2021年の「今年読んだ本ランキング」を作りました。

 毎年年末に発表している「今年読んだ本のランキング」、少し遅くなりましたが2021年の分を作りました。小説部門、ビジネス・ノンフィクション部門ともに10位まで紹介します。
  (参考:過去のランキング 2020年2019年2018年2017年2016年2015年2014年2013年2012年2011年2010年2009年2008年

 2021年このブログで紹介した本は82作品、2010年から11年間続けた「年間100作品以上」が途絶えてしまったのは残念ですが仕方ありません。☆の数は、「☆5つ」が3個、「☆4つ」が51個、「☆3つ」は26個、「☆2つ」が2個、です。
 「☆4つ」以上が2020年と同じぐらい(2021年は54個、2020年は59個)なので、紹介した作品数は少なくてもよい本に巡り合えて、例年どおりに読書が楽しめた、ということでしょう。

■小説部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
1 滅びの前のシャングリラ / 凪良ゆう Amazon
商品ページへ
「1カ月後に地球に小惑星が衝突する」という世界を描いたディストピア小説。冴えないぽっちゃり体型の主人公が、クラスメイトの美少女を守るナイトぶりを見せる。他にも魅力的なキャラが活躍する。
2 リボルバー / 原田マハ Amazon
商品ページへ
ファン。ゴッホの死を巡るミステリー。主人公が勤めるパリのオークションハウスに「ファン・ゴッホを打ち抜いたもの」というリボルバーが持ち込まれた。極上のアートミステリーの世界に引き込まれた。
3 臨床の砦 / 夏川草介 Amazon
商品ページへ
新型コロナウイルス第3波の下の医療現場を伝えるための緊急出版。感染症指定病院として地域のコロナ診療を一手に引き受ける、長野県の小さな総合病院が舞台。現場の医療関係者の踏ん張りに心打たれた。
4 ザリガニの鳴くところ / ディーリア・オーエンズ Amazon
商品ページへ
全世界で1000万部突破の大ベストセラー。米国ノース・カロライナ州の湿地に暮らす少女が主人公。家族が去って10歳の時から一人で生きてきた。少女の力強さと、悪意が多い中での善意の温かさを感じた。
5 白鳥とコウモリ / 東野圭吾 Amazon
商品ページへ
東野圭吾版「罪と罰」。弁護士がナイフで刺された殺人事件で、あっさりと自白した容疑者。しかし、容疑者の息子と被害者の娘が、その供述に違和感を抱く。30年の時を超える重厚なミステリーだった。
6 犬がいた季節 / 伊吹有喜 Amazon
商品ページへ
三重県の高校が舞台。その学校の昭和63年度、平成3年度、6年度、9年度、11年度の卒業生と一匹の犬の物語。その犬は恋する人の匂いが分かったるする。犬の目から見た高校生たちの青春物語が瑞々しかった。
7 52ヘルツのクジラたち / 町田そのこ Amazon
商品ページへ
誰にも言わずに東京から大分の海辺の町に引っ越してきた女性が主人公。ある雨の日に出会った、やけに薄汚れた体の中学生との関わりを描く。読むのがつらいひどい話もあったけれど、読んでよかった。
8 プリンス / 真山仁 Amazon
商品ページへ
東南アジアの架空の国の大統領選を巡る陰謀。大統領候補の上院議員の息子と、彼と行動を共にする日本の大学生らを描く。民主主義を勝ち取るための文字通り命がけの戦いに、東南アジアの熱気を感じた。
9 三つ編み / レティシア・コロンバニ Amazon
商品ページへ
2017年フランスで出版された大ベストセラー。インド、イタリア、カナダでそれぞれ暮らす3人の女性が主人公。想像を絶する境遇の女性もいるのだけれど、彼女たちのしなやかな力強さに深い感銘を感じた。
10 きのうのオレンジ / 藤岡陽子 Amazon
商品ページへ
冒頭で胃がんの告知を受けた30代の男性が物語の中心。物語が進むにつれていつしか物語は「残された日々」になる。男性の母、弟、高校の同級生の人生も重層的に描かれ、何度か涙がにじんだ。

 今年の第1位の「滅びの前のシャングリラ」は、私は魅力的なキャラクターが登場する物語が好物なので1位になりました。本屋大賞でも1位かと予想していたのですが、第7位と上位にはいりませんでした。

 第2位の「リボルバー」は、原田マハさんの作品でファン・ゴッホを描いたもので、原田さんもゴッホもどちらも私は大好きです。「原田マハさんにハズレなし」と思っています。

 第3位「臨床の砦」は、コロナ禍の地域医療の現場を描いた作品です。夏川さんは現役の医師で、これまでにも医療現場を舞台にした素晴らしい作品が多いですが、本作の臨場感はノンフィクションと捉えてもいいのではないかと思います。

 選外の作品として、 天花寺さやかさん「京都府警あやかし課の事件簿2 祇園祭の奇跡」「3 清水寺と弁慶の亡霊」のシリーズ、青山美智子さん「お探し物は図書室まで」、小路幸也さん「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」が候補になりました。

■ビジネス・ノンフィクション部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
1 認知バイアス 心に潜むふしぎな働き / 鈴木宏昭 Amazon
商品ページへ
認知バイアスとは「心の働きの偏り、歪み」で、そのために「実際にはそうではないのにそう思ってしまう」。新型コロナウイルスに対する私たちの(社会の)ありように、たくさんの示唆を含んだ本。
2 多数決は民主主義のルールか? / 斎藤文男 Amazon
商品ページへ
「多数決ならどんなことをどのように決めてもよいのか?」を改めて考える本。「よくない」ということがよく分かった。特に「どんなことを」決めてはいけないのかは、民主主義の国に暮らす者として必見。
3 海をあげる / 上間陽子 Amazon
商品ページへ
著者は東京と沖縄で未成年の少女たちの支援に携わる。著者自身のこと、家族のこと、支援している少女たちのこと、沖縄のことを書いたエッセイ集。本当の現場からのレポートに、強く衝撃を受けた。
4 News Diet(ニュース ダイエット) / ロルフ・ドベリ Amazon
商品ページへ
「生活から(最新情報的な)ニュースを絶とう」という提案。自分の能力の及ぶ外側のことには関与も対応もできないのだから。欠かさずニュースを見ている私には、思い当たることがたくさんあった。
5 デジタル・ミニマリスト / カル・ニューポート Amazon
商品ページへ
「自分が重きを置いていることがらにプラスになるか否か」を基準に、デジタルツールの最適化を図ろう、という提案。ソーシャルメディアは人間の心理を利用して、意図的にユーザーの時間を奪っている。
6 デジタル・ファシズム / 堤未果 Amazon
商品ページへ
官民を挙げてデジタル化を進める世に警鐘を鳴らす本。デジタル化を進めることで何が危険なのか?私たちは何を差し出すことになるのか?を具体的に指摘。知らないことばかりでとても驚き心配になった。
7 21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由 / 佐宗邦威 Amazon
商品ページへ
「ビジネスをより効率的にする」MBA的思考に対して、デザイン思考は「まったく新しい事業、商品などを創る」。曖昧な感じが残るこの説明も、具体例を読むと「こういうことかな?」ぐらいには分かる。
8 公務員のための情報発信戦略 / 樫野孝人 Amazon
商品ページへ
著者が広島県福山市で実践した地方自治体の情報発信戦略の手法をまとめたもの。民間会社の使い方やプレスリリースの仕方など、公務員向け限定の内容ながらとても実践的で役に立つ。自治体関係者必見。
9 「居場所」のない男、「時間」がない女 / 水無田気流 Amazon
商品ページへ
会社(仕事)以外の場所での関係が築けていない「関係貧困」な男性。1日の中でも人生でも時間に余裕がない「時間貧困」な女性。どちらもこの国の問題の一面を明確に切り取っていて身につまされる。
10 雑草と楽しむ庭づくり オーガニック・ガーデン・ハンドブック / 曳地トシ 曳地義春 Amazon
商品ページへ
雑草との付き合い方を指南する本。庭でよく見る雑草の解説や雑草を生やさない工夫や生かし方などがコンパクトにまとめてある。「雑草の生かし方」いう発想が斬新。肩の荷が下りてとてもありがたかった。

 第1位の「認知バイアス 心に潜むふしぎな働き」は、以前から興味がある分野ですが、新型コロナウイルスに関する報道や身の回りの出来事が、この本に関する関心と評価につながったと思います。

 同様のことは4位の「News Diet(ニュース ダイエット)」と5位の「デジタル・ミニマリスト」にも言えます。毎日毎日繰り返し報道される東京や大阪の感染者の数に「こんなことより知るべきことが他にあるはず」と思い、入ってくる情報を自分でコントロールしようと思いました。

 第2位の「多数決は民主主義のルールか?」、第3位の「海をあげる」は、安倍政権以降の政治や社会に対する不満と不安を反映したものです。再度、政権が変わりましたが状況が良くなるのかどうかわかりません。

 選外の作品として、レイチェル・カーソンさんの「沈黙の春 」、デヴィッド・グレーバーさんの「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」、千葉聡さんの「進化のからくり」が候補になりました。

著 者:道尾秀介
出版社:集英社
出版日:2021年10月10日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「自分で選ぶ」ということが、こんなにも楽しみを添えるのかと思った本。

 最初に言っておかなければならないのは、本書が他の本にはない特徴をもった小説であることだ。本書は章が6章あるのだけれど、そのどの章からでもどの順番で読んでもいい、ということだ。本書の最初に各章の冒頭部分がそれぞれ書かれているので、読者はそれを読んで自分で読む順番を決める。6の階乗で720通りの読み方がある。

 各章はそれぞれ独立した物語の短編になっていて、登場人物や出来事が互いに共通しているので「連作短編集」でもある。舞台となっているのはアイルランドの首都ダブリンと、国内の海辺の町のどちらか。ある章に登場する中学生は、別の章では看護師として働いていたり、ある章に登場する老人の若いころの姿が別の章で描かれていたりする。

 ストーリーについては、読む順番に影響を与えないようにキーワードだけ。殺人事件を追う刑事、ペット探偵、残された子ども、ターミナルケア、孤独、贖罪、後悔、秘された過去...。こう書いてくると暗い物語のように感じるかもしれないけれど、登場人物の何人かには独特のユーモアがあって、けっこう気楽に読むことができる。

 面白かった。おかしなことを言うようだけれど、私が選んだ順番で読むのが一番面白んじゃないか?と思った。最初に読んだ章に登場する少女のその後が、ちゃんと次に読んだ章で描かれていた。別の章で読んだ少し謎がある人物の過去が、そのあとで明かされた。これが逆だったら、ちょっとつまらないかもしれない。確かめようがないのだけれど、そう思った。

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

いちばん親切な 西洋美術史

著 者:池上英洋、川口清香、荒井咲紀
出版社:新星出版社
出版日:2016年7月25日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「好き」なだけじゃなくて「詳しく知りたい」と思って読んだ本。

 本書は西洋美術の様式や時代区分、ジャンルや技法などを、時代を追って紹介する。様式や時代区分として「エジプト・メソポタミア」から始まって、「エーゲ文明・ギリシャ」「ロマネスク・ゴシック」「ルネサンス」「バロック」「印象派」などがあって、最後は「現代美術」で全部で17個の分類がある。

 それぞれの分類に対して2個から10個の、全部で100近くの項目がある。例えば「ルネサンス」なら「ボッティチェリ」「ダ・ヴィンチ」「ラファエッロ」「ミケランジェロ」など、芸術家の名前を含む項目名が多いけれど、「ロマネスク・ゴシック」では「柱頭彫刻」「ステンドグラス」「修道院と写本」といった「モノ」が項目名になっていて、柔軟な感じだ。

 各項目は見開き2ページに収められていて読みやすい。私は1ページから順に読んだけれど、興味のあるところを読むのでも支障はないと思う。日本で人気が高く、私も大好きな(それ故に少しは知識もある)「印象派」の分類が「モネの実験」「ジャポニズム」「ルノワール」の3項目とコラムしかないのは意外だったけれど、エジプトから始まる西洋美術の中では、妥当な分量なのだろう。

 私は美術展によく足を運ぶ方だと思う。以前に「絵を見る技術」という本を読んだときに改めて認識したことだけれど、美術展で「何か見逃してきたんじゃないか?」という気持ちがあって、それでこんな本に興味が湧いて読んでみた。(同じ理由で「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」も読んでみたいと思っている)

 5000年の美術の歴史、「絵画」に限って言えば2000年分ぐらいを、順に観る機会を得て感じたことがある。揺り戻しはあるけれど、基本的には「制約からの解放」が繰り返されていることだ。今では当たり前の風俗画や風景画、静物画は、長く「宗教」と「人物」という制約があって、17世紀ぐらいまでは「あり得なかった」。

 他には「印象派」は、当時としては斬新すぎるモネの作品「印象、日の出」を、批評家が皮肉った呼び名だった、ということは有名な話。そして現代。様々な制約から自由になった。なにかこう「糸の切れた凧」を思い浮かべてしまった。

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

書店ガール7 旅立ち

著 者:碧野圭
出版社:PHP研究所
出版日:2018年9月21日 第1版第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 もっと長く続いて欲しいと思う反面、いい終わり方ができて良かったとも思った本。

 書店を舞台にした大人気シリーズの完結編。これまでに主人公を務めた4人の女性たちの、それぞれの「その後」を描く。

 4人の女性とは、西岡理子、小幡亜紀、高梨愛菜、宮崎彩加の4人。理子は、亜紀と共にシリーズ前半の3巻の主人公。「吉祥寺の女傑」の異名をとる半ば伝説と化した書店員。亜紀は、元々は理子の部下で、当初は衝突もしたが今は互いに信頼している。愛菜は、第4巻の主人公で理子たちの店の学生アルバイト。彩加は、違う店の社員で愛菜の友人で、第4巻から6巻までの主人公。

 本書で描かれるのは、愛菜、彩加、理子、亜紀の順。愛菜は、大学を卒業後に中学校の司書教諭となった。今は「読書クラブ」の顧問で、その「読書クラブ」の生徒たちとのエピソードを描く。彩加は、務めていた会社を辞めて故郷の沼津に帰っていた。高校時代からの親友たちとの交流がつづられる。

 理子は、東日本エリア・マネージャーとして、仙台の店の移転に関わることになった。会社の方針と現場の思いの板挟みとなって、ままならない日々が描かれる。そして亜紀は、本部勤務から理子が長く勤めていた吉祥寺支店の店長として現場復帰する。店長としての初出勤の日の朝、自宅を出る時から開店までの短かくも浮き立つような時間が描かれる。

 完結編としてどこにもへこみのない玉のような完成された一冊だった。4人がそれぞれ新しい場所で歩み出しているのだけれど、愛菜と彩加は書店を離れ、理子と亜紀は書店に留まったところが対照的。愛菜の物語に理子が、理子の物語に彩加が、彩加の物語に理子が登場する。そして4編の物語が順を追って時間が経過していて、すべてが1つの物語だとも感じられる。

 私としては彩加の物語が一番心に残った。全編が彩加ら高校時代からの親友3人の女性の会話で進む。主人公たちは書店員である前にひとりの人間であり、書店とは直接関係のない人たちとの交遊もある。そんな当たり前のことが、幸せな形で前面に出ている。こういう話ももう少し読みたいなぁと思った。

 理子さんはシリーズを通してカッコいい。今となっては第1巻の前半あたりの「未完成な頃」が懐かしい。

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

噛みあわない会話と、ある過去について

著 者:辻村深月
出版社:講談社
出版日:2018年6月12日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 いやぁ「これはキツいよなぁ」と思った本。

 楽しい事やうれしい事を、当事者がみんな同じように感じているとは限らない。ましてや過去の出来事の記憶は...。という「思い出のズレ」の露見(それも相当にショッキングな)を描いた4つ短編を収めた短編集。

 「ナベちゃんのヨメ」。主人公は佐和。学生時代の同期の男子のナベちゃんの結婚式に招待された。ただし婚約者の女性が「気にする人」なので、女子はナベちゃんには直接連絡を取らないように言われる。「パッとしない子」。小学校の先生の美穂は、人気アイドルグループのメンバーの一人を教えたことがある。その子がテレビの企画で母校に来ることに。

 「ママ・はは」。主人公は小学校の先生で、2つ上の先輩のスミちゃんに、先日あった保護者会の話をした。ある生徒の母親が他の保護者に「皆さん、優しすぎませんか?なんでそんなに甘いんですか」と発言したのだ。「早穂とゆかり」。県内情報誌のライターの早穂は、カリスマ塾経営者の日比野ゆかりにインタビューすることになった。ゆかりは小学生の時の早穂の同級生で、その頃は「教室で浮いた存在」だった。

 「パッとしない子」と「早穂とゆかり」が強く印象に残った。どちらもキリキリと引き絞られるような痛みを感じる物語だった。生徒の希望の後押しをした、少し誇らしい思いを持っていた先生は、その教え子から思いもよらない言葉を投げられる。小学校の同級生の今の立場に配慮したつもりの言葉が、厳しい反応を引き出す。こんなことなら再会しなければよかった。

 著者はこれまでにも、昔の友達との価値観の違いからくる「交わらなさ」を度々描いてきた。時にそれは露悪的にさえ感じられた。今回は「交わらない」を超えて衝突を招いている。こういう心の暗い一隅を取り出して見せるのが、著者は上手いなぁと思った。

 一つ意外だったこと。帯に「あのころ言葉にできなかった悔しさを、辻村深月は知っている。共感度100%!」とある。物語の中で「あのころ悔しかった」のは、主人公ではなくて再会した相手の方。「こんなことなら再会しなければよかった」と書いた私は、主人公の方の気持ちになっているけれど、本書は「主人公じゃない方」に共感する読み方もできるらしい。もしそうなら私のように「痛み」ではなくて「快感」を感じるのだろうか。

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

Happy Box

著 者:伊坂幸太郎、山本幸久、中山智幸、真梨幸子、小路幸也
出版社:PHP研究所
出版日:2015年11月24日 第1版第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「幸せ」を描くのには、必ずしも「幸せ」な物語でなくてもいいのだな、と思った本。

 本書は、伊坂幸太郎、山本幸久、中山智幸、真梨幸子、小路幸也の5人がそれぞれ「幸せ」をテーマに書いた短編を収めた短編集。「解説」によると、「名前に「幸」の一文字を持つ作家を集めて、幸せのアンソロジーをつくろう」という企画らしい。

 伊坂幸太郎さんの「Weather」、主人公の大友君は、学生時代からの友人の清水の結婚式に出席している。清水には内緒にしているけれど、新婦は大友君が高校生の時に交際していた女性だった。山本幸久さんの「天使」、77歳のおばあちゃんのスリ師、福子が主人公。ある日「仕事」にでかけたショッピングモールで、福子自身が親子のスリグループに狙われる。

 中山智幸さんの「ふりだしにすすむ」、主人公の29歳のりりこさんは、自宅近くのカフェで「ぼくね、きみの生まれ変わり」と声をかけられる。相手はでっぷりと太った60歳は超えてそうな老人。真梨幸子さんの「ハッピーエンドの掟」、主人公のアイコの家は母子家庭で、母親はキャバレーのホステス。先生は何かと心配してくれるけれど、アイコは今の暮らしが好きだ。

 小路幸也さんの「幸せな死神」、主人公の帆奈は行きつけのバーで端正な顔をした「死神」と知り合う。その日いいことがあって、バーテンと乾杯したときに、思いっきりこぼしてしまった。それで、その場所にいた「死神」にウィスキーをかけて「召喚した」ことになってしまったらしい。

 5編全部をそれぞれ少しだけ紹介した。でも物語の結末は、この紹介からはまず予想できない。ハートウォーミングで泣ける話、どんでん返しでゾクッとする話、切ない終わり方をする話...。「幸せ」の描き方にもいろいろとあるものだ。思わぬ方向に展開する物語を楽しんで読んだ。

 「解説」で、執筆を依頼したときのそれぞれの作家さんの様子を紹介している。お見逃しなく。

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)