パソコンとケータイ 頭のいい人たちが考えたすごい!「仕組み」

書影

編  集:NHK「ITホワイトボックス」プロジェクト
出版社:講談社
出版日:2011年9月29日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 知り合いが「一度読んで欲しい」と言って貸してくれた。感謝。来月に、この本をテキストにしたセミナーがあるそうだ。

 NHK Eテレで放映されていた「ITホワイトボックス」という番組の内容を本にしたもの。「ITホワイトボックス」は、2009年に第1シリーズ、2010年に第2シリーズ、20011年に第3シリーズが放映されていて、本書は第3シリーズを基にしている。それ以前のシリーズを基にした本も「世界一やさしいネット力養成講座 」シリーズとして出版されている。

 内容は三部構成。「クラウド・スパコン・インターフェース」をテーマにした、最近のITのトレンドとそれを支える「仕組み」を解説する第1章。「流通・小売り・医療」をテーマにした第2章。「ケータイ・スマートフォン」の進化を概観・展望した第3章。

 テレビの番組が「難解でブラックボックス化しているIT技術を、一般の人にも分かりやすく解説(ホワイトボックス化)する」という主旨なので、本書が目指すところも同じだろう。平易な言い回しや、本文のすぐ後の用語解説など、「分かりやすさ」の工夫がある。
 また、「ITの現在」を表す話題が多く、ちょっと最新のITネタを取り込みたい人には重宝するだろう。私は一応IT関係の仕事に就いているのだけれど、「へぇ~そうなんだ」と思うこともたくさんあった。

 ただ、例えば「メガバイト」が用語解説されているが、「メガバイト」が分からない人が想定読者だとすると、本書は荷が重いだろう。ITの分野では、いわゆる「カタカナ語」の多用が避けられない。もちろんそのために用語解説があるのだけれど、解説が必要な用語が圧倒的に多くて、とても間に合わない。
 テレビ番組は、映像とじっくりと時間をかけた解説で、その不足を補えたのだろう。そうだとすると、この本を解説するセミナーというのは、なかなか良いアイデアかもしれない。

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七人の敵がいる

書影

著 者:加納朋子
出版社:集英社
出版日:2010年6月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本書は、今年の春にフジテレビ系列で「昼ドラ」として放映された同名のドラマの原作。新聞のテレビ欄で見かけた時に、石川達三さんの「七人の敵が居た」と勘違いして「ずい分と古いものを持ち出してきたなぁ」と思った記憶がある。それが、先日図書館でこの本を見つけて「あぁこれだったのか!」と借りてきて読んだ次第。

 主人公は山田陽子。出版社の編集者。モーレツに忙しい。愛息子の陽介が入学した小学校の、最初の保護者会が本書の冒頭。この陽子のPTAデビューは最悪だった。「PTA役員なんて、専業主婦の方じゃなければ無理じゃありませんか?」と言ってしまった。つまり、その場にいた多くの母親を敵に回したわけだ。

 「専業主婦でなければ無理」ということはない(実は、私もPTA役員の経験がある)。ただ、陽子にとってはそれは根拠のある主張で、それを非難する声には正論で返して黙らせてしまう。
 正論は正論として「そうは言っても..」「そこを何とか..」で回っているのが現実のPTA活動だ(と私は思う)。しかし陽子は、陽介に累が及ぶのを危惧しながらも、正論を止められない。学校で、学童保育で、自治会で、スポーツ少年団で....。その度に敵を作ってしまう。

 こう書くと、陽子がとんでもなく自己中心的な人間のようだけれど、読み進めるうちに、そうではないことが分かる(「その言い方は何とかした方がいいよ」とは、最後まで思ったけれど)。また、「陽子vs敵」の図式の繰り返しの中で、陽子にも敵にも「事情」を潜ませてあって、この辺りは著者の技ありだ。

 本来は「正論」は文字通り正しくて、それが通らない現実の方に問題がある。職場で「ブルトーザー」とあだ名を付けられた陽子は、その馬力で現実の問題を正そうと立ち向かう。そんな陽子を、助けたり協力したりしてくれる人も現れる。ブルトーザーは色んなものをなぎ倒してしまうけれど、その後には道ができて、人が歩けるようになる。

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誰のためのデザイン? 認知科学者のデザイン原論

書影

著 者:D.A.ノーマン 訳:野島久雄
出版社:新曜社
出版日:1990年1月25日 初版第1刷 2012年1月25日 初版第26刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 本書は、日常使う製品のデザインはどうあるべきか?について書かれたもの。多くの示唆に富む非常に良くまとまった論考だ。実は本書の出版は1990年(原書は1988年)、20年以上前だ。そして今年の1月に26刷と刷を重ねている。それだけ多くの支持を得ているということだが、読んでみてそれも頷ける。

 タイトルの「誰のためのデザイン?」に対する答えは明確で、読み始めてすぐに明らかにされる。それは「エンドユーザー(実際にその製品を使う人)のため」だ。実際に使う人が、煩わされることなく使えるデザインが、優れたデザインなのだ。(ちなみに本書では「たぶん賞でもとっているんでしょう」とは、そのデザインをけなす時の言葉だ)

 例としてドアのデザインを挙げよう。押して開くドアには水平に長いバーを、引いて開くドアには引く辺の側に小さめの垂直の取っ手を付ける。そうすると、人は自然に(つまり、煩わせることなく)ドアを押したり引いたりする。ドアのどちら側を引けばいいかも分かる。
 このドアの例を始めとして、電話機、ガスコンロ、エアコン、照明のスイッチ、水道の蛇口、コンピュータプログラムなど、多くの日常使う製品について例を挙げて論じている。(多くはダメな例が挙げられる)

 もちろん、個々の製品の具体的な「良い例」「悪い例」を挙げるだけでなく、人は何故間違えてしまうのか?それを防ぐにはどうしたらいいのか?良いデザインに必要なものは何か?それはどうしたらできるのか?といった、様々な視点からの汎用性のある考察が述べられている。この具体性と汎用性の双方を満たしていることが、本書が支持される所以だろう。

 デザインに関わる人には読んでもらいたいと思う。

 この後は書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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(さらに…)

杏のふむふむ

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著 者:杏
出版社:筑摩書房
出版日:2012年6月10日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 モデル・女優の杏さんの初エッセイ、初めての著書。杏さんは「本好き」で知られる。「本が好きな著名人は?」なんて話題が出ると、かなりの確率で杏さんの名前があがる。私はいわゆる「タレント本」にはあまり興味がないのだけれど、「本好きの女優さんの初エッセイ」には強く魅かれた。

 著者が本好きだからと言って、本をテーマにしたエッセイではない。著者が幼い頃から最近まで(ちなみに著者は現在26歳)に経験した「出会い」をテーマにしたものだ。小学生の頃の先生。モデルとして渡った海外、ニューヨーク、パリ、ミラノで出会った人々。女優として撮影現場で出会ったあの人この人。

 初エッセイだし、そのようなエピソードを選んだのかもしれないけれど、「出会い」には恵まれたことがよく分かる(なかなかハードな経験も含めて)。しかし「出会い」というのは、相手と自分の双方によって形作られるものだ。恵まれた出会いは、著者のまっすぐな人柄があってこそのことだと思う。それは、文章からも、直筆のタイトル文字とイラストからも伝わってくる。

 もちろん本の話題もちゃんとある。取り上げられた本の何冊かは私も読んだ、しかも結構好きな本だったので、何だかうれしかった。著者が「サカイ教授」と慕う堺雅人さんの本をはじめ、いくつか読んでみたい本があった。
 もっと本の話を聞きたいと思った。著者はJ-WAVEで「BOOK BAR」という番組で、パーソナリティを4年も務めていて、本を毎週紹介している。それなのに私が住んでいるところではJ-WAVEは入らない。残念。

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終わりの日 黙示録の預言

書影

著 者:スコット・マリアーニ 訳:高野由美
出版社:エンジン・ルーム/河出書房新社
出版日:2012年8月30日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 発行元のエンジン・ルームさまから献本いただきました。感謝。

 「消えた錬金術師」「モーツァルトの陰謀」に続く、「ベン・ホープ」シリーズの第3弾。

 主人公ベン・ホープは、誘拐された子どもの救出を生業としていた。前作までは..。前作「モーツァルトの陰謀」の悲しすぎる結末の後、ベンは生きる希望を失い、自分に銃口を向け死の瀬戸際まで行って踏みとどまる。「今日はその日じゃない」と言って。ベンは仕事から足を洗い、かつて志した神学の道へ戻る。

 そして神学の道を究めるべく研究に没頭する...という話ではない。当たり前だ。帯には「バイオレンス・ミステリー」という言葉が躍っている。足を洗ったはずの世界に否応なく引き戻され、暴力が支配する局面に飛び込んでいくことになる。

 物語は、聖書にまつわる重大な秘密を知った、若い女性聖書考古学者の救出を描く。危機一髪に次ぐ危機一髪。それをある時は機転を利かせて、別のときは銃撃戦の大立ち回りをして脱出する。前作までよりパワーアップしているように思う。ジェットコースターに乗ったように、読者は途中で降りられない。500ページ以上の大書だけれど、ラストまで一気読みということもあるだろう。

 ただ、ベンがあまりにタフで、少し人間離れしてしまった感がある。悪役がとことん醜悪に描かれていることや、たくさんの人が死んでしまうことなどと合わせて、ちょっと度が過ぎるように感じる部分もある。そこのところは、スーパーヒーローには何でもアリ、と割り切った方が楽しめそうだ。

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空飛ぶ広報室

書影

著 者:有川浩
出版社:幻冬舎
出版日:2012年7月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の最新刊。著者は、デビュー作「塩の街」を含む初期作品「自衛隊三部作」以来、「自衛隊・ミリタリー+恋愛」を描いた作品を多く世に出している。本書は2008年の「ラブコメ今昔」以来、久々にその系譜に連なる作品。

 舞台は航空自衛隊の広報室(正確には「航空自衛隊航空幕僚監部広報室」)。主人公は空井大祐、29歳、元戦闘機パイロット。「元」と付いているのは、今は違うからだ。子どもの頃からブルーインパルスのパイロットになりたかった。そして、その夢の入り口である戦闘機パイロットにたどり着いたその時、交通事故に遭い夢への道を閉ざされたのだ。

 上に書いた主人公の紹介は、本書冒頭、第1章に入る前に明らかにされている。事実だけをあっさりと記してあるだけだけれど、彼が心に抱えた物(あるいは失った物)は大きいことが想像される。物語の滑り出しの頃の彼の朗らかさも、却ってそれを感じさせる。彼の心の再生はどうしたら成るのか?それが、本書の1つ目のテーマだ。

 「1つ目のテーマ」があるのだから、2つ目3つ目もある。もちろんラブロマンスはある。主人公ともう1組のカップルの、例によって素直じゃない恋愛。その他には、先輩後輩と階級が入り組んだ複雑な想い、極端な男性社会の中での女性自衛官、自衛隊とその広報活動の有りよう。そしてマスコミや世間の「悪意」を刺すことも忘れていない。

 「あとがき」によると、本書は航空自衛隊からの働きかけが企画の発端だそうだ。本書舞台である広報室の働きを地で行く展開となったわけだ。著者は多くの人の話を聞いて、多くのドラマと着想を得た。それを460ページの大部の物語として結実させた。

 有川ファンにはもちろん、そうでなくてもエンタテイメント作品としてとても面白い。本書を読めば自衛隊の見方も変わるだろう。本書にも登場する「自衛隊への嫌悪」に凝り固まった人には、違った感じ方があるだろうけれど、これは、航空自衛隊広報部の大ファインプレイだと思う。

(2013.4.10 追記)
新垣結衣さん主演でテレビドラマ化されるそうです。4月14日(日)から夜9時、TBS「日曜劇場」
日曜劇場「空飛ぶ広報室」公式サイト

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おかげさまで10年です!

Map この9月4日は、私にとって記念すべき日でした。このブログの最初の記事は、2002年9月4日の「海底二万海里」。私が読書記録を付けはじめてちょうど10年なんです。

 時々に色々なことがありましたが、10年間も変わらずに本を読み、変わらずに読書記録を付けてこられたことは、大きな喜びです。ブログを読んでくだる皆さんに支えられて続けることができました。皆さんに感謝します。

 節目ですから10年間を少し振り返ってまとめてみました。投稿数は696、本の紹介記事は619です。本の評価では☆5つは17、4つは235、3つは335、2つは27、1つは2、評価なしが3です。600以上読んで☆5つ17、割合にして3%足らず、我ながら点が辛いですね。

 カテゴリー別では(分類するのが難しいのですが、投稿時に設定したカテゴリでは)、「小説」169、「ファンタジー」144、「ミステリー」108、「経済・実用書」64、「ノンフィクション」63。

 作家さん別では、伊坂幸太郎さん32、ダイアナ・ウィン・ジョーンズさん31、有川浩さん27、上橋菜穂子さん19、森見登美彦さん18、森博嗣さん14、三浦しをんさん13、塩野七生さん13、といったところです。

 記念の日ですから、当日にお知らせすれば良かったのですが、あるものを作っていて遅くなってしまいました。名付けて「本読みな暮らし」マップ。私の読書生活(つまり「本読みな暮らし」)を何とかパッと見える形にできないかと思って、マインドマップ(FLASHコンテンツ)にしてみました。

 このマインドマップは、記事を書いた全部の本とそのレビュー記事、Amazonページへのリンクができるようになっています。是非一度ご覧になってください。(Flashプレイヤーをサポートしていないブラウザではご覧いただけません。残念です。画像だけでもどうぞ)

「本読みな暮らし」マップ(FLASH版)
「本読みな暮らし」マップ(画像のみ)

30代リーダーの仕事のルール

書影

監修者:嶋田有孝
出版社:PHP研究所
出版日:2012年9月5日 第1版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 監修者の嶋田有孝さまから献本いただきました。感謝。

 監修者は以前に読んだ「20代で読んでおきたい成功の教科書」の著者でもある。「20代で~」は、若手のビジネスパーソン向けに「事実は変えられないけれど、解釈は変えられる。前を向いて歩きだそう」という、全般的な「気の持ち方」を解いた本。対して本書は「リーダーシップ」に焦点を当てた「具体的な方策」を書いた本。20代、30代という言葉に注意が向きがちだけれど、どちらの本も年代はあまり限定されない。

 とは言え、タイトルに「30代」と付けたのにも頷ける。20代で会社に入れば、30代は10年目以降になる。つまり「10年選手」。会社としては一番「使える」時期で、部下の数人も率いてリーダーとしての成果も期待したいところだろう。

 内容は、リーダーの「人を動かす力」「部下を育てる力」「伝える力」「心を整える力」の4章に分けて、全部で48項目の、リーダーとしてのあるべき姿を解説している。例えば「管理職だからこそ、いつも現場に足を運ぶ」「目標設定は全員参加で」「何かを変えたいなら、まずは自分から」..といった具合だ。

 全ての項目を見開きページで紹介。48項目だから本書は100ページほどの薄い本だ。さらにそれぞれの見開きページは、カラフルなイラストが主で文章は従の感じ。文章量(「内容」とは言わないけれど)はすごく少ない。監修者によると「活字離れした若者たちがターゲット」という出版社の意向なのだそうだ。

 おかげで本書は、ちょっと楽しい読みやすい本に仕上がっている。楽しく読みやすいことは「活字離れした若者」でない人にとっても良いことなので、本書のことは良しとする。ただ「活字離れした若者たち」というくくりには引っ掛かりを感じる。この言葉を使うことで、上の世代が思考停止している気がする。本書には直接関係ないので、この話題はこれ以上深堀りはしないけれど。

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真夜中のパン屋さん 午前1時の恋泥棒

書影

著 者:大沼紀子
出版社:ポプラ社
出版日:2012年2月5日 第1刷発行 2012年2月25日 第4刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「真夜中のパン屋さん 午前0時のレシピ」の続編。「まよパン」シリーズの第2弾。

 舞台は前作と同じ「Boulangerie Kurebayashi」という、真夜中に営業しているパン屋。登場人物も前作とほぼ同じ。前作は6つの章から成る連作短編の体裁だったけれど、本書は全編で1つの謎を追う。その謎の中心は、新しい登場人物である佳乃。ふらっと現れて、店の2階に住むことになった。パン職人の弘基の中学時代の彼女だということだけれど、彼女は何者なのか?その目的は何か?

 佳乃の登場は、店の2階に住むもう一人の女性、希実が前作で現れた時とそっくりだった。いきなり現れて「私はあなたの〇〇(希実の場合は、オーナーの暮林の奥さんの義妹)なんだから、ここにいさせて欲しい」と言って、居ついてしまう。暮林の「ええよ」の一言で。

 暮林の「ええよ」が表す包容力は、この物語の魅力となってシリーズを通して感じられる。前作で登場したのは、夜中に街を徘徊する小学生、ホームレスのニューハーフ、のぞき魔の変態..。「普通」からはちょっとはずれた人たちをみんな、この店は受け入れてきた。本書では、彼らが誰かの役に立とうとしていて、それが幸せそうに見える。

 佳乃の謎を追う内に、登場人物と読者の前に新たな謎が立ち上がる。どうやらこの謎を、次回以降のシリーズが追うらしい。

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あるキング

著 者:伊坂幸太郎
出版社:徳間書店
出版日:2012年8月15日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、3年前に出版された単行本を文庫化したもの。先日新聞に載った本書の広告に「全面改稿(大幅改稿だったかも?)」の文字が躍っていた。何の義務も強制もないのに、「これは読まねば」と思って書店で購入した。

 山田王求という、ある天才野球選手の生涯が綴られた物語。王求の両親は、仙醍キングスというプロ野球チームの熱烈なファンで、「王(キングス)に求められる」という意味で「王求(おうく)」と名付けた。そして、王求は尋常ではない才能と練習によって一流の野球選手に成長する。その過程が、〇歳、三歳、十歳、十二歳…と、王求の成長の節目ごとに章を建てて描く。

 広告にも裏表紙にも「いままでの伊坂幸太郎作品とは違います」と書いてある。しかしそれは、単行本の出版時に、多くの読者が思ったことでもある。王求の周囲には、魔女やら四足の獣やら謎の男やらと、得体の知れないものがチラチラと登場する。
 それまでは「パズルのピースがピタッとハマる」感じだったのに、この得体の知れないもののために、この作品は何となく「不安定な感じ」なのだ。インタビューなどで著者自身が、この作品から意図的に変えた、という主旨のことをお話になってもいる。この文庫本では、そこをセールスポイントとしたらしい。

 そうした出版サイドの思惑に反することになるが、私は本書は単行本と比較して「それまでの伊坂作品」らしくなったと感じた。それを確かめるために、本書を読んだ後に、突き合わせるように単行本を再読してみた。それで主には、シェイクスピアの「マクベス」に関する話題が追加されていることが分かった(そのために私は「マクベス」まで読み直してしまった)。魔女は「マクベス」にも登場する。これで魔女の得体が少し知れたので、不安定感がぐっと下がったようだ。

 また「文庫版あとがき」で著者が、「もう少し分かりやすく」と考えた、と書かれているが、そのために「マクベス」以外にも、実に実に細かい改稿がされている。伏線や気の効いたセリフなども盛り込まれた。まさに「それまでの伊坂作品」のように。私は、この文庫版の方が好きだし、おススメもする(☆も3つから4つに増やした)。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
 「伊坂幸太郎」カテゴリー

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