夢をかなえるゾウ2 ガネーシャと貧乏神

書影

著 者:水野敬也
出版社:飛鳥新社
出版日:2012年12月13日第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 2007年に出版された「夢をかなえるゾウ」の続編。本書の帯によると、前書は200万部を超える大ヒットになったそうだ。とにかく面白い本で、私は2008年の「今年読んだ本ランキング」で、「ビジネス・ノンフィクション部門」の1位にしている。

 5年余りして出版された続編の本書は、前書とほぼ同じ趣向。つまり、ゾウの顔をしたヒンドゥー教の神のガネーシャが、芽が出ないでウツウツとしている若者を、成功へと導く。その方法が、ほとんど悪ふざけとしか思えないのだけれど、よくよく考えれば「真理」が隠されていることに気が付く。

 今回の主人公、つまりウツウツとしている若者は、34歳で芸歴8年の売れないピン芸人の勤太郎。サラリーマンを辞して芸人の世界に飛び込んだが、8年経っても「新人発掘ライブ」にしか出られない。年下の先輩芸人からは「サラリーマンに戻った方がいいんじゃねぇの?」と言われる始末。
 そんな勤太郎の前にガネーシャが現れ、なんとコンビを組んで、日本最大のお笑いの祭典「ゴッド・オブ・コント」で優勝を目指すと言う。と言っても、ガネーシャのやることは無責任でいい加減、勤太郎がひとり苦労する。そこに、実は8年前から勤太郎の部屋にいたという貧乏神の幸子さんや、ガネーシャの友だちの釈迦らが絡んで、勤太郎の生活はさらに混乱...

 上に書いたように、前書とほぼ同じ趣向だ。ガネーシャのいい加減さも、それに翻弄される主人公の混乱も、全体のハチャメチャ具合も良く似ている。しかし、前書のようには支持されないだろう。前書にあって本書にないものがあって、それが多分決定的な違いになっていると感じる。

 それは「ガネーシャの課題」だ。前書には全部で30近くある章ごとに「靴をみがく」「コンビニでお釣りを募金する」といった課題があって、それがなかなか的を射た「成功の秘訣」になっていた。実践すれば自分も成功(成長)できるのでは?と思えたのが、大ヒットの理由だと思う。
 本書にはそういったものはない(物語の中から読み取ればないことはないのだけれど)。「自分の役に立ちそう」という気持ちにならない。「面白くてちょっとホロッとさせる話」ではあるけれど、それ以上のものがないのが残念だ。

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デイルマーク王国史4 時の彼方の王冠

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:三辺律子
出版社:東京創元社
出版日:2005年3月25日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「詩人たちの旅」「聖なる島々へ」「呪文の織り手」に続く、デイルマーク王国史4部作の第4作、つまり本書にてシリーズは完結。

 第1作2作は、王が不在となって領主たちが南北に分かれて争う同じ時代の物語で、第3作はずっと時代を遡ってデイルマーク王国が誕生する前、言わば神話の時代の物語だった。そして本書は再び第1作2作の時代へと戻る。

 主人公はメイウェン。13歳の女の子。何と200年後の「現代」から、物語の時代へ送り込まれる。そこで「唯一の者」の娘で、王国を再統一すると言われている少女、ノレスの身代わりとして、正統を示す王冠を求める旅をすることになる。
 その旅に同行するのが、メイウェンを過去に送った張本人のウェンドと、第1作に登場する詩人のヘステファンとモリル、第2作に登場するネイヴィスとミット、の5人。さらに、第3作に登場したタナクィらが姿と名前を変えて現れる。

 メイウェンを除く登場人物にはそれぞれ、これまでの物語に加えて、その後の経緯によって背負うことになった背景と思惑がある。その思惑の違いが旅の雰囲気に微妙な緊張感を生む。さらに、第3作の登場人物たちの「不死なる者」としての意思が絡んでくる。
 また、メイウェンが知る歴史では、この後はアミルという大王が登場して国を興すことになっている。その王はどこで登場するのか?そしてノレスという名は歴史に残っていないけれど、彼女は(つまりメイウェンは)どうなってしまったのか?目が離せない。

 読み終わって、これまでの3作は本書のためにあったと分かる。逆に、本書によってこれまでの3作が生きる。「現代」「物語の時代」「神話の時代」、これまでに描いてきた物語の、悠久の時間の流れを1か所に注ぎ込んだ、正に掉尾を飾る作品だった。

 シリーズ名の「デイルマーク王国史」の英語の原題は、Dalemark Quartet(デイルマーク四重奏)。つまり、この4作品は互いに響きあう関係になっている。前3作と本書には、実に細かい繋がりがいくつもある。それなしでも充分に面白いのだけれど、もしその繋がりを楽しみたければ、間をおかずに4作を読んだ方がいいと思う。

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あけましておめでとうございます。

 皆さん、あけましておめでとうございます。

 昨年は、このブログを始めてから10年の節目を迎えることができました。また、3年連続で1年に100作品以上の紹介をすることができました。細々とはいろいろなことがありましたが、基本的には暮らしが安定していたからこそ続けて来れたわけで、そのことは本当にありがたく思っています。

 これからも1週間、1カ月、1年を積み重ねてできるだけ長く続けて行きたいと思っています。次なる目標は1000作品紹介(現在652作品)、それを目指して精進して行きます。

 それでは、今年が、皆さんにとって良い年でありますように。

2012年の「今年読んだ本ランキング」を作りました。

 今年で5回目で恒例となった「今年読んだ本のランキング」を作りました。昨年までと同じく小説部門は10位まで、ビジネス・ノンフィクション部門は5位までです。
(参考:過去のランキング2011年2010年2009年2008年

 今年このブログで紹介した本は103作品でした。☆の数は、「☆4つ」が34個、「☆3つ」は64個、「☆2つ」が5個。何と「☆5つ」が1つもありません。そう言えば「これは面白かった!」と印象に残る作品が思い浮かびません。それを知った時はとても残念に思いましたが、今は「まぁそういう年もあるさ」と開き直っています。

 また、昨年「☆3つ」が7割を超えてしまったので、今年は良いものは「☆4つ」、良くないものは「☆2つ」を、積極的に付けようと思っていました。少しはその成果が出たようですが、まだまだ「☆3つ」が圧倒的で、☆の意味があまりなくたってしまうことには変わりなく、今後の課題として、さらに越年することになりました。

■小説部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
ジェノサイド / 高野和明 Amazon
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アフリカに出現した、人類絶滅の可能性を秘めた新種の生物を巡る、米国、日本、アフリカ奥地の世界三元中継のジェットコースターアクションサスペンス。
ルーズヴェルト・ゲーム / 池井戸潤 Amazon
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実業団野球チームを擁する中堅電子部品メーカー。会社の厳しい経営状況に、チームが存続が危ぶまれる。身の内に葛藤を抱えつつ、その技術力とチームワークで危機に立ち向かう
海の底 / 有川浩

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塩の街」「空の中」に続く自衛隊三部作の最後の作品。巨大なザリガニに襲われた横須賀の街と、孤立した潜水艦の中のドラマ。デビュー3作目にして驚きの大作。
空飛ぶ広報室 / 有川浩 Amazon
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「自衛隊三部作」以来続く、著者お得意の「自衛隊・ミリタリー+恋愛」作品。航空自衛隊の広報室を舞台に展開する、複数のラブロマンス、自衛隊やマスコミ、世間の有り様を描く。
空色勾玉白鳥異伝薄紅天女  / 荻原規子 Amazon
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著者のデビュー三部作にして、代表作シリーズ。不思議な力を秘める勾玉を巡る、神代の時代から奈良時代まで、時代を移しながらの壮大な物語。
真夜中のパン屋さん 1 / 大沼紀子 Amazon
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累計68.5万部のベストセラーシリーズ。深夜11時から翌朝5時まで開店しているパン屋が舞台のミステリー。個性的な登場人物たちが織りなす心温まる物語。
謎手本忠臣蔵(上)(下) / 加藤廣 Amazon
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「忠臣蔵」として知られる、赤穂浪士討ち入り事件の、こうだったかも知れない真相。語り尽くされた物語を、将軍綱吉の御側用人の柳沢保明の目を通して「新たな光」で照らす。
忍びの国 / 和田竜 Amazon
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「のぼうの城」でネオ時代小説の旗手となった著者の第2作。信長の次男の信雄が伊賀の国に攻め入った、「天正伊賀の乱」を描いた戦国エンタテイメント。
炎路を行く者 / 上橋菜穂子 Amazon
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著者の代表作「守り人」シリーズのスピンアウト。その存在だけが知られ、ファンが公開を待望した「炎路の旅人」と、「守り人」の主人公バルサの若き日を描いた「十五の我には」を収録。
10 機関車先生 / 伊集院静 Amazon
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瀬戸内海の小島の全生徒7人の小学校。そこに赴任した誠吾は病気が原因で話すことができない。誠吾と子どもたち、海を相手にした厳しい暮らしをする島の人々との触れ合いを描く。

 今年は例年にも増して悩みました。☆5つがないために、横並びで数多い☆4つの中から10個を選ぶのに苦労しました。ランキングと銘打っているので、一応順位を付けましたが、考える度に違う気がします。(実は、1位が「ジェノサイド」でいいのかさえ確信が持てません)。

 特徴的なのは、昨年に続いて有川浩さんの作品が2つ入ったこと、昨年の1位「下町ロケット」続いて池井戸潤さんの作品が2位になったこと、時代小説が2つ入ったことでしょうか。

 選外の作品について言うと、東野圭吾さんの「ナミヤ雑貨店の奇蹟」、伊坂幸太郎さんの「あるキング」、佐藤多佳子さんの「一瞬の風になれ」をランキング入りさせるかどうか迷いました。それから話題作の「ビブリア古書堂の事件手帖3」も。

■ビジネス・ノンフィクション部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
絶望の国の幸福な若者たち / 古市憲寿 Amazon
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26歳の気鋭の社会学者による「若者論」。年金や医療問題などで明るい将来像が描けない中で、20代の7割が現在の生活に「満足している」と答えている。その意味を考察する。
誰のためのデザイン? / D.A.ノーマン Amazon
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日常使う製品のデザインはどうあるべきか?を、認知科学の視点から考察した本で、出版後20年以上も版を重ねる良書。商品開発、工業デザインに関わる人には読んでもらいたい。
挑む力 世界一を獲った富士通の流儀 / 片瀬京子、田島篤 Amazon
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「2位じゃダメなんでしょうか?」が耳目を集めた、スーパーコンピュータ「京」など、困難なプロジェクトに挑んで成し遂げた人々を取材した本。富士通には良い宣伝となっただろう。
日本でいちばん大切にしたい会社 / 坂本光司 Amazon
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著者が訪問した6000社を超える企業の中で、「日本でいちばん大切にしたい」と思う会社数社を紹介。「大切にしたい」会社は、関係するすべての人を「大切にする」会社だったと分かる。
お友だちからお願いします / 三浦しをん Amazon
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著者が新聞や雑誌などから依頼を受けて書いた95編のエッセイ集。そのほとんどでニヤニヤしっぱなし。小説作品の裏話的なものもあって、著者とお友だちになりたくなる本。

 相変わらず先行き不透明な社会情勢ですが、ランキング入りした本には、悲観ばかりしていても仕方がない、良い種を見つけてそれを育てよう、と考えさせられました。選外ですが「日本でいちばん元気な商店街」もそうした本でした。
 それから2位、3位、4位は、それぞれ別のところから献本いただいた本です。いただいた本が私の物の見方や知識を広げることに役立っているわけで、感謝の気持ちを新たにしました。

真夜中のパン屋さん 午前2時の転校生

書影

著 者:大沼紀子
出版社:ポプラ社
出版日:2012年12月5日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「午前0時のレシピ」「午前1時の恋泥棒」に続く、「まよパン」シリーズ第3弾。「Boulangerie Kurebayashi」という、午後11時から午前5時までの真夜中に営業しているパン屋を舞台としたミステリー。

 今回は主人公の希実のクラスに来た転校生が騒動の中心。彼の名は美作孝太郎。何と左手に腹話術の人形のアンジェリカを携えて教室に現れた。そして、アンジェリカには予知能力があると言って、希実に「君に危機が迫っている」と警告した。

 希実の周りには、かなり際立ったキャラクターが多い。夜中に徘徊していた小学生、ホームレスだったニューハーフ、のぞき魔の変態、裏社会に生きる飲食店経営者...。変人はもう十分過ぎる。希実の言葉を借りると「お腹いっぱい」だ。

 しかし、毎回新しい登場人物が現れて、その登場人物を巡る騒動に主人公の希実らが巻き込まれる。そして、その登場人物は次回以降にも何らかの役割が与えられ、いわば「まよパン」ファミリーの一員となって、物語を盛り上げる。どうやらそんな趣向らしい。

 物語は、孝太郎(正確にはアンジェリカ?)の予言に希実が振り回され、その内に(これまた変人と言うしかない)怪しげな医師が登場、彼の不穏な行動が孝太郎とその父との確執につながり...とスピードを増しながら転がっていく。

 本書は、希実の前に現れた孝太郎の目的は何なのか?怪しげな医師は何者なのか?など、本書で新たに登場した人物を巡る謎と、シリーズを通して追う主人公の希実を巡る謎の、二重のミステリーになっている。後者の謎がいよいよ目を離せない展開になって、ドンドン面白くなってきたので、前2作は☆3つだけれど、本書は☆4つにした。

「真夜中のパン屋さん」滝沢秀明さん主演でテレビドラマ化決定(2013年4月から/BSプレミアム)

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がらっと自分の「性格」を思いのままに変える方法

書影

著 者:山﨑拓巳
出版社:サンクチュアリ出版
出版日:2012年12月25日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 出版社のサンクチュアリ出版さまから献本いただきました。感謝。

 皆さんは本書のタイトルに、どういう印象を持つだろう?帯には「読むだけで嫌いな自分ががらっと変わる本」と書いてある。性格をがらっと変えるなんて、そんなことできっこない、と懐疑的に見る人が多いのではないだろうか?少なくとも私はそうだ。

 そもそも「何かが簡単にできる」という話を、私は信じていない。だから本書のように「なりたい自分になれる」という本だけでなく、「~する魔法の言葉」「一瞬で~する」という本も信用できない。もちろん期待もしていない。

 こんなネガティブな先入観を持って本書を読んだのだけれど、これが意に反して良かった。ただし、誤解を与える前に断っておくと、本書を読んで性格をがらっと変えることは、やっぱり難しいだろう。性格というのは、そんなお手軽なものではないと思う。

 それでも「良かった」。本書には、何かの機会のちょっとした反応や行動が紹介されている。例えば、気になる人とお近づきになるには、「(その人に)そーっとお願いごとをする」。そんな感じで「悩みから抜け出すには?」「うまく話を切り出すには?」「人から信頼されるには?」などなど全部で56項目。

 56もあれば、全部をすんなり受け止められるわけではないけれど、明日からいや今からでもすぐできるものばかりだ。そんなお手軽なことだから、効果も劇的なものではなく、周囲のちょっとした変化ぐらいしか期待できない。でも、結局のところちょっとした変化の積み重ねでしか、自分も周囲も変えられないと思えば、これが近道なのかもしれない。 

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ナミヤ雑貨店の奇蹟

書影

著 者:東野圭吾
出版社:角川書店
出版日:2012年3月30日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 数々の作品を世に送り出し続けている著者。本書はミステリーではなく、ハートウォーミングな作品。

 本書は複数の主人公からなる、いわばオムニバス形式の物語。盗みに入って逃走中の3人組。ミュージシャン志望の魚屋の息子。老いた父を心配する雑貨屋の息子。夜逃げの経験があるビートルズファン。...しかし、真の主人公は、人ではなく「ナミヤ雑貨店」という名の不思議な雑貨店だ。

 ナミヤ雑貨店は「どんな悩みも解決してくれる雑貨店」として、40年前に週刊誌に紹介された店。近所の子どもたちが「ナミヤ」を「ナヤミ」とわざと間違えたのがきっかけで、当時の店主の浪矢雄治が半ばヤケクソで始めた悩み相談が、評判になってしまったものだ。

 悩み相談の手紙を夜中に郵便口に入れておけば、翌朝には返事が返ってくる。雄治はどんな相談にも真剣に答えた。相談する方は手紙を出すときには半信半疑でも、返ってきた返事は真剣に受け取る。もちろん返事の通りにするとは限らないけれど、その後の人生には大きな影響を与える。

 さて、ここまで字数を使って書いてきたが、これでは本書の紹介にはなっていない。これはナミヤ雑貨店の悩み相談の「システムの紹介」に過ぎない。このシステム、つまり文通による悩み相談の両側、顔を合わせることの無い、相談する側と答える側(答える側にもドラマがある)の心の交流が物語を形づくっている。

 実は、これでも本書の紹介の半分ぐらいにしかならない。読み始めてすぐに気が付くが、著者の筆は、数十年の時空を軽々と飛び越えてしまう。いわゆるタイムスリップが起きて、一見すると派手な仕掛けに過ぎないように見えるかもしれな。しかし、時空を越えるからこそ描けた感動が本書にはある。

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うそうそ

書影

著 者:畠中恵
出版社:新潮社
出版日:2006年5月30日 発行 6月15日 3刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「しゃばけ」シリーズの第5作。2、3、4作目は短編集なので、本書は第1作「しゃばけ」に続く2作目の長編作品になる。短編集も、しみじみとして良い作品があり良かったが、やはり長編は読み応えがあって格別だった。

 病弱で寝込んでばかりいる主人公の一太郎が、今回は湯治のためとは言え、箱根まで旅に出ることになった。今なら小田急ロマンスカーで新宿から1時間半だけれど、江戸時代には厳しい旅だったはずで、病弱な一太郎は大丈夫なのか?

 まぁ一太郎は大店の跡取り息子で、両親は一太郎には砂糖菓子のように甘い人たちなので、息子が疲れないように金に糸目を付けない旅程が組まれた。予定通り行けば、一太郎はほとんど歩かずに宿に着いて、湯につかることができる。..そしてもちろん、予定通りには行かない。

 人さらいに遭ったり、天狗の集団の襲撃を受けたり。病弱で、ちょっと外の冷たい空気に当たっただけで、具合が悪くなって寝込んでしまう一太郎には、なかなかに過酷な経験が待っていた。しかし、これも一太郎の成長には役立った。

 「私は何かの役に立っているのだろうか?」という、常に一太郎を悩ませる想いを吹っ切れるきかっけを、少しはつかんだようだ。タイトルの「うそうそ」は「嘘々」ではなく、江戸言葉で「きょろきょろ、うろうろとたずねまわるさま」だそうだ。一太郎は自分が居る意味を、未だきょろきょろと探している。

 舞台を江戸から箱根に移したことで、神様やら天狗やらの新しい「人ならぬ者」や、人間の新しいキャラクターたちも登場してにぎやかな感じだった。

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ウィルキンズの歯と呪いの魔法

書影

著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:原島文世
出版社:早川書房
出版日:2006年3月31日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は1970年に大人向けの小説を1作出版しているが、子ども向けの作品としては1973年出版の本書が記念すべき第1作。「訳者あとがき」で、訳者の原島文世さんも触れておられるけれど、その後に50作以上も続く「DWJの世界」の出発点であり原型とも言える。

 主人公はジェスとフランクの姉弟。恐らく2人とも小学生。2人は、椅子を壊した罰として4か月間おこづかいなしにされてしまった。それで、こづかい稼ぎに思いついたのが「仕返し有限会社」。誰かの代わりに仕返しすることを請け負って、料金をもらおうという会社だ。

 そんなことを依頼する客がいるのか?と思うが、これがけっこういたのだ。ただし、お客は全員子どもだ。ジェスたちと同じように金欠で料金が払えない客ばかりで、ちっとも稼ぎにはならない。しかも、最初の仕事で手に入れたウィルキンズ君の歯のために、大変なトラブルに巻き込まれてしまう。

 そのトラブルとは..。近所に風体も言動もちょっとおかしな、ビティという女が住んでいる。彼女は魔女だという噂があるのだけれど、どうもその噂は本当らしく、友だちが次々とその呪いにかかってしまったのだ。物語はこの後、ジェスとフランクらの子ども連合とビティとの対決の構図を深めていく。

 元気な子どもたち、特に女の子の活躍は、著者のその後の作品に受け継がれる特徴で、まさに「原型」と言える。ビティの悪者ぶりにも、ジェスらの報復も容赦ない感じで、著者らしい。ただ、持ち味の捻りの効いた展開と辛口のユーモアは、まだ少々といったところ。

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ソーシャルエコノミー 和をしかける経済

書影

著 者:阿久津聡、谷内宏行、金田育子、鷲尾恒平
出版社:翔泳社
出版日:2012年9月18日 第1刷発行
評 価:☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 タイトルの「ソーシャルエコノミー」とは、著者らによる造語で、ソーシャルメディアによるネットコミュニティがテコになって発動するエコノミー、つまり経済活動を差す。例として「初音ミク」を紹介している。ニコニコ動画というソーシャルメディア上で、ユーザーが参加して盛り上げた結果、コンサートに何万人もの人が押し掛けたそうだ。

 本書は、この「ソーシャルエコノミー」について分析し、どうやればネットコミュニティから経済活動を発動させられるのかを考察する。TwitterやFACEBOOKで趣味を同じくする「同好コミュニティ」は比較的簡単に発生する。しかし、それが継続して力を蓄え、経済活動にまで発展するのには、何段階ものハードルがある。そのハードルを越える方法を考えてみました、というわけだ。

 気になったのは、本書が誰に向かって書かれたものなのか、よく分からないことだ。「ソーシャルコミュニティを育てて、経済活動を発動させる方法」を知りたいのは誰だろう?それから、読んでいて学生のレポートのような感じがしたのだけれど、どうしてだろう?

 この2つの疑問は1つの事実で解けた。本書の著者は電通の社員たちで、本書は彼らが大学の先生と取り組んだ勉強会の成果なのだ。「学生のレポートのような」ではなく「学生のレポートそのもの」だった。また、本書は(提出するために)先生に向かって書かれたもので、「経済活動を発動させる方法」を知りたいのは著者ら自身だ。

 ソーシャルメディアについて、「誰もが使っている」ような過大な評価と、「コントロール可能」だと考える過小な評価を感じて、私の感覚とはあまり合わなかった。帯のコメントを寄せた村上龍さんの名前の字の大きさがやたら大きく、著者の名前の20倍(面積)ぐらいあるのはどうかと思う。

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