裔を継ぐ者

著 者:たつみや章
出版社:講談社
出版日:2003年11月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「月神の統べる森で」から始まる「月神シリーズ」の外伝。4部作からなる本編は、縄文のムラと弥生のクニの文化の衝突を描き、一度は物語の幕が下りた。多くの犠牲を代償にして、ムラやクニが融和への道を歩み始め、人々は平穏と、木や川動物にカムイという神的な存在を認め敬う清き心と暮らしを取り戻した。本書は、それから約500年の後の物語。

 主人公の名はサザレヒコ。13歳。ムラ長の6人兄弟の末っ子。彼の家は「星の神の息子」であるポイシュマの末裔の一族でもある。ただ、サザレヒコはもっと幼い頃は病弱で、今でも同い年の子どもの中で一番背が低く一番痩せていた。
 サザレヒコは6歳の頃、高熱で臥せっていた夜に、5,6人のカムイたちが自分を見下ろして話している夢を見た。「この子はもうだめだろう」「弱い枝に重い実を生らせてしまったようなものなのだ」。そして白い髪のカムイが言った「その実をわたしが預かったらどうだろう」...

 その頃から重い病気をしなくなったのだが、自分の体が大きくならないのは、あの白い髪のカムイが自分のそうした力を奪ったからだと、サザレヒコはそう思っている。そのために「神もカムイも嫌いだ」とも思っている。
 実は、大人たちだって神やカムイを、本気で尊敬しているわけではなかった。500年という時間は、大事な儀式や営みを形骸化し、人の心に変化を与えずにはいなかったのだ。こうした心の変化を、サザレヒコが一身に体現した形で、物語は彼の成長と「清き心」の回復のための修練の彷徨を描く。

 正直に言って、物語としては一本調子で含みがない。少年が助けを受けながらも困難を克服し、成長と失われたものの回復を成し遂げる。そう言えば大方の予想ができてしまう(だから安心して楽しめる、とも言える)。しかし、本書はこの「月神」シリーズで、とても重要な役割を果たしたと思う。
 その役割とは、現代にまで続く悠久の時間を、このシリーズに与えることだ。物語が500年後にも続いていたとなれば、さらにその500年後にも...と膨らませることができる。弥生時代が3000年前ごろからだとすると、この繰り返しはたったの数回で現代へ到達する。

 この時間性のことは、著者も各作品の「あとがき」で度々触れている。本書の「あとがき」には、「命は、かならず親から子へと受け継がれるのですから(中略)縄文時代に行けたとしたら、そこにはその時代のあなたの先祖かいるわけです」とある。私の場合は、江戸時代の先祖も皆目分からない。縄文時代に先祖がいたことは、想像することさえ容易ではない。けれどもいたことは間違いない。命は連綿と続く。

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