22.有川ひろ

みとりねこ

書影

著 者:有川ひろ
出版社:講談社
出版日:2021年8月11日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 これだけの粒ぞろいの短編を「猫しばり」で書けるなんて、すごい「猫愛」だなぁ、と思った本。

 猫が重要な役割で登場する短編を7編収録した短編集。そのうちの2編は著者の9年前の作品「旅猫リポート」の外伝、1編は同じく5年前の「アンマーとぼくら」の前日譚にあたる。

 外伝の2編は「ハチジカン」と「こぼれたび」。「旅猫リポート」の主人公の猫ナナの飼い主であるサトルの子どもの頃の物語と、「旅猫リポート」と同時期に、サトルが訪ねていった先の男性を主人公とした物語。どちらも切ないストーリーだった。とりわけ「こぼれたび」には涙した。

 「アンマーとぼくら」の前日譚は「猫の島」。「アンマーとぼくら」の主人公のリョウの子どもの頃の物語。リョウと父親のカツさん、カツさんの再婚相手の晴子さんの3人の二泊三日の旅行。3人で積み重ねていったエピソードの一つを切り取った、生き生きとした写真のような物語。「カツさんってホントに..」と思った。

 その他には「トムめ」「シュレーディンガーの猫」「粉飾決算」「みとりねこ」の4編。どれも猫への愛情がほとばしるような作品だった。面白かったのは「シュレーディンガーの猫」。主人公は漫画家の妻の香里。夫は「生き物としての全てのスキルを漫画に全振りしているような男」。その家庭に赤ちゃんと同時に子猫が来た。香里の「男前」さが際立つ。

 「旅猫リポート」は「アンマーとぼくら」も、どちらも心を打つ名作だった。著者のファンとしては、そのスピンアウトを読めるのがとてもうれしい。思い出して(思い出すために?)「旅猫リポート」と「アンマーとぼくら」をもう一度読んだ。改めて感動。やっぱり名作だった。

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イマジン?

書影

著 者:有川ひろ
出版社:幻冬舎
出版日:2020年1月25日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 有川さんのこういう物語を読みたかった、と思った本。

 主人公は良井良助(いいりょうすけ)。27歳。子どものころ「ゴジラVSスペースゴジラ」をテレビで見て、自分が住む別府の街をゴジラが踏み潰していくのに衝撃を受けた。物語と現実がつながった。それを作る人がいる。そして「作る人」になりたい、と思った。

 そんな良助だけれど、物語の初めには歌舞伎町のキャバクラの呼び込みバイトだった。ある日バイトの先輩格の佐々賢治に誘われて、連続ドラマの撮影現場の制作アルバイトとして働くことになった。「作る人」の側になったわけで、ここで人生の歯車が回り出した感じ。

 この後は、良助の映画やテレビ番組の映像制作の現場での良助の奮闘を(端的に言って良助は「即戦力」だ)、良助が所属する制作会社「殿浦イマジン」の面々のエピソードを挟みながら描く。関わった作品は5つで、それぞれに個性的な監督、スタッフ、キャストが揃っている。著者の手にかかれば面白くないはずがない。

 それから有川ファンなら「これは!」と思うことが多々ある。例えば良助が最初に関わるドラマの名前は「天翔ける広報室」。空幕広報室が舞台だ。番組内に披露宴の祝辞もある。「みちくさ日記」という雑草(もちろん雑草という草はないのだけれど)を美味しく食べる番組もある。キャストの炎上事件と原作者のコメントも...

 有川さんのこれまでの、すべてとは言わないけれど、多くをブッ込んだ作品。ファン必見(有川さんの「観る権利、観ない権利」に賛同しない人を除く)

 最後に。最高に光っていた言葉を引用。「全力を尽くしてもままならないことがある。それでも全力を尽くす。ままならないながらも尽くした全力も、いつか明日に繋がる。

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倒れるときは前のめり ふたたび

書影

著 者:有川ひろ
出版社:KADOKAWA
出版日:2019年10月31日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 土佐弁でいう「はちきん」は、こういう人のことを言うのだろうな、と思った本。

 私が大好きな有川ひろさんのエッセイ集。タイトルから分かるように、2016年に出たエッセイ「倒れるときは前のめり」の第2弾。ちなみに著者は2019年2月に「有川浩」から「有川ひろ」にペンネームを改めた。本書は単行本としては「有川ひろ」名の最初の作品。

 収録されているのは、産経新聞大阪版、他の作家の書籍に書いた解説、著者のブログ「有川ひろと覚しき人の「読書は未来だ!」」の記事など、41本のエッセイと、特別収録小説として短編が2本。エッセイには「振り返って一言」という書きおろしコメントが付いている。

 とても良かったことを2つ、良かったことを1つ、残念だったことを1つ。

 とても良かったこと。1つ目は有川さんが書いた他の作家さんの書籍の解説。その本が無性に読みたくなった。紹介された本全部なのだけれど、特に「詩羽のいる街/山本弘」。「解説」は本の巻末が定位置だけれど、それ自身が「作品」であるし、独立させてまとめるとすごい宣伝になることが分かった。

 2つ目は特別収録の短編2本。1本は「県庁おもてなし課」のサイドストーリー「サマーフェスタ」で、もう1本は「倒れるときは前のめり」に収録した「彼の本棚」と対になる「彼女の本棚」。特に「彼女の本棚」。「彼の本棚」は初出が2007年だから12年越しの物語の成就。シビレた。本好きはいらぬ妄想をしてしまいそう。

 良かったこと。SNSの匿名性に起因するいろいろなことに、正面から立ち向かう有川さんの姿を知ったこと。そういう姿を気に入らない人もいるので、摩擦は大きい。しかしあくまで言葉を使って、議論をかみ合わせて主張を伝えようとする姿勢に心打たれた。

 残念だったこと。「シアター!」の完結を現状で断念、と有川さんがおっしゃっていること。どういう経緯でここに至ったのか、私は知らないのだけれど、著者本人がそうおっしゃるなら、それを受け入れる。

 最後に。共感することが多かったけれど、特に1つだけ紹介する。

 「嫌いの主張ではなく、好きの主張を」(「嫌い」は誰かを傷つける呪詛となる。「好き」は誰かを傷つけない言祝ぎになる。呪詛ではなく言祝ぎが蔓延する世界を望む)

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アンマーとぼくら

書影

著 者:有川浩
出版社:講談社
出版日:2016年7月19日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 有川浩さんの最新刊。帯には著者自身の言葉として「これは、現時点での最高傑作です」と書いてある。ロックバンドの「かりゆし58」の曲「アンマー」に着想を得たもので、「アンマー」とは沖縄の言葉で「おかあさん」という意味。

 主人公の名前はリョウ。東京で暮らす32歳の男性。久しぶりに母が住む沖縄に帰ってきた。里帰りの目的は「おかあさんのお休みに3日間付き合う」こと。普段は忙しさにかまけて、年に1回日帰りするだけで、実家なのに泊りで帰って来るのは久しぶりだ。

 実は、リョウの実の母親はリョウが子どもの頃に亡くなっている。だからリョウには「二人の母親」がいる。沖縄にいる「おかあさん」と、亡くなった「お母さん」。この物語には主要登場人物がもうひとり。リョウの父で、こちらも何年か前に亡くなっている。

 物語は、リョウと「おかあさん」の3日間に、リョウと父親との思い出が交錯しながら進む。父親のとの思い出とは即ち、リョウと「おかあさん」を結ぶ紐帯でもある。父親の再婚が二人を結びつけたのだし、リョウが東京の大学に進学したために、二人の共通の記憶は、ほとんどが父親がいた時のものだからだ。

 読んでいる途中に「あぁ今回はこの路線か」と思った。著者としては簡単に「近い」などと言って欲しくないかもしれないけれど「旅猫レポート」に近い。「旅猫~」では「思い出の人」を巡ったけれど、本書では、観光地を巡るという形で「思い出」を巡る。巡り終わったその先は...。これ以上は言えない。

 「観光地を巡る」という意味では「県庁おもてなし課」にも近い。リョウたちが立ち寄る、沖縄のあちらやこちらが、とても生き生きと描かれている。読めば、特に残波岬には行きたいと思うだろう。本書中の「雨の日は、よそ行きじゃない土地の顔が見られますよ」は名言だ。沖縄観光の幅がぐっと拡がったに違いない。

 有川さんが大好きな「カッコいいおっさん」は出てこない。「子供みたいなおっさん」なら出てくる。

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倒れるときは前のめり

書影

著 者:有川浩
出版社:角川書店
出版日:2016年1月27日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 私が大好きな有川浩さんの初エッセイ集。デビューした2003から現在までの94編。こんなにたくさんのエッセイを書かれているとは知らなかった。多くは新聞に掲載されたものなので、購読者でないと、目にすることが限られていた。

 「倒れるときは前のめり」という、「男前」なタイトル(念のため言うと、著者は素敵な女性だけれど)。これは、収録された最初の一編に記された言葉。「塩の街」で、電撃ゲーム小説大賞を受賞した時、つまりデビュー時のエッセイで、「行けるところまで頑張ろう」という宣言の言葉だ。

 「男前」な態度は、本書を通して感じられる。少し読み進めて気が付いたのだけれど、本書に綴られているのはエッセイというよりは、オピニオン(意見)だ。「こうすべきだと私は思う」という、芯が通った主張が感じられる。

 例えば、東日本大震災の後の一遍。「自粛」は被災地を救わない、と著者は言う。経済を回すことが何よりの復興支援。「阪神・淡路」を経験した人なら肌感覚として分かっているのではないか?という意見。

 さらに、これからは「良いと思った取り組みを意識して支持する」必要がある、という意見。なぜなら最近は、些細なことでもネガティブな意見がすぐに飛び交い、その試みを潰してしまうからだ。

 ネガティブな意見は、実はごく少数派であるにも関わらず、こういうことが頻繁に起きている。正常なバランスを保つために、これからは「よかったよ」というメッセージを積極的に発するべきではないか?ということだ。

 著者のことが、ますます好きになった。

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絵本「旅猫リポート」

書影

著 者:有川浩
出版社:文藝春秋
出版日:2014年3月1日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 先日読んだ「コロボックル絵物語」に続いての、有川浩さん作の絵本。著者の同名の単行本「旅猫リポート」を村上勉さんの挿絵を使って絵本にしたもの。

 単行本と同様に主人公はオス猫のナナ。しっぽがカギ型に曲がっていて、数字の7に見えるから、飼い主のサトルに名付けられた。5年間をともに暮らしたが、サトルがナナを手放すことになった。本書は、ナナの引取り先を求めてのナナとサトルの旅を描く。

 主人公だけでなく、ストーリーも単行本と同様。逆に違う点は主に2つ。1つ目は、本書は最初から最後までナナの言葉で綴られていること。単行本は人間の視点で語られる部分が多かった。2つ目は(絵本だから当然だけれど)、すべての見開きに村上勉さんの絵が描かれていること。

 ナナは知恵のある思慮深い猫で、人間が抱えるいろいろな事情がすべて分かっている。すべて分かった上で、その語り口は余計な感傷がなくて、とてもシンプル。全編がそんなナナの語りによるからだろう、実は哀しい話なのに、本書を通してすっきりした空気感がある。

 村上勉さんの絵も素敵で、ナナの語りがシンプルな分、絵が雄弁に語っている感じがする。

 ※ちなみに「旅猫リポート」は講談社青い鳥文庫にもなっていて
、単行本の文章に本書の絵が挿絵に付いている。手元に置くならこちらもおススメ。対象が「小学校高学年から」で、小学生が読んだらどんな感想を持つのかな、と思った。

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コロボックル絵物語

書影

著 者:有川浩
出版社:講談社
出版日:2014年4月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「だれもが知ってる小さな国」は、有川浩さんが佐藤さとるさんの「コロボックル物語」を書き継いだ作品で、お二人ともが大好きな私にとっては「奇跡」のような作品だけれど、その先駆けとなる本があった。それが本書。

 本書は絵本。「コロボックル物語」をストーリーに取り込んだ物語。主人公は小学生の少女、ノリコ。お父さんとお姉ちゃんとで、お母さんのお墓参りに来たノリコの目に、何か小さな影がはねるのが写って...。

 絵本なのでストーリーは長くない。「コロボックル物語」にもページが割かれている。だから、あまりたくさん紹介してしまうと、読む楽しみがなくなってしまいそうなので、あらすじはここまでにする。

 「だれもが知ってる小さな国」は、まぎれもなく「有川作品」だった(もちろんそれはそれで良い)。それに対して本書は、有川さんがあくまで「コロボックル物語」の一愛読者として、その愛着を描き込んだものだと感じた。そう考えると本書は、佐藤さんの「コロボックル物語」から、有川さんの「だれもが知ってる小さな国」への、絶妙な橋渡しとなっている。

 小学生の女の子のことが、きめ細かく描き込まれている。これはもしや有川さん自身のことではないか?と思ったが、その質問の答えは「あとがき」に書かれていた。ノリコに「だれもしらない小さな国」を貸したのはお姉ちゃん。「家族」とか「姉妹」とか、そういうのもいいなぁ、と思った。

 佐藤さとるさんと有川浩さんの対談

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だれもが知ってる小さな国

書影

著 者:有川浩
出版社:講談社
出版日:2015年10月27日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 タイトルを読んで「これって、もしかしたら..」と思った人は、子どものころにそれなりに豊かな読書体験を持った方が多いだろうと思う。そう本書は、佐藤さとるさんの「コロボックル物語」を有川浩さんが書き継いだものだ。

 主人公はヒコ。物語の初めには小学校の3年生だった。「はち屋(養蜂家)」の子ども。蜜が取れる花を追って、両親とともに九州から北海道までを移動しながら暮らしている。

 それぞれの土地で、巣箱を置く場所は決まっているので、毎年同じ学校に戻ることになる。1年前に転出した学校に今年は転入する。その年も北海道の同じ学校に転入した。ただし昨年と違うことがあった。もう一人転入生がいた。その女の子の名はヒメ。彼女も「はち屋」の子どもだった。

 「はち屋」の仕事が屋外の晴れの日に行われることが多いせいか、物語全体に陽光が差したような明るい雰囲気に包まれている。ヒコのところには、コロボックルのハリーが訪れ、二人は友達になる。

 物語はこの後、ヒコとヒメの二人の暮らしを微笑ましく綴る。ボーイ ミーツ ガール。いつもよりも少し年齢が低いけれど、ここは有川さんの真骨頂だ。「コロボックル物語」の世界観に、有川ワールドが溶け込んでいる。これは奇跡だ、と思う。

 この奇跡は、佐藤さとるさんと有川浩さんの対談によって生まれた。佐藤さんがこう言ったのだ「有川さん、書いてみたら」。有川さんはその言葉に見事に応えたと思う。巻末の佐藤さんによる「有川浩さんへの手紙」が、それを証明している。佐藤さんは(眼が悪いのに!)一気読みしたそうだ。

 そして有川さんの、佐藤さんと「コロボックル物語」へのリスペクトは、冒頭の二行に現れている(分かる人にしか分からないけれど)。「二十年近い前のことだから、もう昔といっていいかもしれない。ぼくはまだ小学校の三年生だった。

 二人の作家の世代を越えたエールの交換に拍手。

 この後は書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

 佐藤さとるさんと有川浩さんの対談

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(さらに…)

キャロリング

書影

著 者:有川浩
出版社:幻冬舎
出版日:2014年10月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 主人公は大和俊介。32歳。「エンジェル・メーカー」という、社員数5名の子供服メーカーの営業。この会社が12月25日をもって倒産・廃業する、というところから物語は始まる。

 残りの社員を紹介する。社長は西山英代、俊介の母の友人。デザイナーの佐々木勉、丸々した体型にとっつぁん坊や的童顔。営業の朝倉恵那、歳は俊介より1つ上、美人、東大卒。そしてデザイナーの折原柊子、俊介と同い年。以前、俊介と付き合っていて結婚の話まで出たが、今はただの同僚。

 「エンジェル・メーカー」では、別事業として学童保育をやっている。子供の親をサポートするという関連。多くの親子は惜しみながらも事前に別の施設に移っていったが、一人だけ25日まで預かることに。それが6年生の田所航平くん。

 物語は、俊介と柊子の関係を捉えながら、様々なことに枝を伸ばしていく。俊介の過去、航平の別居中の両親のこと、航平の父親が務める整骨院のこと、そこが抱える借金のこと、その借金を貸している闇金業者のこと。

 著者はラブストーリーを描く作家。それも複数のカップルを同時に描くことが多い。今回も俊介と柊子だけでなく何組もの男女が描かれる。ざっと数えて5組。いつもより多い。そしていつもより様々な男女のあり方を描いた。ハッピーなものばかりではなく。

 ちょっとクサいセリフも著者の持ち味。冒頭の緊迫した場面が、読んでいる間中頭から離れず、ハラハラさせられた。うまい演出だと思う。

 著者の最新刊。昨年の10月25日発行なのに、11月4日からNHKでテレビドラマ化されて、BSプレミアムで放送された。本を原作とするのなら、先に本を読む時間として、せめて半年ぐらいは空けてほしいと思う。

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明日の子供たち

書影

著 者:有川浩
出版社:幻冬舎
出版日:2014年8月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 人気作家の有川浩さんの最新刊。幻冬舎創立20周年記念特別書下ろし作品、だそうだ。

 舞台は「あしたの家」という名の児童養護施設。90人の子供たちが暮らしている。主な登場人物は、新任職員の三田村慎平、3年目の和泉和江、高校2年生の谷村奏子と平田久志の4人。主人公を切り替えながら物語は進んでいく。

 90人も子どもが暮らしていれば、問題行動を起こす子もいる。しかし奏子と久志の2人は、ルールを守り、年下の子供たちの面倒をよく見て、職員や施設の運営にも協力的だ。いわゆる「問題のない子」

 もちろん「問題がない」のは、施設運営上で問題がない、言い換えれば「都合がいい」ということで、彼らが問題を抱えていないわけではない。そうでなければ児童養護施設に入所する必要なないのだから。

 物語は、たくさんの対立や苦い経験などを描き出しながら、大きなうねりを形作っていく。子供たちは大人をよく見て、それ故の反発もある。職員の間には意見の相違もある。世間の認識と実際とのズレも大きい。

 ラブストーリーあり自衛隊ありカッコいいおっさん(おばさんも!)あり。有川作品らしいところがたくさんあるのだけれど、今回はそれがメインではない。(それがまた「らしい」というヤヤこしい構造なのだけれど)

 児童養護施設に入所している子供たちは「かわいそう」、もしそう思っている人がいたら、ちょっと本書を読んでみてほしい。それが著者の希望のようだから。「図書館内乱」など著者の他の作品でも時々でも描かれるけれど、「間違った善意」は「悪意」よりもたちが悪いことがある。

 先ごろ、高校野球の選手が中学生の時に書いた作文がネットで話題になった。本書を貫くテーマと通じるものがあると思う。

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