戦争よりも本がいい

書影

著 者:池内紀
出版社:講談社
出版日:2014年11月26日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、ドイツ文学者でエッセイストの著者による書評集。講談社の雑誌「本」に「珍品堂目録」のタイトルでの、2003年から2013年までの130回の連載をまとめたもの。まとめるにあたって1つ落として、129冊の本がそれぞれ3ページで紹介されている。

 博覧強記とはこういうことを言うのだろう。江戸時代から最近まで、古今の多様なジャンルの本が勢揃い。入手困難な稀覯本のたぐいもかなりある。恥ずかしながら、私はただの1冊も読んだことがなかった。

 1冊も読んでいないことの言い訳をすれば、「珍品堂目録」のタイトルから推し量れるように、広く読まれるような本ではないからだ。例えば「みみず」の生態や構造、その再生力などについて、詳細に書かれた本。読者はどのくらいいるのだろう?

 ただし、こう紹介すると「変な本」がたくさん載っているだけで、読んでも面白くないだろうと思われそうだけれど、そうではない。書評だけ読んで楽しい本もあるし、手に取って読んでみたいという本も何冊かあった。

 例えば「地球文字探検家/浅葉克己著」。「アリナミンA」「カップヌードル」などの広告デザインを手掛けた、アートディレクターによる「文字」の考察。現在「デザイン」を巡って騒々しい議論がされているが、そのこととは関係なく、興味を魅かれる内容だ。

 その他、江戸時代のお店の看板の図版集「江戸の看板」、柳田國男が採択しなかった昔話を収集した「柳田國男未採択昔話聚稿」、国内の川を絵で表した「日本の川」シリーズ、そろばんの製作技法や歴史をまとめた「播州そろばん」...まだまだある。

 最後に。タイトルの「戦争よりも本がいい」について。これは著者が聞いた、古書店の店主のつぶやきだそうだ。本来は対置される言葉ではない2つが並んでいる。「戦争」か「本」かを選ぶようなことは、絶対に起きないようにしなくてはならない。

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この方法で生きのびよ!

書影

著 者:鈴木博毅
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2015年9月7日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の鈴木博毅さまから献本いただきました。感謝。

 本書は所属する組織やビジネスの枠組みを「船」に見立て、社会を激変させるような大きな流れを「氷山」に例える。迫りくる「氷山」への対処を知っていれば、衝突や沈没を避けられる、衝突しても海に投げ出されることを免れられる、うまく利用できればチャンスにさえなる、ということだ。

 著者があげる「氷山」は5つ。「代替」「新芽」「非常識」「拡散」「増殖」。言葉だけではどうしてこれが「氷山(=大きな流れ)」なのか分からないだろう。例えば「代替」は、交通手段としての「馬」が「自動車」に、デジカメやゲーム機などのいろいろなものが「スマホ」に、取って代わられた、ということを差している。何かが「代替」となって市場を失う、という流れだ。

 その他の4つも簡単に。「新芽」は、困難に直面した時に、新しい発想によって復元すること。「非常識」は、文字通り常識に囚われず、それまでの世界観から抜け出すこと。「拡散」は、それまで存在しなかった分野に商品が拡がっていくこと。「増殖」は、ある商品を買った消費者が、その商品の熱心なセールスマンになるようなこと。

 読んでいてどうもしっくりこない感じがしていた。本書は、誰に対して何を促そうとしているのか?著者が言うように、従来のビジネス書が描く「日常の仕事の効率化」と違い、「大きな変化」を本書が描き出しているのは間違いない。しかしその大きな変化に乗れる人とはどういう人?という疑問が湧く。

 しかもその「大きな変化」の例が、「「馬」が「自動車」を代替」では「つまり「第二の自動車」を発明しろってこと?」と思ってしまう。その他にも「巨大帝国を築いたアレクサンダー大王の「非常識」」というのもあったけれど、例えがあまりに大きすぎる。

 タイトルが「この方法で生きのびよ!」だから、生きのびるための具体的な方法が書いてあると思うと肩すかしを食う。私の「しっくりこない」感の原因もここにある。本書は、もっと大きな戦略レベルの思考の枠組みを提供する。そのつもりで読めば得るものがあるだろう。 

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あの家に暮らす四人の女

書影

著 者:三浦しをん
出版社:中央公論社
出版日:2015年7月10日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 杉並区の善福寺川が大きく蛇行する辺りにある、古い洋館に住む4人の女性の物語。帯には「ざんねんな女たちの、現代版「細雪」 谷崎潤一郎メモリアル特別小説」とある。とても楽しめた。

 女性たちの名は、牧田鶴代、牧田佐知、谷山雪乃、上野多恵美。鶴代は佐知の母でもうすぐ70歳になる。佐知は37歳で独身、刺繍作家として生計を立てている。雪乃は佐知の友人で佐知と同じく37歳で独身、保険会社に勤めている。多恵美は雪乃の会社の後輩で27歳。

 4人は佐知の曽祖父が建てた家に住んでいる。鶴代と佐知の母娘が住む家に、雪乃と多恵美が順に転がり込んできたわけで、それなりの事情がある。ともかく今は、4人で家事を分担する共同生活を営んでいる。

 日々の暮らしと会話で、女性たち、特に佐知の内面を綴る。恋愛、仕事、友情、孤独、将来。もちろん事件も起きる。けっこうショッキングな出来事や物騒なこともある。しかし、それは佐知たちの内面の変化のきっかけであって、この物語はそうした出来事ではなく、女性たちの心の方を中心に描く。

 4人の名前はもちろん「細雪」の4姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子、にちなんでいる。それぞれの性格も緩やかに関係していると思う。エピソードにも「細雪」との関連を感じるものがいくつかあった。ただし、そういったことは知っていれば「おっ!」と思う程度で、知らなくても本書を楽しむ妨げにはならない。

 佐知の曽祖父が財を成し、ぼんくらの息子が資産が目減りさせたが、鶴代が一生困らぬぐらいの貯金はある。しかし、鶴代の娘(つまり佐知)が困らぬぐらいは、さすがにない。母娘であっても、この境遇の違いは大きく、母娘のかみ合わない会話が面白かった。

 面白いと言えば、佐知の「心の叫び」が今も耳に残る。自分の作品で身を飾ってデートを満喫する女性を思い浮かべて「一針一針にわが情念を込めて、おのれらの魂に直接刺繍してやりたい。おのれらの魂から吹き出す血潮で..」いや、普段は真っ当な生き方をしている常識人なんだけれど。

 参考:エンタメウィーク:浦しをんさんインタービュー

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村上さんのところ

書影

著 者:村上春樹
出版社:新潮社
出版日:2015年7月24日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 今年の1月15日にオープンした、本書と同名の村上春樹さんと読者との交流サイトの記録。読者からの質問と、それに対する村上さんの答えが、なんと473個も収録されている。

 473という数字で驚いてはいけない。受け付け期間の17日間に3万7456個もの質問が寄せられ、村上さんはそれを全部読んで、3か月以上かけて3716個の質問に答えたそうだ。私にはとてもマネできない(しろとも言われないけれど)。降参。

 村上さんのファンならば、絶対におススメ。これまでにもインタビュー記事やスピーチなどで、気持ちや考えを垣間見ることはできた。他の作家と比べて、その機会は少なくない方だろう。

 でも、一般の人からこれだけの数の質問があると、インタビューでは聞かない(聞けない)質問が多々ある。それらの一つ一つに真摯に、時にはユーモアを持って答えてくれている。その答えを聞けたことがすごくうれしい。

 「そうなんだ!」「そうだよな!」と思った答えをいくつか。「「ハルキスト」はちゃらい感じがするので「村上主義者」と呼んでほしい」「「1Q84」には、あの前の話とあのあとの話がある。書いた方がいいのか、書かないままにしておいた方がいいのか...」

 「今年の後半に旅行記みたいなものを出す」「その年代の男ってだいたい馬鹿なんです。猿とそんなに変わりません」「昔父親から聞いた話によれば、うちの父方のルーツは、(中略)村上義清だということです」

 それからイラストのことも。村上さんの本には安西水丸さんのイラストが似合う。けれども水丸さんは昨年亡くなってしまった。そこで、本書のイラストを手掛けたのはフジモトマサルさん。フジモトさんのイラストとマンガが、本書にものすごくぴったりハマっている。素晴らしい。

 なお3716個の質問と回答をすべて収めた「村上さんのところ コンプリート版
」が、電子ブックで発売されている。

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虹の岬の喫茶店

書影

著 者:森沢明夫
出版社:幻冬舎
出版日:2013年11月15日 初版 2014年9月25日 13版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、2012年にラジオドラマ化、2014年には「ふしぎな岬の物語」というタイトルで、本書を原作とした映画が、吉永小百合さん主演で公開されている。友達から借りて読んだ。

 岬の先端にある小さな喫茶店が舞台。その喫茶店は、半島にある国道のトンネルの出口の、ガードレールの切れ目の小道を行ったところにある。海を挟んで向かい側にも半島があって、その向こうに富士山が見える。(千葉県に実在する喫茶店がモチーフだそうだ)

 舞台をこんなに詳しく書いたのにはわけがある。ここから見た景色が、物語の重要なキーになっているからだ。繰り返し描写されるこの景色を、読者は思い浮かべながら読み進めることになる。(「実在する喫茶店がモチーフ」なんて知ったら、行って見たくなるだろう)

 全部で6章あって、それぞれで主人公が変わる。第1章は妻を亡くしたばかりの男、克彦と4歳の娘の物語。「虹さがしの冒険」に出かけて、この喫茶店に、そして店の壁にかけられた虹の絵にたどり着く。この絵と喫茶店の主の悦子に出会い、克彦の人生が少しだけ変わる。

 その後の各章も、この喫茶店に来た人々が主人公となる。それぞれにちょっとした問題や重荷を抱えている。そして、ここでの出来事によって、人生が少しだけ変わる。抱えた問題や重荷が解決するわけではない。けれども、大事な変化が起きている。

 章が進むごとに、この喫茶店と悦子のことも明らかになってくる。こんな辺鄙な岬の先端の喫茶店に、どうして悦子はいるのか?そこにはある願いがあるのだけれど、その願いは遂げられるのか?何人もの人生が交錯する物語を横軸に、悦子の願いを縦軸に、美しい海の景色を背景に、心温まる秀作。

映画「ふしぎな岬の物語」公式サイト

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ブラック・ベルベット

書影

著 者:恩田陸
出版社:双葉社
出版日:2015年5月24日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の現在の最新刊。著者の作品はとても多様で、「ドミノ」のようにエンタテイメントに徹したコメディや、「上と外」のようなアドベンチャーは、私の大好きなジャンルだ。その他には「チョコレートコスモス」も「夜のピクニック」もよかった。ただ、私が苦手なホラー系の作品もあるので、なんとなく敬遠していて、著者の単行本作品を読むのは3年ぶり。

 帯を見て「失敗したかな?」と思った。「凄腕ウィルスハンター・神原恵弥シリーズ最新刊!」と書いてあったからだ。本書はシリーズものの第3弾らしい。それでも「まぁいいか」と思い直して読み始めた。

 結果から言うと、いきなり第3弾を読んでも楽しめた。登場人物やエピソードに、過去の作品をにおわせるものが少なからずあるので、順番に読むに越したことはないのだろう。それでも本書は本書だけで独立した物語になっている。

 主人公はシリーズ名にもなっている神原恵弥。米国の製薬会社に所属し、新薬開発につながる情報を探る調査員。敏腕で美形でバイセクシャル。ちなみに恵弥は「めぐみ」と読むけれど男性。でも女言葉を使うし、バイセクシャルなのでかつては男性の恋人もいた。なかなか濃いキャラクターだ。

 物語はショッキングな幕開けをする。恵弥が追っている女性が目の前で暴漢に刺殺される。場所は東西文化の交差点であるT共和国。旧知の国立感染症研究所の研究員から捜索を依頼され、その女性を発見して、接触を試みようとした矢先の出来事。

 ジャンルとしてはミステリーなので、ストーリーを詳しくは紹介しない。このあとT共和国に住む恵弥の高校の同級生との道行きで、薬物事件に絡んで様々な事件が立て続けに起きる。そのどれもが、輪郭を欠いたようにどこかあやふやな感じがする。

 この「あやふやな感じ」が、最後に来て明瞭になるのが本書の醍醐味。それまで見えていた風景が違って見える。(実は私には今一つ腑に落ちないことがあるのだけれど...)

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遺言 日本の未来へ

書影

編  集:日経ビジネス
出版社:日経BP社
出版日:2015年8月17日 第1版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 出版社の日経BP社さまから献本していただきました。感謝。

 本書に添付されていたリリース文に「戦後70年、日本の安全保障のあり方が大きく転換しようかという今、第二次世界大戦下の日本を直接知る先達に、戦争とは何だったのか、戦後復興、高度経済成長とはどんな時代だったのかを語ってもらうことは、極めて意味のあることでしょう」とある。

 この主旨に則って、本書は、政財界、文化界などの重鎮、77歳から100歳までの31人から聞き取った言葉を収録したもの。そこで語られているのは、上に書いた主旨のとおりに、先の戦争から高度経済成長あたりまでの体験。今、記録しておかなければ早晩失われてしまうものだ。(31人はAmazonリンクの先に一覧があります)

 本書を読んでいる間中、二つの気持ちの間で揺れていた。否定的な気持ちと、そうではいけないと思う気持ち。多くの方が「終戦の時は○年生でした」ということからはじめて、自分の体験を語る。戦後の悲惨さを語り、自分たち世代の頑張りを語り、今の世の中を憂いの眼差しで語る。「それで何?」という投げやりな気持ちが頭をもたげる。

 「遺言」「日本の未来へ」というタイトルから、これは以降の世代へのメッセージだと思っていた。ところがほとんどの方は「自分語り」に終始している。「重鎮」に聞いているので、どうしても最後には上手く行った話に偏って、いわゆる「生存バイアス」もかかる。「(今の人は)与えられることに慣れ過ぎている」なんて言われても、言われた方はどうしようもない。「それで何?どうしろって言うの」

 そして「いや、ここから何かを読み取らねば」という気持ちも涌いていた。「これは「老害」だよな」と思うこともあったけれど、それも含めて、何を受け取るかは私たち次第なのだと思った。この期に及んで「分かりやすくストレートなメッセージ」を望んでは、それこそ「重鎮」たちに笑われてしまう。

 もちろん「分かりやすくストレートなメッセージ」もあった。脚本家の倉本聰さん。1935年生まれの80歳。一言で言えば「右肩上がりの考え方を改めよう」ということだった。自然界には右肩上がりのものはない、毎年同じ量しか生み出せない。「右肩上がり」は、自然の摂理と矛盾している。ここ最近、私が考えていたことと重なった。

 最後に。「重鎮」たちのお一人の堀場製作所最高顧問の堀場雅夫さんは、本書のインタビューの後、今年の7月14日に90歳でご逝去された。合掌。

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福井モデル 未来は地方から始まる

書影

著 者:藤吉雅春
出版社:文藝春秋
出版日:2015年4月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 知り合いがFacebookで紹介していて、興味があったので手に取ってみた。

 本書は「都市再生」のモデルを、富山県と福井県での取り組みに求めたルポ。前提として「地方消滅」の「消滅可能性都市」が象徴する「地方の衰退・破壊」と、そんな中で北陸三県の「幸福度」が高いという評価がある。2011年の法政大学等の調査によると、都道府県幸福度ランキングでは、1位福井県、2位富山県、3位石川県となっている。

 まずは富山市の事例。国内ではあまり知られていない事実だけれど、富山市は世界中から注目を浴びているらしい。講演の要請で、市長は世界中から引っ張りだこなのだという。理由は、OECDの「コンパクトシティ政策報告書」で、「世界の先進五都市」として評価されたからだ。

 本書には富山市の「コンパクトシティ構想」が、詳細に紹介されている。この施策が成功しているのは、市長の決断力と実行力の賜物だ。私は行政関連の仕事をしている。だから、こういうことは「行政が一番苦手としている」ことが分かる。ただ「行政にしかできない」ことでもある。

 次は福井県鯖江市の事例。鯖江市はメガネの産地として知られる。眼鏡フレームの国内シェア96%を占める。ただし90年代以降に中国の台頭により大打撃を受け、出荷額はピーク時の半分以下まで激減した。「日本でもっとも早く中国にやられた町」が、今、注目を集めている。

 鯖江市の場合は、富山市のように市長がけん引する形ではなく、「仕組み」や「市民性」がうまく回しているようだ。例えば福井県は人口当たりの社長の数が全国一位。鯖江ではクラスで「お父さんの職業は?」と聞いたら、ほぼ全員が「社長」と答えた、という話があるぐらいだ。

 最後に。「地方消滅」の関連で言えば、鯖江市は人口が増加し続けている。これ一つとってもとても興味深いことだと思う。「地方都市の再生」に関心がある人には一読をおススメする。

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「ニッポン社会」入門

書影

著 者:コリン・ジョイス
出版社:NHK出版
出版日:2006年12月10日 第1刷 2015年2月15日第28刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 表紙に踊る「塩野七生氏絶賛」の文字に魅かれて手に取ってみた。この「表紙」は、新書で最近よくある二重カバーの表紙。もともとのレーベル共通の地味な表紙(Amazonリンクのサムネイルのように)だったら、おそらく目に留まっていないと思う。

 著者は、日本に14年いた英国人のジャーナリスト。「ニューズウィーク日本版」の記者や「デイリーテレグラフ」紙の東京特派員などをしていた。本書は。日本に住んで、相当に馴染んだ英国人の目から見た「日本」と「英国」のレポートだ。サブタイトルは「英国人記者の抱腹レポート」。

 「基礎編」「日本語の難易度」「おもしろい日本語」「日本の第一印象」「日本の日常」「行儀作法」..といった項目建てで、全部で17項目半ある。「半」というのが気になるかもしれないけれど、まぁ著者の「遊び」だと思ってもらえばいい。

 面白かった。特に「日本語」に対する感性がとても新鮮だ。例えば擬音語や擬態語について。コミカルな音の繰り返しが面白い一方で、苦労もしたようだ。「おなか、空いてる?」は理解できても、「おなか、ペコペコ?」は分からないよ、という具合。

 著者の「お気に入り日本語表現ベストスリー」も面白かった。ここでは第1位だけを紹介。それは「おニュー」。短い英単語にたった一文字付け加えるだけで、初めて何かを使うときの「束の間の幸福感」「ユーモア」「アイロニー(皮肉)」のニュアンスを同時に表現している、という。

 2位、3位も(特に3位)面白かったけれど、それは手に取って読んでもらいたい。

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バケモノの子

書影

著 者:細田守
出版社:KADOKAWA
出版日:2015年6月25日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 多くの紹介は必要はないだろう。細田守監督の同名の映画が現在公開中。公開18日で約212万人の観客動員というヒット作になっている。本書はその原作小説で、細田監督自身による書き下ろしだ。

 主人公の名は蓮。9歳の時に母親が交通事故で亡くなった。父親は以前に母親と離婚している。そのため、母の親戚たちに引きとられることになった。しかし、蓮はそれを拒否して一人で生きていくことを選ぶ。

 この後、蓮は「バケモノの世界」に迷い込んで、「熊徹」という名の乱暴者の弟子となる。そして「九太」という名で生きていく。物語は「バケモノの世界」での「人間の子」の九太の成長を中心に描く。

 映画公開後20日あまりなので、ストーリーについてはこれ以上触れない。ただ、とてもよく練られたストーリーだと言っておく。少年の成長、それと裏腹の孤独、抱えた闇、もう一つの世界、冒険、衝突、回復、再生。

 私は「映画」を先に見て「小説」を後から読んだ。監督自身による書き下ろしということもあって、ストーリーに違いはない。違いはないけれど、この順番でよかったと思う。「映画」を観てワクワクした。「小説」を読んで「あのシーン」の意味がよく分かった。

映画「バケモノの子」公式サイト

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