ダークエルフ物語 ドロウの遺産

書影

著 者:R.A.サルバトーレ 監訳:安田均 訳:笠井道子
出版社:アスキー・メディアワークス
出版日:2008年11月14日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 私はファンタジーが好きで、海外作品もけっこう読んでいたのだけれど、ここしばらくは遠のいていた。本書のことも知らなかったのだけれど、シリーズが何巻かあるし、パラパラと読んだところ面白そうだったので、読むことにした。

 主人公はドリッズト・ドゥアーデンという名のダークエルフ。ダークエルフというのは、地下世界に棲む邪悪な種族。その世界は裏切りや謀略が渦巻く。ただしドリッズトは、そんな故郷と同族を捨てて地上世界に出てきている。

 ドリッズトは地上世界で、ドワーフの王や蛮人の友人や、人間の女性などの仲間を得て、争い事が絶えることはないまでも、それなりに穏やかな暮らしを得ていた。だたし、故郷の地下世界は、そんなドリッズドを放っておく世界ではなかった..。

 エルフにドワーフにゴブリン、魔法に召喚魔獣に魔法の武具。ダンジョンでの息もつかせぬ戦い。まさにファンタジーの王道のような物語だった。主人公が邪悪な種族の出自で、その同族から狙われる、という設定は「デビルマン」のようでもある。

 期待通りに面白かった。他のシリーズも読んでみようと思う。ただひとつ迂闊なことに、本書がシリーズ第1巻ではなかった。どうりで物語の随所に回想が度々はいるはずだ。これは最初に戻ってみた方がよいだろう。

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サブマリン

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:祥伝社
出版日:2016年3月30日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの最新刊。書き下ろし長編で、あの「チルドレン」の続編で、「陣内さん、出番ですよ。」と書いた帯が付いている。これは伊坂ファンならばすぐにでも読みたいだろうと思う。

 陣内は、数多い伊坂作品の魅力的なキャラクターの中でも、人気がある登場人物で、「チルドレン」以来12年間登場していない(たぶん。作品間リンクでの言及はあったけれど)。つまり待望の再登場だからだ。

 「チルドレン」は、陣内の学生時代と家裁の調査官になってからの、2つの時代を交互に描いた短編集だった。本書は長編で、家裁の調査官で主任になった陣内を、陣内さんの部下となった武藤を主人公にして描く。時代は「チルドレン」の「家裁の調査官パート」から、数年後ぐらい。

 陣内のことがよく分かるエピソードが「チルドレン」にある。永瀬という盲目の友人が、盲目というだけで憐れまれて現金を手渡された。その過剰な同情は、永瀬はじめ友人たちの心に影を落とす。陣内も怒った。「何で、おまえがもらえて、俺がもらえないんだよ」「(目が見えないことなど)そんなの関係ねえだろ」

 その魅力は健在だった。「空気を読まない」から誰かを傷つけてしまうかもしれない。でも、その固定観念に縛られない感性は、時に「本当に大事なモノ」をしっかりと捉える。陣内のところに、かつて担当した少年たちがなぜか顔を出すのは、やはり何か救われた思いがあるからだろう。

 だから面白かった。ただ、本書は重いテーマを抱えている、ということも指摘しておく。サンデル先生の「これからの「正義」の話をしよう」に重なる、「正義」に関するもので、容易には答えが出ない。そのために、荷物を持ったまま物語を読むような気の重さを感じてしまった。

 最後に。鴨居くんはどうしたのだろう?

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下り坂をそろそろと下る

書影

編  者:平田オリザ
出版社:講談社
出版日:2016年4月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本書を手に取ったのは「下り坂をそろそろと下る」というタイトルに共感を覚えたからだ。著者は、日本は大きな成長という上り坂をもう登らない、と言う。これからは長い下り坂を下る「後退戦」を「勝てないまでも負けない」ことが大事だと。

 私もウスウスそう思っていた。現実を直視すれば「成長」を前提にした政策や制度が、いかに空疎で弊害のあるものか分かる。大小様々な事業が「利用(需要)が増える」計画を立てることでGOサインが出る。しかし、まったくその通りにはいかない。だから、考え方を変える必要がある。

 また著者は、私たちはこれから「日本はもはや.」に続く、3つの寂しさに耐えなければならないと言う。「工業立国ではない」「成長社会には戻らない」「アジア唯一の先進国ではない」。特に3つ目の寂しさに耐えられないことがヘイトスピーチなどに現れ、最悪のケースでは再び「銃をかつがせる」ことになる。

 少し注意しておくと、本書の大部分はこのような著者の主張をストレートに伝えたものではなく、演劇による教育や地域振興など、著者が各地で積んでいる実績の報告だ。「文化」というキーワードによって「下り坂」論とつながっているのだけれど、その読取りにはひと手間が必要だ。

 最後に。著者が目指す社会を表した言葉が印象的だったので書いておく。皆さんはどう思われるだろう?読んですぐには肯定できないかもしれないけれど、私もこういう社会がいいと思う。

●生活保護世帯の方たちが平日の昼間に映画館に来てくれたら「生活が大変なのに映画を観に来てくれてありがとう」という社会。
●子育て中のお母さんが、昼間に、子どもを保育所に預けて芝居や映画を観に行っても、後ろ指を指されない社会。

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かもめ食堂

書影

著 者:群ようこ
出版社:幻冬舎
出版日:2008年8月10日 初版発行 2016年4月1日 30版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 書店で「幻冬舎文庫編集長がオススメする5冊」という帯に魅かれて手に取った。幻冬舎文庫は創刊20周年、この間2964作品あるそうだ。その中で5冊に選ばれたのだから、これは読む価値ありそうだと思った。

 主人公はサチエ、38歳。サチエの父は古武道の達人で、サチエも父の道場で幼いころからその指導を受けた。父が掲げた人生訓は「人生すべて修行」。母を亡くした後は、その父が厳しくも愛情を持って育ててくれた。

 そのサチエが、大学を卒業後に食品会社を経て、自分の店として開業したのが「かもめ食堂」。サチエが素材から選んで手作りした食事を出す。一つとても特徴的なのは、その食堂がフィンランドの首都、ヘルシンキにあるということ。

 物語は、サチエが異国で食堂を始めるも「客数ゼロ」の日が延々と続くところから、一人また一人と「かもめ食堂」に人が集ってくる様子を、柔らかな筆致で描く。この柔らかさはサチエが持つ雰囲気によるところが大きい。

 集ってくるのはお客だけではない。途中で一人また一人と、日本からフラリとやって来た女性が加わる。「そんな理由でここまで来たの?」ちょっと呆れてしまう。いや正直に言うと羨ましい。サチエを含む女性たちに、軽やかさと心細さ、芯にある強さを感じる。

 幻冬舎文庫編集長は、この本に「「生活の質を上げたい」「静かにゆったり過ごしたい」-そんなとき、お片付けや掃除じゃなく、一冊の上質な本を読めばいい。私はこれ。」という解説を付けている。読み終わってみると、この気持ちがよく分かる。

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武士道シックスティーン

書影

著 者:誉田哲也
出版社:文藝春秋
出版日:2007年7月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本好きの知人の何人かが「面白いよ」と言っていて、本書のことは何年も前から知っていた。先日読んだ有川浩さんの「倒れるときは前のめり」でも紹介されていて(続々編「武士道エイティーン」の文庫版の解説は有川さんが書いておられるそうだ)、いよいよという感じで読んでみた。

 主人公は磯山香織と西荻早苗の2人の高校生。共に東松学園高校女子部の剣道部の部員。本書はウラ若き女子高校生の、剣道にかける青春を描いたものだ。時期的には高校入学前から高校2年の夏まで。

 香織が、ちょっとぶっ飛んでいる。「全中(全国中学校剣道大会)2位」という実績の持ち主。3歳で剣道を父親から習い始めた。宮本武蔵を「心の師」と仰ぎ、「五輪書」が愛読書。自らを「兵法者」と位置づけ、剣道は「斬るか斬られるか」だと思っている。

 早苗は、ずっとフェミニンな感じ。子どもの頃から日本舞踊を習っていて、その経験が生かせるものを..と、中学から剣道を始めた。本当に日舞の経験が生きたのか、メキメキと上達している。実は、磯山さんに勝ったことがある。

 これは面白かった。考え方も性格も違う2人が、寄り添っていく感じがいい。まぁ早苗の性格と努力なしでは、そうならなかった。香織が自分が通った道場の空気を称して言った「磨ぎたての刃のような」は、まさに香織自身がまとった空気でもある。これでは、周囲も自分も傷つけてしまう。

 香織と早苗を見ていて、あさのあつこさんの「バッテリー」の巧と豪を思い出した。。そのレビューで私は、「そうは言っても巧君よ..」と書いているが、今回も「そうは言っても香織さんよ..」と思った。

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鴨川食堂おかわり

書影

著 者:柏井壽
出版社:小学館
出版日:2015年11月11日 初版第1刷 2016年2月1日 第3刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「鴨川食堂」の続編。NHK BSプレミアムで放送されていた、同名のTVドラマは、前作と本書の2冊を原作としたものらしい。

 舞台も物語の構成も前作と同じ。京都の東本願寺近くで鴨川父娘が営む食堂「鴨川食堂」が舞台。ここに来るお客は、記憶の中にだけ残る料理を捜してもらいにやってくる。前作と同じく本書でも6人のお客を迎える。

 わざわざ捜してもらいに来るのだから、その料理にはその人の想いがこもっている。その想いは必ず誰か人につながっている。父親であったり、母親であったり、息子であったり、肉親のそれももう会えない人であることが多い。

 だからお客は料理と一緒に、失った、あるいは見失った絆を捜してもらいに来ているのだろう。鴨川親子は、お客が求めている以上のものを捜し出して、届けてくれる。

 鴨川食堂では、お客に2回料理を出す。1回目は料理を捜す依頼に来たときに「おまかせ」で。2回目は結果報告として捜し出した料理を出すとき。今回、捜し出した料理は「海苔弁」「ハンバーグ」「クリスマスケーキ」「炒飯」「中華そば」「天丼」。

 もちろんそれぞれに工夫された料理なのだけれど、まぁとてもポピュラーな庶民的なものだ。それに対して1回目の「おまかせ」が、とてもとても手の込んだうまそうな料理で、読んでいて唾が湧いてくる。

 「若狭で揚がった寒鯖のキズシ、日生の牡蠣の甘露煮、京地鶏の東寺揚、間人蟹の酢のもん、鹿ケ谷かぼちゃの炊いたん、近江牛の竜田揚げ..」。書いている今も生唾を飲み込んだ。(「酢のもん」とか「炊いたん」とかの関西の言葉が、また一層うまそうに感じる)

参考:NHKプレミアムドラマ「鴨川食堂」公式サイト

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戦場のコックたち

書影

著 者:深緑野分
出版社:東京創元社
出版日:2015年8月28日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 今年の本屋大賞の第7位の作品。直木賞、大藪春彦賞にもノミネートされていて、「このミステリーがすごい!」「このミステリーが読みたい!」ではともに第2位。1位にはならなかったとしても、なかなかの話題作だ。

 主人公は、ティム・コール。年齢は20歳前後。合衆国陸軍の兵士。時代は、第二次世界大戦のころ。舞台はフランス、ベルギー、ドイツのヨーロッパ戦線の前線。

 ティムは、パラシュートで降下して、戦いの最前線に送り込まれる兵士。そして、彼には戦う以外の任務もある。他の兵士たちの食事を調理する「コック兵」でもあるのだ。タイトルの「戦場のコックたち」とは、ティムとその同僚の「コック兵」のことを指している。

 話題作になるのが頷ける。今までになかった物語だと思うからだ。戦場を舞台とした作品は数多くても「コック兵」を主人公とした作品は少ないだろう。そして忘れてはならないのは、本書が「ミステリー」だということ。事件が起き、謎解きがある。

 その事件というのが、殺人事件のような大事件ではなく、ちょっとした不思議な出来事だ。ジャンルで言えば「日常の謎」。戦場という極め付けの「非日常」の中で起きる「日常の謎」。こんなことを思いついた著者の発想力がスゴイ。

 戦場の最前線が舞台なので、殺伐としたシーンも多い。死体が山積み、なんてことが珍しくない。ハッピーエンドなのかどうかも分からない。そういうネガティブな素材を、謎解きとユーモアと人情と友情という各種スパイスで味付けして、食べやすい料理に仕上げた。そんな作品だ。

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バベル九朔

書影

著 者:万城目学
出版社:KADOKAWA
出版日:2016年3月20日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「悟浄出立」以来、約2年ぶりの新刊。日常の中に奇想天外な仕掛けを持ち込んだ、少しズレた世界観が、著者の作品の特長だと思う。本書もそれに連なる作品、いやちょっと進化したかもしれない。

 主人公は九朔満大、27歳。祖父の満男が建てた雑居ビル「バベル九朔」の管理人をしている。管理人とはいえ、職と言えるほどの仕事はなく、まぁ平たく言うと「無職」。作家になることを夢見て、小説を書いては新人賞に応募している。今のところ、手応えはない。

 ある日、九朔くんがビルのテナントの水道メーターをチェックしていると、若い女性が階段を上ってきた。胸元が大きく開いた真っ黒な短いワンピース、黒いタイツに黒いハイヒールに黒のサングラス。まるでカラスだ。

 この「カラス女」の登場をきっかけとして、九朔くんの運命が翻弄される。その「カラス女」に追い詰められたあげく、ワケの分からない世界に飛び込み、延々と階段を上るハメになり、誰が本当に味方かさっぱりわからない..。

 面白かった。最初に「ちょっと進化したかも」というのは2つ理由がある。一つには本書を(偉そうな言い方で申し訳ないけれど)正統派の「異世界モノ」だと感じたからだ。

 「正統派」のウラを返せば「何処かにあった感じがする世界観」なのだけれど、それでも、展開されるエピソードは万城目さんにしか書けないものになっている。

 もう一つは、伏線や他の作品とのリンクなど、読者を楽しませる仕掛けをしてくれていることだ。私はこういう仕掛けが大好きなので、見つけた時はうれしかった。

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僕らのごはんは明日で待ってる

書影

著 者:瀬尾まいこ
出版社:幻冬舎
出版日:2016年2月25日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の作品を読むのは、「戸村飯店青春100連発」「温室デイズ」「あと少し、もう少し」に続いて本書で4作品目。これまでの3作品は、その「悩み」も含めて、中高生のしなやかな感性を描いたものだった。本書は少し上の世代を描いたものだ。

 本書では主人公は葉山亮太。物語の始まりの時は高校3年生だった。彼は、中学の頃のあることがきっかけで、周囲から距離を置くようになり、クラスから浮いた存在になっていた。そんな葉山君に、クラスメイトの上原小春が声をかけてくる。

 しょっちゅう途方にくれたり、たそがれたりして、遠い目をしていた葉山君だけれど、上原さんと話すようになってから、少し変わった。止まった時間が動き出した感じだ。こうして始まった「上原君と上原さんの物語」の数年間を、本書は綴っていく。

 私が葉山君たちの年頃だったのは、もう30年以上も前のことだ。でも思い出したことがある。詳しくは言えないけれど、ちょっとしたことがきっかけでクラスに溶け込めた、という話だ。まぁボォっとしていた私は、そんなことは知らずにいて、後になって友達から聞いて「そうやったん?」なんて言っていたのだけれど。

 二人が「背負っているもの」と「背負うことになったもの」は思いのほか重い。だから、少しつらいところもある。でもこの言葉遊びのようなタイトルのように「なんとなく前向きな感じ」の物語だ。

 2017年新春に映画化決定。(公式サイト)

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倒れるときは前のめり

書影

著 者:有川浩
出版社:角川書店
出版日:2016年1月27日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 私が大好きな有川浩さんの初エッセイ集。デビューした2003から現在までの94編。こんなにたくさんのエッセイを書かれているとは知らなかった。多くは新聞に掲載されたものなので、購読者でないと、目にすることが限られていた。

 「倒れるときは前のめり」という、「男前」なタイトル(念のため言うと、著者は素敵な女性だけれど)。これは、収録された最初の一編に記された言葉。「塩の街」で、電撃ゲーム小説大賞を受賞した時、つまりデビュー時のエッセイで、「行けるところまで頑張ろう」という宣言の言葉だ。

 「男前」な態度は、本書を通して感じられる。少し読み進めて気が付いたのだけれど、本書に綴られているのはエッセイというよりは、オピニオン(意見)だ。「こうすべきだと私は思う」という、芯が通った主張が感じられる。

 例えば、東日本大震災の後の一遍。「自粛」は被災地を救わない、と著者は言う。経済を回すことが何よりの復興支援。「阪神・淡路」を経験した人なら肌感覚として分かっているのではないか?という意見。

 さらに、これからは「良いと思った取り組みを意識して支持する」必要がある、という意見。なぜなら最近は、些細なことでもネガティブな意見がすぐに飛び交い、その試みを潰してしまうからだ。

 ネガティブな意見は、実はごく少数派であるにも関わらず、こういうことが頻繁に起きている。正常なバランスを保つために、これからは「よかったよ」というメッセージを積極的に発するべきではないか?ということだ。

 著者のことが、ますます好きになった。

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 「有川浩」カテゴリー

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