「いいね!」が社会を破壊する

編  者:楡周平
出版社:新潮社
出版日:2013年10月20日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 タイトルを一見すると、Facebookを糾弾する本のように思うかもしれないけれど、そうではない。「いいね!」は、ネットや情報端末などのIT全般を代表している。本書は、ITが発達したこの社会とその行く末に警鐘を鳴らす。
 著者はいくつかの観点を挙げているのだけれど、ここでは「ネットや情報端末の発達と仕事」について紹介する。

 帯のコピーの「「便利の毒」に殺される前に」が、本書の内容を端的に表している。ITによって私たちはひたすらに「便利」や「効率」を実現させてきた。様々な労働や危険から解放されて、暮らしは良くなった(はずだ)。しかし私たちは、その「便利」や「効率」によって殺されようとしている、というのだ。

 著者が最初に挙げたのが、著者自身が15年間在籍したコダック社の例。米国本社であるイーストマン・コダック社は、かつてはエクセレント・カンパニーの1社であったが、2012年1月に日本でいう会社更生法の適用を申請した。写真のデジタル化への対応を誤ったためだ。
 それはコダック1社のことではなく、フィルムの販売・現像・プリントという、裾野の広い産業が急速に縮小している。そこで職を得ていた膨大な数の人々は、どこに行けばいいのだ?という問いかけがされている。

 私見を交えてもう少し発展させよう。コダック社の例の要因であるデジタルカメラ。「最近デジカメを使ってないな」という人も多いのでは?特にコンパクトデジカメは、スマートフォンの登場で、早晩消えてしまうだろう。デジカメだけではない。スマートフォンがあれば、携帯音楽プレーヤーもカーナビも地図もいらない。腕時計も目覚まし時計もいらない。もしかしたら書籍も雑誌も新聞もいらなくなるかもしれない。

 片手に収まる機械一つでたくさんのことができる。便利になったものだ。ただ、それによって要らなくなったものを作っていた会社はどうなる?ここにもそこで職を得ていた膨大な数の人々がいるはずなのだ。私たちは「便利」と引き換えに、自分たちの首をじわじわと絞めているんじゃないのか?

 そして、著者が「あとがき」でいうように「ならばどうしたらいいのか」を提示するのが、この手の本の常であるが、本書にはそれがない。おそらく他のどこにもない。恐ろしいことに、私たちはもう引き返せないところまで来てしまったのかもしれない。

 もう20年は前になるけれど、私は10年ほどコンピュータ会社に勤めていた。そのころ客先で「コンピュータを導入すると職を失う人が出る。それでいいのか?」という疑問を度々聞いた。「いや、人を減らそうと考えるのではなく、その人にはもっと高度な仕事してもらえばいいんですよ」と、答えていた。

 そのころは本当にそう思っていた。でも今は、あれは無責任な薄っぺらい言葉だったと思う。

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