2.小説

偉大なる、しゅららぼん

書影

著 者:万城目学
出版社:集英社
出版日:2011年4月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者は、奈良では神の使いの鹿に話しかけられ京都ではオニたちを操り大阪では豊臣の姫を守った。そして今回の舞台は、日本最大の湖である「琵琶湖」を擁する滋賀。琵琶湖から特別な力を授けられた「湖の民」の物語だ。

 琵琶湖の東岸にある「石走(いわばしり)」の街は、日出(ひので)一族が絶大な力をふるう街。一族が持つ「他人の心を操る」力によって財をなし、かつてのお城の本丸御殿で暮らしている。ちなみに一族の力のことは、物語が始まって早々に読者には明かされる。

 主人公の日出涼介は、お城に住む本家からは遠縁になる高校生。日出一族の力を授かった者は、高校の3年間を本家で暮らし、その力の修行をする決まりになっている。涼介も本家で暮らすことになり、同級生で当主の息子である淡十郎と石走高校に通い始める。

 前半は、涼介たちの高校生活と、石走での日出一族の「とんでもなさ」がコミカルに描かれる。淡十郎が校庭に姿を現すと、教頭が挨拶に走りよってくる。他の生徒の制服は「黒」なのに、淡十郎の制服は「赤」。淡十郎が「赤」が好きだからだ。それからクラスはいつもC組。淡十郎がCが好きだからだ。
 後半は、一転して緊迫した展開で「見せ場」が続く。「湖の民」として日出一族とは別の力を持つ棗(なつめ)家との確執。さらに別の圧倒的な力を持つ第三の勢力の影。その他にも「隠し玉」が繰り出され、大スペクタクルも用意されている。実にエンタテイメントな1冊だ。

 神戸生まれの関西人である私は、表紙裏の「石走」の説明を読んで「滋賀?そう来たか!」と思った。自分のエゴでしかないのだけれど、奈良、京都、大阪、と来たら「次は兵庫(神戸)?」と漫然と思っていた。しかし、むべなるかな。「琵琶湖には何か秘密があるはず」と私も思う。

 ※分かる人にだけ分かること:笑ってしまったのは「奇面組」。おやっ?!と思ったのは「玄三郎」。

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ピスタチオ

書影

著 者:梨木香歩
出版社:筑摩書房
出版日:2010年10月10日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の最新刊。著者の作品に多くに共通するのは、「異界」の存在を感じさせること。「家守綺譚」や「f植物園の巣穴」のこの世ならぬ者たち、「裏庭」の鏡の向こうの世界、「村田エフェンディ滞土録」の神々、「沼地のある森を抜けて」の故郷の島。そして、今回はアフリカの呪術医と精霊だ。

 主人公は山本翠。40歳手前。「棚」というペンネームでライターの仕事をしている。仕事関係の人からだけでなく、恋人からも近所の喫茶店の女主人からも「棚」と呼ばれている。彼女は、かつて勤めていた出版社を辞め、衝動的にケニアに渡り数か月を過ごしたことがある。

 棚は、亡父が建てた武蔵野の公園の前のマンションの2階に犬のマースと暮らしている。公園の木々や池にいる水鳥たちの描写が詳しい。「カモ」と一言で片づけてしまわずに、「オナガガモ」「キンクロハジロ」「ホシハジロ」「ハシビロガモ」「カルガモ」と名前を挙げていく。
 それは棚がそうしたことに興味があるということを表している。また棚は、気圧の変化が自分の体調で正確に分かる。前線が通過するとひどく頭痛がする一方で、異様に意識が覚醒する。だから、棚にとって気象情報は何にもまして関心のあるニュースなのだ。

 物語の前半は、公園でのマースを連れた散歩の様子などの描写が瑞々しい。しかし棚の暮らしはマースの病気に振り回されることになる。そして後半になって、著者の作品に共通する「異界」の存在を強く感じる物語に展開していく。

 正直に言って、読んでいて今ひとつ乗れないままになってしまった。前半と後半のつながりが、無いようで有る。細い糸でつながっている感じ。

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下流の宴

書影

著 者:林真理子
出版社:毎日新聞社
出版日:2010年3月25日 第1刷発行 2011年6月15日 第13刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 本書は、毎日新聞に2009年3月から12月まで連載されていた、新聞小説を単行本化したもの。NHKでテレビドラマ化されて現在放映中だし、奥付を見るともう13刷にもなっている。きっと評判がいいのだろう。

 物語は、複数の人物を順に追って3人称で描く。48歳の主婦の福原由美子、その娘で女子大生の可奈、息子で20歳のフリーターの翔、翔の恋人で22歳の宮城珠緒の4人が主な登場人物。この他に福原家と宮城家の人々が、物語の要所で絡んでくる。

 由美子は、自分たちが中流の「ちゃんとした」家庭なのだ、という思いを心の拠り所にしている。教育評論家の意見を参考にして、ちゃんと子育てをして来た。それなのに翔は高校を中退し、20歳を過ぎて家出をしてしまった。今は、珠緒のアパートに住んでマンガ喫茶でバイトをしている。
 珠緒はと言うと、沖縄の離島出身で高校卒業後に上京、リサイクルショップでバイトをしている。母は故郷の離島で飲み屋を開いている。両親は離婚していてそれぞれが再婚。両方の家で弟や妹が生まれて、珠緒を入れて全部で8人、小さな島ゆえにみんな姉妹兄弟のように育った。

 翔と珠緒が結婚すると言い出したことから、由美子の心の拠り所が危うくなる。いや、もっと前から由美子が思う「ちゃんとした」家庭ではなくなっていた。しかし、それは一時的なものだと自分に思い込ませてきたのだ。由美子には、「下品」で「無教養」な「あっちの人」の珠緒が、自分たち家族の敵に見えた。家族を守るためには敵を排除しなくてはならない...。

 上にも書いた通り、評判は良いのだろう。誇張はあっても由美子のように振る舞う母はいそうだし、リアリティを評価する声もあるらしい。ただ、私にはあまり合わなかった。私は物語にリアリティよりドラマを求める。この物語は、私にとってはヤマなしオチなしでドラマを感じなかった。
 もう一つ。登場人物の誰にも共感を覚えなかったのも辛いところだ。強いて言えば、由美子の夫の健治は、私と立場が似ていることもあって、その意見に頷くこともあった。ただ、彼の意見は由美子が言う通り「他人事」で、共感を感じるとまでは言えなかった。自分の子どもに翔と同じことが起きたらどう思うか?それは、なってみないと分からない。

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村田エフェンディ滞土録

書影

著 者:梨木香歩
出版社:角川書店
出版日:2004年4月30日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 タイトルの意味を後ろから追うと、「滞土録」の「土」は「土耳古(トルコ)」の頭文字、エフェンディ」はトルコで昔使われていた、学者に対する尊称、「村田」は主人公の名前。つまり「村田エフェンディ滞土録」は、「村田先生のトルコ滞在記」の意味。

 時は1899年、舞台はイスタンブール。主人公の村田は、トルコ皇帝からの招聘を受けて、かの国の歴史文化の研究のために来ている。1890年に起きたトルコの軍艦「エルトゥールル号」の和歌山沖での遭難事件での、地元民の献身的な救難活動への返礼としての留学なのだ。しかし彼はまだ青年で、大学の史学科の講師。「エフェンディ」と呼ばれるのは、自分でもしっくりこないらしい。
 そして、村田が下宿する屋敷には、ドイツ人の考古学者、ギリシア人の発掘家、下働きのトルコ人、屋敷の主人兼家政婦のイギリス人と、村田を入れて5人が住んでいる。物語は、この5人の会話を中心に、現地で出会った人々との交流を描く。

 いろいろと不思議なことが起きる。下宿の壁がユラユラと揺らぐように光る。天井から大きなものが走り回っているような音がする。敷石に人の影が浮き上がる...。と言ってもホラー感はない。100年以上前だからなのか、遠く中東の国だからなのか、イギリス人の主人が言うように「そういうこともあるでしょう」という感じなのだ。
 いや、年代のせいでも国のせいでもない。著者の描く世界が、そんな不思議を許容するゆったりした空間だからなのだ。そう、私が初めて読んだ著者の作品である「家守綺譚」のように。実は本書は「家守綺譚」と同じ時代の物語で、かの物語の主人公の綿貫と高堂は、村田の友人なのだ。共にに2004年に出版されたこの2つの作品は対になっている。だから、両方読んでみることをおススメする。

 最後に。村田の下宿にはまだ住人がいる。下働きのトルコ人が拾ってきたオウムだ。主人が作る料理のにおいがしてくると必ず「失敗だ」と言い、食べ物を取りに行ったトルコ人に「友よ!」と呼びかけ、夜明け前に鶏の鳴きまねをし、「何時だと思っているのだ」とドイツ人に叱られると、「楽しむことを学べ」とラテン語で返す。実にいい味を出している。

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青空の卵

書影

著 者:坂木司
出版社:東京創元社
出版日:2002年5月30日 初版
評 価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の5月の指定図書。

 著者はプロフィールを公開していないので、経緯の詳細は分からないのだけれど「あとがき」によると、東京創元社から「小説を書いてみませんか」と言われて書いた作品が本書。つまり、本書は著者のデビュー作。27歳の「ひきこもり」男性が事件の謎を解くミステリー短編集。

 主人公で語り手は、著者と同名の坂木司。事件を謎を解くのは鳥井真一。二人は中学校以来の付き合いで、坂木は鳥井が気を許せる唯一の人間。坂木がいなければ、鳥井は誰とも話せないし、500メートル先の「いつものスーパー」にも行かない。ある事件の謎を鳥井が見事に解き明かしたことから、鳥井の探偵並みの謎解きの才能に気が付いた坂木は、鳥井の外の世界との接点を増やそうと、事件を持ち込むようになった。

 「事件」と言っても凶悪なことは起こらない。独身男性が女性にバッグで股間を一撃された、盲目の男性が双子に跡をつけられた、歌舞伎役者のところにファンから意味不明の贈り物が届く、等々。被害者にしてみればその時は深刻なことには違いないが、放っておけばなくなってしまうような事件。いわゆる「日常に潜む謎」だ。

 本書は二通りに見立てることができる。一つは上に書いたように「日常に潜む謎」を扱うミステリー。加納朋子さんの作品に近いものを感じる。もう一つは、人と人との間の関係の変化・回復を描いたハートウォーミング劇。事件の裏には傷ついた人間関係があり、事件の解決はその回復なくしては成らない。それは坂木と鳥井の関係にも影響することになる。

 ミステリーの部分では、加納朋子さんの作品が好きな私は、本書の謎解きも楽しんだ。ハートウォーミング劇も基本的に好きだ。鳥井は特異なキャラクターだけれど、伊坂幸太郎さんの「チルドレン」の陣内や「砂漠」の西嶋らに似て、好感が持てた。だた、坂木と鳥井の関係は、好悪が半ばした。

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食堂かたつむり

書影

著 者:小川糸
出版社:ポプラ社
出版日:2008年1月15日 第1刷発行 4月4日 第11刷
評 価:☆☆☆(説明)

 2008年発行のベストセラー。2010年には、柴咲コウさん主演で映画化されている。その映画のDVDを紹介する、HMVサイトのページによると、本書の発行数は2010年3月現在で80万部を超えるそうだ。私が何年か前に応募した書評コンクールで課題図書になっていたことと、テレビの映画のCMが記憶に残っていて、手に取ってみた。

 主人公は倫子、25歳。プロの料理人なろうと決めて、都会で料理店で働いていた。故郷に二は15歳の春に出て以来帰っていない。唯一の肉親である母とも会っていない。しかし、手痛い失恋をした(私は、相手の行為は「犯罪」だと思うけれど)彼女は、その故郷へ、母の元へ向かう。物語はここから始まる。

 その後は、故郷へ帰った倫子が、人々の助けを得て食堂を開き、その食堂に来店するお客や街の人々との触れ合いを描く。1日に1組だけ、お客の話を聞いて出す料理を考えるという、少し変わった食堂の「食堂かたつむり」。倫子の食堂で料理を食べたお客には、不思議な効果が表れる。倫子にも、以前は嫌っていた奔放な母との関係に変化が訪れる。

 すべり出しは良かった。故郷に帰って最初の夜、倫子は食堂を開くべく、母に一生一回の覚悟を決めてお願いをする。それに応える母の一言が良かった。この一言に母の心持ちを、私は感じ取った。極度に緊張していた倫子は、それに気付けなかったようだけれど。
 この一言に著者と本書に対する期待が高まったが、惜しいことにその後はこのような唸らせる一言にも展開にも出会わなかった。エピソードがプロットを追うだけの感じがした。もう少し肉付けがあれば良かった。

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裏庭

書影

著 者:梨木香歩
出版社:新潮社
出版日:2001年1月1日 発行 2010年9月30日 第28刷
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は、「家守綺譚」「からくりからくさ」などの作品で、ゆっくりと不思議な時間が流れる物語で私を捕らえた。「西の魔女が死んだ」では、美しい自然の中の暮らしとともに、女性の凛とした生き方を描いた。本作は、1995年に「児童文学ファンタジー大賞」の第1回の大賞受賞作。

 物語を簡単に紹介する。主人公の13歳の少女、照美はレストランの経営で忙しい両親からの愛を、あまり感じられないでいた。ある日、かつて英国人の別荘で今は荒れ放題の洋館の裏庭に、照美は入り込む。「裏庭」とは、その洋館の持ち主だったバーンズ家の秘密、この世とは別の世界のことだった。そこでは、照美はある役割を担っていて、それを成し遂げないことには元の世界に帰ってこられない..。

 想像していたものより、ズシリと重い手応えの物語だった。私自身が書いた上の紹介や「児童文学ファンタジー」という語感からは、「少女の溌剌とした冒険ストーリー」を思い浮かべるかもしれない。しかし本書は、照美の内面を深く深く潜行し、彼女は、少女が向き合うにはあまりに辛いものに向き合う経験をする。いや、いい歳をした私でもあんなことに向き合う勇気はない。

 「ファンタジー」という分類について。ジョージ・マクドナルドの「リリス」のレビューにも書いたが、英語の「Fantasy」に「幻想文学」という言葉を充てることがある。私の感じ方では「ファンタジー」と「幻想文学」では語感がかなり違う。そして本書は「幻想文学」の方だ。
 見返してみると著者の作品「f植物園の巣穴」のレビューで、私は同じようなことを書いている。心の奥へ奥へと進むことも、本書と同じだ。著者は心の内奥を描く「幻想文学」の書き手だったのだ。

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ツバメ記念日 季節風 春

書影

著 者:重松清
出版社:文藝春秋
出版日:2008年3月15日 発行 
評 価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の2月の指定図書である、「きみの友だち」を読んだときに、メンバーさんから教えていただいた本。産経新聞に連載されていたものを単行本化し、さらに文庫化された短編集。本書は「春」で、当然「夏」「秋」「冬」もある。季節に合わせて読んでいこうと思っている。本書も桜の季節を待って読んだ。

 表題作の「ツバメ記念日」を含む12編を収録。これまでに読んだ著者の作品は「きみの友だち」と「青い鳥」の2つだけ。どちらも子どもの心のひだを丁寧に描く作品だった。本書は少し違って、主人公は小学生、中学生、高校生、大学生、20代、30代、40代、60代、とバラエティが豊かだ。
 その中で、高校生、大学生が主人公の「拝復、ポンカンにて」「島小僧」「お兄ちゃんの帰郷」は、どれも進学を期に、田舎から東京へ行く男の子の物語だ。「上京」を広い世界への旅立ちと捉える向きもあるが、本書の作品はそうばかりではない。どれも、出て行く時や出て行った後の葛藤がある。
 大学への進学で一人暮らしを始め、就職で上京した私には、彼らの葛藤に共感し、リアリティを感じた。そして上京から四半世紀経った今は、その葛藤を微笑ましくさえ思う。「頑張れよ」と声をかけたくなった。

 リアリティを感じる、と言えば、表題作の「ツバメ記念日」もそうだった。主人公の女性は会社で「最初の総合職採用」。実は、私の妻もそうだった。詳しくは書かないけれども、制度が先行して、会社も社会もが何周も遅れていた「男女雇用機会均等法」の下で起きた、ある種の悲劇だ。
 幸いにも私の妻は彼女自身の判断もあって、こうしたことにはならなかった。しかし私は妻と同い年で、私の同期入社の女性たちの多くも「最初の総合職採用」だった。その働き振りを近くで見ていたが、彼女たちの誰にでも同じことが起きても不思議ではなかった。

 12編の中には、正直に言って納まりが悪く感じられるものもある。しかし、著者はフリーライターを生業としている。さすがに様々な現実を見てきた蓄積を感じる。

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KAGEROU

書影

著 者:齋藤智裕
出版社:ポプラ社
出版日:2010年12月15日 第1刷発行 12月24日第6刷
評 価:☆☆☆(説明)

 第五回ポプラ社小説大賞受賞作品。昨年の年末にものすごく話題になった作品だから、読んだか否かは別にして、知っている方はたくさんいるだろう。俳優の水嶋ヒロさんが、本名で応募して見事に大賞を受賞した作品。その経過が(ネガティブに)注目されて、Amazonのレビューがお祭り状態になった。

 主人公のヤスオは40歳。廃墟と化した古いデパートの屋上から、飛び降りて自殺しようとしていた。リストラ勧告に対して、辞表を叩きつけてこっちから辞めてやったまでは良かったが、その後は仕事が見つからず、借金をくり返し。その果ての自殺。
 そこに真っ黒なスーツを着た男が現れる。こんな状況で現れる真っ黒なスーツの謎の男と言えば、「笑ゥせぇるすまん」の喪黒福造かと思ってしまうが、もちろん違う。男は京谷貴志と書かれた名刺を差し出す。デパートの関係者ではない。しかし、ここは廃墟ビルの屋上、偶然通りかかったのでもない。京谷はヤスオにある契約を持ちかける。ますます喪黒福造かと思ってしまうが、もちろん違う。

 このあと、ヤスオは自分の命や自分の価値について考える、色々な出来事に出会うことになる。ヤスオが発するダジャレのせいか、命をめぐる物語なのに、ノリが終始一貫して軽い。「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」とは、伊坂幸太郎さんの「重力ピエロ」の中のセリフだが、著者がこういったことを意図したのなら、相当程度に成功している。しかし平板な感じは否めない。

 この後は、この記事をちょっと補足しています。よろしければ、どうぞ

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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(さらに…)

削除ボーイズ0326

書影

著 者:方波見大志
出版社:ポプラ社
出版日:2006年10月4日発行
評 価:☆☆☆(説明)

 第一回ポプラ社小説大賞受賞作品。著者のデビュー作(これ以前に「このミス」大賞の最終候補になった作品がある)。ある人物の過去の特定の時間を、3分26秒だけ「削除」することができる装置を手に入れた小学生の物語。近過去の歴史改変モノだ。

 主人公は川口直都、ニックネームは「グッチ」小学校6年生。街で高校生に絡まれていた同級生を助けたところ、「勇気ある行動に感動した」と、おっさんにデジカメをもらう。おっさんが言うには「実際に起きた出来事を削除できる機能がある」らしい。
 おっさんの言ったことは本当だった。カメラで人を撮って、削除する時間を設定して、「DELETE」ボタンを押せば、その時間が「削除」されるらしい。さて何に使う?最初は、自分の深爪や友達のケガをなかったことに、なんて軽い使い方をしていた。でも、どうしても「削除」したい、より深刻な出来事が起きて..当然、意図しない副作用もあって..。まぁ、王道の展開だ。

 王道の展開だけあって、読みやすい。ちょっとしたユーモアを含んだ語り口も悪くない。ミステリーの要素もうまく取り入れていた。ただ、主人公たちが小学生だと思うと、本人たちの行動にも周囲の接し方にも違和感があった。これには最後まで慣れなかったけれど、デビュー作としては力作だったと思う。

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