質問する、問い返す 主体的に学ぶということ

書影

著 者:名古谷隆彦
出版社:岩波書店
出版日:2017年5月19日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は通信社の記者。記者歴は20年以上。本書のタイトルは「質問する、問い返す」で、記者の仕事のすべての根幹にあるのは「質問するという営み」だと言う。教育現場を長く取材してきたそうで、本書の内容は「質問」と「教育」を掛け合わせてテーマをいくつか形成している。

 そのうちの一つだけを掘り下げたい。第2章「「正解主義」を越えて」という章。明示はされていないけれど、ここで言う「正解主義」とは、「必ず正解がある」ことを前提とした思考行動のこと、としてよいだろう。

 深刻な弊害の例をひとつ。選挙の投票を棄権した若者に理由を聞くと、「間違った投票をするかもしれないから」と答えた人がいるそうだ。その他にも「私のような理解の浅いものが投票してよいのか」という発言も。当然だけれども、投票に「正解」はない。(後になって「あれは間違いだった」と思うことがあるかもしれないけれど、その時点では分からない)

 「教育」に絡めて言うと、マークシートの選択式の大学入試センター試験は、「正解主義」の最たるものだ。そこを目指ざすためなのか、日本の教育は「正解を素早く導き出す」ことに注力する。ところが選挙の例を挙げるまでもなく、世の中の多くの問題には正解がない。その場合は自分の意見を構築しなくてはいけないのだけれど、そんな訓練は受けていない、という事態になっている。

 ちなみにフランスの大学入学資格試験には「哲学」という科目がある。例えば2015年の試験の問いは「人は自らの過去が形作ったものなのか」というわずか一文だけ。受験生はこれに4時間かけて答えるのだそうだ。自分の意見を形作るには「どうしてそう思うのか?」と、自分に何度も問い返さなくてはいけない。

 この後の章では、日本の教育の新しい方向性としての「主体的な学び・対話的な学び」について、いくつかの視点から論を展開している。なかなか示唆に富んだ指摘が多いので、教育に関心のある方は読んでみてはいかがかと思う。

 この後は書評ではなく、この本に関連して思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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(さらに…)

麻布ハレー

書影

著 者:松久淳+田中渉
出版社:誠文堂新光社
出版日:2017年3月8日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 ずいぶん前になるけれど、このお二人(松久淳さんと田中渉さん)の著者のコンビの「天国の本屋」という一連のシリーズを読んだ。その後「天国の本屋~恋火」という竹内結子さん主演の映画にもなったのだけれど、心に染みる物語だった。そういうことで本書も手に取ってみた。

 タイトルの「麻布ハレー」の「ハレー」は、ハレー彗星の「ハレー」。約76年周期で地球に接近する。この前にやって来たのは1986年。さらにその前は1910年。そのころ、今の国立天文台の前身になる天文台が麻布、あの都会の真ん中「東京都港区の麻布」にあった。本書はその麻布天文台を舞台の中心とした物語。

 主人公は佐澤國善。24歳。岩手から上京して早稲田の文学部に進み、作家を志した。大学卒業後も作品を文学雑誌に持ち込んでいるが、不採用を繰り返している。定職には就かず、下宿先の一人息子である小学生の男の子、栄の遊び相手兼家庭教師などをしている。物語は麻布天文台に忍び込んだ栄を、國善が迎えに行くところから始まる。

 麻布天文台には魅力的な人々が居たし、多士済々が集っていた。台員は台長以下7名。誰もが小学生の栄に丁寧に天文のことを教えてくれる。栄も驚くほどの勢いで知識を吸収した。ハレー彗星が近づいていることもあって、政府や海軍の関係者や新聞記者なども出入りしていた。

 先に「國善が迎えに行くところから始まる」と、物語の始まりを紹介したけれど、ページ順で言うとこれより前がある。それは1986年、つまり次にハレー彗星が近づいたときのエピソードが短く挿入されている。そして、さらにその前に、場所も時代も不明の場面が描かれている。

 これらは著者が用意した「時を越えた仕掛け」になっている。また、ネタバレになってしまうので具体的には言わないけれど、この物語には、様々な実在の人物や物事などをモチーフとしたものが取り込まれている。著者は楽しめる工夫を何重にも施してくれている。面白かった。

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不時着する流星たち

書影

著 者:小川洋子
出版社:KADOKAWA
出版日:2017年1月28日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の小川洋子さんの作品はそれほど多く読んでいない。これまでに読んだのは「博士の愛した数式」「猫を抱いて象と泳ぐ」「人質の朗読会」、そして樋上公実子さんの絵に小川さんが文をつけた「おとぎ話の忘れ物」。どれも情景が思い浮かぶ静かな余韻が残る、しかしそれぞれに特色のある四様の物語だった。

 本書は10編からなる短編集。実在する人物や出来事からの連想によって、著者が紡ぎ出した物語たち。連想の元になった人物には、グレン・グールドやエリザベス・テイラーといったスターもいれば、長大な物語を記しながら誰にも見せることなく生涯を閉じた作家、ヘンリー・ダーガーのように、世界の片隅で異彩を放つ人もいる。

 10編を順に簡単に紹介する。母の再婚によって同居することになった「誘拐されていた」という姉の話。文字に似た形の小石を探して歩く男性の話。飛行場でカタツムリのレースを客に見せている男性の話。「放置手紙調査法」という心理学の実験の補助員の話。あらゆる場所の距離を歩数で測量する盲目の祖父の話...。

 葬儀に呼ばれて参加する「お見送り幼児」の姪を連れた女性の話。外国に一人で暮らす息子のところを訪ねた母親の話。若草物語の四姉妹を友達と繰り返し演じる少女の話。授からなかった子どもの代わりに文鳥を飼って可愛がる夫婦の話。主人公の少女のお願いを「アイアイサー」と言って聞いてくれる叔父さんの話。

 何か少しだけ、でも決定的におかしい。例えると「リアルな夢」。そんな物語をたっぷりと楽しめた。狂気と隣り合わせの不穏な感覚、どこにも行き着かないような不安感、輪郭が不明瞭な視界、常軌を逸した出来事とそれを受け入れている主人公。「不完全」な登場人物たち。「リアルな夢」は時として「怖い夢」に転化する、その予感が漂っている。

 この「予感」を、タイトルにある「不時着」という言葉が象徴している。「墜落」ではないので破滅は免れている。でも、明らかに変則的でまともではない事態で、一歩間違えると..という危うさを内包している。

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「超」入門 失敗の本質

書影

著 者:鈴木博毅
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2012年4月5日 第1刷 2012年7月1日 電子版 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 名著と言われる「失敗の本質」を解説した本。「失敗の本質」を、戦略論であり「日本人特有の文化論」でもあると捉えて、そこから抽出した「エッセンス(日本語に訳すと「本質」。つまり「失敗の本質」の本質)」を、今日的な事例も使って分かりやすく説明してある。

 抽出されたエッセンスは全部で23個。それを「戦略性」「思考法」「イノベーション」「型の伝承」「組織運営」「リーダーシップ」「日本的メンタリティ」の7つに分類して、それぞれに一章を割り当てて「失敗しないための処方箋」を描く。

 例えば第一章のタイトルは「なぜ「戦略」が曖昧なのか?」。著者は、「失敗の本質」を読んで最初に感じる点として、「日本軍の戦略があまりに曖昧だった」と言う。そして「目標達成につながらない「勝利」が多い」ことを指摘する。個々の戦闘、戦術では秀でた点もあって、勝利することも多いのだけれど、それが「戦争の勝利」につながらない。

 その原因は、グランドデザインがないこと、そのために目指すべき「指標」が間違っていること、とする。日本軍で言えば「戦争の勝利」をどのように描いていたのか不明だ。「どこかの戦場で大勝利すれば勝敗が決まる」という「決戦戦争」思想があったようだけれど、勇ましいだけで曖昧さは免れない。

 これを著者は現代的な事例に当てはめて見せる。例えば、インテルはマイクロプロセッサの事業展開にあたって「活用しやすさ」を指標と定め、マザーボードを開発した。日本企業を含む他の企業は「処理速度」を指標にして高速化を競った。市場シェアを見ると、どちらの指標が事業の成功につながったかは明らかだ。

 このような感じでとてもよく分かりやすい。「失敗の本質」を読んで、ここまで読み取れる人はそうはいないだろう。むしろ「失敗の本質」にはここまで書かれていない。上に「(失敗の本質」の)エッセンスを、今日的な事例も使って..」と書いたが、実体としては「今日的な事例を、(「失敗の本質」の)エッセンスを使って」分かりやすく説明した本だ。

 つまり主客が転倒しているのだけれど、これでいいのだ。実際のところ私たちにとって大事なのは、今日的な事例の方であり、それを今後の自分の判断に生かすことだから。 

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茶色の朝

書影

著 者:フランク・パヴロフ 訳:藤本一勇 メッセージ:高橋哲哉
出版社:大月書店
出版日:2003年12月8日 第1刷  2004年4月10日 第6刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 ネットで話題になっていたので読んでみた。30ページほどの絵本に、12ページの「メッセージ」が付いている。

 主人公の「俺」は、友人から「愛犬を安楽死させなきゃならなかった」話を聞く。理由は「茶色の犬じゃなかったから」。この国では「茶色以外の犬、猫をとりのぞく」という法律が制定されたのだ。先月「俺」の白に黒のぶちの猫も始末された。その時は胸が痛んだが「あまり感傷的になっても仕方ない」と思い直した。茶色の猫を飼えばいいのだから。

 しばらくすると「街の日常」という新聞が廃刊になった。例の法律を批判していた新聞だ。それでもみんな、いままでどおり自分の生活を続けている。「俺」は思った。「きっと心配性の俺がばかなんだ」。その次は図書館の本、その次は...。

 「俺」は自らの破滅が身近に迫って、ようやく「抵抗すべきだったんだ」と気が付く。しかしすでに手遅れで、「俺」は「茶色の朝」を迎える。

 巻末の「メッセージ」によると、ヨーロッパでは「茶色」はナチスを連想させる色らしい。もう、多くを言う必要はないだろう。「こんなのおかしい」という気持ちを、騙し騙しして「大したことじゃない」と、流れに任せてしまったら、その流れの行き着く先は「茶色の朝」しかない。

 これも「メッセージ」によると、著者のフランク・パヴロフは、フランスで1990年代に、ジャン・マリー・ルペン率いる極右政党「国民戦線」の躍進に、危機感を覚えて本書を出版した。その後、多くの人が本書を読み「極右にノンを!」運動が盛り上がった。

 寓話による例えは、人の心に浸透しやすい。「物語には力がある」と言いたいところだけれど、過度の期待は禁物だ。お気づきだと思うが、先般のフランス大統領選挙で、マクロン大統領と共に決選投票に残ったマリーヌ・ルペン候補は、ジャン・マリー・ルペンの娘で後継者だ。すぐに忘れてしまうのは日本人だけではないらしい。

 さらに後ろ向きで恐縮だけれど、この絵本からメッセージを受け取るのは、元々極右思想に疑念を持っている人だけかもしれない。それでも本書を一人でも多くの人が目にするといいと思う。それが未来につながる希望。

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すべての戦争は自衛意識から始まる

書影

著 者:森達也
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2015年1月29日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 古い新聞記事をきっかけに本書を読んでみた。それは1925年の朝日新聞の4つの記事。「世論の反対に背いて治安維持法可決さる」「無理やりに質問全部終了 修正案討論に入る」「社会運動が同法案の為抑厭せられることはない」「定義はハッキリ下せぬがこの法律だけは必要だといふ」という文字が読み取れる。
※その記事はこちらで見られます

 最初はこの記事の画像をネットで見て、その真偽を確認するうちに、本書に紹介されていることを知った。この記事を見た時の私の気持ちに、共感してくださる方が多いことを祈る。「これは今の(共謀罪を巡る)状況にそっくりじゃないか」「歴史を繰り返しているんじゃないのか」ということ。本書を読むと、著者は私と同じ気持であったことが分かる。

 著者はノンフィクション映画監督で作家でもある。本書は著者がそれまでに書いた雑誌のエッセイや連載と書下ろしをまとめたもの。タイトルのとおり「自衛意識から戦争が始まる」ということを、繰り返し説明している。それはノンフィクション作家らしく、紛争や戦争の現場に足を運んで、人から聞き肌で感じた「実感」だ。

 例えば、パレスチナ避難民が暮らす難民キャンプ。例えば、南北に分断されたキプロスの境界線。その他には「かつての現場」である、アウシュビッツの収容所跡の博物館、南京大虐殺記念館、北朝鮮の戦勝記念館に。どこでも共通するのは、自分たちを「守る」ために戦い、そのためには「善良なままに人を殺す」そういう姿だ。

 本書にはその他に、知っておいた方が良い事柄がたくさん書いてある。例えば、南京大虐殺記念館にある「百人斬り超記録」という日本の新聞記事。日本の軍人がしていた「中国人を何人斬ったか競争」の状況を国内に報じていたのだ。例えば、韓国人なら誰でも知っているのに、日本人はほとんど知らない「乙未事変」。朝鮮の王妃が日本の公使に軍刀で殺害された事件だ。

 こういったことを「自虐史観」と非難する人たち向かっては、「呼びたければ呼べ」と著者は言う。振り返って「戦争はダメ!」という人にも「それだけではダメだ」と言う。「戦争のメカニズムを知らないと「戦争を回避するために抑止力を」というレトリックに対抗できない」。それではまた繰り返すことになる。...肝に銘じよう。もうすでに繰り返しが始まってしまっているのだから。

 最後にもう一つ。キプロスの分断された両側の地区に、若者たちが描いた「禁止マークに入った銃」と「ヘッドホン」の落書きがたくさんあるという。これは彼らの「銃は捨てる。音楽を聴く」というメッセージ。

 日本のネットなら「お花畑」と言われるだろう。「とことん話して、酒を飲んで..」と言った学生を袋叩きにしたように。正直言って私も「甘い」ように思うのだけれど、このことが本書の中で希望を一番感じたことだった。これが唯一、解決につながる道なのかもしれない。

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我ら荒野の七重奏

書影

著 者:加納朋子
出版社:集英社
出版日:2016年11月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の2010年の作品「七人の敵がいる」の続編。

 主人公は「七人の敵がいる」と同じく山田陽子。出版社の編集者でモーレツに忙しい。息子の陽介くんと夫の信介との3人家族。前作で陽子は、PTAや自治会などで、けっこうハデなバトルをやらかしている。

 本書は、前作の直後で陽介くんが小学校6年生の時、信介の上司の中学生の息子、秀一くんの吹奏楽の発表会から始まる。秀一くんのトランペットに感激した陽介くんは「秀一くんの学校に行きたい。吹奏楽部に入って、トランペット吹きたい」と、中学受験を決意する。

 職場でも「ブルドーザー」と呼ばれている陽子だけれど、陽介くんのことになると、さらに猪突猛進の度合いが高まる。陽介がN響でピカピカのトランペットを華麗に吹きこなす姿まで想像する。本書は、こんな感じの陽子が、陽介の中学3年までの吹奏楽部の活動に伴走する姿を描く。

 楽しめた。若干ひきつりながらではあるけれど。「あとがき」に「匿名希望の某お母様及びそのお嬢様」に取材したとあるけれど、エピソードの細かい部分までがリアルだ。「仰天エピソード」はフィクションだと思うから笑える。「これマジだわ」と感じるとそうはいかない。「ひきつりながら..」というのはそういう意味だ。

 吹奏楽のパート決めの悲喜こもごもも、会場取りのための努力も、保護者やOBからのプレッシャーも、いかんともし難い実力差も..脚色はあっても創作はない。我が家の娘二人も中学では吹奏楽をやっていた。私自身が経験したことではないけれど、こういう話はよく耳に入って来た。

 陽子の「ブルドーザー」ぶりは相変わらずだけれど、学習したのか少しうまく立ち回れるようになった。正論をはいて敵を作ってしまうけれど、結局たいへんな仕事を担って、改善も実現して役にも立っている陽子を、助けてくれる「チーム山田」的な人も現れた。「一人で猪突猛進」よりも、「チームで解決」の方がスマートなのは言うまでもない。

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日本をダメにしたB層の研究

書影

著 者:適菜収
出版社:講談社
出版日:2015年11月1日 発行
評 価:☆☆(説明)

 ここのところ政府にとって都合の悪いことが次々と話題になっている。その割に支持率が下がらない。「どうして?」と思っているうちに「B層」という言葉が頭に浮かんだ。「たしか「B層の研究」っていう本があったよな」と思って、本書を探し出して読んでみた。

 「B層」というのは、2005年のいわゆる郵政選挙の時に、広告会社が作成したコミュニケーション戦略による概念。「構造改革に肯定的か否定的か」と「IQが高いか低いか」の2つの軸で、国民をABCDに分類し、「構造改革に中立から肯定的でIQが低い」層のことを「B層」と名付けている。

 国民の多数がこの層に属していて、この層は深く考えることなく、印象で物事を決めてしまう。だから「郵政民営化に賛成か反対か」「改革派か抵抗勢力か」と、問題を単純化してして、テレビで大量に投げかける、というのがその戦略。

 そうすると、具体的なことはよく分からないけれど(「改革派」の方がいい感じがするので)「郵政民営化賛成!改革派ガンバレ!」となって、その結果として自民党は圧勝、というワケ。「国民をバカにするな!」と憤りを感じるけれど、戦略通りに自民党は圧勝したわけだから、憤るだけ虚しいというものだ。

 ちょっと「B層」の説明が長くなってしまった。それで本書は、タイトルからして「日本をダメにした」と形容しているわけで、その「B層」を「研究」と称して、徹底的にバカにしている。それだけでなく「B層」を支持基盤にした、小泉さん以降の歴代の首相を、党を問わずバカ呼ばわりする。

 いいことも言っているし、なかなか鋭い考察もあるし、著者は哲学や古典にも通じているようだ。しかし、こんなふうに他人を順番に俎上に載せて、次々と切って捨てているのでは、飲み屋で吠えている酔客のようで、心情的に距離を置きたくなった。

 繰り返すけれど、いいことも言っているし、なかなか鋭い考察もある。積極的にはおススメしないけれど、私が上に書いたことを承知した上で、それでも興味があれば、読んでみてもいいかもしれない。

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スノーデン 日本への警告

書影

著 者:エドワード・スノーデン、青木理、井桁大介、ベン・ワイズナーほか
出版社:集英社
出版日:2017年4月19日 発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)

 本書はエドワード・スノーデン氏が滞在先のロシアから参加した、2016年6月に東京大学本郷キャンパスで行われた、シンポジウムの内容を書籍化したもの。言うまでもないけれど、スノーデン氏はアメリカ政府がインターネットを通じた大規模な監視体制を、秘密裏に構築していたことを、資料と共に暴露した人だ。

 シンポジウムのタイトルは「監視の"今"を考える」。第一部がスノーデン氏へのインタビューと質疑応答、第二部が「信教の自由・プライバシーと監視社会 ~テロ対策を改めて考える」と題したパネルディスカッション。本書のそれに沿って2つの章で構成されている。

 スノーデン氏の話はどれも心に響いた。2つ紹介する。一つ目は「秘密主義は政治の意思決定のプロセスや官僚の質を変えてしまう」という話。「政府が安全保障を理由として、政策の実施過程は説明せず、単に法律に従っていると説明するだけとなれば(中略)やがて政府による法律の濫用が始まるでしょう」と語っている。現在の国会の状況を正確に予想していたかのようだ。

 二つ目は「言論の自由とプライバシー」についての話。「言論の自由やプライバシーの権利は社会全体に利益をもたらすものです(中略)異色な存在でなくとも、言論の自由やプライバシーの権利がもたらす利益を十分に享受しているのです」と言う。「普通に暮らしていてやましい事がないなら、共謀罪なんて心配しなくもいい」という考えが誤りだと分かる。

 パネルディスカッションはさらに刺激的だ。スノーデン氏が暴露したのはアメリカ政府の秘密で、幾分「対岸の火事」的な感覚がある。ところが米国と同じように、日本国内でもムスリムに対する監視が行われていたことが分かっている。イスラム教徒である、モスクに出入りしている、という理由だけで、「コンビニで何を買ったか」まで、調査されていた。

 最後に。「共謀罪」に関係して話題になった「国連の特別報告者」について。特別報告者の任命に至る経緯が書いてあった。2013年に「デジタル時代のプライバシー」という国連総会決議があり、各国の決議の実施状況を調査するために任命されている。決議にはもちろん日本も賛同している。国連からしてみれば「個人の資格で..」などと、どの口で言うのか?ということだろう。

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好調を続ける企業の経営者はいま、何を考えているのか?

書影

著 者:鈴木博毅
出版社:秀和システム
出版日:2017年4月25日 第1版第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の鈴木博毅さまから献本いただきました。感謝。

 本書は、著者が8つの超成長企業の経営者にしたインタビューをまとめたもの。「超成長企業」の意味するところは、過去5年間に売上高が2~5倍、経常利益についても同水準で増加している「一部上場企業」だ。一時期よりは持ち直してはいくけれど、まだまだ経営環境は厳しい。その中で伸び続けている企業には「何かがあるはず」、それを聞き出そうという意図だろう。

 その8社は具体的には「ユーグレナ」「ディップ」「ファンコミュニケーションズ」「朝日インテック」「LIFULL」「イーブックイニシアティブジャパン」「日本M&Aセンター」「オプティム」の8社。「一部上場」というと「有名企業」というイメージがあったけれど、浅学の私は半分以上知らなかった。

 8社のすべての社長さんのお話がどれもとても刺激的だ。特に最初の「ユーグレナ」の出雲社長の話が心に残っている。社長は、ミドリムシの食用屋外大量培養に成功し、同社はその多様な商品開発を行っている。事業化のパートナーを探して500社に断られた話、エネルギー問題への取組、「世界をよい方向に変える」という理念。

 本書が魅力的なのは、「超成長企業」の社長の話の魅力に負うところが多い。ただ、それだけでは「成功事例」を集めただけになってしまう。著者は「新業態を打ち出す」「業態を変更する」という、2種類の「業態変革」を切り口にして、各社の分析を試みている。それも示唆に富んでいいと思う。

 実は私は少しだけれど株式投資をやる。基本的には東証一部の企業しか買わない(それなのに「半分以上知らなかった」のだから、恥ずかしい限りだ)。これからは、ここに載っている会社にも注目しておこうと思う。(※本書では全社が「一部上場企業」のように読めるけれど、調べてみると1社は二部のようだ) 

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