暗幕のゲルニカ

書影

著 者:原田マハ
出版社:新潮社
出版日:2016年3月25日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。この著者の作品を読むのは初めて。読んだことはないけれど「カフーを待ちわびて」「楽園のカンヴァス」という作品の名前は知っていた。

 主人公は2人の女性。一人は八神瑤子。40代。ニューヨーク近代美術館(MoMA)のキュレーターだ。もう一人はドラ・マール。物語の初めは20代後半。芸術家、写真家、そしてパブロ・ピカソの愛人。物語は瑤子が生きる2001年から2003年と、ドラが生きる1937年から1945年を、響きあうようにして交互に描く。

 2001年の米国同時多発テロ事件「9.11」で、瑤子は最愛の夫を亡くす。その後、米国は対テロ戦争に突き進んでいった。「アメリカこそが正義」と言って。MoMAで「マティスとピカソ」という企画を進めていた瑤子は、企画を「ピカソの戦争」と改める。戦争の愚かさを訴えるために。ピカソがゲルニカを描いて戦争を糾弾したように。

 ドラのパートは、スペイン内戦から第二次世界大戦に至る時期、ピカソがゲルニカを描いた、まさにその時を克明につづる。「ゲルニカ空爆」は、ピカソの祖国スペインで起きた、史上初の無差別爆撃。それに怒ったピカソがゲルニカを描く。それは絵画によるピカソの戦いだった。

 これは面白かった。すごく楽しめた。巻末に「本作は史実に基づいたフィクションです」と書いてある。物語の骨格が「史実」で構築されている。だから本当にあったような臨場感がある。著者はMoMAに勤めていたこともある現役のキュレーター、その意味でも説得力がある。

 私にとって「9.11」は「同時代の出来事」。キナ臭くなってきた現在ともつながっている。それに対してスペイン内戦や第二次世界大戦は「教科書で習った出来事」。この二つの間には分断があった。本書も瑤子のパートとドラのパートにも最初は分断があった。

 それが一人の登場人物が、どちらパートにも登場することによってつながる。私の中でもスペイン内戦から現在までが地続きになった。考えてみれば第二次世界大戦と「9.11」は60年も離れていないのだ。ピカソが怒りまくって糾弾した戦争は、残念ながら世界からなくなる気配がない。

 最後に。タイトルにある「暗幕」は、形を変えて何度か登場する。「暗幕は何かをその後ろに隠す。しかし時として「隠す」ことによって、その後ろにある何かが持つメッセージを、より強く意識させてしまう。皮肉なことに。

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雪煙チェイス

書影

著 者:東野圭吾
出版社:実業之日本社
出版日:2016年12月5日 初版第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「白銀ジャック」 「疾風ロンド」に続く、スキー場シリーズの3作目。

 主人公は脇坂竜美、大学でアウトドアスポーツのサークルに所属していた4年生。身に覚えのない殺人事件の容疑者として、警察に追われる身になった。竜美自身の不用意な行動が基で、警察の心証はマックロ。

 犯行の時間にはスキー場にいた。そのアリバイを証明してくれるのは、そこで出会ったスノーボーダーの女性だけ。名前も知らないその女性を探しに、僅かな手がかりを辿って里沢温泉スキー場へ、竜美は警察の捜査をかいくぐって向かう。

 物語は、竜美と竜美を追う刑事の2人を中心にして、追いつ追われつの追跡劇を描く。里沢温泉スキー場は、前作「疾風ロンド」の舞台でもあるから、そこで活躍した面々も当然登場する。「白銀ジャック」からの根津昇平と瀬利千晶も。魅かれ合っている2人がどうなるのかもちょっと楽しみ。

 本当に面白かった。3作すべてに共通する「無責任な上司」の無責任ぶりと部下のトホホな感じが、哀しくも面白い。旅館の男前な女将さんが素敵。そして何度も何度も「今度こそ」という期待を裏切るストーリーが楽しい。

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ネット炎上対策の教科書

書影

著 者:小林直樹
出版社:日経BP社
出版日:2015年6月23日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本書はネットの炎上事件の「傾向と対策」を書いた教科書だ。主に企業に関わる炎上をテーマにしている。「「炎上」の新傾向と対策」「~の基礎知識編」「組織としての準備・対策編」「こんなときどうする?」「攻めの活用編」の5章からなる。

 著者は「日経デジタルマーケティング」という雑誌の記者。この雑誌は、企業のデジタル活用の取り組み、業界動向、成功・失敗事例を紹介している。企業にとって「炎上」は、企業のブランド毀損という、マイナスのマーケティングとなってしまう。だから「対策」が必要なのだ。

 最近の傾向として「偏見を助長するコンテンツ」が危ないらしい。例えば男性の上司が女性の部下に「なんか顔疲れてるなあ」と話しかける、ルミネのYouTube動画。「女性は(女性だけが)きれいになる努力を怠ってはいけない」という偏見を助長する、ということだろう。この動画は私も見たけれど、確かにあんまりな感じだった。

 ルミネのようにネットを活用していなくても「炎上」と無縁ではいられない。社員が何か不注意な発言をSNSですると、ネガティブな反応が企業に帰ってくる。もし企業のビジネスに関することであれば、社員の個人的な意見であっても、「あの会社の社員が...」という大まかなとらえ方をされる。

 事前に防止するためには「多くの目でチェック」。起きてしまった後は「素早く」「ファクトに基づいた対応」などが求められる。「誤解を招いたとすれば..」「結果として..」などは禁句。多くの場合は企業側も被害者の側面もあるが、そこは前面にださない。とりあえずこれくらいは心得ておこう。

 「教科書」と銘打つだけあって、よくまとめられている。企業の勉強会などで使ってはどうだろう。

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桜風堂ものがたり

書影

著 者:村山早紀
出版社:PHP研究所
出版日:2016年10月4日 第1版第1刷 2016年11月10日 第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。この著者の作品を読むのは初めて。申し訳ないけれどお名前も知らなかった。

 主人公は月原一整。老舗百貨店の6階にある、これまた老舗の書店「銀河堂書店」の文庫担当。学生時代のアルバイト時代から数えて10年というから20代後半。売れる本を見つける才があるらしく「宝探しの月原」と言われている。そして、なかなかのイケメン。

 万引き事件がきっけけとなって、一整は銀河堂書店を辞めた。学生時代からのアルバイトを含め、書店員しかしたことがない。いやもっと以前から、本は一整と共にあった。とはいえ、すぐには書店の仕事は見つからない。導かれるように、以前からネットで交流があった田舎町の書店「桜風堂」を、一整は訪ねることにした。

 物語は、一整が訪ねた桜風堂と、一整が辞めた後の銀河堂書店、それぞれを取り巻く人々を描く。銀河堂書店の書店員たちなどたくさんの視点で、時に時間を遡ったりしながら描く。世の中の悪意と、それを上回る善意。「さあて、わたしは何をしようかな」というセリフが心に残る。皆があの人とあの本のためにできることを探している。優しさに満ちた物語だ。

 いろいろと「多すぎる」。登場人物が多い。そのそれぞれの造形を描き込むのでエピソードが多い。「実は...」という後で明かされる秘密が多い。上に書いたように語られる視点が多い(猫視点まである)。情景描写に費やす言葉も多いように思う。何よりも人の「善意」が多い。「多すぎる」かもしれないけれど、それがいい。

 最後に。本屋さんの書店員の物語だから、本屋さんの書店員が選ぶ「本屋大賞」のノミネートは「なるべくしてなった」と言える。もちろん、物語としての完成度が低ければ論外だけれど。本書はそうではない。

 しかも「書店員の物語」というだけではない。本屋大賞の設立趣旨は「売り場からベストセラーをつくる」。そのために書店の境界を越えて書店員さんが協同している。「宝探しの月原」をはじめ、登場する書店員の全員が、本屋大賞の「心」を持っている。著者もなかなかやるもんだ。

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鈴木敏文 孤高

書影

編  者:日経ビジネス
出版社:日経BP社
出版日:2016年12月27日 第1版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 編集の日経ビジネスさまから献本いただきました。感謝

 本書は、昨年4月にセブン&アイ・ホールディングスの会長兼CEOを退任された、鈴木敏文氏の半生、1963年のイトーヨーカ堂入社後の53年間を記したもの。日経ビジネスは1970年代以降、鈴木氏に繰り返しインタビューしていて、退任後も延べ10時間にわたる単独インタビューを行ったそうだ。

 流通業に関わる人で「鈴木敏文」の名前を知らない人はいないだろう。セブン-イレブン・ジャパンの実質的な創業者、いや、コンビニエンスストアという、今や生活のライフラインともいえる、業態そのものを生み出した人。そして、コンビニのセブン-イレブンを核に、流通業の一大帝国を築き上げてそこに君臨したカリスマ経営者だ。

 上に書いたように、日経ビジネスでは数多くのインタビューを行っていて、それを再編集して本書を構成している。いわばその時々の「肉声」を記録しているわけで、その迫真性は「肉声」ならではのものだ。鈴木氏のセブン-イレブンにかける思い、創業者の伊藤雅俊氏との絶妙な距離感、そして帝国の君臨者としてのわずかな危うさまで、とてもよく伝わってくる。キーワードは「変化対応」

 基本的には、鈴木氏サイドからの話しか収録されていないので、別の立場からは異論もあるだろう。しかし、同時期に勃興した中内氏のダイエーや堤氏のセゾングループなどが、次々と失速する中を勝ち抜いて、最強の流通帝国を築いた業績は、誰にもマネのできないものであることは確か。読み応えあり。

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ライフ・シフト

書影

著 者:リンダ・グラットン アンドリュー・スコット 訳:池村千秋
出版社:東洋経済新報社
出版日:2016年11月3日 第1刷発行 11月29日 第3刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の一人のリンダ・グラットンさんは、前著「ワーク・シフト」で「2025年の働き方」を展望して見せた。テクノロジーやグローバル化などの要因が変化する中で、必要とされる「仕事」に関する考え方の「転換(シフト)」を考察したものだった。本書は、その考察をさらに広げて「人生」に関する考え方の「転換」をテーマとしたものだ。

 内容の紹介の前に2つ質問。その1「「人生」と聞いて何年ぐらいのものを思い浮かべますか?」。その2「仕事をリタイアするとして、何歳ぐらいを想定していますか?」。その1の答えは「80年ぐらい?」、その2は「65~70歳ぐらいまでにはなんとか..」と、私は思っていた。みなさんはどうだろう?

 厚労省の発表によると、日本の平成27年の平均寿命(ゼロ歳の平均余命)は男性が80.79年、女性は87.05年。年金受給開始年齢は65歳で、70歳への引き上げが取りざたされている。だから、私が思っていたことも、大きく間違えていないはず。

 本書の内容の紹介。序章に衝撃的な計算結果が載っている。それはある年に生まれた人が50%に減る年齢。2007年生まれの人は104歳、1997年生まれは101~102歳、1987年生まれは98~100歳...1957年でも89~94歳。ちなみにこれは「先進国」の値で、日本ではさらに3歳程度プラスされる。要するに今後は、半分の人は100歳まで生きる「100年ライフ」の世界になる、ということだ。私が思っていたこととはかなり違う。

 これを元に本書は「人生の組み立て」を考察する。これまでは「教育」「仕事」「引退」という3つステージで分けて、人生は組み立てられてきた。「100年ライフ」では、この3ステージのモデルでは無理がある、というのが本書の考察の基礎にある。

 例えば、これまでどおり65歳ぐらいで「引退」のステージに移ると、35年とか40年の長さになる。そんな長期間の経済負担に現役の時に備えるのは無理だ。また、引退年齢を思い切って80歳に引き上げると「仕事」のステージが60年近くなってしまう。様々なものの進歩の速さを思うと、そんな長期間有用な知識やスキルを、最初の「教育」のステージだけでは培えない。

 「ならばどうするか?」本書は、1945年生まれのジャック、1971年生まれのジミー、1998年生まれのジェーン、の3人を登場させ、それぞれの人生として「あるべき姿」を描き出す工夫をしている。これが参考にはなる。キーワードは「レクリエーション(娯楽)からリ・クリエーション(再創造)へ」

 しかし「理想的なロールモデル」が存在しない、ということも「100年ライフ」の特徴なので、自分の人生は自分で考えるしかない。備えておく必要があるのは確かなようだ。

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マンガで読む真田三代

書影

著 者:すずき孔 監修:平山優
出版社:戎光祥出版
出版日:2016年1月10日 初版初刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 昨年の大河ドラマ「真田丸」はとても面白かった。視聴率もよかったようだ。主人公は真田信繁(幸村)だったけれど、前半はその父の昌幸の見せ場が数多くあった。

 実は、真田家の物語は、昌幸の父の幸綱(幸隆)から始めて、昌幸と信幸(信之)・信繁の兄弟へ至る「真田三代」として語られることも多い。本書はその「真田三代」マンガで紹介する。監修は「真田丸」の時代考証を担当した平山優さん。

 真田三代には物語にしやすいエピソードや人物が数多くある。(1)武田・村上に奪われた真田の郷を、武田に臣従することで取り返した、真田家の祖である幸綱。(2)幸綱の息子たちで、勇猛さで知られた信綱と昌輝の兄弟(昌幸の兄たち)。信綱と昌輝が長篠の戦いで戦死したのちに家督を継いだ昌幸。

 ここから先が「真田丸」で描かれた時代。(3)昌幸が徳川軍を二度にわたって退けた上田合戦。(4)大坂の陣で家康を追い詰めた信繁。(5)明治維新を越えて現在まで続く松代真田家の祖となった信幸(信之)。(6)これに信幸の妻である小松姫のエピソードを加えた6つの物語を、本書ではテンポよく時にユーモアを交えて紹介する。

 すごく面白いので、「真田丸」で真田家のことに少しでも興味を持った方は、ぜひ読んでほしい。人物事典や史跡案内、エピソード集、年表などの「資料編」つき。

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剣より強し(上)(下)

書影
書影

著 者:ジェフリー・アーチャー 訳:戸田裕之
出版社:新潮社
出版日:2015年7月1日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「追風に帆を上げよ」に続く、超長編サーガ「クリフトン年代記」の第5部。

 前作ではハリークリフトンの妻のエマが会長を務める、バリントン海運の新造旅客船「バッキンガム」の大西洋横断の処女航海のシーンで終わっている。テロリストが紛れ込んで爆発物を仕掛け、轟音が轟いた。本書はその場面の少し前から始まる。「バッキンガム」の浮沈は、クリフトン-バリントン一族の浮沈にも関わる。

 そしてテロリストが仕掛けた爆発物は、確かに爆発した。バッキンガムは辛くも沈没を免れたものの、バリントン海運は大きな痛手を受けた。本書はこうした「最悪を免れたものの、大きく後退」という状況からの、一進一退の気の抜けない攻防が描かれる。

 これまでのシリーズを通して「著者らしい」物語が続いていたけれど、本作は中でもそうだ。著者の筆運びがノリにノッている感じがする。陰謀あり、サスペンスあり、法廷劇あり、取締役会での解任劇あり、丁々発止の金融戦争あり。著者は、こんなにも多彩なストーリーを紡ぎ出す人だったのだな、と改めて気づく。

 最後に。前作のレビューの最後で「主人公がハリーから息子のセバスティアンに移った」ということを書いたが、それは誤りだった。本作ではハリーが007ばりの活躍を見せる。まだまだ楽しませてくれそうだ。

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ハリー・ポッターと呪いの子

書影

著 者:J.K.ローリング、ジョン・ティファニー、ジャック・ソーン
出版社:静山社
出版日:2016年11月11日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 ハリーポッターシリーズの8番目の物語。と言っても、これまでの7作とは少し違う。本書はシリーズ著者のJ・K・ローリングさんが書いた新たな物語を基にした舞台劇、その脚本を書籍化したもの。描かれている舞台も7作目の「ハリー・ポッターと死の秘宝」の19年後だ。

 「死の秘宝」のエピローグも「あの出来事(「ホグワーツの戦い」と言われているらし)」の19年後。ハリーの息子たちがホグワーツ特急に乗る、キングズ・クロス駅のプラットフォームのエピソードが描かれている。実は本書の冒頭は、そのエピソードとそっくり重なっている。そういう意味で、前の7作と本書は確かにつながっている。

 本書の主人公は、そのエピソードで初めて登場した、ハリーの二男のアルバス。同じくその場面にいた(ほとんど名前だけで、セリフはなかったけれど)、ドラコ・マルフォイの息子のスコーピウスが、重要な役割を担う。そう、本書は前7作でホグワーツにいた面々の、息子たちの物語。

 アルバスはハリーの息子として、重いものを背負っていた。スコーピウスもドラコの息子であるが故の偏見と闘っていた。19年経ってもなお人々は「あの出来事」を引きずっていた。世間の「目」を感じて、それぞれに孤独を抱えた、アルバスとスコーピウスの間には共感が生まれ、急速に近づいていく。

 引きずっているのはハリーも同じ、ドラコも同じ。そして一連の事件で息子を失った老魔法使いも。そんな中で、ハリーの額の傷が再び痛みだす...。
 面白かった。楽しめた。正直に言ってそんなに期待していなかった。「ハリーポッター」は既に完結した物語だし、その設定を使って「おまけ」のような話を作っても、大したものにならないだろう。そう思っていた。でも「完結した物語」の「その後」をうまく昇華した、読み応えのある作品になっていた。

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島はぼくらと

書影

著 者:辻村深月
出版社:講談社
出版日:2013年6月4日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 以前から好きだったけれど「東京會舘とわたし」を読んで、「この人の作品をもっと読みたい」と思った辻村美月さんの作品。「鍵のない夢を見る」で直木賞を受賞した後の第1作目。

 主人公は、池上朱里、榧野衣花、矢野新、青柳源樹の、女子2人男子2人計4人の高校2年生。瀬戸内海に浮かぶ人口3000人弱の島「冴島」に暮らし、フェリーで本土の高校に通う。源樹は島に来た2歳の時から、他の3人は生まれた時から一緒に育っている。保育園も小学校も中学校も..。

 物語は、島にやって来た人たちと4人の関わりを主に描く。「冴島」は現村長(「現」と言っても6期目で、もう20年以上になる)の方針で、シングルマザーやIターン者を多く受け入れている。そうしたこともあって、人の出入りが意外と多い。「島」というと閉鎖的な社会を思い浮かべがちだけれど、そうでもなくて開かれている。ただ人々の心の中までそうかと言うと..。

 瀬戸内海の島に住む男女同数の高校生4人、しかも幼馴染。青空のように澄み渡った青春群像劇。恋と友情に揺れる女心?もしかしたら男心?なんてことを思ったけれど、本書はそんなありきたりの物語ではなかった。青春群像劇だし恋も友情もあるけれど、描かれるものはもっと広く深い。すごく面白かった。

 それは登場人物のそれぞれに、何かしら背負ったものがあり、それを丁寧に描いているからだ。例えば、3年前に身重の体で島に来たシングルマザーの蕗子。簡単にではないけれど、最終的には島も彼女もお互いを受け入れて、蕗子親子は島に居場所を見つけた。例えば、島の活性化のために雇われた「地域活性アドバイザー」のヨシノ。島民さえ「どうしてそこまで?」と思うほどの冴島への献身。それはなぜなのか?

 私が一番に心を動かされたのは、小さなエピソードとして紹介された、島の母子手帳のこと。島には中学までしかない。主人公の4人は、家から高校に通う選択をしたけれど、早ければ子どもたちは15歳で親元を離れる。島のお母さんたちは、その15年間にすべてを贈るつもりで、子どもを育てる。母子手帳はそのためにある。感涙。これは名作だ。

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