好きになれない」として「著者が「悪意」や「悲劇」も描けることは分かっているが、読後感は大事にしてほしい。」と書いた。その「読後感」は「Side:B」の冒頭で救われた。
 救われはしたが「Side:B」も含めて、依然としてこの作品は、私は好きになれない。理由はいくつかある。一つは、大切な誰かの「死」による感動的な話に、私自身意外なほど抵抗があること。「死」は重要なテーマだとは思うが、感動のために利用しているようでイヤなのだ。

 もう一つは、主人公の小説家の旦那さんを、どうにも持て余してしまうこと。クールでやさしくて、著者の作品の男性の例に漏れず、ここイチバンの時には甘~いセリフを吐ける。言うことないのかもしれないんだけれど、こんなに滑らかに口が回る男ってどうなのよ、と口も手も遅い私は思ってしまう。
 また「Side:A」では、「読む側としては」とか「本読みとしての勘」というセリフがいくつもある。本を沢山読んでいる人らしいのだけれど、そういう勝手に何かを代表したり上から見たもの言いをする人は、あまり大した人じゃないんじゃないかと思ったりするのだ。(著者の旦那さんがそういう言い方をするのなら前言撤回します。)

 「著者の旦那さん」に図らずも触れたが、著者の作品に、旦那さんのアドバイスが生かされているのは、「あとがき」を読んでいるファンには周知のことだ。著者が「あとがき」で作品制作の裏話を少し明かしてくれることも。
 その「あとがき」が、本書にはない。このことが、「Side:B」のエンディングとあいまって、読者の気持ちをざわつかせる。

 この後は書評ではなく、新聞に載った有川さんのインタビュー記事について書いています。お付き合いいただける方は、どうぞ

 にほんブログ村「有川浩」ブログコミュニティへ
 (有川浩さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

(さらに…)

あけましておめでとうございます。

 皆さん、あけましておめでとうございます。

 景気がよくなった、先の明るい見通しが見えてきた、という話をついに聞くことなく年が明けてしまいました。そんな中で昨年は100冊以上の本を、ここで紹介することができました。働く場所があること、働きながらも本を読む時間があること、読んだ本の感想をブログに書く余裕があることの幸せを、毎年、年越しに改めて感じています。今年も、この幸せが続くことを祈って止みません。

 昨年は、私がお世話になっている本好きのためのSNS「本カフェ」で、「読書会」が毎月催されて、今まで疎遠だったジャンルや作家さんの本を読む良い機会になりました。同じ本を読んだ感想を聞き、時には意見を交し合うのは、大変良い刺激になりました。

 また、昨年の暮れから「たんぽぽモール」という、女性向けウェブマガジンで、「ブックレビュー・オススメ本」のコラムを書くことになりました。もうしばらくすると第2回のコラムが掲載される予定です。私にとっては新しい試みで、うまく展開するようがんばって行きたいと思っています。

 それでは、今年が、皆さんにとって良い年でありますように。

2010年の「今年読んだ本ランキング」を作りました。

 今年で3回目になりますが、今年読んだ本のランキングを作ってみました。昨年までと同じく小説部門は10位まで、ビジネス・ノンフィクション部門は5位までです。(参考:昨年のランキング

 今年はこのブログでこれまでに109冊の本を紹介することができました。☆の数は、「☆5つ」が2冊、「☆4つ」は40冊、「☆3つ」は63冊、「☆2つ」が4冊です。相変わらず「☆3つ」がかなりの割合を占めますが、「☆3つ」を「可もなく不可もなく」ではなく、「自分としては、まぁ楽しめた(役に立った)。興味のある人はどうぞ」です。つまり、「今年もずいぶん楽しんだなぁ」ということですね。では、ご覧ください。

■小説部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
上と外 / 恩田陸 Amazon
商品ページへ
中米の国のクーデターや、マヤ文明などを取り入れたコメディ。予想外の事件が次々と転がるストーリーに、ホロッとさせる家族愛を織り込んだ娯楽作品。
天地明察 / 冲方丁 Amazon
商品ページへ
正確な暦の採用に生涯をかけた江戸時代の青年の物語。時代小説でありながら、「何者かにならん」ともがく主人公への「羨望」と「共感」を呼び起こす。
キケン / 有川浩 Amazon
商品ページへ
工学系男子が巻き起こす、ぶっ飛んだ危険な騒動の数々が、キラキラした結晶のような輝きを持って語られる。すべての「元男の子」の心を揺さぶる作品。
神去なあなあ日常 / 三浦しをん Amazon
商品ページへ
林業という厳しい現場に放り込まれた18才の青年の奮闘記。登場人物たちが抜群に素敵だ。物語の雰囲気が瑞々しく、山仕事の人びとの暮らしが力強い。
オー!ファーザー / 伊坂幸太郎 Amazon
商品ページへ
主人公の由紀夫には父親が4人?気の利いた会話、愛すべきキャラクター、巧みな伏線。伊坂作品の人気の特長が強くでた、著者が言う第一期最後の作品。
獣の奏者 外伝 刹那 / 上橋菜穂子 Amazon
商品ページへ

名作「獣の奏者」に収めなかった3つの物語。著者が「自分の人生も半ばを過ぎたな」と感じる世代に向けた、静かにしかし一瞬で燃え上がるような恋物語。

戸村飯店青春100連発 / 瀬尾まいこ Amazon
商品ページへ
大阪の下町の中華料理店の、要領が良くていい加減な兄と真面目な弟。吉本新喜劇、アメをくれる近所のおばちゃん。大阪の町が育んだ家族愛の物語。
ペンギン・ハイウェイ / 森見登美彦 Amazon
商品ページへ
腐れ大学生でも京都でもない、著者の新しい引き出しから出てきた物語。クールな小学生のアオヤマくんと、キュートなハマモトさんたちの不思議な体験。
猫を抱いて象と泳ぐ / 小川洋子 Amazon
商品ページへ
人前に出ない不世出のチェスプレイヤーの、悲しくも美しい物語と、静謐な音楽か詩のような文章。チェスの素人の私でも、その棋譜を「美しい」と感じる。
10 マークスの山 / 高村薫 Amazon
商品ページへ
十数年の時を隔てた4つの事件が、1つに縒り合わされる。事件を追う刑事たちと犯人の人間ドラマで魅せる。改稿を重ねた著者の代表作、文庫版でどうぞ。

 上位2つは「☆5つ」、それ以外は「☆4つ」なんですが、順位はそれぞれ前後3つぐらいの範囲で迷いに迷いました。作家さんの顔ぶれを見ると、冲方丁さん、瀬尾まいこさん、高村薫さんが、今年初めて読んだ作家さんです。その他はお馴染みの顔ぶれが並んでいて、私の好みがはっきり出てしまいました。

 選外の作品について言うと、初めての作家さんでは、三崎亜記さんの「失われた町」、真保裕一さんの「アマルフィ」、好きな作家さんでは、森博嗣さん「カクレカラクリ」が良かったです。
海外作品も、10位には入れませんでしたが、ジョージ・R・R・マーティンさんの「氷と炎の歌」シリーズ、スコット・マリアーニさんの「ベン・ホープ」シリーズは、これから長い付き合いになりそうです。

■ビジネス・ノンフィクション部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
小惑星探査機 はやぶさの大冒険 / 山根一眞 Amazon
商品ページへ
今年一番の明るいニュースはこれだと思う。だから本書の魅力は「はやぶさ」の成功あってのこと。それでも7年前から取材を続けていた著者には感謝したい。
フリー <無料>からお金を生み出す新戦略 / クリス・アンダーソン Amazon
商品ページへ
携帯ゲームサイトなどで良し悪しが言われるようになった「無料」のビジネスモデルをいち早く正面から考察した本。今後の経済の重要なテーマになると思う。
日本人へ 国家と歴史篇 / 塩野七生 Amazon
商品ページへ
徹底したリアリストの著者が、日本の政治と社会を斬る。時に切れすぎて怖いぐらいだ。しかし、「あぁ、そのとおりだった」と思うことの何と多いことか。
地域再生の罠 / 久繁哲之介 Amazon
商品ページへ
「地域振興」は、地方の喫緊の課題だが、その「成功例」は実は危ういものだった。自治体や地域振興関係者には厄介な本だが、目をそらしてはいけない。
中国報道の「裏」を読め! / 富坂聰 Amazon
商品ページへ
中国のメディアが報道した中国国内のニュースを考察する。そこから見えてきたのは、私たちが思っている「一党独裁国家」とは少し違った姿だった。

 今年は明るいニュースを伝えた本が1位になって良かったです。ただ「事業仕分け」の中継を見て思うこと」という記事を私が書いたのは、昨年の11月。科学技術関連の予算の縮減が話題になったことを思うと複雑な気持ちです。
 今や、「事業仕分け」は燎原の火のように、全国の自治体に拡がっています。「費用対効果」だけで物事を判断することが続けば、これから先に、こんなニュースに触れる機会があり得るのかどうか不安です。
 

OL辞めて選挙に出ました

書影

著 者:えびさわけいこ 画:はな
出版社:主婦の友社
出版日:2010年12月31日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は、2007年に文京区議会議員に立候補し見事当選、現在1期目の議員活動中。公式ホームページの写真を拝見すると、議員さんや作家さんを形容する言葉としては適切ではないけれど、すごくキレイな方だ。
 本書では、医療と福祉のあり方に多くの矛盾を感じた著者が、政治家を志してから、当選するまでの一部始終が、ユーモアたっぷりなコミックエッセイで綴られている。本文にもコラムにも、選挙に関するマメ知識が詰まっている。

 私は、どうしても行けない事情がなければ、投票には必ず行く。選挙運動に参加したことはないが、議員には知り合いもいるし、選挙に対する関心は高いほうだと思う。しかし、候補者が当たり前のように乗っている選挙カーを、どうやって調達しているのかなんて知らない。ポスターやたすきにどんなルールがあるのかも知らない。つまり、知らないことだらけなのだ。
 そういう観点から見ると、本書は、これから政治家を目指そうという人や、著者のようにある時その決意をした人に対する手引書にはなる。しかし、著者の意図はそこにはないようだ。そもそも、そういった手引書なら、コミックではなくもっと実用本位で書いた方が良いだろう。

 では、著者の意図はどこにあるのか?それは、あとがきの最後の一文が雄弁に語っている。それは、「一緒に政治をしていきましょう。」 コミックにしたのは、気軽に読んでもらうため、難しそうな本なんか読まない人にも読んでもらうため、敢えて言えば「若い人に関心を持ってもらうため」だろう。

 その試みは、少しだが確実に実を結んだ。この本を私に紹介してくれたのは、本書のPR活動を行っている学生チームの中の日本大学の学生さんなのだ。(本をもっと前にいただいていたのに、書評の掲載が今になって申し訳なく思っている。)
 「えびさわさんからリアルな政治のお話をきいて、若い世代が頑張らないとまずいんじゃないかな、と感じるようになりました...」ということだそうだ。私は、若い人たちが何かを成さんとしていることを知っただけでも嬉しかった。私ができることなら喜んでお手伝いさせてもらう。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

(さらに…)

デザイン学 思索のコンステレーション

書影

著 者:向井周太郎
出版社:武蔵野美術大学出版局
出版日:2009年9月25日 初版第1刷 10月25日 初版第2刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 本書は、武蔵野美術大学の教授であった著者が、所属の基礎デザイン学科で行った講義「デザイン学のアルファベット-思索のコンステレーション」を基にしたもの。「アルファベット」は「入門編」を意味するのではなく、aからzまでの26文字を頭韻とするデザイン関係の語彙の中から、著者が選んだ言葉について語る、という形式を示唆している。本書も、abduction、Bauhaus、cosmology、とアルファベット順に話が展開している。

 abduction、Bauhaus、cosmologyに、違和感を感じられた方がいるだろうか?Bauhausは、20世紀始めのドイツにあったデザインのための総合造形学校だから、まぁ順当なのだけれど、abductionは、「仮説形成」や「仮説的推論」などと訳される論理学の用語で、cosmologyは、「宇宙論」で天文学または哲学の一部門、一般的にはデザインに関する語彙ではないと思う。
 まぁ「デザイン」と一口に言っても、ポスターやチラシなどの印刷物のデザイン、商品の形状のデザイン、製品戦略のデザインなど様々だ。都市計画や政策のデザイン、と幅広い捉え方もある。しかし、本書での「デザイン」は、さらに広範なものを指していて、それは論理学とも哲学とも融合するのだ。私の言葉では、それをうまく説明できないので、本文から引用させてもらう。

デザインという創造的行為は、まさに全体としての「生」の基盤の充実、「生命」の生成や存在の意義と深くつながっているのです。ですから、デザインとは、その本質において、一般的な理解のされ方のような単に産業や経済や市場のための行為ではないのです。(357ページ)

 感銘を受けた。著者の博識と大きな世界観に、生命や自然・文化に対する慈愛に満ちた眼差しに。自然も文化も地域も心さえも、産業と経済の名の下に押し流すようにして破壊していく今の日本を、著者は憂えている。決して読みやすい本ではないが、本書の「デザイン」の概念が普及すれば、それを止められるかも知れない。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

「たんぽぽモール」に、コラムを書くことになりました。

 「たんぽぽモール」という女性向けウェブマガジンで、「ブックレビュー・オススメ本」のコラムを書かせていただくことになりました。今日、第1回目のコラムが掲載されました。紹介した本は、伊坂幸太郎/「チルドレン」です。

 「たんぽぽモール」は、女性向けポータルサイトとして、300万人の会員をかかえ、10年の実績がある老舗サイトだそうです。サイトのテーマは「女子力アップ」。20代~40代の女性がアクセスの8割を超えるそうで、それはテーマがこの層の皆さんによくマッチしているからなのでしょう。

 ポータルサイトとして、ショッピングやプレゼント、会員向けの限定情報やメルマガなど、盛りだくさんです。「女子力アップ」の方法なんて皆目分からない私が書くコラムが、会員の皆さんに受け入れてもらえるかどうか少し不安ですが、これまでに読んだ500冊弱+これから読む本の中から、「楽しんで読める本」を中心に選んで紹介していこうと思っています。

 たんぽぽモール
 第1回目の私のコラム 【ブックレビュー・オススメ本】:伊坂幸太郎/「チルドレン」 

フリーター、家を買う。

書影

著 者:有川浩
出版社:幻冬舎
出版日:2009年8月25日 第1刷発行 2010年8月25日 第3刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 フジテレビ系列で本書が原作のテレビドラマを放映中で、今日が最終回。でも、その日にこの記事を書いているのは全くの偶然。図書館の順番待ちで、本書が手元に来たのが3週間前。同じように図書館で予約した本と、いただきモノの本がそれぞれ3,4冊重なって、なかなか手を付けられないでいる間に、返却期限の今日を迎えた、というわけ。

 しなくてもいい言い訳はこれぐらいにして、本書について。序盤は「今回は変化球か?」と思わせた。アンソロジーの「Story Seller2」で、ちょっと読み心地の良くない短編を出した後でもあるので「これはキツイなぁ」と感じたが、ラスト近くになって直球を投げ込んできた。

 主人公は誠治。一浪してそこそこの私大へ行って、そこそこの会社に就職したが3か月で辞めてしまった、現在第二新卒として就職活動中のフリーター。アルバイトのコンビニも店長から注意を受けた時に辞めてしまった。その理由は「俺的にもう無理なんでー」。つまり、腰の定まらないいい加減なヤツなのだ。
 その後もバイトで小金を稼いでは、部屋でダラダラする生活。しかし、その生活態度を強烈に反省させる出来事が起きる。母親の寿美子が精神疾患を患ったのだ。その連絡を受けて嫁ぎ先から駆け付けた、姉の亜矢子から聞かされた過去の出来事の真実の姿、寿美子が背負ってきたストレス。自分がこんなでは母を救うことはできない...。

 こうして主人公の誠治が心を入れ替えて、元のような明るい笑顔があふれる家族を取り戻そうと努力する、その結末は?、という物語なのだがそれだけではない。著者は、誠治のために、もう一つの物語を用意していた。こっちの物語の方が著者としての直球だ。
 「三匹のおっさん」で「おっさん萌え」をカミングアウトした著者は、今回も萌えるおっさんたちを登場させた。誠治のバイト先の工事現場のおっさんたちだ。「俺らは学がねぇから...」と言いながら語る話は、人や人生への洞察に満ちていて、誠治をどれだけ助けたか分からない。特に、作業長の大悦は、「図書館戦争」シリーズの玄田を思い起こさせる、カッコイイ大人だった。

 にほんブログ村「有川浩」ブログコミュニティへ
 (有川浩さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方

書影

著 者:山本敏行
出版社:ソフトバンククリエイティブ
出版日:2010年12月6日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 タイトルの「日本でいちばん~」についてから説明しておく。これは、株式会社リンクアンドモチベーションというコンサルティング会社が実施している「Employee Motivation Survey」という組織診断サービスにおいて、そのスコアが、2009年、2010年の2年連続で日本一高かった、ということを表している。
 日経ビジネスONLINEによると、この診断は、大企業から中小企業まで年間100社ほどが受けているそうだ。日本中に大企業+中小企業で60万社ぐらいあるそうだから、これでは「日本でいちばん~」を、素直に受け入れることはできない。けれども、本に書かれている内容が良ければ、そこはこだわるべきポイントではないだろう。

 著者は、この診断サービスで2年連続で日本一となった、株式会社EC Studioの代表取締役。ウェブサイトの売り上げアップ支援の会社として起業した創業者。現在は、中小企業の経営のIT化の支援を行っていて、法人・個人あわせて20万以上の顧客を抱える。
 本書の内容を受け入れるには、いくつもの発想や価値の転換をしなくてはいけない。なにしろ、この会社は「顧客に会わない」「顧客からの電話を受けない」を初めとした数々の、普通の感覚では「非常識」どころか「あり得ない」ことをやっているのだから。
 そもそも本のタイトルもこの会社の経営方針も「顧客第一」ではなく「社員第一」。私は中小企業診断士で、経営コンサルタントの端くれなのだけれど、「顧客」じゃなくて「社員」を第一にした会社を、寡聞にして知らない(並列させている会社は聞いたことがあるけれど)。

 「社員が満足して働くことで、安価で均質な良いサービスを顧客に提供できる」というのが、この「社員」と「顧客」のトレードオフ解消のための答え。20万もの顧客獲得が、その正しさを証明している。本書には、「ランチトーク制度」「長期休暇制度」などの「社員の働きやすさのための制度」や、ITツールの導入などの「生産性向上のための施策」が数多く紹介されている。
 「生産性向上のための施策」は、組織でも個人でもすぐに取り入れて効果が出そうなものもある。「社員の働きやすさのための制度」は、表面的な模倣ではなく、採用などに見られる社長の思い入れを見逃さずに徹底すれば、他の会社でも転用可能だろう。

 上に書いた「内容が良ければ..」について言えば、合格点としておく。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

中国人の99.99%は日本が嫌い

書影

著 者:若宮清
出版社:ブックマン社
出版日:2010年10月25日 新装版初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 本書の場合、本の紹介の前に著者の紹介をした方がいいだろう。中国・台湾・他のアジア諸国について、著者の専断とも言える論評の数々が披露されているのだけれど、こういう場合、それがどういう人の口から出たものなのかが非常に重要だからだ。

 その点、著者は「この人の言うことが本当なのかもしれない」と思わせる経歴の持ち主だ。1970年に戒厳令下の台湾の東海大学に留学、4年間の4人部屋の寮生活を送る。その後、フィリピンや中東、エチオピア、スーダンと紛争地帯などで活動する。
 ここまででも、タダ者じゃないことは分かるのだが、この後がさらにスゴイ。1983年にフィリピンのマニラ国際空港でベニグノ・アキノ氏暗殺事件が起きるが、著者はその時アキノ氏に同行していた。また北朝鮮との人脈を作り、拉致被害者家族の帰国を得た、2004年の小泉総理訪朝につながる裏面工作に関わる。著者の活動についての是非は様々に言われているが、国際政治の現場にいたことは揺るぎない事実だ。

 そして本書について。本書は実は2006年に出版した書籍のプロローグを新しくした新装版だ。だから、ざっと5年ほど前の中国の状況を基に書かれているのだが、不思議なぐらい現在とマッチしている。いや現在は、著者が捉えた「中国像」がより明確に姿を現していて、その見立ての確かさが伺えるとも言える。
 その主張を切り詰めて言うと「「民度」では、日本人は中国人より優れているかもしれないが、「錬度」では遥かにおよばない。だからナメていたら大変なことになる」ということになる。「錬度」とは、したたかさ、戦略性などを表す「鍛えられた駆け引きの力」のことだ。

 タイトルに沿う形で「中国人がいかに日本を嫌っているか」の数々が書かれているが、逆説的だけれど、「中国人は日本が嫌い」かどうかは、この際あまり関係ない。彼らの関心は「好き嫌い」よりも「勝ち負け」なのだ。これは言葉の綾だけれど、「勝つ」ために必要なら「好き」にぐらい平気でなるかもしれない。
 中国の強気の外交を「中国国内向けのポーズ」、反日デモを「中国政府への不満のはけ口」と、日本の「識者」は分かったような分析を披露する。必ずしも間違いではないが、そんなに単純ではない。理解したつもりになって「大人の対応」をしているとやられてしまう。

 にほんブログ村「国際問題(国際情勢、国際関係)」ブログコミュニティへ
 (国際問題についてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

文藝別冊 [総特集]伊坂幸太郎

書影

出版社:河出書房新社
出版日:2010年11月30日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 まるごと1冊、伊坂幸太郎さんを特集した240ページ弱のムック誌。「文藝」という河出書房新社の季刊文芸誌の別冊。伊坂さんへのロングインタビュー、ミュージシャンの斉藤和義さん、映画監督の中村義洋さんとの対談、伊坂作品に関するエッセイや論考、作品ガイド、そして伊坂さんが大学1年生の時に生まれて初めて完成させた小説のプロットを使った、書き下ろし短編などが収録されている。言わば「伊坂幸太郎の詰め合わせ福袋」。

 私がこういう雑誌に期待するのは、作家さん自身の声と、作品のトリビア的なものを少し。だからロングインタビューや対談が興味深かった。伊坂さんがある作品についての想いを語り、その作品に対する読者の反応を紹介する。反応の9割方は伊坂さんの予想とは違ったらしい。その予想外の反応の多くは、私の感想そのものだった。ただし「ゴールデンスランバー」のくだりで「何でわかってくれないんだよ!」というセリフには、私は「わかってましたよ」と言いたい(笑)。

 もう一つ、すごく面白かった記事がある。それは、巻末に資料編のように付いている「伊坂幸太郎全作品2000⇒2010」。これまでに出版された20作品の「担当編集者の裏話」が紹介されている。例えば「初稿版にあってカットされた忘れられないエピソード」があるという話。あることだけが明らかになっていて、その内容までは分からない。知りたい。どうしても知りたい!

 そもそも不思議なことに、伊坂さんの作品は数多く出ているけれど、本書の出版社である河出書房新社からは出ていない。裏話を明かしている編集者は全員が他の出版社の人なのだ。まぁ、それぞれの出版社が等距離にあるわけで、だからこそこの企画が実現したのかもしれない。けれど、それぞれの編集者の言葉からは、ヨイショを割り引いても、伊坂さんとの仕事を楽しんだ雰囲気が伝わってくる。その雰囲気が他の出版社が出すこの本への協力につながったのだと思う。

 この後は、「ちょっと気になったこと」を書いています。お付き合いただける方はどうぞ

 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(~2007年)」
 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(2008年~)」
 (あなたの好きな伊坂作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

(さらに…)