死もまた我等なり(上)(下)

書影
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著 者:ジェフリー・アーチャー 訳:戸田裕之
出版社:新潮社
出版日:2013年10月1日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「時のみぞ知る」の続編。「クリフトン年代記」という超長編サーガの第2部。ちなみに日本では第3部までが既刊で、英国では第4部が今年の3月に刊行されている。情報によると第4部でもまだ完結していないそうだ。どれだけ続くのか予想できない。

 前作と同じように、数人の登場人物の物語が章ごとに入れ替わって綴られる。前作の最後で主人公のハリーは、米国行きの船旅の途中で、ある事情によって別人に成り替わった。その人物は米国で殺人容疑で手配されていたらしく、米国に上陸するなり逮捕されてしまった。そんなわけで、物語のハリーのパートは舞台が英国から米国に移って展開される。

 ハリーのパートは刑務所の中。実は著者のアーチャー氏は、ベストセラー作家であり、元国会議員であり、男爵の爵位を持っていて、なおかつ服役の経験がある。これまでにも刑務所内を舞台にした作品がいくつかあるのだけれど、今回のストーリーにもその経験が生かされている(のだろう)。

 描かれているの1940年を中心とした10年間で、第二次世界大戦の戦禍が世界中に拡大して終結した時代だ。当然本書のストーリーにもそれは色濃く反映している。ハリーも親友のジャイルズも戦地に赴き、悲しい経験をする。

 ハリーをはじめとした男性陣は、頑張ってはいるけれど周囲の状況に翻弄され、戦争の時代に巻き込まれてしまっている。それに対して女性陣の、ハリーの母のメイジーや婚約者のエマは、何とも頼もしく自ら道を切り拓いていく。特にエマなんて生死不明のハリーを探しに単身渡米してしまうのだからすごい。ハリーよりエマのパートの方が面白い。主人公を食ってしまっている。

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Story Seller annex(ストーリーセラー アネックス)

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編  者:新潮社ストーリーセラー編集部
出版社:新潮社
出版日:2014年2月1日 発行 2月10日 2刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「Story Seller」「Story Seller2」「Story Seller3」に続いて、本書が「Story Seller annex」。なぜ4ではなくannexなのかは分からない。裏表紙に「姉妹編」と書かれているけれど、なぜ「姉妹編」なのかも分からない。とにかく大好評アンソロジーシリーズの第4弾。

 大好評にはいろいろな理由があるだろう。ただ一番に言えるのは執筆陣の豪華さ。本書では道尾秀介、近藤史恵、有川浩、米澤穂信、恩田陸、湊かなえ、の当代きっての超人気作家6人の競演。1冊でこの6人の作品が読める。これはおトクだ。

 道尾秀介さんの「暗がりの子供」は、小学生の女の子が主人公の不穏な空気が漂う物語。近藤史恵さんの「トゥラーダ」は、代表作「サクリファイス」から続く自転車ロードレースが舞台(初出は「サヴァイヴ」)。有川浩さんの「R-18」は、「非実在青少年」という珍妙な言葉を生み出したあの規制と闘っている。

 米澤穂信さんの「万灯」は、80年代のエネルギー開発の最前線で戦う商社マンの苦渋をハードボイルドに描く。恩田陸さんの「ジョン・ファウルズを探して」は、英国人の作家ジョン・ファウルズの足跡を訪ねた評論。

 そして、湊かなえさんの「約束」が、本書の中では一番良かった。国際ボランティア隊の隊員としてトンガに赴いた女性の物語。彼女には日本を離れた理由と、はっきりさせなければいけない問題と、これらの根にある「約束」があった。

 湊さんの作品を読むのはこれが2作目。私は、子どもがつらい目に会う話は苦手で、湊さんはそれを描く作家さん、という先入観があって長く敬遠していた。しかし前に読んだ「Story Seller3」の「楽園」も、本書の「約束」も、そんな心配は杞憂だった。

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スモールマート革命 持続可能な地域経済活性化への挑戦

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著 者:マイケル・シューマン 監訳:毛受敏浩
出版社:明石書店
出版日:2013年9月30日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 以前に新聞の書評欄で紹介されていて興味を持った本。

 本書の主張をうまく言い表す言葉がある。「ローカル・ファースト」。これは米国の「地域経済活性化ビジネス協議会」という団体が掲げるスローガン。訳すとすると「地元優先」。「地元のモノを買おう(バイ・ローカル)」の考えを中心として、投資や人材育成から政策決定、エネルギー資源に至るまで、地元を優先的に考える(地元にないものは、できるだけ近くの外部から移入する)。こうした地元のリソースを最大限利用する経済活動を示唆するものを、本書では「スモールマート」と呼んでいる。

 例えば、同じものを買うのであれば全国チェーンではなく、地元資本のお店で買おうということ。これは、これまでにも様々な場所で唱えられてきた考えではある。そして、理念としては分かるけれども、全国チェーンの方が安いし便利だし...というのが大方の反応だと思う。

 本書の特長はその反応を覆すべく、地元資本のお店で買うことのメリットを追求したこと。地元のお店で買ったお金は、その一部が給与として従業員に支払われ、その従業員は近所の映画館でチケットを買い...と循環する。お金が地元に留まっていれば、それだけ地元が活性化する。問題はどのくらい留まるか?ということだ。

 この「どのくらい」を経済用語で「乗数」というのだけれど、全国チェーンで買うと当然この「乗数」が減少する。ある調査によると地元の書店で支払われた100ドルのうち44ドルが地元で流通したのに対し、チェーンの書店では13ドルだった。こんな感じで、チェーン店で買うと、お金は外に漏出していってしまう。それによって地元は、経済、雇用、納税、安定性を傷つけられてしまう。

 本書は、このようなことを数値や実例を挙げながら、ほんとうに根気強く説明する。現在TPP交渉が重要な局面を迎えているようだけれど、この本の内容に沿えばTPPに利はない、国益もない。そうは言ってもグローバル経済に参加できなくてもいいのか?という意見もあるだろう。著者はその点にも答えている。「「他に方法はない(There Is No Alternative )」を受け入れる必要はない」。このスモールマートが代替案なのだ。

 最後に。とても胸に落ちた言葉を紹介する。「一回一回の買い物は基本的には一種の投票行動」というものだ。それはそのお店への投票であり、そうしたビジネスとコミュニティへの投票、つまり賛同の意思表示なのだ。政治の選挙はたまにしか行われないが、買い物は毎日でもできる。しかも誰でも(子供でさえ)参加できる。

 実は、私が入っているSNS「本カフェ」でも似た話になったことがある。「里山資本主義」を読んで、では私たちに何ができる?となった時に、「地元のものを買うぐらいかな」と..。そのぐらいしかできることはないねぇ、という幾分ネガティブな意味合いだったけれど、「そのぐらい」であっても、投票行動・意思表示であるならば、続けることで何か変わるかもしれない、と思った。

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女のいない男たち

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著 者:村上春樹
出版社:文藝春秋
出版日:2014年4月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 村上春樹さんの最新刊。「東京奇譚集」以来9年ぶりの短編集。「ドライブ・マイ・カー」「イエスタデイ」「独立器官」「シェエラザード」「木野」「女のいない男たち」の6編を収録。

 表題作「女のいない男たち」が書下ろし、その他は昨年の11月から今年の2月にかけて文芸誌に掲載された作品。しかしよくあるような、「短編が何本かたまったのでまとめて単行本にしました」という形態のものではない。「女のいない男たち」という言葉をモチーフとした一連の作品群として執筆されたものだ。

 正確には「女を失った」男たちの物語が綴られている。「ドライブ・マイ・カー」は妻を亡くした俳優、「独立器官」は恋人に裏切られた医師、「木野」は妻の不義が理由で離婚したバーの店主、「女のいない男たち」は昔付き合った女性を亡くした男の物語。「シェエラザード」は軟禁状態にある男が主人公で、連絡係の女性を失う予感がする。「イエスタデイ」が描く男は、失う以前にある女性を得ることができない。

 こんな感じで、モチーフが同じなので当然なのだけれど、設定が似通ったものになっている。では、似通った物語が並んでいるのかというとそうではない。それは、若者たちのユーモアを含んだ乾いた会話であったり、大人の男の少し強がった回顧であったり、キリキリとねじ込むような破滅であったり、フワフワと現実感の乏しい物語であったり、得体のしれないモノの影が見える奇譚であったりする。

 上に書いたようなバリエーションは、過去の村上作品のどれかを思い出させる。また、本書で描かれるような「欠落」は、村上作品の多くでテーマとなっていることもあり、それぞれ雰囲気がどれも違うけれど、どれも「村上春樹らしい」。だから、村上春樹ファンには馴染のある本となるだろうし、そうでない人は、長編ほどには読む負担がかからないので、気軽に読んでみたらどうだろう?

 「らしさ」をもう2つ指摘する。1つ目は、「女のいない男たち」がモチーフだから仕方ないかもしれないけれど、どれもこれもセックス絡みの物語だということ。2つ目は、短編だからそうなのかもしれないけれど、着地点のないエピソードが少なくないこと。これらの内の一つぐらいは、もしかしたら長編に取り込まれて再生されるのかもしれない、と期待している。

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下りのなかで上りを生きる

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著 者:鎌田實
出版社:ポプラ社
出版日:2014年3月5日 第1刷発行 3月22日 第2刷
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は諏訪中央病院の院長を永く務め、現在は名誉院長。長期にわたって地域医療に尽力した方で、長野県の男女とも長寿日本一との関連でお名前を伺っていたこともあり、「尊敬できる人物」というイメージを持っていた。その著書ということで手に取って見た。

 タイトルが表すことは次のとおり。右肩上がりの経済のなかで身につけた「上り坂」を生きる思想はもう古い。日本はもう下り坂に差し掛かっている。だからと言って「もうダメだ」と投げやりになることなく、ちょっとした良いことを見つけて実行しよう。

 政府は「アベノミクス」で日本経済の回復を目論んでいて、庶民はその果実を受け取るまでの間は痛みを甘受すべし、という雰囲気の中では、一種の「逃げ道」のような考え方だ。しかし私はこれは卓見だと思う。楽観的に構え、つながりを大切にし..といった著者の考えは、私たちが自分の考えで実行できる。これからの生き方の参考にしたい。

 それは「楽観力」「回転力」「潜在力」「見透す力」「悲しむ力」「突破する力」という言葉で表されている。特に印象に残ったのは「回転力」。暖かい心遣いやお金など他人から受けたものを、誰か他に人に渡すことを指している。これによって善意やお金がグルグルと回る。善意の回転は「絆」という言葉を、お金の回転は「経済」を、抽象的な2つの言葉の意味を、具体的な行動に落とし込んだ明察だと思う。

 ちょっと意外に思ったこともあった。本書の多くの部分がチェルノブイリと福島の原発事故と、その後の経過のことに割かれている。著者はチェルノブイリの放射能汚染地域にも、福島の支援にも通い続けている。チェルノブイリでも福島でも、原発事故という「絶望」の中で、暖かい人の絆も逞しく生きる人々もいる。だから二つの原発事故のレポートは、本書のテーマとの間に齟齬はない。しかし、その力の入れようを考えると原発事故の、特に3年経過した福島の現状を広く伝えたいという意図があったのだと思う。

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祈りの幕が下りる時

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著 者:東野圭吾
出版社:講談社
出版日:2013年9月13日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 昨年9月に発行された著者の近作。第48回吉川英治文学賞受賞。ノンシリーズ作品だと思って読み始めたのだけれど、十数ページで登場人物が「加賀」の名前を告げる。なんと「加賀恭一郎」シリーズだった。否が応でも期待が高まる。

 テレビドラマのように、場面ごとに登場人物が入れ替わるのだけれど、主役は加賀の従兄弟で警視庁捜査一課の刑事の松宮。足立区の小菅で遺体が発見された殺人事件の捜査を描く。加賀は日本橋署の刑事だから「管轄外」だ。

 刑事たちの地道な聞き込みによって、捜査の輪が狭まっていく様はとてもスリリングで、本書の魅力はそこにある。「どれだけ無駄足を踏んだかで捜査の結果が変わってくる」加賀の父親の口癖だというこの言葉が生きる展開だった。

 また、徐々に明らかになる事件の背景が悲しい。殺人という行為は許されるものではないけれど、「悪人だから」事件を犯してしまうわけではない。物語の終わりに判明する「犯人」の描写までが細やかなことも魅力のひとつだろう。

 本書にはさらにもうひとつ、シリーズ作品としての魅力がある。加賀恭一郎その人自身について、かなり深く描かれていることだ。事件を追う中に、加賀の生い立ちが垣間見える。彼が「新参者」で日本橋署に来て、街に溶け込み街の隅々に気を配るような捜査をするのには、理由があったことが分かる。

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ニッポンの大問題 池上流・情報分析のヒント44

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著 者:池上彰
出版社:文藝春秋
出版日:2014年3月20日 第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の池上さんは、何でも分かりやすく教えてくれる。経済・政治・時事・国際・宗教について「池上さんに教えてもらおう」式の本は、いったい何冊あるんだろう?と思う。かく言う私も教えてもらいたくなって、時々著者の本を手に取ることになる。

 振り返ってみると著者の本を読むのは、「大人になると、なぜ1年が短くなるのか?」という対談本から始まって「14歳からの世界金融危機。」「知らないと恥をかく世界の大問題」「日本の選択 あなたはどちらを選びますか?」ときて、これで5冊目だ。

 本書は、週刊文春に連載中のコラム「池上彰のそこからですか!?」の、2013年2月21日号から2014年1月30日号掲載分を、大幅に加筆、修正したもの。このコラムをまとめた新書は「池上彰の「ニュース、そこからですか!?」
」「池上彰のニュースから未来が見える
」に続いて3冊目になる。

 「ニッポンの大問題」「トウキョウの大問題」..以下「教育」「中国」「アメリカ」「世界のモメゴト」「新興国」とそれぞれ章を立てて、様々な角度からみた日本を取り巻く問題を解説する。アベノミクス、特定秘密保護法、東京都知事選、教育改革、尖閣問題、米国大統領選、北朝鮮、シリア...時事問題が次々と俎上に載せられる。

 書いてあることがスルスルと頭に入ってきて、心地よい気持ちさえする。それはとてもいいことなのだけれど、少し注意が必要かもと思った。著者の説明が分かりやすいことと、著者の意見が私の価値観に合っていることが、心地よさの理由。でも、分かりやすさは単純化の危険を免れないし、耳触りのよい話だけでは視野狭窄に....いやいや、これはひねくれ過ぎだ。素直に「いい本だった」と認めよう。

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富者の遺言 お金で幸せになるために大切な17の教え

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著 者:泉正人
出版社:サンクチュアリ出版
出版日:2014年4月10日 初版第1刷発行
評 価:☆☆(説明)

 出版社のサンクチュアリ出版さまから献本いただきました。感謝。

 著者は「ファイナンシャルアカデミー」という「経済とお金の教養が身につくマネースクール」の設立者で代表。誰もが関わり、時には人生を左右するものなのに、日本には「お金」について学ぶ機会があまりない。そんな現状に対して「お金」について学ぶ場としてスクールを設立し、同じく「お金」について語るきっかけとして本書を記したそうだ。

 主人公は後藤英資という30代の元銀行員。2年あまり前に銀行を辞め、テイクアウトのおにぎり屋を起業した。本書の大半は彼が街で知り合った老人に話す、おにぎり屋の顛末で構成されている。彼の店は、起業してすぐに成功へと登りつめ、またすぐに転落していったのだ。

 話相手の老人の正体は、物語の結末まで分からない。しかし、後藤の話に合いの手を入れ、時に教え諭すように話す「お金の話」が、本書のキーポイント。例えば「お金はその人を映す鏡なんだよ」と言って、お金の使い方について話したりする。

 老人の話はなかなか含蓄があっていい。ただ正直に言って掴みどころがなくて、なかなか響いてこない。やはりこういった話は読む側にも実感が必要で、そのための経験が私にはないのだろう。(幸いお金で大きな失敗はない(成功もないけど))。気楽に読める易しい小説仕立ての「お金の話」という感じだ。

 最後に。サブタイトルが「お金で幸せになるために大切な17の教え」なのだけれど、何をどう数えれば17個になるのか分からない。確かに17章あるけれど、章ごとに「教え」があるわけでもない。帯の「驚きの結末に涙が止まらない」も煽り過ぎだと思う。宣伝だから多少は大目に見るとしても、期待を裏切って信用をなくしては意味がない。本書の中で、老人が「信用の力」について教えてくれているように。

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皇帝フリードリッヒ二世の生涯(上)(下)

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著 者:塩野七生
出版社:新潮社
出版日:2013年12月20日発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 古代ローマの1200年の歴史(「ローマ人の物語」全15巻)を描き切ったと思ったら、「ローマ亡き後の地中海世界()()」、「十字軍物語()()(3)」と、コンスタントに著作を発表し続ける著者。熟練の職人のようなストイックさと気迫が感じられる。

 本書は、13世紀の初めの神聖ローマ帝国皇帝・シチリア王のフリードリッヒ二世の生涯を描いたもの。正直に言って「抜群の知名度」という人物ではないだろう。私はよく知らなかった。しかし同時期の年代記作者にラテン語で「STVPOR MVNDI(世界の驚異)」と称され、ヨーロッパの教養人ならこう言えば誰のことか分かる、という傑出した人物なのだそうだ。

 如何に傑出した人物であったかは、本書を読めば分かる。例を挙げると、彼は、ヨーロッパ初の国立大学である「ナポリ大学」を創設し、十字軍を率いてパレスチナに赴いて無血で聖都イェルサレムを解放し、「メルフィ憲章」を発布して法治国家を実現した。つまり、文化芸術学問を理解し、軍事の才能に秀で、開明的な統治者であったのだ。

 しかし当時は教会の権威が絶対の時代。彼は、教会の権威を傷つけたとして何度も法王によって「破門」されてしまう。生まれるのが早すぎたのだ。文化芸術学問が花開くのは、これより100年後のルネサンスのころで、彼が構想した統治機構は、570年後のフランス大革命を待たないと再び歴史に登場しない。

 このような感じで、フリードリッヒ二世の業績と、法王との激突の歴史が、臨場感あふれる筆致で描かれている。私としては本書は著者の代表作になるのではないかと思う。

 ところで、これまでの著作から、著者がカエサルが大好きだということが分かっている。カエサルほど男くさくないけれど、きっと著者はフリードリッヒ二世のことも好きになったんだろうな、と思う。

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ファーガス・クレインと空飛ぶ鉄の馬

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著 者:ポールスチュワート 訳:唐沢則幸
出版社:ポプラ社
出版日:2005年11月 第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 久しぶりの海外ファンタジー。本書は、大河ファンタジー「崖の国物語」シリーズの著者の作品。「崖の国」よりは、少し低年齢の子どもでも楽しめるワクワク感のある物語。

 主人公はファーガス・クレイン。9歳の男の子。パン屋さんに勤めるお母さんと二人で暮らしている。お父さんはファーガスが生まれる前に航海に出たきり帰って来ていない。

 そのファーガスのもとに、機械仕掛けの空飛ぶ箱が3晩続けて飛んでくる。最初の夜には箱の中にはファーガスの名前を尋ねる手紙、次の夜にはお母さんとお父さんの名前などを尋ねる手紙。そして3晩目には「君に危険がせまっている!」という警告!

 最後の警告の手紙には「音信不通だったテオおじさん」という署名があった。さて「テオおじさん」とは何者なのか?ファーガスに迫る危険とは何なのか?そもそも危険が迫っているというのは本当なのか?...と滑り出しは上々。

 そのあともワクワク感満載。タイトル通りに「空飛ぶ鉄の馬」はもちろん、楽しいメカがいくつも登場する。冒険あり、海賊あり、宝探しあり、友情もあり。屈託なくページをめくってワクワクしよう。

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