9.その他

覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰

書影

著 者:池田貴将
出版社:サンクチュアリ出版
出版日:2013年6月10日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 出版社のサンクチュアリ出版さまから献本いただきました。感謝。

 サブタイトルは「超訳 吉田松陰」。吉田松陰は(説明の必要がないかもしれないけれど念のため)、幕末の武士、思想家、教育者、兵学者。西洋兵学を学ぶために密航を企てて失敗し投獄される。後に故郷の長州で「松下村塾」という私塾を開く。この塾は久坂玄瑞や高杉晋作、伊藤博文、山縣有朋といった、幕末から明治維新にかけての、いわゆる志士を輩出する。しかし松陰自身は「安政の大獄」で処刑され、明治維新を待たずに29歳で没する。

 本書は松陰の「名言」を、世界No.1コーチと言われる「アンソニー・ロビンズ」の直伝トレーナーである著者が、「超訳」つまり読みやすさを最優先にした訳し方で紹介する。松陰は、手記、講義録、書簡などを多く残しているので「名言」とされるものも多い。本書の項目数も176個もある。

 元々項目数が多いことも手伝って、読み進めるうちに「これはいい言葉だな」と思うものが、たくさん見つかる。例えばNo.039「なんでもやってみる」。できないのではなくて、ただやっていないだけです。まだやったことがないことを、「怖い」「面倒くさい」「不安だ」と思う感情は、過去の偏った経験が作り出す、ただの錯覚です(後略)。

 松陰は、徹底して「行動」を重んじる人だったようだ。密航に失敗した事件などは、その実践とも言える。本書にも、上に紹介した「なんでもやってみる」のように、行動を促す言葉がとても多い。そのため、何かをためらっている人、背中を押してもらいたい人には響くものがあると思う。

 少し気になることもあった。現代語や外来語をはじめ、松陰が使いそうもない言葉が、少なからずあることだ。「超訳」だからそのこと自体は問題ない。いくつかのことが重なって、読んでいてしっくりとこない感じがした。

 まず、皮肉な言い方だけれど、「名言」は、後世の人が自分たちの都合で作り上げる側面が少なからずある。松陰には手記などの史料がたくさんあるので、そこから気に入った言葉を抜き出して「名言」にするのも容易い。

 そして、本書の項目は著者が(自分の都合で)選択した言葉で、さらにそれを「超訳」として(正確さを犠牲にしても)読みやすさを最優先にして、松陰が使いそうもない言葉を使って訳した。だから、それはもう松陰の言葉なのか著者の言葉なのか判然としなくなってしまっている。失礼かつ不合理ながら、松陰の言葉であるかないかで重みが違う。小さくても良いので、松陰自身の言葉を対置してくれれば良かったと思う。

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漁夫マルコの見た夢/コンスタンティノープルの渡し守

書影
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著 者:塩野七生
出版社:ポプラ社
出版日:2007年9月10日 第1刷発行(漁夫マルコ~)/
     2008年5月12日 第1刷発行(コンスタンティノープル~)
評 価:☆☆(説明)

 塩野七生の「ルネサンス地中海シリーズ」の2冊。塩野七生さんと言えば大著「ローマ人の物語」(単行本で15巻、文庫判ではなんと43冊)に代表される、ローマ世界の歴史に基づいた骨太の小説が有名。それに対してこの2冊は、それぞれ数十ページの絵本、さらに言うなら「大人の絵本」だ。

 「漁夫マルコの見た夢」の主人公は、ヴェネツィアの沖に細長く横たわる、リド島に住む16歳の漁師。物語は、彼が謝肉祭の夜に訪れた、ヴェネツィアの富豪の家での甘美な体験。タイトルに「夢」と付いているけれど、これは現実なのか夢なのか?

 「コンスタンティノープルの渡し守」の主人公は、コンスタンティノープルの金閣湾で、渡し船を漕ぐ14歳の少年。物語は、彼の舟に乗る同じ年頃の少女と交わした淡い想いを切なく描く。

 「漁夫マルコ~」の方が「大人向き」の度合いの高い物語。こう言っては何だけれど、16歳の男(今で言えば高校生男子)が見るひどく自分勝手な夢のような話で、ちょっと赤面した。「コンスタンティノープル~」は至ってシンプルな物語ながら、切ない余韻が残る。

 正直に言って、物語としてはあまり面白くなかった。例えば私のように「塩野七生さんの絵本」ということで読んでみたい人はいるだろう。同じように、絵を描かれた水田秀穂さんや司修の作品として興味がある人もいるだろう。そういう人以外には...ということで☆2つ。

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知の逆転

書影

著 者:吉成真由美
出版社:NHK出版
出版日:2012年12月10日 第1刷発行 2013年5月20日 第11刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 DNAの二重らせんを解明したジェームズ・ワトソン、「人工知能の父」と呼ばれるマービン・ミンスキー、ニューヨーク・タイムズに「生きている人の中でおそらく最も重要な知識人」と評された言語学者ノーム・チョムスキー、「誰も知らないインターネット上最大の会社」アカマイ社のトム・レイトン、映画「レナードの朝」の原著者で神経学者のオリバー・サックス、『銃・病原菌・鉄』で人類と文明の発展について新たな知見を表したジャレド・ダイアモンド。現代の「叡智」とも言える6人へのインタビュー集。

 「知の逆転」というタイトルは、この6人について「限りなく真実を追い求め、学問の常識を逆転させた」という評価をして付けたものらしい。「常識を逆転」という評価には首肯しかねるが、「真実を追い求め」の部分は、確かにそうだと思った。この人たちは「自ら考えそれを検証する」ということを実践してきた。そのことが自信となって表れている。

 私はコンピュータ関連の仕事をしていることもあって、人口知能学者のマービン・ミンスキーと、アカマイ社のトム・レイトンの2人のインタビューが、特に印象に残った。

 ミンスキー氏は、事故後の福島原子力発電所でロボットに作業させることができなかったことに、深い失望と憤りを感じたそうだ。30年前のスリーマイル島事故の後に、「たとえ知能ロボットを作ることができなくても、リモコン操作できるロボットを..」という記事を書いた彼は、30年後に同じ事態に遭遇した。「チェスには勝ててもドアさえ開けられないコンピュータ」に、何の意味があるのか?というわけだ。

 レイトン氏のアカマイ社は、インターネット上の効率的な経路決定の技術を持っていて、グーグル、ヤフーなどの主要なサーチ・ポータルサイトのすべてと、メジャーなサイトの多くを顧客に持っている。推計ではインターネットの総情報量の15~30%が、アカマイ社を通して流れているらしい。

 「悪い奴になるほうがいい奴になるより簡単」というご時世で、セキュリティの攻防は熾烈を極めている。インタビューは、そのことについて詳しいのだけれど、私は別のところに目が留まった。それは、以前に読んだ「理系の子」の舞台となった、インテル国際学生科学フェア(ISEF)に、レイトン氏も出場した、という一文だ。少し誇張を許していただければ、その時の氏の経験が今のインターネットを支えている、と言える。

 6人全員に「特に若い人たちにどのような本を薦めますか」という、同じ質問をしている。どのような意図を持った質問なのか分からないが、それまでのインタビューとの脈絡がなく唐突な感じだ。ただその答え方が、それぞれの人の「素顔」が垣間見られるようで、意外とナイスな質問だったかもしれない。

  ナイスと言えば、インタビュアーを務めた著者も、いい仕事をしていると思った。「そんなのは当然」なのかも知れないけれど、しっかり準備をして臨んでいるようだった。さらに、このインタビューができることを喜んでいるようにも感じたけれど、さすがにそれは深読みが過ぎるか。

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商店街はなぜ滅びるのか

書影

著 者:新雅史
出版社:光文社
出版日:2012年5月20日 初版1刷 9月20日 8刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 親しくしている人の中に、商店街の活性化のために頑張っている人が何人かいる。彼女たちが見たら(多分見ることになるのだけれど)目を剥きそうなタイトルだ。「商店街活性化」には、私も少し関わっている。書店で本書を見た時にはクラクラした。「滅びるのが既定路線かよ?」と、宙に向かってツッコミを入れてしまった。

 例えば、以前読んだ「日本でいちばん元気な商店街」のような例もあるのだ。(ただし、この本については様々な方から教えていただいたり、私も実際に見学に行って、「本には書かれていないこと」もあることが分かった。)

 また、本書のサブタイトルも紹介しておきたい。「社会・政治・経済史から探る再生の道」。つまり、著者も「何とかしたい」と思う一人だったわけだ。「あとがき」に詳しいが、著者の実家は北九州市の酒屋で、15年ほど前にコンビニに転業したそうだ。本書に書かれている「商店街のこれまで」を間近に見て育ち、「これから」を憂える気持ちを、人一倍お持ちなのだろう。

 生意気を言うけれど、本書はなかなかの意欲作だと思う。「商店街」を語る本はたくさんあるけれど、成功事例(集)か調査レポートが多い(「日本でいちばん~」のように)。時間的には「今」、空間的には「商店街と周辺」に限られた狭い範囲の議論に終始している。その点本書は、およそ100年前の商店街の成立に遡り、その後の社会・政治・経済情勢の遷移の中に商店街を位置づけて読み解こうとしている。引用されるデータや書籍・論文の幅広さが、著者の意欲と苦労を物語っている。

 もちろん「いや大事なのは「今、どうするか?」であって、100年前のことはあまり関係がない」という指摘はもっともだと思う。実際読んでいて、とても遠回りをしている感じはした。しかし、今に至る経緯を知らずに議論しても、見当違いなものになる恐れが高い。商店街の凋落の原因がどこにあるのかを探る作業を疎かにしてはならない。

 詳しい内容は本書を読んでもらうとして「なるほど」と思った点を1つ挙げる。本書を貫く「両翼の安定」という考え方だ。これは「雇用の安定」と「自営業の安定」の2つの安定が、戦後日本の社会を支えた、というもの。しかし、現在は「雇用の安定」が最重要課題になり、「正社員」になることが暮らしの安定につながる、という考えが大勢を占めてしまっている。

 私の意見として少し補足すると、今現在存在する「自営業者の経営の安定」を図る(つまりは資金援助をする)政策はたくさんある。しかし「自営業の安定」とは、そういった政策が無くても継続可能な状況を言うはず。はっきり言ってしまうと、今の政策は「自営業の安定」には、害ばかりあって役に立っていない。

 最後に。意欲作なのだけれど残念なこともある。著者自身が「あとがき」で言うように、将来展望を提示する試みが不十分に終わっている。そのため、読み終わった後しばらくすると、タイトル通りに「商店街が滅びる理由」だけが残ってしまう。著者には次作を期待したい。また、私を含めた読者が答えを導くべきなのかもしれない。

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「やりがいのある仕事」という幻想

書影

著 者:森博嗣
出版社:朝日新聞出版
出版日:2013年5月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本書の紹介の前に、私がこの本を読もうと思ったきっかけを紹介しようと思う。Facebookである方が私が以前に読んだ「希望のつくり方」という本のことを話題にしていた。その本の一節に「日本ではあまりにも仕事に希望を求めすぎている」ということが書いてある、と。

 実は、私もそのことは常々思っていた。この本のタイトルと、帯の「働くことって、そんなに大事?」というコピーは、そのFacebookでの話題と私の気持ちにフィットした。少し前に著者の「人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか」を読んでいたことも、プラスに作用したかもしれない。

 さらに「まえがき」に、「「自分に合った仕事に就かないと人生が台無しになる」というプレッシャーを、大人たちが与えている(中略)本当に気の毒なことだと僕は思う」と著者は書いている。これがまた、私の気持ちを代弁するかのような、モノの見方だった。

 その後、第1章「仕事への大いなる勘違い」では、「仕事」についての固定観念を次々とはぎ取っていく。「仕事をしている者は、仕事をしていない者より偉いのか?」「どんな仕事をしているかが、その人の価値なのか?」「仕事は大変なのだと大人は語りたがるが、本当にそうか?」次々と投げかけられる問いに、まっすぐに向き合うことで、本質に近づいていく予感がする。

 ただし、本書は「今現在、就職や仕事に悩んでいる人」には役に立たないかもしれない。第4章「仕事の悩みや不安に答える」で、実際に著者が受けた質問や相談に答えているのだけれど、これが(そういう指摘が既にあるそうだけれど)「身も蓋もない」のだ。「職場が殺伐としています」という悩みに、(成果を問う)仕事というものは殺伐としている(ものだ)」と答えたりしている。

 「なるほど」と思うものもあった。それは「仕事をしないでやりたいことだけをして人生を送りたい。どうしたらいいか?」という、トンデモな感じの質問への答え。スキーがしたい人は、たぶん滑るのが楽しいのだと思うけれど、その前に上まで登らなければならない。お金を得る手段としての「仕事」はそれと同じで、「やりたいこと」の「準備」や「一部」だ、というもの。

 視点を高く持って俯瞰すると、「やりたいこと」があれば、「仕事」をその一部に位置づけることができる。その考えは「仕事」に「やりがい」も「希望」も「人生」さえも預けてしまうよりも、よほど健全で安全だと思う。

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長野県謎解き散歩

書影

編  者:小松芳郎
出版社:新人物往来社(吸収合併によって中経出版に)
出版日:2013年2月14日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 新人物文庫の県別「謎解き散歩」シリーズの長野県版。長野県の「謎」というか特徴を「自然・地理」「産業・交通・特産物」「考古・遺跡」「歴史」「民俗」「人物」という観点から、全部で約90項目を紹介する。
 「秘密のケンミンSHOW」などで、長野県民全員が歌える、と紹介された県歌「信濃の国」には一章を割いている。「県民全員が歌える県歌」これなどは他県の人から見れば、確かに「謎」だろう。

 また「信州大学」が、県内唯一の国立大学でありながら、県名を冠していないのはなぜか?長野県が「長寿県」となった理由は?といった辺りは、同じく「謎」と言えるし、他県の人にも興味を持ってもらえそうだ。ただし、その他の多くの項目は、長野県民向きだと思う。地名や風土にある程度明るくないと、「知らない場所の知らなかった話」では、頭に残らないだろう。

 項目タイトルに「なぜ」などの疑問形になったものが多いのだけれど、内容にその答えがないものが散見される。「謎解き散歩」というシリーズ名に引きずられたのかもしれないし、週刊誌のように読者の注意を引こうと思ったのかもしれない。まぁご愛嬌だと思って欲しい。「なぜ」には答えていないけれど、書いてあることは興味深いことばかりだ。

 出版社のサイトを見ると、今年の5月で全都道府県版48冊(東京都は2冊)が揃ったようだ。上にも書いたように、基本的にはその県民向けの書籍だと思うので、それぞれの出身なり、住んでいる県のものを(長野県の人は、もちろん本書を)読んではどうだろう?きっと発見があり、愛着も湧くかもしれない。

 最後に。長野県の県民性として「成功した人に対して足を引っ張ることが多い、協調性に乏しい、組織になじみにくい、団結力が弱い、気位は高い、根回しが下手、物事をはっきりさせたがる、などだ」と書かれている。
 長野県民としては、嘆息するばかりだ。もちろん、県民全員が「信濃の国」を歌える、という「全員」には、いささか誇張があるのと同じく、ここにも誇張はある。しかし、大きく外してはいない、と思う。残念ながら。

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子猫と権力と××× あなたの弱点を発表します

書影

著 者:五百田達成、堀田秀吾
出版社:クロスメディア・パブリッシング
出版日:2013年3月11日 初版発行
評 価:☆☆(説明)

 出版社のクロスメディア・パブリッシングさまから献本いただいました。感謝。

 私たちはいろいろなものに弱い。「限定」商品に弱い、「おいしい儲け話」にも弱い、「ランキング」にも弱い、男の人はたいてい「美人」に弱い...。本書はそうした「弱さ」を「なんだかよくわからないけれど、心が動かされてしまうこと」と定義して、その「弱さ」を克服するために、その仕組みを知り、それと向き合うための処方箋を書こうとしたものだ。

 着眼点はとてもいい。この背景には「情報の氾濫」がある。私たちは日々たくさんの情報を受け取り、知りたい情報はネットで検索すれば大抵わかる。時には「正解」をネットで探すことさえある。つまり判断まで情報に委ねてしまっている。これも「弱さ」の一つで、その心理をよく理解することは、判断を自分に取り戻すために必要なことだと思うからだ。

 告白すると、私は読んだ本の感想をブログに書いているが、他の人の感想が気になる。多くの人が感じたこととかけ離れていると、「不正解」のような気がする。そして、見てしまうと今感じていることが、本当に自分の感想なのかどうか、自分でも分からなくなってしまう。だから私は、感想を書く前には、ネットで書評や感想の記事を見ないことにした。

 このように着眼点はいいし、自分にも思い当たることがある。ただし内容はあまり役に立つとは言えなかった。「弱さ」は全部で44あり、心理学の知見を交えたりしながら、その仕組みはそれなりに説明されている。しかし、その克服のための処方箋が、お世辞にも「向き合っている」とは言い難い。端的に言えば役に立ちそうにない。

 例えば「評判の店に弱い」では、評判によってお店を決めがちな人は→たまには、自分の舌と直感に相談してみる。「黄門さま(つまり肩書き)に弱い」では、「肩書き」=「人徳」になりがちな人は→「役割」と「人柄」は別物だと考える。という具合で「○○してしまう人は→○○しないようにする」と言っているだけか、そうでなければ少し捻って(ユーモアはあるのだけれど)かわした答えが多い。

 そういった具合なので☆は2つ。ただし、元々すぐに効く特効薬などないのだ。この本に処方箋という「正解」を期待するのは、ネットに「正解」を探すのに似ている。「仕組み」が分かったら、あとは自分で考えろ、ということなのかもしれない。

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人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか

書影

著 者:森博嗣
出版社:新潮社
出版日:2013年3月20日 発行 4月5日 2刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 何とも曖昧模糊としたタイトルだ。「私たちは」とかでなく「人間は」とやけに広範囲だし、「いろいろな問題」ではどんな問題のことだか分からない。「もう少し本の内容を具体的に表して欲しい」と思う人に、この本は新たな気付きをもたらしてくれる(かもしれない)。

 世間一般には、「具体的」が良くて、「抽象的」はダメなもの役に立たないもの、という意識がある。「もっと具体的に話せ」と言われる場面は多くても、「もっと抽象的に話せ」と言われたという話はなかなか聞かない。上に書いた「もう少し本の内容を具体的に...」というのも、それに沿ったものだ。

 ところが本書は、問題の解決のためには「抽象的な思考」が必要で、その思考を鍛えるにはどうしたらいいか?を書いたものなのだ。いわば世間一般の「具体的」信奉に楯突くもので、そういう考え方を知るのは「気付き」なのではないかと思ったのだ。

 本書の主張を要約する。例えば「抽象的」は曖昧な分カバーする範囲が広い。何かを買ってきてもらうのに、具体的な商品を指定すれば誤りは少ないが、その商品がなければ買ってきてもらえない。目的を伝えて「○○のようなもの」と抽象的に伝えれば、代わりのものを買ってきてくれるかもしれない。

 また「具体的」は「主観的」に通じやすい、という問題がある。原発の存廃や領土問題についての人々の反応が、本書執筆のきっかけの一つらしい。そこには主観の衝突が生じていて(というかそれしかない)、相手の意見を聞くことすらタブーだというのでは、解決の余地がない。

 さらに「もうちょっと考えよう」。著者に言わせれば「全然考えていない人が多すぎる」。いつからか私たちは、分からないことがあると「検索」するようになった。判断に迷う時にも「検索」。あなたの意見はあなたが「考えた」ものではなく「選択」したものじゃないですか?という指摘に、私は自信を持ってNoと言えない。

 最後に。著者は「スカイ・クロラ」他に多くのヒット作がある人気作家で、大学の助教授でもあったが、数年前にどちらも引退した。貯金が「一生かかっても使い切れない額」になったからだ。今は、ガーデニングと工作という趣味に費やす自由な暮らしをしている。「恵まれた暮らしをしているから、そんなことを言えるんですよ」という気持ちが勝ってしまうと、本書からは何も得られない。冒頭に「(かもしれない)」と書いたのは、そういう懸念からだ。

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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新説 真田三代ミステリー

書影

著 者:山田順子
出版社:実業之日本社
出版日:2013年1月29日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「ロマンはどこだ」。伊坂幸太郎さんの小説「陽気なギャングが地球を回す」の登場人物の口癖だけれど、本書の前半を読んだ私の想いもそうだった。

 様々な「戦国武将人気ランキング」で、必ず上位に食い込む真田幸村。1位ということも珍しくない。ゲームに端を発した、いわゆる「戦国ブーム」にうまく乗ったことは否定しないけれど、以前から一定の評価なり人気なりがあったことも確かだ。

 真田氏が居城の上田城で2度にわたって徳川の大軍を退けたこと。兄弟で徳川方と豊臣方に分かれて戦うことを決めた密談。豊臣への義のために14年の蟄居生活から大坂冬の陣で復活して活躍、夏の陣では家康を追い詰めながら果たせず命を散らせたこと。こうしたエピソードにドラマがあることが人気の基になっている。

 本書の目的の1つは、こうしたドラマを時代考証家の著者が検証することにある。その結論を簡単に言うと、これらには確実な史料が存在しない、後世の創作か少なくとも脚色されたものである可能性が極めて高い、ということだ。

 そこで冒頭の「ロマンはどこだ」につながる。真田幸村に限らず戦国武将のファンは、ある程度はフィクションだと知りつつ、好きになったり楽しんだりしているんだと思う。それをわざわざ「史料がありませんよ」と言うことに、どんな意味があるというのだろう?その「ロマン」はどこにあるのだろう?

 前半の感想はこうなのだけれど、後半は少し趣が違う。後半は著者が真田の郷を実際に歩き、膨大な史料に当たって導き出した様々な推測が述べられている。真田氏がこの地で台頭し、武田氏に篤く用いられた秘密は何か?そのルーツはどこか?等々。

 前半で数々のドラマに「史料が存在しない」と言って斬り込んでおいて、後半では自分の推測をとうとうと述べる。取りようによっては鼻白んでしまいそうだけれど、私は救われた想いがした。真田の郷に立って、その地の400年前の出来事に想いを馳せる。その姿にも私は「ロマン」を感じた。

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子どもと声に出して読みたい「実語教」

書影

著 者:齋藤孝
出版社:致知出版社
出版日:パイロット版
評 価:☆☆☆(説明)

 出版社の致知出版社さまから、パイロット版で献本いただきました。感謝。

 少し前に読んだ「10分あれば書店に行きなさい」の著者。テレビでもお馴染みだ。またその著書「「声に出して読みたい日本語」はベストセラーとなってシリーズ化され、さら「声に出して読みたい~」と様々なバリエーションを生み出した。まぁ本書は、出版社が違うけれどそのバリエーションの1つと言っていいだろう。

 まず「実語教」について。これは平安時代末期から明治時代初めまで千年近くの間、子ども用の教科書として使われてきた書物。イメージとしては、時代劇の中で、寺子屋で子どもたちが声を揃えて音読しているのがそれ。礼儀や周囲の人との付き合い方など、生きていく上での大切な智慧を、例え話を交えて説いている。

 本書は、その「実語教」を29の部分に分けて、子どもに語りかけるように解説する。例えば1つ目は「山高きが故に貴からず。樹有るを以って貴しとす。」という一文。これを著者は、山は高いから貴いのではなく、そこに樹があるから貴い。樹があれば、それを切って材木にして、..社会のために役立てることができる。「何かの役に立つ」ということがとても重要です、と説く。

 29の部分の一つ一つは、教えや導きに満ちていて、こういうことを小さい頃に心に刻んだ人が多ければ、世の中は随分と住みやすいものになるだろうと思う。ただ残念だけれど、今の子どもたちが、これを素直に受け取ってくれるとは思えない。そのぐらい、実際の世の中(つまり、大人が作り上げた世の中)は、その教えや導きから大きく外れてしまっている。

 気になったことを2つ。1つは、著者はこの本を誰に読んでもらうつもりで書いたのか?ということ。上に書いたように、子どもに語りかける体裁だけれど、この本を子ども自身が読むのは難しいだろう。
 もう1つは、古い書物に価値観まで引っ張られてしまったか、に見える部分があること。例えば、「いい大学、いい会社に入りやすくなります」とか、「ちゃんと結婚して、親を喜ばせるために子供もつくろうとします」とか。

 「実語教」には、とてもいいことが書かれていると思う。元は漢詩で五言句が100足らずの短いもので、ネットで検索すれば容易に見つかる。興味を持たれた方はご覧になるといいと思う。齋藤先生の解説も読みたい方は本書をどうぞ。

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