書影

著 者:東山彰良
出版社:講談社
出版日:2015年5月12日 第1刷 7月9日 第4刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 2015年上半期の直木賞受賞作品。舞台となる台北の街は著者自身の出身地。主人公は著者より一回り上の世代の設定だけれど、抗日戦士だった祖父のことなど、自伝的な要素が強い作品と思われる。

 主人公は葉秋生(イエチョウシェン)。物語の始まりの時の1975年には、台北の街に住む高校生で17歳だった。布屋を営む祖父のもと、祖母、父母、叔父、叔母と大家族で住む。国民党の戦士だった祖父は、幾度も死線をくぐり生き延びた「不死身の男」だった。その祖父が、自身の店の中で殺される。

 物語は、秋生の日常を切り取りながら、その後の10年ほどを描く。喧嘩、悪友との友情、ヤクザとの抗争、軍隊生活、幼馴染との恋、別離、新しい恋。こうしたことを物語の横糸に、祖父の過去と死にまつわる謎が縦糸になっている。

 面白かった。40年前の台北はエネルギーに溢れている。時にそれは暴走気味になって、読んでいるだけで息が浅くなる。随所に出てくる狐火などの「超常現象」も含めて、何が起こっても不思議じゃない勢いが、緩むことなく最後まで続く。

 読み始めは台湾の人の名前が読みづらいけれど、すぐに慣れる。時間的には一世代前に起きた、日中戦争とそれに続く国共内戦が背景にあるので、少しでもその知識がある方がいいかもしれない。ただ、そんなことは気にせずに読んでも構わないけれど。

 ひとつ思ったこと。本書の前の直木賞受賞作「サラバ!」と似たところがある。それは人の半生(というには本書は少し短いけれど)を追ったドラマであること。長い時間軸で展開する物語には、それに対応した構想力や筆力が必要だろう。そうした作品が続けて評価されたのには、何か理由があるのかもしれない。ないのかもしれない。

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レビュー記事が1000本になりました。

1000 先日の「君の膵臓をたべたい」の記事で、このブログのレビュー記事が1000本になりました。2002年の9月に書いた「海底二万海里」が1本目で、それから13年と9カ月、続けていればちょっとした財産ができるものだなと、我ながら感心しています。そして、いろいろなことに感謝です。

 2年前にレビュー記事が800本になった時にもやりましたが、ちょっと分析してみました。

 評価は☆5が23、☆4が431、☆3が500、☆2が41、☆1が2でした(評価しなかったのが3)。☆3がちょうど半分の500で一番多いですが、800本の時は半分以上あったので、最近は少し傾向が変わってきています。私としても少し積極的に評価を付けていこうと思ってやっています。☆5は約2%。厳選された作品です。

 カテゴリーは小説が279、ファンタジーが194、ミステリーが172、その他が109、経済・実用が99、ノンフィクションが90、エッセイが31、オピニオンが22、雑誌が4です。上位3つは物語でこれで約65%、基本的に娯楽としての読書ですね。

 ただ、これも800本の時より割合が下がって、他のジャンルのものを読むことが増えています。特に、政治や社会への関心が高まる出来事が多いためか、さまざまな人の意見や提言を読むことが多く、それを「オピニオン」というカテゴリーを作ってまとめました。

 1000本になったら記念に何か作ろうと思っていました。ちなみに10周年の時には、レビュー記事のマップを作りました(「本読みな暮らし」マップ(FLASH版)(画像版))。

 今回はこんな大がかりなものを作る気力体力がありませんが(そもそもFLASHは動かない端末が増えているし)、前からあればいいなと思っていた、☆の数別の記事一覧を作りました。ご興味があるようでしたら、右のサイドバーもしくは、このリンクからどうぞ

 最後に。いつも言っていることですが、こうして本が読めるのは、暮らしに大きな支障がないからです。そのことは本当にありがたく思っています。その幸せを感じつつ、これからもレビュー記事を積み重ねていきたいと思います。

君の膵臓をたべたい

書影

著 者:住野よる
出版社:双葉社
出版日:2015年6月21日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 今年の本屋大賞第2位。公式Twitterによると55万部突破だそうだ。トーハンの調べで2016年上半期ベストセラー「単行本・文芸書」で第2位(ちなみに第1位は「羊と鋼の森」。本屋大賞の効果は抜群だ)。とにかく売れている本。

 主人公は高校2年生の「僕」。「僕」はクラスメイトの山内桜良が、余命数年の病に侵されていることを知る。そして読者は、桜良が亡くなってしまうことを、物語の冒頭の1行目で知らされる。物語は「僕」が桜良の秘密を知ってから、彼女が亡くなるまでの二人の交流を描く。

 浅いようで深い、深いようで浅い、そんな物語だった。桜良が余命数年とは思えない溌剌さで、自分の病気もジョークにしてしまう。おみくじで「病、やがて治る」とあったのに対して「治んねぇっつうの!」と悪態をつく。浅いと言うかノリが軽いのだけれど、桜良の心の中までは覗けない。そこには深い淵があるのかもしれない。

 「深いようで浅い」と感じたのは「構成」について。エピソードをもう少し積み重ねて欲しかった。詳しくは書かないけれど、さまざまな思わせぶり(私が勝手に思っているだけだけれど)な出来事が起きるのだけれど、ただ流れて行ってしまったように思う。

 そうそう「僕」にはちゃんと名前はあるのだけれど、【秘密を知ってるクラスメイト】くんとか、【根暗そうなクラスメイト】くんとか書かれている。その時々の相手が、自分をどう思っているかを「僕」が推し量った言葉のようだ。ちょっと面白い仕掛けではある。

 最後に。これまでにも何度か書いているけれど、私は「死」と「感動」を結びつける物語が好きじゃない。「読後、きっとこのタイトルに涙する」「ラスト40ページは涙涙涙」という、本書の帯の惹句もちょっとイヤだ。これがなければ泣けたかもしれない。

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ネット炎上の研究

書影

著 者:田中辰雄 山口真一
出版社:勁草書房
出版日:2016年4月25日 第1版第1刷 5月20日 第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の二人は共に、大学の計量経済学の研究者。経歴を拝見すると、どうも師弟関係にあるのでは?と推測される。本書は「ネット炎上」を、計量経済学の統計分析の手法を用いて解き明かしたレポート。

 ネットにおける炎上事件を取り扱った本は「ネットが生んだ文化」「ウェブはバカと暇人のもの」などがあった。特に「ネットが生んだ文化」は、「炎上」がごく少数の人によって引き起こされることを明らかにしたところなど、なかなか読み応えがあった。

 本書の分析でも、この1年で炎上事件に書き込んでいるのは、インターネットユーザの0.5%としている。しかも、その多くは一言感想を述べる程度で、直接当事者に攻撃を加えるのは、0.00X%のオーダー(つまり10万人に数人)と算出している。

 これを踏まえた上で、本書の特長は2つ。ひとつ目は炎上に加わる(率の高い)人のプロフィールをはじき出したこと。若い/子持ちの/男性で/年収が高く/ラジオをよく聞き/ソーシャルメディアをよく使い/掲示板に書き込む/ネットでいやな思いをしたことのある人。住んでいる場所や結婚や学歴などは関係がなかった。どうだろう?私は、ちょっと意外だった。

 もうひとつは、社会的コストの観点から炎上を考察したこと。炎上を放置したり、回避するために発言を控えたりすることは、自由で多様な言論空間を損なう。それは本来得られるネットの効用を失うという意味で、社会的コストになる、という考え方だ。

 詰めが甘いところはあった。調査結果から数字を理詰めて分析してきたのに、最後の方で「仮に1割とすれば」と、唐突に裏付けのない仮定が入る。4つの炎上事例(だけ)から、攻撃を行うのは「コミュニケーション能力に難がある一部の特異な人」と結論してしまう。(私の理解では)数値の誤植もある。

 ただし、そういうことを差し引いても、新しい知見を示した優れたレポートだと思う。

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君にさよならを言わない

書影

著 者:七月隆文
出版社:宝島社
出版日:2015年8月20日 第1刷 2015年12月23日 第6刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 100万部のベストセラーで映画化も決まった「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の著者による、心温まるも切ない物語。

 主人公は須玉明。高校生。彼には幽霊が見える。交通事故で生死の境をさまよい、目が覚めたらそうなっていた。その明が、初恋の幼馴染や高校の同級生ら、若くして亡くなった少女たちと出会う、4つの物語をつづる連作短編集。

 明が出会う少女たちは幽霊だ。亡くなってもこの世に留まっているのは、心残りなことがあるからだ。伝えられなかった言葉がある、やり残したことがある、残してきた友達が心配、誤解されたままになっている。しかし、幽霊の身では見ていることしかできない。

 少女たちにしてみれば、そんな時に自分の姿が見えて声も聞こえる、同じぐらいの年の男の子に出会ったわけで、多少強引でも協力させてしまう。明も、少女たちの積極さに押されながら、協力を惜しまない。

 「心温まるも切ない物語」と書いたけれど「切ない」気持ちが勝った。それぞれに「心残り」を果たして、それは本当によかった。けれども「心残り」を一つだけ果たして、それだけでいいの?と考えてしまう。十代の少女たちの潔さに対して、私の問かけは何とも未練なことだけれど。

 「死後のやり直しのチャンス」は、昔から映画や小説で数多く描かれてきた。それだけ「この世に残した未練」は不変のテーマなのだろう。無粋なことを言うが、普通はこんなチャンスには恵まれない。未練のないように日々を暮らしたいものだ。

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僕の仕事はYouTube

書影

著 者:HIKAKIN
出版社:主婦と生活社
出版日:2013年7月29日 第1刷 2014年5月16日 第9刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 少し前に「小学生男子に将来の夢で「ユーチューバー」が3位に入った」というニュースが流れた。小学生に「ユーチューバーという職業」を浸透させた一番の人物は、本書の著者のHIKAKINさんで間違いないだろう。私は仕事で小学生と話すことがあるのだけれど、「ヒカキン」の話題を何度も聞いたことがある。

 帯によると、著者はYouTubeで「総登録者数356万人」「総再生回数7億5千万回超」という、日本一のユーチューバーだそうだ。本書はその著者が「日本一のユーチューバーになるまで」「アクセスUPの秘訣」「成功の陰の落とし穴」などを記したもの。

 著者の動画を見た印象が「お調子者」という感じだったので、読む前は、本書も「調子がいい割に中身のないハウツー本」かと思った。読み終わって思うのは「そんなに悪くない」という感想だった。

 「お調子者」なのはウケルための演技か、そうでなければ著者の一面に過ぎないのだろう。読者のために真面目に書かれたものだし、「秘訣」は実践的でもある。編集者が手を入れているとしても、これだけ物事を整理して書けるのは、ひとつの才能だと思う。

 「ユーチューバーになりたい」という小学生は、本書を読めばいいかもしれない。ただし、それは「ユーチューバーになるのは簡単じゃない」と知るためだ。今の著者があるのは、努力と集中力と忍耐力の結果だと分かるためだ。

 ユーチューバーを目指して読むのなら、都合のいいところだけ都合よく読むのではなくて「自分はHIKAKINと同じようにできるだろうか?」と自問しながら読んで欲しい。そういう読み方ができないのなら、読まない方がいい。そういう人(大人も含めて)には危険な本だと思う。

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本を読む人だけが手にするもの

書影

編  者:藤原和博
出版社:日本実業出版社
出版日:2015年10月1日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者は元リクルートのフェロー(年俸契約の客員社員)。それよりも東京都で義務教育では初の民間校長となった「元杉並区立和田中学校校長」、と言った方が分かる方が多いかもしれない。その後は、自治体や首長の特別顧問やアドバイザーなどを歴任している。

 このタイトルに加えて、見返しには「これから先の日本では(中略)「本を読む習慣がある人」と「そうでない人」に二分される”階層社会”がやってくるだろう」と書いてある。「本を読む習慣がある人」だと自分で思っている私にとって、とても魅力的に見えた。

 「読書の効用」をうたう本は他にも多くある。本書も読書は「想像する力」「集中力」「バランス感覚」などなどが身につく、という効用をうたう。本書の特長はそういった個別の効用を挙げるだけなく、読書が「人生を切り拓くためには欠かせない」という筋を一本通していることだ。

 かつては「ちゃんと」していれば、みんな一緒に幸せになれた。しかし成熟社会を迎えて「みんな一緒に」はなくなり、「人生を切り拓く」ためには、一人ひとりが「自分の幸福論」を築かなくてはいけい。そのためには、知識・技術・経験の蓄積が必要になる。それらを得るには読書が欠かせない。

 読書で身につく効用のうち、特に印象に残ったことを一つだけ。「複眼思考(クリティカル・シンキング)」のことだ。「複眼思考」というのは、一つのことを「反対側から見たら違うのではないか?」と、別の視点から見てみることだ。

 テレビでコメンテーターの意見を聞いたら、「そうじゃないんじゃないか?」と一旦は疑って検証する。そういうことを繰り返す方法でしか「自分の意見」は得られない。それをしないで「なるほどそうか」と受け入れてしまったら、それはコメンテーターの意見であって、自分の意見ではないからだ。

 この複眼思考による検証には、経験や知識のたくさんのインプットが必要になる。ちょっと逆説的だけれど、たくさんの人の意見にも触れた方がいい。個人ではそれらを「生の体験」として得るのは難しい。それを補うのは「読書」で得る「他人の体験」だ、というわけだ。

 最後に。巻末に「これだけは読んでほしい」と思う本・50冊、というブックリストが付いている。ここだけでも目を通しておく価値ありだと思う。

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真夜中のパン屋さん 午前4時の共犯者

書影

著 者:大沼紀子
出版社:ポプラ社
出版日:2016年3月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「まよパン」シリーズの第5弾。前作「午前3時の眠り姫」が2013年10月の発行だから2年半ぶりの新刊、ということになる。

 このシリーズは午後11時から午前5時までの、真夜中に開いているパン屋「ブランジェリークレバヤシ」を舞台にした物語。そのパン屋に転がり込んできた居候の高校生の希実が主人公。当初は真夜中の店に集う「怪しいお客」とちょっといい人情話、という印象の物語だった。

 巻を追うごとに、希実にまつわる秘密に焦点が当たって来た。最初は、「ブランジェリークレバヤシ」の亡くなった奥さんの美和子とは「腹違いの姉妹」だ、ということだった。それはウソなのだけれど、美和子と希実、そして希実の母の律子には深い縁があった、というところまで前回までに語られた。

 そして本書は、希実が律子と1年半ぶりに会う場面から始まる。そこから、希実にとっては(読者にとっても)ジェットコースターのような驚天動地のストーリーが最後まで続く。それも約560ページ、これまでの巻のざっと6割増しの分量。読み応えアリ。

 希実の出生からさらに遡って、美和子と律子の交遊が描かれる。律子は、希実を置いて度々姿をくらましてしまい、希実は放置されて生きてきたように思っていたが、意外と沢山の大人の目が注がれていた。著者がこんな物語を用意していたとは思わなかった。

 「ブランジェリークレバヤシ」の営業時間を考えると、次作が最終巻か?楽しみであり寂しくもあり。

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羊と鋼の森

書影

著 者:宮下奈都
出版社:文藝春秋
出版日:2015年9月15日 第1刷発行 2016年4月15日 第10刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 今年の本屋大賞受賞作。著者の宮下奈都さんの作品を読むのは「誰かが足りない」以来(他には「Re-born はじまりの一歩」の中の短編も)。

 主人公の名前は外村。北海道の山の集落で育ち、高校生の時の偶然の経験をきっかけに、ピアノの調律師になった。本書は、外村がピアノの調律師として楽器店に就職してからの2年あまりを描く。

 外村は、ピアノが弾けない、音感がいいわけでもない。それでも調律師として仕事を任されるようになり、一進一退しながらも、評価してくれる顧客も現れる。それは、良き先輩調律師たちに囲まれたからと、山育ちの外村が他の人が持っていないものを持っていたからだ。

 彼の中にはたくさんの「美しいもの」が蓄えられていた。そのことに彼自身が気付く場面は印象的だ。彼は物事を素直に見つめる目を持っていた。本人は意識せずとも、そのことが顧客の少女を救い、その少女が彼を導くことになる。

 本屋大賞で書店員さんの評価が高いのも分かる気がする。読んでいて心地いい。できれば長く読んでいたい。読み始めてすぐに、ずい分前に読んだ小川洋子さんの「猫を抱いて象と泳ぐ」を思い出した。その時のレビューに「静謐な音楽か詩のような文章」と私は書いているけれど、本書もまさにそんな感じだ。

 もっと言えば、本書はピアノの調律を主題にしているからか、「音楽」そのもののようにも感じる。中山七里さんの「さよならドビュッシー」もそうだったけれど、本書からは「音楽」が聞こえてくる(ような気がした)。

 本を読んでいると時々、こんなふうに文章からリアルな感覚が呼び起こされることがある。そんな「文章の力の可能性」を感じる作品だった。

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フロム・ミー・トゥ・ユー

書影

著 者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2013年4月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第8弾。

 東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」を営む堀田家の下町大家族物語。毎回ミステリー仕立ての心温まる話が楽しめる。今回は、いつもと少し趣向を変えて、堀田家だけでなく脇役の皆さんも含めた、11人が代わる代わるに語りを務める短編集。

 順番に言うと、堀田家の長男の紺さん、次男の青さんの奥さんのすずみさん、フリーライターの木島さん、紺さん奥さんの亜美さん、IT企業の社長の藤島さん、ちょうど真ん中の6人目が紺さんたちのお母さんの秋実さん。

 後半は、まずは青さん、紺さんの息子の研人くん、近所の小料理居酒屋の真奈美さん、真奈美さんのお店の板前の甲さん、最後が堀田家のおおばあちゃん(紺さんたちのおばあちゃん)のサチさん。

 堀田家には今4世代が同居している大家族。それぞれに語るべき物語がいくつもある。今回、これまでに少しだけ触れられたり、まったく語られなかったことが、まとまった形で読者に示された。読者サービスの巻と言えるだろう。

 どの話もしみじみと面白かった。でもひときわ注目されるのは、秋実さんの物語だろう。堀田家の人が心を寄せる太陽のような人。でも、数年前に亡くなったために、これまでほとんどエピソードが語られなかった。シリーズの読者なら関心があったはずだ。

 秋実さんの物語が読めて、私は大満足だ。ただ、更なる欲が出て来た。意図的にだと思うが、秋実さんの物語は10ページしかなくて、他と比べても極端に短い。長編にならないかなぁ。

 2014年に書いた前作の「レディ・マドンナ」のレビューで、「早く続巻を望む」と書いているけれど、その時すでに本書は出版されていた。その後に続編が出ているのも知らずにいた。現在第10弾まである。楽しみが増えた。

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