若き友人たちへ -筑紫哲也ラスト・メッセージ

著 者:筑紫哲也
出版社:集英社
出版日:2009年10月21日 第1刷 12月17日 第5刷
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は2008年11月に亡くなっている。本書は、集英社新書編集部が著者の死後に、集英社のPR誌に書いた「若き友人への手紙」という連載と、早稲田大学と立命館大学での講演を基に構成したものだ。
 PR誌への連載は、著者がすでに病に冒された後「遺しておきたい言葉がある」と言って、何度か掲載したものを新書の形でまとめる、ということで始めたものだそうだ。しかし、病の進行のために連載は2回しか続かなかった。だから本書は言わば著者の絶筆、まさに「ラスト・メッセージ」なのだ。

 「若き友人への手紙」という連載と、大学での講演が基になっているのだから当然だが、内容は大学生ぐらいの若い世代へのメッセージだ。全編に感じられるのは、若者へのゆるぎない「信頼感」と「厳しさ」。「今の若い者は..」という指摘のほとんどは的外れかしばしば逆である、と言う一方、大勢に流され真剣に考えない姿勢には厳しい。
 例えば憲法について。「第14条と第24条を知っているかと聞くと、ほとんど手が挙がらない。(中略)それでこの憲法は古いだの時代遅れだだのとよく言うよ。(中略)ファッションじゃないんですよ、憲法は」と、投げつけるかのような厳しい言葉だ。

 著者が多くの批判を受けていることはもちろん知っている。以前に「朝日ジャーナル(週刊朝日緊急増刊)」という記事を載せた時には、記事中に著者の名前はないにも関わらず、厳しい意見をたくさんいただいた。
 私自身も、晩年のNEWS23を見て「おやっ」と思うことはあった。しかし、著者の「自分自身で考え、議論をして決める」という信条は正しいと思う。ここ2回の衆院選は、どちらも大波に呑まれたような選挙だったが、その時々の趨勢で世論が極端に振れることは心配だ。
 
 最後に、本書の最終章にある興味深い指摘を紹介する。「国家がダメになっていくのはどういう時かといえば、それは優先順位を間違えた時です。」というものだ。そして例としてバブル崩壊後の「失われた10年」の入り口のころ、宮沢喜一内閣のことを挙げる。
 この時「優先課題を経済改革ではなく政治改革」にしたという。その後、小選挙区制導入をめぐるこの政治改革の余波で政界再編が起き、新党が多数設立された。今の政治の状況と合わせ鏡のようではないか?あの時はそれから10年間の低迷をこの国は続ける。著者の指摘は興味深いだけでなく、不吉でさえある。

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