自転しながら公転する

著 者:山本文緒
出版社:新潮社
出版日:2020年9月25日 発行 12月15日 2刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品

 プロローグとエピローグにちょっとした仕掛けがあって「これは技ありだな」と思った本。

 主人公は与野都、32歳。駐車場から牛久大仏が見えるアウトレットモールにある、婦人服のブランドショップの契約社員として働いている。2年ほど前までは、別のブランドの東京にある店舗の店長として働いていたが、母親の介護のこととかがあって、実家に帰ってきて今の仕事を見つけた。

 物語は、都のままならないことの多い日常を、時々他の人の視点を交えながら描く。都の周囲の様々な人が描かれる。重い更年期障害の治療を続ける母、まめまめしく家事をこなすようになった父、高校の同級生たち、ショップの社員やアルバイトたち、ブランド本社の社員たち、そして、同じアウトレットモールの回転寿司店で働く寿司職人で元ヤンキーの貫一、元ヤンキー。

 「ままならない」について言うと,,。父も母はそれぞれ頑張っている。でも都もその頑張りの一端を担わなければいけない。高校の同級生たちは、気が置けない友達だけれど、だからこそ厳しいことも言うので、打ちのめされることもある。ショップの人たちには、自分本位な人が多い。そして貫一は、そのおおらかさに強く魅かれるけれど、「元ヤンキー」の価値観には違和感があるし、その言動には不安がいっぱい。

 なかなか読み応えのある作品だった。帯には「結婚、仕事、親の介護 全部やらなきゃダメですか?」と書いてある。また「共感」という言葉が何か所か使われていて、どうやら女性の共感を得ているらしい。確かに、都が抱える悩みは、その年頃の女性の悩みと共通する部分がいくつもあるのだろう。

 でも、私は「共感」はしなかった。それは、男だからかもしれないし、たまたま都のような経験から免れてきたからかもしれない。それでも「読み応えがあった」。それは、いろいろな意見や価値観が作品の中でぶつかり合っていたからだ。いわば「共感」とは正反対。登場人物たちが、自分の意見を堂々と口にする。それがよかった。

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